説明

光可変フィルタアレイ装置

【課題】複数チャンネルのWDM光から所望のチャンネルの所望の波長を選択することができる光可変フィルタアレイ装置を提供すること。
【解決手段】光ファイバ11−1〜11−mからの波長λ1〜λnから成るmチャンネルのWDM信号光を波長分散素子17に入射する。波長分散素子17は入射光をその波長に応じて異なった方向に分散させレンズ18に加える。レンズ18では光の各チャンネルの光を帯状に平行とすることによりチャンネルと波長に応じてxy平面に展開する。波長選択素子19は格子状に形成された画素構造であり、選択すべき各チャンネルと波長に応じた位置の画素を反射状態とする。波長選択素子19で反射した光は同一の経路を介して光ファイバ15−1〜15−mより出射される。波長選択素子19の反射特性を各画素毎に変化させることによって、光フィルタの特性を変化させ、任意のWDM光の任意の波長を選択することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はWDM信号を選択するのに適した光可変フィルタアレイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在WDM通信のROADM(Reconfigurable Optical Add Drop−multiplexing)ノードではアド・ドロップ機能のカラーレス化、即ち任意の周波数の光信号を分離したり加えたりできる機能を有することが求められている。カラーレス化の方法として入力WDM信号から複数の入力信号を選択する波長可変フィルタアレイ(TFA)を使用する構成が知られている。従来の波長可変フィルタアレイ構成として、特許文献1及び2では液晶素子の電界効果によるキャビティ長変化を利用した光可変フィルタが提案されている。又特許文献3,4にはMEMSの機械的変化によってキャビティ長を変化させ、選択波長を変化させる波長可変フィルタが提案されている。
【0003】
又特許文献5には、導波路の熱光学効果(TO効果)を用いて導波路上に多数のフィルタを集積するものが提案されている。
【0004】
更に非特許文献1には回折格子とMEMSとを組み合わせたチューナブルフィルタも報告されている。この場合MEMSと入出力光ファイバをアレイ化することでTFAとして利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−23891号公報
【特許文献2】特開平5−196910号公報
【特許文献3】特開2000−28931号公報
【特許文献4】US 6,449,410
【特許文献5】US 2009/0263142 A1
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Berger. F. Ilkov, D. King, A. Tselikov and D. Anthon, OFC2003, TuN2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
WDM変調信号はスペクトル成分が周波数軸上に広がりを有しているため、フィルタ形状としては信号スペクトル成分を包含しつつ隣接チャンネルのクロストークが高いフラットトップ型のスペクトル波形が望ましい。しかしファブリペロー干渉系のフィルタ形状はローレンツ型であるため、選択した波長のピークが狭くなりすぎて、WDM信号の特定波長を選択するフィルタとしては不向きであった。又特許文献5のフィルタではTO効果を用いているため、アレー化のために消費電力が増加するという問題点があった。更に非特許文献1においてはフィルタ形状はガウシアン波形状であり、特許文献1〜4と同様にWDM信号のフィルタとして適していないという問題点があった。
【0008】
本発明はこのような従来の欠点に鑑みてなされたものであって、複数のチャンネルのWDM信号を入力とし、任意のチャンネルについて任意の波長を選択することができる光可変フィルタアレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明の光可変フィルタアレイ装置は、y軸にそって配列され、夫々が多数の波長の光から成る第1〜第mチャンネルのWDM信号光を入射し、各チャンネルについて選択された波長の光信号を出射する複数のチャンネル分の入出射部と、前記各チャンネルのWDM信号光をその波長に応じて空間的に分散させる波長分散素子と、前記波長分散素子によって分散した各チャンネルのWDM光を波長選択素子平面上に集光する集光素子と、波長に応じてx軸方向に配列され、更にmチャンネル分のWDM光が夫々y軸の異なった位置に配列されてxy平面に展開された入射光を受光する位置に配置され、xy平面に格子状に配列された多数の画素を有し、2次元の各画素の反射特性を切換えることにより任意のチャンネルのWDM信号について任意の波長帯の光を選択する波長選択素子と、前記波長選択素子のxy方向に配列された各画素の電極を駆動することによってx軸及びy軸方向の所定の位置の画素の光反射特性を制御する波長選択素子駆動部と、を具備するものである。
【0010】
この課題を解決するために、本発明の光可変フィルタアレイ装置は、y軸にそって配列され、多数の波長の光から成る第1〜第mチャンネルのWDM信号光を入射する入射部と、前記各チャンネルのWDM信号光をその波長に応じて空間的に分散させる第1の分散素子と、前記第1の分散素子によって分散した各チャンネルのWDM光を波長選択素子平面上に集光する第1の集光素子と、波長に応じてx軸方向に配列され、更にmチャンネル分のWDM光が夫々y軸の異なった位置に配列されてxy平面に展開された入射光を受光する位置に配置され、xy平面に格子状に配列された多数の画素を有し、2次元の各画素の透過特性を切換えることにより任意のチャンネルのWDM信号について任意の波長帯の光を選択する波長選択素子と、前記波長選択素子のxy方向に配列された電極を駆動することによってx軸及びy軸方向の所定の位置の画素の光透過特性を制御する波長選択素子駆動部と、前記波長選択素子を透過した各波長の光を集光する第2の集光素子と、前記第2の集光素子によって集光された分散光を合成する第2の波長分散素子と、各チャンネルについて選択された波長のWDM信号を出射する複数のチャンネル分の出射部と、を具備するものである。
【0011】
ここで前記波長選択素子は、2次元の液晶素子であり、前記波長選択素子は選択すべきチャンネルの波長に応じて各画素に印加する電圧を制御するようにしてもよい。
【0012】
ここで前記波長選択素子は、2次元に配列された多数の画素を有するMEMSアレイとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上詳細に説明したように本発明によれば、波長選択素子の反射特性や透過特性を種々変更することによって、多数チャンネルのWDM信号の夫々について任意の波長の光を選択することができる。又各波長帯について複数の画素を有する波長選択素子を用いれば、波長選択特性を自由に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(a)は本発明の第1の実施の形態による反射型の光可変フィルタアレイのx軸方向から見た光学的な配置、図1(b)はそのy軸方向からの光学的な配置を示す図である。
【図2】図2(a)は本発明の第2の実施の形態による反射型の光可変フィルタのx軸方向から見た光学的な配置、図2(b)はそのy軸方向からの光学的な配置を示す図である。
【図3】図3は本発明の第1,第2の実施の形態による光可変フィルタアレイ装置に用いられるLCOS素子を示す図である。
【図4A】図4Aは本発明の第1,第2の実施の形態に用いられるLCOS素子の変調方式の一例を示す図である。
【図4B】図4Bは本発明の第1,第2の実施の形態に用いられるLCOS素子の変調方式の他の例を示す図である。
【図5】図5はLCOS素子の駆動状態を示す図である。
【図6】図6はLCOS素子の駆動状態に対応するフィルタの選択特性を示す図である。
【図7】図7は本発明の第1,第2の実施の形態による2D電極アレイの一例を示す図である。
【図8】図8は本発明の第1,第2の実施の形態によるMEMS素子の一例を示す図である。
【図9】図9は本実施の形態によるMEMS素子の1画素を示す図である。
【図10】図10(a)は本発明の第3の実施の形態による透過型の光可変フィルタのx軸方向から見た光学的な配置、図10(b)はそのy軸方向からの光学的な配置を示す図である。
【図11A】図11Aは本発明の第3の実施の形態に用いられるLCOS素子の変調方式の一例を示す図である。
【図11B】図11Bは本発明の第3の実施の形態に用いられるLCOS素子の変調方式の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施の形態)
図1(a)は本発明の第1の実施の形態による反射型の光可変フィルタアレイ装置の光学素子の構成を示すx軸方向から見た側面図、図1(b)はそのy軸方向から見た側面図である。入射光はmチャンネル分のWDM信号光であり、各チャンネルのWDM光は夫々波長λ1〜λnの光信号が多重化されたものである。第1〜第mチャンネルのWDM光は夫々光ファイバ11−1〜11−mを介してサーキュレータ12−1〜12−mに与えられる。入射光は光ファイバ11−1〜11−mを介してサーキュレータ12−1〜12−mに入力してもよく、又直接入力してもよい。サーキュレータ12−1〜12−mは入射光を光ファイバ13−1〜13−mを介してコリメートレンズ14−1〜14−mに出射すると共に、光ファイバ13−1〜13−mから入射された光を光ファイバ15−1〜15−mに出射するものである。又光ファイバ13−1〜13−mを介してコリメートレンズ14−1〜14−mから出射された光はz軸方向に互いに平行であり、全チャンネルのWDM光はレンズ16によって焦点の位置で一点に集光され、集光された位置に配置された波長分散素子17に入射される。波長分散素子17は光を波長に応じてx軸方向の異なった方向に分散するものである。ここで波長分散素子17としては、透過型又は反射型の回折格子であってもよく、又プリズム等を用いてもよい。又回折格子とプリズムを組み合わせた構成でもよい。こうして波長分散素子17で分散された光は集光素子であるレンズ18に与えられる。レンズ18はxz平面上で分散した光をz軸方向に平行に集光する集光素子であって、集光した光は波長選択素子19に垂直に入射される。
【0016】
尚ここでは図1(b)に最短波長λ1及び最長波長λnの光を例示しているが、入射光は波長λ1〜λnまでの間で多数のスペクトルを有するWDM信号光であるので、xz平面に沿って展開されたmチャンネル分のWDM信号光が帯状に波長選択素子19に加わる。波長選択素子19は入射光を選択的に反射するものであり、その反射特性に応じて光フィルタの選択特性が決定されるが、詳細については後述する。波長選択素子19によって反射された光は、同一の経路を通ってレンズ18に加わり、再び波長分散素子17に加わる。波長分散素子17は反射光に対しては元の入射光と同一方向に集束し、集束した光をレンズ16に入射する。レンズ16は入射光と同一の経路で光をz軸に平行な光に変換し、コリメートレンズ14−1〜14−mを介して光ファイバ13−1〜13−mに出射する。この光はサーキュレータ12−1〜12−mによって光ファイバ15―1〜15−mに出射される。ここで光ファイバ11−1〜11−m,13−1〜13−m,15―1〜15−mとサーキュレータ12−1〜12−m、コリメートレンズ14−1〜14−m、およびレンズ16は、mチャンネルのWDM信号光を入射し、選択された光を出射する入出射部を構成している。尚サーキュレータ12−1〜12−mはファイバ型である必要はなく、空間型を用いる場合は光ファイバ13−1〜13−mは不要である。
【0017】
(第2の実施の形態)
次に本発明の第2の実施の形態による反射型の光可変フィルタアレイ装置について説明する。図2(a)は本発明の第2の実施の形態による光可変フィルタアレイ装置の光学素子の構成を示すx軸方向から見た側面図、図2(b)はそのy軸方向から見た側面図であり、第1の実施の形態と同一部分は同一符号を付している。この実施の形態では、光ファイバ11−1〜11−mの出射した光をコリメータ20−1〜20−mを介してレンズ16に入力している。又波長分散素子17は図2(b)に示すようにz軸方向で入射光と出射光との位置を異ならせ、レンズ18を介して波長選択素子19に入射するようにしたものである。出射側には光ファイバ11−1〜11−mと並行して光ファイバ15−1〜15−mが設けられ、同様にコリメータ20−1〜20−mと並行してコリメータ21−1〜21−mが設けられている。波長選択素子19は図2(b)に示すようにx軸方向からわずかに傾けて設けられ、これによってサーキュレータ12−1〜12−mを用いることなく入射光と出射光を分離するようにしている。
【0018】
(波長選択素子の構成)
次にここで第1,第2の実施の形態による反射型光可変フィルタアレイ装置に用いられる波長選択素子19について説明する。波長選択素子19は図3に示すようにマトリックス状に配置された2次元のK×Lドットの画素構造の素子である。又波長選択素子19は設定部22がドライバ23を介して接続されている。設定部22はxy平面の光を反射する画素を選択チャンネルの選択波長に合わせて決定するものである。設定部22とドライバ23は波長選択素子のxy方向に配列された各画素の電極を駆動することによってx軸及びy軸方向の所定の位置の画素の光反射特性を制御する波長選択素子駆動部を構成している。
【0019】
ここで第1及び第2の実施の形態において、第1〜第mチャンネルのWDM光をチャンネルによってy軸方向に分散させると共に、波長によってx軸方向に分散させ、m本の平行な帯状の光として波長選択素子19に入射したとき、第1〜第mチャンネルの入射領域R1〜Rmは図3に示す長方形状の領域であるとする。即ち入射領域R1〜Rmに加わる光は夫々第1〜第mチャンネルのWDM光をチャンネルi(i=1〜m)と波長帯λj(j=1〜n)に応じてxy平面に展開した光である。そして第1,第2の実施の形態の光可変フィルタアレイ装置では、反射させる画素を選択することによって、任意の波長の光を選択することができる。次に波長選択素子19の詳細な構成について説明する。
【0020】
波長選択素子19としてはLCOS(Liquid Crystal On Silicon)の液晶素子を用いて実現することができる。LCOS素子19Aは各画素の背面に液晶変調ドライバを内蔵しているため、画素数を多くすることができ、例えば1000×1000の多数の格子状の画素から構成することができる。LCOS素子19Aでは各チャンネル毎及び波長毎に異なる位置に各光ビームが入射するので、その位置の画素を反射状態とすればその光信号を選択することができる。
【0021】
ここでLCOS素子19Aにおける変調方式の1つである位相変調方式について説明する。図4AはLCOS素子19Aを示す概略図であり、光が入射する面からz軸に沿って透明電極31,液晶32及び背面反射電極33を積層して構成されている。LCOS素子19Aは1つのチャンネルの1つの波長帯を複数の画素で構成するため、複数画素について屈折率の凹凸を形成し、回折現象を発現することができる。従って透明電極31と背面反射電極33との間に電圧を印加することによって各周波数成分の回折角を独立に制御し、特定波長の入力光をそのまま入射方向に反射させたり、他の波長成分の光を不要な光として回折させ、入射方向とは異なった方向に光を反射させることができる。このため各画素に印加する電圧を制御することによって、必要な画素を回折させずに正反射状態とすることができる。
【0022】
次にLCOS素子19Aの他の変調方式である強度変調方式について説明する。図4Bは強度変調方式による波長選択方法を示す図であり、入出射光の入射する面には偏光子34を配置する。偏光子34は入射光を図中○で示す特定の偏光状態にして反射型のLCOS素子19Aに入射する。この場合にもLCOS素子19Aは透明電極31,液晶32及び背面反射電極33によって構成される。LCOS素子19Aに光を入射すると、電圧の印加状態によって電極間の液晶の複屈折率差を制御することができる。従って印加する電圧の偏光状態を独立に制御することにより反射光の偏光状態を異ならせることができる。ここで液晶分子の配向成分によって電圧を制御したときに偏光面が回転するか保持されるかが決定される。例えば電圧を印加しない場合に偏光面が保持されるとすると、図中○状態で示す光がそのまま反射することとなる。一方電圧を印加すれば偏光面が回転して反射するため、反射光は偏光子34によって遮蔽される。従って画素に加える電圧を制御して入射光を選択することができる。ここで任意数の画素を反射状態とすれば任意の複数のWDM信号光の、任意の複数の波長帯を選択することができる。
【0023】
第1、第2の実施の形態では夫々がλ1〜λnのnの波長帯を有するmチャンネルのWDM信号に対して例えば3m×3nの画素を有するLCOS素子19Aを用いるものとする。そうすれば特定のチャンネルのWDM信号の特定波長、例えば図5(a)に示すようにiチャンネルのWDM光のλjの波長帯の信号を選択する場合には、3i〜3i+2,3j〜3j+2の9ドットの画素を正反射状態とすることによってそのチャンネルのその波長を選択することができる。図5(a)では反射状態とする画素を黒く示している。ここでLCOS素子19Aの反射状態とした画素に光が入射すると、入射光はそのまま反射されて出力側に得られる。又選択されていない画素に入射した波長の光は回折又は遮蔽されるため、光ファイバ15−1〜15−mには戻らない。このように特定の波長帯に対応する9画素を選択する場合には、図6(a)に示すようにフィルタ形状として信号スペクトル成分を包含しつつ隣接チャンネルのクロストークが高いフラットトップ型のスペクトル波形を得ることができる。
【0024】
更にLCOS素子19Aにおいてもオンオフさせる画素数を制御することによってフィルタの形状も任意に設定することができる。即ち図5(a)においてそのチャンネルの特定波長帯の3×3の画素のうち一つの画素を選択すれば低いレベルとすることができる。又波長選択素子19のiチャンネルの波長λj帯を選択する9画素のうち一部を選択すれば任意の波長とすることができる。こうすれば光が波長選択素子19に入射すると、反射領域の幅に対応したパスバンドの幅が得られる。即ち図5(b)に示すようにiチャンネルの波長λj帯を選択する9画素のうち中央の3画素を反射状態とすれば、図6(b)に示すようにλj帯の中心部分の波長を選択する幅が狭い選択特性が得られる。
【0025】
又図5(c)に示すようにこれに隣接する中央の画素も同時に反射状態とすれば、図6(c)に示すようにパスバンドの幅を少し広くし、ガウシアン状に近い選択特性とすることができる。
【0026】
更に図5(d)に示すように、波長λjの9画素に加えて隣接する画素の一部も反射状態とすれば、図6(d)に示すようにパスバンドの幅をより広くすることができる。
【0027】
又各LCOS素子19Aの画素は印加する電圧レベルを制御することによって透過率を連続的に変化させることができる。従って電圧を印加する画素とそのレベルを制御することによって種々のフィルタ特性を得ることができる。
【0028】
尚第1,第2の実施の形態ではWDM信号の1つのチャンネルの各波長帯について3×3画素を対応させるようにしているが、更に多数の画素を対応させたり、夫々の画素について電圧レベルを制御すれば、より精密なフィルタ特性の制御が可能となる。
【0029】
またこの波長選択素子19として、LCOS構造ではない2D電極アレイを有する液晶素子19Bを用いることができる。LCOS素子の場合には画素の背面に液晶ドライバが内蔵されているが、2D電極アレイ液晶素子19Bは液晶変調用のドライバ23が素子の外部に装備されており、画素数をLCOSのように多くすることは難しくなる。従って図7に示すように、mチャンネルのWDM光のλ1〜λnのn波長を2次元に展開したm×nに対応するようにm×n構成の画素とすることが好ましい。この場合にはフィルタ形状を変化させることはできないが、mチャンネルのうち任意の複数チャンネルの任意の波長帯を選択することができる。この場合は前述した強度変調方式のみを実現することができる。又画素について電圧レベルを変化させることによって透過レベルを変化させることが可能となる。
【0030】
更に波長選択素子19としてMEMS素子19Cを用いて構成することもできる。この場合には図8に示すように、xy平面上で各チャンネル及び波長毎に異なる位置にMEMS素子からなる多数のMEMSミラーを配置する。そしてMEMSミラーの各画素はWDM信号光の各波長に対して1対1に対応させるものとする。こうすれば図9に示すようにMEMS素子19Cの夫々の画素をx軸又はy軸を中心に回転させることによって不要なWDM信号を消滅させ、必要なWDM信号のみを選択することができる。この場合にも任意の複数チャンネルのWDM光について任意の複数の波長帯を選択することができる。又各画素に印加する電圧レベルのミラーの角度を制御することができ、透過光量を任意に設定することができる。従ってこの場合にも選択する波長帯の光の強度レベルを制御することも可能となる。又MEMSを用いた場合であっても1つの波長帯に対して複数のMEMS素子の画素を対応付けるようにしてもよい。こうすればLCOS素子と同様に、1つの波長帯に対応する画素に印加する電圧を制御することによって種々のフィルタ形状の波長選択特性を得ることができる。
【0031】
(第3の実施の形態)
次に本発明の第3の実施の形態による透過型の光可変フィルタアレイ装置について説明する。図10(a)において入射光はmチャンネル分のWDM信号であり、夫々光ファイバ61−1〜61−mからコリメートレンズ62−1〜62−mに入射され、平行な光ビームとしてレンズ63に与えられる。レンズ63は各チャンネルのWDM光をy軸方向に集束して一点に集光するもので、集光位置には第1の波長分散素子64が設けられる。光ファイバ61−1〜61−m、コリメートレンズ62−1〜62−mおよびレンズ63は第1〜第mチャンネルのWDM信号光を入射する入射部を構成している。第1の波長分散素子64は第1の実施の形態の波長分散素子と同様に、回折格子やプリズムもしくは回折格子とプリズムの組み合わせで使用することができる。波長分散素子64は図3(b)に示すように光の波長毎にxz平面上で異なった方向に光を出射するものである。この光はいずれもレンズ65に入射される。波長分散素子64とレンズ65との間隔は、レンズ65の焦点距離f1と等しいものとする。レンズ65はxy平面上で分散した光をx軸方向に平行に集光する第1の集光素子である。又レンズ65の光軸に垂直に波長選択素子66が配置される。波長選択素子66は入射光を部分的に透過する、もしくはファイバ61−1〜61−mへの反射戻り光を防ぐために若干傾けて配置されるものであり、詳細については後述する。波長選択素子66を透過した光はレンズ67に入射される。レンズ65、第1の波長分散素子64とレンズ67、第2の波長分散素子68は波長選択素子66の中心のxy面に対して面対称である。レンズ67はxz平面上の平行な光を集光する第2の集光素子であり、波長分散素子68は異なった波長成分の異なった方向からの光を合成して出射するものである。波長分散素子68によって合成された光はレンズ69によってz軸に平行でy軸方向に各チャンネル毎に分離したWDM光に変換される。各チャンネルのWDM光はコリメートレンズ70−1〜70−mを介して光ファイバ71−1〜71−mに与えられる。レンズ69、コリメートレンズ70−1〜70−m、および光ファイバ71−1〜71−mは、各チャンネルについて選択された波長のWDM信号を出射する複数のチャンネル分の出射部を構成している。
【0032】
(波長選択素子の構成)
次にここで第3の実施の形態による透過型光可変フィルタアレイ装置に用いられる波長選択素子66について説明する。波長選択素子66は図3と同様にマトリックス状に配置された2次元のK×Lドットの画素構造の素子である。又波長選択素子66は設定部22がドライバ23を介して接続されている。設定部22はxz平面の光を透過する画素を選択チャンネルの選択波長に合わせて決定するものである。
【0033】
ここで第3の実施の形態においても、第1〜第mチャンネルのWDM光をチャンネルによってx軸方向に分散させると共に、波長によってy軸方向に分散させ、m本の平行な帯状の光として波長選択素子66に入射したとき、第1〜第mチャンネルの入射領域R1〜Rmは図11に示す長方形状の領域であるとする。即ち入射領域R1〜Rmに加わる光は夫々第1〜第mチャンネルのWDM光をチャンネルi(i=1〜m)と波長帯λj(j=1〜m)に応じてxy平面に展開した光である。そして第3の実施の形態の光可変フィルタアレイ装置では、透過させる画素を選択することによって、任意の波長の光を選択することができる。次に波長選択素子66の詳細な構成について説明する。
【0034】
波長選択素子としてはLCOS(Liquid Crystal On Silicon)の液晶素子を用いて実現することができる。LCOS素子66Aは各画素の背面に液晶変調ドライバ23を内蔵しているため、画素数を多くすることができ、例えば1000×1000の多数の格子状の画素から構成することができる。LCOS素子66Aでは各チャンネル毎及び波長毎に異なる位置に各光ビームが入射するので、その位置の画素を透過状態とすればその光信号を選択することができる。
【0035】
ここでLCOS素子66Aにおける変調方式の1つである位相変調方式について説明する。図11AはLCOS素子を示す概略図であり、光が入射する面からz軸に沿って透明電極81,液晶82及び透明電極83を積層して構成されている。LCOS素子66Aは1つのチャンネルの1つの波長帯を複数の画素で構成するため、複数画素について屈折率の凹凸を形成し、回折現象を発現することができる。従って透明電極81と透明電極83との間に電圧を印加することによって各周波数成分の回折角を独立に制御し、特定波長の入力光をz軸方向に直進させてそのまま透過させたり、他の波長成分の光を不要な光として回折させ、z軸方向とは異なった方向に光を回折させることができる。このため各画素に印加する電圧を制御することによって、必要な画素を回折させずに透過状態とすることができる。
【0036】
次にLCOS素子の他の変調方式である強度変調方式について説明する。図11Bは強度変調方式による波長選択方法を示す図であり、入射光の入射する面には偏光子84を配置する。偏光子84は入射光を図中○で示す特定の偏光状態にしてLCOS素子66Aに入射する。この場合にもLCOS素子は透明電極81,液晶82及び透明電極83によって構成される。LCOS素子を透過した出射光光軸上には偏光子85を配置する。偏光子85は入射光を図中○で示す特定の偏光状態の光のみを出射するものである。LCOS素子に光を入射すると、電圧の印加状態によって電極間の液晶の複屈折率差を制御することができる。従って印加する電圧の偏光状態を独立に制御することにより透過光の偏光状態を異ならせることができる。ここで液晶分子の配向成分によって電圧を制御したときに偏光面が回転するか保持されるかが決定される。例えば電圧を印加しない場合に偏光面が保持されるとすると、図中○状態で示す光がそのまま透過することとなる。一方電圧を印加すれば偏光面が回転して透過するため、透過光は偏光子85によって遮蔽される。従って画素に加える電圧を制御して入射光を選択することができる。ここで任意数の画素を透過状態とすれば任意の複数のWDM信号光の、任意の複数の波長帯を選択することができる。
【0037】
次にこの波長選択素子66として、LCOS構造ではない2D電極アレイを有する液晶素子を用いることができる。LCOS素子の場合には画素の背面に液晶ドライバが内蔵されているが、2D電極アレイ液晶素子66Bは液晶変調用のドライバ23が素子の外部に装備されており、画素数をLCOS素子のように多くすることは難しくなる。従って図7と同様に、mチャンネルのWDM光のλ1〜λnのn波長を2次元に展開したm×nに対応するようにm×n構成の画素とすることが好ましい。この場合にはフィルタ形状を変化させることはできないが、mチャンネルのうち任意の複数チャンネルの任意の波長帯を選択することができる。この場合は前述した強度変調方式のみを実現することができる。又画素について電圧レベルを変化させることによって透過レベルを変化させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上詳細に説明したように本発明によれば、波長選択素子の反射特性や透過特性を種々変更することによって、多数チャンネルのWDM信号の夫々について任意の波長の光を選択することができる。又各波長について複数のビットを有する波長選択素子を用いれば、波長選択特性を自由に変化させることができる。これにより光可変フィルタアレイ装置をWDM光のアドドロップ機能を有するノードの主要構成要素として用いることができる。
【符号の説明】
【0039】
11−1〜11−m,13−1〜13−m,15−1〜15−m,61−1〜61−m,71−1〜71−m 光ファイバ
12−1〜12−m 光サーキュレータ
14−1〜14−m,20−1〜20−m,21−1〜21−m,62−1〜62−m,70−1〜70−m コリメートレンズ
16,18,63,65,67,69 レンズ
17,64,67 分散素子
19,66 波長選択素子
19A,66A LCOS素子
19B,66B 2D電極アレー液晶素子
19C MEMS素子
22 設定部
23 ドライバ
31,81,83 透明電極
32,82 液晶
33 反射電極
84,85 偏光子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
y軸にそって配列され、夫々が多数の波長の光から成る第1〜第mチャンネルのWDM信号光を入射し、各チャンネルについて選択された波長の光信号を出射する複数のチャンネル分の入出射部と、
前記各チャンネルのWDM信号光をその波長に応じて空間的に分散させる波長分散素子と、
前記波長分散素子によって分散した各チャンネルのWDM光を波長選択素子平面上に集光する集光素子と、
波長に応じてx軸方向に配列され、更にmチャンネル分のWDM光が夫々y軸の異なった位置に配列されてxy平面に展開された入射光を受光する位置に配置され、xy平面に格子状に配列された多数の画素を有し、2次元の各画素の反射特性を切換えることにより任意のチャンネルのWDM信号について任意の波長帯の光を選択する波長選択素子と、
前記波長選択素子のxy方向に配列された各画素の電極を駆動することによってx軸及びy軸方向の所定の位置の画素の光反射特性を制御する波長選択素子駆動部と、を具備する光可変フィルタアレイ装置。
【請求項2】
y軸にそって配列され、多数の波長の光から成る第1〜第mチャンネルのWDM信号光を入射する入射部と、
前記各チャンネルのWDM信号光をその波長に応じて空間的に分散させる第1の分散素子と、
前記第1の分散素子によって分散した各チャンネルのWDM光を波長選択素子平面上に集光する第1の集光素子と、
波長に応じてx軸方向に配列され、更にmチャンネル分のWDM光が夫々y軸の異なった位置に配列されてxy平面に展開された入射光を受光する位置に配置され、xy平面に格子状に配列された多数の画素を有し、2次元の各画素の透過特性を切換えることにより任意のチャンネルのWDM信号について任意の波長帯の光を選択する波長選択素子と、
前記波長選択素子のxy方向に配列された電極を駆動することによってx軸及びy軸方向の所定の位置の画素の光透過特性を制御する波長選択素子駆動部と、
前記波長選択素子を透過した各波長の光を集光する第2の集光素子と、
前記第2の集光素子によって集光された分散光を合成する第2の波長分散素子と、
各チャンネルについて選択された波長のWDM信号を出射する複数のチャンネル分の出射部と、を具備する光可変フィルタアレイ装置。
【請求項3】
前記波長選択素子は、2次元の液晶素子であり、前記波長選択素子は選択すべきチャンネルの波長に応じて各画素に印加する電圧を制御する請求項1又は2記載の光可変フィルタアレイ装置。
【請求項4】
前記波長選択素子は、2次元に配列された多数の画素を有するMEMSアレイである請求項1記載の光可変フィルタアレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【公開番号】特開2011−232695(P2011−232695A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105401(P2010−105401)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(591102693)サンテック株式会社 (57)
【Fターム(参考)】