説明

光学フィルム、画像表示装置及び光学フィルムの製造方法

【課題】パッシブ方式による3次元画像表示に適用するパターン位相差フィルム、モスアイ方式による反射防止フィルム等の光学フィルムに関して、従来に比して一段と長期の安定性を確保する。
【解決手段】透明フィルムによる基材2と、電離放射線硬化性樹脂による賦型樹脂層4との間に、少なくとも基材2の1成分と電離放射線硬化性樹脂とを含んでいる緩衝層3を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッシブ方式による3次元画像表示に適用するパターン位相差フィルム、モスアイ方式による反射防止フィルム等の光学フィルム、この光学フィルムを使用した画像表示装置、この光学フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイは、各種の光学フィルムをパネル面に配置している。またこの種の光学フィルムの中には、例えばパターン位相差フィルム、モスアイ方式の反射防止フィルムのように、紫外線硬化性樹脂により転写用金型に形成された微細な凹凸形状を転写して作製されるものがある。
【0003】
すなわちパターン位相差フィルムは、パッシブ方式の3次元画像表示に適用される光学フィルムである。パッシブ方式では、画像表示パネルの垂直方向に連続する画素を、順次交互に、右目用及び左目用に割り当て、それぞれ右目用の映像を表示する右目用画素及び左目用の映像を表示する左目用画素に振り分け、それぞれ右目用及び左目用の画像データで駆動する。パターン位相差フィルムは、この右目用及び左目用の画素からの直線偏光による出射光を、右目用画素及び左目用画素で回転方向の異なる円偏光に変換して出射する。これによりパターン位相差フィルムは、対応する偏光フィルタを備えてなる眼鏡(メガネ)を装着するだけで、右目用の映像と左目用の映像とをそれぞれ選択的に視聴者の右目及び左目に提供することができるように、画像表示パネルからの出射光に対応する位相差を与える。なおこれにより液晶表示パネルの画面は、短辺が垂直方向で長辺が水平方向となる帯状の領域により、右目用の映像を表示する領域と左目用の映像を表示する領域とに交互に区分されることになる。
【0004】
パターン位相差フィルムは、透明フィルムによる基材の表面に、配向規制力を制御した配向膜が作製され、さらに液晶材料が塗布される。パターン位相差フィルムは、この液晶材料の配列が配向膜の配向規制力によりパターンニングされ、これにより画像表示パネルからの出射光に対応する位相差を与える。この配向膜は、例えば特許文献1、2のように種々の作製手法があり、この種々の作製手法の1つが、転写用金型の表面に形成された微細な凹凸形状を紫外線硬化性樹脂により転写して作製する方法である。
【0005】
またモスアイ(moth eye)方式の反射防止フィルムは、凹凸の周期が可視光の最短波長380nm以下に制御された微細な凹凸パターンを表面に形成することによって反射防止を図るものである(特許文献1〜6参照)。この方式の反射防止フィルムは、フィルムの厚み方向に屈折率を連続的に変化させることにより、該反射防止フィルム表面とこれに隣接する空気層との間の屈折率の不連続界面を消失させ、外来光の反射を防止する。
【0006】
このモスアイ方式の反射防止フィルムは、転写用金型の表面に形成された微細な凹凸形状を透明フィルムからなる基材上の紫外線硬化性樹脂層の表面に転写して作製することができる。
【0007】
このような各種の光学フィルムは、長期の安定性に優れていることが求められる。特に近年、この種の光学フィルムの配置対象は、急激に軽量化されていることにより、過去の陰極線管方式によるディスプレイ装置の場合では予想もつかない過酷な環境に暴露されることがある。この種の光学フィルムは、このような過酷な環境下においても、充分に長期の安定性に優れること、即ち各種物性及び性能、代表的には基材と配向膜間或いは基材と凹凸パターン層との間の密着性、が経時的に維持されることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−49865号公報
【特許文献2】特開2010−152296号公報
【特許文献3】特表2001−517319号公報
【特許文献4】特開2004−205990号公報
【特許文献5】特開2004−287238号公報
【特許文献6】特開2001−272505号公報
【特許文献7】特開2002−286906号公報
【特許文献8】国際公開第2006/059686号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、転写用金型に形成された微細形状を転写して作製される光学フィルムに関して、従来に比して一段と長期の安定性を確保できるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、透明フィルムによる基材と、紫外線硬化性樹脂に代表される電離放射線硬化性樹脂による賦型樹脂層との間に、少なくとも基材の1成分と電離放射線硬化性樹脂とを含んでいる緩衝層を配置する、との着想に至り、本発明を完成するに至った。
【0011】
具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0012】
(1) 透明フィルム材による基材上に、緩衝層を介して硬化した電離放射線硬化性樹脂による賦型樹脂層が設けられ、前記賦型樹脂層の表面に凹凸形状が形成されており、前記緩衝層が、少なくとも前記基材の1成分と、前記電離放射線硬化性樹脂とを含んでいる光学フィルム。
【0013】
(1)によれば、少なくとも基材の1成分と、電離放射線硬化性樹脂とを含んでいる緩衝層が、基材と電離放射線硬化性樹脂による賦型樹脂層との間に介在することにより、従来に比して一段と長期の安定性を確保することができる。
【0014】
(2) (1)において、前記緩衝層の厚みが0.7μm以上である。
【0015】
(2)によれば、充分な密着力を確保することができる。
【0016】
(3) (1)、又は(2)において、前記緩衝層に含まれる前記基材の成分は、
前記基材から前記緩衝層に係る電離放射線硬化性樹脂層に浸透した成分である。
【0017】
(3)によれば、基材からの成分の浸透により緩衝層を作製することができる。
【0018】
(4) (1)、(2)、又は(3)において、前記賦型樹脂層は、前記凹凸形状により表面に配向膜が形成され、前記光学フィルムは、前記賦型樹脂層の上に位相差層が設けられ、画像表示パネルのパネル面に配置されて、前記配向膜による配向規制力により前記位相差層で、前記画像表示パネルからの出射光に対応する位相差を与えるパターン位相差フィルムである。
【0019】
(4)によれば、より具体的に、パターン位相差フィルムに適用して、従来に比して一段と長期の安定性を確保することができる。
【0020】
(5) (1)、(2)、又は(3)において、前記賦型樹脂層は、前記凹凸形状により表面に可視光の波長に比して周期の短い凹凸パターンが形成され、前記光学フィルムは、画像表示パネルのパネル面に配置されて、前記凹凸パターンにより外来光の反射を防止する反射防止フィルムである。
【0021】
(5)によれば、モスアイ方式による反射防止フィルムに適用して、従来に比して一段と長期の安定性を確保することができる。
【0022】
(6) (1)、(2)、(3)、(4)、又は(5)において、前記基材が、セルローストリアセテートであり、前記電離放射線硬化性樹脂が、アクリル系の樹脂である。
【0023】
(6)によれば、より具体的な構成により、従来に比して一段と長期の安定性を確保することができる。
【0024】
(7) (1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)の何れかに記載の光学フィルムがパネル面に配置された画像表示装置。
【0025】
(7)によれば、長期の安定性を確保した光学フィルムによる画像表示装置を提供することができる。
【0026】
(8) 透明フィルムによる基材上に電離放射線硬化性樹脂を塗布する電離放射線硬化性樹脂の塗布工程と、
前記基材に塗布した電離放射線硬化性樹脂に転写用金型を押し付けて電離放射線を照射することにより前記電離放射線硬化性樹脂を硬化させ、前記転写用金型に形成された凹凸形状を前記電離放射線硬化性樹脂の表面に転写する賦型工程とを備え、
前記基材の少なくとも1成分を前記基材より前記電離放射線硬化性樹脂に浸透させて、前記電離放射線硬化性樹脂の前記基材側に、少なくとも前記基材の1成分と、前記電離放射線硬化性樹脂とを含んでいる緩衝層を作製する。
【0027】
(8)によれば、少なくとも基材の1成分と、電離放射線硬化性樹脂とを含んでいる緩衝層を、基材と電離放射線硬化性樹脂による賦型樹脂層との間に作製することができることにより、従来に比して一段と長期の安定性を確保することができる光学フィルムを作製することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、パッシブ方式による3次元画像表示に適用するパターン位相差フィルム、モスアイ方式による反射防止フィルム等の光学フィルムに関して、従来に比して一段と長期の安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態に係るパターン位相差フィルムを示す図である。
【図2】図1のパターン位相差フィルムの製造工程を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る反射防止フィルムを示す図である。
【図4】第3実施形態に係るパターン位相差フィルムの電子顕微鏡による断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0031】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係るパターン位相差フィルムを示す図である。この実施の形態に係る画像表示装置は、このパターン位相差フィルムがパネル面に配置され、パッシブ方式により3次元画像を表示する。
【0032】
ここでパターン位相差フィルム1は、透明フィルム材による基材2に緩衝層3、賦型樹脂層4、位相差層5が順次設けられる。パターン位相差フィルム1は、位相差層5が液晶材料により形成される。またさらに賦型樹脂層4の表面形状により配向規制力を制御した配向膜6が形成され、この配向膜6の配向規制力により位相差層5を構成する液晶材料の配向をパターンニングする。なおこの液晶分子の配向を図1では細長い楕円により示す。このパターンニングにより、パターン位相差フィルム1は、画像表示パネルにおける画素の割り当てに対応して、一定の幅により、右目用の領域Aと、左目用の領域Bとが順次交互に帯状に形成され、右目用及び左目用の画素からの出射光にそれぞれ対応する位相差を与える。なおパターン位相差フィルム1は、この図1に示す基本構成に加えて、粘着層、セパレータフィルム、反射防止フィルム防止膜等が必要に応じて設けられる。
【0033】
賦型樹脂層4は、電離放射線硬化性樹脂の硬化により転写用金型の表面に形成された微細な凹凸形状をその表面に転写した樹脂層である。配向膜6は、この賦型樹脂層4の表面に転写して作製された微細な凹凸形状により作製される。ここでこの転写用金型の微細な凹凸形状は、ラビング等の手法により原盤の表面にスジ状の模様を密に作製して形成され、このすじの延長方向が、右目用及び左目用の領域A及びBで、90度異なる方向となるように、かつ各領域の延長方向に対して45度傾くように形成される。なおこの各領域の延長方向に対する傾きにあっては、基材2のリタデーションが無視できない程度に大きい場合には、リタデーション値に応じて、適宜、増減される。
【0034】
緩衝層3は、当該パターン位相差フィルム1の長期の安定性を向上する目的で設けられる。このため緩衝層3は、少なくとも基材2の1成分と、賦型樹脂層4を構成する電離放射線硬化性樹脂とを含む材料により作製される。すなわちこの実施形態のように、基材2と、賦型樹脂層4との間に、少なくとも基材2の1成分と、賦型樹脂層4を構成する電離放射線硬化性樹脂とを含む緩衝層3を設ける場合にあっては、従来の陰極線管によるディスプレイ装置では予測し得ないような過酷な条件に晒される場合であっても、この緩衝層3により基材2及び電離放射線硬化性樹脂膜4間の境界を安定に保持することができ、これにより長期の安定性を向上することができる。
【0035】
より具体的に、この実施形態では、基材2にTAC(セルローストリアセテート)が適用され、賦型樹脂層4の電離放射線硬化性樹脂にアクリル系の樹脂材料が適用され、これにより緩衝層3は、賦型樹脂層4を構成する電離放射線硬化性樹脂にセルローストリアセテートを添加した材料により作製される。
【0036】
図2は、このパターン位相差フィルム1の製造工程を示す略線図である。この製造工程10は、基材2がロールにより提供され、この基材2を供給リール11から供給する。製造工程10は、電離放射線硬化性樹脂の塗布工程12において、この基材2に順次電離放射線硬化性樹脂を塗布する。より具体的に、この塗布工程12は、グラビアコートの手法を適用して乾燥膜厚5〔μm〕の膜厚となるように電離放射線硬化性樹脂を塗布する。このためこの塗布工程12では、ローラ15Aによりガイドして基材2をシリンダーロール16及びバックロール15に導く。さらにこれらシリンダーロール16及びバックロール15により基材2を挟持して搬送し、インクパン13に保持された塗布液14をシリンダーロール16により塗布する。なお塗布液14は、日本合成化学社製UV1700B(固形分100%)と共栄社化学社製ライトアクリレートPE-3A(ペンタエリスリトールトリアクリレート)(固形分100%)を質量比1:1混合し、さらに光重合開始剤であるBASF
社製ルシリンTPOをUV1700BとPE−3Aの合計量に対して4%添加し、希釈液により粘度を調整して作製される。希釈液は、メチルエチルケトンとメチルイソブチルケトンとを質量比4:1により混合した混合液を適用した。これらによりこの実施形態においては、塗布液を固形分45%、2500mPa・sに設定した。なおこれらの各種材料、塗布条件は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々に変更可能であることは言うまでも無い。
【0037】
この製造工程10は、続く乾燥工程17において、電離放射線硬化性樹脂を乾燥させる。このため乾燥工程17は、図示しない反転ローラにより基材2の上下を逆転させた後、乾燥機18に導き、ここで100℃により10分間乾燥させ、半乾きの状態で次工程に送出する。
【0038】
続いてこの製造工程10は、賦型工程19において、転写用金型の表面に形成された微細な凹凸形状を電離放射線硬化性樹脂の表面に転写する。すなわちこの賦型工程19においては、円筒形状によるロール版20が転写用金型であり、このロール版20の表面に転写に供する微細な凹凸形状が形成されている。賦型工程19は、押圧ローラ21により電離放射線硬化性樹脂層をロール版20に押圧し、この状態で水銀燈からなる電離放射線照射装置23からの電離放射線としての紫外線を基材2側から照射し、電離放射線硬化性樹脂を硬化させる。また剥離ローラ24によりロール版20から基材2を剥離した後、電離放射線照射装置25からの紫外線を電離放射線硬化性樹脂側より照射し、これにより未硬化の電離放射線硬化性樹脂を硬化させる。なおここで電離放射線照射装置23による紫外線照射の条件は、350mJ/cmである。また電離放射線照射装置25による紫外線照射の条件は、300mJ/cmである。
【0039】
これらの一連の処理により、この製造工程10では、電離放射線硬化樹脂層に基材2側から基材2の成分(TAC)が浸透して電離放射線硬化性樹脂層の基材2側が緩衝層3となり、残りの電離放射線硬化性樹脂層が賦型樹脂層4となる。従ってこの実施形態において、緩衝層に含まれる基材2の成分は、その全てが基材2より電離放射線硬化性樹脂に浸透したものである。なおこのような判断は、当初の電離放射線硬化性樹脂層の膜厚5μmに対して、賦型樹脂層、緩衝層がそれぞれ膜厚3μm、2μmにより作製され、さらに基材が当初膜厚80μmに保持されていることから確認することができた。そして、基材2と緩衝層3との間には両層の界面が形成されている。またこの賦型樹脂層4の表面にロール版20に設けられた微細な凹凸形状が転写されて配向膜6が作製される。これによりこの製造工程10では、緩衝層3を設けない場合と同一の工程数により緩衝層3を作製し、緩衝層3設けることによる生産効率の低下を防止する。
【0040】
この製造工程10は、続いてダイ27により液晶材料を塗布した後、電離放射線照射装置28(照射条件は、300mJ/cm2)による紫外線の照射により液晶材料を硬化させ、巻き取りリール29に巻き取る。パターン位相差フィルム1は、この巻取りリール29に巻き取ったフィルム材に、必要に応じて粘着層、反射防止層等を形成した後、所望の大きさに切断して作製される。これによりパターン位相差フィルム1では、ロール版20を用いた凹凸形状の転写により、ロールにより提供される基材2を連続して処理して、簡易な製造工程で効率良く作製される。
【0041】
以上の構成によれば、透明フィルムによる基材2と、電離放射線硬化性樹脂による賦型樹脂層4との間に、少なくとも基材2の1成分と電離放射線硬化性樹脂とを含んでいる緩衝層3を配置することにより、従来に比して長期の安定性を確保することができる。
【0042】
より具体的に、賦型樹脂層により配向膜を作製するパターン位相差フィルムに適用して、従来に比してパターン位相差フィルムにおける長期の信頼性を確保することができる。
【0043】
またさらに基材にセルローストリアセテートを適用し、電離放射線硬化性樹脂にアクリル系の樹脂を適用することにより、より具体的な構成により長期の信頼性を確保することができる。
【0044】
なおここで電離放射線硬化性樹脂としては、電離放射線で架橋等の反応により重合硬化する各種のモノマー(単量体)及び/又はプレポリマーが用いられる。また上述のアクリル系の電離放射線硬化性樹脂としては、モノマーとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、等の単官能(メタ)アクリレート類、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート類等が挙げられる。なおここで(メタ)アクリレートとの表記は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。またプレポリマー(乃至オリゴマー)としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートプレポリマー等が挙げられる。
【0045】
またその他アクリル系以外にも、各種のモノマーやプレポリマーが使用可能である。例えば、カチオン重合性モノマーとして、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートなどの脂環式エポキシド類、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどグリシジルエーテル類、等が挙げられる。カチオン重合性プレポリマーとして、例えば、ノボラック系型エポキシ樹脂プレポリマー、芳香族ビニルエーテル系樹脂プレポリマー等が挙げられる。
【0046】
これらモノマー、又はプレポリマーは、要求される性能、塗布適性等に応じて、1種類単独で用いる他、モノマーを2種類以上混合したり、プレポリマーを2種類以上混合したり、或いはモノマー1種類以上とプレポリマー1種類以上とを混合して用いたりすることができる。
【0047】
電離放射線として、紫外線又は可視光線を採用する場合には、通常は、光重合開始剤を添加する。光重合開始剤としては、アクリル系のモノマー又はプレポリマーの場合には、ベンゾフェノン系、チオキサントン系、ベンゾイン系等の化合物が、又カチオン重合系のモノマー又はプレポリマーの場合には、メタロセン系、芳香族スルホニウム系、芳香族ヨードニウム系等の化合物が用いられる。これら光重合開始剤は、上記モノマー及び/又はプレポリマーからなる組成物100質量部に対して、0.1〜5質量部程度添加する。
尚、電離放射線としては、紫外線、又は電子線が代表的なものであるが、この他、可視光線、X線、γ線等の電磁波、或いはα線、各種イオン線等の荷電粒子線を用いることもできる。
【0048】
〔第2実施形態〕
図3は、本発明の第2実施形態に係る反射防止フィルムを示す図である。反射防止フィルム31は、透明フィルム材による基材2上に、緩衝層32、賦型樹脂層34が順次設けられ、この賦型樹脂層34の表面形状により、先端に行くほど径が細くなる高さが280nmの円錐台状の突起が縦横に100nm周期で多数配列してなる微細な凹凸パターン35が形成される。反射防止フィルム31は、この微細な凹凸パターン35により厚み方向に徐々に屈折率が変化するように形成され、モスアイ方式により広い波長範囲で外来光の反射を防止する。
【0049】
ここで基材2、緩衝層32、賦型樹脂層34は、第1の実施形態と同一の材料が適用されて、第1の実施形態と同様に作製される。
【0050】
これによりこの実施形態では、賦型樹脂層により転写する凹凸形状がモスアイ方式の反射防止フィルムに係る凹凸形状である場合でも、第1実施形態と同様に長期の安定性を確保することができる。
【0051】
〔第3実施形態〕
この実施形態では、図1について上述したパターン位相差フィルムにおいて、賦型樹脂層の厚みD1を2.3μmに設定し、賦型樹脂層の厚みD2を0.7μm以上の1.5μmに設定した。なおこの設定は、電離放射線硬化性樹脂の塗布工程において、基材に塗布する塗布液の組成、塗布量を調整することにより実行した。なおこの実施形態では、この塗布工程に係る構成が異なる点を除いて、第1実施形態と同一に構成される。これによりこの実施形態では、充分な密着力を確保する。
【0052】
またこれによりこの実施形態では、賦型樹脂層の厚みD1を、緩衝層の厚みD2で割り算した値D1/D2を値1.53に設定し、これにより賦型樹脂層の密着力に関して充分な強度を確保し、さらには充分な柔軟性を確保した。
【0053】
すなわち種々の実験により緩衝層の厚みに関する最適範囲を検討した結果によれば、緩衝層の厚みが0.6μm以下になると、充分な密着力を確保することが困難になることが判った。これによりこの実施形態のように、賦型樹脂層の厚みD2を0.7μm以上に設定して充分な密着力を確保することができる。なおここで密着力は、日本工業規格JIS K5600−5−6で規定された付着力の試験方法に従った試験により測定した。但し、格子パターンは、10×10mmの升目により作製した。
【0054】
また緩衝層の厚みが2.0μm以上になると、緩衝層にクラックが発生し、これにより柔軟性が劣化することが判った。この柔軟性は、いわゆるマンドレル試験機を使用して確認した。
【0055】
これらの試験により緩衝層の厚みD2について最適範囲を検討したところ、緩衝層の厚みが0.7μm以上であることを前提に、賦型樹脂層の厚みD1を、緩衝層の厚みD2で割り算した値D1/D2が、1.0以上、7.0以下の場合に、充分な密着力、柔軟性を確保できることが判った。またこの値D1/D2が1.0以上、7.0以下でない場合であっても、値D1/D2が0.5以上、15.0以下であれば、ほぼ実用上問題とならない程度に密着力、柔軟性を確保できることが判った。
【0056】
これによりこの実施形態では、賦型樹脂層の厚みD1を、緩衝層の厚みD2で割り算した値D1/D2を値1.53に設定して、この値D1/D2を0.5以上に設定したことにより、充分な密着力、柔軟性を確保することができる。
【0057】
なお上述したように基材側からの基材成分の浸透により緩衝層を作製する場合には、緩衝層と賦型樹脂層との間に細かく不規則な界面が作製されるようにも思われる。しかしながら本発明によれば、緩衝層と賦型樹脂層との間の界面が直線的に作製され、これによっても不規則な界面により起因する密着力の低下等は有効に回避することができる。具体的に図4は、この実施形態に係るパターン位相差フィルムの電子顕微鏡による断面写真である。この写真によれば、緩衝層と賦型樹脂層との間の界面が直線的に作製されていることが判る。
【0058】
この実施形態によれば、賦型樹脂層の厚みD2を0.7μm以上に設定することにより、充分な密着力を確保することができる。
【0059】
〔他の実施形態〕
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態の構成を種々に組み合わせし、さらには変更することができる。
【0060】
具体的に上述の実施形態では、パターン位相差フィルム、反射防止フィルムに本発明を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば窓ガラス等に貼り付ける光学フィルム等、各種の光学フィルムに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 パターン位相差フィルム
2、32 基材
3、33 緩衝層
4、34 賦型樹脂層
5 位相差層
6 配向膜
10 製造工程
11 供給リール
12 塗布工程
13 インクパン
14 塗布液
15 バックロール
15A ローラ
16 シリンダーロール
17 乾燥工程
18 乾燥機
19 賦型工程
20 ロール版
21 押圧ローラ
23、25、28 電離放射線(紫外線)照射装置
24 剥離ローラ
27 ダイ
29 巻き取りリール
31 反射防止フィルム
35 凹凸パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルム材による基材上に、緩衝層を介して硬化した電離放射線硬化性樹脂による賦型樹脂層が設けられ、
前記賦型樹脂層の表面に凹凸形状が形成されており、
前記緩衝層が、少なくとも前記基材の1成分と、前記電離放射線硬化性樹脂とを含んでいる
光学フィルム。
【請求項2】
前記緩衝層の厚みが0.7μm以上である
請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記緩衝層に含まれる前記基材の成分は、
前記基材から前記緩衝層に係る電離放射線硬化性樹脂層に浸透した成分である
請求項1、又は請求項2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記賦型樹脂層は、
前記凹凸形状により表面に配向膜が形成され、
前記光学フィルムは、
前記賦型樹脂層の上に位相差層が設けられ、
画像表示パネルのパネル面に配置されて、前記配向膜による配向規制力により前記位相差層で、前記画像表示パネルからの出射光に対応する位相差を与えるパターン位相差フィルムである
請求項1、請求項2、請求項3の何れかに記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記賦型樹脂層は、
前記凹凸形状により表面に可視光の波長に比して周期の短い凹凸パターンが形成され、
前記光学フィルムは、
画像表示パネルのパネル面に配置されて、前記凹凸パターンにより外来光の反射を防止する反射防止フィルムである
請求項1、請求項2、請求項3の何れかに記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記基材が、セルローストリアセテートであり、
前記電離放射線硬化性樹脂が、アクリル系の樹脂である
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5の何れかに記載の光学フィルム。
【請求項7】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6の何れかに記載の光学フィルムがパネル面に配置された
画像表示装置。
【請求項8】
透明フィルムによる基材上に電離放射線硬化性樹脂を塗布する電離放射線硬化性樹脂の塗布工程と、
前記基材に塗布した電離放射線硬化性樹脂に転写用金型を押し付けて電離放射線を照射することにより前記電離放射線硬化性樹脂を硬化させ、前記転写用金型に形成された凹凸形状を前記電離放射線硬化性樹脂の表面に転写する賦型工程とを備え、
前記基材の少なくとも1成分を前記基材より前記電離放射線硬化性樹脂に浸透させて、前記電離放射線硬化性樹脂の前記基材側に、少なくとも前記基材の1成分と、前記電離放射線硬化性樹脂とを含んでいる緩衝層を作製する
光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−68921(P2013−68921A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−264426(P2011−264426)
【出願日】平成23年12月2日(2011.12.2)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】