説明

光学ガラス

【課題】酸化ビスマスを含有し、光弾性定数が小さい光学ガラスを提供する。
【解決手段】モル%で、Biを0.5〜80%含有し、546nmにおける光弾性定数が0〜2.0×10−5(nm・cm−1・Pa−1)である光学ガラスである。更に、SiOとBの合計量を3〜70%含有し、厚みが10mmの前光学ガラスにおいて、546nmの波長における透過率が70%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ビスマスを含有する光学ガラスに関し、更に詳しくは、光弾性定数(β)が小さい光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、偏光を利用した光学系、すなわち偏光光学系は、液晶プロジェクタをはじめとして様々な分野において利用されている。例えば、偏光を空間的に変調する空間光変調素子や、S偏光とP偏光とを分離する偏光ビームスプリッタなどが液晶プロジェクタなどに利用されている。これらの偏光光学系においては、偏光特性をより高精度に制御することが望まれている。
【0003】
偏光光学系中の光学部品のうち、偏光ビームスプリッタや空間光変調素子などの偏光特性保持が要求される光偏光制御素子のプリズムや基板等の部材に光学的異方性を有する材料を用いると、透過した主光線とこれに直交する異常光線との間の位相差(光路差)が材料を透過する前と比較して変化し、偏光特性が保持できなくなるので、それらの素子には光学的に等方性を有する材料を使用する必要がある。
【0004】
十分にアニールされ、除歪された光学的等方性を有する従来の光学ガラスを偏光光学系中の偏光特性の保持が要求される光学部品に用いた場合でも、機械的応力や熱的応力がそれらのガラスに加わったときに、ガラスの光弾性定数が大きいと光弾性効果による光学的異方性、すなわち複屈折性を示すようになり、その結果、所望の偏光特性が得難くなるという問題がある。上記機械的応力は、たとえば、熱膨張率がガラスのそれと異なる材料をガラスと接合したりすることにより生じ、また、上記熱的応力は、たとえば、周辺機器の発熱や、透過光のエネルギーを吸収することによるガラス自体の発熱により生じる。これらの応力がガラスに加わることによりガラスが示す複屈折性の大きさは光路差で示すことができる。光路差をδ(nm)、ガラスの厚さをd(cm)、応力をF(Pa)とすると下記の式(1)が成り立ち、光路差が大きいほど複屈折性が大きい。
【0005】
δ=β・d・F (1)
【0006】
上記式(1)における比例定数(β)は光弾性定数と呼ばれており、その値はガラスの種類によって異なる。上記式(1)に示すとおり、ガラスに加わる応力(F)およびガラスの厚さ(d)が同じ場合、光弾性定数(β)の絶対値が小さいガラスほど光路差(δ)、すなわち複屈折性が小さい。
【0007】
このような光弾性定数の小さいガラスとして、下記の特許文献1には、PbOを使わずに、P−BaO−Al系の低光弾性定数ガラスが開示されている。また、下記の特許文献2には、特定の量のBa、F及びNdを含有し、光弾性定数が非常に小さく、光学ガラス用途に有用な諸物性を有する光学ガラスが開示されている。また、下記の特許文献3には、SiO−PbO系のガラスに、TeOを添加した、所望の光学定数を有し、光学弾性定数の絶対値が小さい光学ガラスが開示されている。
【特許文献1】特開2000−34132号公報
【特許文献2】特開2005−37651号公報
【特許文献3】国際公開第WO01/040127号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1から3のガラスは、光弾性定数の小さいガラスとして、鉛を含有しないガラスについては検討されていなかった。鉛ガラスは、製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、コストが高くなるという問題点があり、鉛を含有しないガラスの開発が望まれている。Bi系のガラスは、ガラス転移点が低く、高屈折率高分散であるなど、多様な点で鉛ガラスと類似しているため、鉛を含有しないガラスとして、開発が期待されている。
【0009】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、偏光光学系部材や偏光制御素子基板に好適な、酸化ビスマスを含有し、光弾性定数が小さい光学ガラスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、光学ガラスの構成成分のうち、所定量のBi成分を含有する組成とすることにより、光弾性定数の小さい光学ガラスを作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) モル%で、Biを0.5%以上80%以下含有し、546nmにおける光弾性定数が0〜2.0×10−5(nm・cm−1・Pa−1)である光学ガラス。
【0012】
本発明の光学ガラスによれば、Biを所定量含有させることにより、光弾性定数を小さくさせることができる。
【0013】
(2) モル%で、SiOとBの含有量の合計が3〜70%である(1)記載の光学ガラス。
【0014】
この態様によれば、SiOとBは、ガラス形成酸化物であり、上記範囲内で含有させることにより、安定なガラス、化学的耐久性に優れた光学ガラスを提供することができる。
【0015】
(3) 厚みが10mmの前記光学ガラスにおいて、546nmの波長における透過率が70%以上である(1)または(2)記載の光学ガラス。
【0016】
この態様によれば、546nmにおける透過率が70%以上であるため、可視領域に高い透過性を有する。従って、光学ガラスとして好適に用いることができる。
【0017】
(4) モル%で、Biを3%以上80%以下、B及びSiOの合計量を5〜60%、RO及びRnOの合計量を5〜60%(RはZn,Ba,Sr,Ca,Mgからなる群より選択される1種以上を示し、RnはLi,Na,K,Csからなる群より選択される1種以上を示す。)、Sb及びAsの合計量を0〜5%の範囲で各成分を含有し、透過率70%を示す波長が550nm以下で、546nmにおける光弾性定数が0〜2.0×10−5(nm・cm−1・Pa−1)である光学ガラス。
【0018】
この態様によれば、上記成分組成により、光学ガラスを製造することで、可視域に高い透明性を有し、かつ、光弾性定数の小さい光学ガラスを提供することができる。
【0019】
(5) モル%で、BaO及び/又はSrOを1%以上含有する(1)から(4)いずれか記載の光学ガラス。
【0020】
この態様によれば、特に、BaO及び/又はSrOは光弾性定数を小さくする効果を有するため、光弾性定数の小さい光学ガラスを提供することができる。
【0021】
(6) B及び/又はSiOの一部又は全部をGeO又はPで置換してなる(2)から(5)いずれか記載の光学ガラス。
【0022】
この態様によれば、GeO及びP成分はガラス形成酸化物として、B及びSiO成分と同様の効果を有する。したがって、B及び/又はSiOの一部又は全部をGeO又はPと置換しても安定な光学ガラスを提供することができる。
【0023】
(7) モル%で、Al、Ga、Inの1種又は2種以上を合計0〜20%含有する(1)から(6)いずれか記載の光学ガラス。
【0024】
この態様によれば、Al、Ga、In成分は、ガラスの溶融性、化学的耐久性の向上に効果がある成分であり、ガラス安定性に優れた光学ガラスを提供することができる。
【0025】
(8) モル%で、Ln(LnはY,Ce,La,Eu,Gd,Tb,Dy,Yb,Luからなる群より選択される1種以上を示す。)を合計0〜50%含有する(1)から(7)いずれか記載の光学ガラス。
【0026】
この態様によれば、Ln成分は光弾性定数を小さくする効果を有するため、光弾性定数の小さい光学ガラスを提供することができる。
【0027】
(9) モル%で、ZrO、SnO、Nb、Ta、WOの1種又は2種以上を合計0〜20%含有する(1)から(8)いずれか記載の光学ガラス。
【0028】
この態様によれば、当該成分は、ガラスの屈折率を高め、化学的耐久性を向上させ、さらに光弾性定数を小さくする効果を有する成分である。したがって、ガラスの安定性に優れた、光弾性定数の小さい光学ガラスを提供することができる。
【0029】
(10) モル%で
Bi:0.5〜80%、及び/又は
SiO:0〜50%、及び/又は
:0〜70%、及び/又は
GeO:0〜20%、及び/又は
:0〜10%、及び/又は
Al:0〜4%、及び/又は
Ga:0〜20%、及び/又は
In:0〜20%、及び/又は
BaO:0〜50%、及び/又は
TiO:0〜20%、及び/又は
Nb:0〜20%、及び/又は
WO:0〜15%、及び/又は
Ta:0〜15%、及び/又は
ZrO:0〜10%、及び/又は
SnO:0〜10%、及び/又は
ZnO:0〜30%、及び/又は
MgO:0〜10%、及び/又は
CaO:0〜15%、及び/又は
SrO:0〜50%、及び/又は
LiO:0〜15%、及び/又は
NaO:0〜15%、及び/又は
O:0〜20%、及び/又は
Sb:0〜3%、及び/又は
As:0〜5%、及び/又は
F:0〜20%
を含有する光学ガラス。
【0030】
上記組成により光学ガラスを製造することで、光弾性定数の小さい光学ガラスを製造することができる。
【0031】
(11) (1)から(10)いずれか記載の光学ガラスからなる光偏光制御素子。
【0032】
この態様によれば、当該光学ガラスは光弾性定数の小さい光学ガラスであるため、熱や外力に起因する力が加わっても複屈折が生じにくく、光偏光制御素子として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の光学ガラスは、偏光光学系部材や偏光制御素子基板に適する、Biを含有した光弾性定数の小さい光学ガラスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、本発明の光学ガラスにおいて、具体的な実施態様について説明する。
【0035】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。各成分はモル%にて表現する。なお、本願明細書中においてモル%で表されるガラス組成は全て酸化物基準でのモル%で表されたものである。ここで、「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物のモル数の総和を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0036】
<必須成分、任意成分について>
Bi成分は、ガラスの安定性の向上、高屈折率高分散化、ガラス転移点(Tg)を下げる、及び、光弾性定数を小さくするため、本発明の目的を達成するのに欠かせない成分である。しかし、Bi成分を過剰に含有するとガラス安定性が低下しやすくなり、少なすぎると前記目的を達成することが困難になる。よって、Bi量の含有量の下限は、好ましくは0.5%、より好ましくは2%、最も好ましくは3%である。また、含有量の上限は好ましくは80%、より好ましくは70%、最も好ましくは60%である。
【0037】
または、SiO成分はガラス形成酸化物として欠くことができない成分であり、ガラスの失透性及び液相温度に対する粘性を高くするのに非常に効果がある成分である。また、SiO成分は化学的耐久性を向上させる効果を有するため、含有量が少なすぎると、ガラスの化学的耐久性が著しく低下する。これら成分の1種または2種合計の含有量の下限は3%とすることが好ましく、4%とすることが好ましく、さらに好ましくは、5%とすることが好ましい。また、含有量の上限を70%とすることが望ましく、65%とすることがより望ましく、さらに60%とすることが最も望ましい。この2つの成分は、単独でガラス中に導入しても本発明の目的を達成することができ、同時に使うとより安定なガラスが得られる。
【0038】
また、SiO成分の単独での含有量の上限は、好ましくは50%、より好ましくは45%、最も好ましくは40%である。B成分の単独での含有量の上限は、好ましくは70%、より好ましくは65%、最も好ましくは60%である。
【0039】
GeO成分は、SiO成分と同様な働きをするので、SiO成分の一部または全部を置換することが可能であるが、高価であるため、上限値を20%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。
【0040】
成分は、ガラスの着色の改善に効果がある成分であり、また、B、SiO成分と同様の働きをするので、B又はSiO成分の一部または全部を置換することが可能である。しかしその量が多すぎるとガラスの分相傾向が強くなる。従って、上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、1%とすることが最も好ましい。
【0041】
また、GeO、P成分は、B、SiO成分と置換して含有させる以外に、GeO、P成分をガラス組成中に添加し含有させることもできる。
【0042】
Al、Ga及びIn成分は、化学的耐久性を改善させるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎるとガラスの溶融性が悪くなり失透性が増し、ガラス屈伏点を高くする傾向にある。したがって、Al、Ga、Inの1種又は2種以上の合計量の上限値を20%とすることが好ましく、10%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。また、各成分の上限値は、Alにおいては、4%とすることが好ましく、3%とすることがより好ましく、1%とすることが最も好ましい。Gaにおいては、20%とすることが好ましく、10%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。Inにおいては、20%とすることが好ましく、10%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0043】
TiO成分は、ガラスの屈折率を高め、さらにガラスの化学的耐久性を向上させるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎると逆にガラスの失透性が増す傾向にある。従って、20%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。
【0044】
Nbは、ガラスの屈折率を高め、高分散を寄与し、ガラスの失透性を改善させるのには効果的な任意成分であるが、その量が多すぎるとガラスの溶融性が悪化する傾向にある。従って、20%以下とすることが好ましく、15%以下とすることがより好ましく、8%以下とすることが最も好ましい。
【0045】
WOは、ガラスの屈折率を高め、高分散を寄与し、ガラスの屈伏点を下げるのに効果的な任意成分であるが、その量が多すぎるとガラスの分相が増す傾向にある。従って、15%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。
【0046】
Taは、ガラスの屈折率を高め、化学的耐久性を改善させるのには効果的な任意成分であるが、その量が多すぎるとガラスの分相が増す傾向にある。上限値を15%とすることが好ましく、10%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。さらに好ましくは含まない。
【0047】
ZrOは、化学的耐久性を改善させるのには効果的な任意成分であるが、その量が多すぎるとガラスの失透傾向が増す傾向になりやすい。上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、2%とすることが最も好ましい。さらに好ましくは含まない。
【0048】
SnOは、化学的耐久性の向上に効果がある任意成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性が低下する傾向にある。従って、上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、1%とすることが最も好ましい。さらに好ましくは含まない。
【0049】
Nb、WO、Ta、ZrO、SnO成分はガラスの屈折率を高め、化学的耐久性を向上させ、さらに光弾性定数を小さくさせるのに効果的な成分である。しかし、その合計量が多すぎると、ガラスの安定性が低下しやすくなる。従って、これらの成分の1種又は2種以上の合計量の上限値を20%とすることが好ましく、10%とすることがより好ましく、8%とすることが最も好ましい。
【0050】
RO成分(RはZn,Ba,Sr,Ca,Mgからなる群より選択される1種以上を示す。)はガラスの溶融性、耐失透性の向上及び化学的耐久性の向上に効果がある。好ましくはこれらのRO(R=Zn,Ba,Ca,Mg,Sr)の合計量の下限を0.1%以上とすることが好ましく、5%以上とすることがより好ましく、10%以上とすることが最も好ましい。
【0051】
ZnO成分は、ガラスの溶融性と安定性の向上に効果があるが、その量が多すぎると失透が発生しやすくなる。従って、上限値を30%とすることが好ましく、20%とすることがより好ましく、15%とすることが最も好ましい。
【0052】
CaO成分は、ガラスの溶融性を改善させるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎると失透が発生しやすくなる。従って、上限値を15%とすることが好ましく、10%とすることがより好ましい。
【0053】
BaO成分は、光弾性定数を小さくする効果を有する。また、ガラスの失透性及び着色を改善させるのには効果的な成分である。しかし、その量が多すぎると屈折率が低くなる。したがって、上限値を50%とすることが好ましく、45%とすることがより好ましく、40%とすることが最も好ましい。下限値については、0.1%以上とすることが好ましく、1%以上とすることが好ましく、3%以上とすることが最も好ましい。ただし、0%でも差し支えない。
【0054】
MgO成分は、光弾性定数を大きくする作用が高いため、上限値を10%とすることが好ましく、7%とすることが好ましく、5%とすることが最も好ましい。さらに好ましくは含まない。
【0055】
SrO成分は、光弾性定数を小さくする効果を有し、ガラスの失透性を改善させるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎると再加熱試験における失透が発生しやすくなる。従って、上限値を50%とすることが好ましく、40%とすることがより好ましく、30%とすることが最も好ましい。
【0056】
RnO成分(RnはLi,Na,K,Csからなる群より選択される1種以上を示す。)はガラスの溶融性と安定性の向上に効果がある成分である。しかし、その量が多すぎると化学的耐久性が低下しやすく、光弾性定数が大きくなりやすい。従って、RnO成分の合計量の上限値を40%とすることが好ましく、30%とすることがより好ましく、20%とすることが最も好ましい。
【0057】
なお、良好なガラス溶融性と安定性を得るとともに、本発明の目的である低光弾性定数を維持するためには、RO及びRnOの合計量の下限値を5%以上とすることが好ましく、10%以上とすることがより好ましく、20%以上とすることが最も好ましい。また、上限値は60%とすることが好ましく、55%以下とすることがより好ましく、50%以下とすることが最も好ましい。
【0058】
LiOは、ガラスの溶融性を改善させ、再加熱試験における失透の発生防止に効果的な成分であるが、その量が多すぎると屈折率が下がってしまう。従って、上限値を15%とすることが好ましく、10%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0059】
NaOは、ガラスの失透性を改善させ、再加熱試験における失透の発生防止に効果的な成分であるが、その量が多すぎると屈折率が下がってしまう。従って、上限値を15%とすることが好ましく、10%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0060】
Oは、ガラスの失透性を改善させるのに効果的な成分であるが、その量が多すぎると屈折率が下がってしまい本発明の目的とする屈折率が得られにくくなる。従って、上限値を20%とすることが好ましく、15%とすることがより好ましく、10%とすることが最も好ましい。
【0061】
Ln成分(Lnは、Y,Ce,La,Eu,Gd,Tb,Dy,Yb,Luからなる群より選択される1種以上を示す。)は、ガラスの化学的耐久性を向上し、光弾性定数を小さくさせるのに効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性を低下させやすい。従って、それらの合計量の上限値を50%とすることが好ましく、40%とすることがより好ましく、30%とすることが最も好ましい。また、Ln成分それぞれの成分ついての含有量の上限は特になく、Ln成分全体で上記範囲内で含有されていれば良い。
【0062】
Ln成分の内、Y,La,Gd,Yb成分は、上記の効果以外にガラスの透明性の向上にも効果を有する成分であり、特に重要な成分である。
【0063】
Sb、As成分は、ガラス溶融の脱泡のために任意に添加することができる成分である。Sb及びAsの合計量で、5%以下で十分に効果を有する。また、Asは、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要がある。従って、Sb及びAsの合計量で、上限値を5%とすることが好ましく、3%とすることがより好ましく、1%とすることが最も好ましい。また、Sb成分の上限値は3%とすることが好ましく、2%とすることがより好ましく、1%とすることが最も好ましい。
【0064】
F成分は、光弾性定数を小さくする効果が高いが、その量が多すぎると、ガラスの安定性が低下しやすくなる。従って、上限値を20%とすることが好ましく、10%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0065】
<含有させるべきでない成分について>
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Tiを除くV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合においても、ガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じさせる。したがって、可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0066】
Tl成分は、ガラス溶融性向上及び光弾性定数を小さくしつつ屈折率及びアッベ数を調整できる効果を有するため、任意に含有することができる。しかし、Pb、Th、Cd、Tl、Osの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあるため、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。したがって、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まないことが好ましい。
【0067】
本発明は、各成分をモル%で、以下の範囲で含有させることが好ましい。
Bi:0.5〜80%、及び/又は
SiO:0〜50%、及び/又は
:0〜70%、及び/又は
GeO:0〜20%、及び/又は
:0〜10%、及び/又は
Al:0〜4%、及び/又は
Ga:0〜20%、及び/又は
In:0〜20%、及び/又は
BaO:0〜50%、及び/又は
TiO:0〜20%、及び/又は
Nb:0〜20%、及び/又は
WO:0〜15%、及び/又は
Ta:0〜15%、及び/又は
ZrO:0〜10%、及び/又は
SnO:0〜10%、及び/又は
ZnO:0〜30%、及び/又は
MgO:0〜10%、及び/又は
CaO:0〜15%、及び/又は
SrO:0〜50%、及び/又は
LiO:0〜15%、及び/又は
NaO:0〜15%、及び/又は
O:0〜20%、及び/又は
Sb:0〜3%、及び/又は
As:0〜5%、及び/又は
F:0〜20%
【0068】
本発明の光学ガラスは、546nmの波長における透過率は70%以上であり、光弾性定数が0〜2.0×10−5(nm・cm−1・Pa−1)の光学ガラスを得ることができる。
【0069】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、通常の光学ガラスを製造する方法であれば、特に限定されないが、例えば、以下の方法により製造することができる。各出発原料(酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、フッ化物塩など)を所定量秤量し、均一に混合する。混合した原料を石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入し、粗溶融の後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に投入し、溶解炉で850〜1350℃で1〜10時間熔解する。その後、攪拌、均質化した後、適当な温度に下げて金型等に鋳込み、ガラスを製造する。
【0070】
本発明の光学ガラスは、典型的には偏光光学系部材や偏光制御素子基板の用途に使用される。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
表1に示す実施例1から7の組成(単位はモル%)で、合計量が400gになるように原料を秤量し、均一に混合した。石英坩堝と白金坩堝を用いて850〜1100℃で2〜3時間熔解した後、700〜900℃に下げて、更に約1時間、保温してから金型に鋳込み、ガラスを作製した。
【0073】
実施例1から7の光学ガラスについて、屈折率[nd]、ガラス転移点[Tg]、光弾性定数の測定を行った。
【0074】
屈折率[nd]については、徐冷降温速度を−25℃/Hrとして得られたガラスについて測定した。
【0075】
ガラス転移点[Tg]については、熱膨張測定機で昇温速度を8℃/minにして測定した。
【0076】
光弾性定数については、試料形状を対面研磨した直径25mm、厚さ8mmの円板状とし、所定方向に圧縮荷重を加え、ガラスの中心に生じる光路差を測定し、前記式(1)により求めた。測定波長は、546nmで行い、測定光源は超高圧水銀灯を使用した。
【0077】
【表1】

【0078】
表1に見られるとおり、実施例1から7の光学ガラスはすべて、光弾性定数が0〜2.0×10−5(nm・cm−1・Pa−1)の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、Biを0.5%以上80%以下含有し、546nmにおける光弾性定数が0〜2.0×10−5(nm・cm−1・Pa−1)である光学ガラス。
【請求項2】
モル%で、SiOとBの含有量の合計が3〜70%である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
厚みが10mmの前記光学ガラスにおいて、546nmの波長における透過率が70%以上である請求項1または2記載の光学ガラス。
【請求項4】
モル%で、Biを3%以上80%以下、B及びSiOの合計量を5〜60%、RO及びRnOの合計量を5〜60%(RはZn,Ba,Sr,Ca,Mgからなる群より選択される1種以上を示し、RnはLi,Na,K,Csからなる群より選択される1種以上を示す。)、Sb及びAsの合計量を0〜5%の範囲で各成分を含有し、透過率70%を示す波長が550nm以下で、546nmにおける光弾性定数が0〜2.0×10−5(nm・cm−1・Pa−1)である光学ガラス。
【請求項5】
モル%で、BaO及び/又はSrOを1%以上含有する請求項1から4いずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
及び/又はSiOの一部又は全部をGeO又はPで置換してなる請求項2から5いずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
モル%で、Al、Ga、Inの1種又は2種以上を合計0〜20%含有する請求項1から6いずれか記載の光学ガラス。
【請求項8】
モル%で、Ln(LnはY,Ce,La,Eu,Gd,Tb,Dy,Yb,Luからなる群より選択される1種以上を示す。)を合計0〜50%含有する請求項1から7いずれか記載の光学ガラス。
【請求項9】
モル%で、ZrO、SnO、Nb、Ta、WOの1種又は2種以上を合計0〜20%含有する請求項1から8いずれか記載の光学ガラス。
【請求項10】
モル%で
Bi:0.5〜80%、及び/又は
SiO:0〜50%、及び/又は
:0〜70%、及び/又は
GeO:0〜20%、及び/又は
:0〜10%、及び/又は
Al:0〜4%、及び/又は
Ga:0〜20%、及び/又は
In:0〜20%、及び/又は
BaO:0〜50%、及び/又は
TiO:0〜20%、及び/又は
Nb:0〜20%、及び/又は
WO:0〜15%、及び/又は
Ta:0〜15%、及び/又は
ZrO:0〜10%、及び/又は
SnO:0〜10%、及び/又は
ZnO:0〜30%、及び/又は
MgO:0〜10%、及び/又は
CaO:0〜15%、及び/又は
SrO:0〜50%、及び/又は
LiO:0〜15%、及び/又は
NaO:0〜15%、及び/又は
O:0〜20%、及び/又は
Sb:0〜3%、及び/又は
As:0〜5%、及び/又は
F:0〜20%
を含有する光学ガラス。
【請求項11】
請求項1から10いずれか記載の光学ガラスからなる光偏光制御素子。

【公開番号】特開2007−106627(P2007−106627A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298367(P2005−298367)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】