説明

光変調素子及びそれを有する光変調装置

【課題】 可視光領域にて動作可能で、かつ、高速に光制御が可能で、かつ動作が容易な光変調素子を得ること。
【解決手段】 フォトニック結晶の欠陥により形成された導波路と、該導波路へキャリアを伝導するキャリア伝導領域と、該キャリア伝導領域にキャリアを注入する電極と、前記導波路へ伝導されるキャリア量を制御するための電流制御手段とを有し、前記フォトニック結晶および前記電極を構成する材料の主組成はTiO2であって、前記電流制御手段は、前記導波路へ伝導されるキャリア量に応じて前記導波路を形成する媒質の屈折率を変化させることにより前記導波路を導波する光を変調することを特徴とする光変調素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率周期構造を有するフォトニック結晶を用いた光変調素子及びそれを有する光変調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光の強度変調やスイッチングには、応答速度が速いことや動作効率が良いことが求められる。光通信波長帯域においてはサブマイクロ秒からナノ秒以下の応答速度が求められている。
【0003】
これらの要求に対して、フォトニック結晶を利用した光変調素子によれば応答速度を高速化したり、動作効率を改善したりできることが提案されている。フォトニック結晶を用いることによって、微小な屈折率変化に対して光学特性を大きく変化させることができ、光を制御できるためである(特許文献1)。
【0004】
フォトニック結晶は、波長以下の周期を持つ構造物であって、電磁波の透過・反射特性などを制御することができる(非特許文献1)。構造物の周期を光の波長程度にまで小さくすることによって、光の透過・反射特性を制御することができる。入射角度に依存することなく、ほぼ100%の反射率を有する波長帯域は、フォトニックバンドギャップ(PBG)と呼ばれている。
【0005】
また、フォトニック結晶中に周期を乱す点欠陥や線欠陥を設けることで、欠陥部分に電場強度を集中させることができる。点欠陥を設けた場合には共振器として、線欠陥を設けた場合には導波路として機能させることができる。
【0006】
フォトニックバンドギャップは、フォトニック結晶の次元、構成する材料の屈折率、材料の空間充填率、格子周期間隔、格子形状などによって変化する。つまり、これらのパラメータを制御することで、光の透過・反射特性を制御することができる。
【0007】
フォトニック結晶の光学的な透過・反射特性を動的に制御する手段としては、フォトニック結晶を構成する材料の屈折率を変調する方法が挙げられる。材料の屈折率を変調する手段としては、強誘電体材料が有する電気光学効果を用いるものが知られている(特許文献1)。この他、熱光学効果による屈折率変化を用いるもの(非特許文献2)、液晶材料などの屈折率異方性を用いるものが知られている(非特許文献3)。量子ドットの非線形光学効果を用いるものや(非特許文献4)、光励起によるキャリア濃度変化による屈折率変化を用いるものが知られている(非特許文献5)。また、実効的な屈折率を変調させる手段としては、MEMSにより屈折率の異なる物体を近接させてフォトニック結晶の実効的な屈折率を変調する方法が知られている(非特許文献6)。ピエゾ材料を用いてフォトニック結晶の格子配列を歪ませる方法が知られている(非特許文献7)。
【特許文献1】特開2004-317540
【非特許文献1】Physical Review Letters,Vol.58,pp.2059,1987年
【非特許文献2】Optics Express Vol.12,No.4,pp.588,2004年
【非特許文献3】光技術コンタクト Vol.39,No.11,pp.658,2001年
【非特許文献4】Optics Express Vol.12,No.26,pp.6606,2004年
【非特許文献5】Optics Express Vol.13,No.7,pp.2678,2005年
【非特許文献6】OPTRONICS No.11,pp.127,2005年
【非特許文献7】Applied Physics Letters,Vol.78,No.20,pp.3015,2001年
【非特許文献8】Solid-State Electronics, Vol.47,pp.2275,2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、フォトニック結晶と同程度の微細構造上の特定部分に対して電極を配置し、特定部分のみ電圧を印加することで局所的に屈折率を変調することで光変調素子を実現する技術が開示されている。
【0009】
特許文献1では、特定領域に一定の電界を印加することで、安定した屈折率変化が可能な光学素子を提供することを課題としている。前記課題に対して、対象波長以下の周期を持つ凹凸形状からなる微細周期構造を有する光学素子の所定の領域に電界を印加する手段を提示している。
【0010】
この手段により、効率よく所定領域に対して電界を印加し、強誘電体材料の屈折率を変調することで、フォトニック結晶が有するPBG波長特性の制御が可能であることを開示している。しかしながら、電極材料により導電性の優れた金属電極を使用する必要があり、材料の吸収により導波損失が大きくなることが課題になる。
【0011】
前記課題を回避するために、強誘電体導波路部分の上部に強誘電体材料よりも低い屈折率を有する保護層を設け、導波モードの電磁場分布と電極との重なりを低減し、導波損失を低減する方法が示されている。
【0012】
強誘電体導波路部分の上部に保護層を設けることで、コアとクラッドとの屈折率差が小さくなり、導波路内部への導波モード閉じ込めが弱くなる。すなわち、導波モードの電磁場分布が広がることになる。その結果、導波モード電磁場分布の裾が電極と重なり導波損失が生じることになる。
【0013】
これを回避するためには、保護層厚を大きくとることも考えられるが、フォトニック結晶構造の微細周期と比較して格段に厚い保護層を設ける必要があるため、局所的に電圧を印加することが困難となる。
【0014】
従って、フォトニック結晶の特定部分のみに電圧を印加することで局所的に屈折率を変調することが困難となるか、あるいは、変調のために高い電圧を印加する必要がある。
【0015】
一方、導波モード径よりも深い格子構造をとることで、導波モードの電磁場分布と電極との重なりを低減し、導波損失を低減する手段も考えられる。しかしながら、強誘電体基板にアスペクト比の高い構造を精密に作製する高度な技術が必要であるため現実的ではない。
【0016】
また、強誘電体材料を用いた電界強度変調による屈折率変調は、一般に1マイクロ秒からサブマイクロ秒のオーダーで動作可能である。しかしながら、微細構造内部に強誘電体材料を充填することにより、強誘電体材料の結晶構造欠陥による結晶品質低下などの要因によって、応答速度が遅くなるなどの問題がある。
【0017】
加えて、開示されている技術においては、2つ以上の材料を積層あるいは充填して構成されている。異種材料の組み合わせでは、異種材料間の密着性や内部応力の違いによる構造歪が問題となる。
【0018】
特にフォトニック結晶のように微細な構造を有する素子においては、前記問題はより顕著に現れる。
【0019】
不完全な異種材料密着や内部応力の違いによる構造歪により、強誘電体材料の結晶歪みや欠陥による電気光学効果の能率が低下すること、回路の短絡や切断が生じること、などにより所望の特性を得られなくなるという課題がある。
【0020】
更に、複数の異種材料を精度よく作製する高度な技術を要し、また、作製工程もより複雑なものとなり得る。よって、素子の歩留まり低下が懸念される。以上のように特許文献1においては、導波損失、印加電圧、応答速度、異種材料の加工性の観点において課題を有している。
【0021】
非特許文献2では、熱光学効果を利用して屈折率変調を行っており、材料を加熱するためのヒータとして金属を用いている。ヒータのオンオフにより材料屈折率を変調し、マッハ・ツェンダー干渉型光スイッチを実現している。
【0022】
しかしながら、ヒータに金属を用いることは、導波損失を増大するため好ましくない。たとえ、電極が吸収損失を持たない材料であっても、フォトニック結晶導波路上にヒータを設けることによって、導波路構造がスラブの上下方向に対して屈折率分布が非対称構造となるため、導波損失が増大する。
【0023】
その結果、スイッチ動作オンオフ時の光信号のコントラストが低下し得る。また、応答速度が100マイクロ秒オーダーと低速であるため用途が限られる。以上のように非特許文献2では、導波損失、応答速度の観点において課題を有している。
【0024】
非特許文献3では、液晶材料が有する屈折率異方性を利用した変調が記載されている。しかしながら、応答速度は液晶材料に依存しておりミリ秒オーダーと速度が遅いこと、高強度光に対する耐性が低いこと、高温環境下では液晶材料の変質を引き起こすこと、などの課題がある。以上のように非特許文献3では、応答速度、材料の環境安定性の観点において課題を有している。
【0025】
非特許文献4では、InAs量子ドットを用いた光スイッチが提示されている。量子ドットを含む非線形光導波路に制御光を入射することで、ピコ秒オーダーの超高速な光スイッチを実現できる。
【0026】
しかしながら、動作波長を制御するためには、量子ドットの大きさや密度、量子ドット材料を適切に制御する必要があり高度な作製技術を要するという問題がある。また、スイッチングには外部から励起光を入射する必要があり、集積化を行う際には膨大な光源が必要となり回路面積を小さくすることが困難である。以上のように非特許文献4では、作製技術、集積化の観点において課題を有している。
【0027】
一方、化合物半導体材料などの半導体材料による屈折率変調技術が知られている。例えば、半導体DBRレーザの発振波長を制御する技術として、回折格子部分に電流を注入することによって屈折率変化を誘起し、レーザ発振波長を変化させることが可能であり実用化されている。
【0028】
これは、半導体材料におけるキャリア密度が変化することにより分極が変化し、その結果、屈折率変化が誘起されるものである。この物理現象は、キャリアプラズマ効果(あるいはバンドフィリング効果)として知られている。屈折率変化が誘起される速度は、キャリアの拡散速度によって決定され、ナノ秒オーダーの応答速度を実現可能である。
【0029】
キャリアプラズマ効果を利用した光素子としては、主に化合物半導体材料やSiが用いられている。しかしながら、可視光領域で利用可能な素子はほとんど報告がない。これは、従来用いられていた材料は、可視光波長領域に吸収を持つ材料であったためである。
【0030】
また、非特許文献5では、光注入によってキャリアプラズマ効果を誘起する構成を開示している。外部から励起光を入射することで強励起することによって、サブピコ秒オーダーの超高速応答が期待できる。
【0031】
しかしながら、スイッチングに必要なエネルギーが大きいこと、複数のスイッチング素子を集積化するためにはレーザなどの励起光源の数が膨大になること、複雑な構成になり小型化が困難であること、などの課題がある。
【0032】
以上のように、非特許文献5では、動作波長帯域、動作エネルギー、集積化の観点において課題がある。
【0033】
非特許文献6では、MEMSを用いた屈折率変調手段を開示している。
【0034】
ここでは、光導波路の近傍に屈折率部材を配置し、機械的手段を用いて屈折率部材を光導波路に近接させることで、光導波路が感じる実効的な屈折率を変化させることで、光スイッチングすることが可能である。しかしながら、応答速度がマイクロ秒オーダーと低速であり用途が限られるという課題がある。
【0035】
非特許文献7では、ピエゾを用いた格子定数制御によるフォトニック結晶自体が有する実効的な屈折率を変調することで、フォトニックバンドギャップ帯域を制御している。しかしながら、応答速度がマイクロ秒オーダーと低速であること、駆動電圧が大きいこと、などの課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明の一例としての光変調素子は、フォトニック結晶の欠陥により形成された導波路と、該導波路へキャリアを伝導するキャリア伝導領域と、該キャリア伝導領域にキャリアを注入する電極と、前記導波路へ伝導されるキャリア量を制御するための電流制御手段とを有し、前記フォトニック結晶および前記電極を構成する材料の主組成はTiO2であって、前記電流制御手段は、前記導波路へ伝導されるキャリア量に応じて前記導波路を形成する媒質の屈折率を変化させることにより前記導波路を導波する光を変調することを特徴とする。
【0037】
本発明の一例としての光変調素子は、フォトニック結晶の欠陥により形成された導波路と、フォトニック結晶の欠陥により形成された共振器と、該共振器へキャリアを伝導するキャリア伝導領域と、該キャリア伝導領域にキャリアを注入する電極と、前記共振器へ伝導されるキャリア量を制御するための電流制御手段とを有し、前記フォトニック結晶と前記電極を構成する材料の主組成はTiO2であって、前記電流制御手段は、前記共振器へ伝導されるキャリア量に応じて前記共振器を形成する媒質の屈折率を変化させることにより前記共振器の共振モード周波数を変化させて、前記導波路から前記共振器への導波を制御することを特徴とする。
【0038】
本発明の一例としての光変調素子は、フォトニック結晶の欠陥により形成された導波路と、該導波路の周囲に設けられた屈折率変調領域と、該屈折率変調領域へキャリアを伝導するキャリア伝導領域と、該キャリア伝導領域にキャリアを注入する電極と、前記屈折率変調領域へ伝導されるキャリア量を制御するための電流制御手段とを有し、前記フォトニック結晶および前記電極を構成する材料の主組成はTiO2であって、前記電流制御手段は、前記屈折率変調領域へ伝導されるキャリア量に応じて前記屈折率変調領域を形成する媒質の屈折率を変化させることにより前記導波路を導波する光を変調することを特徴とする光変調素子。
【発明の効果】
【0039】
本発明は、可視光領域にて動作可能で、かつ、高速に光制御が可能で、かつ動作が容易な光変調素子の提供を目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
【実施例1】
【0041】
図1は本発明の実施例1の要部概略図である。3次元のフォトニック結晶と電流制御手段を有するマッハ・ツェンダー型の光変調素子の要部概略図である。
【0042】
本実施例の光変調素子は、入力導波路から入力された光を導波路を介して出力導波路から選択的に出力する構成である。
【0043】
本実施例に係るフォトニック結晶は、屈折率周期構造を有し、フォトニックバンドギャップを呈している。
【0044】
導波路はフォトニック結晶中に屈折率周期構造を乱す孤立した欠陥部により形成されている。
【0045】
マッハ・ツェンダー型の光変調素子は、マッハ・ツェンダー型干渉計の原理を応用したものである。即ち、1つの光路(導波路)を2つの光路(導波路)に分割し、一方の光路(導波路)に対してのみ光に位相差を与えたのちに1つの光路(導波路)に合成することで光強度を変調して出力することができる構成となっている。
【0046】
この光変調素子では、2つの光路の光路長差がないか、又は光学波長の整数倍である場合には、入射光と同じ強度の光が射出する。しかしながら、光路長差が光学波長の半波長か半波長+波長の整数倍である場合には、位相が打ち消しあって射出光の強度がゼロになる。
【0047】
本実施例のマッハ・ツェンダー型の光変調素子では、一方の光路(導波路)を形成する媒質である半導体の酸化チタン(TiO)材料にキャリアを注入して屈折率を変化させることにより一方の導波路を導波する光の位相を制御している。
【0048】
実施例1の光変調素子は、基板101上に3次元のフォトニック結晶102、103を設けている。更にフォトニック結晶102、103の内部に線欠陥により形成された導波路、104、105、106、107を設けている。
【0049】
フォトニック結晶102、103は、フォトニック結晶102、103と比較して抵抗値が高い材料からなる基板101の上に構成されている。
【0050】
図1では、入力導波路104側から光を入射し、分岐部11から導波路105と導波路106とに分岐し、結合部12にて結合した光は出力導波路107から射出するという光路を示している。
【0051】
導波路105の一部分105aはn型TiO2およびp型TiO2材料で構成された屈折率変調領域であり、電流制御手段108が接続されている。電流制御手段108を用いて、導波路105の一部分105aに供給するキャリア量を制御し、屈折率変調領域105aの屈折率を変調している。
【0052】
本実施例の光変調素子は、フォトニック結晶102、103の少なくとも一部に設けられたキャリア伝導領域1022、1032と、キャリア伝導領域1022、1032にキャリアを注入するための電極1021、1031を具備している。
【0053】
そしてキャリア伝導領域へのキャリア注入によって導波路を構成する媒質の屈折率が変化する屈折率変調領域105aを具備している。更に、導波路の屈折率変調領域105aに注入するキャリア量を制御するための電流制御手段108を具備している。
【0054】
屈折率変調領域105aは、分岐された導波路105の全体または一部でも良いし、分岐された導波路105の周囲に形成されても良い。
【0055】
そしてフォトニック結晶102、103、導波路104〜107、キャリア伝導領域1022、1032および電極1021、1031を構成する材料の主組成はTiOである。
【0056】
このように本実施例では、光変調素子を構成する一部の材料としてTiOを主組成とする材料を用いている。
【0057】
TiOは、導電性、半導体性を有する材料である。TiO自体は、n型半導体であるが、TiOにNbなどの微量の金属をドープすることで導電性材料として機能する。また、TiOの強還元によって組成をTiO−xとすることで、p型の半導体として特性を有するようになる(非特許文献8)。
【0058】
次に主組成がTiOであることについて説明する。
【0059】
TiOは、化学量論比(ストイキオメトリー)として、Ti原子1個に対して、酸素原子2個の割合で構成されている。
【0060】
TiOにNbなどの微量の金属をドープすることで、Ti1−xNbOの化学組成をとり、化学量論比として、Ti原子(1−x)個、Nb原子x個、酸素原子2個の割合で構成されていることを示す。
【0061】
ここでTiOを主組成とする材料としては、上記化学量論比におけるxの値が、0.5未満であればよい。例えば、Nbをドープした場合に主組成がTiOであるためには、一般に、xの値が、0から0.2程度の範囲の化学組成であれば良い。
【0062】
図2は、図1中の点線での断面ivでの構成の概略図である。屈折率の変調により位相差を与えるための導波路105の近傍(屈折率変調領域105a)は、n型TiO2からなるキャリア伝導領域(フォトニック結晶)1032とp型TiO2からなるキャリア伝導領域(フォトニック結晶)1022とから構成されている。
【0063】
これらのフォトニック結晶からなるキャリア伝導領域1032および1022には、キャリアを注入するための電極1031および1021が接続されている。
【0064】
電極1031、1021には電流制御手段108が接続してある。電流制御手段108により注入するキャリア量を制御することにより、導波路105および導波路105近傍の屈折率変調領域105aの屈折率を変化させることができる。
【0065】
また、屈折率変調領域105aへキャリアを効率よく注入するためには、絶縁材料で構成した電流狭窄構造(絶縁部材)109を導波路以外の領域に設けることも効果的である。
【0066】
本実施例においてキャリア伝導領域1022、1032を構成する材料は、n型TiO2およびp型TiO2である。
【0067】
導波路の屈折率変調領域105aは、n型TiO2から成るキャリア伝導領域1032とp型TiO2から成るキャリア伝導領域1022とに狭まれている。n型TiO2から成るキャリア伝導領域1032とp型TiO2から成るキャリア伝導領域1022とに狭まれた絶縁材料109は、屈折率変調領域105a以外の領域(導波路105以外の領域)に設けられている。
【0068】
n型TiO2から成るキャリア伝導領域1032とp型TiO22から成るキャリア伝導領域1022のエネルギーバンドギャップは、屈折率変調領域105aにキャリアを閉じ込める構造より成っている。
【0069】
本実施例では、以上のように電流制御手段108により注入されるキャリア量を変調することにより、屈折率変調領域105aの媒質の屈折率を変調させている。これにより出力導波路107から出力される光の出力強度を変調することができる光変調素子を得ている。
【0070】
実施例1について、フォトニック結晶が図3に示すような2次元構造であっても良い。図3の光変調素子は基板201、フォトニック結晶202、線欠陥により形成された導波路203、204,205、206、電流制御手段207、導波路の屈折率変調領域208を有している。
【0071】
電流制御手段207によって導波路の屈折率変調領域208へのキャリア注入量を制御することにより、屈折率変調領域208における媒質の屈折率が変化し、導波路204を導波する光の位相を変調することができる。
【0072】
その結果、出力導波路206から出力される光強度が、線欠陥導波路204にて受けた位相変調に応じて変調されて出力される。
【0073】
また、上記実施例において、基板201には、導波モード周波数において吸収を持たない材料を用いることが好適である。可視光領域での動作を例に挙げれば、石英やガラスなどの透明かつ導電性の小さい材料が好適である。基板へのキャリア流出を防ぎ、より効果的にキャリア注入することができる。基板側への放射モードを抑制するため、および、キャリア流出を抑制するために、基板を除去することによりエアブリッジ構造にしてもよい。
【0074】
また、キャリア濃度変化を誘起し屈折率変調を与えるための屈折率変調領域の大きさには制限はなく、基板上一面に設けてもよいし一部でもよい。ただし、より効果的な配置としては、線欠陥により形成された導波路およびその近傍に屈折率変調領域を配置することが望ましい。線欠陥導波路部分への屈折率変調を効率よく行えるためである。
【0075】
また、屈折率変調領域へ効率よくキャリアを注入するための電流狭窄構造を設けることも効果的である。
【0076】
以上のように、入力導波路から入力された光を2つの導波路に分岐し、一方の導波路を導波する光に屈折率変調領域で位相差を与えることにより、一方の導波路と他方の導波路が合成された出力導波路から出射される光の強度を制御している。
【0077】
このような構成により、高効率で高速な変調が可能な光変調素子を構成することができる。
【実施例2】
【0078】
図4は本発明の実施例2として、3次元のフォトニック結晶構造と電流制御手段とを有するマッハ・ツェンダー型の光変調素子の要部概略図である。
【0079】
図4におけるマッハ・ツェンダー型の光変調素子は、基板301、3次元のフォトニック結晶302を有している。フォトニック結晶302の内部に、3次元の線欠陥から成る導波路303、304、305、306、307,308と、屈折率変調領域309、分岐部35、36が設けられている。
【0080】
ここで303、304は入力導波路、305、306は導波路、307、308は出力導波路である。310は電流制御手段である。
【0081】
本実施例のマッハ・ツェンダー型光変調器の動作原理を説明する。
【0082】
ここでは、入力導波路303から光を入力した場合について述べるが、入力導波路304から入力した場合についても動作は同様である。入力導波路303から光を入力すると、光は分岐部35によって2つの導波路305および306へと分岐する。この分岐35部は、3dBカップラとなっており、2つの導波路305および306へ光出力強度が1:1となるように設計されている。導波路305を導波した光は分岐部36に達する。
【0083】
一方、導波路306の一部である屈折率変調領域309においては、電流制御手段310によって注入されたキャリア量に応じて屈折率が変化する。
【0084】
したがって、導波路306を導波した光は、屈折率の変化量に応じて位相差が付加されて分岐部36に達する。導波路305と導波路306とを通過する光の位相差がゼロか波長の整数倍の場合には出力導波路307から光が出力する。
【0085】
一方、導波路305と導波路306とを通過する光の位相差が半波長か半波長+波長の整数倍の場合には出力導波路308から光が出力する。
【0086】
尚、本実施例の光変調素子は図3に示したのと同様な2次元のフォトニック結晶であってもよい。
【0087】
本実施例では以上のように、導波路305、306を通過する光の位相を制御することにより、光が出力する出力導波路を切り替えることができる光変調素子を実現している。
【実施例3】
【0088】
図5は本発明の実施例3の光変調装置の要部概略図である。
【0089】
実施例3においては、光源41と可視光の波長帯域で動作する光変調素子と、光結合部42とを有している。
【0090】
図5において光源部41は2つの光源411、412を有している。光結合部42は光源部分41と光変調素子43を結合している。光源部41に設けられた光源411、412から出射する光の使用波長は、TiOがもつバンドギャップ(350nm近傍)よりも長波長側である。
【0091】
350nm以上であれば光吸収は無視できるため、波長350nm以上の可視光波長領域(波長として350nmから750nmの領域)であれば制限はない。
【0092】
光結合部42は光源411、412からの光を効率よく導波路433,434に結合するための領域である。
【0093】
光変調素子43は、基板431、フォトニック結晶432、導波路433、434、435、436、437、438、導波路の屈折率変調領域439、分岐部44、45を具備している。更に電流制御手段46を有する。動作原理は、実施例2とほぼ同様である。
【0094】
本実施例において光源部分41の一部あるいは前記光結合部に具備されている少なくとも一部がフォトニック結晶で構成されている。
【0095】
光源411からの光に対して、電流制御手段46により屈折率変調領域439における屈折率を変調することにより光の位相差を制御している。出力導波路437または438へ光出力ポートを切り替えている。これは光源412からの光に対しても同様である。
【0096】
本実施例では以上のように、可視光波長帯域において高速で動作する光変調装置を構成している。
【実施例4】
【0097】
本発明に係る3次元のフォトニック結晶及びその中に線欠陥で形成された導波路を設けたフォトニック結晶の具体的な構成について説明する。
【0098】
図6は、3次元フォトニックバンドギャップを有する3次元フォトニック結晶Aの要部概略図である。3次元フォトニック結晶Aは、xy平面を含む層501〜512の12層を基本周期としてZ方向に積層して構成されている。
【0099】
図7は図6の各層501〜512のxy断面の一部の概略図である。第1の層501および第7の層507は、x軸方向に延びる複数の柱状構造501aおよび507aが等間隔Pでy方向に配置されている。柱状構造501aと507aはそれぞれ第1の媒質より成り、x軸方向にP/2ずれた位置に配置されている。
【0100】
また、第4の層504および第10の層510は、y軸方向に延びる複数の柱状構造504aおよび510aが等間隔Pでx方向に配置されている。柱状構造504aと510aはそれぞれ第1の媒質より成り、y軸方向にP/2ずれた位置に配置されている。
【0101】
第2、第3の層502、503は第1、第4の層501、504に挟まれた付加層である。
【0102】
第5、第6の層505、506は第4、第7の層504、507に挟まれた付加層である。
【0103】
第8、第9の層508、509は第7、第10の層507、510に挟まれた付加層である。
【0104】
第11、第12の層511、512は第10層511と、第1(次の基本周期に相当する第1の層)の層に挟まれた付加層である。
【0105】
第2の層502および第3の層503には、第1の層501中の柱状構造501aおよび第4の層504中の柱状構造504aの交点に相当する位置に、第1の媒質より成る離散構造502aおよび503aが配置されている。離散構造502a,503aは、各々xy平面内において互いに接しないように離散的に配置されている。
【0106】
なお、離散構造502aと503aはxy面内における90度の回転により相互に重なる対称性を有している。柱状構造を含む層(第1、第4、第7、第10の層)の間にある第5の層505、第6の層506、第8の層508、第9の層509、第11の層511、第12の層512の構成は第2の層502、第3の層503と同様である。
【0107】
即ち、隣接する層中の柱状構造の交点に相当する位置に、xy平面内において離散的に配置された離散構造505a、506a、508a、509a、511a、512aが配置されている。
【0108】
各層中の柱状構造および離散構造は互いに接している。柱状構造及び離散構造の材料の屈折率、柱状構造および離散構造の形状や間隔、各層の厚さなどを最適化することにより、所望の周波数帯域(波長帯域)に広い完全フォトニックバンドギャップを得ている。
【0109】
3次元フォトニック結晶構造Aの詳細な構造パラメータを表1に示す。
【0110】
以下、面内格子周期とは図7に示した柱状構造の間隔Pをいう。
【0111】
また面外格子周期とは複数層からなる基本周期をいい、例えば3次元フォトニック結晶構造Aにおいては第1の層501〜第12の層512の12層分の積層方向の長さをいう。
【0112】
また、表中の屈折率は、3次元フォトニック結晶Aの柱状構造および離散構造を構成する第1の媒質の屈折率を表わしている。3次元フォトニック結晶Aの柱状構造および離散構造以外の部分の第2の媒質は空気であって屈折率は1.0である。
【0113】
柱状構造幅とは、柱状構造のx方向又はy方向の幅である。柱状構造高さとは柱状構造の積層方向の長さである。
【0114】
また、離散構造幅とは、図7に示す各離散構造の層内における長さを指し、表1および図7中に、Dw1、Dw2と記した。
【0115】
さらに、離散構造高さとは、各離散構造の積層方向(z方向)の長さを指し、表1中にDhと記した。
【0116】
【表1】

【0117】
図8は3次元フォトニック結晶AのフォトニックバンドギャップをPWE法(平面波展開法)にて計算した結果を示すグラフである。
【0118】
図8の縦軸は規格化周波数、横軸は波数ベクトルを表している。網掛けで示された周波数帯域において、光の入射方向によらず光が存在できない完全フォトニックバンドギャップが形成されている。
【0119】
また、3次元フォトニック結晶Aの内部に線状の欠陥部を設けると、完全フォトニックバンドギャップ内の周波数を有する導波モードを生成する。
【0120】
図9は、本実施例にかかる、3次元フォトニック結晶Aの内部に線状欠陥部を設けた導波路Bの概略図である。
【0121】
図9の導波路Bは、図6に示す3次元フォトニック結晶Aの内部にy軸方向に延びる第1の線状欠陥部50を含んでいる。更に第1の線状欠陥部50を含む層とは異なる層に位置し、y軸方向に延びる柱状構造の一部を変形させることによって形成した第2の線状欠陥部500を含む構造である。
【0122】
第1の線状欠陥部50の欠陥部幅50wは、0.60Pの幅を有し、第1の線状欠陥部50と同じ層に含まれる柱状構造を形成する媒質と同じ屈折率を有する媒質で形成された領域である。
【0123】
図9(a)は導波路構造Bのxz断面である。図9(b)、(c)は導波路Bのxy断面である。本実施例では、一例として、y軸方向に延び、欠陥部幅50wが0.60Pの第1の線状欠陥部50と、y軸方向に延び、柱状構造の欠陥部幅500wの幅を0.00Pとした第2の線状欠陥部500を含む構造について示した。導波路Bの詳細な構造パラメータを表2に示す。
【0124】
ここで、欠陥部幅とは、各欠陥部の層内におけるx軸方向の長さを指し、表2および図9(b)、(c)中では50w、500wと記した。また、欠陥部高さとは、各欠陥部の積層方向(z方向)の長さを指し、表2および図9(a)中に50h、500hと記した。また、欠陥部屈折率とは、各欠陥部を構成する媒質の屈折率を指し、表2中に50nと記した。
【0125】
なお、実施例4で使用する座標の原点は図9(a)のxz断面において、第1の線状欠陥部50の中心とする。
【0126】
【表2】

【0127】
図10は、導波路BについてFDTD法を用いて、導波モードを計算した結果を示すグラフである。図10のグラフの縦軸は規格化周波数、横軸は波数ベクトルを示している。
【0128】
また、細線で示した周波数帯域は、完全フォトニックバンドギャップ以外の周波数帯域を示している。図10に示すように、単一モードで導波可能な周波数帯域は、0.472から0.497の範囲で存在している。
【0129】
ところで、図10のグラフを見ると、0.466−0.472の周波数帯域には、導波モードが存在していないことがわかる。これは、この周波数帯域のエネルギーを有する光波は導波路構造B中に存在できないことを意味している。これをモードギャップと呼ぶことにする。
【0130】
導波路構造Bが有するモードギャップとキャリアプラズマ効果による屈折率変化を組み合わせることによって、高速なスイッチングが可能となる。
【0131】
原理を説明する。モードギャップを制御するためには、フォトニック結晶の屈折率を変調させることが有効である。特に、線欠陥で形成された導波路近傍の屈折率を変調させることにより、より効果的にモードギャップを制御することができる。モードギャップを制御するためには、導波路近傍においてn型およびp型TiOを接した配置を取り、両端に設けた電極から電流を注入することでキャリア濃度変化を誘起することで屈折率を変調することができる。このことにより、フォトニック結晶の実効的な屈折率(実効屈折率)が変化し、モードギャップ波長を制御することが可能である。
【0132】
図11を用いて説明する。縦軸は規格化周波数、横軸は波数ベクトル、グラフ中の太実線は屈折率変化前の導波モード、点線は屈折率変化後の導波モード、横軸に水平な実線は規格化周波数ωの位置をあらわしている。TiO内部のキャリア濃度が増加し屈折率が低くなることによって、フォトニック結晶の実効屈折率は低くなる。これにより、導波モードは高周波数側(短波長側)へシフトする。屈折率変調前には、導波モード周波数ωと導波モード周波数ωgとが一致しており、フォトニック結晶導波路に周波数ωの光は導波する。屈折率変調後には、導波モードが高周波数側へシフトするため、周波数ωに対応する導波モード周波数存在しない。よって、周波数ωの光は導波できなくなる。この現象を用いることで、光の導波を制御することができる。
【0133】
素子構造の一例を図12(a)、(b)に示す。基板601上に、フォトニック結晶602および603とフォトニック結晶A内部に線欠陥導波路として配置された導波路604を設けた。フォトニック結晶602および603の一部の領域に、p型TiO2材料で構成したフォトニック結晶605とn型TiO2材料で構成したフォトニック結晶606を設ける。フォトニック結晶605と606との間には、キャリア注入のための電流制御手段607が備えられている。電流制御手段607にてキャリア注入量を制御することにより、導波路604の屈折率が変調され、導波路604を導波する導波モード周波数が高周波数側へシフトする。この動作原理により光の導波状態を制御することができる。
【0134】
図12における電極を図12(b)に示す。基板601上にバッファ層6031、電極6032、n型TiO2層6033、TiO層6035、p型TiO2層6021、電極6022、電極6032、6072にはそれぞれ電線6071および6072が付いている。
【0135】
基板601とフォトニック結晶との間に設けたバッファ層6031は、電極層6032の結晶性を向上するための層であり、MgOなどを用いることができる。電極6032および6022は、不純物としてNbをドープしたTiOを用いるとよい。
【0136】
NbドープTiO薄膜においては、抵抗率が2x10^−4Ωcm程度の透明導電性を有しており、電極材料として好ましい。
【0137】
n型TiO層6033においては、3次元フォトニック結晶を構成している。波路604は、n型TiO6033とp型TiO6021との境界面に設けてもよい。又、導波路構造を含む近傍領域のTiO層6035をTiOやn型TiO層6033とはドープ量が異なるn型TiOを用いてヘテロ構造などのキャリア閉じ込め構造としてもよい。
【0138】
また、キャリアを導波路近傍に効率よく集中させるための電流狭窄構造として絶縁部6034を設けるとより効果的である。
【0139】
さらに、p型TiO層6021に接するようにして電極6022および電線6072を設けることで、電流注入型光導波路を構成することができる。
【0140】
図12中の点線部分の断面iiiでの断面図を図13に示す。図13には、線欠陥導波路近傍の構造のみを拡大した図を示す。
【0141】
この実施例では、導波路を構成する線欠陥部50を境界として、基板側をn型TiO、その反対側をp型TiOとして3次元フォトニック結晶を構成している。前記構造に対して電流を注入することによりTiO中のキャリア濃度変化が生じ、キャリアプラズマシフトによる屈折率変化が生じる。この結果、導波モード周波数がシフトしモードギャップを利用した導波制御が可能となる。
【0142】
本実施例においては、キャリア濃度変化を誘起し屈折率変調を与えるための領域には制限はないが、より効果的な配置としては、線欠陥により形成された導波路およびその周囲(近傍)に屈折率変調領域を配置することが望ましい。
【0143】
基板には、導波モード周波数において吸収を持たない材料を用いることが好適で、更に、透明かつ導電性の小さい材料が好適である。
【0144】
また、フォトニック結晶についても、図14に示すような2次元構造をとってもよい。基板701上に2次元フォトニック結晶703および704と線欠陥導波路702とを具えている。p型TiO材料からなるフォトニック結晶705とn型TiO材料からなるフォトニック結晶706、および、電流制御部707にてキャリア注入量を制御することができる。
【0145】
基板701側への放射モードを抑制するためとキャリア流出を抑制するために、基板を除去することによりエアブリッジ構造にしてもよい。
【0146】
上記のような2次元フォトニック結晶をTiOで構成することにより、基板701と導波路702との屈折率差を大きくできること、導波路702と空気との屈折率差による光閉じ込め効果を大きくできること、などの利点がある。
【0147】
以上のような構成により、高効率で高速変調可能なフォトニック結晶光変調器を構成している。
【実施例5】
【0148】
図15は本発明の実施例5の光変調器の要部概略図である。
【0149】
図15において801は基板である。802、803は3次元のフォトニック結晶であり、フォトニック結晶802a、803a、フォトニック結晶の線欠陥で形成された導波路804を有している。
【0150】
更に点欠陥から成る共振器805、導波路の屈折率変調領域806、電流制御手段807とを有している。
【0151】
図16は、図15中の断面vにおける要部断面図である。共振器805は、n型TiO材料で構成されたフォトニック結晶802とp型TiO材料で構成されたフォトニック結晶803とで狭まれている。
【0152】
8021、8031は屈折率変調領域806に電流を注入するための電極である。808は絶縁部材であり、キャリア注入効率を向上させるために設けられている。電極8021、8031は、透明かつ導電性が高いという観点から、ニオブをドープしたTiO材料を用いている。
【0153】
実施例5においては、3次元フォトニック結晶として実施例4で記載したフォトニック結晶Aを、導波路として実施例4で記載したフォトニック結晶Bを採用しているが、これに制限することはない。また、フォトニック結晶Cの構造を図17a)およびb)に示す。又、点欠陥で形成された共振器805の寸法を表3に示す。
【0154】
【表3】

【0155】
本実施例ではフォトニック結晶802a、803aの内部には、点欠陥からなる共振器805を有する。そして屈折率変調領域806は、共振器805を含んでいる。
【0156】
共振器805が有する共振モード周波数は、規格化周波数で表すと、0.460と0.479の2つであるが、いずれの周波数においても、導波路Bが有する導波モードにて単一モード領域に存在している。
【0157】
ここで、導波路を導波する導波モード周波数をω1とする。共振器は、周波数ω2に共振周波数を持っている。このとき、導波路を導波する光は、共振器とは共振しないため点欠陥内部に光エネルギーがトラップされることはない。よって、光は導波路を導波する。
【0158】
次に、電流制御手段807により点欠陥より成る共振器805へ注入するキャリア量を変化させると、媒質の屈折率変化を誘起する。この結果、図18に示すように共振周波数が高周波数側へシフトし周波数ω1の共振周波数を持つようになる。すると、導波路を導波する光は共振器との共振条件を満たすため、光エネルギーは共振器内にトラップされ、光は導波路を導波しない。
【0159】
このように本実施例では、光変調素子を用いて、入力導波路から入力された光が出力導波路から出力するのを制御している。
【0160】
本実施例では、3次元フォトニック結晶を用いた場合について述べたが、もちろん2次元フォトニック結晶を用いても差し支えない。
【0161】
本実施例では以上のように、導波周波数をフィルタリング可能で高速変調可能な光変調素子を実現している。
【0162】
以上のように各実施例の光変調素子では、それを構成する材料としてTiO(酸化チタン)を主組成とする材料を用いている。
【0163】
TiOは、導電性、半導体性を有する材料である。TiO自体は、n型半導体であるが、TiOにNbなどの微量の金属をドープすることで導電性材料として機能する。また、TiOの強還元によって組成をTiO−xとすることで、p型の半導体特性を有する。
【0164】
本実施例ではn型TiOとp型TiOを接合することで、電流注入によるキャリア密度変化を誘起し、すなわち、キャリアプラズマ効果による屈折率変化を利用して高速な光変調を実現している。
【0165】
屈折率変化が誘起される速度は、キャリアの拡散速度によって決定され、ナノ秒オーダーの応答速度を実現可能である。
【0166】
キャリア密度変化に対する屈折率変化は、物質によって異なるが、キャリア密度変化が1018cmに対して、0.2%程度の屈折率変化が得られることが知られている。
【0167】
絶縁体材料により電流狭窄構造を設けることで、注入したキャリアを効率よく集中させることができる。また、キャリアの閉じ込め効果をより効果的にするための構造として、単一へテロ構造や二重ヘテロ構造を用いている。
【0168】
加えて、光変調素子の材料としては、屈折率が高いことが望まれている。
【0169】
特にフォトニックバンドギャップ効果を有効に使用する場合には、材料の屈折率が2以上であることが望ましい。
【0170】
そこで、可視光領域で透明、かつ、高屈折率材料である材料として、TiOを用いている。
【0171】
TiOは光通信波長帯での材料損失も低いこと、光ファイバーとの屈折率整合性に優れていること等の特長がある。更にスパッタ法、蒸着法、パルスレーザ堆積法、ゾルゲル法などの既存技術で安定した成膜ができること、熱による環境変化に強いこと、等の特長がある。
【0172】
また、作製プロセスの面から鑑みると、TiOを主組成とする材料を用い、素子を構成する材料の主組成を1種類とすることで、異種材料の充填や積層などの工程を排除できる。このことにより、異種材料密着の不完全性や内部応力の差異により生じる歪を回避し、安定動作する素子を提供している。
【0173】
本実施例では以上の構成により、可視光領域にて動作可能で、かつ、高速に光制御可能である光変調素子を達成している。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【図1】実施例1の光変調素子の概略図
【図2】実施例1の光変調素子の概略図
【図3】実施例1の光変調素子の概略図
【図4】実施例2の光変調素子の概略図
【図5】実施例3の光変調装置の概略図
【図6】実施例4の3次元フォトニック結晶の概略図
【図7】図6の3次元フォトニック結晶の断面図
【図8】3次元フォトニック結晶のフォトニックバンドの説明図
【図9】実施例4の導波路の概略図
【図10】導波路の導波モードの説明図
【図11】モードギャップの説明図
【図12】実施例4の光変調素子の概略図
【図13】実施例4の光変調素子の概略図
【図14】実施例4の光変調素子の概略図
【図15】実施例5の光変調素子の概略図
【図16】実施例5の光変調素子の概略図
【図17】実施例5の3次元フォトニック結晶共振器の説明図
【図18】図17の共振周波数制御の説明図
【符号の説明】
【0175】
101、201、301、431‥‥基板
102、103、202、302‥‥フォトニック結晶
104〜107、203〜206、303〜308、433〜438‥‥導波路
108、207、310、46‥‥電流制御手段
11‥‥分岐部
12‥‥結合部
105、208、309‥‥屈折率変調領域
1022、1032‥‥キャリア伝導領域
109‥‥絶縁部材
1021、1031‥‥電極
41‥‥光源部
42‥‥光結合部
43‥‥光変調素子
411、412‥‥光源
A‥‥3次元フォトニック結晶
501〜512‥‥層
501a、507a、504a、510a‥‥柱状構造
502a、503a、505a、506a、508a、509a、511a、512a‥‥離散構造
B‥‥導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトニック結晶の欠陥により形成された導波路と、該導波路へキャリアを伝導するキャリア伝導領域と、該キャリア伝導領域にキャリアを注入する電極と、前記導波路へ伝導されるキャリア量を制御するための電流制御手段とを有し、前記フォトニック結晶および前記電極を構成する材料の主組成はTiO2であって、前記電流制御手段は、前記導波路へ伝導されるキャリア量に応じて前記導波路を形成する媒質の屈折率を変化させることにより前記導波路を導波する光を変調することを特徴とする光変調素子。
【請求項2】
前記キャリア伝導領域はn型TiO2とp型TiO2で前記導波路を挟むように構成されており、前記n型TiO2とp型TiO2で挟まれた領域のうち前記導波路以外の領域には絶縁部材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光変調素子。
【請求項3】
前記電極はNbがドープされたTiO2で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光変調素子。
【請求項4】
前記フォトニック結晶は、該フォトニック結晶よりも抵抗値が高い材料で構成された基板上に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光変調素子。
【請求項5】
前記導波路は1つの導波路から2つの導波路に分岐されたのち1つの導波路へ合成されており、分岐された一方の導波路を形成する媒質の屈折率を変化させることにより該一方の導波路を導波する光が変調されることを特徴とする請求項1乃至4に記載の光変調素子。
【請求項6】
2つの導波路のうち一方の導波路を形成する媒質の屈折率を変化させて該一方の導波路を導波する光が変調されることにより、前記2つの導波路を導波する光が分岐される分岐部を介して、前記2つの導波路のいずれかの導波路へ選択的に光が導波されることを特徴とする請求項1乃至4に記載の光変調素子。
【請求項7】
フォトニック結晶の欠陥により形成された導波路と、フォトニック結晶の欠陥により形成された共振器と、該共振器へキャリアを伝導するキャリア伝導領域と、該キャリア伝導領域にキャリアを注入する電極と、前記共振器へ伝導されるキャリア量を制御するための電流制御手段とを有し、前記フォトニック結晶と前記電極を構成する材料の主組成はTiO2であって、前記電流制御手段は、前記共振器へ伝導されるキャリア量に応じて前記共振器を形成する媒質の屈折率を変化させることにより前記共振器の共振モード周波数を変化させて、前記導波路から前記共振器への導波を制御することを特徴とする光変調素子。
【請求項8】
フォトニック結晶の欠陥により形成された導波路と、該導波路の周囲に設けられた屈折率変調領域と、該屈折率変調領域へキャリアを伝導するキャリア伝導領域と、該キャリア伝導領域にキャリアを注入する電極と、前記屈折率変調領域へ伝導されるキャリア量を制御するための電流制御手段とを有し、前記フォトニック結晶および前記電極を構成する材料の主組成はTiO2であって、前記電流制御手段は、前記屈折率変調領域へ伝導されるキャリア量に応じて前記屈折率変調領域を形成する媒質の屈折率を変化させることにより前記導波路を導波する光を変調することを特徴とする光変調素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項の光変調素子と、光源部と、前記光変調素子と前記光源を結合する光結合部を有することを特徴とする光変調装置。
【請求項10】
前記光源部あるいは前記光結合部の少なくとも一部はフォトニック結晶で構成されていることを特徴とする請求項9に記載の光変調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−25537(P2009−25537A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188278(P2007−188278)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】