説明

光学素子、その偏心量測定方法及びその製造方法

【課題】 少なくとも二つ以上の光学面の偏心量を容易かつ高精度に測定することのできる光学素子、その測定方法及びその製造方法を得る。
【解決手段】 金型15,16によって成形された光学素子10であって、光学面11,12の有効径内に調整用マークとして凹部11a,12aが設けられている。一対の光学顕微鏡を光学素子10の上方及び下方に配置し、各顕微鏡にて凹部11a,12aを検出し、凹部11a,12aの偏心量を算出する。さらに、この偏心量に基づいて金型15,16の位置を微調整し、光学素子10を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型によって成形された光学素子、例えば、レンズ、ミラー、固浸レンズ、固浸ミラー、回折光学素子、プリズムなどの光学素子に関し、さらに、該光学素子の偏心量測定法法及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レンズ、ミラー、固浸レンズ(Solid Immersion Lens)、固浸ミラー(Solid Immersion Mirror)、回折光学素子、プリズムなど種々の光学素子は、小型化・軽量化、光学面の高精度化、量産でのコストダウンなどの要請に応じて、金型を用いた成形によって製作される傾向にある。
【0003】
この種の光学素子にあっては、機器への組込み時の位置決めのみならず、製作された光学素子の光学面の偏心量を正確に測定することが必要となっている。
【0004】
特許文献1では、光学ピックアップ装置に用いられる対物レンズの対物面側の有効径内にマークを設け、このマークを基準に対物レンズの位置決めや光軸の傾き修正を行うことが開示されている。また、特許文献2では、対物レンズと位相制御素子の有効径内に中心軸合わせ用のマークを設け、このマークを基準に位置調整してホルダに固定することが開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載のレンズは、あくまで組立て時の位置調整を行うためにマークをレンズの一面にのみ設けたものであり、対向する二つの面の偏心量などを測定することはできない。
【0006】
一方、特許文献3では、レンズを回転させて振れを検出し、偏心量を測定することが開示されている。しかしながら、この測定では、レンズを回転させる基準を外形基準とした場合、両面の偏心を直接測定しているのではなく、外形に対してのそれぞれの偏心を合算しているため、精度が悪化してしまうという問題点を有している。
【特許文献1】特開2004−29045号公報
【特許文献2】特開2001−6203号公報
【特許文献3】特開平7−229812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、少なくとも二つ以上の光学面の偏心量を容易かつ高精度に測定することのできる光学素子を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、光学素子の少なくとも二つ以上の光学面の偏心量を高精度にかつ容易に測定することのできる測定方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、少なくとも二つ以上の光学面の偏心を極めて小さくできる光学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するため、第1の発明は、金型によって成形された光学素子であって、二つ以上の光学面の有効径内に調整用マークを設けたことを特徴とする。
【0011】
第1の発明に係る光学素子によれば、二つ以上の光学面の有効径内に調整用マークが設けられているため、一の光学面の調整用マークを基準に他の光学面の偏心量を顕微鏡などを使用して直接に測定することができ、このような偏心量の測定は容易であり、かつ、精度よく行うことができる。
【0012】
第1の発明に係る光学素子において、前記調整用マークは光学面に凹部又は凸部として形成することができる。このような凹部又は凸部は光学面上に金型を用いて該光学面と同時に形成すれば、高精度に形成することができる。
【0013】
また、前記凹部又は凸部の直径は、レーザ顕微鏡などの光学顕微鏡で検出できる程度を下限とし、上限は光学性能に大きな影響を与えない数値である。具体的には、凹部又は凸部の直径は10nm〜700μmであることが好ましい。直径が700μmとは可視波長域のほぼ上限の1000倍に相当する。
【0014】
凹部又は凸部の直径のより好ましい値は、400nm〜200μmである。400nmとは可視波長域のほぼ下限に相当し、可視光線で観察する光学顕微鏡で十分に観察できる数値である。200μmとは光学顕微鏡に使用されている100倍の対物レンズの視野に相当する大きさである。
【0015】
また、凹部又は凸部の深さ又は高さは10nm〜500μmの範囲が適切である。
【0016】
第2の発明は、二つ以上の光学面の有効径内に調整用マークを設けた光学素子に対して、前記光学面の偏心量を測定する方法であって、一対の光学観察装置の光軸位置を一致させる工程と、前記一対の光学観察装置の間に前記光学素子を設置し、各光学観察装置にて各光学面に設けられた前記調整用マークを検出し、該マークの偏心量を算出する工程とを備えたことを特徴とする。
【0017】
第2の発明に係る偏心量測定方法によれば、二つ以上の光学面の有効径内に設けた調整用マークを光学観察装置で直接検出し、二つの検出値から光学面の偏心量を算出するため、偏心量を精度よく、かつ、容易に測定することができる。
【0018】
第3の発明は、二つ以上の光学面の有効径内に調整用マークを設けた光学素子を金型によって成形する製造方法であって、一対の光学観察装置の光軸位置を一致させる工程と、前記一対の光学観察装置の間に試作された前記光学素子を設置し、各光学観察装置にて各光学面に設けられた前記調整用マークを検出し、該マークの偏心量を算出する工程と、算出された前記偏心量に基づいて前記金型の位置を微調整し、光学素子を成形する工程とを備えたことを特徴とする。
【0019】
第3の発明に係る製造方法によれば、測定された偏心量を成形用金型の位置微調整にフィードバックするため、光学面の偏心の極めて小さい光学素子を得ることができる。
【0020】
第2及び第3の発明において、光学観察装置としては、顕微鏡を使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る光学素子、その偏心量測定方法及びその製造方法の実施例について、添付図面を参照して説明する。
【0022】
(光学素子とその成形用金型、図1〜図3参照)
本発明に係る光学素子の第1実施例を図1に、第2実施例を図2に、第3実施例を図3にそれぞれ示す。
【0023】
図1及び図2に示す光学素子10,20は、それぞれ、軸対称な光学レンズであって、所定の曲面とされた第1光学面11,21と第2光学面12,22と平面状のフランジ部13,23とで構成されている。そして、光学素子10にあっては、光学面11,12の光軸上に調整用マークとして凹部11a,12aが形成されている。また、光学素子20にあっては、光学面21,22の光軸上に調整用マークとして凸部21a,22aが形成されている。軸対称な光学レンズの金型をNC旋盤で作製する際、レンズ中心位置に円形のマークを同時加工で形成すれば、マークの位置精度は保証されるし、加工も容易にできる。
【0024】
これらの光学素子10,20はそれぞれ金型15,16、25,26を用いてモールド成形される。金型15,16のキャビティには前記凹部11a,12aを設けるための凸部15a,16aが形成されている。また、金型25,26のキャビティには前記凸部21a,22aを設けるための凹部25a,26aが形成されている。
【0025】
図3に示す光学素子30は、所定の曲面とされた第1、第2及び第3光学面31,32,33にて構成されたプリズムである。各光学面31,32,33の光軸上には調整用マークとして凹部31a,32a,33aがそれぞれ形成されている。この調整用マークは凸部であってもよい。光学素子30の成形用金型は、特に図示しないが、前記金型15,16,25,26と同様にそのキャビティには調整用マークを設けるための凸部又は凹部が形成されている。
【0026】
調整用マークとしての凹部又は凸部は(以下、光学素子10の凹部11a,12aを例にして説明するが、凸部21a,22a、凹部31a,32a,33aにおいても同様の説明が妥当する)、それぞれの凹部11a,12aの位置を光学顕微鏡を使用して検出することにより光学面11,12の偏心量を直接に測定するために使用される。偏心量の測定に関しては後に詳述する。
【0027】
さらに、測定された偏心量を金型15,16の位置調整にフィードバックし、光学面11,12の偏心の極めて小さい光学素子10を得るようにしている。即ち、金型15,16はその中心軸を一致させるための位置調整機構を備えており、測定した偏心量を位置調整機構の制御にフィードバックして、金型15又は16を凸部15a,16aが同軸上にくるように位置させる。
【0028】
凹部11a,12aは光学顕微鏡によって観察されるものである。従って、その直径はレーザ顕微鏡などの光学顕微鏡で検出できる程度を下限とし、上限は光学性能に大きな影響を与えない数値とする。具体的には、凹部11a,12aの直径は10nm〜700μmであることが好ましい。直径が700μmとは可視波長域のほぼ上限の1000倍に相当する。
【0029】
凹部11a,12aの直径のより好ましい値は、400nm〜200μmである。400nmとは可視波長域のほぼ下限に相当し、可視光線で観察する光学顕微鏡で十分に観察できる数値である。200μmとは光学顕微鏡に使用されている100倍の対物レンズの視野に相当する大きさである。また、凹部11a,12aの直径があまり大きいと、以下に説明するように顕微鏡で観察した画像から中心位置を計算する際の精度が落ちてしまう。平行偏心量は1μm以下で測定することが好ましい。
【0030】
一方、凹部11a,12aの深さ(凸部21a,22aにあっては高さ)は10nm〜500μmの範囲が適切である。
【0031】
(偏心量の測定、図4〜図6参照)
ここで、前記光学素子10の光学面11,12の偏心量の測定方法について説明する。なお、光学素子20,30の偏心量の測定に関しても同様に行われる。
【0032】
測定には、図4に示すように、2台の光学顕微鏡40,50を使用する。顕微鏡40,50は、従来から周知のものであり、ハーフミラー42,52及び対物レンズ43,53を有する顕微鏡本体41,51と、レーザオートコリメータ44,54と、CCDカメラ45,55とからなり、モニタ46,56を備えている。
【0033】
顕微鏡40,50の対物レンズ43,53の中間位置に、オプティカルパラレル61(平行面が正確に形成された基準ガラス板)を設置し、顕微鏡40,50の光軸の傾き調整を行う。即ち、レーザオートコリメータ44,54から出射されたレーザをハーフミラー42,52にてオプティカルパラレル61に導き、その表面での反射光による干渉縞を観察して、光軸の傾きを調整する。
【0034】
ここでは、まず、下方の顕微鏡本体51を基準としてオプティカルパラレル61の傾きを調整する。このように調整されたオプティカルパラレル61に対して、上方の顕微鏡本体41の傾きを調整する。
【0035】
次に、図5に示すように、顕微鏡本体41,51どうしの相対的な平行位置を調整する。ここでは、対物レンズ43,53の中間位置に、スケール62(同心円パターンなどを形成したガラス板)を設置し、顕微鏡40,50の光軸の平行関係の調整を行う。即ち、スケール62を対物レンズを通して拡大した画像をモニタ46,56で観察して、平行度を調整する。
【0036】
ここでは、まず、下方の顕微鏡本体51を基準としてその画面の中心にスケール62のパターン中心62aが位置するように調整する。その後、上方の顕微鏡本体41も同様にして画面の中心にスケール62のパターン中心62aが位置するように調整する。
【0037】
次に、図6に示すように、被検体としての光学素子10を対物レンズ43,53の中間位置に設置して第1光学面11及び第2光学面12の偏心を測定して偏心量を算出する。
【0038】
この工程では、まず、光学素子10のフランジ部13にレーザオートコリメータ44,54から出射されたレーザを照射し、顕微鏡本体41,51に対する光学素子10の傾きを調整する。その後、平行偏心を測定する。
【0039】
平行偏心の測定は、例えば、下方の顕微鏡50のモニタ56の画面の中心に凹部12aの画像12a’が位置するように光学素子10を平行移動させる。そして、上方の顕微鏡40のモニタ46の画面にて凹部11aの画像11a’の中心からのずれ量を計算する。ここで算出された値が光学面11,12の偏心量に相当する。
【0040】
このように算出された偏心量は、前記金型15,16の位置制御にフィードバックされることにより、光学面11,12の偏心量の極めて小さな光学素子10が得られることになる。
【0041】
なお、フランジ部13に輪帯状あるいは3点のマークを設け、これらのマークから光学面11,12の中心を求めることも可能である。しかし、この手法では、低倍率の顕微鏡対物レンズで観察することになるため、マークの検出分解能が低く、中心を求める精度が悪化する。
【0042】
これに対して、前記光学素子10にあっては、対向する光学面11,12の有効径内にそれぞれ凹部11a,12aを形成したため、光学面11,12の凹部11a,12aを基準にして他の光学面の偏心量を直接的に従来からある光学顕微鏡などを使用して容易かつ高精度に測定することができる。さらに、マークは光学面の中心近くにある方が中心を求める精度がよくなるので、望ましい。また、その測定値を金型の位置制御にフィードバックすることにより、高精度な光学素子10を得ることができる。このような効果は光学素子20,30においても同様である。
【0043】
また、前記実施例では、調整用マークとしての凹部や凸部を光学面上に金型を用いて該光学面と同時に成形するようにしたため、調整用マークを高精度に形成することができる。
【0044】
なお、光学素子が光を透過させるものであれば、その透過波面を測定すれば、光学面の偏心量をある程度の精度で推定可能である。しかし、光学素子がもつ所定面の反射を利用する場合、成形したままの状態では測定することができない。反射膜を設けるなどの工程を経れば、波面を測定して偏心量を推定できるが、反射膜を形成せずに評価することが望ましい。本発明を適用すれば、面の偏心を直接観察できる。また、透過波面を観察しても、面形状によっては、素子の傾き偏心と平行偏心を分離することはできない。しかし、前記測定方法で説明したように、素子の傾き偏心はフランジ部の干渉縞から算出するようにすれば、平行偏心のみを分離して測定することができる。
【0045】
(他の実施例)
なお、本発明に係る光学素子、その偏心量測定方法及びその製造方法は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できる。
【0046】
特に、光学素子の種類は様々であり、光学面が軸対称なレンズ以外であっても、例えば、アナモフィックな光学素子であっても適用することができる。なお、前記実施例では顕微鏡を使用したが、調整用マークを拡大して直接観察できる光学系もしくはその機能を達成できる光学観察装置であれば、顕微鏡に限るものではない。また、調整用マークは、レンズの対向する有効光学面の光軸上にそれぞれ設けることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る光学素子の第1例を示し、(A)は素子の平面図、(B)は成形時の概略断面図である。
【図2】本発明に係る光学素子の第2例を示し、(A)は素子の平面図、(B)は成形時の概略断面図である。
【図3】本発明に係る光学素子の第3例を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る偏心量測定方法における顕微鏡の傾き調整工程を示す説明図である。
【図5】本発明に係る偏心量測定方法における顕微鏡の平行調整工程を示す説明図である。
【図6】本発明に係る偏心量測定方法における被検体の測定工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
10,20,30…光学素子
11,12,21,22,31,32,33…光学面
11a,12a…凹部(調整用マーク)
21a,22a…凸部(調整用マーク)
31a,32a,33a…凹部又は凸部(調整用マーク)
15,16,25,26…金型
40,50…光学顕微鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型によって成形された光学素子であって、二つ以上の光学面の有効径内に調整用マークを設けたことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記調整用マークは前記光学面に形成された凹部又は凸部であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記凹部又は凸部は前記光学面上に金型を用いて該光学面と同時に形成されたものであることを特徴とする請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記凹部又は凸部はその直径が10nm〜700μmであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記凹部又は凸部はその直径が400nm〜200μmであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の光学素子。
【請求項6】
前記凹部又は凸部の深さ又は高さは10nm〜500μmであることを特徴とする請求項2、請求項3、請求項4又は請求項5に記載の光学素子。
【請求項7】
二つ以上の光学面の有効径内に調整用マークを設けた光学素子に対して、前記光学面の偏心量を測定する方法であって、
一対の光学観察装置の光軸位置を一致させる工程と、
前記一対の光学観察装置の間に前記光学素子を設置し、各光学観察装置にて各光学面に設けられた前記調整用マークを検出し、該マークの偏心量を算出する工程と、
を備えたことを特徴とする光学素子の偏心量測定方法。
【請求項8】
二つ以上の光学面の有効径内に調整用マークを設けた光学素子を金型によって成形する製造方法であって、
一対の光学観察装置の光軸位置を一致させる工程と、
前記一対の光学観察装置の間に試作された前記光学素子を設置し、各光学観察装置にて各光学面に設けられた前記調整用マークを検出し、該マークの偏心量を算出する工程と、
算出された前記偏心量に基づいて前記金型の位置を微調整し、光学素子を成形する工程と、
を備えたことを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−38589(P2006−38589A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217781(P2004−217781)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】