説明

光導波路型デバイス、温度計測装置および温度計測方法

【課題】正確に温度を計測する際に好適に用いられ得る光導波路型デバイスを提供する。
【解決手段】光導波路型デバイス10は、基板100に光導波路111,112が形成されていて、光導波路111と光導波路112とが光カプラ121および光カプラ122それぞれにおいて光結合されていてマッハツェンダ干渉計を構成している。マッハツェンダ干渉計において第1光カプラ121と第2光カプラ122との間で、第2光導波路112の一部区間112Bのクラッドの屈折率の温度依存性は、第1光導波路111および第2光導波路112の他の光導波路部分112A,112Cと異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度を計測する装置および方法、ならびに、この温度計測に用いられる光導波路型デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ等の光導波路を用いた温度計測技術として例えば特許文献1,2に開示されたものが知られている。特許文献1に開示された技術は、終端部に無反射処理を施した光ファイバの一端に光を入射させ、その光ファイバにおいて生じる後方散乱光のうち特定波長の光パワーを検出することで、その光ファイバにおける長手方法の温度分布を計測するものである。また、特許文献2に開示された技術は、測定対象からの放射光を光ファイバにより導光し、その導光した放射光のうちの互いに異なる2つの波長帯それぞれにおいて光パワーを検出して、これら2つの光パワーに基づいて測定対象の温度を計測するものである。
【特許文献1】特許第2724246号公報
【特許文献2】特許第3325700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの文献に記載された温度測定技術は、何れも、比較的広い温度範囲で温度を計測することができるものの、正確な温度の計測が困難である。本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、より正確に温度を計測することができる温度計測装置および温度計測方法、ならびに、これらの装置または方法において好適に用いられ得る光導波路型デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る光導波路型デバイスは、基板上に第1光導波路および第2光導波路が形成され、第1光導波路と第2光導波路とが第1光カプラおよび第2光カプラそれぞれにおいて光結合されてマッハツェンダ干渉計を構成し、第1光カプラと第2光カプラとの間において第2光導波路の一部区間のクラッドの屈折率の温度依存性が他の光導波路部分と異なる、ことを特徴とする。また、第2光導波路の一部区間のクラッドが樹脂からなるのが好適である。
【0005】
本発明に係る光導波路型デバイスでは、第1光導波路および第2光導波路の何れか一方の一端に光が入射すると、マッハツェンダ干渉計を経て第1光導波路および第2光導波路それぞれの他端から光が出射されるが、第2光導波路の一部区間のクラッドの屈折率の温度依存性が他の光導波路部分と異なることから、そのときの各々の光透過特性は温度により変化する。このような光導波路型デバイスの特性を利用することで、正確に温度を計測することが可能となる。
【0006】
本発明に係る温度計測装置は、(1) 上記の本発明に係る光導波路型デバイスと、(2) 光を出力する光源部と、(3) 光源部から出力された光を光導波路型デバイスの第1光導波路および第2光導波路の何れか一方の一端に入射させる入射光学系と、(4) 光導波路型デバイスの第1光導波路および第2光導波路それぞれの他端から出射される光のパワーを検出する検出部と、(5) 光導波路型デバイスの第1光導波路および第2光導波路それぞれの他端から検出部へ光を導く出射光学系と、(6) 検出部による検出結果に基づいて光導波路型デバイスの温度を求める解析部と、を備えることを特徴とする。また、入射光学系および出射光学系それぞれが、光導波路型デバイスに対して光を入出射する光ファイバを含むのが好適である。
【0007】
本発明に係る温度計測方法は、(1) 上記の本発明に係る光導波路型デバイスを用い、(2) 第1光導波路および第2光導波路の何れか一方の一端に光を入射させて、マッハツェンダ干渉計を経て第1光導波路の他端から出射する光のパワーPを検出するとともに、マッハツェンダ干渉計を経て第2光導波路の他端から出射する光のパワーPを検出し、(3) これら2つの光パワーP,Pに基づいて光導波路型デバイスの温度を計測する、ことを特徴とする。また、光ファイバを用いて光導波路型デバイスに対して光を入出射するのが好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より正確に温度を計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る温度計測装置1の構成図である。この図に示される温度計測装置1は、光導波路型デバイス10、光源部20、検出部30、解析部40、入射用光ファイバ51および出射用光ファイバ61,62を備える。
【0011】
光導波路型デバイス10は、基板100に第1光導波路111および第2光導波路112が形成されたものである。第1光導波路111と第2光導波路112とは、各々の光路の途中の2箇所において互いに光結合し得る間隔になっていて第1光カプラ121および第2光カプラ122を構成している。すなわち、第1光導波路111と第2光導波路112とは、第1光カプラ121および第2光カプラ122それぞれにおいて光結合されていて、マッハツェンダ干渉計を構成している。
【0012】
光源部20は、光導波路型デバイス10の第1光導波路111の一端(入射端)に入射させるべき光を出力する。光ファイバ51は、光源部20から出力された光を一端に入射し、その一端に入射した光を他端まで導光し、その他端から光を出射して光導波路型デバイス10の第1光導波路111の入射端に入射させる。
【0013】
検出部30は、光導波路型デバイス10の第1光導波路111および第2光導波路112それぞれの他端(出射端)から出射される光のパワーを検出する。光ファイバ61は、光導波路型デバイス10の第1光導波路111の出射端から出射された光を一端に入射し、その一端に入射した光を他端まで導光し、その他端から光を出射して検出部30の受光素子に入射させる。また、光ファイバ62は、光導波路型デバイス10の第2光導波路112の出射端から出射された光を一端に入射し、その一端に入射した光を他端まで導光し、その他端から光を出射して検出部30の受光素子に入射させる。
【0014】
解析部40は、光源部20から出射され光導波路型デバイス10の第1光導波路111の入射端に入射された光のパワーP1,in、光導波路型デバイス10の第1光導波路111の出射端から出射され検出部30により検出された光のパワーP1,out、および、光導波路型デバイス10の第2光導波路112の出射端から出射され検出部30により検出された光のパワーP2,outを入力する。
【0015】
さらに、解析部40は、入力光パワーP1,inおよび出力光パワーP1,outに基づいて第1光導波路111の入射端から第1光導波路111の出射端までの光の透過損失αを求め、また、入力光パワーP1,inおよび出力光パワーP2,outに基づいて第1光導波路111の入射端から第2光導波路112の出射端までの光の透過損失αを求める。そして、解析部40は、上記の透過損失α,αに基づいて、光導波路型デバイス10の温度を求める。
【0016】
なお、光ファイバ51,61,62については、例えば4芯の光ファイバテープ心線を用いることができる。このようなテープファイバを用いると、各光ファイバの局所的な曲げなどによって各光ファイバの損失が変動したとしても、3本の光ファイバにほぼ同じ変動が加わることになる。
【0017】
図2は、本実施形態に係る光導波路型デバイス10の平面図である。光導波路型デバイス10は、基板100に第1光導波路111および第2光導波路112が形成されていて、第1光導波路111と第2光導波路112とが第1光カプラ121および第2光カプラ122それぞれにおいて光結合されていてマッハツェンダ干渉計を構成している。さらに、マッハツェンダ干渉計において第1光カプラ121と第2光カプラ122との間で、第2光導波路112の一部区間112Bのクラッドの屈折率の温度依存性は、第1光導波路111および第2光導波路112の他の光導波路部分112A,112Cと異なる。このような光導波路型デバイス10は、好適には、第2光導波路112の一部区間112Bを除く部分については、石英ガラスを主成分として、各々のコアに屈折率上昇材(例えばGeO)が添加されたものである。一方、第2光導波路112の一部区間112Bのオーバークラッドは樹脂からなるのが好適である。
【0018】
図3は、本実施形態に係る光導波路型デバイス10における各所の光導波路の断面図である。同図(a)は、第2光導波路112の一部区間112Bを除く各所の光導波路(代表例として第1光導波路111)の断面図を示す。この図に示されるように、基板100の上に矩形断面のコアが形成され、これらの上にオーバークラッド130が形成されて、光導波路が構成されている。これら各領域は石英ガラスを主成分とする。
【0019】
同図(b)は、第2光導波路112の一部区間112Bの断面図(図2中のA−A’断面)を示す。この図に示されるように、基板100の上に矩形断面のコアが形成され、これらの上にオーバークラッド131が形成されて、第2光導波路112の一部区間112Bが構成されている。基板100は石英ガラスを主成分する。一方、オーバークラッド131は樹脂からなる。
【0020】
次に、光導波路型デバイス10の製造方法の一例を説明する。図4は、本実施形態に係る光導波路型デバイス10の製造方法を説明する工程図である。初めに、石英ガラスからなる基板100を用意し、プラズマCVD、FHDまたはスパッタ等の方法で、コアとなるべき所定厚のGe添加石英ガラス膜110を基板100上に堆積する(同図(a))。1回目のフォトリソグラフィーとリアクティブイオンエッチングで、このGe添加石英ガラス膜110を所定幅および所定高になるように加工して、第1光導波路111および第2光導波路112それぞれのコアを形成する(同図(b))。この上に更に、プラズマCVDまたはFHDにより、所定厚のオーバークラッド130を堆積する(図4(c))。さらに、2回目のフォトリソグラフィーとリアクティブイオンエッチングで、第2光導波路112の一部区間上に、所定幅,所定長および所定深さの溝131Aを形成する(図4(d))。この溝131Aに樹脂のモノマー(液状)を満たし、紫外線照射で硬化させて樹脂クラッド131を得る(図4(e))。
【0021】
次に、本実施形態に係る温度計測装置1および光導波路型デバイス10の具体的構成および動作の一例について説明する。基板100およびオーバークラッド130それぞれは石英ガラスからなる。第1光導波路111および第2光導波路112それぞれのコアは、Geが添加された石英ガラスからなる。第2光導波路112の一部区間112Bのオーバークラッド131は樹脂からなる。
【0022】
純石英ガラスの屈折率は1.444である。Ge添加石英ガラスコアの屈折率は1.447である。オーバークラッド131の樹脂の屈折率は1.45である。なお、これらの屈折率は、何れも、温度25℃で波長1.55μmにおける値である。Ge添加石英ガラスおよび石英ガラスそれぞれの屈折率の温度依存性は8×10−6℃である。オーバークラッド131の樹脂の屈折率の温度依存性は−0.0002/℃である。
【0023】
光導波路111,112それぞれのコアの断面形状は、7.5μm×7.5μmの正方形である。光導波路111,112それぞれの曲線部分の最小曲率半径は2.5mmである。光カプラ121,122ぞれぞれの波長1.55μmにおける分岐比は1:1である。第1光カプラ121と第2光カプラ122との間における第1光導波路111および第2光導波路112それぞれの直線部分の長さは5mmである。第2光導波路112の一部区間112Bの長さは0.5mmまたは5mmである。
【0024】
このように構成される光導波路型デバイス10を用いて、図1に示されるような温度計測装置1を構成する。光源部20は、波長1.55μmのレーザ光を出力する半導体レーザ素子を含む。また、検出部30は受光素子としてフォトダイオードを含む。
【0025】
光源部20から出力された波長1.55μmのレーザ光は、光ファイバ51により導かれて光導波路型デバイス10の第1光導波路111の入射端に入射する。光導波路型デバイス10の第1光導波路111の入射端に入射した光は、マッハツェンダ干渉計を経て、第1光導波路111の出射端および第2光導波路112の出射端それぞれから出力される。第1光導波路111の出射端から出力された光は、光ファイバ61により導かれて、検出部30によりパワーが検出される。第2光導波路112の出射端から出力された光は、光ファイバ62により導かれて、検出部30によりパワーが検出される。
【0026】
そして、解析部40により、第1光導波路111の入射端に入射された光のパワーP1,in、第1光導波路111の出射端から出射された光のパワーP1,out、および、第2光導波路112の出射端から出射された光のパワーP2,outに基づいて、第1光導波路111の入射端から第1光導波路111の出射端までの光の透過損失α、および、第1光導波路111の入射端から第2光導波路112の出射端までの光の透過損失α、が求められ、さらに、これら透過損失α,αに基づいて光導波路型デバイス10の温度が求められる。
【0027】
図5は、本実施形態に係る光導波路型デバイス10における透過損失α,αそれぞれの温度依存性を示すグラフである。ここでは、第2光導波路112の一部区間112Bの長さは0.5mmである。なお、この関係は、あらかじめ温度のわかった炉などを用いて測定しておく。温度を測定したい場所に光導波路型デバイス10を設置して温度計測を行う。この場所の温度が50℃〜80℃の範囲にあることは、他の簡易な温度計によってわかっている。例えば、透過損失αが8.82dBであって透過損失αが0.72dBであるとき、温度が66.5℃であることがわかる。
【0028】
図6は、本実施形態に係る光導波路型デバイス10における透過損失α,αそれぞれの温度依存性を示すグラフである。ここでは、第2光導波路112の一部区間112Bの長さは5mmである。なお、この関係も、あらかじめ温度のわかった炉などを用いて測定しておく。温度を測定したい場所に光導波路型デバイス10を設置して温度計測を行う。この場所の温度が50℃〜80℃の範囲にあることは、他の簡易な温度計によってわかっている。例えば、透過損失αが2.86dBであって透過損失αが3.35dBであるとき、温度が59.9℃であることがわかる。
【0029】
光ファイバ51,61,62に、局所的な曲げなどによって過剰な損失が加わったとき、前述のごとく、出力光パワーP1,out,P2,outともに略同じだけの損失が加わり、図5の二つ透過損失α,αの曲線が上側に同じ損失量だけシフトする。しかし、透過損失α,αの曲線の傾きや損失差は変化しない。二つの透過損失α,αを測定しているので、このシフトは容易に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態に係る温度計測装置1の構成図である。
【図2】本実施形態に係る光導波路型デバイス10の平面図である。
【図3】本実施形態に係る光導波路型デバイス10における各所の光導波路の断面図である。
【図4】本実施形態に係る光導波路型デバイス10の製造方法を説明する工程図である。
【図5】本実施形態に係る光導波路型デバイス10における透過損失α,αそれぞれの温度依存性を示すグラフである。
【図6】本実施形態に係る光導波路型デバイス10における透過損失α,αそれぞれの温度依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
1…温度計測装置、10…光導波路型デバイス、20…光源部、30…検出部、40…解析部、51…入射用光ファイバ、61,62…出射用光ファイバ、100…基板、111…第1光導波路、112…第2光導波路、121…第1光カプラ、122…第2光カプラ、130…オーバークラッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1光導波路および第2光導波路が形成され、
前記第1光導波路と前記第2光導波路とが第1光カプラおよび第2光カプラそれぞれにおいて光結合されてマッハツェンダ干渉計を構成し、
前記第1光カプラと前記第2光カプラとの間において前記第2光導波路の一部区間のクラッドの屈折率の温度依存性が他の光導波路部分と異なる、
ことを特徴とする光導波路型デバイス。
【請求項2】
前記第2光導波路の前記一部区間のクラッドが樹脂からなることを特徴とする請求項1記載の光導波路型デバイス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光導波路型デバイスと、
光を出力する光源部と、
前記光源部から出力された光を前記光導波路型デバイスの前記第1光導波路および前記第2光導波路の何れか一方の一端に入射させる入射光学系と、
前記光導波路型デバイスの前記第1光導波路および前記第2光導波路それぞれの他端から出射される光のパワーを検出する検出部と、
前記光導波路型デバイスの前記第1光導波路および前記第2光導波路それぞれの他端から前記検出部へ光を導く出射光学系と、
前記検出部による検出結果に基づいて前記光導波路型デバイスの温度を求める解析部と、
を備えることを特徴とする温度計測装置。
【請求項4】
前記入射光学系および前記出射光学系それぞれが、前記光導波路型デバイスに対して光を入出射する光ファイバを含む、ことを特徴とする請求項3記載の温度計測装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の光導波路型デバイスを用い、
前記第1光導波路および前記第2光導波路の何れか一方の一端に光を入射させて、前記マッハツェンダ干渉計を経て前記第1光導波路の他端から出射する光のパワーPを検出するとともに、前記マッハツェンダ干渉計を経て前記第2光導波路の他端から出射する光のパワーPを検出し、
これら2つの光パワーP,Pに基づいて前記光導波路型デバイスの温度を計測する、
ことを特徴とする温度計測方法。
【請求項6】
光ファイバを用いて前記光導波路型デバイスに対して光を入出射することを特徴とする請求項5記載の温度計測方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−163886(P2007−163886A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−360721(P2005−360721)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】