説明

光半導体装置

【課題】注入電流が増大しても電流狭窄機能が急激に失われることない埋め込み構造を具備した光半導体装置を提供すること。
【解決手段】 n型の半導体基板と、断面が凸状の半導体積層構造が前記半導体基板上に延在したメサ構造と、p型の第1の半導体材料で形成され且つ前記半導体基板の上に積層された埋め込み層とn型の前記第1の半導体材料で形成され且つ前記埋め込み層の上に積層された電流狭窄層とを有し且つ前記メサ構造の両側面を覆うpn埋め込み構造と、伝導帯の下端のエネルギーが前記第1の半導体材料より高いp型の第2の半導体材料で形成され且つ前記メサ構造及び前記pn埋め込み構造の上に積層された第1の電子障壁層と、p型の半導体材料で形成され且つ前記第1の電子障壁層の上に積層されたクラッド層を具備した光半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型半導体で形成された埋め込み層とn型半導体で形成された電流狭窄層とによってメサ構造の側面が覆われた光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体光増幅器や半導体レーザのように電流注入によって動作する光半導体装置(以下、電流注入型の光半導体装置と呼ぶ)は、光通信システムのような、光を取り扱うシステムの重要な構成部品である。
【0003】
例えば、半導体光増幅器は、光通信システム内で、インラインアンプ、ブースターアンプ、プリアンプ等として用いられている。更に、半導体光増幅器は、半導体光集積回路に搭載され、光ゲートスイッチ等の機能素子としても利用されている。
【0004】
このような電流注入型の光半導体装置の大部分は、活性層を含むメサ構造が、n-p-n-pサイリスタ構造によって埋め込まれている(特許文献1)。
【0005】
図1は、このような半導体光増幅器2の断面図である。
【0006】
図1に示すように、半導体光増幅器2は、n型の半導体基板4(例えば、n−InP基板)と、半導体基板4の上に延在したメサ構造6を備えている。メサ構造6は、例えば、n型の下部クラッド層8と、活性層10と、p型の上部クラッド層12を備えている。
【0007】
また、半導体光増幅器2は、p型の半導体材料(例えば、p−InP)で形成され且つ上記半導体基板4の上に積層された埋め込み層14と、n型の半導体材料(例えば、n−InP)で形成され且つ埋め込み層14の上に直接積層された電流狭窄層16とを有するpn埋め込み構造18を備えている。ここで、pn埋め込み構造18は、上記メサ構造6の両側面を覆うように形成される。
【0008】
更に、半導体光増幅器2は、p型の半導体材料(例えば、p−InP)で形成され且つメサ構造6及びpn埋め込み構造18の上に直接積層されたクラッド層20と、このクラッド層20の上に直接積層されたコンタクト層22を具備している。
【0009】
なお、メサ構造6の両側面を覆うpn埋め込み構造18は、活性層10(例えば、InGaAsP多重量子井戸構造)より屈折率が小さく、且つバンドギャップの大きな半導体材料(例えば、InP)によって形成される。
【0010】
図1に示すような断面構造を有する光半導体装置では、メサ構造6を取り囲む半導体層、すなわち、n型の半導体基板4、pn埋め込み構造18、及びクラッド層20が、n-p-n-pサイリスタ構造24を、メサ構造6の両側に形成する。
【特許文献1】特開2003-60309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、半導体基板4を接地しコンタクト層22に正電圧を印加して、上記半導体光増幅器2に、電流を注入した場合を考える。この場合、メサ構造6には電流が流れるが、n-p-n-pサイリスタ構造24には電流は流れない。
【0012】
これは、pn埋め込み構造18に形成されるpn接合が、コンタクト層22に印加された正電圧によって、逆バイアスされるためである(何故ならば、逆バイアスされたpn接合には、電流は流れない。)。
【0013】
このため、半導体光増幅器2に注入された電流は、メサ構造6の内部に配置された活性層10に集中的に注入される。すなわち、pn埋め込み構造18は、電流狭窄機能を有している。従って、活性層10への電流注入効率が高くなる。
【0014】
しかし、半導体光増幅器2に注入される電流が増加して行くとその印加電圧も上昇して行く。その結果、遂には、逆バイアスされたpn接合で電子雪崩降伏が起き、サイリスタ構造24がターンオンしてしまう。すると、図2参照に示すように、pn埋め込み構造18を流れるリーク電流26が急激に増加し、pn埋め込み構造18の電流狭窄機能が失われてしまう。
【0015】
その結果、活性層10に注入される電流が急激に減少し、半導体光増幅器2の出力は著しく低下する。この現象は、動作温度が高くなるほど顕著である。同様の現象は、n-p-n-pサイリスタ構造24を有する他の光半導体装置でも見られる。
【0016】
そこで、本発明の目的は、注入電流が増加していっても電流狭窄機能が急激に消失してしまうことのない埋め込み構造を具備した光半導体装置を提供することである。
【0017】
尚、図2は、電流注入型光半導体装置に於ける電流リークを説明する概念図である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するために、本発明に係る光半導体装置は、n型の半導体基板と、断面が凸状の半導体積層構造が前記半導体基板上に延在したメサ構造と、p型の第1の半導体材料で形成され且つ前記半導体基板の上に積層された埋め込み層とn型の前記第1の半導体材料で形成され且つ前記埋め込み層の上に積層された電流狭窄層とを有し且つ前記メサ構造の両側面を覆うpn埋め込み構造と、伝導帯の下端のエネルギーが前記第1の半導体材料より高いp型の第2の半導体材料で形成され且つ前記メサ構造及び前記pn埋め込み構造の上に積層された第1の電子障壁層と、p型の半導体材料で形成され且つ前記第1の電子障壁層の上に積層されたクラッド層を具備する。
【0019】
本光半導体装置では、逆バイアスされたpn埋め込み構造で電子雪崩降伏が起きても、上記第1の電子障壁層が、pn埋め込み構造に於けるリーク電流の主成分である電子流を阻止する。従って、本光半導体装置によれば、注入電流が増加して行っても、pn埋め込み構造の電流狭窄機能が急激に消失することはない。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る光半導体装置によれば、注入電流が増加してpn埋め込み構造で電子雪崩降伏が起きても、リーク電流の主成分である電子流を電子障壁層が阻止するので、pn埋め込み構造の電流狭窄機能が急激に失われることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0022】
(実施の形態1)
本実施の形態は、伝導帯の下端のエネルギーがpn埋め込み構造を形成する第1の半導体材料(例えば、InP)より高い第2の半導体材料(例えば、InGaP)で形成された電子障壁層を備えた半導体光増幅器に係るものである。
【0023】
(1)装置構成
図3は、本実施の形態に従う半導体光増幅器の要部断面図である。図4は、本実施の形態に従う半導体光増幅器の要部平面図である。
【0024】
本実施の形態に従う半導体光増幅器28は、n型のInPで形成された半導体基板4と、断面が凸状の半導体積層構造が、半導体基板4の上に延在した所謂メサ構造6を有している。尚、図3は、紙面に垂直な方向に延在したメサ構造6の断面を表したものである。
【0025】
また、半導体光増幅器28は、p型のInPで形成され且つ半導体基板4の上に積層された埋め込み層14と、n型のInPで形成され且つ埋め込み層14の上に積層された電流狭窄層16とを有し、且つメサ構造6の両側面を覆うpn埋め込み構造18を有している。尚、図3に示した例では、埋め込み層14は、半導体基板4の上に、直接ではなく後述する下部クラッド層8の一部を介して形成されている。
そして、本実施の形態に従う半導体光増幅器28は、伝導帯の下端のエネルギーがInPより高いp型の半導体材料(本実施の形態では、InGaP)で形成され、且つメサ構造6及びpn埋め込み構造18の上に積層された電子障壁層30を有している。
【0026】
また、半導体光増幅器28は、p型のInPで形成され且つ電子障壁層30の上に積層されたクラッド層20と、p型のInGaAsPで形成され且つこのクラッド層20の上に積層されたコンタクト層22を有している。
【0027】
更に、半導体光増幅器28は、コンタクト層22の上に形成されたp側コンタクト電極(図示せず)と、半導体基板4の裏面に形成されたn側コンタクト電極(図示せず)を有している。
【0028】
尚、メサ構造6は、n型のInPで形成された下部クラッド層8と、例えばInGaAsP多重量子井戸構造で形成された活性層10と、p型のInPで形成された上部クラッド層12を備えている。
【0029】
そして、このような構造体が、メサ構造6の延在方向に垂直な(一対の)断面でへき開され、へき開によって得られた両断面に、半導体光増幅器28の動作波長に於いて光の反射を防止する反射防止膜32が形成されている(図4参照)。
【0030】
(2)動 作
次に、図3乃至図6を参照して、本実施の形態に従う半導体光増幅器28の動作について説明する。
【0031】
図3は、既に説明したように、本実施の形態に従う半導体光増幅器28の要部断面図である。また、図4は、半導体光増幅器28の要部平面図である。また、図5は、図3のX―Y線に沿ったバンド・ダイヤグラムである。一方、図6は、図3のX´―Y´線に沿ったバンド・ダイヤグラムである。
【0032】
半導体光増幅器28の動作のためには、まず、半導体基板4の裏面に形成されたn側コンタクト電極(図示せず)に、上記駆動電源(図示せず)の負極が接続される。一方、コンタクト層22の上に形成されたp側コンタクト電極(図示せず)に、駆動電源の正極が接続される。
【0033】
次に、所望の利得を発生させるために必要な電流が、この駆動電源から半導体光増幅器28に供給される。例えば、pn埋め込み構造18で電子雪崩降伏が起きてしまうような大電流(例えば、500mA)が、半導体光増幅器28に供給される。
【0034】
このような大電流が供給されても、本実施の形態に従う半導体光増幅器28では、以下に説明するとおり、電子障壁層30が電子の流れを遮断するので、リーク電流の急激な増加が抑制される。
【0035】
従って、本実施の形態に従う半導体光増幅器28では、従来の半導体光増幅器2より、大きな電流を活性層10に注入することが可能になる。このため、本実施の形態に従う半導体光増幅器28の利得は、従来の半導体光増幅器2より大きくなる。
【0036】
図5のバンド・ダイヤグラムに図示すように、p型のInPによって形成された埋め込み層14とn型のInPによって形成された電流狭窄層16との間には、pn接合31が形成される。半導体光増幅器28に駆動電流が注入されている間、p側コンタクト電極には、(n側コンタクト電極に対して)正電圧が印加される。従って、この間、pn接合31は逆バイアスされる。
【0037】
半導体光増幅器28の駆動電流が大きくなり、印加電圧が大きくなると、pn接合31の内部電界も大きくなる。更に、駆動電流が大きくなると、遂には、pn接合31で電子雪崩降伏が起きる。
【0038】
しかし、電子雪崩降伏が起きても、本実施の形態に従う半導体光増幅器28では、電子雪崩降伏で生成された電子37の流れが、InGaPによって形成された電子障壁30によって遮断される。これは、図5に示すように、電子障壁層30を形成する半導体材料すなわちInGaPの伝導帯下端33のエネルギーが、pクラッド層20を形成する半導体層すなわちInPの伝導帯下端33´のエネルギーより高いためである。
【0039】
尚、電子の流れを確実に止めるためには、電子障壁層30の形成する(電子に対する)障壁の高さΔEは十分に高い必要がある。このためには、電子障壁層30を形成するInGaPの組成を、例えば、In0.8Ga0.2Pとすればよい。この場合、障壁の高さΔEは、70meVとなる。
【0040】
一方、図5に示すように、雪崩降伏で生成された正孔39の流れを遮断する障壁は存在しない(p型のクラッド層20及びp型の電子障壁30とn型の電流狭窄層16の間のpn接合41、及びp型の埋め込み層14とn型の半導体基板4の間のpn接合43は順バイアスされているので電子及び正孔の双方に対して障壁とはならない。)。
【0041】
しかし、InPに於ける正孔の移動度(200cm/v・s)は電子の移動度(5400cm/v・s)の数十の一でしかないので、pn埋め込み構造18を流れるリーク電流26(図2参照)の主成分は電子の流れであり、正孔流の寄与は無視できる(このような傾向は、他の半導体材料にも共通する。)。従って、電子障壁30によって電子の流れが阻止されれば、pn埋め込み構造18を流れるリーク電流26を抑制することが可能になる。
【0042】
故に、駆動電流が大きくなりpn埋め込み層18で電子雪崩降伏が起きても、リーク電流26(図2参照)が急激に増加することはない。このため、活性層10への大電流の注入が可能になり、本実施の形態に従う半導体光増幅器28の利得は、従来の半導体光増幅器2より大きくなる。このようなリーク電流抑制効果は、高温に於いて顕著である。
従って、図4に示すように、半導体光増幅器28の光入射面34に入射した信号光36は、従来の半導体光増幅器2より大きく増幅されて増幅光40となり、光出射面38から出射される。
【0043】
以上が本実施の形態に従う半導体光増幅器28の動作である。ところで、図6に図示したX´―Y´線に沿った価電子帯の上端35を参照すれば明らかなように、InGaPで形成された電子障壁30は、正孔に対しては障壁を形成しない。このため、p型InPで形成されたクラッド層20から、同じくp型のInPで形成された上部クラッド層12へ、正孔39は、電子障壁層30を容易に通過して流れ込む。すなわち、電子障壁層30は、活性層10への正孔注入の妨げにはならない。但し、電子障壁層30が正孔に対して障壁を形成する材料で形成されていても、電子障壁層30がp型の半導体材料で形成されているので、正孔の流れが途絶えることはない。
【0044】
すなわち、電子障壁層30がp型の半導体材料で形成される本実施の形態に係る半導体光増幅器では、電子障壁層30によって活性層10への正孔注入が阻害されて、光増幅に支障が生じることはない。
【0045】
ところで、半導体光増幅器28に大電流が注入されると、有効質量の小さな電子は活性層から溢れ出して(所謂、オーバーフロー)、上部クラッド層12へ更にはクラッド層20内に流れ出す。この電子の流れは、光の増幅には寄与しないキャリアの流れすなわちリーク電流となる。従って、電子のオーバーフローが起きると、活性層10への電子の注入効率が低下し、半導体光増幅器の利得が低下する。
【0046】
しかし、本実施の形態に従う半導体光増幅器28では、電子障壁層30が活性層10を含むメサ構造6の上にも設けられているので、このような電子の流れ(リーク電流)はせき止められる(図7参照)。このため、活性層10からの電子の溢れ27が抑制され、活性層10への電子の注入効率が向上する。
【0047】
故に、本実施の形態に従う半導体光増幅器28では、活性層10からの電子のオーバーフローが問題となるような大電流が注入されても、活性層10への電子の注入効率の劣化が抑制される。このため、利得飽和が起こりにくい。
【0048】
(3)製造方法
最後に、図3に図示された半導体光増幅器28の製造方法について説明する。
【0049】
まず、n型の(100)InP基板4の上に有機金属化学気相成長法(metal organic chemical vapor deposition;MOCVD法)によりn型のInP下部クラッド層8と、InGaAsP多重量子井戸で形成された活性層10と、p型のInP上部クラッド層12が形成される(1回目成長)。
【0050】
この際、原料ガスとしては、III族元素に対しては、トリメチルインジウム(trimethylindium;TMI)及びトリエチルガリウム(triethylgallium;TEG)の何れか一方又は双方が用いられる。一方、V族元素に対しては、原料ガスとして、ホスフィン(phosphine;PH)とアルシン(arsine; AsH)の何れか一方又は双方が用いられる。
【0051】
また、ドーパント用のガスとしては、p型ドーパントには、ジエチル亜鉛(diethylzinc;DEZn)が用いられる。一方、n型ドーパントには、モノシラン(silane;SiH)が用られる。
【0052】
次いで、p型のInPクラッド層12の上にCVD法(chemical vapor deposition)によりSiO製の絶縁膜が堆積される。
【0053】
次いで、フォトリソグラフィ技術及びエッチングによって、この絶縁膜がパターニングされ、例えば[011]方向に延びる幅約2μmのストライプ状のSiOマスクが形成される。
【0054】
次いで、このストライプ状のSiOマスクの両側に表出されているp型の上部InPクラッド層12から、n型の下部InPクラッド層8の内部(又は、n型の半導体基板4)に達するまで、1回目の成長で得られた半導体層がドライエッチングされる。このドライエッチングによって、メサ構造6が形成される。
【0055】
次いで、SiOマスクが残されたまま、MOCVD法により、メサ構造6の両側面及びn型の下部InPクラッド8(又は、n型の半導体基板4)の上に、p型のInPで形成される埋め込み層14と、n型のInPで形成される電流狭窄層16が、順次選択的に形成される(2回目成長)。この成長により、メサ構造6の両側面が、埋め込み層14と電流狭窄層16を有するpn埋め込み構造18によって覆われる。
【0056】
次いで、メサ構造6の上部を覆うSiOマスクが除去される。
【0057】
次いで、MOCVD法により、p型のInGaP層で形成される電子障壁層30と、p型のInPで形成されるクラッド層20と、p型のInGaAsで形成されるコンタクト層22が順次形成される。
【0058】
次いで、コンタクト層22の表面及び半導体基板4の裏面に、p側コンタクト電極(図示せず)及びn側コンタクト電極(図示せず)が夫々形成される。
【0059】
その後、半導体基板4と共に、1回目及び2回目成長で形成された半導体層がへき開されて、光入射面34及び光出射面38が形成される(図4参照)。
【0060】
最後に、光入射面34及び光出射面38の表面に、SiO等から形成される反射防止膜32が形成される。
【0061】
ところで、InGaPとInPは、格子定数が一致しない。従って、InPで形成された、電流狭窄層16及び上部クラッド層12の上には、厚さが臨界膜厚以下のInGaPでないと、結晶欠陥を伴わずに成長することはできない。
【0062】
図8は、InGaPの臨界膜厚とIn組成(InGaPをInGa1-xPと表記した場合のx)の関係を示したグラフである。例えば、In0.8Ga0.2Pの臨界膜厚は、約45nmである。
【0063】
従って、上述したようにIn0.8Ga0.2Pで電子障壁層30を形成した場合には、InGaPの厚さは、45nm以下、例えば10nmが好ましい。
【0064】
(実施の形態2)
本実施の形態は、実施の形態1に従う半導体光増幅器において、pn埋め込み層18と電子障壁層30の間に、更に別の電子障壁層が追加された半導体光増幅器に係るものである。
【0065】
(1)装置構成
図9は、本実施の形態に従う半導体光増幅器の要部断面図である。一方、本実施の形態に従う半導体光増幅器42の平面構造は、図4を参照して説明した実施の形態1に従う半導体光増幅器28の平面構造と同じである。
【0066】
図9に示すように、本実施の形態に従う光半導体装置42には、実施の形態1に従う半導体光増幅器28において、pn埋め込み構造18と電子障壁層30の間に伝導帯の下端のエネルギーがInPより高い、p型の半導体材料で形成された第2の電子障壁層44が配置される。尚、実施の形態1に従う半導体光増幅器28が備えている電子障壁層30は、以後第1の電子障壁層と呼ぶこととする。
【0067】
ここで、第2の電子障壁層44を形成する半導体材料は、第1の電子障壁層30を形成する半導体材料と同じでも異なっていてもよい。すなわち、第2の電子障壁層44は、InGaPで形成されてもよいし、異なる材料、例えばInAlAsやAlGaInAsで形成されてもよい。また、第1の電子障壁層30と同じくInGaPで第2の電子障壁層44が形成される場合、第2の電子障壁層44を形成するInGaPの組成は、第1の電子障壁層30を形成するInGaPの組成と同じであっても異なっていてもよい。
【0068】
本実施の形態では、第1及び第2の電子障壁層30,44は、その厚さの和が臨界膜厚を越えないように形成される。例えば、第1及び第2の電子障壁層30,44が共にIn0.8Ga0.2Pで形成された場合には、第1及び第2の電子障壁層30,44の膜厚の和が、InP上のIn0.8Ga0.2Pの臨界膜厚45nmを越えないように形成される。
【0069】
例えば、第1の電子障壁層30が10nmの厚さに形成され、第2の電子障壁層30が5nmの厚さに形成される。
【0070】
(2)動 作
本実施の形態に従う半導体光増幅器42の動作は、実施の形態1に従う半導体光増幅器28の動作と略同じである。
【0071】
但し、2層の電子障壁層30,44が一体となってpn埋め込み構造18の上に厚い電子障壁(例えば、15nm)を形成するので、第1の電子障壁層だけの場合より、(pn埋め込み構造18於ける)電子雪崩降伏によって生成される電子の流れ(すなわち、リーク電流)がより有効に阻止される。
【0072】
一方、メサ構造6の上には一層の薄い第1の電子障壁層30(例えば、5nm)しか存在しないので、クラッド層20から上部クラッド層18へ正孔が円滑に流れる。従って、低い印加電圧でも正孔が容易に活性層10に注入される。特に、正孔に対しても障壁となる半導体材料で電子障壁層30が形成される場合には、この傾向は顕著である。
【0073】
すなわち、本実施の形態に従う半導体光増幅器42によれば、実施の形態1に従う半導体光増幅器28に比べ、pn埋め込み構造18のリーク電流がより効果的に抑制されると同時に、活性層10への正孔の注入がより円滑になり動作電圧が低くなる。
【0074】
(3)製造方法
本実施の形態に従う半導体光増幅器42の製造方法は、実施の形態1に従う半導体光増幅器28の製造方法と略同じである。
【0075】
まず、電流狭窄層16が形成されるまでの工程が、実施の形態1で説明した半導体光増幅器28の製造方法と同様に実施される。
【0076】
但し本実施の形態では、電流狭窄層16が選択的に形成された後も、MOCVD法による成長が継続され、電流狭窄層16の上に、第2の電子障壁層44が選択的に形成される。
【0077】
以後、実施の形態1で説明した半導体光増幅器28の製造方法と略同じ工程が実施される。
【0078】
(実施の形態3)
本実施の形態は、実施の形態1に従う半導体光増幅器28において、メサ構造6を形成する上部クラッド層12の内部に、第3の電子障壁層が配置された半導体光増幅器に係るものである。
【0079】
(1)装置構成
図10は、本実施の形態に従う半導体光増幅器46の要部断面図である。一方、本実施の形態に従う半導体光増幅器46の平面構造は、図4を参照して説明した実施の形態1に従う半導体光増幅器28の平面構造と同じである。
【0080】
図10に示すように、本実施の形態に従う光半導体装置46には、実施の形態1に従う半導体光増幅器28において、(メサ構造6を形成する)上部クラッド層12の内部に、伝導帯の下端のエネルギーがInPより高いp型の半導体材料で形成された第2の電子障壁層48が、半導体基板4に対して平行に配置される。
【0081】
ここで、第3の電子障壁層48を形成する半導体材料は、第1又は第2の電子障壁層30,44を形成する半導体材料と同じであっても異なっていてもよい。すなわち、第3の電子障壁層48は、InGaPで形成されてもよいし、異なる材料、例えばInAlAsやAlGaInAsで形成されてもよい。
【0082】
また、第1の電子障壁層30と同じくInGaPで第3の電子障壁層48が形成される場合、第3の電子障壁層48を形成するInGaPの組成は、第1の電子障壁層30を形成するInGaPの組成と同じであっても異なっていてもよい。
【0083】
(2)動 作
本実施の形態に従う半導体光増幅器46の動作は、実施の形態1に従う半導体光増幅器28の動作と略同じである。図11は、図10のX´―Y´線に沿ったバンド・ダイヤグラムである。
【0084】
但し、図10及び図11に示すように、上部クラッド層12の内部に第3の電子障壁層48が配置されているので、実施の形態1に従う半導体光増幅器28より、活性層10に近い位置で活性層10から溢れ出した電子をせき止めることができる。
【0085】
このため、活性層10を溢れ出した電子が、p型の上部クラッド層12の正孔と再結合する頻度が少なくなる。
【0086】
従って、本実施の形態に従う半導体光増幅器46は、実施の形態1に従う半導体光増幅器28より、電子の溢れ出し(オーバーフロー)を、より効果的に抑制することができる。
【0087】
故に、本実施の形態に従う半導体光増幅器46では、実施の形態1に従う半導体光増幅器28よりも、活性層10への電子の注入効率が更に向上する。従って、利得飽和が起こりにくい。
【0088】
(3)製造方法
本実施の形態に従う半導体光増幅器46の製造方法は、実施の形態1に従う半導体光増幅器28の製造方法と略同じである。
【0089】
但し、MOCVD法による最初の結晶成長工程(1回目成長)で、n型の(100)InP基板4の上に、n型のInP下部クラッド層8と、InGaAsP多重量子井戸である活性層10と、p型のInP上部クラッド層12の一部と、例えばInGaPで形成される第3の電子障壁層48と、残りのInP上部クラッド層12が順次形成される。
【0090】
その他の点では、本実施の形態に従う半導体光増幅器46の製造方法は、実施の形態1に従う半導体光増幅器28の製造方法と略同じである。
【0091】
(使用例)
図12は、実施の形態1乃至3に従う半導体光増幅器28,42,46と他の光学部品が組合わされた半導体光増幅器モジュール50の概念図である。
【0092】
本使用例に従う半導体光増幅器モジュール50は、信号光60が入力される入力側光ファイバ52と、入力側光ファイバ52が出射した信号光60を集光して半導体光増幅器28,42,46の光入射面34に照射する入力側レンズ系54と、(実施の形態1乃至3に従う)半導体光増幅器28,42,46の何れか一つと、半導体光増幅器28,42,46が増幅しその光出射面38から放出された信号光(増幅光62)を集光して出力側光ファイバ58の光入射端面に照射する出力側レンズ系56と、増幅光62を出力する出力側光ファイバ58と、これらの部材が装着される筐体64を具備している。
【0093】
また、半導体光増幅器モジュール50は、外部電源が接続される正負一対の端子(図示せず)と、この一対の端子と半導体光増幅器28,42,46のp側及びn側電極を電気的に接続する配線を有している。
【0094】
次に、この半導体光増幅器モジュール50を動作させるため、使用者は、上記外部電源を駆動して、所望の光利得に応じた励起電流を、半導体光増幅器28,42,46に供給する。この時、従来は(pn埋め込み構造18に於ける)電子雪崩降伏によりリーク電流が急増してしまため用いることのできなかった大電流を、半導体光増幅器28,42,46に供給してもよい。
【0095】
次に、使用者は、信号光60を入力側光ファイバ52に入力する。
【0096】
すると、出力側光ファイバ58に増幅光62が出力される。この時、出力側光ファイバ58が所望の装置に接続されていれば、使用者は、増幅光62を利用することができる。
【0097】
以上の例は、半導体光増幅器28,42,46を、個別の装置として使用した例である。しかし、半導体光増幅器28,42,46の使用形態は、このような個別の装置としての使用例に限られるものではない。例えば、集積化光半導体装置の構成要素、例えば光ゲートスイッチとして、半導体光増幅器28,42,46を使用してもよい。
【0098】
(変形例)
以上、半導体光増幅器を例として本発明を説明した。しかし、本発明の適用可能な光半導体装置は、半導体光増幅器に限られるものではない。例えば、本発明は、半導体レーザ装置等の他の光半導体装置にも適用可能である。
【0099】
また、電子障壁層を形成する主要な半導体材料としてInGaPを例示したが、他の半導体材料例えば、InAlAsやAlGaInAsを利用することもできる。
【0100】
例えば、実施の形態1に従う半導体光増幅器28に於いてIn0.8Ga0.2Pで形成された電子障壁層30を、In0.52Al0.48As又はIn0.53Al0.35Ga0.12Asで置き換えてもよい。但し、In0.52Al0.48Asの方が、In0.53Al0.35Ga0.12Asより電子に対する障壁層を高くするので好ましい。尚、In0.53Al0.35Ga0.12Asの電子に対する障壁層の高さは、In0.8Ga0.2Pと略同じである。また、In0.52Al0.48As及びIn0.53Al0.35Ga0.12AsはInPに格子整合するので、膜厚に制限はない。
【0101】
また、実施の形態1乃至3では、半導体光増幅器を形成する各半導体層が、InPを主要成分とする半導体材料によって形成されている例(所謂、InP系光半導体装置)について説明した。
【0102】
しかし、本発明が適用可能な光半導体装置は、このようなInP系の光半導体装置に限られるものではなく、例えばGaAsを主成分とする半導体層によって形成された光半導体装置(所謂、GaAs系光半導体装置)等、他の半導体材料を主成分とする半導体層によって形成される光半導体装置にも適用可能である。
【0103】
例えば、電子障壁層をAlGaAsで形成すれば、本発明を、GaAs系光半導体装置に適用することができる。この場合、電子障壁層は正孔に対しても障壁層として機能する。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】従来の半導体光増幅器の断面を説明する図である。
【図2】電流注入型光半導体装置に於ける電流リークを説明する概念図である。
【図3】実施の形態1に従う半導体光増幅器の要部断面図である。
【図4】実施の形態1に従う半導体光増幅器の要部平面図である。
【図5】実施の形態1に従う半導体光増幅器のX―Y線に沿ったバンド・ダイヤグラムである。
【図6】実施の形態1に従う半導体光増幅器のX´―Y´線に沿ったバンド・ダイヤグラムである。
【図7】実施の形態1に従う半導体光増幅器に於けるオーバーフローの抑制を説明する概念図である。
【図8】InGaPの臨界膜厚とIn組成の関係を示した図である。
【図9】実施の形態2に従う半導体光増幅器の要部断面図である。
【図10】本実施の形態3に従う半導体光増幅器の要部断面図である。
【図11】実施の形態3に従う半導体光増幅器のX´―Y´線に沿ったバンド・ダイヤグラムである。
【図12】実施の形態1乃至3に従う半導体光増幅器と他の光学部品を組合わせた半導体光増幅器モジュールの概念図である。
【符号の説明】
【0105】
2・・・半導体光増幅器 4・・・半導体基板 6・・・メサ構造
8・・・下部クラッド層 10・・・活性層 12・・・上部クラッド層
14・・・埋め込み層 16・・・電流狭窄層 18・・・pn埋め込み構造
20・・・クラッド層 22・・・コンタクト層
24・・・n-p-n-pサイリスタ構造 26・・・リーク電流
27・・・活性層からの電子の溢れ(オーバーフロー)
28・・・実施の形態1に従う半導体光増幅器
30・・・(第1の)電子障壁層
32・・・反射防止膜 31,41,43・・・pn接合
33,33´・・・伝導帯下端 34・・・光入射面
35・・・価電子帯上端 36・・・信号光
37・・・電子 38・・・光出射面
39・・・正孔 40・・・増幅光
42・・・実施の形態2に従う半導体光増幅器
44・・・(第2の)電子障壁層 46・・・実施の形態3に従う半導体光増幅器
48・・・(第3の)電子障壁層 50・・・半導体光増幅器モジュール
52・・・入力側光ファイバ 54・・・入力側レンズ系
56・・・出力側レンズ系 58・・・出力側光ファイバ
60・・・信号光 62・・・増幅光 64・・・筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型の半導体基板と、
断面が凸状の半導体積層構造が、前記半導体基板上に延在したメサ構造と、
p型の第1の半導体材料で形成され且つ前記半導体基板の上に積層された埋め込み層と、n型の前記第1の半導体材料で形成され且つ前記埋め込み層の上に積層された電流狭窄層とを有し、且つ前記メサ構造の両側面を覆うpn埋め込み構造と、
伝導帯の下端のエネルギーが前記第1の半導体材料より高いp型の第2の半導体材料で形成され、且つ前記メサ構造及び前記pn埋め込み構造の上に積層された第1の電子障壁層と、
p型の半導体材料で形成され且つ前記第1の電子障壁層の上に積層されたクラッド層を、
具備した光半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光半導体装置において、
前記pn埋め込み構造と前記第1の電子障壁層の間に、
伝導帯の下端のエネルギーが前記第1の半導体材料より高い、p型の第3の半導体材料で形成された第2の電子障壁層が配置されたことを、
特徴とする光半導体装置。
【請求項3】
請求項1及び2に記載の光半導体装置において、
前記半導体積層構造が、n型の下部クラッド層と、活性層と、p型の上部クラッド層を有し、
更に、前記上部クラッド層の内部に、
伝導帯の下端のエネルギーが前記第1の半導体材料より高い、p型の第4の半導体材料で形成された第3の電子障壁層が配置されたことを、
特徴とする光半導体装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の光半導体装置において、
前記第1の半導体材料が、InPであることを、
特徴とする光半導体装置。
【請求項5】
請求項4に記載の光半導体装置において、
前記第2の半導体材料が、InGaP、InAlAs、及びAlGaInAsからなる群から選択された何れか一つの半導体材料であることを特徴とする光半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−253188(P2009−253188A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102207(P2008−102207)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、科学技術総合研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代高効率ネットワークデバイス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】