説明

光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムおよびその製法ならびにそれを用いて得られる偏光フィルム、偏光板

【課題】光学的色ムラや光学的スジの形成の発生が抑制され、光学フィルム用として有用な、光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムを提供する。
【解決手段】カルシウムの含有量が500ppm以下に制御されている光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムである。そして、ケイ素の含有量が100ppm以下に制御されている光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的色ムラや光学的スジ等の発生が抑制され、長尺化が容易な光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムおよびその製法、ならびにそれを用いて得られる偏光特性に優れた偏光フィルム、偏光板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、卓上電子計算機、電子時計、ワードプロセッサー、パーソナルコンピューター、携帯情報端末機、自動車や機械類の計器類等に液晶表示装置が用いられ、これらに伴い偏光フィルムの需要も増大している。上記偏光フィルムに代表される光学フィルム材料として、例えば、ポリビニルアルコール系フィルムが用いられる。このポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂を溶媒に溶解し、脱泡して原液を調製した後、T型スリットダイを用いて溶液流延法(キャスティング法)により製膜して製造される。このような溶液流延法による製膜方法としては、例えば、ドラム型ロールを用いた製膜方法が採られている。そして、上記製膜されたポリビニルアルコール系フィルムは、乾燥ロールを経由し、フィルムに含有される水分を除去、乾燥させた後、必要に応じ熱処理、調湿処理され、最終的に巻取機によりロールに巻き取られる。
【0003】
そして、このようなポリビニルアルコール系フィルムを用いて、例えば、一軸延伸、染色及びホウ素化合物処理を行い偏光フィルムが作製されるのである。上記偏光フィルム材料となるポリビニルアルコール系フィルムとしては、その特性に対して要望がなされており、その要望に対する様々な提案がなされている。例えば、不要な着色が少ない偏光フィルムを得るために、アルカリ金属化合物の含有量をポリビニルアルコールに対して特定の値以下に設定したポリビニルアルコールフィルムが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−311828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来からの上記ポリビニルアルコールフィルムでは、フィルム自身に光学的色ムラや光学的スジが発生し、近年の高性能化、大画面化に対応した光学フィルム、特に偏光フィルム材料としての使用に際してはまだまだ不充分であり、これらの改善が強く要望されていた。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、光学的色ムラや光学的スジの発生が抑制され、さらに長尺化が容易である光学フィルム用として有用な、光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムおよびその製法、ならびにそれを用いて得られる偏光フィルム、偏光板の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、種々検討した結果、フィルム中に存在するカルシウムおよびケイ素に着目し、これらを微量ながらも特定量存在させることにより良好な製品が得られることを見出した。すなわち、本発明は、カルシウムの含有量が500ppm以下に制御されている光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムを第1の要旨とする。
【0007】
また、本発明は、ケイ素の含有量が100ppm以下に制御されている光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムを第2の要旨とする。
【0008】
さらに、本発明は、カルシウムの含有量が500ppm以下およびケイ素の含有量が100ppm以下に制御されている光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムを第3の要旨とする。
【0009】
また、本発明は、上記光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムの製法であって、下記のポリビニルアルコール系樹脂水溶液(A)を用いて製膜する光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムの製法を第4の要旨とする。
(A)(a)ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、(b)水が100〜500重量部であり、かつ(c)カルシウムが0.0001〜0.1重量部および(d)ケイ素が0.0001〜0.03重量部の少なくとも一方であるポリビニルアルコール系樹脂水溶液。
【0010】
そして、本発明は、上記光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムに、染色、一軸延伸およびホウ素化合物処理を施してなる偏光フィルムを第5の要旨とし、さらに上記偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムを設けてなる偏光板を第6の要旨とする。
【0011】
すなわち、本発明者らは、ポリビニルアルコール系フィルムに生じる光学的色ムラや光学的スジの発生を抑制するために鋭意検討を重ねた。そして、上記のような問題の発生原因を中心に検討を重ねた結果、ポリビニルアルコール系フィルムの製膜工程において、フィルムの原材料となるポリビニルアルコール系樹脂水溶液中に、カルシウムやケイ素の含有量が多いと、T型スリットダイを用いて溶液を流延する際に、上記スリットダイの出口付近にカルシウムやケイ素が析出し付着するため、フィルムにスジが形成されることを突き止めた。また、上記ケイ素の含有量が多いと、ドラム型ロール表面に溶液を流延しフィルムを形成した後、このロールからフィルムを剥離する際、剥離しにくくなり、結果、無理に剥離する際に延伸が生じてフィルムに光学ムラが形成されることを突き止めた。このような知見に基づき、光学的色ムラや光学的スジの発生要因となるカルシウムやケイ素のフィルム中の含有量を中心に研究を重ねた結果、ポリビニルアルコール系フィルム中のカルシウムや、ケイ素の含有量を特定量に制御すると、光学ムラや光学スジが抑制されることを見出し本発明に到達した。
【0012】
そして、このようなポリビニルアルコール系フィルムを製造するにあたって、カルシウムおよびケイ素の含有割合が特定の割合に制御されるとともに、水の含有割合が前記割合に設定されたポリビニルアルコール系樹脂水溶液を用いることにより、上記カルシウムやケイ素の含有量が制御されたポリビニルアルコール系フィルムが得られることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明は、カルシウムの含有量が500ppm以下に制御されている光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムである。または、ケイ素の含有量が100ppm以下に制御されている光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムである。このため、上記フィルムに光学的色ムラや光学的スジが抑制され、高精度の光学フィルムが得られ、さらに長尺化も容易なフィルムとなる。そして、上記光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムは、水の含有割合を特定の範囲に設定され、かつカルシウムおよびケイ素の含有割合をそれぞれ特定の範囲に制御してなる前記特定のポリビニルアルコール系樹脂水溶液(A)を用いて製膜することにより製造される。このため、上記光学的に高精度なポリビニルアルコール系フィルムを製造することができる。したがって、本発明の光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムは、例えば、偏光フィルム材料として特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルム(以下「ポリビニルアルコール系フィルム」と称す)では、フィルム形成材料としてポリビニルアルコール系樹脂の水溶液が用いられる。
【0015】
上記ポリビニルアルコール系樹脂は、通常、酢酸ビニルを重合したポリ酢酸ビニルをケン化して製造されるが、これに限定するものではなく、少量の不飽和カルボン酸(塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)、炭素数2〜30のオレフィン類(エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテン等)、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩の変性成分を含有していてもよい。また、ポリビニルアルコール系樹脂にシリル基を含有させたものでもよく、その製法としてはシリル化剤を用いて後変性したり、シリル基含有オレフィン性不飽和単量体と共重合しケン化させる等の方法があげられる。上記シリル基含有オレフィン性不飽和単量体としては、ビニルシラン、(メタ)アクリルアミド、アルキルシラン等があげられる。
【0016】
また、ポリビニルアルコール系樹脂として、側鎖に1,2−グリコール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることも好ましく、かかる側鎖に1,2−グリコール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、(ア)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(イ)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(ウ)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(エ)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0017】
ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは120000〜300000、より好ましくは140000〜260000であり、偏光性能の点で特に好ましくは160000〜200000である。かかる重量平均分子量が下限値未満では、ポリビニルアルコール系樹脂を光学フィルムとする場合に充分な光学性能が得られず、上限値を超えると、フィルムを偏光膜とする場合に延伸が困難となり、工業的な生産が難しく好ましくない。尚、本発明におけるポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、GPC−LALLS法により測定される重量平均分子量である。
【0018】
さらに、ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は80モル%以上であることが好ましく、より好ましくは85〜100モル%、特に好ましくは98〜100モル%である。このように、ケン化度が下限値未満では偏光フィルムとする場合に充分な偏光性能が得られ難く好ましくないからである。
【0019】
上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液には、上記ポリビニルアルコール系樹脂とともに、水が配合される。上記水としては、不純物が除去された純水に近いものを用いることが好ましく、例えば、イオン交換水等が用いられる。また、いわゆる工業用水も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内であれば、使用することができ、生産性とコストを考慮すると、工業用水や軟水、イオン交換水等を組み合わせて使用することが好ましい。さらに、本発明では、塩素原子も少ないほうが良く、残留塩素として例えば0.5ppm未満である水を用いることが好ましい。
【0020】
上記水の配合割合は、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部(以下「部」と略す)に対して100〜500部の範囲に設定することが好ましい。特に好ましくは150〜450部である。すなわち、水の配合割合が下限値未満では、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を作製時に溶解が困難となり、上限値を超えると、製膜乾燥工程において、乾燥負荷が大きくなりフィルムの生産性が劣るからである。
【0021】
本発明では上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液としては、カルシウムおよびケイ素の含有量を特定の割合に制御される。上記カルシウムの含有量は、ポリビニルアルコール系樹脂100部に対して0.0001〜0.1部の範囲に制御することが好ましく、より好ましくは、0.0005〜0.05部の範囲、さらに好ましくは0.001〜0.03部の範囲である。また、上記ケイ素の含有量は、ポリビニルアルコール系樹脂100部に対して0.0001〜0.03部の範囲に制御することが好ましく、より好ましくは、0.0005〜0.015部の範囲であり、さらに好ましくは0.001〜0.01部の範囲である。すなわち、上記カルシウムの含有量が下限値未満あるいは上記ケイ素の含有量が下限値未満では、フィルム巻取り時に5000m以上の長尺巻きができなくなり、逆に上記カルシウムの含有量が上限値を超える、あるいは上記ケイ素の含有量が上限値を超えると、光学的スジや光学的色ムラが発生するからである。
【0022】
上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液中のカルシウムおよびケイ素の各含有量は、つぎのようにして測定される。すなわち、カルシウムの含有量は、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を加熱灰化し、塩酸に溶解した後、原子吸光法により測定される。また、ケイ素の含有量は、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液をアルカリ溶融後、吸光光度法(モリブデンブルー法)により測定される。
【0023】
上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液には、必要に応じて、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等、一般的に使用される可塑剤をポリビニルアルコール系樹脂に対して30重量%以下、より好ましくは3〜25重量%、特に好ましくは5〜20重量%含有することができる。すなわち、上記可塑剤が上限値を超えると、フィルム強度が劣る傾向がみられるため好ましくないからである。
【0024】
また、さらに好ましくは、ノニオン性、アニオン性、カチオン性の界面活性剤、なかでも特に好ましくはポリオキシエチレンアルキルアミンや高級脂肪酸アルカノールアミド等のノニオン性界面活性剤、あるいはアルキル硫酸エステル塩型やアルキルスルホン酸塩型等のアニオン性界面活性剤が用いられる。また、数種の界面活性剤を併用してもよい。界面活性剤の添加量としてはポリビニルアルコール系樹脂に対して1重量%以下、より好ましくは0.001〜0.5重量%、特に好ましくは0.001〜0.3重量%含有される。すなわち、上記剥離剤の含有量が上限値を超えると、フィルム表面の外観が不良となる傾向がみられ好ましくなく、下限値未満ではキャスト基材からの剥離が困難となるからである。
【0025】
つぎに、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの製法について説明する。
【0026】
まず、上記ポリビニルアルコール系樹脂は、その粒子または粉末中に含有される酢酸ナトリウムを除去するため洗浄される。上記洗浄にあたっては、メタノールあるいは水で洗浄されるが、メタノールで洗浄する方法では溶剤回収等が必要となるため、水で洗浄する方法がより好ましい。
【0027】
つぎに、洗浄後の含水ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを溶解し、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調製するが、上記含水ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキをそのまま水に溶解すると所望する高濃度の水溶液が得られ難いことがあるため、一度脱水を行うことが好ましい。脱水方法としては、特に限定するものでなく、遠心力を利用した方法が一般的である。
【0028】
上記洗浄および脱水により、含水率50重量%以下、より好ましくは30〜45重量%の含水ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキとすることが好ましい。すなわち、含水率が上限値を超えると、所望する水溶液濃度とすることが困難となり好ましくないからである。
【0029】
そして、脱水後の含水ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを水に溶解し、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調製する。上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、溶解缶を用いて脱水後のポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキと、前述の含有量となるよう水、カルシウム、ケイ素、さらには可塑剤、添加剤を仕込み、加温,攪拌し溶解して得られる。あるいは、多軸押出機を用いて脱水後のポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキあるいはそれを乾燥したポリビニルアルコール系樹脂を仕込み、前述の含有量となるよう水、カルシウム、ケイ素、さらに可塑剤、添加剤を仕込み、加温、剪断をかけながら溶解したりして得られた水溶液でもよい。なお、水、カルシウム、ケイ素を仕込むに際しては、それぞれ個別に仕込むことも可能であるが、予めカルシウムやケイ素が含有された水として仕込むことが好ましい。
【0030】
このようにして得られるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の濃度は、例えば、15〜45重量%であることが好ましく、より好ましくは20〜40重量%、特に好ましくは25〜35重量%である。すなわち、濃度が下限値未満では、乾燥負荷が大きくなり生産能力が劣り、上限値を超えると、粘度が高くなり過ぎて均一な溶解が困難となり好ましくないからである。
【0031】
つぎに、得られたポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、脱泡処理される。脱泡処理方法としては、静置脱泡や多軸押出機による脱泡処理方法等があげられる。
【0032】
上記多軸押出機としては、ベントを有する多軸押出機であれば特に限定するものではないが、通常はベントを有した2軸押出機が用いられる。
【0033】
ついで、上記多軸押出機による脱泡処理が行われ、この多軸押出機から排出されたポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、一定量ずつT型スリットダイに導入され、ドラム型ロールまたはエンドレスベルトに流延されるが、幅広化や長尺化、膜厚の均一性などの点からドラム型ロールで行うことが好ましい。
【0034】
上記ドラム型ロールにて流延製膜する場合、例えば、ドラム型ロールの回転速度は5〜30m/分であることが好ましく、特に好ましくは6〜20m/分である。回転速度が下限値未満では生産性が劣る傾向があり、上限値を超えると水分の乾燥が不充分となる傾向がある。また、ドラム型ロールの表面温度は70〜99℃であることが好ましく、75〜97℃であることがより好ましい。表面温度が下限値未満では乾燥不良となり、上限値を超えると発泡して好ましくない。
【0035】
また、上記ドラム型ロールの大きさについては、特に限定するものではないが、例えば、ロールの直径は2000〜5000mmが好ましく、より好ましくは2500〜4500mmである。
【0036】
そして、T型スリットダイ出口の樹脂温度は、80〜100℃であることが好ましく、より好ましくは85〜98℃である。
【0037】
ドラム型ロールにより流延製膜されたフィルムは含水率10〜30重量%でドラム型ロールから剥離されることが好ましく、特に好ましくは15〜25重量%で剥離される。含水率が上限値を超えると、ロールからの剥離が困難であり、乾燥工程の負荷が大きくなり好ましくない。また、下限値未満では、急激な水分蒸発によりリタデーションが増大することとなり好ましくない。
【0038】
得られた製膜後のフィルムは、膜の表面と裏面とを複数の熱ロールに交互に通過させながら乾燥される。
【0039】
熱ロールの直径は、好ましくは100〜1000mm、より好ましくは150〜900mm、とくに好ましくは200〜800mmである。熱ロールの直径が下限値未満では莫大な本数が必要となり、上限値をこえるとフィルム搬送が不安定となり、好ましくない。熱ロールの本数は2〜30本、好ましくは3〜26本、より好ましくは4〜20本である。熱ロールの表面温度は、とくに限定されないが、50〜120℃、さらには70〜100℃であることが好ましい。表面温度が下限値未満では乾燥不良となり、上限値を超えると乾燥しすぎることとなり、外観不良を招き好ましくない。
【0040】
乾燥されたポリビニルアルコール系フィルムは必要に応じて熱処理される。熱処理方法はとくに限定されず、たとえば、フローティング法やロールによる接触加熱法により行なうことができる。とくに、両面から温風で加熱するフローティング法が、均質な熱処理を可能にする点で好ましい。
【0041】
また、熱処理後のポリビニルアルコール系フィルムは必要に応じて調湿処理を行い、含水率を調整後、巻取機により円筒状の芯材に巻き取られる。巻き取られる際のポリビニルアルコール系フィルムの含水率は5重量%以下であることが好ましい。より好ましくは1〜4重量%である。上記含水率が上限値を超える場合は、フィルムの保管時に外観不良を招きやすい。
【0042】
このようにして得られたポリビニルアルコール系フィルムは、カルシウムの含有量が500ppm以下に制御されている。または、ケイ素の含有量が100ppm以下に制御されている。特に好ましくは、カルシウムの含有量が0.1〜500ppm、より好ましくは1〜500ppm、さらに好ましくは3〜300ppmである。またはケイ素の含有量が0.1〜100ppm、より好ましくは1〜100ppm、さらに好ましくは3〜80ppmである。また、カルシウムとケイ素の合計量が1〜300ppm、さらに好ましくは1〜100ppmのときに、特に良好な結果が得られる。このように、ポリビニルアルコール系フィルム中のカルシウム、ケイ素の含有量を上記のように制御することにより、光学的色ムラおよび光学的スジの形成が抑制された光学フィルムが得られるのである。要するに、従来法のように特段、カルシウムまたはケイ素の含有量に着目せずにフィルムを製造した場合には、カルシウム,ケイ素の濃度は高くなり、安定した品質のフィルムを連続生産することが困難となる。
【0043】
上記ポリビニルアルコール系フィルム中のカルシウムおよびケイ素の各含有量は、つぎのようにして測定される。すなわち、カルシウムの含有量は、ポリビニルアルコール系フィルムを加熱灰化し、塩酸に溶解した後、原子吸光法により測定される。また、ケイ素の含有量は、ポリビニルアルコール系フィルムをアルカリ溶融後、吸光光度法(モリブデンブルー法)により測定される。また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、その他の不純金属や塩素原子についても少ないほうが望ましい。
【0044】
このようにして得られるポリビニルアルコール系フィルムは、先に述べたように、カルシウム、またはケイ素の含有量が特定量となるよう制御されており、製膜工程、乾燥処理、さらに必要に応じて熱処理、調湿処理を経由して、光学的に均質なポリビニルアルコール系フィルムとなる。本発明においては、カルシウムまたはケイ素を微量ながらも存在させることが好ましく、この制御されたカルシウムまたはケイ素の存在により、上記効果が得られるのである。そして、このようなポリビニルアルコール系フィルムとしては、巻取機によりロールに巻き取られるが、本発明によれば、フィルムの広幅化、長尺化が容易となるため、巻き取られるポリビニルアルコール系フィルムは、幅2.5m以上、さらには3m以上で、かつ長さ5000m以上、さらには6000m以上の長尺のものが得られる。このようなポリビニルアルコール系フィルムは、光学フィルム、特に偏光フィルム材料として非常に有用である。
【0045】
以下、このようにして得られたポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光フィルムの製法について述べる。
【0046】
上記偏光フィルムの製法としては、得られたポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸してヨウ素あるいは二色性染料の溶液に浸漬して染色する、もしくは一軸延伸と染色を同時に行う、もしくはヨウ素あるいは二色性染料により染色して一軸延伸した後、ホウ素化合物処理する方法があげられる。また、染色した後ホウ素化合物の溶液中で一軸延伸する方法等もあげられ、適宜選択することができる。
【0047】
上記偏光フィルムに用いられるポリビニルアルコール系フィルムの膜厚としては、30〜100μmの範囲が好ましく、より好ましくは40〜70μmである。すなわち、膜厚が上記下限値未満では、延伸することが困難であり、上限値を超えると、乾燥負荷が大きくなり生産性が劣るようになり好ましくないからである。
【0048】
上記ポリビニルアルコール系フィルム(未延伸フィルム)は、上記のように一軸延伸,染色,ホウ素化合物処理が適宜施されるが、この延伸と染色、さらにはホウ素化合物処理は別々の工程にて行っても同時に行ってもよい。本発明では、染色工程、ホウ素化合物処理工程の少なくとも一方の工程中に一軸延伸を行うことが好ましい。
【0049】
上記延伸は、一軸方向に3〜10倍に延伸することが好ましく、より好ましくは3.5〜6倍の延伸である。この際、前記延伸と直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度あるいはそれ以上の延伸)を行っても差し支えない。延伸時の温度条件は40〜170℃の範囲に設定することが好ましい。さらに、上記延伸倍率は最終的に上記範囲に設定されればよく、また延伸操作も一段階のみならず、製造工程の任意の範囲の段階に実施すればよい。
【0050】
上記ポリビニルアルコール系フィルムへの染色は、このフィルムにヨウ素あるいは二色性染料を含有する液体を接触させることによって行われる。通常は、ヨウ素−ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は0.1〜2g/リットル、ヨウ化カリウムの濃度は10〜50g/リットル、ヨウ化カリウム/ヨウ素の混合重量比は、ヨウ化カリウム/ヨウ素=20〜100の範囲が好ましい。また、染色時間は30〜500秒程度が実用的であり、染色処理浴の温度は5〜60℃が好ましい。そして、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させても差し支えない。また、接触手段としては、浸漬、塗布、噴霧等の任意の手段が適用できる。
【0051】
このようにして染色されたポリビニルアルコール系フィルムは、ついでホウ素化合物によって処理される。上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ砂が実用的である。このホウ素化合物は水溶液または水−有機溶媒混合液として、濃度0.3〜2モル/リットル程度で用いられ、液中には少量のヨウ化カリウムを共存させることが実用上好ましい。上記ホウ素化合物による処理方法としては、浸漬法が好ましいが、塗布法、噴霧法も実施可能である。また、処理条件としては、温度40〜70℃程度、処理時間は2〜20分程度が好ましく、必要に応じて処理中に延伸操作を行ってもよい。
【0052】
このようにして得られた偏光フィルムは、その片面または両面に光学的に等方性の高分子フィルムまたはシートを保護膜として積層接着して、偏光板として用いることもできる。上記保護膜としては、例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ−4−メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイド、シクロ系ないしはノルボルネン系ポリオレフィン等のフィルムまたはシートがあげられる。
【0053】
また、上記偏光フィルムには薄膜化を目的とし、上記保護膜に代えてその片面または両面に、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア系樹脂等の硬化性樹脂を塗布し、積層させることもできる。
【0054】
さらに、上記偏光フィルム(またはその少なくとも片面に保護膜あるいは硬化性樹脂を積層したもの)は、その一方の表面に必要に応じて、透明な感圧性接着剤層が通常の方法で形成されて実用に供される場合もある。上記感圧性接着剤層としては、例えば、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステルと、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα−モノオレフィンカルボン酸との共重合物(アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチロールのようなビニル単量体を添加したものを含む)を主体とするものが、偏光フィルムの偏光特性を阻害することがなく特に好ましいが、これに限定されるものではなく、透明性を有する感圧性接着剤であれば使用可能であり、例えば、ポリビニルエーテル系、ゴム系等を用いることもできる。
【0055】
このようにして得られた偏光フィルムは、例えば、電子卓上計算機、電子時計、ワードプロセッサー、パーソナルコンピューター、携帯情報端末機、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、表示素子(CRT、LCD等)用反射低減層、医療機器、建築材料、玩具等に用いられる。
【0056】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。なお、以下の実施例中、重量平均分子量は、次の方法により求めた。
【0057】
(1)重量平均分子量
GPC−LALLS法により以下の条件で測定する。
【0058】
1)GPC
装置:Waters製244型ゲル浸透クロマトグラフ
カラム:東ソー社製、TSK−gel−GMPWXL(内径8mm、長さ30cm、2本)
溶媒:0.1M−トリス緩衝液(pH7.9)
流速:0.5ml/分
温度:23℃
試料濃度:0.040%
ろ過:東ソー社製、0.45μmマイショリディスクW−25−5
注入量:0.2ml
検出感度(示差屈折率検出器):4倍
【0059】
2)LALLS
装置:Chromatrix社製、KMX−6型低角度レーザー光散乱光度計
温度:23℃
波長:633nm
第2ビリアル係数×濃度:0mol/g
屈折率濃度変化(dn/dc):0.159ml/g
フィルター:MILLIPORE社製、0.45μmフィルターHAWP01300
ゲイン:800mV
【実施例1】
【0060】
500リットルのタンクに18℃の水200kgを入れ、攪拌しながら、重量平均分子量170000、ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂40kgを投入し15分間攪拌を続けた。その後、一度水を抜いた後、さらに水200kgを加え15分間攪拌した。得られたスラリーを脱水し、含水率44%のポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを得た。なお、ここで用いた水のカルシウム含有量は25mg/l、ケイ素含有量は5mg/lであった。
【0061】
ついで、上記ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキ70kgを溶解缶に投入し、可塑剤としてグリセリン4.0kg、剥離剤としてポリオキシエチレンラウリルアミン4.0g、イオン交換水(カルシウム含有量0.01mg/l未満、ケイ素含有量0.01mg/l未満)20kgを加え、缶底から水蒸気を吹き込み、内部樹脂温度が50℃になった時点で攪拌を行い、内部樹脂温度が100℃になった時点で系内を加圧し、150℃まで昇温した後、水蒸気の吹き込みを停止し、30分間攪拌を行い均一に溶解した後、濃度調整により24%濃度のポリビニルアルコール系樹脂水溶液(可塑剤、剥離剤も固形分として含む)を調製した。このポリビニルアルコール系樹脂水溶液としては、ポリビニルアルコール系樹脂100部に対して、カルシウムが0.014部、ケイ素が0.002部、水が348部の割合で含有されてなるものであった。
【0062】
つぎに、上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を2軸押出機に供給し、脱泡した後、T型スリットダイよりドラム型ロールに流延して製膜した。かかる流延製膜における条件を下記に示す。
【0063】
〔ドラム型ロール〕
直径:3400mm
幅:4300mm
回転速度:10m/min
表面温度:90℃
T型スリットダイ出口の樹脂温度:95℃
【0064】
製膜後に得られたフィルムの含水率は23%であった。そして、このフィルムの表面と裏面とを下記の条件にて熱ロールを交互に通過させながら乾燥を行った。
【0065】
〔熱ロール(乾燥ロール)〕
直径:300mm
幅:4300mm
本数:10本
回転速度:10m/分
表面温度:80℃
【0066】
その後、さらにフローティング方式で熱処理(120℃)を行った。熱処理後のフィルムの含水率は3%であった。
【0067】
このようにして得られたポリビニルアルコール系フィルム(幅3.1m×厚み50μm)は、巻取機によりロール状にしわなく巻き取られた(巻き取り長さ8000m)。そして、このポリビニルアルコール系フィルムのカルシウムの含有量は、80ppmであり、ケイ素の含有量は10ppmであった。
【実施例2】
【0068】
500リットルのタンクに18℃の水(カルシウム含有量25mg/l、ケイ素含有量5mg/l)200kgを入れ、攪拌しながら、重量平均分子量170000、ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂40kgを投入し15分間攪拌を続けた。その後、一度水を抜いた後、さらに水(カルシウム含有量は25mg/l、ケイ素含有量は5mg/lの水を硬水軟化装置を用いてカルシウム含有量0.01mg/l、ケイ素含有量5mg/lとした水)280kgを加え15分間攪拌した。得られたスラリーを脱水し、含水率44%のポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを得た。
【0069】
ついで、上記ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキ70kgを溶解缶に投入し、可塑剤としてグリセリン4.0kg、剥離剤としてポリオキシエチレンラウリルアミン4.0g、水(カルシウム含有量0.01mg/l、ケイ素含有量5mg/l)20kgを加え、缶底から水蒸気を吹き込み、内部樹脂温度が50℃になった時点で攪拌を行い、内部樹脂温度が100℃になった時点で系内を加圧し、150℃まで昇温した後、水蒸気の吹き込みを停止し、30分間攪拌を行い均一に溶解した後、濃度調整により24%濃度のポリビニルアルコール系樹脂水溶液(可塑剤、剥離剤も固形分として含む)を調製した。このポリビニルアルコール系樹脂水溶液としては、ポリビニルアルコール系樹脂100部に対して、カルシウムが0.0005部、ケイ素が0.003部、水が348部の割合で含有されてなるものであった。
【0070】
このポリビニルアルコール系樹脂水溶液を用い、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール系フィルム(幅3.1m×厚み50μm)を得、巻取機によりロール状にしわなくフィルム長さ8000mを巻き取った。得られたポリビニルアルコール系フィルムのカルシウムの含有量は、0.1ppm未満であり、ケイ素の含有量は20ppmであった。
【実施例3】
【0071】
実施例1において、使用した水をすべてイオン交換水(カルシウム含有量0.01mg/l未満、ケイ素含有量0.01mg/l未満)を用いた以外は同様にして行った。得られたポリビニルアルコール系樹脂水溶液としては、ポリビニルアルコール系樹脂100部に対して、カルシウムの含有量は0.00001部未満、ケイ素の含有量は0.00001部未満であり、水が348部の割合で含有してなるものであった。このポリビニルアルコール系樹脂水溶液を用いて、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール系フィルム(幅3.1m×厚み50μm)を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムのカルシウムの含有量は、0.1ppm未満であり、ケイ素の含有量は0.1ppm未満であった。得られたポリビニルアルコール系フィルムは巻取機によりロール状に巻き取ったが、途中でしわが入った。しわが入ることなく巻き取れたのは4000mであった。
【実施例4】
【0072】
実施例1において、使用した水をすべてカルシウム含有量40mg/l、ケイ素含有量20mg/lの水を用い、ポリビニルアルコール系樹脂として、重量平均分子量200000,ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂を用いた以外は同様にして行い、濃度調整により22.5%濃度のポリビニルアルコール系樹脂水溶液(可塑剤、剥離剤も固形分として含む)を調整した。このポリビニルアルコール系樹脂水溶液としては、ポリビニルアルコール系樹脂100部に対して、カルシウムが0.050部、ケイ素が0.012部、水が380部の割合で含有されてなるものであった。
【0073】
このポリビニルアルコール系樹脂水溶液を実施例1と同様に製膜・乾燥・熱処理を行い、幅3.1m、厚み60μmのポリビニルアルコール系フィルムを巻取機によりロール状にフィルム長さ7000mしわなく巻き取った。なお、ここでドラム型ロールの回転速度および熱ロール(乾燥ロール)の回転速度は8m/minとした。得られたポリビニルアルコール系フィルムのカルシウムの含有量は280ppmであり、ケイ素の含有量は70ppmであった。
【実施例5】
【0074】
500リットルのタンクに18℃の水200kgを入れ、攪拌しながら、重量平均分子量142000、ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂40kgを投入し、15分間攪拌を続けた。その後、一度水を抜いた後、さらに水200kgを加え15分間攪拌した。得られたスラリーを脱水し、含水率50%のポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを得た。なお、ここで用いた水のカルシウム含有量は100mg/l、ケイ素含有量は50mg/lであった。
【0075】
ついで、上記ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキ80kgを溶解缶に投入し、可塑剤としてグリセリン4.1kg、剥離剤としてポリオキシエチレンラウリルアミン4.1g、イオン交換水(カルシウム含有量0.01mg/l未満、ケイ素含有量0.01mg/l未満)20kgを加え、缶底から水蒸気を吹き込み、内部樹脂温度が50℃になった時点で攪拌を行い、内部樹脂温度が100℃になった時点で系内を加圧し、150℃まで昇温した後、水蒸気の吹き込みを停止し、30分間攪拌を行い均一に溶解した後、濃度調整により28%濃度のポリビニルアルコール系樹脂水溶液(可塑剤、剥離剤も固形分として含む)を調製した。このポリビニルアルコール系樹脂水溶液としては、ポリビニルアルコール系樹脂100部に対して、カルシウムが0.075部、ケイ素が0.015部、水が283部の割合で含有されてなるものであった。
【0076】
このポリビニルアルコール系樹脂水溶液を実施例1と同様に製膜・乾燥・熱処理を行い、幅3.1m、厚み75μmのポリビニルアルコール系フィルムを巻取機によりロール状にフィルム長さ6000mしわなく巻き取った。なお、ここでドラム型ロールの回転速度および熱ロール(乾燥ロール)の回転速度は8m/minとした。得られたポリビニルアルコール系フィルムのカルシウムの含有量は450ppmであり、ケイ素の含有量は90ppmであった。
【0077】
〔比較例〕
実施例1において、使用した水をすべてカルシウム含有量100mg/l、ケイ素含有量50mg/lの水を用いた以外は同様にして行った。得られたポリビニルアルコール系樹脂水溶液としては、ポリビニルアルコール系樹脂100部に対して、カルシウムの含有量は0.15部、ケイ素の含有量は0.04部であり、水が348部の割合で含有してなるものであった。このポリビニルアルコール系樹脂水溶液を用いて、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール系フィルム(幅3.1m×厚み50μm、長さ8000m)を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムのカルシウムの含有量は、600ppmであり、ケイ素の含有量は200ppmであった。
【0078】
このようにして得られた各ポリビニルアルコール系フィルムにおける、光学ムラおよび光学すじの形成に関して、下記の方法に従って測定・評価した。その結果を後記の表1に併せて示す。
【0079】
〔光学的色ムラ〕
得られた各ポリビニルアルコール系フィルムをクロスニコル状態の2枚の偏光板(単体透過率43.5%、偏光度99.9%)の間に45度の角度で挟んだ後に、暗室で表面照度が14000ルクスのライトボックスを用いて、透過モードでリターデーション均一性を観察し、以下の基準で光学的色むらを評価した。
A:何も見えず均一である。
B:不連続な薄い濃淡が確認できる。
C:すじ状の濃淡および不連続な濃淡がはっきり確認できる。
【0080】
〔光学的スジ〕
得られた各ポリビニルアルコール系フィルムを全幅×500mmに切り出し、暗室下で白色スクリーンと投影機の間にポリビニルアルコール系フィルムを配置して、スクリーンに写るすじ状の陰影の数をカウントした。
【0081】
さらに、得られた各ポリビニルアルコール系フィルムを用いて、つぎのようにして偏光フィルムを作製した。すなわち、各ポリビニルアルコール系フィルムを巻き取ったロール状の巻装体から、ポリビニルアルコール系フィルムを1.25m/minで繰り出し、水洗槽(24℃)で膨潤させた後、ヨウ素槽(20℃、ヨウ素濃度0.17g/リットル)で1.3倍、ホウ酸槽(50℃、ヨウ素濃度0.0012g/リットル、ホウ酸濃度47g/リットル)で1.7倍の一軸延伸を行い、さらに巻き取り速度6m/minでトータル4.8倍の一軸延伸を行い、偏光フィルムを得、ついで該偏光フィルムの両面にセルローストリアセテートフィルム(厚さ80μm)をポリビニルアルコール系接着剤により接着し、偏光板を得た。
【0082】
〔偏光板の特性〕
このようにして得られた各偏光板をクロスニコル状態の2枚の偏光板(単体透過率43.5%、偏光度99.9%)の間に45度の角度で挟んだ後に、暗室で表面照度が14000ルクスのライトボックスを用いて、透過モードで光学的色むらを観察し、以下の基準で光学的色むらを評価した。
○:色むらなし
×:色むらあり
【0083】
【表1】

【0084】
上記結果から、実施例1〜4品は、光学的色ムラ、光学的スジがないフィルムが得られた。そして、それらポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光フィルム及び偏光板も光学性能の均一性に優れていた。また、実施例5品は不連続な薄い濃淡ムラが存在したが、それを用いた偏光フィルムおよび偏光板においては色ムラは確認されなかった。これに対して、カルシウム含有量が500ppm及びケイ素含有量が100ppmを超えると比較例に示したように、光学的色ムラ、光学的スジが発生し,それを用いた偏光フィルム及び偏光板も光学性能の均一性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、光学フィルム、特に偏光フィルムとして非常に有用であり、上記偏光フィルムは、例えば、電子卓上計算機、電子時計、ワードプロセッサー、パーソナルコンピューター、携帯情報端末機、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置や、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、表示素子(CRT、LCD等)用反射低減層、医療機器、建築材料、玩具等に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムの含有量が500ppm以下に制御されていることを特徴とする光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項2】
ケイ素の含有量が100ppm以下に制御されていることを特徴とする光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項3】
カルシウムの含有量が500ppm以下およびケイ素の含有量が100ppm以下に制御されていることを特徴とする光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項4】
カルシウムの含有量が0.1〜500ppmに制御されている請求項1または3記載の光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項5】
ケイ素の含有量が0.1〜100ppmに制御されている請求項2または3記載の光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項6】
光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムが、幅2.5m以上で、かつ長さ5000m以上である請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項7】
偏光フィルムの原反フィルムとして用いる請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムの製法であって、下記のポリビニルアルコール系樹脂水溶液(A)を用いて製膜することを特徴とする光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムの製法。
(A)(a)ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、(b)水が100〜500重量部であり、かつ(c)カルシウムが0.0001〜0.1重量部および(d)ケイ素が0.0001〜0.03重量部の少なくとも一方であるポリビニルアルコール系樹脂水溶液。
【請求項9】
請求項8記載の光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムの製法により得られることを特徴とする光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項10】
請求項1〜7、9のいずれか一項に記載の光学フィルム用ポリビニルアルコール系フィルムに染色、一軸延伸およびホウ素化合物処理を施してなることを特徴とする偏光フィルム。
【請求項11】
請求項10記載の偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムを設けてなることを特徴とする偏光板。

【公開番号】特開2007−9056(P2007−9056A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−191491(P2005−191491)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】