説明

健康機能組成物

【課題】様々な生理活性があると言われている酒粕よりもさらなる生理活性のある組成物が望まれている。
【解決手段】本発明者らは、液化液仕込みから生じる液化粕に着目し、これをさらに乳酸菌で発酵させた乳酸発酵液化粕を調製した。乳酸発酵液化粕を用いることにより、マウス及びラットの実験において、体重増加抑制効果、腹腔内白色脂肪組織の蓄積抑制効果、血中脂質(血清中性脂肪)改善効果、健忘症抑制効果、脱毛抑制効果が見られることを見出し、乳酸発酵液化粕が上記などの生理活性を持つ組成物であることが分かった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醗酵副産物を乳酸菌で醗酵させた健康機能組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物、イモ類、糖類などを原料としてこれに酵母と、場合によっては麹あるいは酵素剤を加え、アルコール醗酵させた後に、液部を分離した固体残渣を粕と呼ぶ。アルコール発酵させる酒類としては清酒、焼酎、ビールなどが知られているが、これら酒類製造時に副産物として発生する粕の効能については、いくつか知見がある。
【0003】
ビール粕については、肉牛、乳牛などの家畜の飼料として用いる他、ビール粕を醗酵させた有機肥料が開発されているが、その生理機能についての報告はない。焼酎粕については、主な廃棄処理方法であった海洋投棄がロンドン条約により禁止され、代替廃棄方法ならびに資源としての有効利用法が検討されており、近年焼酎粕からもろみ酢を製造する方法が開発されている。また、焼酎粕には抗ガン作用、血栓溶解作用があることも報告されている。
【0004】
一方、清酒の粕(以後単に酒粕と言うこともある)の効果についは以下のようなことが知られている。
【0005】
血糖は膵臓で作られるインスリンにより脂肪細胞に取り込まれ、脂肪に変わってエネルギー源となるが、インスリンの作用が妨げられ、血糖が脂肪細胞に取り込まれずに増えてしまうと糖尿病を発症する。酒粕中にはインスリンと類似の作用を有する物質が含まれており、脂肪の分解を抑制することが明らかとなった。従って、酒粕を摂取することにより糖尿病の予防効果が期待される。
【0006】
血圧の調節系には腎臓から分泌されるレニン及びカリクレインがあり、レニンが血中のタンパク質を分解してアンジオテンシンを作ることにより、血管が収縮されたり交感神経が刺激されたりして血圧が上昇する。一方、カリクレインが、肝臓から分泌されるキノーゲンに作用してキニンを作ることにより血管が拡張し血圧が降下する。ヒトを含む動物にはアンジオテンシン変換酵素が存在し、血圧上昇作用のあるアンジオテンシンの働きを強め、血圧降下作用のあるキニンの働きを弱める。このアンジオテンシン変換酵素を阻害するペプチドが清酒及び酒粕から発見され、これらを高血圧ラットに与えると、ラットの血圧が降下することが確認された。この事から酒粕が高血圧の予防に役立つと期待される。
さらに年齢を重ねると、骨タンパク質分解酵素であるカテプシンLが増え、骨吸収の速度を速め、骨を壊してしまうが、酒粕にはこのカテプシンLの働きを阻止する成分が含まれているため、酒粕が骨粗鬆症の予防に役立つと考えられる。
【0007】
また、脳梗塞は脳内の血管が詰まることによって起こり、これには心臓など他から血栓が持ち込まれ脳内血管を詰まらせる脳塞栓、脳内の血管自体に動脈硬化が起きて血栓ができる脳血栓がある。血液の塊を溶かすウロキナーゼにより血液がスムースに流れるようになっており、また、血栓を溶かす物質にプラスミノーゲンがある。清酒や酒粕の中には体内でウロキナーゼの合成を促進させる酵素やプラスミノーゲンに働いて血栓を溶かす物質があることが明らかとなった。このことから酒粕が脳梗塞の予防に役立つのではないかと期待されている。
【0008】
心筋に酸素やエネルギーを供給する血管が狭くなって血流が低下したり(狭心症)、血液が流れなくなって心筋への酸素・栄養補給が阻害されたりすると心臓の働きが乱れる(心筋梗塞)。血液中に悪玉コレステロールがあると動脈硬化が起こり、狭心症や心筋梗塞を引き起こす。酒粕には血清や肝臓中の総コレステロールの上昇を抑え、善玉コレステロールを増やす働きがあること、すなわち、悪玉コレステロールを減らす働きがあることが分かった。このことから、酒粕が狭心症、心筋梗塞などの心疾患や動脈硬化の予防に役立つのではないかと期待されている。
【0009】
アトピー性皮膚炎や花粉アレルギーはカテプシンBという酵素によって作られる免疫グロブリンが原因で引き起こされるアレルギーであると言われている。日本酒や麹の中にはカテプシンBの働きを阻害する物質が含まれていることが分かった。この事から、酒粕がアレルギー体質の改善に役立つのではないかと期待されている。
シミ・ソバカスは皮膚のメラニン色素の沈着によって起こる。アミノ酸の一種であるL−チロシンにチロシナーゼが作用してドーパクロムというメラニン色素前駆物質ができる。ドーパクロムがメラニン色素に変わることにより、シミ・ソバカスができたり、日焼けして皮膚が黒くなったりする。酒粕にはチロシナーゼの働きを阻害する物質が含まれていることが分かった。チロシナーゼが阻害されるとドーパクロムは生成されない。このため、酒粕には美白効果があるものと期待されている。
【0010】
このように、酒粕の効用として多くのものが期待されている。しかしながら、これらのいくつかは清酒、麹、酒粕に有効成分が含まれていることを見出したと言う結果があるのみであり、そのことからそれぞれの効果が期待できる、とされているものもある。
【0011】
【非特許文献1】「秘められた清酒のヘルシー効果」今安聰編著 地球社
【非特許文献2】「酒粕の凄い特効」滝澤行雄監修 宙出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
様々な生理活性が期待できる酒粕は素材としては興味深いが、さらなる生理活性を持つ組成物が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、酒粕よりも新規な、そして/又は高い生理活性があることが期待される液化仕込み粕に着目し、さらにこれを乳酸菌で発酵させた組成物を用いることにした。鋭意検討の結果、液化粕を乳酸菌で発酵させたものは、酒粕や液化仕込み粕よりもさらに高い様々な生理活性を持つことが分かり、上記課題を解決することができた。
【発明の効果】
【0014】
通常の酒粕に替えて液化仕込み粕を用いることにより、また、さらにこれを乳酸菌発酵させることにより、中性脂肪抑制など様々な生理活性を持つ組成物を得ることができ、これを用いれば様々な健康に寄与する組成物となる。
【0015】
以下、本発明を詳細に記述する。
【0016】
近年酒粕のさまざまな機能性が明らかになってきた。例えば、血圧降下、骨粗鬆症の予防、脳梗塞の予防、心筋梗塞の予防、動脈硬化の予防、コレステロール値の低下作用、アレルギー体質の改善、シミの改善、美白効果、などのいろいろな効果が分かってきた。
しかしながら、酒粕そのものを乳酸菌で発酵させて利用するという報告はほとんど見られていない。乳酸菌で発酵させた酒粕には、乳酸菌による酒粕成分の変化、例えばタンパク質の分解による新たなペプチドの生成などによる、さらなる新規な、又は強い生理活性が見られることが期待できる。
【0017】
さらに本発明者らは、通常の酒粕とは別の、さらなる効果が期待できる液化液仕込みにより発生する液化粕に着目した。液化液仕込みとは、清酒の仕込みにおいては蒸米を用いるが、液化液仕込みではその代わりに浸漬米をすりつぶし、このスラリー(乳化液)を高温で液化酵素(αアミラーゼ)を加えて処理し、米を液化させてものを仕込み原料として仕込むという方法である。液化液仕込みのアルコール発酵後に上槽(液部と固形部の分離)をした後に残る固形部を液化粕と呼んでいる。液化粕は通常の酒粕に比べてタンパク質、ペプチドを多く含むなどの特徴があり、通常の酒粕とは組成などが異なっている。このため、通常の酒粕とは別の生理活性が期待できる。
【0018】
本発明者らはこの液化粕に着目し、さらにこれを乳酸菌により発酵させること(以後これを単に乳酸発酵と呼ぶこともある)により、新たな生理活性が生じるかどうかを検討した。
【0019】
乳酸発酵させるための乳酸菌は市販キムチより分離したいくつかの乳酸菌から、液化粕の発酵力及び味覚に最も優れた1株を選択した。この菌を同定したところ、Lactobacillus brevisであることが分かった。
【0020】
また、液化粕の乳酸発酵は次のようにして行った。液化粕に水を加えてミキサーで粉砕し、これに前培養していた乳酸菌を接種した。乳酸菌プロテアーゼによるペプチド生成量が最大になる条件として、常温で48時間発酵させた。
【0021】
マウス又はラットで実験を行った結果、乳酸発酵した液化粕(以後これを単に乳酸発酵液化粕と呼ぶこともある)には、体重増加抑制効果、腹腔内白色脂肪組織の蓄積抑制効果、血中脂質(中性脂肪)改善効果、健忘症抑制効果、脱毛抑制効果が見られることがわかった。
【0022】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
体重増加抑制試験
オスの4週齢のC57BL/6Jマウス(黒マウス)を一群3匹で実験を行った。第1群ブランク区は、通常食のCE−2(日本クレア製)のみを与え、第2群コントロール区は50%CE−2に40%フルクトースと10%カゼインを加えたものを与え、第3群テスト区は50%CE−2に40%フルクトースと10%乳酸発酵液化粕を加えたものを与えた。これを10週間、自由摂取条件下で飼育した。カロリーはCE−2が344kcalで、コントロール、テスト区が385kcalと、ほとんど同じであった。自由摂取条件下であったが、摂取量はどの区もほぼ同じであった。その結果の体重変化量を図1に示す。ブランク区に比べ、肥満を誘発させたコントロール区では体重の増加が著しかったが、肥満を誘発させて、さらに乳酸発酵物を加えたテスト区では体重の増加がブランク区とあまり変わらず、乳酸発酵液化粕を加えることにより体重の増加が抑制されることがわかった。
【実施例2】
【0024】
腹腔内白色脂肪組織の蓄積抑制試験
実施例1と同じマウス、及び餌を用いて実施例1と同様の試験区を設け、試験開始10週間後にマウスを屠殺した後に解剖し、腹腔内を観察した。その結果、ブランク区に比べ、コントロール区では腹腔内の白色脂肪組織が相当肥大しており、多くの白色脂肪の蓄積が見られたが、乳酸発酵液化粕を加えたテスト区ではブランク区と白色脂肪組織の広がりや量はほとんど変わらず、腹腔内白色脂肪組織の蓄積が抑制されたことがわかった。解剖したマウスの腹腔内の様子を図2に示す。なお、図2中の黒色で囲んだ部分は白色脂肪組織部分を分かりやすく示したものである。
【実施例3】
【0025】
血中脂質改善試験
4週齢のメスのICRマウスを1群3匹で、与える餌として次の区を設けた。ブランク区:CE−2、コントロール区:CE−2に20%牛脂と10%グルコースと10%カゼインを加えたもの、乳酸発酵液化粕区:CE−2に20%牛脂と10%グルコースと10%乳酸発酵液化粕を加えたもの、未発酵液化粕区:CE−2に20%牛脂と10%グルコースと10%の乳酸発酵させていない液化粕を加えたもの。これらを自由摂取させ、3週間後に全採血を行い、血清中性脂肪を分析した。その結果を図3に示す。コントロール区ではブランク区と比べて中性脂肪はわずかに上昇していたが、乳酸発酵させていない液化粕を加えた区では血清中性脂肪はブランク区と比べて減少しており、乳酸発酵液化粕を添加した区ではさらに大きく血清中性脂肪が減少していた。このことから、液化粕に血清中性脂肪を抑制する効果を有するが、これを乳酸発酵させた液化粕はさらにこの抑制効果を増強させることが分かった。
【実施例4】
【0026】
健忘症抑制試験
メスの13週齢のICRマウスを用い、健忘症が抑制されるかどうかの試験を次のように行った。検体数は1群5匹で行った。試験はプラットホーム式水迷路装置(「水泳学習に適したマウスの系統とhemicholinium, Vasopressinなどの効果。簡単な水迷路学習装置による観察」山田健二、佐藤真理子、床井淳子、坪井實、長坂達夫(東京薬科大学)、薬学雑誌Vol.112(11)p824-831)を用いて、プラットホームへの到達時間でマウスの学習記憶能力を評価した。
【0027】
マウスがスタート地点からプラットホームまで到達するのにかかった時間を測定し、これを獲得試行とする。獲得試行として、1日3回ずつ4日間連続でマウスを遊泳させて、マウスにプラットホームの位置を学習させた。その結果、到達時間は短縮されてほぼ一定値に収束した。
【0028】
獲得試行が終了した後のフォーマット済みのマウスに対して、胃ゾンデでコントロール区では蒸留水を10ml/kgを、被験区では乳酸発酵液化粕を3000mg/kgを強制経口投与した。蒸留水又は乳酸発酵液化粕投与の60分後にスコポラミンをマウスに2mg/kgを皮下投与して健忘症の誘発を行った。
【0029】
スコポラミン投与の30分後に再び水迷路遊泳させて、学習記憶力の維持あるいは喪失を測定した(テスト試行)。その結果、コントロール区ではスコポラミン投与前と比べた到達時間(最後の獲得試行時のゴール到達時間と比べた到達時間)は有意に延長し(p<0.01)、健忘症モデルマウスの作成が認められた。発酵液化粕を事前に投与しておいた被験区では、コントロール区のテスト試行と比べて、到達時間は有意に抑制されて(p<0.05)、乳酸発酵液化粕投与による健忘症抑制効果が認められた。これらの結果を図4に示す。
【実施例5】
【0030】
脱毛抑制試験
生後8日齢の幼若SDラットに対し、ブランク区では生理食塩水のみを腹腔内投与し、コントロール区と被験区には抗癌剤であるシトシンアラビノフラノシド(30mg/kg)を7日間続けて連続腹腔内投与した。1群を3匹で行った。その結果、コントロール区では抗癌剤投与により体毛のほぼ100%が脱落した脱毛モデル動物が得られた。被験区においては、乳酸発酵液化粕(500mg/kg)を抗癌剤と同時に腹腔内投与して、脱毛に対する影響を検討した。
【0031】
その結果、抗癌剤を投与していないブランク区では7日間で完全に発毛した。抗癌剤を投与したコントロール区では7日間でほとんど発毛が見られなかったが、被験区である乳酸発酵液化粕を加えた区では抗癌剤を加えたにも関わらず、7日間でコントロール区よりも多い発毛が見られた。このことから、乳酸発酵液化粕を加えたことにより、脱毛の進行を抑制する傾向が見られることが分かった。その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】肥満誘発させたマウスの体重変化を示した図である。
【図2】マウスを解剖し、白色脂肪組織を含む腹腔内の様子を示した図である。
【図3】マウスの血清中性脂肪量の比較を示した図である。
【図4】健忘症誘発によるマウスの学習記憶力維持効果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀類及び/又はイモ類及び/又は糖類をアルコール発酵した後の粕を乳酸菌で発酵させた健康機能組成物。
【請求項2】
粕が清酒の粕である請求項1に記載の方法により得られる健康機能組成物。
【請求項3】
清酒が液化仕込みによる清酒である請求項2に記載の方法により得られる健康機能組成物。
【請求項4】
乳酸菌がLactobacillus brevisである請求項1に記載の方法により得られる健康機能組成物。
【請求項5】
請求項1から4に記載の方法により得られる健康機能組成物含有する飲料および食品。
【請求項6】
請求項1から4に記載の方法により得られる健康機能組成物を用いた医薬品、医薬部外品および化粧料。
【請求項7】
請求項1から4に記載の方法により得られる健康機能組成物を用いたペットフードを含む飼料。
【請求項8】
請求項1から4に記載の方法により得られる健康機能組成物を有効成分とする体重増加抑制組成物。
【請求項9】
請求項1から4に記載の方法により得られる健康機能組成物を有効成分とする腹腔内白色脂肪組織の蓄積抑制組成物。
【請求項10】
請求項1から4に記載の方法により得られる健康機能組成物を有効成分とする血清中性脂肪抑制組成物。
【請求項11】
請求項1から4に記載の方法により得られる健康機能組成物を有効成分とする健忘症抑制組成物。
【請求項12】
請求項1から4に記載の方法により得られる健康機能組成物を有効成分とする脱毛抑制組成物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−99731(P2007−99731A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294699(P2005−294699)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】