説明

光半導体装置

【課題】不純物の不要な拡散を抑制し、特性の良い光半導体装置を提供する。
【解決手段】光半導体装置10は、p型不純物であるZn及び深いドナー準位を形成し得る不純物であるTiが添加されたp型クラッド層18を有するメサ部12と、深いアクセプタ準位を形成する不純物であるFeが添加されたIII−V族化合物半導体であるInPにより形成され、メサ部12の側面でp型クラッド層18と接してメサ部12を埋め込む埋め込み層13と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光半導体装置では、しきい値電流を低減し且つ光出力を増大させる手法の一つとして、電流を活性層に集中させ電流注入効率を向上させる屈折率導波型構造が用いられている。
【0003】
この屈折率導波型構造の典型的な例として、活性層を含むストライプ状のメサ部を電流狭窄構造によって埋め込んだ埋め込みヘテロ構造(buried−heterostructure:BH)がある。
【0004】
このBH構造には、メサ部が半絶縁性の半導体層によって埋め込こまれたヘテロ構造(semi−insulating buried heterostructure:SIBH)と、メサ部がpnpnサイリスタ構造によって埋め込まれたヘテロ構造(pn−buried heterostructure :pnBH)とがある。例えば、SIBH構造を光変調器として用いた場合には、変調帯域を制限する要因となる光変調器の寄生容量を低減することができるため、10Gb/s以上の高ビットレートでの変調動作を行う上で有利である。
【0005】
SIBH構造を有する光半導体装置の一例である半導体レーザを図1に示す。
【0006】
半導体レーザ100は、n型のInP基板111を備えており、このInP基板111上には、メサ部112と、このメサ部112を埋め込む半絶縁性の半導体層である埋め込み層113とが配置される。
【0007】
メサ部112は、n型のInPによって形成されるn型クラッド層114と、ノンドープのInGaAsP系化合物半導体によって形成される第1光ガイド層115と、を有する。また、メサ部112は、ノンドープのInGaAsP系化合物半導体によって形成される活性層116と、ノンドープのInGaAsP系化合物半導体によって形成される第2光ガイド層117と、を有する。更に、メサ部112は、p型不純物であるZnがInPに添加されて形成されるp型クラッド層118を有する。更にまた、メサ部112は、p型のInGaAs系化合物半導体によって形成されるコンタクト層119を有する。
【0008】
また、半導体レーザ100は、n側電極120と、p側電極121とを備える。
【0009】
埋め込み層113は、深いアクセプタ準位を形成するFeが添加されたInPによって形成される。
【0010】
埋め込み層113は、メサ部112の側面に露出したn型クラッド層114の側面と、第1光ガイド層115の側面と、活性層116の側面と、第2光ガイド層117の側面と、p型クラッド層118の側面と、コンタクト層119の側面とを埋め込んでいる。
【0011】
2つの電極120,121間に流れる電流は、高い抵抗率を有する埋め込み層113に挟まれたメサ部112に集中して流れる。
【0012】
また、近年では、光半導体装置に対して、冷却を行わないで80℃〜90℃以上の高温で動作するアンクールド動作が求められている。そのため、半導体レーザの内部温度の上昇を抑えるために、半導体レーザの素子抵抗を低下させる検討が行われている。例えば、Zn等のp型不純物を、1.0×1018cm-3以上の高い濃度でp型クラッド層118に添加してp型クラッド層の抵抗率を下げることにより、半導体レーザの内部温度の上昇を抑え、高温での光出力を増加させる検討が行われている。
【0013】
一方、p型クラッド層118に対して、高い濃度でZn等のp型不純物が添加された場合には、埋め込み層113が形成される際に、埋め込み層113に添加されたFeと、p型クラッド層118に添加されたZn等のp型不純物とが相互拡散することが報告されている。
【0014】
この相互拡散によって、埋め込み層113中のFeはp型クラッド層118へ移動し、p型クラッド層118中のZn等は埋め込み層118へ移動する。
【0015】
埋め込み層113内に移動したZn等のp型不純物は、深いアクセプタ準位を形成するFeによっては補償されないため、メサ部112近傍の埋め込み層113の部分はp導電型に変換される。
【0016】
その結果、メサ部112近傍の埋め込み層113の部分の電流狭窄機能が低下して、活性層116を迂回して埋め込み層113中を流れるリーク電流が増加する。このリーク電流の増加は、半導体レーザ100の発振しきい値電流を増加させ、微分量子効率を低減し、半導体レーザ100の特性の温度依存性を悪化させる。
【0017】
また、埋め込み層113から、p型クラッド層118へ拡散したFeが、p型クラッド層118中のInサイトのZnを格子間サイトに押し出すため、この格子間サイトのZnがノンドープの活性層116にも拡散し、活性層116の一部がp導電型に変換される。このように活性層116中に形成されるアクセプタ準位は、再結合中心となり得るので、レーザの発振効率を低下させる要因となる。
【0018】
そこで、p型不純物が拡散したメサ部近傍の埋め込み層の部分がp導電型に変換されることを防止するために、InPによって形成される埋め込み層に対して、Feと共にTiが添加される半導体レーザが提案されている。Tiは、InP中に深いドナー準位を形成するので、p型クラッド層から拡散してきたZn等のp型不純物が形成する正孔が、Tiによって形成されるドナー準位によって捕獲される。このようにして、メサ部近傍の埋め込み層の部分の半絶縁性が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特許第2653863号明細書
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】C.Kazmierski,et al.,“Universal iron behaviour in Zn−, Cd− and Be−doped p−type InP”, Journal of Crystal Growth,Volume 116,Issues 1−2,Pages 75−80,January 1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述した半導体レーザには、以下のような問題点がある。まず、p型クラッド層を有するメサ部は、図1に示すような平板形状以外の形状を有する。そのため、メサ部を埋め込む埋め込み層には様々な面方位が出現し得る。具体的には、(0−11)面、(3−11)B面及び(100)面等が埋め込み層を形成する際に出現する。なお、本明細書においては、明細書作成の都合上、本来‘1バー’で表す面指数を‘−1’で表す。埋め込み層を形成するInPに対するFe等の取り込み率及び活性化率は、埋め込み層の面方位ごとに異なる。また、埋め込み層を形成するInPに対するTiの取り込み率及び活性化率も、面方位ごとに異なる。p型クラッド層から埋め込み層へ拡散したZn等のp型不純物が形成した正孔を捕獲するために、p型クラッド層と接している埋め込み層の部分には、拡散したZn等のp型不純物により形成される正孔の濃度に対応した濃度のTiが添加される必要がある。しかし、埋め込み層の面方位に応じて、埋め込み層内のTi濃度を部分的に変化させることは、非常に困難である。
【0022】
また、InPによって形成されるp型クラッド層にZnが1×1018cm-3の濃度で添加されている場合、p型クラッド層から埋め込み層へ拡散するZnの濃度は高々7×1016cm-3である。一方、InPによって形成される埋め込み層に対して、添加したTiによって形成される深いドナー準位の飽和濃度は、2×1016cm-3程度である。従って、埋め込み層にTiを添加する手法では、埋め込み層へ拡散してきた全てのZnを補償することはできない。
【0023】
本明細書は、埋め込み層に添加された深いアクセプタ準位を形成する不純物と、メサ部が有するp型半導体層に添加されたp型不純物との相互拡散が防止される光半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するために、本明細書で開示する光半導体装置の一形態によれば、p型不純物及び深いドナー準位を形成し得る不純物が添加されたp型半導体層を有するメサ部と、深いアクセプタ準位を形成する不純物が添加されたIII−V族化合物半導体により形成され、上記メサ部の側面から露出した上記p型半導体層と接して上記メサ部を埋め込む埋め込み層と、を備えている。
【0025】
また、上記課題を解決するために、本明細書で開示する光半導体装置の製造方法の一形態によれば、p型不純物及び深いドナー準位を形成し得る不純物が添加されたp型半導体層を形成する工程と、上記p型半導体層を有するメサ部を形成する工程と、深いアクセプタ準位を形成する不純物が添加されたIII−V族化合物半導体によって、上記メサ部の側面で上記p型半導体層と接して上記メサ部を埋め込む埋め込み層を形成する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0026】
上述した光半導体装置及びその製造方法の一形態によれば、埋め込み層に添加された深いアクセプタ準位を形成する不純物と、メサ部が有するp型半導体層に添加されたp型不純物との相互拡散が防止される。
【0027】
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるだろう。
【0028】
前述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、クレームされている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来の例による半導体レーザを示す断面図である。
【図2】本明細書に開示する光半導体装置の第1実施形態を示す断面図である。
【図3】第1実施形態の光半導体装置の製造方法における工程の要部を説明する図である。
【図4】第1実施形態の光半導体装置の製造方法を示す工程断面図(その1)である。
【図5】第1実施形態の光半導体装置の製造方法を示す工程断面図(その2)である。
【図6】第1実施形態の光半導体装置の製造方法を示す工程断面図(その3)である。
【図7】本明細書に開示する光半導体装置の第2実施形態を示す平面図である。
【図8】(A)は図7に示す光半導体装置のX−X線断面図であり、(B)は図7に示す光半導体装置のY−Y線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本明細書で開示する光半導体装置の好ましい第1実施形態を、図面を参照して説明する。但し、本発明の技術範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0031】
図1は、本明細書に開示する光半導体装置の第1実施形態を示す断面図である。
【0032】
本実施形態の光半導体装置10は、SIBH構造を有する半導体レーザである。光半導体装置10は、例えば、1.5μmの波長を有するレーザ光を発振する。
【0033】
図2に示すように、光半導体装置10は、p型不純物及び深いドナー準位を形成し得る不純物が添加されたp型半導体層であるp型クラッド層18を有するメサ部12を備えている。また、光半導体装置10は、メサ部12の側面でp型クラッド層18と接してメサ部12を埋め込む埋め込み層13を備えている。この埋め込み層13は、深いアクセプタ準位を形成する不純物が添加されたIII−V族化合物半導体により形成される。
【0034】
ここで、深いドナー準位を形成し得る不純物とは、ドーパント準位と半導体の伝導帯の下端との間のエネルギーギャップが大きく、光半導体装置10が使用される温度での熱エネルギーでは、伝導帯へ電子を熱励起することができないドナー準位を有するドーパント元素を意味する。
【0035】
この深いドナー準位を形成し得る不純物が、p型クラッド層18内に存在する状態としては、ドーパント元素が、格子サイトに置換された状態と、格子間サイトに配置されている状態とがある。格子サイトに置換された状態の深いドナー準位を形成し得るドーパント元素は、正孔を捕獲し得る状態にあり正孔を補償する状態であることから電気的に活性な状態と呼ぶ。一方、格子間サイトに配置されている状態のドーパント元素は、正孔を補償する状態でないことから電気的に不活性な状態にあると呼ぶ。
【0036】
この深いドナー準位を形成し得る不純物のドーパント準位は、伝導帯の下端から0.1eV以上離れていることが好ましい。
【0037】
また、深いアクセプタ準位を形成する不純物とは、ドーパント準位と半導体の価電子帯との間のエネルギーギャップが大きく、半導体装置10が使用される温度での熱エネルギーでは、価電子帯へ正孔を熱励起することができないアクセプタ準位を有するドーパント元素を意味する。
【0038】
この深いアクセプタ準位を形成する不純物のドーパント準位は、価電子帯から0.1eV以上離れていることが好ましい。
【0039】
次に、光半導体装置10が使用される温度での熱エネルギーkTの大きさを、具体例を用いて以下に説明する。ここで、kはボルツマン定数、Tはケルビン温度である。
【0040】
例えば、光半導体装置10が使用される温度が233ケルビン(−40℃)である場合には、この温度での熱エネルギーは、kT=3.22E−21J=20.07meVとなる。ここで、小数第3位を四捨五入している。以下の数値も同様である。光半導体装置10が使用される温度が室温の300ケルビン(27℃)である場合には、この温度での熱エネルギーは、kT=4.14E−21J=25.88meVとなる。また、光半導体装置10が使用される温度が373ケルビン(100℃)である場合には、この温度での熱エネルギーは、kT=5.15E−21J=32.17meVとなる。このように、光半導体装置10が使用される温度での熱エネルギーkTは、温度でいえば、例えば233ケルビン〜373ケルビンの範囲の大きさをとることができる。また、熱エネルギーkTは、eVでいえば、例えば20.07meV〜32.17meVの範囲の大きさをとることができる。
【0041】
また、光半導体装置10は、化合物半導体基板11を備えている。メサ部12及び埋め込み層13は、化合物半導体基板11上に配置されている。また、光半導体装置10は、化合物半導体基板11に接合するn側電極20と、メサ部12に接合するp側電極21とを備えている。
【0042】
メサ部12は、化合物半導体基板11上に形成されたn型半導体層であるn型クラッド層14と、n型クラッド層14上に形成された第1光ガイド層15と、第1光ガイド層15上に形成された多重量子井戸構造の活性層16と、を有している。また、メサ部12は、活性層16上に形成された第2光ガイド層17と、第2光ガイド層17上に形成されたp型半導体層であるp型クラッド層18と、p型クラッド層18上に形成されたコンタクト層19とを有している。
【0043】
メサ部12では、n側電極20とp側電極21との間に電流が流されると、活性層16内で光子の誘導放出が行われてレーザ光が発振される。
【0044】
図2に示すように、埋め込み層13は、n型クラッド層14と、第1光ガイド層15と、活性層16と、第2光ガイド層17と、p型クラッド層18と、コンタクト層19とを埋め込んでいる。具体的には、埋め込み層13は、n型クラッド層14の側面と、第1光ガイド層15の側面と、活性層16の側面と、第2光ガイド層17の側面と、p型クラッド層18の側面と、コンタクト層19の側面と接してメサ部12を埋め込んでいる。
【0045】
埋め込み層13は、半絶縁性半導体であり、高い抵抗率を有する。n側電極20及びp側電極21の間に流れる電流は、高い抵抗率を有する埋め込み層13に挟まれたメサ部12に集中して流れる。
【0046】
次に、上述した光半導体装置10の製造方法の一例(以下、本製造方法ともいう)を、図3〜図6を用いて以下に説明する。
【0047】
図3は、本製造方法における工程の要部を説明する図である。まず、この図3を参照して、本製造方法の概要を以下に説明する。
【0048】
まず、図3及び図4に示すように、n型クラッド層14が化合物半導体基板11上に形成される(工程301)。
【0049】
次に、図3及び図4に示すように、第1光ガイド層15がn型クラッド層14上に形成される(工程302)。
【0050】
次に、図3及び図4に示すように、活性層16が第1光ガイド層15上に形成される(工程303)。
【0051】
次に、図3及び図4に示すように、第2光ガイド層17が活性層16上に形成される(工程304)。
【0052】
次に、図3及び図4に示すように、p型不純物及び深いドナー準位を形成し得る不純物が添加されたp型クラッド層18が第2光ガイド層17上に形成される(工程305)。
【0053】
次に、図3及び図4に示すように、コンタクト層19がp型クラッド層18上に形成される(工程306)。
【0054】
次に、図3及び図5に示すように、p型クラッド層18を有するメサ部12が形成される(工程307)。
【0055】
次に、図3及び図6に示すように、深いアクセプタ準位を形成する不純物が添加されたIII−V族化合物半導体によって、メサ部12の側面でp型クラッド層18と接してメサ部12を埋め込む埋め込み層13が形成される(工程308)。
【0056】
そして、図2及び図3に示すように、n側電極及びp側電極が形成される(工程309)。
【0057】
以下、本製造方法について、更に詳述する。本製造方法では、各層は、有機金属化学気相成長(MOCVD)法を用いてエピタキシャルに形成される。また、各層の形成温度は、500〜700℃の範囲にすることが好ましい。
【0058】
まず、化合物半導体基板11を用意する。化合物半導体基板11としては、例えば、III−V族化合物半導体を用いることができる。本製造方法では、化合物半導体基板11として、(100)面を主面として有するIII−V族化合物半導体であるn型のInP基板を用いる。
【0059】
次に、図3及び図4に示すように、n型クラッド層14が化合物半導体基板11の(100)面上に形成される(工程301)。本製造方法では、n型クラッド層14としてn型InPを用い、厚さは0.3μmとした。
【0060】
次に、図3及び図4に示すように、第1光ガイド層15がn型クラッド層14上に形成される(工程302)。本製造方法では、第1光ガイド層15として、III−V族化合物半導体であるノンドープのInGaAsPを用いる。具体的には、第1光ガイド層15は、In0.85Ga0.15As0.330.67の組成比を有し、バンドギャップ波長は1.1μmとした。また、第1光ガイド層15の厚さは、30nmとした。
【0061】
次に、図3及び図4に示すように、活性層16が第1光ガイド層15上に形成される(工程303)。本製造方法では、活性層16は、多重量子井戸構造を有する。また、本製造方法では、活性層16として、III−V族化合物半導体であるノンドープのInGaAsPを用いる。具体的には、活性層16は多重量子井戸層であり、In0.78Ga0.22As0.480.52の組成比及び1.2μmのバンドギャップ波長を有し、且つ厚さが6nmであるバリア層と、In0.56Ga0.44As0.910.09の組成比及び1.55μmのバンドギャップ波長を有し、且つ厚さが5nmである量子井戸層とが、交互に4周期繰り返し積層されて形成される。活性層16は、波長1.5μmのレーザ光を発振する。なお、活性層16におけるバリア層と量子井戸層との積層回数は、必要に応じて適宜設定することが好ましい。
【0062】
また、活性層16を形成するIII−V族化合物半導体としては、上述したInGaAsPの他に、AlGaInAs、AlGaInP、InGaAs、InGaAsSb、GaInNAs等のIII−V族化合物半導体を用いても良い。
【0063】
次に、図3及び図4に示すように、第2光ガイド層17が活性層16上に形成される(工程304)。この第2光ガイド層17は、第1光ガイド層15と同様に形成される。
【0064】
次に、図3及び図4に示すように、p型不純物及び深いドナー準位を形成し得る不純物が添加されたp型クラッド層18が、第2光ガイド層17上に形成される(工程305)。
【0065】
p型クラッド層18は、例えば、III−V族化合物半導体を用いて形成できる。III−V族化合物半導体としては、InP、InAlAs、AlGaInAsおよびInGaAsP等を用いることができる。本製造方法では、p型クラッド層18は、InPによって形成される。また、p型クラッド層18の厚さは、1.5μmとした。
【0066】
また、p型クラッド層18には、p型不純物として、Zn、Cd、Be又はMgの内の少なくとも1つの元素が添加される。本製造方法では、p型不純物として、Znを用いる。MOCVD法を用いてp型クラッド層18を形成する際には、ドーパント原料として、例えばジエチル亜鉛を用いて、Znをp型クラッド層18に添加することができる。
【0067】
ここで、p型不純物は、p型クラッド層18を形成する半導体の格子サイトに置換されているドーパント元素であって、光半導体装置10が使用される温度での熱エネルギーにおいて、ドーパント準位の正孔が価電子帯に容易に熱励起することができるドーパント元素である。
【0068】
p型クラッド層18に添加されるp型不純物の濃度は、1×1018cm-3以上であることが好ましい。p型不純物の濃度が、1×1018cm-3以上であると、p型クラッド層18にp導電型を付与できると共に低い素子抵抗を得られ、光半導体装置10のアンクールド動作を可能にする。
【0069】
また、p型クラッド層18には、深いドナー準位を形成し得る不純物として、Ti、Cr又はNiの内の少なくとも1つの元素が添加される。Ti、Cr及びNi等の深いドナー準位を形成し得る不純物は、電気的な活性化率が低く、格子間サイトで安定し易い。従って、p型クラッド層18を形成する半導体の格子間サイトは、深いドナー準位を形成し得る不純物によって高濃度に充填することができる。
【0070】
本製造方法では、深いドナー準位を形成し得る不純物として、Tiを用いる。MOCVD法を用いてp型クラッド層18を形成する際には、ドーパント原料として、例えばテトラキスジメチルアミノチタニウム(TDMAT)を用いて、Tiをp型クラッド層18に添加することができる。
【0071】
このようにp型クラッド層18に添加された深いドナー準位を形成し得る不純物は、p型クラッド層18内の全体に分布する。
【0072】
p型クラッド層18における深いドナー準位を形成し得る不純物の濃度は、1×1017cm-3以上であることが好ましい。深いドナー準位を形成し得る不純物が、p型クラッド層18に上記の濃度以上に添加されると、p型クラッド層18を形成する半導体の格子間サイトに、深いドナー準位を形成し得る不純物を十分に配置させることができる。
【0073】
ここで、p型クラッド層18の格子間サイトに深いドナー準位を形成し得る不純物が十分に配置されている状態とは、深いアクセプタ準位を形成する不純物が添加された埋め込み層13が形成される際に、深いアクセプタ準位を形成する不純物が、埋め込み層13からp型クラッド層18に拡散することを防止できる状態をいう。
【0074】
このような観点から、深いドナー準位を形成し得る不純物が、1×1017cm-3以上の濃度でp型クラッド層18に添加されている場合でも、p型クラッド層18の格子サイトに置換されている深いドナー準位を形成し得る不純物の濃度は5×1016cm-3よりも低いことが、p型クラッド層18の格子間サイトに、深いドナー準位を形成し得る不純物が十分に配置される上で好ましい。
【0075】
また、深いドナー準位を形成し得る不純物の濃度は、5×1018cm-3以下であることが、p型クラッド層18の表面モホロジィを良好に保つ上で好ましい。
【0076】
深いドナー準位を形成し得る不純物としてCrを用いる場合には、Crの濃度は、1×1019cm-3まで添加しても、p型クラッド層18の表面モホロジィを良好に保つことができる。
【0077】
上述した深いドナー準位を形成し得る不純物がp型クラッド層18に添加されると、深いドナー準位にある電子が、p型クラッド層18に添加されるp型不純物が形成する正孔と結合し得る。しかし、以下に説明するように、深いドナー準位を形成し得る不純物が1×1017cm-3以上の濃度でp型クラッド層18に添加されても、p型クラッド層18のp導電型には影響を与えない。
【0078】
p型クラッド層18において、格子サイトに置換されている深いドナー準位を形成し得る不純物の濃度は、格子サイトに置換されているp型不純物の濃度と比べて非常に小さい。従って、深いドナー準位を形成し得る不純物のドーパント準位にある電子が、p型クラッド層18に添加されるp型不純物が形成する正孔と結合しても、p型クラッド層18の抵抗率及びp導電型には影響を与えない。
【0079】
例えば、深いドナー準位を形成し得る不純物であるTiが、p型クラッド層18に1×1018cm-3の濃度で添加される場合に、格子サイトに置換されるTiの濃度は5×1015cm-3程度である。従って、p型クラッド層18にp型不純物が1×1018cm-3の濃度で添加される場合、この内の5×1015cm-3程度の数の正孔が電子と結合しても、p型クラッド層18の抵抗率は0.1Ωcm程度の低い値であり且つp型クラッド層18はp導電型を有する。
【0080】
また、深いドナー準位を形成し得る不純物であるCrが、p型クラッド層18に1×1017cm-3の濃度で添加される場合に、格子サイトに置換されるCrの濃度は2×1016cm-3程度である。従って、p型クラッド層18にp型不純物が1×1018cm-3の濃度で添加される場合、この内の2×1016cm-3程度の数の正孔が電子と結合したとしても、p型クラッド層18の抵抗率は低い値であり、且つp導電型を有する。
【0081】
p型クラッド層18を形成する半導体に対するドーパント元素の取り込み率及び活性化率は、p型クラッド層18の面方位ごとに異なるので、深いドナー準位を形成し得る不純物の濃度を面方位ごとに調節することが好ましい。しかし、本製造方法では、以下に述べる理由によって、深いドナー準位を形成し得る不純物の濃度の調節が容易になっている。
【0082】
本製造方法によって形成される光半導体装置10では、図2に示すように、p型クラッド層18は平板上に形成されるので、埋め込み層13に露出する側面の面方位は1つである。従って、本製造方法では、平板上のp型クラッド層18が有する1つの面方位、例えば(100)面における取り込み率及び活性化率に対応して、深いドナー準位を形成し得る不純物及びp型不純物の濃度を1つ設定すればよい。
【0083】
また、上述したように、深いドナー準位を形成し得る不純物がp型クラッド層18の格子間サイトに十分に配置される濃度以上に、深いドナー準位を形成し得る不純物をp型クラッド層18に添加しておけば、深いドナー準位を形成し得る不純物の濃度に関しては、細かく管理しなくても良い。
【0084】
なお、本製造方法では、p型クラッド層18にはTiのみが添加されたが、p型クラッド層18には、Ti、Cr又はNiの内の複数の元素が添加されても良い。
【0085】
次に、図3及び図4に示すように、コンタクト層19がp型クラッド層18上に形成される(工程306)。コンタクト層19は、例えば、p型不純物が添加されたIII−V族化合物半導体を用いて形成できる。本製造方法では、コンタクト層19は、p型不純物が添加されたInGaAsによって形成される。また、コンタクト層19の厚さは0.3μmとした。
【0086】
次に、図5に示すように、ストライプ状のマスク22が、パターニングによってコンタクト層19の上に形成される。本製造方法では、マスク22はSiO2によって形成される。また、マスク22の幅は、2μmとした。
【0087】
そして、図5に示すように、このマスク22を用いて、コンタクト層19と、p型クラッド層18と、第2光ガイド層17と、活性層16と、第1光ガイド層15と、n型クラッド層14と、化合物半導体基板11の一部とがエッチングされる。
【0088】
このエッチング方法としては、例えば、RIE(Reactive Ion Etching)等のドライエッチングを用いることができる。
【0089】
このエッチングにより除去される深さは、適宜設定され得るが、本製造方法では、3μmとした。
【0090】
そして、図3及び図5に示すように、上述したエッチングによって、コンタクト層19と、p型クラッド層18と、第2光ガイド層17と、活性層16と、第1光ガイド層15と、n型クラッド層14と、を有するメサ部12が、化合物半導体基板11上に形成される(工程307)。
【0091】
次に、図3及び図6に示すように、メサ部12の側面でp型クラッド層18と接してメサ部12を埋め込む埋め込み層13が、化合物半導体基板11上に形成される(工程308)。埋め込み層13は、メサ部12の側面から露出したn型クラッド層14と、第1光ガイド層15と、活性層16と、第2光ガイド層17と、コンタクト層19とも接している。
【0092】
埋め込み層13は、深いアクセプタ準位を形成する不純物が添加されたIII−V族化合物半導体によって形成される。
【0093】
埋め込み層13を形成するIII−V族化合物半導体としては、例えば、InP、InAlAs、AlGaInAsおよびInGaAsP等を用いることができる。本製造方法では、埋め込み層13は、InPによって形成される。また、埋め込み層13の厚さは、メサ部12の高さと同じ3μmとする。
【0094】
埋め込み層13には、深いアクセプタ準位を形成する不純物として、Fe又はRuの内の少なくとも1つの元素が添加される。ノンドープのInPは、弱いn導電型を有するので、深いアクセプタ準位を形成する不純物を添加することによって、このn導電型が補償され、埋め込み層13は高い抵抗率を示すようになる。
【0095】
埋め込み層13における深いアクセプタ準位を形成する不純物の濃度は、埋め込み層13を形成するIII−V族化合物半導体が、n型クラッド層14の電子に対して電流狭窄構造となるように半絶縁性の高い抵抗率を示す量とすることが好ましい。本製造方法では、深いアクセプタ準位を形成する不純物であるFeが、6×1016cm-3の濃度で埋め込み層13に添加される。
【0096】
また、深いアクセプタ準位を形成する不純物として、Feを用いる場合には、Feの濃度を7×1017cm-3以下にすることが、埋め込み層13を形成する結晶の表面モホロジィを良好に保つ上で好ましい。
【0097】
埋め込み層13を化合物半導体基板11上に形成する際に、埋め込み層13に添加される深いアクセプタ準位を形成する不純物は、p型クラッド層18に添加されているp型不純物と相互拡散しようとする。
【0098】
しかし、p型クラッド層18では、深いドナー準位を形成し得る不純物がp型クラッド層18の格子間サイトに十分に配置されているので、埋め込み層13に添加される深いアクセプタ準位を形成する不純物が、p型クラッド層18の格子間サイトに移動することができない。
【0099】
これは、p型クラッド層18では、深いアクセプタ準位を形成する不純物が移動し得る格子間サイトがないか又はほとんどない状態にあるためである。
【0100】
深いアクセプタ準位を形成する不純物のp型クラッド層18における安定な位置が格子サイトであったとしても、深いアクセプタ準位を形成する不純物が、埋め込み層13からp型クラッド層18に移動する際には、まず格子間サイトに移動した後に、格子サイトの原子と置換されると考えられる。
【0101】
従って、p型クラッド層18において、深いアクセプタ準位を形成する不純物が移動し得る格子間サイトがないか又はほとんどない状態にあるので、深いアクセプタ準位を形成する不純物は、p型クラッド層18内に移動することができない。
【0102】
このように、埋め込み層13からp型クラッド層18への深いアクセプタ準位を形成する不純物の拡散は、ほとんどないかか又は全くない。
【0103】
もし、深いアクセプタ準位を形成する不純物がp型クラッド層18に移動すると、格子サイト(p型クラッド層がIII−V化合物半導体によって形成される場合には、III族サイト)に置換されているp型不純物の中には、深いアクセプタ準位を形成する不純物と置換されて、格子間サイトに押し出されるものがある。
【0104】
そして、格子間サイトに押し出されたp型不純物は、安定していないので、埋め込み層13又は活性層16に移動するものがある。
【0105】
しかし、本製造方法では、深いアクセプタ準位を形成する不純物がp型クラッド層18にほとんどか又は全く移動して来ないので、p型不純物が、格子間サイトに押し出されることがない。そのため、p型クラッド層18に添加されるp型不純物は、格子サイトから、格子間サイトに押し出される現象が生じがたい。
【0106】
従って、p型クラッド層18では、移動し易い格子間サイトのp型不純物が、ほとんどか又は全く存在しないので、p型不純物が、p型クラッド層18から埋め込み層13又は活性層15へ移動することが防止される。
【0107】
また、埋め込み層13には、Ti、Cr又はNi等の深いドナー準位を形成し得る不純物が添加されていても良い。埋め込み層13が形成される際には、量としては多くはないが、p型クラッド層18から埋め込み層13にp型不純物が若干拡散してくる場合がある。これらの深いドナー準位を形成し得る不純物は、埋め込み層13においてp型不純物が形成する正孔を捕獲して、埋め込み層13の抵抗率が低下することを防止する。
【0108】
そして、マスク22がメサ部12の上から除去される。
【0109】
次に、図2及び図3に示すように、n側電極20が、化合物半導体基板11の下側を覆うように形成され、p側電極21が、コンタクト層19及び埋め込み層13を覆うように形成される(工程309)。
【0110】
そして、個々の光半導体装置にへき開分離して、図2に示す半導体レーザである光半導体装置10が得られる。
【0111】
上述した本実施形態の光半導体装置10及びその製造方法によれば、埋め込み層13に添加された深いアクセプタ準位を形成する不純物と、メサ部12が有するp型クラッド層18に添加されたp型不純物との相互拡散が防止される。
【0112】
また、埋め込み層13へのp型不純物の拡散が防止されるので、埋め込み層13の半絶縁性の高い抵抗率が維持されるため、活性層16を迂回して埋め込み層13中を流れるリーク電流の発生を抑制することができる。
【0113】
更に、活性層16へのp型不純物の拡散が防止されるので、活性層16のノンドープの状態が維持されるため、レーザの発振効率等の光半導体装置10の性能が劣化することが防止される。
【0114】
このようにして、光半導体装置10は、発振しきい値電流の増加、又は微分量子効率の低減、又は温度特性の劣化等が防止される。従って、光半導体装置10は、発振効率が良く、設計通りのレーザ特性が発揮される。
【0115】
本発明では、上述した実施形態の光半導体装置及びその製造方法は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。
【0116】
例えば、上述した実施形態及びその製造方法では、光半導体装置が半導体レーザである場合を例にして説明されたが、光半導体装置は、光変調器、光増幅器、光合波器、導波路、曲がり導波路、又はこれらを集積した装置であっても良い。
【0117】
次に、本明細書に開示する第2実施形態の光半導体装置を、図面を参照しながら以下に説明する。第2実施形態について特に説明しない点については、上述の第1実施形態に関して詳述した説明が適宜適用される。また、図7及び図8において、図2〜図6と同じ構成要素に同じ符号を付してある。
【0118】
図7は、本明細書に開示する光半導体装置の第2実施形態を示す平面図である。図8(A)は図7に示す光半導体装置のX−X線断面図であり、図8(B)は図7に示す光半導体装置のY−Y線断面図である。
【0119】
図7に示すように、本実施形態の光半導体装置30は、半導体レーザ部40と、電界吸収型光変調部50とを有する。また、図8(A)及び図8(B)に示すように、光半導体装置30は化合物半導体基板31を備えており、半導体レーザ部40及び電界吸収型光変調部50は、一つの化合物半導体基板31の上に一体に形成される。
【0120】
光半導体装置30では、レーザ光を半導体レーザ部40で発振し、このレーザ光を電界吸収型光変調部50で変調して、外部に出力する。
【0121】
図8(A)に示すように、半導体レーザ部40は、p型不純物及び深いドナー準位を形成し得る不純物が添加されたp型半導体層であるp型クラッド層48を有するメサ部42を備えている。また、半導体レーザ部40は、メサ部42の側面のp型クラッド層48と接してメサ部42を埋め込む埋め込み層33を備えている。この埋め込み層33は、深いアクセプタ準位を形成する不純物が添加されたIII−V族化合物半導体により形成される。
【0122】
半導体レーザ部40では、メサ部42及び埋め込み層33は、化合物半導体基板31上に配置されている。また、半導体レーザ部40は、化合物半導体基板31に接合するn側電極60と、メサ部42に接合するp側電極61とを備えている。
【0123】
また、半導体レーザ部40では、メサ部42は、化合物半導体基板31上に形成されたn型半導体層であるn型クラッド層44と、n型クラッド層44上に形成された第1光ガイド層45と、第1光ガイド層45上に形成された多重量子井戸構造の活性層46と、を有している。また、メサ部42は、活性層46上に形成された第2光ガイド層47と、第2光ガイド層47上に形成されたp型半導体層であるp型クラッド層48と、p型クラッド層48上に形成されたコンタクト層49とを有している。
【0124】
図8(B)に示すように、電界吸収型光変調部50は、p型不純物及び深いドナー準位を形成し得る不純物が添加されたp型半導体層であるp型クラッド層58を有するメサ部52を備えている。また、電界吸収型光変調部50は、メサ部52の側面から露出したp型クラッド層58と接してメサ部52を埋め込む埋め込み層33を備えている。この埋め込み層33は、半導体レーザ部40のメサ部42を埋め込む埋め込み層と同じものである。
【0125】
電界吸収型光変調部50では、メサ部52は、化合物半導体基板31上に配置されている。また、電界吸収型光変調部50は、化合物半導体基板31に接合するn側電極62と、メサ部52に接合するp側電極63とを備えている。
【0126】
また、電界吸収型光変調部50では、メサ部52は、化合物半導体基板31上に形成されたn型半導体層であるn型クラッド層54と、n型クラッド層54上に形成された第1光ガイド層55と、第1光ガイド層55上に形成された多重量子井戸構造の光吸収層56と、を有している。また、メサ部52は、光吸収層56上に形成された第2光ガイド層57と、第2光ガイド層57上に形成されたp型半導体層であるp型クラッド層58と、p型クラッド層58上に形成されたコンタクト層59とを有している。
【0127】
光半導体装置30は、半導体レーザ部40の活性層46及び電界吸収型光変調部50の光吸収層56が別々に形成される点を除いて、上述した第1実施形態の光半導体装置と同様に製造することができる。
【0128】
半導体レーザ部40の活性層46の多重量子井戸構造は、発振させたいレーザ光特性に応じて適宜設計される。活性層46の多重量子井戸構造は、例えば、第1実施形態の光半導体装置の活性層と同様に形成されても良い。
【0129】
電界吸収型光変調部50の光吸収層56の多重量子井戸構造は、半導体レーザ部40が発振したレーザ光に対する所望の変調特性に応じて適宜設計される。
【0130】
上述した本実施形態の光半導体装置30によれば、埋め込み層33に添加された深いアクセプタ準位を形成する不純物と、メサ部42が有するp型クラッド層48及びメサ部52が有するp型クラッド層58に添加されたp型不純物との相互拡散が防止される。
【0131】
従って、半導体レーザ部40は設計通りのレーザ特性が発揮され、電界吸収型光変調部50は設計通りの変調特性が発揮される。
【0132】
本発明では、上述した実施形態の光半導体装置は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。
【0133】
例えば、光半導体装置30では、半導体レーザ部40及び電界吸収型光変調部50の2つの装置を有しているが、光半導体装置は3つ以上の装置を有していても良い。
【0134】
ここで述べられた全ての例及び条件付きの言葉は、読者が、発明者によって寄与された発明及び概念を技術を深めて理解することを助けるための教育的な目的を意図する。ここで述べられた全ての例及び条件付きの言葉は、そのような具体的に述べられた例及び条件に限定されることなく解釈されるべきである。また、明細書のそのような例示の機構は、本発明の優越性及び劣等性を示すこととは関係しない。本発明の実施形態は詳細に説明されているが、その様々な変更、置き換え又は修正が本発明の精神及び範囲を逸脱しない限り行われ得ることが理解されるべきである。
【0135】
以上の上述した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0136】
(付記1)
p型不純物及び深いドナー準位を形成し得る不純物が添加されたp型半導体層を有するメサ部と、
深いアクセプタ準位を形成する不純物が添加されたIII−V族化合物半導体により形成され、前記メサ部の側面で前記p型半導体層と接して前記メサ部を埋め込む埋め込み層と、
を備えている光半導体装置。
【0137】
(付記2)
前記深いドナー準位を形成し得る不純物として、Ti、Cr又はNiの内の少なくとも1つの元素が前記p型半導体層に添加されている付記1に記載の光半導体装置。
【0138】
(付記3)
前記深いドナー準位を形成し得る不純物の濃度は、1×1017cm-3以上である付記1又は2に記載の光半導体装置。
【0139】
(付記4)
前記深いドナー準位を形成し得る不純物の濃度は、5×1018cm-3以下である付記3に記載の光半導体装置。
【0140】
(付記5)
前記p型半導体層の格子位置に置換されている前記深いドナー準位を形成し得る不純物の濃度は、5×1016cm-3よりも低い付記3又は4に記載の光半導体装置。
【0141】
(付記6)
前記p型不純物として、Zn、Cd、Be又はMgの内の少なくとも1つの元素が前記p型半導体層に添加されている付記1から5の何れか一項に記載の光半導体装置。
【0142】
(付記7)
前記深いアクセプタ準位を形成する不純物として、Fe又はRuの内の少なくとも1つの元素が前記埋め込み層に添加されている付記1から6の何れか一項に記載の光半導体装置。
【0143】
(付記8)
前記p型不純物の濃度は、1×1018cm-3以上である付記1から7の何れか一項に記載の光半導体装置。
【0144】
(付記9)
半導体基板を備え、
前記メサ部及び前記埋め込み層は、前記半導体基板上に配置されており、
前記メサ部は、
前記半導体基板上に形成されたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成された第1光ガイド層と、
前記第1光ガイド層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された第2光ガイド層と、
前記第2光ガイド層上に形成された前記p型半導体層と、
を有しており、
前記埋め込み層は、
前記活性層と、前記p型半導体層と、前記n型半導体層とを埋め込んでいる、付記1から8の何れか一項に記載の光半導体装置。
【0145】
(付記10)
前記III−V族化合物半導体はInPである付記1から9の何れか一項に記載の光半導体装置。
【0146】
(付記11)
p型不純物、及びTi、Cr又はNiの内の少なくとも1つの元素が添加されたp型半導体層を有するメサ部と、
Fe又はRuの内の少なくとも1つの元素が添加されたIII−V族化合物半導体により形成され、前記メサ部の側面で前記p型半導体層と接して前記メサ部を埋め込む埋め込み層と、
を備える光半導体装置。
【0147】
(付記12)
p型不純物及び深いドナー準位を形成し得る不純物が添加されたp型半導体層を形成する工程と、
前記p型半導体層を有するメサ部を形成する工程と、
深いアクセプタ準位を形成する不純物が添加されたIII−V族化合物半導体によって、前記メサ部の側面で前記p型半導体層と接して前記メサ部を埋め込む埋め込み層を形成する工程と、
を備える光半導体装置の製造方法。
【0148】
(付記13)
前記p型半導体層を形成する工程では、前記深いドナー準位を形成し得る不純物として、Ti、Cr又はNiの内の少なくとも1つの元素を前記p型半導体層に添加する付記12に記載の光半導体装置の製造方法。
【0149】
(付記14)
前記p型半導体層を形成する工程では、前記深いドナー準位を形成し得る不純物を、5×1017cm-3以上の濃度で前記p型半導体層に添加する付記12又は13に記載の光半導体装置の製造方法。
【0150】
(付記15)
前記埋め込み層を形成する工程では、前記深いアクセプタ準位を形成する不純物として、Feを前記埋め込み層に添加する付記12から14の何れか一項に記載の光半導体装置の製造方法。
【符号の説明】
【0151】
10、30 光半導体装置
11 化合物半導体基板
12、42,52 メサ部
13、33 埋め込み層
14、44,54 n型クラッド層(n型半導体層)
15、45、55 第1光ガイド層
16、46 活性層
17、47、57 第2光ガイド層
18、48、58 p型クラッド層(p型半導体層)
19、49、59 コンタクト層
20、60、62 n側電極
21、61、63 p側電極
22 マスク
56 光吸収層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型不純物及び深いドナー準位を形成し得る不純物が添加されたp型半導体層を有するメサ部と、
深いアクセプタ準位を形成する不純物が添加されたIII−V族化合物半導体により形成され、前記メサ部の側面で前記p型半導体層と接して前記メサ部を埋め込む埋め込み層と、
を備えている光半導体装置。
【請求項2】
前記深いドナー準位を形成し得る不純物として、Ti、Cr又はNiの内の少なくとも1つの元素が前記p型半導体層に添加されている請求項1に記載の光半導体装置。
【請求項3】
前記深いドナー準位を形成し得る不純物の濃度は、1×1017cm-3以上である請求項1又は2に記載の光半導体装置。
【請求項4】
前記p型不純物として、Zn、Cd、Be又はMgの内の少なくとも1つの元素が前記p型半導体層に添加されている請求項1から3の何れか一項に記載の光半導体装置。
【請求項5】
前記深いアクセプタ準位を形成する不純物として、Fe又はRuの内の少なくとも1つの元素が前記埋め込み層に添加されている請求項1から4の何れか一項に記載の光半導体装置。
【請求項6】
p型不純物、及びTi、Cr又はNiの内の少なくとも1つの元素が添加されたp型半導体層を有するメサ部と、
Fe又はRuの内の少なくとも1つの元素が添加されたIII−V族化合物半導体により形成され、前記メサ部の側面で前記p型半導体層と接して前記メサ部を埋め込む埋め込み層と、
を備える光半導体装置。
【請求項7】
p型不純物及び深いドナー準位を形成し得る不純物が添加されたp型半導体層を形成する工程と、
前記p型半導体層を有するメサ部を形成する工程と、
深いアクセプタ準位を形成する不純物が添加されたIII−V族化合物半導体によって、前記メサ部の側面で前記p型半導体層と接して前記メサ部を埋め込む埋め込み層を形成する工程と、
を備える光半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−283234(P2010−283234A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136556(P2009−136556)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】