説明

光ピックアップ装置

【課題】光記録媒体からの反射光の偏光成分が変化した場合であっても、光検出器に照射される反射光の光量の減少を抑制する。
【解決手段】光ピックアップ装置において、レーザ光を発光するレーザ光源と、前記レーザ光を光記録媒体に照射する対物レンズと、前記光記録媒体から反射される前記レーザ光の反射光を受光する光検出器と、前記レーザ光源と前記対物レンズとの間の光路に介在し、前記レーザ光を前記対物レンズの方向に反射し、前記反射光を前記光検出器の方向に透過するハーフミラーと、前記ハーフミラーと前記光検出器との間の光路に介在し、前記反射光に非点収差を付加する非点収差付加部材と、を備え、前記非点収差付加部材は、前記反射光に含まれる第1方向の偏光成分に対する第1透過率と、前記第1方向に直交する第2方向の偏光成分に対する第2透過率と、が略等しい制御膜を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体に記録されている信号の読み出し動作や光記録媒体に信号の記録動作を行う光ピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DVD(Digital Versatile Disc)やCD(Compact Disc)の光ディスク等の光記録媒体に対してレーザ光を用いて光学的に信号の記録再生を行う光ピックアップ装置において、単一の光ピックアップ装置によって記録密度が異なるDVD及びCDに対応させたものが知られている。
【0003】
このようなDVD及びCD対応の光ピックアップ装置は、DVDに適合する赤色波長帯645nm〜675nmのレーザ光を発光する第1レーザ光源と、CDに適合する赤外波長帯765nm〜805nmのレーザ光を発光する第2レーザ光源と、を備えたマルチレーザユニットを採用し、光ディスクに応じて使用するレーザ光を切り換えるようになっている。
【0004】
またDVD及びCDに対応した光ピックアップ装置は、入射面に輪帯状の回折格子が形成される単一の対物レンズを使用し、DVD及びCDの各光ディスクに適合する波長の各レーザ光をこの回折格子で回折させることにより、各光ディスクに対して球面収差を補正し、各光ディスクに照射される各レーザ光の品質を確保するようにしている。
【0005】
DVD及びCD対応の光ピックアップ装置は、上述した2波長に対応したレーザユニット及び単一の対物レンズを採用することにより光学経路の簡略化が図られる。
【0006】
このような光ピックアップ装置は、例えば、レーザダイオード、1/2波長板、回折格子、ハーフミラー、モニタ用光検出器、コリメートレンズ、1/4波長板、立ち上げミラー、対物レンズ、AS(AStigmatism)板、光検出器を光学経路上に配置して構成される。
【0007】
レーザダイオードは、赤色波長帯645nm〜675nmのレーザ光、及び赤外波長帯765nm〜805nmのレーザ光を放射する。
1/2波長板は、レーザダイオードから放射されてハーフミラーにより反射されるレーザ光を前記ハーフミラーの反射面に対してS方向の直線偏光光に変換する。
回折格子は、レーザ光を回折し、0次光であるメインビーム、+1次光及び−1次光である2つのサブビームに分離する。
ハーフミラーは、回折格子を透過したレーザ光が入射される位置に、レーザ光の光軸に対して45°傾斜して配置されており、1/2波長板によってS偏光光にされたレーザ光の多くを反射し、P方向に偏光されたレーザ光の多くを透過させる制御膜が設けられている。
【0008】
モニタ用光検出器は、レーザダイオードから放射されたレーザ光のうち、ハーフミラーの制御膜を透過したレーザ光が照射される位置に設けられており、ハーフミラーの制御膜を透過したレーザ光の強度を検出する。モニタ用光検出器から出力される検出信号は、レーザダイオードから放射されるレーザ光の出力を制御するために使用される。
コリメートレンズは、ハーフミラーの制御膜を反射したレーザ光が入射される位置に設けられ、入射されるレーザ光を平行光に変換する。
【0009】
1/4波長板は、コリメートレンズによって平行光に変換されたレーザ光が入射される位置に設けられている。1/4波長板は、入射されるレーザ光の位相を1/4波長分変更することにより、直線偏光光から円偏光光に、また反対に円偏光光から直線偏光光に変換する。レーザダイオードから出射されたレーザ光は、1/4波長板により、光ディスクに向かう往路では、S偏光から円偏光に変換され、光ディスクから光検出器に向かう復路では、円偏光からP偏光に変換される。
立ち上げミラーは、1/4波長板を透過したレーザ光が入射される位置に設けられており、入射されるレーザ光を対物レンズの方向に反射させるように構成されている。
【0010】
対物レンズは、入射されたレーザ光を、対物レンズの集光機能によって光ディスクに設けられている信号記録層にスポットとして照射する。
信号記録層に照射されたレーザ光は、信号記録層にて反射される。
光ディスクの信号記録層にて反射された反射光は、対物レンズ、立ち上げミラー、1/4波長板、コリメートレンズを通して、ハーフミラーの制御膜に入射される。
【0011】
この反射光は、1/4波長板による位相変更機能によって、円偏光からP方向の直線偏光光に変更されているため、反射光は制御膜を透過する。制御膜を透過した反射光はAS板に入射される。
AS板は、反射光の光軸方向に対して斜めに傾斜して配置されており、反射光にフォーカシング制御に用いられる非点収差を付加する。
【0012】
光検出器は、回折格子により3ビームに分離された反射光をそれぞれ受光する受光部を備えて構成されており、光ディスクの信号記録層に記録されている情報の読み取りを行うための再生信号、フォーカシング制御を行うためのフォーカスエラー信号、トラッキング制御を行うためのトラッキングエラー信号の生成を行う。
【0013】
このような光ピックアップ装置が、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−204681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように光ピックアップ装置は、レーザダイオードから出射したレーザ光を光ディスクの信号記録層で反射させ、その反射光を光検出器で検出することにより、光ディスクに記録された情報を再生するための信号や、フォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号を生成する。
【0016】
ここでAS板には、光検出器に受光される反射光の光量を低下させないために、透過率を優先させてP偏光の透過率を向上させた制御膜が表面に成膜されており、また、レーザダイオードの温度変化によってレーザダイオードから放射されるレーザ光の波長が変動してもレーザ光の透過率が変動しないようにP偏光及びS偏光の透過率が所定の波長範囲で一定になるように制御膜が表面に成膜されている。例えばP偏光に対する透過率が97%以上となると共に、使用するレーザ光の波長及びレーザ光の波長変動範囲にマージンを加味した波長範囲で一定となるような制御膜が成膜されている。
【0017】
ところが、光ディスクの中には、製造技術の相違等によって、信号層を被覆するカバー層をレーザ光が通過する際に許容する複屈折を超過して生ずるものがある。
【0018】
このような複屈折を生ずる光ディスクにレーザ光が照射された場合、光ディスクからの反射光の偏光成分のバランスが変化あるいはばらつくため、ハーフミラーを透過してAS板に入射される反射光は、P偏光成分が減少しS偏光成分が増加することになる。
【0019】
この場合、AS板におけるS偏光成分の透過率がP偏光成分の透過率に対して相対的に低いと、AS板を透過する反射光の光量が全体として減少することになる。そのため、光ディスクの複屈折のばらつきにより光検出器に受光される反射光の光量の変動が大きく、上記再生信号やフォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号の信頼度が低下することにもなる。
【0020】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、光ディスクからの反射光の偏光成分が変化した場合であっても、光検出器に照射される反射光の光量の減少を抑制することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
一つの側面に係る光ピックアップ装置は、レーザ光を発光するレーザ光源と、前記レーザ光を光記録媒体に照射する対物レンズと、前記光記録媒体から反射される前記レーザ光の反射光を受光する光検出器と、前記レーザ光源と前記対物レンズとの間の光路に介在し、前記レーザ光を前記対物レンズの方向に反射し、前記反射光を前記光検出器の方向に透過するハーフミラーと、前記ハーフミラーと前記光検出器との間の光路に介在し、前記反射光に非点収差を付加する非点収差付加部材と、を備え、前記非点収差付加部材は、前記反射光に含まれる第1方向の偏光成分に対する第1透過率と、前記第1方向に直交する第2方向の偏光成分に対する第2透過率と、が略等しい制御膜を有する。
【0022】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄の記載、及び図面の記載等により明らかにされる。
【発明の効果】
【0023】
光ディスクからの反射光の偏光成分が変化した場合であっても、光検出器に照射される反射光の光量の減少を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態の光ピックアップ装置の斜視図である。
【図2】本実施形態の光検出器の構成例を示す模式図である。
【図3】本実施形態のAS板の断面図である。
【図4】本実施形態のAS板におけるレーザ光の透過率を示す図である。
【図5】本実施形態のAS板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0026】
図1乃至図3を参照しつつ、本実施の形態の光ピックアップ装置1の構成例について説明する。図1は、本実施の形態の光ピックアップ装置1の斜視図である。図2は、本実施の形態の光検出器20の構成例を示す模式図である。図3は、本実施形態のAS(AStigmatism)板(非点収差付加部材)18の断面図である。
【0027】
本実施形態の光ピックアップ装置1は、DVD(Digital Versatile Disc)の記録再生に対応すると共に、CD(Compact Disc)の記録再生に対応する構成となっている。
【0028】
レーザユニット11は、DVDの記録再生に適合する赤色波長帯645nm〜675nmの第1波長、例えば660nmの第1波長のレーザ光(以下、第1レーザ光とも記す)を発光する第1レーザ光源111と、CDの記録再生に適合する赤外波長帯765nm〜805nm、例えば784nmの第2波長のレーザ光(以下、第2レーザ光とも記す)を発光する第2レーザ光源112と、を備える。
【0029】
レーザユニット11はいわゆるマルチレーザユニットであり、第1レーザ光源111及び第2レーザ光源112が同一半導体基板上に形成されている。
【0030】
レーザユニット11は、選択的に、第1レーザ光源111又は第2レーザ光源112から第1レーザ光又は第2レーザ光を出射する。レーザユニット11から出射された第1レーザ光又は第2レーザ光は、複合光学素子12に入射される。
【0031】
複合光学素子12は、入射されるレーザ光を例えばハーフミラー13の反射面の傾き方向に対して略45°回転された方向(第1方向)の直線偏光光に変換する1/2波長板121と、レーザ光を0次回折光ビームと、+1次回折光ビームと、−1次回折光ビームとの3ビームに分離する回折格子122とを備える。また1/2波長板121は、光ディスク100に反射してレーザユニット11に戻るレーザ光の反射光を抑制する機能を有する。
【0032】
複合光学素子12を通過したレーザ光は、このレーザ光に対して例えば45°に傾けて配置されたプレート型のハーフミラー13により、一部が反射してコリメートレンズ15に導かれ、残りの一部がハーフミラー13を透過してフロントモニタ受光検出器30に導かれる。
【0033】
ハーフミラー13は、第1方向の直線偏光光のレーザ光の一部、例えば90%あるいは90%以上を反射させ、残りの一部、例えば10%あるいは10%以下を透過させる。
【0034】
従って、回折格子122から入射されるレーザ光は、ハーフミラー13によってほぼ全てが反射されてコリメートレンズ15に導かれ、残りが透過してフロントモニタ受光検出器30に導かれる。
【0035】
フロントモニタ受光検出器30に照射されるレーザ光の強度は、レーザユニット11から放射されるレーザ光の出力レベルに応じて変化することになる。従って、フロントモニタ受光検出器30が、フロントモニタ受光検出器30に照射されるレーザ光の強度に応じて生成したモニタ信号を、レーザユニット11に駆動信号を供給するべく設けられている駆動回路に帰還させることによって、レーザユニット11から放射されるレーザ光の出力が目標値になるように制御するレーザサーボ動作を行うことが出来る。
【0036】
コリメートレンズ15は、DVDに適合する第1波長のレーザ光を平行光にし、CDに適合する第2波長のレーザ光の広がり角を狭める。コリメートレンズ15を通過したレーザ光は、1/4波長板14に入射される。
【0037】
1/4波長板14は、レーザユニット11から光ディスク100へ向かう往路において、ハーフミラー13で反射された0次光及び±1次回折光を、第1方向の直線偏光から円偏光に変換するとともに、光ディスク100から光検出器20へ向かう復路において、光ディスク100からの反射光を円偏光から第1方向と直交する第2方向の直線偏光に変換する。
【0038】
尚、ハーフミラー13と1/4波長板14との組み合わせにより、往路及び復路において、光の偏光状態は例えば以下のように変換される。
【0039】
往路においては、回折格子122からのレーザ光はハーフミラー13によって多くが反射され、1/4波長板14によって例えば右旋回の円偏光に変換される。
【0040】
右旋回の円偏光は光ディスク100の情報記録層(不図示)によって反射されて例えば左旋回の円偏光となり、復路においては、1/4波長板14によって直線偏光に変換される。この直線偏光はその一部がハーフミラー13を透過する。
【0041】
1/4波長板14によって直線偏光から右旋回の円偏光に変換されたレーザ光は、立ち上げ用反射ミラー16により反射されてレーザ光の光軸が折曲され、レーザユニット11から出射されるレーザ光の光軸及び光検出器20に受光される光ディスク100からの反射光の光軸に対して略垂直の光軸となり、対物レンズ17に入射される。
【0042】
対物レンズ17は、入射面に光軸を中心とした輪帯状回折構造が形成されている。対物レンズ17は、対物レンズ17に入射したレーザ光をDVD、CDの各光ディスク100に集光する際に、DVD、CDの各光ディスク100の透明基板層の厚みに起因して生ずる球面収差を、この回折構造による回折作用により適切に補正する。
【0043】
対物レンズ17のNA(Numerical Aperture)は、DVDに適合する第1波長のレーザ光に対しては0.65に、CDに適合する第2波長のレーザ光に対しては0.51にそれぞれ設計されている。
【0044】
その為、第1レーザ光源111からの第1波長のレーザ光は、対物レンズ17によりDVDの透明基板層の厚みに適合して集光されてDVDの信号層に照射され、第2レーザ光源112からの第2波長のレーザ光は、対物レンズ17によりCDの透明基板層の厚みに適合して集光されてCDの信号層に照射される。
【0045】
このような光学系により、レーザユニット11の第1レーザ光源111から発生されるDVDに適合する第1波長のレーザ光が、DVD規格の光ディスク100に集光され、レーザユニット11の第2レーザ光源112から発生されるCDに適合する第2波長のレーザ光がCD規格の光ディスク100に集光される。
【0046】
また対物レンズ17は、光ディスク100の信号面に対して垂直方向(フォーカス方向)へ変位することによってフォーカシング制御動作を行うとともに、光ディスク100の径方向(トラッキング方向)へ変位することによってトラッキング制御動作を行うように構成されている。斯かる動作を行う対物レンズ17は、例えば4本あるいは6本の支持ワイヤーにてフォーカス方向及びトラッキング方向へ変位可能に設けられている
そして、対物レンズ17がフォーカス方向及びトラッキング方向に駆動されることにより、レーザ光がDVDあるいはCDの光ディスク100の信号層に合焦されると共に、信号トラック101に追従するように照射される。
【0047】
光ディスク100の信号層に照射されたレーザ光は、信号層により変調されて反射され、対物レンズ17に戻り、1/4波長板14によって円偏光から直線偏光に変換される。この直線偏光のレーザ光は、その一部、例えば30%程度がハーフミラー13を透過する。
【0048】
そして、ハーフミラー13を透過したレーザ光は、フォーカシング制御に用いられる非点収差を付与するように傾けて配置されたAS板18を透過して光検出器20に導かれる。AS板18の表面には、反射光の透光率を制御するために、図3に示すように制御膜181が形成されている。制御膜181の詳細については後述する。
【0049】
光検出器20には、図2に示すように、DVDに適合する第1波長のレーザ光の反射光を受光するDVD受光領域21と、CDに適合する第2波長のレーザ光の反射光を受光するCD受光領域22と、が同一受光面に隣接して形成されている。
【0050】
DVD受光領域21には、DVDに適合する第1波長のレーザ光の3ビーム、すなわち0次光のメインビームと、メインビームの前に配置される+1次回折光の前方サブビームと、メインビームの後ろに配置される−1次回折光の後方サブビームと、にそれぞれ対応して、メイン受光部21a、前方サブ受光部21b、及び後方サブ受光部21cが形成されている。
【0051】
CD受光領域22には、CDに適合する第2波長のレーザ光の3ビーム、すなわち0次光のメインビームと、メインビームの前に配置される+1次回折光の前方サブビームと、メインビームの後ろに配置される−1次回折光の後方サブビームと、にそれぞれ対応して、メイン受光部22a、前方サブ受光部22b、及び後方サブ受光部22cが形成されている。
【0052】
DVD受光領域21の各受光部21a、21b、21cの間の距離は、第1波長のレーザ光の3ビームの反射光がDVD受光領域21上にそれぞれ照射される際の各光スポットの間隔に対応する。
CD受光領域22の各受光部22a、22b、22cの間の距離は、第2波長のレーザ光の3ビームの反射光がCD受光領域22上にそれぞれ照射される際の各光スポットの間隔に対応する。
【0053】
光検出器20における、DVD受光領域21のメイン受光部21a、前方サブ受光部21b及び後方サブ受光部21cと、CD受光領域22のメイン受光部22a、前方サブ受光部22b及び後方サブ受光部22cとは、それぞれ十字状に4分割されてそれぞれ4つのセグメントにより構成されている。
【0054】
DVD受光領域21のメイン受光部21a、前方サブ受光部21b及び後方サブ受光部21cがそれぞれ受光する光スポットの形状は、レーザユニット11から出射された第1レーザ光が光ディスク100に照射される際のフォーカスエラー及びトラッキングエラーに応じて変化する。
【0055】
またCD受光領域22のメイン受光部22a、前方サブ受光部22b及び後方サブ受光部22cがそれぞれ受光する光スポットの形状は、レーザユニット11から出射された第2レーザ光が光ディスク100に照射される際のフォーカスエラー及びトラッキングエラーに応じて変化する。
【0056】
その為、DVD受光領域21のメイン受光部21a、前方サブ受光部21b及び後方サブ受光部21cを構成する各セグメントから得られる各受光出力を、所定の演算式に基づいて演算することにより、DVDの記録再生時の再生信号、フォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号を得ることができる。
【0057】
同様に、CD受光領域22のメイン受光部22a、前方サブ受光部22b及び後方サブ受光部22cを構成する各セグメントから得られる各受光出力を、所定の演算式に基づいて演算することにより、CDの記録再生時の再生信号、フォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号を得ることができる。
【0058】
DVDの再生信号は、メイン受光部21aに照射されるメインビームの光量に応じて、メイン受光部21aを構成する各センサA1、B1、C1、D1から出力される信号を加算することによって得られる。CDの再生信号は、メイン受光部22aに照射されるメインビームの光量に応じて、メイン受光部22aを構成する各センサA2、B2、C2、D2から出力される信号を加算することによって得られる。
【0059】
DVDのフォーカスエラー信号は、例えば以下のように差動非点収差法を用いて得ることができる。
【0060】
まず、前方サブ受光部21bに照射される前方サブビームの光量に応じて、前方サブ受光部21bを構成する各センサI1、J1、K1、L1から出力される信号を、対角関係にあるセンサ同士で加算して2つの加算信号を得る。そして一方の加算信号から他方の加算信号を減算して信号SFB1を得る。
同様に、後方サブ受光部21cに照射される後方サブビームの光量に応じて、後方サブ受光部21cを構成する各センサE1、F1、G1、H1から出力される信号を、対角関係にあるセンサ同士で加算して2つの加算信号を得る。そして一方の加算信号から他方の加算信号を減算して信号SFC1を得る。
そして信号SFB1と信号SFC1とを加算してサブフォーカスエラー信号SFE1を得る。
【0061】
またメイン受光部21aに照射されるメインビームの光量に応じて、メイン受光部21aを構成する各センサA1、B1、C1、D1から出力される信号を、対角関係にあるセンサ同士で加算して2つの加算信号を得る。そして一方の加算信号から他方の加算信号を減算してメインフォーカスエラー信号MFE1を得る。
これらのサブフォーカスエラー信号SFE1とメインフォーカスエラー信号MFE1とからフォーカスエラー信号FE1を演算生成する。
【0062】
斯かるフォーカスエラー信号FE1の生成動作について、図2に示した各センサ部の符号を参照にして説明すると、メインフォーカスエラー信号MFE1=(A1+C1)−(B1+D1)となり、サブフォーカスエラー信号SFE1={(E1+G1)−(F1+H1)}+{(I1+K1)−(J1+L1)}と表される。
【0063】
そして、斯かる差動非点収差法におけるフォーカシング制御動作はフォーカスエラー信号FE1に基づいて行われるが、このFE1信号は、FE1=MFE1−k1×SFE1として得られる。ここで、k1はメインビームの光強度とサブビームの光強度に基づいて決定される定数である。
CDのフォーカスエラー信号も同様に差動非点収差法を用いて得ることができる。
【0064】
DVDのトラッキングエラー信号は、例えば以下のように差動プッシュプル法を用いて得ることができる。
【0065】
まず、前方サブ受光部21bに照射される前方サブビームの光量に応じて、前方サブ受光部21bを構成する各センサI1、J1、K1、L1から出力される信号を、対角関係にあるセンサ同士で減算して2つの減算信号を得る。そしてこれら2つの減算信号を加算して信号STB1を得る。
同様に、後方サブ受光部21cに照射される後方サブビームの光量に応じて、後方サブ受光部21cを構成する各センサE1、F1、G1、H1から出力される信号を、対角関係にあるセンサ同士で減算して2つの減算信号を得る。そしてこれら2つの減算信号を加算して信号STC1を得る。
そして信号STB1と信号STC1とを加算してサブトラッキングエラー信号STE1を得る。
【0066】
またメイン受光部21aに照射されるメインビームの光量に応じて、メイン受光部21aを構成する各センサA1、B1、C1、D1から出力される信号を、対角関係にあるセンサ同士で減算して2つの減算信号を得る。そしてこれら2つの減算信号を加算してメイントラッキングエラー信号MTE1を得る。
これらのサブトラッキングエラー信号STE1とメイントラッキングエラー信号MTE1とからトラッキングエラー信号TE1を演算生成する。
【0067】
斯かるトラッキングエラー信号TE1の生成動作について、図2に示した各センサ部の符号を参照にして説明すると、メイントラッキングエラー信号MTE1=(A1−C1)+(B1−D1)となり、サブトラッキングエラー信号STE1={(E1−G1)+(F1−H1)}+{(I1−K1)+(J1−L1)}と表される。
【0068】
そして、斯かる差動プッシュプル法におけるトラッキング制御動作はトラッキングエラー信号TE1に基づいて行われるが、このTE1信号は、TE1=MTE1−k2×STE1として得られる。ここで、k2はメインビームの光強度とサブビームの光強度に基づいて決定される定数である。
CDのトラッキングエラー信号も同様に差動プッシュプル法を用いて得ることができる。
【0069】
このように、光ディスク100の再生信号や、フォーカスエラー信号、トラッキング信号は、光検出器20の各受光部21a、21b、21c、22a、22b、22cがそれぞれ有する4分割センサの各セグメントに照射される光量に基づいて生成されるので、光ピックアップ装置1の高性能化の観点から、光検出器20に照射される反射光の光量はできるだけ多いほうが好ましい。
【0070】
ところで、光ディスク100の中には、製造技術の相違等によって、信号層を被覆するカバー層をレーザ光が通過する際に許容する複屈折を超過して生ずるものがある。このような複屈折を生ずる光ディスク100にレーザ光が照射された場合、光ディスク100からの反射光の偏光成分が変化する。
【0071】
そのため、ハーフミラー13を透過してAS板18に入射される反射光のP偏光成分とS偏光成分との割合は、光ディスク100が持つ複屈折の特性に依存するため、信号再生対象の光ディスク100の特性に応じて様々に変化する。
【0072】
そこで、本実施形態に係るAS板18は、図4に示すように、S偏光成分の透過率Ts(第1透過率)とP偏光成分の透過率Tp(第2透過率)とが、ほぼ等しくなるように制御膜181を形成している。図4に示す例では、Ts=93.6%、Tp=95.4%となるように形成されている。
【0073】
このように、本実施形態に係る光ピックアップ装置1では、P偏光成分の透過率TpとS偏光成分の透過率Tsとが、ほぼ等しくなるようにAS板18の制御膜181を形成しているので、AS板18に入射する反射光に含まれる偏光成分のバランスが変化しても、AS板18を透過する全体の光量を変化させずに、光検出器20に入射する反射光の減少を抑制することができる。
【0074】
特に、本実施形態のように、P偏光成分の透過率TpとS偏光成分の透過率Tsとの差を2パーセント未満とすることにより、AS板18に入射する反射光に含まれる偏光成分のバランスの変化に対する影響をほとんど受けないようにすることが可能となる。
【0075】
従来、AS板は、光検出器に受光される反射光の光量低下を防止するために透過率を優先させたり、あるいはレーザダイオードの温度変化によってレーザダイオードから放射されるレーザ光の波長が変動してもレーザ光の透過率が変動しないようにP偏光及びS偏光の透過率が所定の波長範囲で一定になるように制御膜が成膜されていたが、このようなAS板の場合、P偏光成分の透過率TpとS偏光成分の透過率Tsとの差が十数%あった。例えば、透過率Tp=97.9%、透過率Ts=78.8%のAS板が使用されていた。
【0076】
本発明において、AS板の偏光成分の透過率TpとS偏光成分の透過率Tsとの差は最低でも10%未満とし、5%未満に設定されることにより光ディスクの複屈折のばらつきにより光検出器に受光される反射光の光量の変動による影響をほとんど受けないようにすることが期待できる。
【0077】
従って、光ディスク100からの反射光に基づいて、再生信号やフォーカスエラー信号、トラッキング信号を確実に生成できるようになり、光ピックアップ装置1を高性能化、高信頼化することが可能となる。
【0078】
また、レーザ光を反射する際に強い複屈折を生じるような低品質の光ディスク100を再生する場合であっても、光検出器20に照射する反射光の光量を低下させずに済むので、従来は再生が困難であったような低品質の光ディスク100であっても再生することも可能となる。
【0079】
なおAS板18は、一例として、基材の構造材として白板ガラス(例えば、商品名:B270(SCHOTT社))を使用し、制御膜181を、Tio2とSio2とを交互に積層した多層膜により構成する。
【0080】
AS板18の制御膜181は、P偏光成分よりも透過率が低くなるS偏光成分の透過率Tsを90%以上に設定することによりに全体に透過率を保持した上で、容易にP偏光成分の透過率TpとS偏光成分の透過率Tsとの差を10%未満に設定することが可能である。そして、AS板18は、制御膜181の各層の厚みを変えたり、積層数を変えたり、あるいは構造材を変えて屈折率を変化させたりして透過率が調整される。
【0081】
制御膜181は、例えば物理的気相成長法(PVD)の真空蒸着法やスパッタリング法による薄膜製造技術により形成し、あるいは化学的気相成長法(CVD)による薄膜製造技術により形成することができる。
また、制御膜181の形成としては、塗布型材料を塗布して熱処理する方法、及びAS板18の基材表面にフィルムを接着することも考えられる。
【0082】
制御膜181は、図3に示すように基材の片面に形成してもよいし、図5に示すように両面に形成してもよい。
制御膜181を基材の片面に形成した場合には、製造の容易化が図られ、反射光の偏光成分の変化の影響を受けにくい高性能なAS板18を低コストで製造することが可能となる。
制御膜181を基材の両面に形成した場合には、反射光がAS板18に入射する際及び出射する際のいずれにおいても反射光の乱反射を防止できるので、より透過率が高く、しかも反射光の偏光成分の変化の影響を受けにくい高性能なAS板18を製造することが可能となる。
【0083】
尚、本実施形態の光ピックアップ装置1は、2波長対応のマルチレーザユニットを用いた例を示しているが、1波長対応のシングルレーザユニットでも良い。また3波長対応のマルチレーザユニットを用いる構成を採用することも可能である。
【0084】
またDVD及びCDに適合する光ピックアップ装置に限定されず、青紫色波長帯400nm〜420nmのレーザ光(例えば405nm)を用いたBlu-ray Disc(登録商標)規格に適合させた光ピックアップ装置においても利用可能である。
【0085】
以上、前述した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0086】
1 光ピックアップ装置
11 レーザユニット
12 複合光学素子
13 ハーフミラー
14 1/4波長板
15 コリメートレンズ
16 立ち上げ用反射ミラー
17 対物レンズ
18 AS板
20 光検出器
30 フロントモニタ受光検出器
100 光ディスク
181 制御膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ピックアップ装置において、
レーザ光を発光するレーザ光源と、
前記レーザ光を光記録媒体に照射する対物レンズと、
前記光記録媒体から反射される前記レーザ光の反射光を受光する光検出器と、
前記レーザ光源と前記対物レンズとの間の光路に介在し、前記レーザ光を前記対物レンズの方向に反射し、前記反射光を前記光検出器の方向に透過するハーフミラーと、
前記ハーフミラーと前記光検出器との間の光路に介在し、前記反射光に非点収差を付加する非点収差付加部材と、
を備え、
前記非点収差付加部材は、前記反射光に含まれる第1方向の偏光成分に対する第1透過率と、前記第1方向に直交する第2方向の偏光成分に対する第2透過率と、が略等しい制御膜を有することを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光ピックアップ装置であって、
前記制御膜は、前記非点収差付加部材へ前記反射光が入射する入射面及び前記反射光が出射する出射面のうちの一方の面に形成されていることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光ピックアップ装置であって、
前記制御膜は、前記非点収差付加部材へ前記反射光が入射する入射面及び前記反射光が出射する出射面の両方の面に形成されていることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項4】
請求項1に記載の光ピックアップ装置であって、
前記第1透過率と前記第2透過率との差は、5パーセント未満である
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項5】
請求項1に記載の光ピックアップ装置であって、
前記第1透過率及び前記第2透過率は、いずれも90%以上である
ことを特徴とする光ピックアップ装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−25849(P2013−25849A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161242(P2011−161242)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】