説明

光安定性に優れた紫外線吸収剤内包微小カプセル

【課題】 オルガノポリシロキサンとシリル化ペプチドとの重合物を壁膜とし、UV−A吸収剤とUV−B吸収剤を内包する微小カプセルにおいて、紫外線吸収剤の光安定性に優れた紫外線吸収剤内包微小カプセルを提供する。
【解決手段】 UV−A吸収剤に2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルを、UV−B吸収剤にパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルを用い、オルガノポリシロキサンとシリル化ペプチドとの重合物を壁膜とした微小カプセルに内包する。微小カプセルに内包する2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルの含有量は、内包する全紫外線吸収剤量の1〜36質量%が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外線吸収剤を内包する微小カプセルに関する。さらに詳しくは、特定のヒドロキシシランを縮重合したオルガノポリシロキサンを壁膜とし、光安定性が優れた紫外線吸収剤内包微小カプセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オルガノポリシロキサンは、熱的、機械的安定である、耐光性を有する、生体不活性であるなどの優れた特性を有することから、広い分野で利用され、かつさらなる応用が期待されている。マイクロカプセルやナノカプセルなどの微小カプセルの分野においても、オルガノポリシロキサンまたはそれに類する材料を壁膜として用い微小カプセルを製造することが試みられている。例えば、本発明者らも、オルガノポリシロキサンとシリル化ペプチドの重合物を壁膜に用い、紫外線吸収剤を内包した微小カプセルを提案している(特許文献1)。
【0003】
化粧品に紫外線防御剤が配合される際には、一般に、UVB吸収剤とUVA吸収剤を併用して配合され、UVB吸収剤としてパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシル、UVA吸収剤として4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタンの組み合わせがよく使用されていて、上記特許文献1でも同じ組み合わせの紫外線吸収剤が使用されている。
【0004】
しかしながら、紫外線吸収剤である4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタンとパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルを内包させた微小カプセルの光安定性は不十分であり、紫外線によって紫外線防御効果が低くなる問題があった。
【特許文献1】特開平11−221459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、特定のオルガノポリシロキサンとシリル化ペプチドとの重合物を壁膜とする微小カプセルにおいて、光安定性が高く、紫外線防御効果が低下しない微小カプセルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、オルガノポリシロキサンとシリル化ペプチドとの重合物を壁膜とする微小カプセルにおいて、紫外線吸収剤として2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルとパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルを使用するときには、該微小カプセルの光安定性が高く、紫外線防御効果が低下しないことを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
そして、微小カプセルに内包される2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルの量は、微小カプセルに内包される紫外線吸収剤全質量の1〜36%であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルとパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルを紫外線吸収剤として内包する微小カプセルは、4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタンとパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルとを紫外線吸収剤として用いている従来品と比べ、光安定性が優れていて紫外線防御効果が低下しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、紫外線吸収剤内包微小カプセルとは、オルガノポリシロキサンとシリル化ペプチドとの重合物を壁膜とする内包済み微小カプセルであり、この微小カプセルは、前記特許文献1に記載の方法で製造することができる。
【0010】
微小カプセルの壁膜となるオルガノポリシロキサンの原料としては、例えば、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシランなどが挙げられる。また、シリル化ペプチドとしては、例えば、N−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−トリヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解タンパク、N−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−ジヒドロキシメチルシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解タンパクなどが挙げられる。
【0011】
上記のオルガノポリシロキサンの原料と上記のシリル化ペプチドとを用いて前記の特許文献1の方法で微小カプセルを製造する場合、紫外線吸収剤は微小カプセル全質量に対して0.01〜99質量%の範囲で内包させることができるが、微小カプセルの調製のしやすさや、調製した微小カプセルの紫外線吸収効果を考慮すると、紫外線吸収剤の内包率は微小カプセル全質量の80〜95%が好ましい。すなわち、内包させる紫外線吸収剤の量が少ない場合は微小カプセルの紫外線吸収剤効果が低くなり、従って化粧品に配合し、一定の効果を得るためには多量に配合する必要が生じる。また、紫外線吸収剤の内包率を極端に上げると、微小カプセル全量に占める壁膜部分の割合が減少し、微小カプセルの安定性が減少するおそれがある。
【0012】
内包させる紫外線吸収剤は、2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルとパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルの混合物であるが、2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルの量は、紫外線吸収剤全質量の1〜36%以下であることが好ましい。すなわち、2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルの量が上記範囲以上では、2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルがパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルに溶解されずに析出するおそれがあり、2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルの量が上記範囲以下になると、紫外線防御効果を発揮できないおそれがある。
【実施例】
【0013】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例のみにより制約を受けるものではない。なお、実施例に先立ち、実施例で使用する紫外線吸収剤内包マイクロカプセルの合成例、比較合成例を示す。また、以下の合成例や実施例で用いる%は質量%である。
【0014】
合成例1:
N−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−トリヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解セリシン、メチルトリエトキシシランおよびオクチルトリエトキシシランの加水分解物共縮重合体からなるポリシロキンを壁膜とする2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルとパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルを内包する微小カプセルの製造
1)カプセル壁膜のプレポリマーの調製
上蓋に滴下ロートと還流冷却器を備え、メカニカルスターラを備えた内径12cm、容量2リットルの丸底円筒形ガラス製反応容器に、あらかじめ水180gとN−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−トリヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解セリシン(加水分解セリシンの分子量は数平均分子量で約2000)20gおよび18%塩酸9.2gを入れておき、50℃で攪拌しながらメチルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製KBE−13)32.4gとオクチルトリエトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製A−137)10.1gの混合物を滴下ロートから滴下した。滴下終了後、さらに、50℃で3時間攪拌した後、攪拌しながら20%水酸化ナトリウム水溶液11.0gを滴下し、pHを6.0にした。
【0015】
2)芯物質の添加と乳化
1)で調製した反応液を600rpmで攪拌しながら2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシル(BASF社製ユビナールA Plus)147.1gパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシル(BASF社製ユビナールMC80N)261.5gとテトラエトキシシラン(信越シリコーン社製KBE−04)4.1gの混合物を加え、さらに、600rpmで3時間攪拌し続けた。
【0016】
3)微粒化
2)で調製した反応液をホモミキサーの容器に移して、50℃、10,000rpmで90分間ホモミキサーにかけて、微粒化した。
【0017】
4)壁膜のオーバーコート処理
3)で調製した反応液を元の反応容器で50℃、500rpmで撹拌しながらメチルトリクロロシラン(信越シリコーン社製LS−40)1.4gとメチルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製KBE−13)6.5gの混合物を加え、さらに、500rpmで1時間撹拌した後、5%水酸化ナトリウム水溶液21.6gを加え中和した。
【0018】
5)凝集防止と壁膜の硬化処理
4)で調製した反応液を50℃、500rpmで攪拌しながらトリメチルクロロシラン(信越シリコーン社製KA−31)4.0gを加えた、さらに、500rpmで1時間撹拌した後、5%水酸化ナトリウム水溶液28.7gを加え中和した。反応液の温度を徐々に上げ、アルコールを含む蒸気を留去し、さらに150rpmで攪拌しながら2時間加熱した。この反応液を室温で150rpmで攪拌しながら冷却し、固型分濃度を60%に調整した内包済み微小カプセルの水分散液を728g得た。
【0019】
比較合成例1:
N−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−トリヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解セリシン、メチルトリエトキシシランおよびオクチルトリエトキシシランの加水分解物共縮重合体からなるポリシロキンを壁膜とする4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタンとパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルを内包する微小カプセルの製造
2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルに代えて4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタンを同量用いた他は合成例1と同様にして、紫外線吸収剤として4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタンとパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルを内包する固型分濃度60%に調整した微小カプセルの水分散液を720gを得た。
【0020】
実施例1および比較例1
合成例1および比較合成例1で製造した紫外線吸収剤内包微小カプセルをそれぞれ実施例1および比較例1とし、それぞれの微小カプセルの光安定性を下記の[光安定性評価法]で評価した。
【0021】
[光安定性評価法]
2×2cmのすりガラスに、得られた内包済み微小カプセルを約4mgを正確に秤量し、上から透明な石英ガラスを乗せ、試料をすりガラスと石英ガラスで挟み込む。石英ガラス面を上にして、SUNTEST CPS+(ATLAS Material Testing Technology社製)内に設置し、紫外線量が5313kJ/m、10,692kJ/mになるように照射する。照射後、酢酸エチルにて紫外線吸収剤を抽出し、下記の条件での液体クロマトグラフィーによって内包済み微小カプセル約4mgに含まれる紫外線吸収剤の量を求める。紫外線を照射しない微小カプセルに含まれる紫外線吸収剤量を100%として、紫外線照射による紫外線吸収剤量の残存率(%)を算出する。
【0022】
液体クロマトグラフィーの測定条件
カラム :TSK−GEL ODS−120T 4.6mm×150mm〔東ソー(株)〕
移動相 :メタノール:水=9:1
流速 :0.8mL/min
検出波長:2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシル 354nm、パラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシル 310nm、4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタン 358nm
【0023】
上記の評価法で算出した、それぞれの微小カプセル中の紫外線吸収剤の残存率を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示したように、2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルとパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルを内包する実施例1の微小カプセルは、10,692kJ/mの紫外線照射後も、UV−A吸収剤の2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルは全く影響を受けていず、UV−B吸収剤のパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルも50%以上残存していた。これに対し、4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタンとパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルを内包する比較例1の微小カプセルでは、5313kJ/mの紫外線照射で、UV−A吸収剤である4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタンはすべて分解し、UV−B吸収剤のパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルも30%程度しか残存していなかった。すなわち、2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルとパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルを内包する微小カプセルは、4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタンとパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルを内包する微小カプセルに比べて、光安定性が優れていることが明らかであった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサンとシリル化ペプチドの重合物を壁膜とし、2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルとパラメトキシケイヒ酸−2−エチルヘキシルを紫外線吸収剤として内包する微小カプセル。
【請求項2】
微小カプセルに内包される2−(4−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸ヘキシルの含有量が、内包される紫外線吸収剤全質量の1〜36%であることを特徴とする請求項1記載の微小カプセル。


【公開番号】特開2009−23955(P2009−23955A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189217(P2007−189217)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000147213)株式会社成和化成 (45)
【Fターム(参考)】