説明

光学素子の接合方法

【課題】低温で接合可能なため接合時に生じる歪みが小さくし、また、熱伝導性が高いため使用時の熱歪みも小さくし、さらには、高温耐性接合のため接合強度が十分あるダイヤモンド光学素子の接合方法を提供する。
【解決手段】X線回析用ダイヤモンド結晶31および歪緩和用ダイヤモンド結晶32を加圧および加熱して接合するに際し、接合材として、双方のダイヤモンド結晶体31、32の接合面にクラスター源から金属ナノ粒子のクラスターをそれぞれ照射し、接合面に反応層を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダイヤモンドモノクロメータなどの光学装置において、ダイヤモンド結晶よりなる光学素子の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドモノクロメータは、高輝度放射光に対し優れた耐熱性を示し、第3世代放射光施設にとっては不可欠の機器である。しかし、モノクロメータとして使用可能な大型のダイヤモンドを入手することは一般に困難であり、小型のダイヤモンドを購入した上で熱伝導性の高いマウント法を考案し、少しでも有効面積をかせぐために接合面積をできる限り小さくとるのが普通である。
【0003】
ダイヤモンドモノクロメータは、放射光からの多大な熱負荷を受けるために、銅などの冷却ブロック上にマウントされる。この時、冷却ブロックとの接合面積が小さければそれだけ冷却効率が悪くなり、接合部には高効率の熱通過性が要求される。
【0004】
一方で、小さな接合面積に対しても、十分な接合強度とダイヤモンド結晶の安定性が要求される。
【0005】
上述したように、ダイヤモンドモノクロメータの接合技術において要求される項目は以下の通りである。
【0006】
(1) 接合時の低歪みを保証するもの。
【0007】
(2) 使用時の高温耐性を保証するもの。
【0008】
(3) 接合部の接触熱抵抗が小さいもの。
【0009】
(4) 接合強度がある程度高いもの。
【0010】
従来の接合方法としては、ダイヤモンド結晶をまず銀ろうでメタライズした上に、Niコーティングを施し、Au-Snはんだで接合を行うようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0011】
従来の接合方法では、接合部に低温はんだなどのペースト型の接合材が使用されており、熱通過性は必ずしも良くなかった。さらには、接合部が厚くなることを避けられないため、接合力が弱いという問題点もあった。
【特許文献1】特開2001−21782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明の目的は、低温で接合可能なため接合時に生じる歪みが小さく、また、熱伝導性が高いため使用時の熱歪みも小さく、さらには、高温耐性接合のため接合強度が十分ある光学素子の接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明による光学素子の接合方法は、X線回析用ダイヤモンド結晶および歪緩和用ダイヤモンド結晶を加圧および加熱して接合するに際し、双方のダイヤモンド結晶体の接合面にクラスター源からのクラスターをそれぞれ照射することを特徴とするものである。
【0014】
さらに、クラスターの照射は、双方のダイヤモンド結晶体の接合面に反応層を形成するように高エネルギーの照射を行い、その後、双方のダイヤモンド結晶体の少なくともいずれか一方の接合面に低エネルギーのクラスターを照射し堆積させることが好ましい。
【0015】
また、歪緩和用ダイヤモンド結晶を金属製冷却ブロックに加圧および加熱して接合するに際し、歪緩和用ダイヤモンド結晶の冷却ブロックに対する接合面に反応層を形成するようにクラスター源から高エネルギーのクラスターを照射することが好ましい。
【0016】
を特徴とする請求項1または2に記載の光学素子の接合方法。
【0017】
また、高エネルギーのクラスターの照射を行った後、歪緩和用ダイヤモンド結晶および冷却ブロックの少なくともいずれか一方の接合面に低エネルギーのクラスターを照射し堆積させることが有利である。
【0018】
また、前記低エネルギーのクラスターは、バルク材料における融点温度の半分以下を示す直径であってもよい。
【0019】
反応層とは、ダイヤモンド結晶表面に高エネルギーのクラスタを照射することによって、ダイヤモンド結晶表面付近に生成させるダイヤモンドおよびクラスターの材料からなる層であると定義される。
【0020】
この発明は、要するに、ダイヤモンド結晶のマウントに、クラスターである金属ナノ粒子を接合材とした低温接合を利用するものである。
【0021】
金属ナノ粒子を接合材として使用すると、(1)その低温融解現象により低温雰囲気中で接合可能となり、かりに相手の接合材が異種金属だとしても、熱膨張係数による歪みは最小限に抑えることができ、しかも、(2)一度融解してしまえば、接合材の物性はバルク材と同等となるため、その融点は高くなる。一方で、(3)ナノ粒子の表面活性が高いので接合面の付着性が良好であり、接合層も薄いことから一般に接合部の接触熱抵抗は小さくなる。さらに、(4)スパッタ法やレーザー法によってナノ粒子を高速度でダイヤモンド結晶に打ち込むことによって、ナノ粒子層の付着性はさらに高まり、接合部の強度も向上する。
【0022】
したがって、レーザーアブレーション法などを用いて、ナノ粒子をダイヤモンド結晶の接合面に高速で照射することによって、ダイヤモンドモノクロメータの性能を維持しながら、耐熱性を備えた安定な結晶支持方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、以下の作用・効果を奏する。
【0024】
(1)レーザーアブレーション法などの手法を用いて、金属ナノ粒子をダイヤモンド結晶表面上に照射し、ダイヤモンド結晶同士を接合することができる。
【0025】
(2)金属ナノ粒子が比較的低温で融解することによって、接合時の歪みを小さく抑えることができる。
【0026】
(3)金属ナノ粒子が比較的低温で融解することによって接合した複数のダイヤモンド結晶は、これらに熱負荷が加わっても接合材のバルク融点まで高温耐性を有する。
【0027】
(4)はんだ付けのように接合材の層が厚い場合は、接触熱抵抗が大きくなり、ダイヤモンド結晶にかかる熱負荷を取り除く上で不利であるが、この発明による金属ナノ粒子接合材の必要厚さは接合面粗さの数倍から十数倍であり、接合層は比較的薄くなり熱伝導性が向上する。
【0028】
(5)レーザーアブレーション法などの蒸着法を用いることにより、ナノ粒子が接合面に高速で照射されることによって、接合強度が十分に保たれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
この発明の実施の形態を図面を参照しながらつぎに説明する。
【0030】
図3を参照すると、ダイヤモンドモノクロメータに使用される垂直平板状X線回析用ダイヤモンド結晶31、水平平板状歪緩和用ダイヤモンド結晶32および銅製冷却ブロック33が上から下にかけて順次示されている。
【0031】
X線回析用ダイヤモンド結晶31の下端面および歪緩和用ダイヤモンド結晶32の上面が互いに相対させられて、これらが接合面を形成している。X線回析用ダイヤモンド結晶31の下面には第1反応層41が形成されている。歪緩和用ダイヤモンド結晶32の上面には第2反応層42が、その下面には第3反応層43がそれぞれ形成されている。これらの第1〜第3反応層41〜43をそれぞれ被覆するように第1〜第3クラスター堆積層51〜53が形成されている。冷却ブロック33の接合面には第4クラスター堆積層54のみが形成されている。
【0032】
第1〜第4クラスター堆積層51〜54は、接着剤のようなものとして使用するため、第1〜第4クラスター堆積層51〜54の全てが必ずしも必要ではなく、第1および第2クラスター堆積層51、52の少なくともいずか一方、第3および第4クラスター堆積層53、54の少なくともいずか一方が有ればよい。
【0033】
第1〜第3反応層41〜43および第1〜第4クラスター堆積層51〜54を形成するためには、図1示す接合装置が用いられる。
【0034】
接合装置は、真空容器11と、真空容器11の頂壁を貫通してその上方から導入させられている垂直ロッド12を有しかつ真空容器11内において第1ワークW1をその接合面を下向きにして保持している昇降ヘッド13と、第1ワークW1の接合面に相対させるように接合面を上に向けて第2ワークW2を支持している支持台14と、第2ワークW2の接合面に向けてクラスターのビームBを照射するクラスター源15と、第1ワークW1に対し第2ワークW2を押圧しうるように垂直ロッド12の上端に取付られている加圧手段である錘16と、真空容器11の胴壁を取り囲んでいる加熱手段である高周波誘導加熱コイル17とを備えている。
【0035】
ここでは、X線回析用ダイヤモンド結晶31および歪緩和用ダイヤモンド結晶32を接合するケースが示されており、第1ワークW1として、X線回析用ダイヤモンド結晶31が、第2ワークW2として、歪緩和用ダイヤモンド結晶32がそれぞれ示されている。歪緩和用ダイヤモンド結晶32および冷却ブロック33を接合するケースでは、歪緩和用ダイヤモンド結晶32が第1ワークW1となり、冷却ブロック33が第2ワークW2となる。
【0036】
また、第2ワークW2にのみクラスターが照射されるように図示されているが、図示しない別のクラスター源から第1ワークW1にもクラスターが照射可能となっている。
【0037】
クラスター源15としては、特開2001−158956号公報または特開2002−038257号公報に開示されているクラスター銃を好適に採用することができる。
【0038】
クラスター源15については詳細には図示しないが、概略構成は以下の通りである。すなわち、クラスター源15は、クラスター生成室を有しかつクラスターターゲットをその蒸発面がクラスター生成室に臨ませられるように保持するクラスター本体21と、ミラー22を介して蒸発面にレーザLを照射してターゲットを蒸発ガス化させるとともに、ターゲットの蒸発により衝撃波を発生させるレーザ光源23と、蒸発ガスを不活性ガスの流れにのせて第2ワークW2の接合面に導くように不活性ガスの流れを生じさせる不活性ガス手段24とを備えており、蒸発面に対するレーザ入射方向が、不活性ガスの流れ方向に対し所定の角度に保持されているものである。
【0039】
クラスターターゲットの材料としては、第1〜第3反応層41〜43および第1および第2クラスター堆積層41、42を形成する場合、タングステンが用いられる。タングステンの代わりに、チタン、炭化チタン等の高融点金属を選択してもよい。第3および第4クラスター堆積層53、54を形成する場合、クラスターターゲットの材料としては、冷却ブロック33の材料と同じ銅が選択される。
【0040】
クラスター源15からは、高エネルギーのクラスターおよび低エネルギーのクラスターが切換られて照射可能となっている。高低エネルギーの切換は、不活性ガスの圧力およびレーザの強度によって調整される。また、このように高低エネルギーを調整することに代えて、高エネルギー用クラスター源および低エネルギー用クラスター源をそれぞれ各接合面にクラスタービームを照射可能に用意しておき、2つのクラスター源を使い分けるようにしてもよい。そうすれば、照射されるクラスターのエネルギーの高低幅が広くなる。
【0041】
X線回析用ダイヤモンド結晶31および歪緩和用ダイヤモンド結晶32を接合する場合を想定する。
【0042】
クラスター源15からは、第1および第2ワークW1、W2の接合面に向かってタングステンクラスターが照射される。まず、最初に、高エネルギーのタングステンクラスターが第1および第2ワークW1,W2の接合面に照射される。これにより、同接合面にタングステンクラスターが打ち込まれ、同接合面近くにタングステンクラスターおよびダイヤモンドの材料よりなる第1および第2反応層41、42が形成される。ついで、低エネルギーのタングステンのクラスターが形成された反応層41、42の上に照射される。そうすると、対応する反応層41、42の上に第1および第2クラスター堆積層51、52が形成される。ついで、第1ワークW1および第2ワークW2を、昇降ヘッドを下降させて加圧しかつ高周波誘導加熱コイル17によって接合温度に加熱する。
【0043】
つぎに、歪緩和用ダイヤモンド結晶32および冷却ブロック33を接合する場合、第1ワークW1の接合面に向かってタングステンクラスターが高速で照射される。これにより、第3反応層43が形成される。ついで、第3反応層43および第2ワークW2のそれぞれの接合面に向かって、今度は、銅クラスターが低速で照射されて、第3および第4クラスター堆積層53、54が形成される。
【0044】
ここで、生成されるクラスターと、その接合条件について、詳しく検証する。
【0045】
ナノクラスターの融点Tmfはその直径rが小さくなるとともに低下する。その関係式はギブスの自由エネルギー変化を吟味することによって第1式のように示される。
【0046】
mf/T=1−2(σ−σl)/rL0 (1)
ここに、Tはバルク材料の融点、σはその固体の表面自由エネルギー、σlはその液体の表面自由エネルギー、L0は単位体積当たりの潜熱を表す。
【0047】
(1)式をグラフ化すると、図2に示す通りである。図2によれば、クラスター径が2ナノメータ以下では融解温度が400℃以下になることが分かる。このように、クラスターの直径が数nmになると、その融点がバルクの半分以下まで低下する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】この発明による方法に使用される接合装置の概略構成図である。
【図2】クラスター直径と融解温度の関係を示すグラフである。
【図3】ダイヤモンド結晶および冷却ブロックの接合の様子を概略示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
11 真空容器
13 昇降ヘッド
14 支持台
15 クラスター源
31 X線回析用ダイヤモンド結晶
32 歪緩和用ダイヤモンド結晶
33 冷却ブロック
41〜43 反応層
51〜54 クラスタ堆積層
B クラスタービーム
L レーザ
W1 第1ワーク
W2 第2ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回析用ダイヤモンド結晶および歪緩和用ダイヤモンド結晶を加圧および加熱して接合するに際し、双方のダイヤモンド結晶体の接合面にクラスター源からのクラスターをそれぞれ照射することを特徴とする光学素子の接合方法。
【請求項2】
クラスターの照射は、双方のダイヤモンド結晶体の接合面に反応層を形成するように高エネルギーの照射を行い、その後、双方のダイヤモンド結晶体の少なくともいずれか一方の接合面に低エネルギーのクラスターを照射し堆積させることを特徴とする請求項1に記載の光学素子の接合方法。
【請求項3】
歪緩和用ダイヤモンド結晶を金属製冷却ブロックに加圧および加熱して接合するに際し、歪緩和用ダイヤモンド結晶の冷却ブロックに対する接合面に反応層を形成するようにクラスター源から高エネルギーのクラスターを照射することを特徴とする請求項1または2に記載の光学素子の接合方法。
【請求項4】
高エネルギーのクラスターの照射を行った後、歪緩和用ダイヤモンド結晶および冷却ブロックの少なくともいずれか一方の接合面に低エネルギーのクラスターを照射し堆積させることを特徴とする請求項3に記載の光学素子の接合方法。
【請求項5】
前記低エネルギーのクラスターは、バルク材料における融点温度の半分以下を示す直径であることを特徴とする請求項2または4に記載の光学素子の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−176754(P2007−176754A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377854(P2005−377854)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【出願人】(591056569)ナイス株式会社 (10)
【出願人】(596132721)財団法人近畿高エネルギー加工技術研究所 (18)
【Fターム(参考)】