説明

光学補償フィルム及びその製造方法、並びにそれを用いた偏光板及び液晶表示装置

【課題】光学異方性層の、位置による局所的な位相差の小さい、表示ムラとして人間が視認できない程度の光学補償フィルム及びその製造方法、並びにこのような光学補償フィルムを備えた偏光板、及びこのような光学補償フィルム又は偏光板を備えた液晶表示装置を提供すること。
【解決手段】透明支持体上に光学異方性層を有する光学補償フィルムの正面レターデーション値Reを、面内2点で測定したときのReの差を2点間の距離で除した値ΔReが特定値以下である光学補償フィルム、その製造方法、並びにこのような光学補償フィルムを備えた偏光板、及びこのような光学補償フィルム又は偏光板を備えた液晶表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液晶性化合物を配向固定した光学補償フィルムに関する。特にその視角特性及び視認性の向上を図った、偏光板及び液晶表示装置に用いるのに適した光学補償フィルムに関する。さらに言うと、OCBモード液晶表示装置に用いるのに適した偏光板及び光学補償フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性化合物を高度に配向固定した光学フィルムは、液晶表示装置の光学補償フィルム、輝度向上フィルム、投射型表示装置の光学補正フィルム等、近年になって様々な用途に展開されつつあり、中でも液晶表示装置の光学補償フィルムとしての発展は目覚しいものがある。
【0003】
液晶表示装置は、偏光板と液晶セルから構成されている。現在主流であるTNモードのTFT液晶表示装置においては、光学補償フィルムを偏光板と液晶セルの間に挿入し、表示品位の高い液晶表示装置を実現している。しかし、この方法によると液晶表示装置自体が厚くなることが問題である。
【0004】
特許文献1には、偏光膜の片面に位相差板、他方の面に保護フィルムを有する楕円偏光板を用いることで、液晶表示装置を厚くすることなく、正面コントラストを高くすることができるとの記載がある。ところが、この発明の位相差フィルム(光学補償フィルム)では、十分な視野角改良効果が得られず、液晶表示装置の表示品位は低下してしまうという問題があった。
【0005】
特許文献2及び3に記載の発明では、透明支持体上にディスコティック(円盤状)液晶性化合物から形成された光学異方性層を塗設した光学補償シートを直接偏光板の保護フィルムとして用いることで液晶表示装置を厚くすることなく、視野角に関する問題を解決している。
【0006】
従来の技術では、主に、15インチ以下の小型又は中型の液晶表示装置を想定して、光学補償シートが開発されていた。しかし、最近では、17インチ以上の大型で、且つ輝度の高い液晶表示装置も想定する必要がある。大型の液晶表示装置の偏光板に、従来技術の光学補償シートを保護フィルムとして装着したところ、パネル上にムラが発生していることがわかってきた。この欠陥は、小型又は中型の液晶表示装置では、あまり目立っていなかったが、大型化、高輝度化に対応して、光漏れムラに対処した光学フィルムをさらに開発する必要が生じている。
【0007】
特許文献4には、重合性液晶にレベリング剤なるものを含有させ、ムラの改良を行う技術が開示されているが、重合性液晶がホモジニアス配向の場合にのみ有効であり、ハイブリット配向をはじめとした複雑な配向には、適用できないことが判った。
【0008】
特許文献5記載の発明では、上記の問題をさらに改善するため、フルオロ脂肪族基含有ポリマーを存在させた光学補償フィルムを用い、液晶セルを効果的に光学補償することができ、しかも大型の液晶表示装置においても、ムラを生じることなく、表示品位の高い画像を表示することが可能となっている。
【0009】
一方、近年は、液晶テレビの需要が増えつつあり、液晶テレビでは動画に尾引き現象が
生じるなど、応答速度に問題があることが指摘されつつあり、これに対する解決策として、OCB方式の液晶表示装置用の光学補償フィルムが提案されてきている。
【0010】
例えば、特許文献6及び7には、OCB方式の液晶表示装置に液晶性化合物からなる層を有する光学補償フィルムを適用することで、動画に対応可能で且つ視野角等の問題も解決している。しかし、各々の層の光学パラメーターを制御し、良好な性能を有する光学補償フィルムを、大量に連続的に製造すること、さらに搬送及び保管に有利なロール状の形態で製造することは非常に困難であった。
【特許文献1】特開平2−247602号公報
【特許文献2】特開平7−191217号公報
【特許文献3】欧州特許出願公開第0911656号明細書
【特許文献4】特開平11−148080号公報
【特許文献5】特開2004−198511号公報
【特許文献6】特開平9−211444号公報
【特許文献7】特開平11−316378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、光学補償機能を有する偏光板を用いて液晶セルを光学的に補償する方法とそれに用いる光学補償フィルムを提供することである。さらに言うと、特に応答速度が早く動画適性のあるOCB方式の液晶表示装置に対して優れた光学補償機能を有する光学補償フィルムを、安定的に且つ連続的に製造可能な方法を提供すること、及び優れた光学補償機能を有する光学補償フィルムを提供することである。
【0012】
また、本発明は、偏光機能を有するとともに、液晶表示装置、特に、応答速度が早く動画適性のあるOCB方式の液晶表示装置に対して優れた光学補償機能を有し、さらに液晶表示装置の薄型化にも寄与し得る偏光板を提供することを課題とする。
【0013】
さらに、本発明は、表示品位の高い画像を表示し得る液晶表示装置、特に応答速度が早く動画適性のあるOCB方式の液晶表示装置を提供することを課題とする。特に、OCB方式の液晶表示装置を提供するには、従来よりも光学補償フィルムの光学異方性層の面内位相差を小さくする必要がある。
【0014】
このような、面内位相差のより小さい光学異方性層を作製しようとする際、作製条件によっては、光学異方性層起因の、局所的に発生する、人間が視認可能で、且つ巨視的な表示ムラが見えるような光学補償フィルムができてしまい、所望の液晶表示装置を作ることができない。また、仮にこのような表示ムラ部分のある、連続的に製造された光学補償フィルムを用いると、表示ムラ部分を特定し、この部分を除いて加工して所望の液晶表示装置を作製しなければならず、光学補償フィルム、これを含む偏光板、及びこれらを構成してなる液晶表示装置の製造の際にロスが生じてしまう。
【0015】
従って、本発明の目的は、上記のような光学異方性層の、位置による局所的な位相差の小さい、表示ムラとして人間が視認できない程度の光学補償フィルム及びその製造方法、並びにこのような光学補償フィルムを備えた偏光板、及びこのような光学補償フィルム又は前記偏光板を備えた液晶表示装置を作製することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、前記目的が下記[1]〜[6]の光学補償フィルム、下記[7]及び[8]の光学補償フィルムの製造方法および該製造方法により製造された下記[9]の光学補償フィルム、並びに、下記[10]のこれらの光学補償フィルムを備えた偏光板、及びそれらの光学補償フィルム又は偏光板から構成された下記[11]〜[12]の液晶表示装置により達成されることを見出した。
【0017】
[1]透明支持体上に光学異方性層を有する光学補償フィルムであって、該光学異方性層の、下記数式(1)で定義される正面レターデーション値Reを、面内において2点測定するとき、該光学補償フィルムのRe測定位置及び2点間の測定方向によらず、下記数式(2)で表される2点のRe測定位置に対するReの変化率の絶対値ΔReが0.2以下であることを特徴とする光学補償フィルム。
数式(1):Re=(nx−ny)×d
数式(2):ΔRe=|Re1−Re2|/L
ここで、nxは光学異方性層の面内の遅相軸方向(面内屈折率が最大となる方向)の屈折率、nyは光学異方性層の面内の進相軸方向(面内屈折率が最小となる方向)の屈折率であり、dは光学異方性層の厚さである。またRe1はある位置1におけるRe値(nm)、Re2は位置1から直線距離がLだけ離れた位置2でのRe値(nm)であり、Lは位置1と位置2との直線距離(mm)である。
【0018】
[2]光学異方性層の正面レターデーション値Reが20〜100nmの範囲である上記[1]に記載の光学補償フィルム。
[3]光学異方性層に液晶性化合物を含有する上記[1]又は[2]に記載の光学補償フィルム。
[4] 液晶性化合物がディスコティック液晶性化合物である上記[3]に記載の光学補償フィルム。
[5]数式(2)で表される直線距離Lが0.5mm以下である上記[1]に記載の光学補償フィルム。
[6]透明支持体が長尺状の透明支持体であり、得られる光学補償フィルムが長尺状の光学補償フィルムである上記[1]に記載の光学補償フィルム。
【0019】
[7]透明支持体上に光学異方性層を形成してなる、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の光学補償フィルムの製造方法であって、該光学異方性層を形成する方法が、
(1)透明支持体の表面又は、該透明支持体上に形成された配向膜の表面にラビング処理を施す工程、
(2)液晶性化合物を含む塗布液を、上記(1)でラビング処理された支持体又は配向膜の表面上に塗布する工程、及び
(3)上記(2)で塗布された層を乾燥するのと同時に、又は乾燥した後に、液晶転移温度以上の温度で液晶性化合物を配向させ、且つその配向を固定する工程、
からなることを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【0020】
[8]上記[7]の製造方法により製造された光学補償フィルム。
【0021】
[9]上記[1]〜[6]及び上記[8]のいずれかに記載の光学補償フィルムと、偏光膜とを有することを特徴とする偏光板。
【0022】
[10]上記[1]〜[6]及び上記[8]のいずれかに記載の光学補償フィルム又は上記[9]に記載の偏光板を備えたことを特徴とする液晶表示装置。
[11]表示方式がOCB方式であることを特徴とする上記[10]に記載の液晶表示装置。
【0023】
本発明の光学補償フィルムの特徴は、光学補償フィルムの面内位相差のばらつきをより小さくし、高品位の液晶表示装置を得るにあたって、光学異方性層の面内における位相差、レターデーション値Reの面内位置での局所的な差を小さくすることにより、光学異方性層起因の局所的な表示ムラを、人間が視認できないほどのレベルにまで向上したことにある。
【発明の効果】
【0024】
本発明の光学補償フィルムによれば、表示ムラが極めて小さく、表示品位の高い液晶表示装置を得ることができる。また、長尺状の光学補償フィルムを作製するにあたって、光学異方性層起因の視認可能な表示ムラを解消することにより、より製造適性に優れた光学補償フィルム、及びこれを備えた偏光板、及びこれらを備えた液晶表示装置を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る発明の実施形態について説明する。
【0026】
本発明において「偏光板」とは、特に断らない限り、長尺の偏光板及び液晶装置に組み込まれる大きさに裁断された(本明細書において、「裁断」には「打ち抜き」及び「切り出し」等も含むものとする)偏光板の両者を含む意味で用いられる。また、本明細書では、「偏光膜」及び「偏光板」を区別して用いるが、「偏光板」は「偏光膜」の少なくとも片面に該偏光膜を保護する透明保護膜を有する積層体を意味するものとする。
【0027】
また、本発明の光学補償フィルムにおける透明支持体上の光学補償層は、上記[1]〜[8]を満たすことができれば、あらゆる方法により、光学異方性層を作製することができる。本明細書では、実施例においてその一部分を挙げているが、本発明の精神から逸脱しない限り、これらに限定されるものではない。
【0028】
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のリターデーションおよび厚さ方向のリターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する: セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx,ny,nzよりNz=(nx-nz)/(nx-ny)が更に算出される。
【0029】
<光学補償フィルム>
本発明の光学補償フィルムは、透明支持体上に光学異方性層を有する光学補償フィルムであって、該光学異方性層の、下記数式(1)で定義される正面レターデーション値Reを、面内において2点測定するとき、該光学補償フィルムのRe測定位置及び2点間の測定方向によらず、下記数式(2)で表される2点のRe測定位置に対するReの変化率の絶対値ΔReが0.2以下であることを特徴とする。
【0030】
数式(1):Re=(nx−ny)×d
数式(2):ΔRe=|Re1−Re2|/L
ここで、nxは光学異方性層の面内の遅相軸方向(面内屈折率が最大となる方向)の屈
折率、nyは光学異方性層の面内の進相軸方向(面内屈折率が最小となる方向)の屈折率であり、dは光学異方性層の厚さである。またRe1はある位置1におけるRe値(nm)、Re2は位置1から直線距離がLだけ離れた位置2でのRe値(nm)であり、Lは位置1と位置2との直線距離(mm)である。
【0031】
2点の測定点の関係は図1に示すとおりである。
本発明において、Reの変化率の絶対値ΔReを求めるに当たって、Reの測定点2点のうち、ある位置1については、光学補償フィルムに含有される光学異方性層の面内において、光学補償フィルムの大きさにかかわらずあらゆる位置をとることができ、それに対して、ある位置2は、具体的には、図1に示すように、位置1に対して、半径がLの円周上となるが、位置1に対して、直線距離でLだけ離れた場所であれば、光学補償フィルム内の光学異方性層の存在する範囲内であらゆる方向をとることができる。2点間の測定距離Lは1mm以下の間隔で測定されることが好ましい。0.5mm以下の間隔で測定されることがより好ましく、0.2mm以下の間隔で測定されることが最も好ましい。
【0032】
本発明において、上記数式(2)で求められるReの変化率の絶対値ΔReは、光学補償フィルムの光学異方性層のあらゆる位置において、0.2nm以下であることが好ましい。0.15nm以下であることがより好ましく、0.1nm以下であることが最も好ましい。
【0033】
また、本発明のReの変化率の絶対値ΔReの測定において、本明細書の実施例で測定例の一部を挙げているが、本発明の精神から逸脱しない限り、あらゆる測定方法を用いることができ、本実施例に限定されるものではない。
【0034】
本発明の光学補償フィルムの光学異方性層のRe値は、光学補償フィルムのあらゆる位置において、20〜100nmであることが好ましい。22〜60nmがより好ましく、25〜50nmが最も好ましい。
【0035】
本発明において、光学補償フィルムの透明支持体は、長尺状の透明支持体であることが好ましく、該透明支持体上に光学異方性層を形成して長尺状の光学補償フィルムを形成することが好ましい。本発明において、「長尺状」とは、幅0.7〜2m、長さ100m〜5000mの範囲の形状を指す。本発明の長尺状光学補償フィルムは、ロール状の形態をとることが好ましい。
【0036】
本発明の要件を満たす光学補償フィルム及び該光学補償フィルムを備えた偏光板は、たとえば、使用する液晶表示装置の大きさにあわせて裁断するなど、様々な用途に応じて、作製後にあらゆる大きさに裁断することができる。長尺状に形成された光学補償フィルムは、偏光板の作製の前にも後にも、使用する液晶表示装置の大きさにあわせて裁断するなど、様々な用途に応じて、該光学補償フィルム作製後にあらゆる大きさに裁断することができる。さらには、ロールトゥロールで光学補償フィルムと偏光子と貼り合わせることにより、偏光板を形成することが出来る。あらゆる段階において、光学補償フィルム及びこれを備えた偏光板を裁断する大きさは限定されない。
【0037】
次に、光学補償フィルムに必要な構成材料について説明する。尚、本発明を達成するための手段として、構成材料についての好適な手段をいくつか記載してあるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
〔透明支持体〕
本発明で用いられる支持体は、ガラス又は透明なポリマーフィルムであることが好ましい。支持体は、光透過率が80%以上であることが好ましい。ポリマーフィルムを構成す
るポリマーの例には、セルロースエステル(例えば、セルロースアセテート、セルロースジアセテート等)、ノルボルネン系ポリマー及びポリメチルメタクリレートが含まれる。市販のポリマー{ノルボルネン系ポリマーでは、「アートン」及び「ゼオネックス」(いずれも商品名)}を用いてもよい。
【0039】
これらの中でもセルロースエステルが好ましく、セルロースの低級脂肪酸エステルがさらに好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。とくに炭素原子数が2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)又は4(セルロースブチレート)が好ましい。セルロースアセテートが特に好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。
【0040】
なお、従来知られているポリカーボネートやポリスルホンのような、複屈折の発現しやすいポリマーであっても、国際公開第00/26705号パンフレットに記載のように、分子を修飾することで複屈折の発現性を制御すれば、本発明の光学補償フィルムに用いることもできる。
【0041】
また偏光板の保護フィルム又は位相差フィルムに、本発明の光学補償フィルムを使用する場合は、光学異方性層の支持体として用いるポリマーフィルムとしては、酢化度が55.0〜62.5%であるセルロースアセテートを使用することが好ましい。酢化度は、57.0〜62.0%であることがさらに好ましい。
【0042】
酢化度とは、セルロース単位質量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定及び計算によって求められる。
【0043】
セルロースアセテートの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがさらに好ましい。また、セルロースアセテートは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜1.7であることが好ましく、1.0〜1.65であることがさらに好ましく、1.0〜1.6であることが最も好ましい。
【0044】
セルロースアセテートでは、セルロースの2位、3位、6位のヒドロキシルが均等に置換されるのではなく、6位の置換度が小さくなる傾向がある。本発明に用いるポリマーフィルムでは、セルロースの6位置換度が、2位、3位に比べて同程度又は多い方が好ましい。2位、3位、6位の置換度の合計に対する、6位の置換度の割合は、30〜40%であることが好ましく、31〜40%であることがさらに好ましく、32〜40%であることが最も好ましい。6位の置換度は、0.88以上であることが好ましい。各位置の置換度は、NMRによって測定することできる。
【0045】
6位置換度が高いセルロースアセテートは、特開平11−5851号公報の段落番号[0043]〜[0044]に記載の合成例1、段落番号[0048]〜[0049]に記載の合成例2、そして段落番号[0051]〜[0052]に記載の合成例3の方法を参照して合成することができる。
【0046】
〔光学異方性層〕
[液晶性化合物]
本発明における光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶性化合物を補償するように設計することが好ましい。黒表示における液晶セル中の液晶性化合
物の配向状態は、液晶表示装置のモードにより異なる。この液晶セル中の液晶性化合物の配向状態に関しては、“IDW’00、FMC7−2”のp.411〜414等に記載されている。
【0047】
光学異方性層は、液晶セルへの所望の光学補償を行うためであれば、あらゆる方法で形成することができるが、支持体上に、直接、液晶性化合物により形成するか、又は配向膜を介して液晶性化合物により形成するのが好ましい。配向膜は、10μm以下の膜厚を有することが好ましい。
【0048】
光学異方性層に用いられる液晶性化合物には、棒状液晶性化合物及びディスコティック液晶性化合物が含まれる。棒状液晶性分子及びディスコティック化合物は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0049】
(棒状液晶性化合物)
棒状液晶性化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
【0050】
なお、棒状液晶性化合物には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性化合物を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性化合物として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性化合物は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
【0051】
棒状液晶性化合物については、例えば、「季刊化学総説」、第22巻、「液晶の化学」(1994年日本化学会編)、第4章、第7章及び第11章、並びに「液晶デバイスハンドブック」(日本学術振興会第142委員会編)第3章に記載がある。
【0052】
棒状液晶性化合物の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。
【0053】
棒状液晶性化合物は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、不飽和重合性基又はエポキシ基が好ましく、不飽和重合性基がさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基が最も好ましい。
【0054】
(ディスコティック液晶性化合物)
ディスコティック液晶性化合物には、C.Destradeらの研究報告“Mol.Cryst.”,71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告“Mol.Cryst.”,122巻、141頁(1985年)及び“Physics lett,A”,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告“Angew.Chem.”,96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体、並びにJ.M.Lehnらの研究報告“J.Chem.Commun.”,1794頁(1985年)及びJ.Zhangらの研究報告“J.Am.Chem.Soc.”,116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0055】
ディスコティック液晶性化合物としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子又は分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。ディスコティック液晶性化合物により形成される光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物がディスコティック液晶性化合物である必要はなく、例えば、低分子のディスコティック液晶性化合物が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合又は架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。ディスコティック液晶性化合物の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、ディスコティック液晶性化合物の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。
【0056】
ディスコティック液晶性化合物を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性化合物の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。従って、重合性基を有するディスコティック液晶性化合物は、下記一般式(III)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0057】
一般式(III)
D(−LQ)n
一般式(III)において、Dは円盤状コアであり;Lは2価の連結基であり、Qは重合性基であり、そして、nは4〜12の整数である。
【0058】
円盤状コア(D)の例を以下に示す。以下の各例において、LQ(又はQL)は、2価の連結基(L)と重合性基(Q)との組み合わせを意味する。
【0059】
【化1】

【0060】
【化2】

【0061】
【化3】

【0062】
【化4】

【0063】
【化5】

【0064】
【化6】

【0065】
【化7】

【0066】
【化8】

【0067】
前記一般式(III)において、2価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−、−S−及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。2価の連結基(L)は、アルキレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−及び−S−からなる群より選ばれる2価の基を、少なくとも2つ組み合わせた2価の連結基であることがさらに好ましい。2価の連結基(L)は、アルキレン基、アリーレン基、−CO−及び−O−からなる群より選ばれる2価の基を、少なくとも2つ組み合わせた2価の連結基であることが最も好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましい。アリーレン基の炭素原子数は、6〜10であることが好ましい。
【0068】
2価の連結基(L)の例を以下に示す。左側が円盤状コア(D)に結合し、右側が重合性基(Q)に結合する。ALはアルキレン基又はアルケニレン基、ARはアリーレン基を意味する。なお、アルキレン基、アルケニレン基及びアリーレン基は、置換基(例えば、アルキル基)を有していてもよい。
1:−AL−CO−O−AL−
2:−AL−CO−O−AL−O−
3:−AL−CO−O−AL−O−AL−
4:−AL−CO−O−AL−O−CO−
5:−CO−AR−O−AL−
6:−CO−AR−O−AL−O−
7:−CO−AR−O−AL−O−CO−
8:−CO−NH−AL−
9:−NH−AL−O−
10:−NH−AL−O−CO−
11:−O−AL−
12:−O−AL−O−
13:−O−AL−O−CO−
14:−O−AL−O−CO−NH−AL−
15:−O−AL−S−AL−
16:−O−CO−AR−O−AL−CO−
17:−O−CO−AR−O−AL−O−CO−
18:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−CO−
19:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−AL−O−CO−
20:−S−AL−
21:−S−AL−O−
22:−S−AL−O−CO−
23:−S−AL−S−AL−
24:−S−AR−AL−
【0069】
前記一般式(III)において、重合性基(Q)は、重合反応の種類に応じて決定する。重合性基(Q)は、不飽和重合性基又はエポキシ基であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基であることが最も好ましい。
【0070】
一般式(III)において、nは4〜12の整数である。具体的な数字は、円盤状コア(D)の種類に応じて決定される。なお、複数のLとQの組み合わせは、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0071】
ハイブリッド配向では、ディスコティック液晶性化合物の長軸(円盤面)と支持体の面との角度すなわち傾斜角が、光学異方性層の深さ方向で且つ偏光膜の面からの距離の増加と共に増加または減少している。角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、傾斜角の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、あるいは、増加及び減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。しかしながら、傾斜角は連続的に変化することが好ましい。
【0072】
ディスコティック液晶性化合物の長軸(円盤面)の平均方向(各分子の長軸方向の平均)は、一般にディスコティック液晶性化合物もしくは配向膜の材料を選択することにより、又はラビング処理方法を選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)のディスコティック液晶性化合物の長軸(円盤面)方向は、一般にディスコティック液晶性化合物又はディスコティック液晶性化合物と共に使用する添加剤の種類を選択することにより調整することができる。
【0073】
ディスコティック液晶性化合物と共に使用する添加剤の例としては、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー及びポリマーなどを挙げることができる。長軸の配向方向の変化の程度も、上記と同様に、液晶性分子と添加剤との選択により調整できる。
【0074】
本発明において、ディスコティック液晶性化合物のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70〜170℃がさらに好ましい。
【0075】
ディスコティック液晶性化合物と共に使用する可塑剤、界面活性剤及び重合性モノマーは、ディスコティック液晶性化合物と相溶性を有し、ディスコティック液晶性化合物の傾斜角の変化を与えられるか、又は配向を阻害しないことが好ましい。添加成分の中でも重合性モノマー(例えば、ビニル基、ビニルオキシ基、アクリロイル基及びメタクリロイル基を有する化合物など)の添加が好ましい。これらの化合物の添加量は、ディスコティック液晶性化合物に対して、一般に1〜50質量%の範囲にあり、5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。なお、重合性の反応性官能基数が4以上のモノマーを混合して用いると、配向膜と光学異方性層間の密着性を高めることができる。
【0076】
[光重合開始剤]
配向させた液晶性化合物の分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
【0077】
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同第2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同第2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)が含まれる。
【0078】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0079】
液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
その光源としては、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)、ショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)が挙げられる。照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2の範囲にあることが好ましく、20〜5000mJ/cm2の範囲にあることがより好ましく、100〜800mJ/cm2の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。光照射は、光学異方性層形成用の塗布液を塗布した支持体を、1以上の光源が上下および左右のいずれかの位置に配置された搬送路を通過させることによって実施することができる。
【0080】
保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0081】
[セルロースエステル]
光学異方性層を液晶性化合物、さらに好適には、ディスコティック液晶性化合物により形成する場合には、該ディスコティック液晶性化合物と同時に用いる可塑剤としてポリマーを用いるが、本発明において、可塑剤としてセルロースエステルを用いることができる。
【0082】
本発明では、単独のセルロースエステルを使用することもできるが、本発明を達成するための手段として、複数の種類のセルロースエステルを用いることが好ましい。
【0083】
複数の種類のセルロースエステルを用いる場合には、それぞれのセルロースエステルを単独で溶媒に溶かした際に、その溶液の粘度が異なることが好ましい。本発明において、セルロースエステル溶液の粘度とは、セルロースエステルが完全に溶媒に溶解した状態で、溶媒中に1〜10質量%のセルロースエステルが含有された溶液の粘度のことを指す。
本発明において、複数の種類のセルロースエステル溶液の粘度の差は、まず測定値で差があることが好ましい。より好ましくは高粘度の溶液が低粘度の溶液粘度の2倍であることである。最も好ましいのは、最も高粘度の溶液がそれ以外のいずれの低粘度の溶液粘度の5倍であることである。溶解するための溶媒は、一般的にセルロース誘導体が溶解しやすい非水系溶媒が好ましい。セルロースエステルが溶解するような非水系溶媒であれば特に限定はしないが、ベンゼン、メチルエチルケトン、ジメチルエチルホルム、キシレン、メチルクロロホルム、メチルイソブチルケトン、ポリビニルアルコールなどの有機溶媒であることが好ましい。粘度の測定方法に関しては、例えば「計量管理技術双書(1) 改訂 粘度 (コロナ社)」などの著書に記載されている測定方法を挙げることができるが、毛細管粘度計、短管粘度計、回転粘度計、振動片粘度計などの、数〜数十mPa・s(cP)の測定範囲で、市販の粘度測定装置を用いるのが好ましい。セルロースエステル溶液の粘度測定は、測定時の溶液温度が25℃±1℃の範囲で行われるが好ましい。
【0084】
また、本発明で用いる単独粘度の最も大きいセルロースエステルの使用量を1とするとき、それ以外の、粘度の低いセルロースエステルの合計の使用量は、質量比で0.01〜1であることが好ましく、0.05〜0.9であることがさらに好ましく、0.1〜0.6であることが最も好ましい。
【0085】
上記セルロースエステルの種類は、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロース及びセルロースアセテートブチレートがより好ましく、セルロースアセテートブチレート、及びセルロースアセテートプロピオネートが最も好ましい。
【0086】
本発明で用いる上記セルロースエステルは、これらの中でも特に写真用グレードのものが好ましく、市販の写真用グレードのものは粘度平均重合度、置換度等の品質を満足して入手することができる。写真用グレードのセルローストリアセテートのメーカーとしては、ダイセル化学工業(株)(例えば“LT−20”、“LT−30”、“LT−40”、“LT−50”、“LT−70”、“LT−35”、“LT−55”、“LT−105”など)、イーストマンコダック社(イーストマンケミカル社)(例えば、“CAB−551−0.01”、“CAB−551−0.02”、“CAB−551−0.2”、“CAB−531−1”、“CAB−553−0.4”、“CAB−500−5”、“CAB−381−0.1”、“CAB−381−0.5”、“CAB−381−02”、“CAB−381−20”、“CAB−321−0.1”、“CAB−321−0.2”、“CAB−171−15”、“CAP−504−0.2”、“CAP−482−20”、“CA−398−3”など)、コートルズ社、ヘキスト社等があり、何れも写真用グレードのセルロースアシレートを使用できる。
【0087】
このセルロースエステルは、ディスコティック化合物とある程度の相溶性を有し、ディ
スコティック化合物に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。ディスコティック化合物の配向を阻害しないように、上記複数のセルロースエステルのそれぞれの添加量は、ディスコティック化合物に対して0.01〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.05〜8質量%の範囲にあることがより好ましく、0.1〜5質量%の範囲にあることが最も好ましい。
【0088】
さらに、上記複数のセルロースエステルの添加総量は、ディスコティック化合物に対して0.1〜20質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜10質量%の範囲にあることがより好ましく、0.1〜5質量%の範囲にあることが最も好ましい。
【0089】
[フルオロ脂肪族基を有する共重合体]
本発明を達成するための手段として、光学異方性層形成用塗布液に、さらにフルオロ脂肪族基を有する共重合体(「フッ素系ポリマー」と略記することもある)を用いることも好ましい。好ましいフッ素系ポリマーは特開2004−198511号公報に記載されているが、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、及びこれらに共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体が有用である。また、上記で述べた複数のセルロースエステルとフッ素系ポリマーを組み合わせて用いるのが、本発明を達成するための手段として、より好ましい。
【0090】
本発明で用いることができるフッ素系ポリマーにおけるフルオロ脂肪族基の1つは、テロメリゼーション法(テロマー法ともいわれる)又はオリゴメリゼーション法(オリゴマー法ともいわれる)により製造されたフルオロ脂肪族化合物から導かれるものである。これらのフルオロ脂肪族化合物の製造法に関しては、例えば、「フッ素化合物の合成と機能」(監修:石川延男、発行:株式会社シーエムシー、1987)のp.117〜118や、“Chemistry of Organic Fluorine Compounds II”,(Monograph 187,Ed by Milos Hudlicky and Attila E.Pavlath,American Chemical Society,1995年)のp.747〜752に記載されている。
【0091】
テロメリゼーション法とは、ヨウ化物等の連鎖移動常数の大きいアルキルハリドをテローゲンとして、テトラフルオロエチレン等のフッ素含有ビニル化合物のラジカル重合を行い、テロマーを合成する方法である(下記Scheme−1に例を示した)。
Scheme−1:
【0092】
【化9】

【0093】
得られた、末端ヨウ素化テロマーは通常、例えば[Scheme2]のごとき適切な末端化学修飾を施され、フルオロ脂肪族化合物へと導かれる。これらの化合物は必要に応じ、さらに所望のモノマー構造へと変換されフルオロ脂肪族基含有ポリマーの製造に使用される。
Scheme−2:
【0094】
【化10】

【0095】
本発明で用いることができるフッ素系ポリマーは、具体的には、下記一般式[1]で表されるフルオロ脂肪族基含有モノマーから導かれる繰り返し単位、並びに、ポリ(オキシアルキレン)アクリレート及び/又はポリ(オキシアルキレン)メタクリレートから導かれる繰り返し単位を含むことが好ましい。
(フルオロ脂肪族基含有モノマー)
一般式[1]:
【0096】
【化11】

【0097】
上記一般式[1]において、R1は水素原子又はメチル基を表し、Xは酸素原子、イオウ原子、又は−N(R2)−を表す。ここでR2は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基を表し、好ましくは水素原子又はメチル基である。Xは酸素原子がより好ましい。またmは1以上6以下の整数が好ましく、2が特に好ましい。nは2〜4であって、特に2又は3が好ましく、また、これらの混合物を用いてもよい。
【0098】
(フルオロ脂肪族基含有モノマーの具体例)
一般式[1]で表されるフルオロ脂肪族基含有モノマーの具体例を以下にあげるがこの限りではない。
【0099】
【化12】

【0100】
【化13】

【0101】
【化14】

【0102】
【化15】

【0103】
{一般式[2]で示されるモノマー}
本発明で用いることができるフッ素系ポリマーは、前記一般式[1]で表されるフルオロ脂肪族基含有モノマーから導かれる繰り返し単位と共に、これらのモノマーと共重合可能な、下記一般式[2]で示されるモノマーから導かれる繰り返し単位を含むことが好ましい。
一般式[2]
【0104】
【化16】

【0105】
上記一般式[2]において、R3は水素原子又はメチル基を表し、Yは2価の連結基を表す。2価の連結基としては、酸素原子、イオウ原子又は−N(R5)−が好ましい。ここでR5は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が好ましい。R5のより好ましい形態は水素原子及びメチル基である。Yは、酸素原子、−N(H)−及び−N(CH3)−がより好ましい。
【0106】
4は、置換基を有してもよい炭素数4以上20以下の直鎖、分岐又は環状のアルキル基を表す。R4のアルキル基の置換基としては、水酸基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、カルボキシル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基等があげられるがこの限りではない。
【0107】
炭素数4以上20以下の直鎖、分岐又は環状のアルキル基としては、直鎖及び分岐してもよいブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、エイコサニル基等、また、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の単環シクロアルキル基及びビシクロヘプチル基、ビシクロデシル基、トリシクロウンデシル基、テトラシクロドデシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基、テトラシクロデシル基等の多環シクロアルキル基が好適に用いられる。
【0108】
{一般式[2]で示されるモノマーの具体例}
上記一般式[2]で示されるモノマーのより具体としては、次に示すモノマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0109】
【化17】

【0110】
【化18】

【0111】
【化19】

【0112】
【化20】

【0113】
【化21】

【0114】
【化22】

【0115】
【化23】

【0116】
【化24】

【0117】
{ポリ(オキシアルキレン)アクリレート及び/又はポリ(オキシアルキレン)メタクリレート}
本発明の光学補償フィルムを構成する光学異方層に用いることができるフッ素系ポリマーは、前述の一般式[1]で表されるフルオロ脂肪族基含有モノマーから導かれる繰り返し単位と共に、ポリ(オキシアルキレン)アクリレート及び/又はポリ(オキシアルキレン)メタクリレートから導かれる繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0118】
次に、このポリ(オキシアルキレン)アクリレート及び/又はポリ(オキシアルキレン)メタクリレートについて説明する{以下アクリレートとメタクリレートの両方を指すときには、両方をまとめて(メタ)アクリレートと呼ぶこともある}。
【0119】
ポリオキシアルキレン基は(OR)xで表すことができ、Rは2〜4個の炭素原子を有するアルキレン基、例えば−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH(CH3)CH2−、又は−CH(CH3)CH(CH3)−であることが好ましい。
【0120】
上記のポリ(オキシアルキレン)基中のオキシアルキレン単位は、ポリ(オキシプロピレン)におけるように同一であってもよく、また互いに異なる2種以上のオキシアルキレンが不規則に分布されたものであってもよく、直鎖もしくは分岐状のオキシプロピレン又はオキシエチレン単位であったり、あるいは直鎖又は分岐状のオキシプロピレン単位のブロック及びオキシエチレン単位のブロックのように存在するものであってもよい。
【0121】
このポリ(オキシアルキレン)鎖は、複数のポリ(オキシアルキレン)単位同士が1つ又はそれ以上の連鎖結合(例えば−CONH−Ph−NHCO−、−S−など、ここでPhはフェニレン基を表す)で連結されたものも含むことができる。連鎖の結合が3つ又はそれ以上の原子価を有する場合には、これは分岐鎖のオキシアルキレン単位を得るための手段を供する。またこの共重合体を本発明に用いる場合には、ポリ(オキシアルキレン)基の分子量は250〜3000が適当である。
【0122】
ポリ(オキシアルキレン)アクリレート及びメタクリレートは、市販のヒドロキシポリ(オキシアルキレン)材料、例えば商品名「プルロニック」(Pluronic){旭電
化工業(株)製}、「アデカポリエーテル」{旭電化工業(株)製}、「カルボワックス」(Carbowax)(グリコ・プロダクス)、「トリトン」(Toriton){ローム・アンド・ハース(Rohm and Haas)社製}及び“P.E.G”{第一工業製薬(株)製}として販売されているものを、公知の方法でアクリル酸、メタクリル酸、アクリルクロリド、メタクリルクロリド又は無水アクリル酸等と反応させることによって製造できる。本発明では、別途、公知の方法で製造したポリ(オキシアルキレン)ジアクリレート等を用いることもできる。
【0123】
本発明における光学異方性層には、前記一般式[1]で表されるモノマーとポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートとの共重合体が好ましく用いられるが、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレートを含むことがより好ましい。
【0124】
特に好ましい態様としては、一般式[1]で表されるモノマーと、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレートと、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートとの3種以上のモノマーを共重合したポリマーである。ここでポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートは、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレートとは異なるモノマーである。より好ましくは、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレートとポリオキシプロピレン(メタ)アクリレートと、一般式[1]で表されるモノマーとの3元共重合体である。
【0125】
ポリオキシエチレン(メタ)アクリレートの好ましい共重合比率としては、全モノマー中の0.5モル%以上20モル%以下、より好ましくは1モル%以上10モル%以下である。
【0126】
(その他のモノマー類)
本発明に好ましく用いられるフルオロ脂肪族基を有する共重合体(フッ素系ポリマー)は、前記一般式[1]で表されるモノマー、一般式[2]で表されるモノマー並びに、ポリ(オキシアルキレン)アクリレート及び/又はポリ(オキシアルキレン)メタクリレートの他に、さらにこれらと共重合可能なモノマーをも加えて反応させた共重合体であってもよい。
【0127】
この共重合可能なモノマーの好ましい共重合比率としては、全モノマー中の20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
【0128】
このようなモノマーとしては、“Polymer Handbook 2nd Ed.”{J.Brandrup,Wiley Interscience(1975年)}、2章、p.1〜483記載のものを用いることができ、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類等から選ばれる付加重合性不飽和結合を1個有する化合物等をあげることができる。
【0129】
具体的には、以下のモノマーをあげることができる。
アクリル酸エステル類:アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、クロルエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等。
【0130】
メタクリル酸エステル類:メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、クロルエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等。
【0131】
アクリルアミド類:アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルアクリルアミドなど。
【0132】
メタクリルアミド類:メタクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルメタクリルアミドなど。
【0133】
アリル化合物:アリルエステル類(例えば酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、パルミチン酸アリル、ステアリン酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、乳酸アリルなど)、アリルオキシエタノールなど。
【0134】
ビニルエーテル類:アルキルビニルエーテル(例えばヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロルエチルビニルエーテル、1−メチル−2,2−ジメチルプロピルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ブチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテルなど。
【0135】
ビニルエステル類:ビニルビチレート、ビニルイソブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルジエチルアセテート、ビニルバレート、ビニルカプロエート、ビニルクロルアセテート、ビニルジクロルアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルラクテート、ビニル−β―フェニルブチレート、ビニルシクロヘキシルカルボキシレートなど。
【0136】
イタコン酸ジアルキル類:イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチルなど。
フマール酸のジアルキルエステル類又はモノアルキルエステル類:ジブチルフマレートなど。
その他、クロトン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、マレイロニトリル、スチレンなど。
【0137】
なお、従来、好んで用いられてきた電解フッ素化法により製造されるフッ素系化学製品の一部は、生分解性が低く、生体蓄積性の高い物質であり、程度は軽微ではあるが、生殖毒性、発育毒性を有することが懸念されている。本発明によるフッ素系ポリマーはより環境安全性の高い物質であることも産業上有利な点であるといえる。
【0138】
本発明で用いられるフッ素系ポリマー中において、一般式[2]で示されるフルオロ脂肪族基含有モノマーの量は、該ポリマーの構成モノマー総量の5モル%以上であることが好ましく、5〜70モル%であることがより好ましく、7〜60モル%の範囲であることがさらに好ましい。
【0139】
本発明で好ましく用いられるフッ素系ポリマーにおいて、上記ポリ(オキシアルキレン
)アクリレート及び/又はポリ(オキシアルキレン)メタクリレートの共重合量は、該フッ素系ポリマーを構成するモノマー総量の10モル%以上であることが好ましく、15〜70モル%であることがより好ましく、20〜60モル%であることがさらに好ましい。
【0140】
本発明で好ましく用いられるフッ素系ポリマーにおいて、好ましく用いられる形態である一般式[2]で表されるモノマーの量は、該フッ素ポリマーの構成モノマー総量の3モル%以上であり、好ましくは5〜50モル%であり、より好ましくは10〜40モル%である。
【0141】
本発明で好ましく用いられるフッ素系ポリマーの好ましい重量平均分子量は、3000〜100,000が好ましく、6,000〜80,000がより好ましい。
【0142】
更に、液晶性化合物を主とする塗布組成物(溶媒を除いた塗布成分)に対するフッ素系ポリマーの好ましい含有量は、0.005〜8質量%の範囲であり、好ましくは0.01〜1質量%の範囲であり、更に好ましくは0.05〜0.5質量%の範囲である。フッ素系ポリマーの添加量が0.005質量%以上であれば本発明の効果が十分に発揮され、また8質量%以下であれば、塗膜の乾燥が十分に行われなくなったり、光学フィルムとしての性能(例えばレターデーションの均一性等)に悪影響を及ぼしたりするなどの不具合を生じることがないので、該範囲で使用することが好ましい。
【0143】
本発明で好ましく用いられるフッ素系ポリマーは、従来から公知慣用の方法で製造することができる。例えば先にあげたフルオロ脂肪族基を有する(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレート等の単量体を含む有機溶媒中に、汎用のラジカル重合開始剤を添加し、重合させることにより製造できる。また、場合によりその他の付加重合性不飽和化合物を、さらに添加して上記と同じ方法にて製造することができる。各モノマーの重合性に応じ、反応容器にモノマーと開始剤を滴下しながら重合する滴下重合法なども、均一な組成のポリマーを得るために有効である。
【0144】
(フッ素系ポリマーの具体例)
以下、本発明で好ましく用いられるフッ素系ポリマーの具体的な構造の例を示すが、本発明は、これらに限定されるものではない。なお式中の数字は各モノマー成分のモル比率を示す。Mwは重量平均分子量を表す。
【0145】
【化25】

【0146】
【化26】

【0147】
【化27】

【0148】
【化28】

【0149】
【化29】

【0150】
【化30】

【0151】
【化31】

【0152】
【化32】

【0153】
本発明の光学異方性層は、本発明の意思を逸脱しない限り、あらゆる方法で形成するこ
とが出来るが、
(1)光学異方性層を支持体上に直接形成する場合には該支持体の表面を、配向膜を介して形成する場合には該配向膜の表面を、ラビング処理を施し、
(2)液晶性化合物及び、必要に応じて、重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、ラビング処理された、支持体または配向膜の上に塗布し、
(3)塗布された層を乾燥するのと同時に又は乾燥した後に、液晶転移温度以上の温度で液晶性化合物を配向させ、且つその配向を固定すること
により形成することが好ましい。具体的には限定しないが、特開2005−70320号公報に記載されている方法などを使用することができる。
本発明の配向膜として好ましい例は、特開平8−338913号公報に記載されている。
【0154】
《ラビング処理工程》
本発明の製造方法では、支持体の表面または支持体上に形成された配向膜の表面にラビング処理を施す工程を含んでいてもよい。
ラビング処理はラビングローラにより行うことが好ましい。用いるラビングローラの直径は、ハンドリング適性、および布寿命の観点から、100mm〜500mmであることが好ましく、200mm〜400mmであることがさらに好ましい。ラビングローラの幅は、支持体の幅よりも広いことが必要であり、フィルム幅×√2以上であることが好ましい。ラビングローラの回転数は、発塵を少なくする観点から低く設定することが好ましく、液晶性化合物の配向性にもよるが、100rpm〜1000rpmであることが好ましく、250rpm〜850rpmであることがより好ましい。
【0155】
ラビングロールの回転数を低くしても液晶性化合物の配向性を維持するには、ラビング時の支持体または配向膜を加熱することが好ましい。加熱温度は、支持体または配向膜表面の膜面温度で、(素材のTg−50℃)〜(素材のTg+50℃)であることが好ましい。ポリビニルアルコールからなる配向膜を使用する場合は、ラビングの環境湿度を制御することが好ましく、25℃の相対湿度として25%RH〜70%RHであることが好ましく、30%RH〜60%RHであることがより好ましく、35%RH〜55%RHであることがさらに好ましい。
【0156】
製造する光学補償フィルムがロール状でない場合にも、支持体を搬送しながらラビング処理を行うことが生産性の点から好ましい。
支持体の搬送速度は、生産性の観点と液晶の配向性の観点から、10m/分〜100m/分であることが好ましく、15m/分〜80m/分であることがさらに好ましい。搬送は、従来、フィルムの搬送に用いられる種々の装置を用いて行うことができ、特に搬送方式については制限されない。
【0157】
《光学異方性層用塗布液調液工程》
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド等)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環化合物(例えば、ピリジン等)、炭化水素(例えば、ベンゼン、ヘキサン等)、アルキルハライド(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン等)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル等)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等)が含まれる。アルキルハライド及びケトンが好ましい。2種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0158】
本発明のように非常に均一性の高い光学補償フィルムを作製する場合には、光学異方性層形成用の塗布液の表面張力は、表面張力が25mN/m以下であることが好ましく、2
2mN/m以下であることが更に好ましい。本発明に好適に用いられるフルオロ脂肪族基含有共重合体等に挙げることの出来るフッ素系ポリマーを用いることにより、上記表面張力を達成することが出来る。
【0159】
《光学異方性層の形成、乾燥、液晶化合物の配向固定》
本発明の製造方法では、液晶性化合物層において、液晶性化合物の配向を固定することで光学異方性層を形成する。ここで、液晶性化合物層は、塗布された前記光学異方性層形成用の塗布液を塗布する等の手段により形成される層である。
すなわち、液晶性化合物層の溶媒の乾燥時または乾燥後に、液晶転移温度以上の温度で液晶性化合物を配向させ、その配向を固定して光学異方性層を作製する。塗布液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法等)により実施できる。液晶性化合物は、乾燥時または乾燥後の加熱によって、所望の配向となる。乾燥温度は、液晶性化合物層に含まれる溶媒の沸点ならびに支持体および配向膜の素材を考慮して決定することができる。液晶性化合物の配向温度は、用いる液晶性化合物の液晶相−固相転移温度に応じて決定することができる。液晶性化合物として、ディスコティック液晶性化合物を用いる場合、液晶転移温度は、50℃〜70℃の間であることが好ましい。また、配向温度は、70〜300℃が好ましく、70〜170℃がより好ましく、110℃〜150℃がさらに好ましい。
【0160】
また、液晶性化合物が液晶状態の際、液晶性化合物層の粘度は、10cp〜10000cpであることが好ましく、100cp〜1000cpであることがより好ましい。粘度を10cp以上とすることにより、配向時の風の影響を受けにくくなり、連続生産のための高精度の風速/風向制御の必要性が低くなる傾向にある。一方、粘度を10000cp以下とすることにより、風の影響を受けにくくなることによって液晶の配向が遅くなるのを抑止できる傾向にあり、生産性が向上する傾向にある。
液晶性化合物層の粘度は、液晶性化合物の分子構造によって適宜制御できる。また、上述の添加剤(特にセルロース系のポリマー等)、およびゲル化剤等を適量使用することで所望の粘度に調整する方法が好ましく用いられる。
【0161】
加熱は、所定の温度の温風を送風することによって、または所定の温度に維持された加熱室内を搬送することによって実施できる。
このときの温風の風速と方向を、液晶性化合物層に当たるラビング方向以外の風速が上記数式(1)に示すように、制御する。
【0162】
光学異方性層の配向固定においては、本明細書の光重合開始剤の部分で説明した配向固定方法を用いることが好ましい。
【0163】
本発明の光学補償フィルムは、ロール状で製造することが好ましい。その場合には、光学異方性層の形成後、該光学異方性層が形成された長尺状の積層体を巻き取る工程を含んでいてもよい。また、光学異方性層形成後、巻き取り工程の前に、光学異方性層の上に、保護層を設けてもよい。例えば、あらかじめ作製した保護層用フィルムを、長尺状に作製された光学異方性層の表面に連続的にラミネートしてもよい。
【0164】
巻き取りの方法は、公知の方法を採用でき、例えば、連続的に搬送される光学異方性層を有する支持体を、円筒状の芯に巻きつけることによって行うことができる。
長尺状の光学補償フィルムが巻き取られたものは、ロール形態であるので、大量に製造した場合にもその取り扱いが容易である。例えば、そのままの形態で保管・搬送できる。
【0165】
本発明の製造方法の各工程の諸条件、使用可能な装置等の詳細については、例えば、特
開平9−73081号公報に記載の諸条件、装置を適用することができる。
【0166】
光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましく、1〜10μmであることが最も好ましい。
【0167】
<光学補償フィルムの用途>
〔偏光板〕
本発明はまた、本発明の光学補償フィルムと偏光膜とを有することを特徴とする偏光板である。具体的には、本発明の偏光板は、例えば本発明の光学補償フィルムを既存の偏光板と貼り合せたものでもよいし、偏光板の偏光膜を保護する保護フィルムとして使用してもよい。
【0168】
[偏光膜]
本発明の光学補償フィルムは、偏光板と貼り合せるか、偏光板の保護フィルムとして使用することで、その機能を著しく発揮することができる。
【0169】
本発明に使用できる偏光膜は、Optiva社製のものに代表される塗布型偏光膜、又はバインダーと、ヨウ素もしくは二色性色素からなる偏光膜が好ましい。偏光膜におけるヨウ素及び二色性色素は、バインダー中で配向させることで偏光性能を発現する。ヨウ素及び二色性色素は、バインダー分子に沿って配向するか、又は二色性色素が液晶のような自己組織化により一方向に配向することが好ましい。
【0170】
現在、汎用の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素又は二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中に、ヨウ素又は二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。このような汎用の偏光膜は、ポリマー表面から4μm程度(両側合わせて8μm程度)にヨウ素又は二色性色素が分布しており、十分な偏光性能を得るためには、偏光膜は少なくとも10μmの厚さを有することが好ましい。浸透度は、ヨウ素又は二色性色素の溶液濃度、同浴槽の温度、同浸漬時間により制御することができる。
【0171】
上記のように、バインダー厚さの下限は10μmであることが好ましい。一方、厚さの上限については、特に限定はしないが、偏光板を液晶表示装置に使用した場合に発生する光漏れ現象の観点からは、薄ければ薄い程よい。現在、汎用の偏光板(厚さ約30μm)以下であることが好ましく、25μm以下が好ましく、20μm以下がさらに好ましい。20μm以下であると、17インチの液晶表示装置では、光漏れ現象が観察されなくなる。
【0172】
偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋しているバインダーには、それ自体架橋可能なポリマーを用いることができる。官能基を有するポリマー又はポリマーに官能基を導入して得られるバインダーを、光、熱又はpH変化により、バインダー間で反応させて偏光膜を形成することができる。
【0173】
また、架橋剤によりポリマーに架橋構造を導入してもよい。反応活性の高い化合物である架橋剤を用いてバインダー間に架橋剤に由来する結合基を導入して、バインダー間を架橋することにより形成することができる。架橋は一般に、ポリマー又はポリマーと架橋剤の混合物を含む塗布液を、透明支持体上に塗布したのち、加熱を行うことにより実施される。最終商品の段階で耐久性が確保できればよいため、架橋させる処理は、最終の偏光板を得るまでのいずれの段階で行なってもよい。
【0174】
偏光膜のバインダーには、それ自体架橋可能なポリマー又は、架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができる。ポリマーの例には、ポリメチルメタクリレー
ト、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリビニルトルエン、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、塩素化ポリオレフィン(例えば、ポリ塩化ビニル等)、ポリエステル、ポリイミド、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリカーボネート及びそれらのコポリマー(例えば、アクリル酸/メタクリル酸重合体、スチレン/マレインイミド重合体、スチレン/ビニルトルエン重合体、酢酸ビニル/塩化ビニル重合体、エチレン/酢酸ビニル重合体等)が含まれる。水溶性ポリマー{例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコール等}が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。
【0175】
ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールのケン化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましく、95〜100%が最も好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000が好ましい。
【0176】
変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールに対して、共重合変性、連鎖移動変性又はブロック重合変性により変性基を導入して得られる。共重合変性では、変性基として、−COO+Na-、−Si(OH)3、N+(CH33・Cl-、C919COO−、−SO3-Na+、−C1225を導入することができる。連鎖移動変性では、変性基として、−COO+Na-、−SH、−SC1225を導入することができる。変性ポリビニルアルコールの重合度は、100〜3000が好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号及び同9−316127号の各公報に記載がある。
【0177】
ケン化度が85〜95%の未変性ポリビニルアルコール及びアルキルチオ変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールは、2種以上を併用してもよい。
【0178】
バインダーの架橋剤は、多く添加することにより偏光膜の耐湿熱性を向上させることができる。ただし、バインダーに対する架橋剤の量が多すぎると、ヨウ素又は二色性色素の配向性が低下することがあるので、架橋剤の量は50質量%以下とすることが好ましい。架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1〜20質量%がより好ましく、1.2〜1.45質量%がさらに好ましい。
【0179】
バインダーは、架橋反応が終了した後でも、反応しなかった架橋剤をある程度含んでいることがある。この場合、残存する架橋剤の量は、バインダー中に1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。バインダー層中の架橋剤の残留量が1.0質量%以下であれば、耐久性に問題が生じることがない。すなわち、液晶表示装置に組み込む偏光膜中の架橋剤残留量がすくなければ、長期の使用、又は高温高湿の雰囲気下に長期間放置した場合にも、偏光度の低下が生じることがないので好ましい。
【0180】
架橋剤については、米国再発行特許第23297号明細書に記載がある。また、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸、硼砂等)も、架橋剤として用いることができる。
【0181】
(二色性色素)
二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素又はアントラキノ
ン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。二色性色素は、親水性置換基(例えば、スルホ、アミノ、ヒドロキシル等)を有することが好ましい。
【0182】
二色性色素の例には、C.I.ダイレクト・イエロー12、C.I.ダイレクト・オレンジ39、C.I.ダイレクト・オレンジ72、C.I.ダイレクト・レッド39、C.I.ダイレクト・レッド79、C.I.ダイレクト・レッド81、C.I.ダイレクト・レッド83、C.I.ダイレクト・レッド89、C.I.ダイレクト・バイオレット48、C.I.ダイレクト・ブルー67、C.I.ダイレクト・ブルー90、C.I.ダイレクト・グリーン59、C.I.アシッド・レッド37などが含まれる。二色性色素については、特開平1−161202号、同1−172906号、同1−172907号、同1−183602号、同1−248105号、同1−265205号、同7−261024号の各公報に記載がある。
【0183】
二色性色素は、遊離酸、又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアミン塩として用いられる。2種類以上の二色性色素を配合することにより、各種の色相を有する偏光膜を製造することができる。偏光軸を直交させた時に黒色を呈する化合物(色素)を用いた偏光膜、もしくは黒色を呈するように各種の二色性分子を配合した偏光膜、又はこれらの偏光膜を用いた偏光板が、単板透過率及び偏光率とも優れており好ましい。
【0184】
液晶表示装置のコントラスト比を高めるためには、偏光板の透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好ましい。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30〜50%の範囲にあることが好ましく、35〜50%の範囲にあることがさらに好ましく、40〜50%の範囲にある(偏光板の単板透過率の最大値は50%である)ことが最も好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90〜100%の範囲にあることが好ましく、95〜100%の範囲にあることがさらに好ましく、99〜100%の範囲にあることが最も好ましい。
【0185】
偏光膜と光学異方性層、又は偏光膜と配向膜を、接着剤を介して配置することも可能性である。接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基による変性ポリビニルアルコールを含む)やホウ素化合物水溶液を用いることができる。その中でもポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。接着剤層の厚さは、乾燥後に0.01〜10μmの範囲にあることが好ましく、0.05〜5μmの範囲にあることが特に好ましい。
【0186】
(偏光膜の製造)
偏光膜は、歩留まりの観点から、バインダーを偏光膜の長手方向(MD方向)に対して、10〜80°傾斜して延伸するか(延伸法)、又はラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦又は横方向のなす角度に合わせるように延伸することが好ましい。
通常の傾斜角度は45°である。しかし、最近は、透過型、反射型及び半透過型LCDにおいて必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0187】
(延伸法)
延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がさらに好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸で実施できる。また、水に浸漬した状態でのウェット延伸を実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5〜5.0倍が好ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0〜10.0倍が好ましい。延伸工程は、斜め延伸を含め数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高倍率延伸でもより均一に延伸することができる。斜め延伸前に、横又は縦に若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度)を行ってもよい。
【0188】
延伸は、二軸延伸におけるテンター延伸を左右異なる工程で行うことによって実施できる。上記二軸延伸は、通常のフィルム製膜において行われている延伸方法と同様である。二軸延伸では、左右異なる速度によって延伸されるため、延伸前のバインダーフィルムの厚さが左右で異なるようにする必要がある。流延製膜では、ダイにテーパーを付けることにより、バインダー溶液の流量に左右の差をつけることができる。
【0189】
以上のように、偏光膜のMD方向に対して10〜80°斜め延伸されたポリマー基材フィルムが製造される。
【0190】
(ラビング法)
ラビング法では、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されているラビング処理方法を応用することができる。すなわち、膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴム又はナイロン、ポリエステル繊維を用いて一定方向に擦ることにより配向を得る。一般には、長さ及び太さが均一な繊維を平均的に植毛した布を用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。ロール自身の真円度、円筒度、振れ(偏芯)がいずれも30μm以下であるラビングロールを用いて実施することが好ましい。ラビングロールへのフィルムのラップ角度は、0.1〜90°が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載されているように、360°以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもできる。
【0191】
長尺フィルムをラビング処理する場合は、該フィルムを搬送装置により一定張力の状態で1〜100m/分の速度で搬送することが好ましい。ラビングロールは、任意のラビング角度設定のためフィルム進行方向に対し水平方向に回転自在とされることが好ましい。0〜60°の範囲で適切なラビング角度を選択することが好ましい。液晶表示装置に使用する場合は、40〜50°が好ましい。45°が特に好ましい。
【0192】
偏光板としては、偏光膜の光学補償フィルムを貼付した側とは反対側の表面には、ポリマーフィルムを配置する(光学補償フィルム/偏光膜/ポリマーフィルムの配置とする)ことが好ましい。
【0193】
〔液晶表示装置〕
本発明は、本発明の光学補償フィルム又は本発明の偏光板を備えた液晶表示装置にも関する。以下、液晶表示装置であって、各液晶モードにおける光学異方性層の好ましい形態について説明する。
【0194】
[TNモード液晶表示装置]
TNモードの液晶セルは、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。
【0195】
TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性化合物の分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性化合物の分子が寝た配向状態にある。
【0196】
セル中央部分の棒状液晶性化合物に対しては、ホメオトロピック配向(円盤面が寝ている水平配向)のディスコティック液晶性化合物又は(透明)支持体で補償し、セルの基板近傍の棒状液晶性化合物に対しては、ハイブリット配向(長軸の傾きが偏光膜との距離に伴って変化している配向)のディスコティック液晶性化合物で補償することができる。
【0197】
また、セル中央部分の棒状液晶性化合物に対しては、ホモジニアス配向(長軸が寝ている水平配向)の棒状液晶性化合物又は(透明)支持体で補償し、セルの基板近傍の棒状液晶性化合物に対しては、ハイブリット配向のディスコティック液晶性化合物で補償することもできる。
【0198】
ホメオトロピック配向の液晶性化合物は、液晶性化合物の長軸の平均配向方向と偏光膜の面との角度が85〜95°の状態で配向している。
【0199】
ホモジニアス配向の液晶性化合物は、液晶性化合物の長軸の平均配向方向と偏光膜の面との角度が5°未満の状態で配向している。
【0200】
ハイブリット配向の液晶性化合物は、液晶性化合物の長軸の平均配向方向と偏光膜の面との角度が15°以上であることが好ましく、15°〜85°であることがさらに好ましい。
【0201】
(透明)
支持体もしくはディスコティック液晶性化合物がホメオトロピック配向している光学異方性層、又は、棒状液晶性化合物がホモジニアス配向している光学異方性層、さらにはホメオトロピック配向したディスコティック液晶性化合物とホモジニアス配向した棒状液晶性化合物の混合体からなる光学異方性層は、Rthレターデーション値が40nm〜200nmであり、Reレターデーション値が0〜70nmであることが好ましい。
【0202】
なおReレターデーション値(Re)は、前記のとおり下記数式(1)で定義される値であり、Rthレターデーション値(Rth)は、下記数式(4)で定義される値である。
数式(1):Re=(nx−ny)×d
数式(4):Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
[数式(1)及び(4)において、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、またnzはフィルムの厚さ方向の屈折率である。そして、dはフィルムの厚さである。]
【0203】
ホメオトロピック配向(水平配向)しているディスコティック液晶性化合物層及びホモジニアス配向(水平配向)している棒状液晶性化合物の層に関しては、特開平12−304931号及び同12−304932号の各公報に記載されている。ハイブリット配向しているディスコティック液晶性化合物の層に関しては、特開平8−50206号公報に記載がある。
【0204】
[OCBモード液晶表示装置]
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性化合物を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許第4583825号、同第5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性化合物が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend)液晶モードと呼ばれる。
【0205】
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性化合物が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性化合物が寝た配向状態にある。
【0206】
黒表示にTNモードと液晶の配向は同じ状態であるため、好ましい態様もTNモード対応を同じである。ただし、TNモードに比べ、OCBモードの方がセル中央部で液晶性化合物が立ち上がった範囲が大きいために、ディスコティック液晶性化合物がホメオトロピック配向している光学異方性層、又は棒状液晶性化合物がホモジニアス配向している光学異方性層について、若干のレターデーション値の調整が必要である。具体的には、(透明)支持体上のディスコティック液晶性化合物がホメオトロピック配向している光学異方性層、又は棒状液晶性化合物がホモジニアス配向している光学異方性層を有する光学補償シートを用い、Rthレターデーション値が150nm〜500nmであり、Reレターデーション値が20〜70nmであることが好ましい。
【0207】
[VAモード液晶表示装置]
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性化合物が実質的に垂直に配向している。
【0208】
VAモードの液晶セルには、
(1)棒状液晶性化合物を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、
(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル{“SID97、Digest of tech.Papers”(予稿集)28集(1997年)p.845記載}、
(3)棒状液晶性化合物を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル{「日本液晶討論会の予稿集」p.58〜59(1998年)記載}及び、
(4)SURVAIVALモードの液晶セル(「LCDインターナショナル98」で発表)が含まれる。
【0209】
VAモードの液晶表示装置の黒表示において、液晶セル中の棒状液晶性化合物は、そのほとんどが、立ち上がった状態であるため、ディスコティック液晶性化合物がホメオトロピック配向している光学異方性層、又は棒状液晶性化合物がホモジニアス配向している光学異方性層で液晶性化合物を補償し、別に、棒状液晶性化合物がホモジニアス配向し、棒状液晶性化合物の長軸の平均配向方向と偏光膜の透過軸方向との角度が5°未満である光学異方性層で偏光板の視角依存性を補償することが好ましい。
【0210】
(透明)
支持体又はディスコティック液晶性化合物がホメオトロピック配向している光学異方性層、又は棒状液晶性化合物がホモジニアス配向している光学異方性層は、Rthレターデーション値が150nm〜500nmであり、Reレターデーション値が20〜70nmであることがより好ましい。
【0211】
[その他液晶表示装置]
ECBモード及びSTNモードの液晶表示装置に対しては、上記と同様の考え方で光学的に補償することができる。
【0212】
本発明の光学補償フィルム及び偏光板は、OCBモード液晶表示装置向けに用いるのが最も好ましい。
【実施例】
【0213】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、割合、操作などは、本発明を達成するための一例であり、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。また、実施例中の光学補償フィルム起因の「局所的
な表示ムラ」の様子は、あくまで一例を示すものである。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。
【0214】
[光学補償フィルムの作製]
実施例1
〔透明支持体(PK−1)の作製〕
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0215】
{セルロースアセテート原液(CA−1)組成}
セルロースアセテート(酢化度60.9%)(リンター) 80質量部
セルロースアセテート(酢化度60.8%)(リンター) 20質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 300質量部
メタノール(第2溶媒) 54質量部
1−ブタノール(第3溶媒) 11質量部
【0216】
[レターデーション上昇剤溶液(RC−1)の調製]
別のミキシングタンクに、酢化度60.9%のセルロースアセテート(リンター)4質量部、下記のレターデーション上昇剤16質量部、シリカ微粒子(粒径20nm、モース硬度約7)0.5質量部、メチレンクロライド87質量部及びメタノール13質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、レターデーション上昇剤溶液を調製した。
【0217】
【化33】

【0218】
セルロースアセテート溶液464質量部に、レターデーション上昇剤溶液36質量部を混合し、充分に攪拌してドープを調製した。レターデーション上昇剤の添加量は、セルロースアセテート100質量部に対して、5.0質量部であった。
【0219】
得られたドープ(D−1)を、バンド流延機を用いて流延した。バンド上での膜面温度が40℃となってから、1分乾燥し、残留溶媒量が43質量%のフィルムを剥ぎ取った後、140℃の乾燥風で、テンターを用いて幅方向に28%延伸した。この後、135℃の乾燥風で20分間乾燥し、残留溶媒量が0.3質量%の透明支持体(PK−1)を製造した。得られた透明支持体(PK−1)の幅は1340mmであり、厚さは、92μmであった。
【0220】
透明支持体(PK−1)について、エリプソメーター“M−150”{日本分光(株)製}を用いて、波長590nmにおけるレターデーション値(Re)を測定したところ、43nmであった。また、波長590nmにおけるレターデーション値(Rth)を測定したところ、175nmであった。
【0221】
作製した透明支持体(PK−1)のバンド面側に、1.0mol/Lの水酸化カリウム溶液(溶媒:水/イソプロピルアルコール/プロピレングリコール=69.2質量部/15質量部/15.8質量部)を10cc/m2塗布し、約40℃の状態で30秒間保持した後、アルカリ液を掻き取り、純水で水洗し、エアーナイフで水滴を削除した。その後、100℃で15秒間乾燥した。このPK−1の純水に対する接触角を求めたところ、42°であった。
【0222】
〔配向膜の形成〕
この透明支持体(PK−1)のアルカリ処理面上に、下記の組成の配向膜塗布液を#16のワイヤーバーコーターで28mL/m2の塗布量で塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥した。
【0223】
[配向膜塗布液組成]
下記の変性ポリビニルアルコール 10質量部
水 371質量部
メタノール 119質量部
グルタルアルデヒド(架橋剤) 0.5質量部
【0224】
【化34】

【0225】
透明支持体(PK−1)の遅相軸(波長632.8nmで測定)に対して45゜の方向になるように、配向膜にラビング処理を実施した。
【0226】
〔光学異方性層の形成〕
[光学異方性層用塗布液(液−1)の調製]
合計で265kgの塗布液になるよう、下記のディスコティック液晶性化合物91質量部、エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート“V#360”{大阪有機化学(株)製}9質量部、セルロースアセテートブチレート“CAB−531−1”(イーストマンケミカル社製)0.5質量部、及びセルロースアセテートブチレート“CAB−551−0.2”(イーストマンケミカル社製)0.5質量部、光重合開始剤「イルガキュアー907」(チバガイギー社製)3質量部、及び増感剤「カヤキュアーDETX」{日本化薬(株)製}1質量部を、メチルエチルケトン54質量部に溶解し、この溶液にさらにフッ素系ポリマー「メガファックF780」{大日本インキ化学工業(株)製}1質量部を加えて、さらにメチルエチルケトンで27℃における比重が0.914になるように調整し、光学異方性層用塗布液(液−1)とした。
【0227】
【化35】

【0228】
(セルロースエステル溶液粘度の測定)
光学異方性層用塗布液で用いた、セルロースエステルの単独溶液の粘度を測定した。メチルエチルケトン96.0gに、セルロースエステル溶液4.0gを加えて完全に溶解し、セルロースエステルが4重量%の溶液を作製した。その後、溶液の温度を25℃に保温したまま、振動式粘度計(エー・アンド・デイ(株)製、CJV−5000)を用いて粘度測定を行った。その結果、CAB−531−1の溶液は5.1mPa・s(cP)、CAB−551−0.2の溶液粘度は1.7mPa・s(cP)であった。
【0229】
[光学異方性層の形成]
特開2005−70320号公報の実施例1における方法を元に、光学異方性層を形成した。
【0230】
上記で作製した光学異方性層用塗布液(液−1)を、#3.2のワイヤーバーを780回転でフィルムの搬送方向と同じ方向に回転させて、20m/分で搬送されている透明支持体(PK−1)の配向膜面上に連続的に塗布した。
【0231】
室温から100℃に連続的に加温する工程で、溶媒を乾燥させ、その後、130℃の乾燥ゾーンで、ディスコティック液晶性化合物層の膜面風速がフィルムの搬送方向に平行に2.5m/秒となるようにし、約90秒間加熱し、ディスコティック液晶性化合物を配向させた。次に、60℃の乾燥ゾーンに搬送させて、フィルムの表面温度が約80℃の状態
で、紫外線照射装置(紫外線ランプ:出力160W/cm、発光長1.6m)により、照度600mWの紫外線を4秒間照射し、架橋反応を進行させて、ディスコティック液晶性化合物をその配向のままで固定して光学異方性層を形成した。その後、室温まで放冷し、円筒状に巻き取ってロール状の形態にした。このようにして、ロール状光学補償フィルム(KH−1)を作製した。この130℃の乾燥ゾーンでのディスコティック液晶性化合物層の膜面温度は、127℃であった。
【0232】
〔光学特性の測定〕
[Re測定方法]
測定サンプルの断面図を図2に、正面図を図3に示す。作製したロール状光学補償フィルム(KH−1)の一部を切り取り、サンプルとして用いて、光学異方性層の正面レターデーション値Reを測定した。
【0233】
光学異方性層のReの測定は、まずロール状光学補償フィルムの上の光学異方性層のムラが視認できる部分又は視認できない部分を選定し、光学補償フィルムの幅方向及び塗布方向のそれぞれが5cm角の大きさになるように切り取った。切り取った光学補償フィルムを40℃の温水に30分間浸漬した後、厚さ5mmのガラス板101上に市販の粘着剤{サンリッツ(株)製}102を貼り付け、さらにその上に温水に浸漬した光学補償フィルムの光学異方性層103側を粘着剤102側にして貼り付け、透明支持体のみを剥離した。その結果、ガラス板101と粘着剤102の上には、光学異方性層103が積層状態になっていた。このガラス板状の光学異方性層上に、シリコーンオイル{信越化学工業(株)製}105を数滴滴下し、さらに同じ大きさのガラス板104を用いて、シリコーンオイル105、光学異方性層103及び粘着剤102を挟み込んだ。このガラス板サンプルの、光学異方性層部分103を、汎用偏光解析装置“OPTIPRO”(シンテック社製)により、波長632.8nmの光源を用い、0.1mmの間隔でReの測定を行った。
【0234】
ムラの視認が可能なサンプルについては、図3のように、光学異方性層202上のムラ確認可能部分203が包含されるように走査部分211、212、213を選び、測定を行った。なお走査部分211、212、213の間隔は、等間隔で1mmとなるようにRe測定を行った。
【0235】
[Reの変化率ΔRe]
上記のRe測定後、Reの変化率を求めた。まず、走査方向については、走査部分211、212、213の、各測定位置において、0.1mm間隔でのReの変化率ΔReを求めた。また、走査部分211、212、213のように測定位置が同じで、走査部分が異なるところの値同士のRe値の差を変化率とした。Re値の変化率は、これらの値のうち、最大値と最小値を選び、ムラの視認性との整合を行った。
【0236】
比較例1
実施例1の光学異方性層用塗布液(液−1)の調製において、セルロースアセテートブチレート“CAB−531−1”及び“CAB−551−0.2”(共にイーストマンケミカル社製)を0.5質量部ずつ用いる代わりに、セルロースアセテートブチレート”CAB−531−1”のみを1質量部用いた以外は、実施例1の光学異方性層用塗布液(液−1)の調製と同様にして、光学異方性層用塗布液(液−H1)を調製し、光学補償フィルム(KH−H1)を作製した。得られた光学補償フィルム(KH−H1)について、実施例1と同様にして正面レターデーション値Re及びReの変化率ΔReを測定した。
【0237】
比較例2
実施例1の光学異方性層用塗布液(液−1)の調製において、セルロースアセテートブ
チレート“CAB−531−1”及び“CAB−551−0.2”(共にイーストマンケミカル社製)を0.5質量部ずつ用いる代わりに、セルロースアセテートブチレート”CAB−531−1”0.5重量部、セルロースアセテートブチレート”CAB−551−0.2”2質量部用いた以外は、実施例1の光学異方性層用塗布液(液−1)の調製と同様にして、光学異方性層用塗布液(液−H2)を調製し、光学補償フィルム(KH−H2)を作製した。得られた光学補償フィルム(KH−H2)について、実施例1と同様にして正面レターデーション値ReおよびReの変化率ΔReを測定した。
【0238】
実施例2
実施例1の光学異方性層用塗布液(液−1)の調製において、セルロースアセテートブチレート“CAB−531−1”及び“CAB−551−0.2”(共にイーストマンケミカル社製)を0.5質量部ずつ用いる代わりに、“CAB−531−1”0.5質量部及び“CAB−551−0.2”0.2質量部用いた以外は、実施例1と同様にして、光学異方性層用塗布液(液−2)を調製し、光学補償フィルム(KH−2)を作製した。得られた光学補償フィルム(KH−2)について、実施例1と同様にして正面レターデーション値Re及びReの変化率ΔReを測定した。
【0239】
実施例3
〔透明支持体(PK−2)の作製〕
ミキシングタンクに、実施例1で使用したレターデーション上昇剤16質量部、メチレンクロライド80質量部及びメタノール20質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、レターデーション上昇剤溶液を調製した。
【0240】
実施例1で作製したセルロースアセテート溶液474質量部に、上記レターデーション上昇剤溶液25質量部を混合し、充分に攪拌してドープを調製した。レターデーション上昇剤の添加量は、セルロースアセテート100質量部に対して、3.5質量部であった。
【0241】
得られたドープを、バンド流延機を用いて流延した。バンド上での膜面温度が40℃となってから、1分乾燥し、剥ぎ取った後、140℃の乾燥風で、残留溶剤量が0.3質量%の透明支持体(PK−2)を製造した。得られた透明支持体(PK−2)の幅は1500mmであり、厚さは65μmであった。
【0242】
透明支持体(PK−2)について、エリプソメーター“M−150”{日本分光(株)製}を用いて、波長590nmにおけるレターデーション値(Re)を測定したところ、4nmであった。また、波長590nmにおけるレターデーション値(Rth)を測定したところ、78nmであった。
【0243】
[透明支持体(PK−2)のアルカリ処理]
作製した透明支持体(PK−2)のバンド面側に、1.0mol/Lの水酸化カリウム溶液(溶媒:水/イソプロピルアルコール/プロピレングリコール=69.2質量部/15質量部/15.8質量部)を10cc/m2塗布し、約40℃の状態で30秒間保持した後、アルカリ液を掻き取り、純水で水洗し、エアーナイフで水滴を削除した。その後、100℃で15秒間乾燥した。このPK−1の純水に対する接触角を求めたところ、40°であった。
【0244】
〔配向膜の形成〕
透明支持体(PK−2)のアルカリ処理面上に、下記の組成の塗布液を#16のワイヤーバーコーターで28mL/m2の塗布量で塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥した。
【0245】
[配向膜塗布液組成]
実施例1の変性ポリビニルアルコール 10質量部
水 371質量部
メタノール 119質量部
グルタルアルデヒド(架橋剤) 0.5質量部
【0246】
次に、透明支持体(PK−2)の長手方向と平行な方向に配向するように変性ポリビニルアルコール膜にラビング処理を実施した。
【0247】
〔光学異方性層の形成〕
前記実施例2で用いた光学異方性層用塗布液(液−2)を用いる以外は、前記実施例1と同様の方法で光学異方性層を形成し、光学補償シート(KH−3)を作製した。得られた光学補償シート(KH−3)について、実施例1と同様にして正面レターデーション値Re及びReの変化率ΔReを測定した。
【0248】
実施例1、実施例2及び実施例3、並びに、比較例1及び比較例2で得られた光学補償フィルムの光学異方性層の構成を表1に、その特性値、すなわち、これらの実施例及び比較例における光学異方性層のムラの視認性、光学異方性層のReの変化率ΔReの最大値と最小値、波長632.8nmでの光学異方性層のRe値(全測定点における平均値)、光学補償フィルムの面状の評価結果を示す。
【0249】
(光学異方性層面状観察評価)
作製したロール状の光学補償フィルムを切り取り、面状故障の評価を行った。市販の蛍光灯を光源として、市販の偏光板を通して、光学異方性層の塗布面側から、1m2の面積内で評価を行った。面状の評価は、局所的に見えるムラが多いか少ないかで、その良否を判断した。面状評価の段階は、◎(極めて良好)、○(良好)、△(やや良好)、×(不良)、××(極めて不良)とし、不良になるほど膜厚ムラや視認可能な局所的な配向ムラが多い。ムラの視認性に関しては、目視で見てその有無を判断した。
【0250】
【表1】

【0251】
【表2】

【0252】
本発明を達成するための手段のひとつとして、フルオロ脂肪族基含有共重合体を含み、さらにはセルロースエステルの種類及び含量を調整した光学異方性層を作製することにより、光学異方性層の大きなムラが人間の目に視認されない程度の光学補償フィルムを作製することができた。また、本発明では、Reの変化値ΔReがより小さくなることにより、光学補償フィルム全体の面状が改善された。
【0253】
〔偏光板の作製〕
実施例4
[偏光膜の作製]
平均重合度1700、ケン化度99.5モル%のPVAフィルム(厚さ80μm、幅2500mm)を40℃の温水中で8倍に縦一軸延伸し、そのままヨウ素0.2g/L、ヨウ化カリウム60g/Lの水溶液中に30℃にて5分間浸漬し、次いでホウ酸100g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの水溶液中に浸漬した。このときフィルム幅1300mm、厚さは17μmであった。さらにこのフィルムを水洗槽にて20℃、10秒間浸漬した後、ヨウ素0.1g/L、ヨウ化カリウム20g/Lの水溶液中に30℃にて15秒間浸漬し、このフィルムを室温にて24時間乾燥してヨウ素系偏光膜(HF−1)を得た。
【0254】
[偏光板の作製]
ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、実施例1で作製した光学補償フィルム(KH−1)を、支持体面を偏光膜側にして偏光膜(HF−1)の一方の側に貼り付けた。また、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム“TD−80U”{富士写真フイルム(株)製}に鹸化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光膜(HF−1)の他方の側に貼り付けた。その際、偏光膜(HF−1)の長手方向と、透明支持体(PK−1)の長手方向、更には、“TD−80U”の長手方向とが全て平行になるように配置した。このようにして偏光板(HB−1R)を作製した。
【0255】
また、上記と同様にして、光学補償フィルム(KH−1)を偏光膜(HF−1)の一方の側に貼り付け、偏光膜(HF−1)の他方の側には、同様に鹸化処理を行った反射防止機能付きフィルム「富士フイルム CV クリアビューUA」{富士写真フイルム(株)製}を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り付けた。その際、偏光膜(HF−1)の長手方向と、透明支持体(PK−1)の長手方向、更には、市販のトリアセチルセルロースフィルム「富士フイルム CV クリアビューUA」の長手方向とが全て平行になるように配置した。このようにして偏光板(HB−1F)を作製した。
【0256】
上記偏光板と同様の方法にて、実施例1で作製した光学補償フィルム(KH−1)の代わりに、実施例2及び、比較例1及び2で作製した光学補償フィルム(KH−2、KH−H1、KH−H2)を用いて、偏光板(HB−2R、HB−2F;HB−H1R、HB−H1F;HB−H2R、HB−H2F)をそれぞれ作製した。
【0257】
得られた偏光板の構成を表3に示す。
【0258】
【表3】

【0259】
実施例5
ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、実施例2で作製した光学補償フィルム(KH−3)を、支持体面を偏光膜側にして偏光膜(HF−1)の一方の側に貼り付けた。また、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム“TD−80U”{富士写真フイルム(株)製}に鹸化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光膜(HF−1)の他方の側に貼り付けた。その際、偏光膜(HF−1)の透過軸と、光学補償フィルム(KH−3)の透明支持体(PK−2)の遅相軸とは平行になるように配置した。偏光膜(HF−1)の透過軸と“TD−80U”の遅相軸とは、直交するように配置した。このようにして偏光板(HB−3)を作製した。
【0260】
得られた偏光板の構成を表3に示した。
【0261】
<液晶表示装置の作製>
〔ベンド配向液晶セルの作製〕
実施例6
ITO電極付きのガラス基板に、ポリイミド膜を配向膜として設け、配向膜にラビング処理を行った。得られた2枚のガラス基板をラビング方向が平行となる配置で向かい合わせ、セルギャップを4.5μmに設定した。このセルギャップにΔnが0.1396の液晶性化合物“ZLI1132”(メルク社製)を注入し、ベンド配向液晶セルを作製した。液晶セルの大きさは20インチであった。
【0262】
作製したベンド配向セルを挟むように、それぞれ別のセルに、実施例4で作製した偏光板(HB−1F)〜(HB−2F)、および(HB−H1F)〜(HB−H2F)を視認側に、偏光板(HB−1R)〜(HB−2R)及び(HB−H1R)〜(HB−H2R)
をバックライト側にそれぞれ貼り付けた。楕円偏光板の光学異方性層がセル基板に対面し、液晶セルのラビング方向とそれに対面する光学異方性層のラビング方向とが反平行となるように配置し、ベンド配向液晶セルを4つ(601、602、601H、602H)作製した。光学補償フィルムとベンド配向セルとの対応を表3に示す。
【0263】
液晶セルに55Hzの矩形波電圧を印加した。白表示2V、黒表示5Vのノーマリーホワイトモードとした。透過率の比(白表示/黒表示)をコントラスト比として、測定機“EZ−Contrast160D”(ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。また、正面コントラスト(CR:白表示の輝度/黒表示の輝度)を求めた。その結果、どの偏光板においても、上下の視野角は80°、左右の視野角は80°、正面CRは400であった。
【0264】
また、表3にベンド配向セルに貼り付けた液晶セルの電圧印加時の面状の評価結果を記載した。面状の評価は、前記(光学異方性層面状観察評価)と同様に行った。本発明により、ベンド配向液晶セルにおいても、表示ムラが改良されていることがわかる。また、実施例1〜3のような、複数のセルロースエステルの比率の光学異方性層を作製することにより、液晶セルに搭載したときの表示ムラ改良効果が大きいことがわかった。
【0265】
実施例7
ITO電極付きのガラス基板に、ポリイミド膜を配向膜として設け、配向膜にラビング処理を行った。得られた2枚のガラス基板をラビング方向が平行となる配置で向かい合わせ、セルギャップを6μmに設定した。セルギャップにΔnが0.1396の液晶性化合物“ZLI1132”(メルク社製)を注入し、ベンド配向液晶セルを作製した。液晶セルの大きさは20インチであった。
【0266】
作製したベンド配向セルを挟むように、実施例5で作製した偏光板(HB−3)をそれぞれの面に一枚づつ計二枚貼り付けた。楕円偏光板の光学異方性層がセル基板に対面し、液晶セルのラビング方向とそれに対面する光学異方性層のラビング方向とが反平行となるように配置し、ベンド配向セル701を作製した。対応する光学補償フィルム(KH−3)とともに、表3に示す。
【0267】
液晶セルに55Hzの矩形波電圧を印加した。白表示2V、黒表示6Vのノーマリーホワイトモードとした。透過率の比(白表示/黒表示)をコントラスト比として、測定機“EZ−Contrast160D”(ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。その結果、この偏光板における上下の視野角は80°、左右の視野角は80°、正面CRは500であった。
また、表3にベンド配向セルに貼り付けた液晶セルの電圧印加時の面状の評価結果を記載した。本発明により、ベンド配向液晶セルにおいても、表示ムラが改良されていることがわかる。
【0268】
本発明は、透明支持体、好ましくは長尺状の透明支持体上に光学異方性層を有する光学補償フィルムであって、該光学異方性層の正面レターデーション値Reを、面内において2点測定するとき、該光学補償フィルムのRe測定位置及び2点間の測定方向によらず、2点のRe測定位置に対するReの変化率の絶対値ΔReが小さくなるようにすることにより、光学補償フィルム自体の局所的なムラが人間の視認出来ないようにすることができ、より均一な光学特性を持つ光学補償フィルムを作製することができる。さらに、光学補償フィルム自体のムラを人間が視認できないようにすることが可能となる。さらに、偏光板・液晶パネルに搭載したとき、Reの変化率ΔReが小さくなるようにすることにより、さらに表示ムラがよくなる。このような均一な光学特性の光学異方性層を、長尺状の透明支持体上に作製した光学補償フィルムを得ると、より製造適性に優れた高性能の光学補償フィルム及びこれを含む偏光板を、無駄なく加工することができ、表示品質の高い液晶表示装置を、効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0269】
【図1】図1は、異なる2点間の正面レターデーション値Reの差ΔReの測定に際しての、これら2点の位置の関係を示す概念図である。
【図2】図2は正面レターデーション値Re測定用サンプルの断面模式図である。
【図3】図3は正面レターデーション値Re測定用サンプルの正面模式図である。
【符号の説明】
【0270】
1:正面レターデーション値Re測定位置1
2:位置1から、半径が距離Lの円内の任意の位置2の集合
【0271】
101:ガラス板
102:粘着剤
103:光学異方性層
104:ガラス板
105:シリコーンオイル
【0272】
201:ガラス板
202:光学異方性層
203:光学異方性層のムラ確認可能部分
211:走査部分1
212:走査部分2
213:走査部分3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明支持体上に光学異方性層を有する光学補償フィルムであって、該光学異方性層の、下記数式(1)で定義される正面レターデーション値Reを、面内において2点測定するとき、該光学補償フィルムのRe測定位置及び2点間の測定方向によらず、下記数式(2)で表される2点のRe測定位置に対するReの変化率の絶対値ΔReが0.2以下であることを特徴とする光学補償フィルム。
数式(1):Re=(nx−ny)×d
数式(2):ΔRe=|Re1−Re2|/L
ここで、nxは光学異方性層の面内の遅相軸方向(面内屈折率が最大となる方向)の屈折率、nyは光学異方性層の面内の進相軸方向(面内屈折率が最小となる方向)の屈折率であり、dは光学異方性層の厚さである。またRe1はある位置1におけるRe値(nm)、Re2は位置1から直線距離がLだけ離れた位置2でのRe値(nm)であり、Lは位置1と位置2との直線距離(mm)である。
【請求項2】
光学異方性層の正面レターデーション値Reが20〜100nmの範囲である請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項3】
光学異方性層に液晶性化合物を含有する請求項1又は2に記載の光学補償フィルム。
【請求項4】
液晶性化合物がディスコティック液晶性化合物である請求項3に記載の光学補償フィルム。
【請求項5】
透明支持体が長尺状の透明支持体であり、得られる光学補償フィルムが長尺状の光学補償フィルムである請求項1〜4のいずれかに記載の光学補償フィルム。
【請求項6】
透明支持体上に光学異方性層を形成してなる、請求項1〜5のいずれかに記載の光学補償フィルムの製造方法であって、該光学異方性層を形成する方法が、
(1)透明支持体の表面又は、該透明支持体上に形成された配向膜の表面にラビング処理を施す工程、
(2)液晶性化合物を含む塗布液を、上記(1)でラビング処理された支持体又は配向膜の表面上に塗布する工程、及び
(3)上記(2)で塗布された層を乾燥するのと同時に、又は乾燥した後に、液晶転移温度以上の温度で液晶性化合物を配向させ、且つその配向を固定する工程、
からなることを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の光学補償フィルム、又は請求項6に記載の製造方法によって得られる光学補償フィルムと、偏光膜とを有することを特徴とする偏光板。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の光学補償フィルム、もしくは請求項6に記載の製造方法によって得られる光学補償フィルム、又は請求項7に記載の偏光板を備えたことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項9】
表示方式がOCB方式である請求項8に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−248487(P2007−248487A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67588(P2006−67588)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】