説明

偏光分布の乱れを補償する補正デバイスとマイクロリソグラフィ投射レンズ

光線(10)の断面における偏光分布の乱れを補償する補正デバイスを開示する。補正デバイスは、2つの実質的に平行な面(24、26;126、127)を伴う2つの複屈折補正素子(20、22;120a、120b、122;220;222;320、322)を囲む補正部材(18;118)を備える。補正素子(22、122、222)の厚さ(d)は面(26、126;127)の間で本質的に一定である。補正素子(20、22;120a、120b、122;220;222;320、322)のうち少なくとも1つの、少なくとも1つの面(24、26;126、127)は、厚さΔdの局所的な不規則が作成され、これによって偏光分布の乱れが少なくともほとんど補償されるように仕上げされる。補正素子(20、22;120a、120b、122;220;222;320、322)の配置、厚さ(d)、複屈折特性は、厚さΔdの局所的な不規則を考慮しなければ互いに相殺するように選択される。本発明の補正デバイスは乱れを補償すべきポイントだけで偏光に影響を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学系における光線断面における偏光分布の摂動を補償する補正デバイスに関する。この補正デバイスは、2つの本質的に並行な面を有し、その間で補正素子の厚さが本質的に一定である複屈折補正素子を備える、少なくとも1つの補正コンポーネントを有する。また本発明は、このような補正デバイスを有するマイクロリソグラフィ用の投射対物レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
このタイプの補正デバイスと投射対物レンズは特許文献1から知られる。
【0003】
多くの光学系では、高結像画質の条件は、光学系を通過する光が、光線の断面上のすべての位置で決められた偏光状態になっていることである。この決められた偏光状態は光線の断面に渡って必ずしも一定ではないので、「光の決められた偏光分布」という用語もしばしば使用される。この決められた偏光分布から逸脱が生じると、許容できない結像エラーが生じるか及び/または画像面にコントラストの損失が生じる。このような逸脱に関連する原因の例は、偏光が、特定のレンズ材の反射層または複屈折に依存していることである。
【0004】
後者のポイントは、大規模集積電気回路の製造に使用されるようなマイクロリソグラフィ投射露光装置では特に重要である。この場合、ほたる石(CaF2)の結晶が非常に短い投射光波長でも十分な光透過性を有するので、ほたる石で作成したレンズを使用することが一般的になってきている。しかし非常に短い波長では、ほたる石はまさにその性質によって(すなわち本質的に)複屈折となる上に、機械的応力による複屈折が加わる。ほたる石レンズの複屈折を低減する種々の方法が知られているが、投射光線の断面に渡る偏光分布の摂動を完全に補償することは一般には不可能である。これらの摂動が補償されないと、投射対物レンズのコントラストが低減し、このような装置で生成することができる構造のサイズに悪影響を与える。
【0005】
従来の偏光補償器は光線の断面全体に一様に作用するので、ここで考察した偏光分布摂動が光線の断面全体で変わる特性を有するという事実により、たとえばバビネ・ソレイユ補償板など従来の偏光補償器による補償は不可能である。導入部で言及した特許文献1は、光線の断面に渡って局所的に変る偏光摂動を補償する補正デバイスを開示している。この特許に記述される補正デバイスは、フッ化マグネシウム(MgF2)を含んでいるため複屈折であり、光学系の光路に導入されている板を含む。板の厚さは断面に渡って変化し、位置に依存した補償効果を生じる。補償に必要な厚さの変動は数マイクロメータしかないため、板上の自由な形の面は研磨または他の材料腐食方法で作成することはできない。したがって、自由な形の面をイオンビーム加工によって作成することが提案されている。このような加工方法はたとえば、投射露光装置内の波面エラーの補正に使用されるいわゆる「ナノ非球面」の作成に使用される。
【0006】
可能なかぎり一般的な偏光摂動のクラスを補償するために、主軸が互いに45度回転している2枚の板を使用することが提案されている。厚さの変動は偏光に影響を与えるだけではなく、通過する光の波面プロファイルにもそれより大きな程度で影響を与えるので、補正板は各々、波面補償のための水晶板を備える。この水晶板も厚さの変動を有するが、補正板の厚さの変動に対して相補的である。補正板とこれに関連する水晶板を接触ボンディングまたはセメントによって継ぎ目なく組み合わせると、屈折率がほぼ等しいため透過光の波面プロファイルにはほとんど影響を与えない。
【0007】
しかしこの知られた補正装置に伴う欠点は、補正板が摂動を補償すべき位置だけで偏光に影響を与えるだけではなく、光線の全断面に渡る偏光も変えてしまうことである。これは、偏光分布摂動の補償が必要なところだけに複屈折材を備える補正板は不可能なためである。この場合、補正板の厚さはわずか数マイクロメータで、摂動を補償しない位置で穴を有する必要がある。このような補正板は生産可能ではなくまた扱いも難しい。したがって、補正板は、一種の支持の役割を果たし、全断面に渡る偏光に対する影響に寄与する別の材料を含まなければならない。
【0008】
【特許文献1】ドイツ特許DE 198 07 120 Al号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、通過する光の偏光が、補償が必要な場所の偏光分布の摂動だけに、制御された影響を与えるように、導入部で言及したタイプの補正デバイスを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、少なくとも1つの補正コンポーネントが、第1の補正素子に割り当てられ本質的に平行な2つの面を有する少なくとも1つの別の複屈折補正素子を備えることと、補正素子のうち少なくとも1つの面の少なくとも1つの面が、偏光分布の摂動が少なくとも概略で補正されるように局所的な厚さの変動Δdを形成するように加工されていることと、補正素子の配置、厚さ、複屈折特性を、局所的な厚さの変更が無視される時には複屈折効果が互いに相殺されるように選択することとによって達成される。
【0011】
本発明は、複屈折軸が相互に適切な方向を向いている場合、複数の複屈折素子は複屈折効果を相殺できるという発見に基づく。したがって本発明はまず、組み合わせると通過する光の偏光に影響を与えない2つまたは2つ以上の複屈折補正素子を構成することに基づく。ついで厚さがこれらの補正素子のうち1つまたは複数で局所的に変わると、構成全体の複屈折効果は、厚さの修正が行われた領域だけに限定される。補正素子が同じ複屈折材を含む場合、次の加工によって導入される厚さの変動とは別に、複屈折効果の相互補償が完全に行われるように同じ厚さを有している必要がある。2つの補正素子を含む補正コンポーネントでは、たとえば相互に90度回転した複屈折軸で補正デバイスを構成させることができる。3つの補正素子の場合には、複屈折軸の相対的な方向を120度の角度にすることも考えられる。
【0012】
本発明の好ましい構成では、補正コンポーネントのすべての補正素子の合計の厚さが断面に渡って一定であるように補正素子の面を相補的に加工する。補正コンポーネントは全体として厚さの変動を有しないので、波面エラーは実質的に回避される。これは個別の補正素子が互いに直接固定されず、補正デバイスの中で互いから距離をおいて構成された場合にも適用される。たとえば補正素子が平らなディスクである場合、補正コンポーネント全体は偏光に局所的に影響を与えながら、波面プロファイルには大きな影響を与えない並行面板として作用する。したがって、厚さの変動による光路の差を等化するために関連技術で必要であった追加の水晶板は除去することができる。
【0013】
この構成では、特定のポイントで摂動の補償に必要な局所的な厚さの変動が、複数の補正素子の間で必然的に分配されるという別の利点もある。たとえば補正コンポーネントが2つの補正素子を備える場合、面の相補的な加工により、局所的な厚さの変動Δdが2つの補正素子の間で分配され、1つの補正素子の厚さは対応する位置でΔd/2だけ低減され、別の補正素子の厚さはΔd/2だけ増加する。特に厚さの変動が大きい場合は、複数の補正素子の間で厚さの変動を分配することは有利である。これは、イオンビームエッチングまたは原子ビームエッチングなど知られた加工技術で正確に作成することは非常に困難なためである。
【0014】
理想的には、補正デバイスは局所的に偏光だけに影響を与え、補正デバイスが設置された光学系の光伝播を他の方法で変更しない。小さな口径角を備えた光束については一般に、補正素子を並行平板として製造するだけで十分であり、大きさは通過する光線の幾何形状に適応することができるので、このことがあてはまる。しかしより大きな口径角を備えた光線については、補正素子はたとえば球形にカーブした面も予想される。
【0015】
この1つの用途は屈折投射対物レンズを含む。これは一般に瞳孔面に配置された球形の結像鏡を含む。補正デバイスをできるだけ瞳孔面の近く、すなわち、カーブした鏡面のすぐ近くに構成するために、補正素子の面を鏡の曲率に適応させることは実質的に避けられない。補正デバイスを瞳孔面内に構成すると、場から独立した効果が得られ、場の中の平均偏光エラーが補正量として採用できるようになるので、補正デバイスを瞳孔面内に構成することが好ましい。
【0016】
すべての補正素子の合計の厚さが断面上で一定であっても、個別の補正素子の厚さの変動によるわずかな波面エラーを完全に避けることはできない。このため、少なくとも1つの補正素子が、厚さの変動による波面エラーを低減するようにさらに加工された面を有することが望ましい。
【0017】
補正コンポーネントが1つだけの場合、すべてのタイプの偏光摂動を補償することはできない。したがって本発明の好ましい構成では2つの補正コンポーネントが備えられる。1つの補正コンポーネントの補正素子の複屈折軸は、別の補正コンポーネントの補正素子の複屈折軸に対して45度回転している。このようにして、位相シフトだけではなく偏光の回転を補償することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に図面を参照して本発明の例としての実施形態を説明する。
【0019】
図1は光線10の断面を示す。この中で偏光分布は矢印12によって概略的に示されている。矢印12は光線10内の偏光方向を表すことを意図している。図1からわかるように、光は、光線10の断面全体で同じ偏光方向でほとんど線形的に偏光されている。しかし図1の14a、14b、14cによって示されるいくつかのポイントでは、光は正確に偏光されるのではなく、多少楕円に偏光される。これらの偏光分布の摂動は、ビームスプリッタ層または遅延板など次の偏光選択的な光学素子において、容認できない結像エラーおよび/または画像面内のコントラストの損失につながる。
【0020】
スケールどおりではないが図2の透視図では、光線10の偏光分布における摂動14a、14b、14cを補償できる補正デバイス16を示す。補正デバイス16はフレーム素子(図2には図示せず)の他に、互いに継ぎ目なく組み合わされた第1と第2のディスク型の補正素子20、22を含む補正コンポーネント18を備える。2つの補正素子20、22は、フッ化マグネシウム結晶(MgF2)で作成されているので複屈折である。フッ化マグネシウムは、193nmまたは157nmの波長を使用しても透過性を有するので、マイクロリソグラフィの用途に特に適している。
【0021】
結晶軸の方向は、2つの補正素子20、22について図2の軸の交点が表すように複屈折軸を作成するように選択される。より高い屈折率n1を有する低速結晶軸と、より低い屈折率n2を有する高速結晶軸はそれぞれ互いに直交し、さらに、Zによって示す補正デバイス16の光学軸に対して直交している。
【0022】
これは、第1の補正素子20においては、低速結晶軸に沿って伸びる光線10の偏光成分が、直交する偏光成分に対して遅延とも呼ばれる位相変化Φを経験することを意味する。これは次式によって与えられる。
【0023】
Φ=(2Π/λ)・d・(n1−n2
【0024】
上式でλは補正コンポーネント18上に入射する光の波長を示し、dは光学軸Zに沿った補正素子20の厚さを示す。
【0025】
しかし第2の補正素子22においては、補正素子20、22の結晶の方向とこれらの複屈折軸がZ軸に対して相互に90度回転しているため、直交する偏光成分は遅延される。2つの補正素子20、22が同じ厚さを有するので、位相差の大きさは同じである。このようにして、第1の補正素子20による1つの偏光成分の位相変化は、これに対して直交する偏光成分の、第2の補正素子22によって生じる大きさが等しい位相変化によって補正される。2つの補正素子20、22の厚さが正確に等しい場合は必ず、互いに直交する偏光成分の間の相対的な位相角度とここを通過する光の偏光状態は変化を受けない。
【0026】
図1に概略で示す偏光分布摂動を補償するために、2つの補正素子20、22の厚さは、断面上で適切に選択された位置で異なるように慎重に選択する。
【0027】
図3は、2つの補正素子20、22が組み合わされる前の断面を示す。非常に強調された表現では、厚さの変動につながる2つの補正素子20、22の相互に相対する面24、26の上に見える構造は互いに相補的に形成されている。これは、1つの面の上にある隆起部が相対する面に対応するくぼみを有すること、および、対応する隆起部とくぼみは、2つの補正素子20、22を組み合わせたときに互いに正確に係合するように設計されていることを意味する。矢印28で示すように2つの補正素子20、22を組み立てると、図4に示す補正コンポーネント18が作成される。このコンポーネントは均一な合計の厚さdgを有しキャビティを含まない材料ブロックを含む。
【0028】
図3に見られるように厚さの変動が無視されると、2つの補正素子20、22は同じ厚さdを有し、図2を参照して上述した位相変化の基本的な補償を達成する。ついでイオンビームエッチングまたは同様な適切な加工方法によって第2の補正素子22の面26上に複数のくぼみ30、32、34を作成し、この位置における偏光分布の摂動を補償する。第1の補正素子20の相対する面24は、対応する隆起部30’、32’34’を有し、この形状は相対するくぼみの形状と正確に対応する。隆起部30’、32’、34’はまず、破線で示す追加の厚さ36を有する第1の補正素子20を作成し、隆起部30’、32’、34’をこれに続いて周囲の材料を腐食させることで作成する。
【0029】
一方でくぼみ30、32、34、他方で隆起部30’、32’、34’という分類は、表現を簡単にする目的のためだけであることを理解されたい。第2の補正素子22の面26がくぼみ30、32、34によって形成されるかまたは代替としては、くぼみ30、32、34の間にある隆起部によって形成されるかは定義の問題に過ぎない。非常に一般的には、補正素子20、22の面24、26は実質的に任意であるが相互に相補的な不均一性を有している。
【0030】
たとえば次の手順を採用して厚さ変動の位置と範囲を確立することができる。
【0031】
最初に、偏光分布を測定技術によって、補正デバイス16を設置する光学系の画像面に記録する。この目的のために、光学系の対物面に2つの直交する偏光を連続的に設定し、偏光状態をそれぞれ画像面内で記録する。補正要件は、測定結果の間の差から補正コンポーネント18の光学位置の関数として計算される。補正コンポーネント18が光学系の瞳孔面内にある場合、補正コンポーネント18の効果は場から独立している。したがって場における平均偏光エラーを補正量として使用することが可能である。画像面内の光線の角度座標θとφの関数としての、2つの直交する偏光状態の間の位相差をΦ(θ、φ)と表わすと、位置座標(x、y)における補正素子の必要な厚さの変動Adは次式によって与えられる。
【0032】
Δd(x、y)=Φ(θ、φ)・(λ/2Π)・1/(n1−n2
【0033】
図2から図4に示す例としての実施形態の位置(x、y)における厚さの変動Δd(x、y)は、2つの補正素子20、22の間でそれぞれ均一に分配され、合計の厚さdgを一定に維持しているため、位置(x、y)において2つの補正素子20、22に関して大きさdz=Δd/2を伴う隆起部またはくぼみが生じる。この量dzは生産技術の点では必要な材料腐食の高さを示し、以下ではプロファイル深さと呼ぶ。必要な厚さ変動Δdに対してプロファイル深さが2分の1に低減されるという事実は、大きな製造技術上の有利さを有する。これは大きなプロファイル深さを達成することは、知られた高精度材料腐食方法では困難であるためである。
【0034】
図3は、補正素子20、22のもっとも厚い厚さともっとも薄い厚さを有する位置の例としてプロファイル深さdzを示す。またこの図から、第1の補正素子20上の余分な厚さ36は、最大プロファイル深さに(少なくとも)等しくなるように選択し、したがって、摂動補償に必要な最大厚さ変動Δdの半分になるように選択すべきであることがわかる。
【0035】
補正素子16を波長が193nmまたは157nmのマイクロリソグラフィで使用すると、この方法で得られるプロファイル深さdzは数百ナノメートルのオーダになり、ディスクの厚さdは数ミリメートルのオーダになる。したがって、図3に示すプロファイル深さdzは非常に誇張されている。
【0036】
図5は、全体として118で示される、補正デバイスの別の例としての実施形態である。図2から図4に示す例としての実施形態に対応する部分には、図2から図4の参照数字に100を加えた参照数字で示す。この例としての実施形態における第1の補正素子は2つのサブエレメント120a、120bに分割される。これらは間に第2の補正素子122を囲み、これらの合計の厚さは第2の補正素子122の厚さに対応する。厚さの変動Δdは2つのインタフェースの間に分割され、これらは第2の補正素子122の本質的に並行な面126、127によって確立される。これらの面126、127のそれぞれについて、プロファイル深さは再び2分の1になり、dz/2=Δd/4となる。
【0037】
図6は、全体的に216で示される補正デバイスの別の例としての実施形態の断面である。補正デバイス216は一方では図2から図4に示す補正コンポーネント18を備える。また補正デバイス216は2つの別の補正素子220、222を含み、これらは共に別の補正コンポーネントを形成する。断面図の左側に示すように、2つの補正素子220、222の結晶軸の方向は、それぞれ、補正素子20、22の結晶軸から45度回転することによって導出される。したがって2つの外側の補正素子220、222では、高速結晶軸と低速結晶軸はそれぞれ互いに直交する。このようにして、最初に厚さの変動を無視する場合、2つの外側の補正素子220、222は通過する光の偏光に対する効果の点で互いに完全に補償する。
【0038】
図6に誇張して示すように、外側の補正素子40と42も、上記のような相互に相補的な厚さの変動を有する。しかしこれらが補正コンポーネント18の相対する側面に構成されているという事実により、ここから生じる隆起部とくぼみは互いに係合できない。しかし補正デバイス216の合計の厚さdgは、各座標(x、y)で同一である。
【0039】
2つの外側の補正素子220、222が形成する補正コンポーネントの複屈折軸が補正コンポーネント18の複屈折軸に対して45度回転しているので、補正デバイス216は位相シフトだけではなく偏光方向の回転も補償することができる。この一般的な場合では個別の補正素子20、22、220、222に対する構成と厚さの変動の大きさを決定するために、各フィールドポイントと各角度座標について、偏光の位相シフトと回転を記述する基本マトリックスの線形の組み合わせとしてジョーンズマトリックスを表わすことが好ましい。各フィールドポイントに対してこのように表されたジョーンズマトリックスを、位相シフト要素だけを含む図6に示す構成に関するジョーンズマトリックスと等しくすることにより、補正素子の面上のポイント(x、y)における厚さの変動の大きさを係数比較により推定することができる。
【0040】
図6の参照番号40は、補正素子220の外側に面する面42上だけに存在し、関連する補正素子222の対応する隆起部を有しない追加の材料腐食の例を示すが、ここでも大きさはスケールどおりではない。この材料腐食は偏光補償の間に発生する小さな波面エラーを除去するために使用する。MgF2の場合には、材料腐食が波面に与える影響は偏光に与える影響の約100倍の強さであるという事実をここで使用する。
【0041】
図7は、全体として56で示される、マイクロリソグラフィ投射露光装置の反射屈折投射対物レンズを簡単な経線断面で示す図である。投射対物レンズ56は、レチクル58に含まれる構造の縮小された像を、基板60上に設けられた感光面上に投射するために使用する。レチクル58を通過する投射光はビームスプリッタキューブ62に入る。ここで偏光選択ビームスプリッタ層64によって反射され、四分の一波長板66と複数のレンズを介して球形の結像ミラー68に送られる。結像ミラー68によって反射させられたあと、偏光は再び四分の一波長板66によって回転され、投射光はついでビームスプリッタ層64を通過し、投射対物レンズ56の純粋な光屈折部70に入る。
【0042】
球状結像ミラー68は、投射対物レンズ60の瞳孔面72の近くに配置される。2つの球形にカーブした補正素子320、322を備える補正デバイス316は結像ミラー68の直前、すなわち、同様に瞳孔面72の近くに配置される。曲率により、補正デバイスは瞳孔面72から離れすぎずに構成される。このようにするとさらに、補正デバイス316が大きな口径角で入射する光線の波面プロファイルに与える影響は少なくなる。結像ミラー68による反射のために各投射光線は補正デバイス316を2回通過するので、補正素子を介した通過が1回だけの構成と比べ、厚さの変動Δdは2分の1に低減される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】光線の断面上の偏光分布の摂動を非常に単純化して表現した図である。
【図2】2つの補正素子を有し光線が通過する、本発明による補正素子の透視図を示すが、図面はスケールどおりに描かれているものではない。
【図3】図2に示す補正素子を組み立てる前の断面を示す図である。
【図4】図3に対応する補正素子を組み立てた後を示す図である。
【図5】本発明による3つの補正素子を有する補正デバイスの別の例としての実施形態の断面を示す図である。
【図6】本発明による補正デバイスのさらなる例としての実施形態の断面を示す図である。ここで2つの補正コンポーネントは各々2つの補正素子を有する。
【図7】本発明による補正デバイスを有する反射屈折投射対物レンズを介した簡単な経線断面を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
10 光線、12 矢印、14 摂動、16 補正デバイス、18 補正コンポーネント、20 補正素子、22 補正素子、24 面、26 面、30、32、34 くぼみ、30’、32’、34’ 隆起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学系(56)の中で光線(10)の断面上の偏光分布の摂動を補償する補正デバイスであって、2つの本質的に並行な面(26;126、127)を有してこの間で補正素子(22;122、222)の厚さ(d)は本質的に一定である複屈折補正素子(22;122;222;322)を備える少なくとも1つの補正コンポーネント(18;118)を有する補正デバイスであって、
少なくとも1つの補正コンポーネント(18、118)は、前記第1の補正素子(22;122;222;322)に割り当てられ2つの本質的に並行な面(24)を有する、少なくとも1つの別の複屈折補正素子(20、120a、120b;220;320)を備えることを特徴とし、
前記補正素子(20、22;120a、120b、122;220;222;320、322)のうち少なくとも1つの補正素子の、面(24、26;126、127)のうち少なくとも1つの面が、偏光分布の摂動が少なくとも概略で補償される局所的な厚さの変動Δdを形成するように加工されていることを特徴とし、
前記補正素子(20、22;120a、120b、122;220;222;320、322)の構成、厚さ(d)、複屈折特性が、局所的な厚さの変動Δdが無視されるとき複屈折効果が互いに相殺されるように選択されることを特徴とする補正デバイス。
【請求項2】
前記補正素子(20、22;120a、120b、122;220;222;320、322)が、同じ材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の補正デバイス。
【請求項3】
補正コンポーネント(18;118)のすべての補正素子(20、22;120a、120b、122;220;222;320、322)の合計の厚さ(dg)が断面積にわたって一定であるように、前記補正素子(20、22;120a、120b、122;220;222;320、322)の面(24、26;126、127)が互いに相補的に加工されることを特徴とする請求項2に記載の補正デバイス。
【請求項4】
前記補正コンポーネント(18、118)は2つの補正素子を備えることを特徴とし、
特定のポイントにおける摂動を補償するために必要な局所的な厚さの変動Δdは、1つの補正素子(22)の厚さ(d)がそのポイントでΔd/2だけ低減され、別の補正素子(20)の厚さがΔd/2だけ増加するように配分されることを特徴とする請求項3に記載の補正デバイス。
【請求項5】
前記補正素子(320、322)の面がカーブしていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の補正デバイス。
【請求項6】
前記補正コンポーネント(18、118)は、複屈折軸が相互に90度回転している2つの補正素子(20、22;120a、120b、122;220;222;320、322)を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の補正デバイス。
【請求項7】
少なくとも1つの補正素子(220)が、厚さの変動による波面エラーを低減するようにさらに加工された(40)面を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の補正デバイス。
【請求項8】
2つの補正コンポーネント(18、220、222)が備えられ、1つの補正コンポーネント(18)の補正素子(20、22)の複屈折軸は、別の補正コンポーネントの補正素子(220、222)の複屈折軸に対して45度回転していることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の補正デバイス。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の補正デバイス(316)を有するマイクロリソグラフィのための投射対物レンズ。
【請求項10】
前記補正デバイス(316)は、前記投射対物レンズ(56)の瞳孔面(72)の少なくとも近くに配置されることを特徴とする請求項9に記載の投射対物レンズ。
【請求項11】
前記補正デバイス(316)は、前記投射対物レンズ(56)の反射屈折部に含まれる結像鏡(68)のすぐ近くに配置されることを特徴とする請求項10に記載の投射対物レンズ。
【請求項12】
請求項1から8のいずれか一項に記載のさらなる補正デバイスが、前記投射対物レンズ(56)のフィールド面の少なくとも近くに配置されることを特徴とする請求項10または11に記載の投射対物レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−506990(P2007−506990A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515961(P2006−515961)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006504
【国際公開番号】WO2005/001527
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(502057795)カール・ツアイス・エスエムテイ・アーゲー (32)
【Fターム(参考)】