説明

光学物品の製造方法およびその方法により製造された光学物品

【課題】優れた耐擦傷性を有する反射防止層および、その製造方法、さらには、該反射防止層が形成されたプラスチックレンズを提供する。
【解決手段】本発明の光学物品は、基材上に反射防止層を備えた光学物品の製造方法であって、前記反射防止層の、最も基材側にある層を低屈折率層とし、低屈折率層と高屈折率層とを交互に蒸着により7層形成する蒸着工程を備え、前記蒸着工程は、設計主波長λ0を480nm以上550nm以下の範囲として、前記最も基材側にある低屈折率層の光学膜厚をλ1としたときに、0.7λ0≦λ1≦1.2λ0の範囲に蒸着する工程と、前記高屈折率層をイオンアシスト蒸着により蒸着する工程とを含む、ことを特徴とする光学物品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に反射防止層を備えた光学物品の製造方法およびその方法により製造された光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、眼鏡用のプラスチックレンズの表面には、傷付き防止のためにハードコート層や反射防止層が設けられている。ハードコート層は、レンズ基材表面に形成され、反射防止層はハードコート層表面に形成される。反射防止層としては、異なる屈折率を持つ物質を交互に積層してなる多層膜層が一般的である。
このような反射防止層としては低屈折率層および高屈折率層の膜厚を大きくする反射防止層が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−294906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の眼鏡レンズにおいても、耐擦傷性は必ずしも十分ではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するように、下記の形態または適用例として実現され得る。
【0006】
〔適用例1〕
本適用例の光学物品の製造方法は、基材上に反射防止層を備えた光学物品の製造方法であって、前記反射防止層の、最も基材側にある層を低屈折率層とし、低屈折率層と高屈折率層とを交互に蒸着により7層形成する蒸着工程を備え、前記蒸着工程は、設計主波長λ0を480nm以上550nm以下の範囲として、前記最も基材側にある低屈折率層の光学膜厚をλ1としたときに、前記λ1
0.7λ0≦λ1≦1.2λ0
の範囲に蒸着する工程と、前記高屈折率層をイオンアシスト蒸着により蒸着する工程とを含む、ことを特徴とする。
【0007】
本適用例によれば、第1層の低屈折率層の光学膜厚が0.7λ0以上1.2λ0以下の範囲で形成され、尚且つ高屈折率層がイオンアシスト蒸着による形成とすることで緻密な層を形成することができ、反射防止層としての耐擦傷性を格段に向上させる反射防止層を形成することができる。
【0008】
〔適用例2〕
上述の適用例において、前記低屈折率層が酸化ケイ素からなることが好ましい。
本適用例では、低屈折率層が酸化ケイ素を含有するので、耐擦傷性を格段に向上させる反射防止層を形成することができる。
【0009】
〔適用例3〕
上述の適用例において、前記高屈折率層が酸化ジルコニウムからなることが好ましい。
本適用例では、高屈折率層が酸化ジルコニウムを含有するため、高屈折率層を硬くすることができる。このため、耐擦傷性を格段に向上させる反射防止層を形成することができる。
【0010】
〔適用例4〕
上述の適用例において、前記基材がプラスチックからなることを特徴とする。
本適用例では、基材にプラスチックを用いても、耐擦傷性を格段に向上させた反射防止層を形成することができ、耐擦傷性の高いプラスチック製の光学物品が得られる。
【0011】
〔適用例5〕
上述の適用例において、上記の光学物品がプラスチックレンズであることを特徴とする。
本適用例では、レンズ基材の上に、前述の反射防止層を形成させるので、耐擦傷性の高いプラスチックレンズを得ることができる。
【0012】
〔適用例6〕
上述の適用例において、上記の光学物品の製造方法により得られる光学物品である。
本適用例では、耐擦傷性を格段に向上させた光学物品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態にかかる眼鏡用プラスチックレンズの概略断面図。
【図2】実施形態における蒸着装置を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態では、光学物品の一例としての眼鏡用プラスチックレンズの製造方法を説明する。
図1は実施形態に係る、眼鏡用プラスチックレンズの概略断面図である。
眼鏡用プラスチックレンズ10は、基材1の表面に、傷を防止するためのハードコート層2が設けられている。また、ハードコート層2の表面には、7層からなる光学多層膜である反射防止層3が設けられている。
【0015】
(基材)
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
基材1としては、例えば、透明なプラスチックであるアクリル樹脂、チオウレタン系樹脂、メタクリル系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR−39)、ポリ塩化ビニル、ハロゲン含有共重合体、好ましくはイオウ含有共重合体が使用される。
【0016】
基材1の屈折率は、1.6以上が好ましい。特に、アリルカーボネート系樹脂、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂、チオウレタン系樹脂、あるいはエピスルフィド系樹脂が好ましい。これらの中では、屈折率の点でチオウレタン系樹脂またはエピスルフィド系樹脂が特に好ましい。
【0017】
(ハードコート層)
ハードコート層2は、有機材料単体、無機材料単体若しくはそれらの複合材料で形成されるが、高い硬度が得られる点と屈折率の調整が可能な点とから複合材料が好ましい。ハードコート層2の屈折率を基材1の屈折率と同程度に調整することによって、ハードコート層2と基材1との界面での反射で生じる干渉縞および透過率の低下を防ぐことができる。
【0018】
具体的には、ハードコート層2を形成するためのハードコート液が以下の(A)成分と(B)成分とを含んでいると、硬化後のハードコート層として十分な硬度を持つことができるので好ましい。なお、レンズ基材としては、ハードコート層を含めることもある。
(A)一般式:R1SiX13で示される有機ケイ素化合物
(式中、R1は、重合可能な反応基を有する有機基であり、例えば、炭素数1〜6の炭化水素基である。X1は、加水分解性基を示す。)
(B)ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する無機酸化物粒子
(B)成分としては、粒子径1〜200μmのルチル型の酸化チタン粒子であることが好ましい。屈折率の調整の点から、これらの粒子のほかに、粒子径1〜200μmのケイ素、錫、ジルコニウム、アンチモンの金属酸化物粒子、あるいはこれらの複合酸化物粒子を組み合わせてハードコート層として複合材料を形成するのがよい。
【0019】
また、無機材料としてチタン酸化物を使用する際は、その光活性に起因するハードコート層2および基材1の耐光性の低下(具体的には、黄変による透過率の低下や界面の劣化による層はがれの発生)を防ぐために、ルチル型結晶構造を持つチタン酸化物やチタン酸化物の周りを二酸化ケイ素が包む構造の複合酸化物粒子を使用するのが好ましい。ハードコート層2の厚さは、傷つき難さの点から0.5〜10μmが好ましい。
【0020】
なお、基材1とハードコート層2との密着性を得るために、基材1とハードコート層2との界面にプライマ層を設けてもよい。
【0021】
(反射防止層)
図1に示すように、反射防止層3は、ハードコート層2の表面に低屈折率層3L1を積層し、低屈折率層3L1、3L2、3L3、3L4と高屈折率層3H1、3H2、3H3とが交互に積層された7層構造を有している。
低屈折率層3L1、3L2、3L3、3L4は、本実施形態では酸化ケイ素層(SiO2層)である。
高屈折率層3H1、3H2、3H3に使用可能な物質としては、ZrO2(酸化ジルコニウム)、Ta25(酸化タンタル)、TiO2(酸化チタン)等が挙げられるが、本実施形態で使用される酸化ジルコニウム層は、硬質であり、少ない層数で目的とする耐擦傷性を向上させることができるので最も好ましい。
【0022】
反射防止層3を基材1あるいはハードコート層2の上に形成するには、イオンアシスト電子ビーム蒸着装置が用いられる。但し、低屈折率層を形成する際には、必ずしもイオンアシスト電子ビーム蒸着装置を用いる必要はない。
【0023】
図2は、本実施形態の反射防止層3の製造に用いる蒸着装置100の模式図である。図2において、蒸着装置100は、真空容器11、ターボ分子ポンプ21と圧力調整バルブ22とを有する排気装置20、ガスシリンダー31と流量制御装置32とを有するガス供給装置30および真空容器11内の圧力を指示する圧力計50を備えている。
【0024】
真空容器11は、真空容器11内に蒸着材料がセットされた蒸発源(るつぼ)12、13、蒸発源12、13の蒸着材料を加熱溶解(蒸発)する加熱手段14、基材1が載置される基材支持台15、基材1を加熱するための基材加熱用ヒーター16、フィラメント17、および、導入したガスをイオン化し加速して基材1に照射するイオン銃18等を備えている。また、必要に応じて真空容器11内に残留した水分を除去するためのコールドトラップや、層厚を管理するための装置等が具備される。
【0025】
蒸発源12、13は、蒸着材料がセットされたるつぼであり、真空容器11の下部に配置されている。
【0026】
加熱手段14は、フィラメント17の発熱によって発生する熱電子を、イオン銃18により加速、偏向して、蒸発源12、13にセットされた蒸着材料に照射し蒸発させる。いわゆる電子ビーム蒸着が行われる。
また、蒸着材料を蒸発させる他の方法として、タングステン等の抵抗体に通電し蒸着材料を溶融/気化する方法(いわゆる、抵抗加熱蒸着)、高エネルギーのレーザー光を蒸発させたい材料に照射する方法等がある。
【0027】
基材支持台15は、所定数の基材1を載置する支持台であり、蒸発源12、13と対向した真空容器11内の上部に配置されている。基材支持台15は、基材1に形成される反射防止層3の均一性を確保し、かつ量産性を高めるために回転機構を有するのが好ましい。
【0028】
基材加熱用ヒーター16は、例えば赤外線ランプからなり、基材支持台15の上部に配置されている。基材加熱用ヒーター16は、基材1を加熱することにより基材1のガス出しあるいは水分とばしを行い、基材1の表面に形成される層の密着性を確保する。
なお、赤外線ランプの他に抵抗加熱ヒーター等を用いることができる。但し、基材1の材質がプラスチックの場合には、赤外線ランプを用いるのが好ましい。
【0029】
以上に説明した真空容器11内の基材支持台15に、ハードコート層2の形成された基材1が載置されて、蒸着装置100を稼動して反射防止層3の形成が行われる。
蒸着する条件はイオンアシストにおいては加速電圧700〜1000V、加速電流500〜1200mAであることが好ましい。
ここで、膜厚は、電子銃の加速電流の強弱、ならびに、蒸着時間の長短により容易に制御することができる。
なお、反射防止層3の上には、必要に応じて防汚層や防曇性を有する層を形成してもよい。
【0030】
このような本実施形態によれば、以下の効果がある。
反射防止層3は7層からなり、低屈折率層3L1の膜厚が0.7λ0以上1.2λ0以下の範囲で形成されるので、反射防止層3の耐擦傷性を格段に向上させることができ、耐擦傷性に優れた眼鏡用プラスチックレンズ10を提供できる。
【0031】
反射防止層3を構成する高屈折率層3H1、3H2、3H3が酸化ジルコニウムであり、イオンアシスト真空蒸着法によって形成されるため、高屈折率層を硬くすることができる。このため、格段に耐擦傷性に優れた反射防止層を提供できる。
【0032】
本実施形態では、高屈折率層の構成物質としてZrO2を用いたが、その他、TiO2、Ta25、Nb25等を用いてもよい。
【実施例】
【0033】
次に、本発明の実施例について説明する。
具体的には、反射防止層3等を備えた眼鏡用プラスチックレンズ10を製造し、耐擦傷性の評価を行った。
【0034】
[実施例1]
〔眼鏡用プラスチックレンズの製造〕
(ハードコート層の形成)
ハードコート液は、プロピレングリコールモノメチルエーテル1360g、メタノール分散二酸化チタン−二酸化ジルコニウム−二酸化ケイ素複合微粒子ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名「オプトレイク1120Z(S−7・A8)」、固形分濃度20重量%)6450gおよびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1700gを混合し、この混合液に0.05N塩酸水溶液500gを撹拌しながら滴下し、4時間撹拌後一昼夜熟成させた後、Fe(III)アセチルアセトネート10g、シリコン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名「L−7001」)3gを添加し4時間撹拌後一昼夜熟成させて調整した。
【0035】
このようにして得られたハードコート液を、アルカリ処理を施した屈折率1.67の眼鏡レンズ(セイコーエプソン(株)製、セイコースーパーソブリンレンズ生地)に浸漬法にて塗布した。引き上げ速度は、20cm/minとした。塗布後80℃で20分間乾燥した後、130℃で120分間焼成を行い、ハードコート層2を形成した。
【0036】
(反射防止層の形成)
図2に示す蒸着装置100を用い、上記で得られたハードコート層2の表面にハードコート層2側から順に、表1に示す光学膜厚λ1、λ2、λ3、λ4、λ5、λ6、λ7で反射防止層3を形成した。反射防止層3は、ハードコート層2側から低屈折率層と高屈折率層とを順に積層させ、合計7層とした。
このとき、低屈折率層として酸化ケイ素を、高屈折率層として酸化ジルコニウムを用いた。また、低屈折率層は8.0×10-4Paの真空度で蒸着し、高屈折率層は6.0×10-3Paの真空度でイオンアシスト蒸着によって成膜した。電子銃の条件は300mA、イオンアシストは加速電圧800V、加速電流250mA、酸素ガス導入量20sccmとした。
ここで、第1層の低屈折率層3L1の光学膜厚λ1は1.000λ0であり、7層中、最も厚く形成されている。表1に反射防止層3の光学膜厚を示す。
【0037】
(防汚層の形成)
信越化学工業株式会社製のフッ素含有有機ケイ素化合物(製品名「KY−130」)を用いた。ここで、KY−130を、フッ素系溶剤(住友スリーエム株式会社製:ノベックHFE−7200)に希釈して固形分濃度3質量%溶液を調製し、これを多孔質セラミックス製のペレットに1g含浸させ乾燥させたものを蒸着源として使用した。
この蒸着源を図2の蒸着装置100にセットした後、ハロゲンランプで加熱して、フッ素含有有機ケイ素化合物を蒸発させ、反射防止層3の上に防汚層を形成した。
【0038】
[実施例2]
実施例2では、第1層の低屈折率層3L1の光学膜厚λ1を0.700λ0と、7層中、最も厚く形成した。その他の製造条件は実施例1と同様である。表1に反射防止層3の光学膜厚を示す。
【0039】
[比較例1]
比較例1では、ハードコート層2側から低屈折率層と高屈折率層とを順に積層させ、合計7層からなる反射防止層3を形成した。比較例1は、第1層の低屈折率層3L1の光学膜厚λ1が1.000λ0であり、7層中、最も厚く形成されるが、高屈折率層3H1、3H2、3H3はイオンアシスト蒸着ではなく、真空蒸着により形成し、反射防止層3を形成した。その他の製造条件は実施例1と同様である。表1に反射防止層3の光学膜厚を示す。
【0040】
[比較例2]
比較例2では、第1層の低屈折率層3L1の光学膜厚λ1を0.500λ0と、7層中、最も厚く形成した。表1に反射防止層3の光学膜厚を示す。その他の製造条件は実施例1と同様である。
【0041】
[比較例3]
比較例3では、ハードコート層2側から低屈折率層と高屈折率層とを順に積層させ、合計5層の反射防止層3を形成した。比較例3は、第1層の低屈折率層3L1の光学膜厚λ1が0.43λ0であり、5層中、最も厚く形成されるが、実施例1の第1層の低屈折率層3L1の光学膜厚λ1の半分にも満たない。その他の製造条件は実施例1と同様である。表1に反射防止層3の光学膜厚を示す。
【0042】
[比較例4]
比較例4では、比較例3同様に合計5層の反射防止層3であり、光学膜厚も比較例3と同様である。比較例4は、高屈折率層3H1、3H2はイオンアシスト蒸着ではなく、真空蒸着により形成し、反射防止層3を形成した。その他の製造条件は実施例1と同様である。表1に反射防止層3の光学膜厚を示す。
【0043】
【表1】

λ0は、設計中心波長であり、λ0=500nmである。
【0044】
〔評価方法〕
以下に示す方法で、眼鏡用プラスチックレンズ10の耐擦傷性を測定した。
(耐擦傷性試験)
COLTS Laboratories社製ベイヤー試験機を用い、上記の製造条件で作成された実施例1,2および比較例1から4の試験品と標準レンズ(株式会社サンルックス製:CR39)を500gのメディアで600回往復させて同時に傷をつけた(COLTS Laboratories社の指定する標準条件)。
その傷の付いた眼鏡用プラスチックレンズ10のヘーズ値H(試験機:スガ試験機株式会社製自動ヘーズコンピューター)を測定して、以下に示す算出式によりベイヤー値Rを求め、耐擦傷性の評価を行った。
R={HST(試験後)−HST(試験前)}/{HSA(試験後)−HSA(試験前)}
式中の記号は、R:ベイヤー値、HST:標準レンズのヘーズ値、HSA:試験品の眼鏡レンズのヘーズ値である。つまり、ベイヤー値Rが大きいほど耐擦傷性が良好である。
【0045】
〔評価結果〕
(耐擦傷性試験)
耐擦傷性試験の結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
実施例1および実施例2は、ともにベイヤー値Rが12.0以上であり、高い耐擦傷性を有していることがわかった。
実施例1に対し、反射防止層の膜厚が実施例1と同じ比較例1はベイヤー値Rが10.0未満であり、イオンアシスト蒸着により成膜したほうが耐擦傷性の点で好ましいことがわかった。また実施例1に対し、第1層の低屈折率層の膜厚が半分の比較例2は、ベイヤー値Rが10.0未満であり、第1層の低屈折率層の膜厚λ1は、ベイヤー値Rが12.44である実施例2の0.7λ0以上が耐擦傷性の点で好ましいことがわかった。
【0048】
実施例1および実施例2に対して、比較例3および比較例4は、反射防止層が低屈折率層と高屈折率層の合計5層であり、ベイヤー値Rが10.0未満であることから、反射防止層は低屈折率層と高屈折率層との合計が7層であることが耐擦傷性の点で好ましいことがわかった。
【0049】
上述の結果から、反射防止層を構成する第1層の低屈折率層3L1の膜厚λ1を厚く形成することで、耐擦傷性を向上させることが可能であることがわかった。しかし、蒸着による反射防止層形成において、膜厚を厚く形成するには蒸着時間を長くすることで可能となるが、成膜時間を長くすることは生産性を著しく低下させ、コストアップにも繋がることとなる。本発明の実施形態において、反射防止層の第1層の低屈折率層3L1が1.2λ0を越えて形成されても、格段のベイヤー値Rの向上は見られず、単に成膜時間を長時間化するだけである。よって、反射防止層の第1層の低屈折率層3L1は1.2λ0以下で形成することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、眼鏡用プラスチックレンズに利用できる他、防塵ガラス、防塵水晶、コンデンサーレンズ、プリズム、光ディスクの反射防止、ディスプレイの反射防止、太陽電池の反射防止、光アイソレータにも利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…基材(レンズ基材)、2…ハードコート層、3…反射防止層、3L1,3L2,3L3,3L4…低屈折率層(酸化ケイ素層、SiO2層)、3H1,3H2,3H3…高屈折率層(酸化ジルコニウム層、ZrO2層)、11…真空容器、12,13…蒸発源、14…加熱手段、15…基材支持台、16…基材加熱用ヒーター、17…フィラメント、18…イオン銃、20…排気装置、21…ターボ分子ポンプ、22…圧力調節バルブ、30…ガス供給装置、31…ガスシリンダー、32…流量制御装置、50…圧力計、100…蒸着装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に反射防止層を備えた光学物品の製造方法であって、
前記反射防止層の、最も基材側にある層を低屈折率層とし、低屈折率層と高屈折率層とを交互に蒸着により7層形成する蒸着工程を備え、
前記蒸着工程は、設計主波長λ0を480nm以上550nm以下の範囲として、前記最も基材側にある低屈折率層の光学膜厚をλ1としたときに、
前記λ1を、
0.7λ0≦λ1≦1.2λ0
の範囲に蒸着する工程と、
前記高屈折率層をイオンアシスト蒸着により蒸着する工程とを含む、
ことを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学物品の製造方法において、
前記低屈折率層が酸化ケイ素からなる
ことを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学物品の製造方法において、
前記高屈折率層が酸化ジルコニウムからなる、
ことを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の光学物品の製造方法において、
前記基材がプラスチックからなる、
ことを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の光学物品の製造方法において、
前記光学物品がプラスチックレンズである、
ことを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の光学物品の製造方法により形成された、
ことを特徴とする光学物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−17949(P2011−17949A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163387(P2009−163387)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】