説明

光学装置

【課題】 先行技術に記載されている欠点を回避できるように冒頭に挙げた形式の光学装置を引き続き形成することを課題とする。
【解決手段】 2つ以上の対物レンズ要素(21、24、27)を有する少なくとも1つの対物レンズ要素(20)を備える光学装置(10)、特に望遠鏡装置において、前記対物レンズ要素(21)の一方が回折光学要素(15)を有する回折光学要素(15)のための支持レンズ要素として形成されている光学装置であって、
光学装置(10)がガリレイシステムまたはケプラーシステムとして形成されており、光学装置(10)が少なくとも1つの接眼レンズ要素(31)を備える接眼レンズ要素(30)を有し、光線が20度以下の角度で回折光学要素(15)に入射するように前記回折光学要素が光学装置(10)の中に配置または形成されており、かつ回折光学要素(15)が50μm以上、特に100μm以上の最小溝幅hを有する光学装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの対物レンズ要素を備える光学装置、特に望遠鏡装置において、前記対物レンズ要素が2つ以上の対物レンズ要素を有する光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の光学装置は、たとえばいわゆるガリレイシステムとすることができる。
【0003】
ガリレイシステムは、たとえば短い望遠鏡の製造に適している。眼がこのようなガリレイ望遠鏡を通して見るとき、眼は直立像および左右整合像を見る。その際に両眼に対して2つのガリレイ望遠鏡を配列することが通例である。このようなガリレイ望遠鏡が双眼鏡として使用される場合、たとえばオペラグラス等々の場合と同様に、物体面は無限遠にまたは前面レンズから少なくとも遠く離れている(典型的に10メートル以上)。この場合は「ガリレイ双眼鏡」と呼ばれる。しかし物体面をガリレイ望遠鏡の前面レンズへより密接して近づけることを好適とすることもでき、その結果、この間隔はたとえば20cmおよび100cmの間になる。それによって大きい物体間隔をもつ一種の拡大鏡が得られる。この場合は「ガリレイ拡大鏡」、たとえば「ガリレイ拡大眼鏡」と呼ばれる。ガリレイ拡大眼鏡は、しばしば拡大眼鏡として視力障害の人が使用する。しかしまたガリレイ拡大眼鏡は専門的にも、たとえば歯科医師、歯科医師助手、精密機械技術者、宝石業者等々によっても使用されている。
【0004】
ガリレイシステムは、一般に正の屈折率を有する対物レンズ要素ならびに負の屈折率を有する接眼レンズ要素から構成される。この場合、対物レンズも接眼レンズも1つ以上のレンズ要素から構成されていてもよい。対物レンズの直径は、接眼レンズの直径よりも大きく、好ましくは明らかにより大きくなり、その結果、対物レンズのレンズ重量は接眼レンズの重量よりも明らかに大きくなる。
【0005】
ガリレイシステム、たとえばガリレイ望遠鏡を快適に利用できるようにするため、少ない重量、小さい構造長および小さすぎない視野が重要である。重量および構造長は、これらが大抵頭部で支持され、そのためしばしば一種の眼鏡フレームに取り付けられるので、特に拡大眼鏡において非常に大きい役割を果たしている。
【0006】
すでに長年にわたってますます新規のガリレイ望遠鏡の変形体が開発されている。ガリレイ望遠鏡の1つの重要なデザインパラメータは倍率である。大雑把な原則として、ガリレイ望遠鏡においてレンズの個数が倍率と共に増加すると仮定できる。特許文献1に、たとえば3個のレンズを有するガリレイシステムが提案されている。特許文献2に、すでに5個のレンズを含むより高い倍率を有するガリレイシステムが提示されている。
【0007】
特許文献3に、増大した焦点深度が達成される光学装置が記載されている。そのために、たとえば回折光学要素( ein diffraktives optisches Element )としてもよい焦点深度を増大するための装置が設けられている。この焦点深度のための装置は、対物レンズ要素と接眼レンズ要素との間に配置されている。この公知の解決策に使用されている回折光学要素は全く特別の用途に使用される。この場合は色結像誤差(chromatischer Abbildungsfehler )の補正ではなく、複数の焦点を有する光学要素の製造である。これは原理的に、このような要素によって光を同時に様々な回折構造(Beugungsordnungen )で回折できるために回折光学要素で可能であり、これが様々な焦点を生ぜしめる。
【0008】
しかしながらガリレイ拡大眼鏡の場合、前記効果は望ましくない。ここで、ガリレイ双眼鏡と同様に、最も重要な品質特徴は色倍率差( der chromatischen Vergroetzerngsdifferenz )の補正である。これは一般に屈折率の波長依存性によって発生する結像誤差(Abbildungsfehler )である。ガリレイ双眼鏡およびガリレイ拡大鏡は通常可視スペクトルで使用されるので、これは広帯域光学系である。色倍率差が良く補正されない場合、そこで妨害的に知覚される色縁が発生する。従ってこれは各波長に通常何か別の結像尺度(Abbildungsmatzstab )が含まれることに由来し、その結果、検出器上に発生する像がそれぞれの色に応じて多少異なる大きさを有する。この効果が色縁として知覚される。このような色縁は非常に妨げとなり、かつ使用者は非常に早く気がつく。特にガリレイシステムを専門的に使用する場合、このような色縁は回避されるべきである。
【0009】
特許文献4に、望遠眼鏡または拡大眼鏡用の光学系が記載されており、この光学系は一体の対物レンズを有する。この場合、接眼レンズに対向する対物レンズの表面は回折構造を有する。それによって、すでに色倍率差を制限された範囲で補正することが可能になる。
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,463,500B号明細書
【特許文献2】米国特許第5,790,323号
【特許文献3】ドイツ国特許出願公開第102005036486A1号明細書
【特許文献4】ドイツ国実用新案第29823076U1号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記先行技術から出発して本発明の基礎に置く課題は、先行技術に記載されている欠点を回避できるように冒頭に挙げた形式の光学装置を引き続き形成することである。特に、色倍率差の補正がドイツ国実用新案第29823076号に記載された解決策に関して引き続き改善できるような光学装置が作られるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、独立特許請求の範囲第1項に記載の特徴を有する光学装置によって解決される。この種の光学装置の特別の使用は、特許請求の範囲第12項に記載されている。本発明のその他の特徴および詳細は、従属請求項、明細書ならびに図面から明らかである。
【0013】
光学装置、特に望遠鏡装置は、本発明により2つ以上の対物レンズ要素を有する少なくとも1つの対物レンズ要素を備えて提供され、前記対物レンズ要素の1つは回折光学要素を有する回折光学要素のための支持レンズ要素として形成されている。前記光学装置は、該光学装置がガリレイシステムまたはケプラーシステムとして形成されており、該光学装置が少なくとも1つの接眼レンズ要素を備える接眼レンズ要素を有し、光線が20度以下の角度で回折光学要素に入射するように前記回折光学要素が光学装置の中に配置または形成されており、かつ回折光学要素が50μm以上、特に100μm以上の最小溝幅hを有することを特徴とする。
【0014】
前記光学装置の一般的な実施態様において、2つ以上の対物レンズ要素を有する少なくとも1つの対物レンズ要素を備える光学装置、特に望遠鏡装置も提供される。この光学装置は、対物レンズ要素の1つが回折光学要素を有する回折光学要素のための支持レンズ要素として形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明は、基本的に光学装置の特別のタイプまたは光学装置の機能性に制限されていない。しかしながら特に望遠鏡装置である場合でも、本発明はこの点に関しても特別の望遠鏡タイプに制限されていない。幾つかの有利な、但し排他的ではない光学装置の実施例を後述の明細書でより詳しく説明する。
【0016】
光学装置は、好ましくはガリレイタイプの装置として、すなわちガリレイシステムとして形成されていてもよい。ガリレイシステムは、基本的に正の屈折率を有する対物レンズ要素と、負の屈折率を有する接眼レンズ要素とから構成される。その際に対物レンズも接眼レンズも1つ以上のレンズからなることができる。対物レンズの直径は通常接眼レンズの直径よりも明らかに大きい。ガリレイシステム自体は、すでに以前から公知であり、この分野で活動する当業者に良く知られている。
【0017】
別の実施態様において、光学装置がケプラーシステムとして形成されていることも考慮してもよい。ケプラーシステムは、一般に凸レンズ対物レンズと凸レンズ接眼レンズとを有するレンズ望遠鏡の形態の望遠鏡である。ケプラーシステム自体は、すでに以前から公知であり、この分野で活動する当業者に良く知られている。ケプラーシステムはしばしば天体望遠鏡として使用される。しかしまたケプラーシステムは、たとえば適当なプリズムを備える倒立像のための好適な装置により地上の双眼鏡としても使用される。
【0018】
別の実施態様において、光学装置が1つの接眼レンズ要素を有することを考慮してもよい。この接眼レンズ要素は、さらに少なくとも1つの接眼レンズ要素を有する。本発明は、この場合も接眼レンズ要素の一定数にも特別の形態にも制限されていない。後述の中で幾つかの有利な、但し排他的ではない好適な接眼レンズ要素の実施例を説明する。
【0019】
光学装置は、基本的な特徴として少なくとも1つの対物レンズ要素を有する。さらに、この対物レンズ要素は2つ以上の対物レンズ要素を有する。もちろん本発明は、この場合も一定数の対物レンズ要素に制限されていない。
【0020】
対物レンズ要素の1つは、回折光学要素のための支持レンズ要素として形成されている。この支持レンズ要素は1つの回折光学要素も有する。ここで「有する」とは、回折光学要素が支持レンズ要素の上もしくは横に配置されていることである。しかしまた「有する」とは、回折光学要素が支持レンズ要素の上もしくは横または中に形成されていることを意味してもよい。もちろんこの点に関する組合せも考えられる。支持レンズ要素は、好ましくは少なくとも1つの支持面を有し、前記支持面の上/横に回折光学要素が配置されており、もしくは前記支持面の上/横/中に回折光学要素が形成されている。回折光学要素の配置もしくは該回折光学要素の支持レンズ要素の上/横/中への形成は、ここで該回折光学要素の実施態様に従って生じ、その結果、本発明はこの点に関して回折光学要素の実施態様に関するものと同様に何ら制限を受けていない。幾つかの有利な、但し排他的ではないその実施例は後述する本明細書の中でより詳しく説明する。
【0021】
回折光学要素は一般に光学要素であり、たとえば構造からなる、たとえば光を規定された方法で変調および変換できる微細構造からなる(必要であれば複雑な)パターンである。回折光学要素は、たとえば前記構造での光回折によって光学的に作用する機能を実現する構造を具備した光学面としてもよい。
【0022】
たとえば回折光学要素のための支持面が平面として形成されており、その結果、回折光学要素が一平面上にあることを考慮してもよい。もちろん回折光学要素は湾曲した面または少なくとも領域ごとに湾曲した面上に置かれてもよい。
【0023】
対物レンズ要素は、本発明により1つの回折光学要素を有する。回折光学要素は一定の光量を常に望ましくない回折構造に偏向する性質を有する。これは二重像またはコントラスト減少をもたらす。従って光学系内にただ1つの回折光学要素のみを使用するか、複数の回折光学要素を使用しないことが有利である。従って複数の回折光学要素による解決策は不利と見なせる。
【0024】
本発明に係る光学装置に使用される回折光学要素は、好ましくは可能な限り全ての光が有効位数へ偏向される方法で形成されている。可能な限り少ない光が別の回折構造で偏向されるべきである。
【0025】
好ましくは、光線が20度以下の角度で回折光学要素に入射するように前記回折光学要素が光学装置の中に配置または形成されていることが考慮されている。光線は、好ましくは10度以下の角度で回折光学要素に入射する。光線は、特に好ましくは近似的に垂直に回折光学要素に入射する。光線が可能な限り垂直に回折光学要素の支持面に入射する場合が有利である。すなわち回折光学要素の支持面への入射角度が小さくなるほど、望ましくない回折構造での虚光(Falschlicht )がより少なく発生し得る。
【0026】
回折光学要素は、好ましくは50μm以上、有利には100μm以上の最小溝幅hを有する。回折光学要素の最小溝幅hが小さくなりすぎない場合が有利である。50μm以上の最小溝幅hが好適であり、100μm以上の最小溝幅hが有利である。すなわち最小溝幅hが小さくなるほど、回折光学要素のエッジがレンズの光軸と平行に延伸しない場合、さらに多くの虚光が望ましくない回折構造で発生する。合成樹脂製の回折光学要素の製造誤差のために、回折光学要素は溝幅が大きくなるほどさらに少ない光を望ましくない回折構造で偏向する。たとえば溝幅が回折光学要素の周縁部に向かって減少する場合が発生し得る。このような場合は最小溝幅が回折光学要素の周縁部領域にある。
【0027】
最も簡単な場合、対物レンズ要素は2つの対物レンズ要素を有し、前記対物レンズ要素の一方は回折光学要素のための支持レンズ要素として形成されている。しかしながら好ましくは、対物レンズ要素が2つ以上の対物レンズ要素を有し、この場合も対物レンズ要素の一方が回折光学要素のための支持レンズ要素として形成されることを考慮してもよい。対物レンズ要素は、好ましくは3つの対物レンズ要素を有してもよい。
【0028】
個々の対物レンズ要素は、たとえば個別レンズとして形成してもよい。この場合は対物レンズ要素の少なくとも一方が1つの回折光学要素を有する。しかしながら対物レンズ要素の少なくとも一方をキット部材(Kittglied )として形成することも可能であり、前記キット部材は少なくとも2つのレンズ要素からなる。同様に対物レンズ要素の2つ以上の対物レンズ要素がただ1つのキット部材の形態で形成された態様も考えられる。このような場合、2つ以上の対物レンズ要素がキット部材の個々のレンズ要素を形成する。対物レンズ要素が3つ以上の対物レンズ要素を有する場合、少なくとも2つの対物レンズ要素がキット部材として形成され、かつ少なくとももう1つの対物レンズ要素が個別レンズとして形成されることを考慮してもよい。
【0029】
少なくとも1つの対物レンズ要素がキット部材として前記形態で形成されている場合、少なくとも1つの回折光学要素は、たとえばキット部材の外面の1つの上に形成/配置されていてもよい。この場合、回折光学要素はキット部材の表面の一方の上/横にある。
【0030】
択一的または付加的に、少なくとも1つの回折光学要素がキット部材の内部に設けられたレンズ面の1つの上に形成/配置されていることを考慮してもよい。この場合、回折光学要素はキット部材のレンズ内面の上/横にあり、それによってキット部材の中に「埋め込まれ」ている。この種の回折光学要素は、たとえば米国特許第5,734,502号または欧州特許第0965864A2号明細書に記載されており、それらの開示内容はその限りで本発明の明細書の中に併せて含まれる。
【0031】
本発明に従って、特に次の長所を有する光学装置が提供される。以下さらに詳しく記載するように、好ましくは少なくとも部分的に合成樹脂製としてもよいレンズ要素の好適な選択により少ない重量を有する光学装置を実現することができる。これは、たとえば光学装置が頭部に支持される場合に有利である。さらに光学装置は、特に合成樹脂部品が使用される場合、コスト的に有利に製造することもできる。この種の合成樹脂部品は、たとえば射出成形法によってコスト的に有利に製造できる。
【0032】
最後に、前記光学装置によって良好な補正状態を(特に少ないレンズ数で)達成することができる。これは、対物レンズ要素が回折光学要素を備える対物レンズ要素に加えて(すでに上記ドイツ国実用新案第29823076U1号に開示されているように)少なくとも1つの別の対物レンズ要素を有することによっても達成される。それによって、特に色倍率差の補正を引き続き改善することができる。対物レンズ要素が3つの対物レンズ要素を有する場合、特に有利である。本発明は、もちろん対物レンズ要素の一定数および態様に制限されていない。幾つかの有利な、但し排他的ではない実施例は、後述する本明細書の中でより詳しく説明する。
【0033】
好ましくは、回折光学要素のための支持要素として形成されていない少なくとも1つの対物レンズ要素は、屈折レンズ要素として形成されてもよい。レンズ要素もしくはレンズ面は、光線の結像が専ら屈折の法則に基づく場合に屈折性に機能する。従って回折光学要素は屈折性に機能しない。通常「慣用の」凸レンズまたは凹レンズは屈折性に機能するレンズである。屈折レンズ要素の使用は、補正のさらなる改善、特に好ましくはレンズ数が少ない場合さらに改善された色倍率差の補正を生ぜしめる。好ましくは、光学装置の対物レンズ要素の中に1つの回折光学要素を備えるレンズ要素(支持レンズ要素)が使用され、かつ対物レンズ要素(必要であれば以下さらに詳しく説明するもう1つの接眼レンズ要素)のその他全ての光学要素が屈折性であることを考慮してもよい。
【0034】
好ましくは、少なくとも1つの対物レンズ要素の少なくとも1つのレンズ面が非球面として形成されることが考慮されている。その際に非球面の位置は、基本的に対物レンズ要素内のあらゆる場所としてもよい。たとえば非球面は、回折光学要素を備えるレンズ面への後続面であってもよい。もちろん回折光学要素自体の支持面が非球面であることも考えられる。2つ以上の非球面を設けかつ使用してもよい。
【0035】
別の実施態様において、好ましくは回折光学要素のための支持レンズ要素として形成された対物レンズ要素および/または回折光学要素のための支持レンズ要素として形成されていない少なくとも1つの対物レンズ要素が合成樹脂から形成されていることを考慮している。合成樹脂から形成されないようなレンズ要素は、好ましくはガラスから形成してもよい。好ましくは、回折光学要素の支持レンズ要素も、少なくとも1つの別の対物レンズ要素も、合成樹脂からなることが考慮されている。合成樹脂レンズがより多く使用できるほど、達成できる光学装置の重量節約がさらに大きくなる。
【0036】
好ましい一実施態様において、対物レンズ要素が2つの合成樹脂レンズ要素と、1つのガラスレンズ要素とからなることを考慮してもよい。任意選択により設ける光学装置の接眼レンズ要素は合成樹脂製またはガラス製としてもよい。しかしながら、レンズの交換によって光学装置、たとえばガリレイ拡大眼鏡を種々の物体間隔(Objektabstaende )に適合し、倍率を一定に保つことも可能である。それによってコスト的に有利に種々の物体間隔に対して光学装置を製造することができる。しかしまた所望の物体間隔に適合するために対物レンズと接眼レンズとの間の間隔を変化させることができ、その結果、このレンズ要素を用いて、たとえば種々の物体間隔をもつガリレイ望遠鏡を作ることができる。
【0037】
本発明は、レンズ要素のための特別の材料の使用に制限されていない。幾つかの有利な、但し排他的ではない好適な材料の実施例は、実施例との関連性において引き続き以下に記載する。
【0038】
好ましくは、ガラスレンズが対物レンズ内で、たとえば製造者GEプラスティクスの材料ウルテムからなる合成樹脂レンズで代用されるように、ガラスレンズ要素が対物レンズ要素内で変更されることを考慮してもよい。このようにさらなる重量削減が達成される。つまり前記システムの最も重いガラスレンズはそれによって合成樹脂に置換される。ウルテムレンズ(Ultem-Linse )はゼオネックスレンズ( Zeonex-Linse )でもキット化することができ、これが簡素化されたフレーム技術、より大きい面公差、より少ないコーティング等々の別の長所となる。
【0039】
すでに上述したように、回折光学要素は様々な方法で形成することができ、そのため本発明はこの点に関して具体的な実施態様に制限されていない。以下幾つかの有利な、但し排他的ではない回折光学要素の態様を説明する。
【0040】
たとえば回折光学要素は空気との境界面のレンズ材料内でスカラー理論に従ってたとえばλ≒550nmの緑色で最大回折効率に達し、他方、回折効率がスペクトルの青色および赤色縁で約80%下がる表面レリーフからなることができる。従って各回折光学要素は二重像の発生およびコントラスト損失を生じる望ましくない回折構造から虚光を生じる原因になる。その際に1つ以上の回折光学要素の使用が分かれ目である。
【0041】
たとえば、回折光学要素がリングシステムとして支持レンズ要素の支持面上に配置または形成されていることを考慮してもよい。支持レンズ要素はその際に合成樹脂製またはガラス製としてもよい。支持レンズ要素用の材料として、たとえば低いガラス転移温度Tgを有するプレスガラスを使用してもよく、その結果、支持レンズ要素は回折光学要素を含めて輝度圧縮することができる。たとえば回折光学要素が合成樹脂リングシステムとしてガラスレンズの表面上に模写されることを考慮してもよい。
【0042】
回折光学要素は、好ましくは階段状に形成してもよい。これは、回折光学要素がこのような場合に階段状の延伸部を有することを意味する。
【0043】
従って光学装置たとえば拡大眼鏡の対物レンズ要素は、色補正のための回折光学要素のほかに、さらにたとえばSNPH2からなり、かつ色補正の一部を屈折性に実行する特に低いアッベ数ηd=18.9を有するガラス凹レンズを有してもよい。回折光学要素は、その場合好ましくは約110μmの最小溝幅hを有する。この最小溝幅hは従来公知の解決策の場合よりも大きくなる。
【0044】
回折光学要素は、好ましくは支持レンズ要素の支持面上に配置または形成されていてもよく、支持面は球面の基本形状からなる。これは、好ましくは重ね合わされた回折光学要素を有する球面基本形状からなる、いわゆるシネマ型(
Kinoform )であってもよい。もちろん回折光学要素が非球面の基本形状の上にあることも考えられる。
【0045】
回折光学要素は、好ましくは対物レンズ要素の内部に配置してもよい。回折面が光学装置の内部にあり、かつ前面にない場合が有利である。その理由は、汚れが回折光学要素の中に沈着できず、そのためシステムを容易に洗浄できることである。
【0046】
たとえば上述のような少なくとも1つの接眼レンズ要素を少なくとも2つのレンズ要素からなるキット部材として形成してもよい。色倍率差は、たとえば接眼レンズが2つのガラスレンズからなるキット部材で代用される場合さらに良く補正することができる。しかしまた、前記キット部材は2つの異なる合成樹脂、たとえばゼオネックスおよびポリカーボネートから構成してもよい。
【0047】
別の実施態様において、少なくとも1つの接眼レンズ要素は可変焦点距離を有するレンズ要素として形成してもよい。接眼レンズの中に、たとえばその焦点距離を電気的に、またはその他の方法で、たとえば液体レンズ等の形態で変化させることができる可変レンズを使用してもよい。可変焦点距離を有するレンズ自体は、すでに以前から知られている。この種のレンズによって個別的非正視を補償することができ、さらに物体距離を機械的可動部分なしに調整可能にすることもできる。円柱レンズである液体レンズを取ると、提案された光学装置、たとえば特殊眼鏡の使用者の乱視を補正することもできる。また可変レンズ要素は可変円柱レンズの形態で形成してもよい。その場合は、たとえば乱視をもつ眼鏡着用者は、特にこれが拡大眼鏡である場合、光学装置を良く使用できる。
【0048】
たとえばガリレイシステムまたはケプラーシステムとして形成してもよい本発明による光学装置は、好ましくは拡大鏡装置、または双眼鏡装置、または望遠鏡装置、または円環面を有する液体レンズとして形成してもよい。本発明は、その際にもちろん前記態様に制限されていない。ガリレイ望遠鏡の好適な使用は、たとえば廉価な夜間用双眼鏡(ガリレイシステムが大きい瞳出口(Austrittpupille )を有する)、顕微鏡たとえば手術用顕微鏡のガリレイシステム等々である。拡大鏡装置は、たとえば歯科医師、歯科医師助手、精密機械技術者等が使用できる、たとえば拡大眼鏡の形態で実現することができる。
【0049】
本発明に係る光学装置は、好ましくは特に拡大眼鏡の拡大鏡装置として、または双眼鏡として、または望遠鏡として、または円環面を有する液体レンズとして使用してもよい。
【0050】
本発明による光学装置は、好ましくは回折光学要素を有するガリレイシステムまたはケプラーシステムとして形成されていてもよい。
【0051】
回折光学要素においてスカラー回折効率は赤色および青色光に対して約80%の値に下がり、その結果、スペクトル周縁部で望ましくない回折構造から虚光が発生し、この虚光がコントラスト低下または有色二重像の発生をもたらす。回折光学要素の構造を変化させ、その際に種々の互いに正確に調整された材料を使用すると、回折効率を全波長帯にわたって明らかに上昇させることができる。この方式は、たとえば米国特許第5,734,502号または欧州特許第0965864A2号に記載されており、これらの特許の開示内容はその限りで本発明の明細書に併せて含まれる。
【0052】
本発明は、以下、添付の図面を参照して幾つかの実施例を利用しより詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
図1による光学装置10はガリレイシステムの形態で構成されており、かつ光軸11に沿って配置された1つの対物レンズ要素20と、1つの接眼レンズ要素30とからなる。光学装置10は、たとえば拡大鏡装置として形成してもよく、かつこのような拡大眼鏡の構成要素としてもよい。
【0054】
接眼レンズ要素30は、図示した実施例において2つのレンズ面32、33を有する接眼レンズ要素31からなる。接眼レンズ要素31は、たとえばガラスから製造してもよい。その際に好ましくは色誤差を最小限にするために可能な限り小さいアッベ数を有するガラスが使用される。しかし接眼レンズ要素31は合成樹脂製としてもよい。
【0055】
対物レンズ要素20は図示した実施例において対物レンズ要素21、24、27からなる。対物レンズ要素21は、支持レンズ要素21の支持面23上に配置または形成された回折光学要素15のための支持レンズ要素である。図示した実施例において、回折光学要素15は対物レンズ要素20の内部に向けられた平面上にあり、その前面22上にはない。支持レンズ要素21は、好ましくは合成樹脂から形成されている。これは図示した実施例において対物レンズ要素20の前面レンズである。
【0056】
さらに対物レンズ要素20は、それぞれレンズ面25、26(レンズ要素24)もしくは28、29(レンズ要素27)を使用する2つの別の対物レンズ要素24、27を有する。前記レンズ要素24、27の少なくとも一方は合成樹脂から製造される。他方のレンズ要素はこの場合ガラスから製造してもよい。もちろん対物レンズ要素20の全てのレンズ要素21、24、27が合成樹脂からなることも考えられる。
【0057】
図示した実施例において左から見てレンズ面22、23、25、26、28、29を有する第1の3つのレンズ21、24、27は対物レンズ20であり、レンズ面32および33を有するレンズ31は接眼レンズである。物体はレンズ面22の左側にあり、観察者の眼はレンズ面33の右側にある。レンズ面23は回折光学要素15の支持面である。レンズ面25は非球面である。レンズ面22からレンズ面26までの第1の両方のレンズ21、24のレンズ材料は合成樹脂である。
【0058】
図2に、より大きい細部で図示した回折光学要素15のための支持レンズ要素である対物レンズ要素21の断面図が示されている。回折光学要素15はレンズ要素21のレンズ面23上に形成されており、その結果、レンズ面23が回折光学要素15のための支持面になる。図2の中で、回折光学要素15が可能な限り良く見えるようにアスペクト比を変化させたことに注意されたい。実際上、溝深さdは典型的に溝幅hよりも明らかに小さくなる。図2で回折光学要素15は一平面上にある。もちろん回折光学要素15は湾曲面上にあってもよい。図2に示した構造は「シネマ型」とも呼ばれる。
【0059】
この構造はもちろん「2進化 ( binaerisiert)」することもできる。その場合は、階段状の延伸部を有する回折光学要素15が得られる。図3に、この点に関して3つの異なる実施態様が示されており、そこでそれぞれ1つの階段延伸部が回折光学要素15のそれぞれ2つのリングに対して示されている。
【0060】
以下、前記光学装置10をベースとする様々な実施例が記載されており、それぞれ異なる物体間隔が選択されている。
【0061】
実施例1:物体間隔351mm
この実施例に、物体と前面レンズ21との間の物体間隔が351mmのガリレイ拡大眼鏡が記載されている。このシステムは、その際に虚像が観察者の約1m前にあると思われるように設計されている。しかし同様にこの虚像は無限大に置いてもよい。この図は、その構造が表1に記載されている本発明に係るガリレイ望遠鏡のレンズ断面を示す。
【0062】
表1の中で、後続の表2および3と同様に、それぞれ面番号1はレンズ面22に、面番号2はレンズ面23に、面番号3はレンズ面25に、面番号4はレンズ面26に、面番号5はレンズ面28に、面番号6はレンズ面29に、面番号7はレンズ面32に、および面番号8はレンズ面23に相当する。
【0063】
【表1】

【0064】
同時に対物レンズ要素20の前面レンズも形成する支持レンズ要素21の支持面であるレンズ面23(面番号2)上に回折光学要素15がある。これは重ね合わせた回折光学要素を有する球面基本形状からなる、いわゆるシネマ型である。前記面のz軸はゼオネックスE48Rから離して示す。この面は回転対称であり、それによって次式1により球面成分Zsph(h)と回折光学要素(DOE)の成分Zdoe(h)とから構成される矢印高Zges(h)によって記述することができる。
【0065】
【数1】

【0066】
球面成分Zsph(h)はR=−453.490945mmの曲率半径を有する球面に相当する。DOE成分Zdoe(h)は次式2から計算される。
【0067】
【数2】

【0068】
ガリレイ拡大眼鏡の中に、可能な限り全ての光がプラスまたはマイナス1の有効位数で偏向される回折光学要素15(DOE)を有してもよい。可能な限り少ない光が別の回折構造で偏向されるべきである。そのためDOE深度dは前記式2に従って表示されており、そこから可能な限り多くの光が値1をもつ有効位数へ偏向されることが明らかになる。
【0069】
前記式2中、INT(x)はxの整数成分を表し、たとえばINT(5.8)=5である。定数は以下の値を有する。
【0070】
【数3】

【0071】
回折光学要素15の溝幅はレンズ周縁部に向かって減少し、そこで約110μmになる。レンズ要素24のレンズ面25(面番号3)は、その矢印高Zasphを次式3に従って半径hの関数として記述できる非球面である。
【0072】
【数4】

【0073】
この図により本発明に係るガリレイ望遠鏡の前記実施例の対物レンズ20は、レンズ面22、23、25、26、28、29(面番号1〜6)を有する3つのレンズ21、24、27を含む。前記3つのレンズ21、24、27のうち2つのレンズ、好ましくは両方のレンズ21および24が合成樹脂からなる。回折光学要素15は前面レンズ21の背面でレンズ面23(面番号2)上にある。接眼レンズ30はレンズ面32および33(面番号7および8)を有するレンズ31からなる。
【0074】
実施例2:物体間隔251mm
この実施例において、物体と前面レンズ21との間で物体間隔251mmのガリレイ拡大眼鏡が示されている。表2は、物体間隔251mmの本発明に係るガリレイ望遠鏡の実施例の説明を含む。レンズ面22、23、25、26(表2の面番号1〜4)のデータは、特に回折光学要素15ならびに非球面である回折要素15を含み、物体間隔351mmの実施例1で示したものと同じデータである。
【0075】
【表2】

【0076】
実施例3:物体間隔501mm
この実施例において、物体と前面レンズ21との間で物体間隔501mmのガリレイ拡大眼鏡が示されている。表3は物体間隔501mmの本発明に係るガリレイ望遠鏡の実施例の説明を含む。レンズ面22、23、25、26(表3の面番号1〜4)のデータは、特に回折光学要素15ならびに非球面である回折要素15を含み、物体間隔351mmの実施例1で示したものと同じデータである。
【0077】
【表3】

【0078】
本発明に係る拡大眼鏡のもう1つの長所は、両方の合成樹脂レンズが全作業間隔に対して同じであることである(表1〜3参照)。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明による光学装置である。
【図2】回折光学要素のための一実施例である。
【図3】回折光学要素のためのその他の実施例の種々の構造である。
【符号の説明】
【0080】
10 光学装置(望遠鏡)
11 光軸
15 回折光学要素
20 対物レンズ要素
21 回折光学要素のための支持レンズ要素
22 レンズ面(前面)
23 回折光学要素のための支持面
24 対物レンズ要素
25 レンズ面
26 レンズ面
27 対物レンズ要素
28 レンズ面
29 レンズ面
30 接眼要素
31 接眼レンズ要素
32 レンズ面
33 レンズ面
d 溝深さ
h 溝幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の対物レンズ要素(21、24、27)を有する少なくとも1つの対物レンズ要素(20)を備える光学装置(10)、特に望遠鏡装置において、前記対物レンズ要素(21)の一方が回折光学要素(15)を有する回折光学要素(15)のための支持レンズ要素として形成されている光学装置であって、
光学装置(10)がガリレイシステムまたはケプラーシステムとして形成されており、光学装置(10)が少なくとも1つの接眼レンズ要素(31)を備える接眼レンズ要素(30)を有し、光線が20度以下の角度で回折光学要素(15)に入射するように前記回折光学要素が光学装置(10)の中に配置または形成されており、かつ回折光学要素(15)が50μm以上、特に100μm以上の最小溝幅hを有することを特徴とする光学装置。
【請求項2】
対物レンズ要素(20)が3つの対物レンズ要素(21、24、27)を有することを特徴とする請求項1記載の光学装置。
【請求項3】
少なくとも1つの対物レンズ要素(21、24、27)の少なくとも1つのレンズ面が非球面として形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の光学装置。
【請求項4】
回折光学要素(15)のための支持レンズ要素として形成された対物レンズ−レンズ要素(21)および/または回折光学要素のための支持レンズ要素として形成されていない少なくとも1つの対物レンズ要素(24、27)が合成樹脂から形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項5】
回折光学要素(15)がリングシステムとして支持レンズ要素(21)の支持面(23)上に配置または形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項6】
回折光学要素(15)が階段状に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項7】
回折光学要素(15)が支持レンズ要素(21)の支持面(23)上に配置または形成されており、かつ支持面(23)が球面の基本形状からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項8】
回折光学要素(15)が対物レンズ要素(20)の内部に配置されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項9】
少なくとも1つの接眼レンズ要素(31)が少なくとも2つのレンズ要素からなるキット部材として形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項10】
少なくとも1つの接眼レンズ要素(31)が可変焦点距離を有するレンズ要素として形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項11】
光学装置が拡大鏡装置、または双眼鏡装置、または望遠鏡装置、または円環面を有する液体レンズとして形成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項12】
特に拡大眼鏡における拡大鏡装置として、または双眼鏡として、または望遠鏡として、または円環面を有する液体レンズとしての請求項1〜11のいずれか1項に記載の光学装置(10)の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−48195(P2009−48195A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209524(P2008−209524)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(506043354)カール ツァイス ズルギカル ゲーエムベーハー (14)
【Fターム(参考)】