説明

光情報記録再生装置および光情報再生装置

【課題】 今後の光ディスクの大容量化、高速化においては多層記録が有効であるが、従来技術では記録層数の増大に伴いS/N比が不足し、このことが大容量化を制限する要因となっていた。S/N比を高めるために光ディスクに照射しない光との干渉光を検出する方式において、簡素な構成で安定に再生信号を取得することが困難であった。また、記録密度の向上が図れないことから、転送速度の向上が困難であった。
【解決手段】 2つの光束を対向させて光情報記録媒体中の同一箇所に集光させ、前記2つの光束の干渉により生じる定在波を記録する光情報記録再生装置において、2つの光束の位相差を多段階に変調して記録する。また再生時には、記録媒体からの再生光と別の再生用参照光との干渉光を再生信号として検出し、再生信号の低周波成分を用いて再生時の干渉の位相を安定化させる位相サーボ制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク装置の再生信号の高S/N化に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクは、青色半導体レーザと、高NA対物レンズを用いるブルーレイディスクの製品化に至って、光学系の分解能としてはほぼ限界に達し、さらなる大容量化に向けては、今後、記録層の多層化が有力となると考えられる。このような多層光ディスクにおいては各記録層からの検出光量がほぼ同等となる必要性から、特定の記録層からの反射率は小さくせざるを得ない。ところが光ディスクは大容量化とともにビデオなどのダビング速度の高速化の必要性から、データ転送速度の高速化も続いており、そのままでは再生信号のS/N比が十分確保できなくなりつつある。したがって今後の記録層の多層化と高速化を同時に進めていくためには、検出信号の高S/N化が必須となる。
【0003】
一方、記録層数を高める別のアプローチとして、通常のCDやDVDのような光ディスクと同じく、光を記録媒体上に回折限界近くまで集光し、対向する2つの光を同一箇所に集光することで、集光点付近での2つの光の干渉縞(定在波)を記録する方法が検討されている。(例えば非特許文献1、特許文献1参照)この方式では、面記録密度は従来の光ディスクと同程度である一方で、記録媒体に物理的な記録層を設ける必要がなく、記録層の多層化の実現が容易、多重記録が可能であって大容量化が容易であり、かつ干渉を記録する方式でありながら、ページデータホログラムのような厳しいトレランスが要求されず、実装が比較的容易であるという利点がある。しかし、この方式においても、一般に記録された干渉縞からの反射光量は従来の光ディスクに比べて非常に弱く、やはり検出信号の高S/N化が必須である。
【0004】
光ディスクの再生信号の高S/N化に関する技術は、たとえば特許文献2、特許文献3,特許文献4などに述べられている。特許文献2、特許文献3は光磁気ディスクの再生信号の高S/N化に関して、半導体レーザからの光を光ディスクに照射する前に分岐して、光ディスクに照射しない光を、光ディスクからの反射光と合波して干渉させることにより、微弱な信号の振幅を、光ディスクに照射しない光の光量を大きくすることによって増幅することを狙ったものである。光磁気ディスクの信号検出で従来用いられている偏光ビームスプリッタの透過光と反射光の差動検出では、本質的にはもとの入射偏光成分と光磁気ディスクによる偏光回転によって生じる入射偏光方向と直交する偏光成分を干渉させて、入射偏光で直交偏光成分を増幅して検出を行なうことになっている。したがって、もとの入射偏光成分を増大させれば信号を増大させることができるが、光ディスクに入射させる光強度は、データを消去したり上書きしたりしないようにするために、ある程度以下に抑える必要がある。これに対して上記従来の技術では、予め信号光と干渉させる光を分離しておいて、これをディスクに集光せずに信号光と干渉させ、信号増幅のため干渉させる光の強度を、ディスク表面の光強度と関係なく強くできるようにしているのである。これにより原理的には光強度の許す範囲で、強度を強くすればするほど、光検出器からの光電流を電圧変換するアンプのノイズに比べたS/N比を高めることができる。特許文献4ではフォトクロミック媒体を用いた光ディスクの再生信号の高S/N化に関し,特許文献2,特許文献3と同様に,光ディスクに照射しない光を,光ディスクからの反射光と干渉させることによって信号増幅を狙っている。フォトクロミック媒体を用いた光ディスクについても,信号再生のため入射光強度が高い程媒体の劣化を早めるため,上記光磁気ディスクと同様に記録媒体に照射する光の強度に制限を伴う。
【0005】
特許文献2では、2つの光を干渉させて干渉光強度を検出している。この際、干渉させるディスク反射光の光路長を可変とし、干渉信号振幅の確保を狙っている。特許文献3,特許文献4,特許文献5では干渉光強度検出に加えて、差動検出も行っている。これにより信号に寄与しない各光の強度成分をキャンセルし、信号振幅を2倍にすることで高S/N化を図っている。
【0006】
一般に、2つの光の干渉により得られる干渉信号は、干渉させる二つの光の間の位相差(光路長差)に依存する。これに対し、特許文献2では光路中に挿入された三角プリズムを入射光軸方向に可動とすることで光路長差の安定化を図っている。同様に、特許文献5では干渉光学系全体を光ディスクに追従させることで、光ディスクの回転に伴う面ぶれにより発生する光路長差をキャンセルすることを図っている。また、光ディスクに当てない光を反射するミラーの位置を光軸方向に可動とすることで光路長差の安定化を図っている。特許文献6では互いに干渉状態の異なる複数の干渉信号を生成し、それらの演算により信号を生成することで、上記位相差に依存しない増幅信号を出力することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−220206号公報(対応EP1986187A)
【特許文献2】特開平5−342678号公報
【特許文献3】特開平6−223433号公報
【特許文献4】特開平6−068470号公報
【特許文献5】特開2007-317284号公報
【特許文献6】特開2008−65961号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】R.R. Mcleod et al., “Microholographic multilayer optical disk data storage,” Appl, Opt., Vol. 44, 2005, pp.3197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術において、干渉信号を安定に保つには、現在の光ディスクの面ぶれ約300μmに対し、可動とする対象物を追従させ、更に信号光と参照光の位相差を固定する、すなわち光源の波長よりも十分小さい数nm程度の精度で光路長差を制御する必要がある。特許文献5ではディスクに光を集光するための対物レンズを駆動するフォーカスエラー信号を用いて、ヘッド全体もしくは参照光を反射するミラーを可動とし、信号光と参照光の光路長差を制御している。しかし、通常のフォーカスエラー信号においては光路長差のずれに対する感度が低く、所望の精度で光路長差を制御することは一般に困難である。
【0010】
これに対し、特許文献6では光路長差に依存しない出力を得る方法を採っているため上記の問題は発生しないが、検出する干渉光の数が増えることにより光学系構成が複雑になる。さらに、光路長差に依存しない出力を得るためには、光学系の各種パラメータに高い精度が要求され、光学系の構築が非常に困難になる。また、光路長差に依存しない出力を得るための信号処理過程において非線形演算などの複雑な演算処理が要求されるため、信号処理回路への負担が大きくなる。また、複数の干渉信号から光路長差に依存しない信号を出力するため、各干渉信号に混入する熱雑音が加算されてノイズが増加したり、演算処理の不完全性によりノイズが混入したりすることにより、上記演算処理が信号品質を劣化させる要因になる。
また、上記の多層記録方式において記録データの面記録密度の向上については特に検討されていない。このため、データ転送速度がディスクの回転速度の限界により制限されてしまう。
【0011】
上記問題に鑑み、本発明の第一の目的は、高いS/N比と高い転送速度で再生が可能で、構成が簡易な、光情報記録再生装置を提供することである。
本発明の第二の目的は、高いS/N比と高い転送速度で再生が可能で、構成が簡易な、光情報再生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の目的を達成するために以下の手段を用いた。
(1)2つの光束を対向させて光情報記録媒体中のほぼ同一箇所に集光させ、前記2つの光束の干渉により生じる定在波を記録する光情報記録再生装置で、記録時には、前記2つの光束の少なくとも一方の電場複素振幅を変調し、前記2つの光束の、前記集光される箇所における光路長差を調整し、再生時には、前記光情報記録媒体に前記2つの光束のいずれか一方を照射することによって生成される再生光を、光源から生成される再生用参照光と干渉させ、互いに干渉の位相が略180度異なる2つの干渉光を同時に生成し、前記再生光と前記再生用参照光の光路長差の調整を行い、前記再生光の変調による電場を平均化した平均電場と前記再生用参照光の電場の位相差の調整を行い、前記2つの干渉光の強度差を検出することとした。
これにより、光情報記録媒体からの再生信号を高いS/N比で再生することが可能となり、かつ簡素な構成で再生信号を安定に保つことができる。
なお、ここで、2つの光束を対向させて媒体のほぼ同一箇所に集光させるが、光の強度分布の中心が完全に一致する必要はなく、2つの光束の干渉が生じる程度であれば良い。
【0013】
(2)別の手段として、上記電場複素振幅の変調は3段階以上であるとした。
これにより、記録容量と同時にデータ転送速度を向上することが可能になる。
【0014】
(3)別の手段として、前記電場複素振幅変調器により変調された光束の電場の平均が、ゼロでなく、かつ変調後の各電場の少なくとも1つと位相が異なることとした。
これにより、再生信号から簡易に出力安定化のための制御信号をえることができる。
【0015】
(4)別の手段として、前記電場複素振幅変調器が、データ記録用の変調とサーボ制御信号記録用の変調を交互に繰り返し、かつ前記位相調整手段が、前記サーボ制御用信号記録用の変調により記録されたサーボ制御信号の再生信号により前記位相差を調整する位相調整手段であることとした。
これにより、再生時の位相の変動が速い場合にも安定に再生信号を得ることができる。
【0016】
(5)別の手段として、前記電場複素振幅変調手段が単一の位相変調手段であることとした。
これにより簡素な構成で記録時の変調を行うことが可能になる。
【0017】
(6)別の手段として、記録時の光路長調整と、再生時の光路長調整とを、同一の光路長調整手段で行うこととした。
これにより、装置構成を簡素にすることができる。
【0018】
(7)別の手段として、前記位相変調手段による位相変調の範囲がπラジアンであるとした。
これにより、再生信号のダイナミックレンジを最大にすることができ、最も効率的に変調を行うことが可能である。
【0019】
(8)別の手段として、前記位相変調手段による位相変調の範囲がπラジアン未満であることとした。
これにより、位相調整素子の変調速度を高く、駆動電圧を低く設定したまま効率的にデータの記録・再生を行うことが可能である。
【0020】
本発明の第二の目的を達成するために以下の手段を用いた。
(9)光源と、光源から出射される光束を第一の光束と第二の光束に分割する分割手段と、光情報記録媒体に前記第一の光束を集光して照射することにより得られる戻り光を、前記第二の光束と合波し、前記戻り光と前記第二の光束の位相差が互いに180度異なる2つの干渉光束を生成する干渉光学系と、前記2つの干渉光束の強度差を検出する検出器と、前記戻り光と前記第二の光束の光路長差を調整する光路長調整手段を備える光情報再生装置で、前記戻り光と前記第二の光束の位相差を調整する位相調整手段を備え、前記検出器の出力信号により前記位相調整手段を調整する位相制御機構を備えることとした。
これにより、光情報記録媒体からの再生信号を高いS/N比で再生することが可能となり、かつ簡素な構成で再生信号を安定に保つことができる。
【0021】
(10)別の手段として、前記位相調整手段は、前記戻り光の、前記光情報記録媒体により変調された光電場の平均の電場と、前記第二の光束の光電場の位相差に基づき前記位相差を調整する位相調整手段であることとした。
これにより、再生信号から簡易に出力安定化のための制御信号を得ることができる。
【0022】
(11)別の手段として、前記位相調整手段は、前記検出器出力に所定の間隔で含まれる位相サーボ制御用の信号により前記位相差を調整する位相調整手段であることとした。
これにより、再生時の位相の変動が速い場合にも安定に再生信号を得ることができる。
【0023】
なお、記録装置としては、(12)2つの光束の位相差を多段階に変調して記録する手段を有することとした。これにより、記録密度の向上を達成できるので、転送速度の向上も見込まれることとなる。
【発明の効果】
【0024】
信号のS/N比改善効果が高く、出力が安定で、構成が簡素な、光情報記録再生装置を提供することができる。またさらに、記録信号の多値化が容易で、大容量で転送速度が高速な光情報記録再生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の基本的な実施形態
【図2】対向する2つの光束により定在波が生成されることを説明する図。
【図3】定在波による位相記録の原理を説明する図。
【図4】光源の発光パターンと、位相変調の関係を示す図
【図5】信号光、参照光、サーボ光の記録媒体中の状態を示す図
【図6】記録された定在波の位置によって再生光の位相が変調されることを説明する図。
【図7】電流差動型の差動検出器の構成を示す図
【図8】再生光の電場複素振幅を表す図
【図9】再生信号のシミュレーション結果を表す図
【図10】参照光の記録媒体からの透過光を信号光として使用する別の実施形態の構成図
【図11】信号光の電場複素振幅を変調する場合の電場複素振幅分布を表す図
【図12】位相変調がπ未満である場合の再生光の電場複素振幅分布を表す図
【図13】サンプルサーボ方式によって位相サーボ制御を行う場合の記録方法を説明する図
【図14】サンプルサーボ方式によって位相サーボ制御を行う場合の再生光の電場複素振幅分布を表す図
【図15】本発明の光情報再生装置の構成図
【図16】ROMディスクを再生する場合の再生光の電場複素振幅分布を表す図。
【図17】サンプルサーボ方式によって位相サーボ制御を行う場合のROMディスクの記録形態を表す図。
【図18】サンプルサーボ方式によって位相サーボ制御を行う場合のROMディスクの再生光の電場複素振幅分布を表す図
【図19】3値の位相変調の場合の電場複素振幅分布を表す図
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0026】
以下、図1を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0027】
図1は本発明の基本的な実施形態である。まず記録時の動作について説明する。マイクロプロセッサ101からの指示により、ドライバ102は半導体レーザ103に対して後述するドライバ104による信号変調と同期したパルス状の駆動を行い、半導体レーザ102をパルス発光させる。この光束はコリメートレンズ105によって平行光となり、λ/2板106を透過した後に偏光ビームスプリッタ107に入射する。偏光ビームスプリッタ107は分離面に入射するp偏光をほぼ100%透過し、s偏光をほぼ100%反射させる機能を有している。半導体レーザからの光束の偏光状態はp偏光となっており、また記録時にはλ/2板106の光学軸の方向は水平面に対して0度に設定されており、偏光ビームスプリッタ107においてすべての光束が透過する。次に、この光束はλ/2板108を通過した後に偏光ビームスプリッタ109に入射する。ここで記録時にはλ/2板108の光学軸方向は水平面に対して22.5度に設定されており、光束が45度方向の偏光となって偏光ビームスプリッタ109に入射し、光束のp偏光成分が透過、s偏光成分が反射する。この透過光(以後、信号光と呼ぶ)、反射光(以後、参照光と呼ぶ)が記録に用いられる。
【0028】
信号光はλ/2板110によってs偏光とされた後に、位相変調器111を通過し、前記半導体レーザ103のパルス発光と同期して位相が変調される。次に信号光は偏光ビームスプリッタ112を反射し、λ/4板113によって右回り円偏光となり、リレーレンズ114を通過し、ガルバノミラー115で反射して対物レンズ116によって記録媒体117の中に集光される。
【0029】
位相変調器111はマイクロプロセッサ101から送られたユーザデータが符号化回路118によって多値データとして符号化され、これがドライバ104に送られて位相変調器111における変調信号となる。本実施例では8値の変調とし、位相変調器111によって信号に加えられる位相は0、0.77、1.13、1.43、1.71、2.01、2.37、π(単位はラジアン)の8種類である。さらに、各位相値は等しい割合で使用されるように変調される。
【0030】
参照光はリレーレンズ120を通過し、偏光ビームスプリッタ801を反射して可動部に搭載されたミラー802によって反対方向に反射され、再び偏光ビームスプリッタ801に入射する。その際、λ/4板803を往復で通過するために偏光状態はp偏光となり、偏光ビームスプリッタ801を透過する。その後、λ/4板119によって右円偏光となった後、ダイクロイックミラー121を透過して対物レンズ122によって記録媒体117の中に集光される。
【0031】
信号光と参照光は記録媒体117において同一の場所に集光される。すると、図2に示すように光の進行方向が正反対である信号光、参照光の干渉により光強度分布において定在波(干渉縞)が発生する。信号光、参照光は集光点付近においてパワー密度が急激に高くなるため、図2に示すように定在波が実質的に集光点の近傍に局在するような状態となる。記録媒体117はこの定在波の各位置における強度の大小に応じて屈折率変化を生じ、干渉縞のパターンが媒体の屈折率変化として記録される。
【0032】
ここで、本発明の位相状態の記録の原理について述べる。上記の干渉縞について、例えば強度0となる位置(すなわち定在波の節の位置)は、信号光、参照光の光路長差(すなわち位相差)によって決まる。従って、位相変調器111によって信号光の位相(光路長)が変化すると、これに応じて図3のように干渉縞の分布が光の進行方向にシフトする。(より正確には、信号光、参照光のパワー密度に起因する包絡線は変化せずに、干渉縞の位相のみがシフトする)すなわち、信号光に与えた位相変調の量が、記録媒体の屈折率分布の、光の進行方向の位置として記録される。
【0033】
このことをより深く理解するために、数式を用いて説明する。信号光、参照光は、集光点の近傍ではほぼ平面波とみなせるため、それぞれの電場が
【0034】
【数1】

【0035】
【数2】

【0036】
のように表される。但しIは信号光、参照光の強度(信号光、参照光の強度は等しいと仮定)、λは光の波長、nは記録媒体の屈折率、xは光の進行方向の座標、cは光速、tは時刻である。
【0037】
これらの重ね合わせによって生じる、干渉光の強度は
【0038】
【数3】

【0039】
と表される式中に時間tを含まないことから、干渉光の強度分布が時間によらない定在波であることを表しており、周期は半波長λ/2となる。ここで信号光の光路長をΔlだけ変調すると、干渉光の強度分布は
【0040】
【数4】

【0041】
となり、干渉縞の分布がΔl/2シフトする。従って、信号光の光路長(位相)の変調が、干渉縞の強度分布のシフトという形で現れ、これが媒体の屈折率分布として記録される。ここで重要なことは、変調される光路長(位相)と記録される縞のシフト量とが、厳密に線型な関係になっており、その比例係数は記録媒体や光学系によらないということである。特許文献2などの従来の多値記録方式では、光強度などの変調レベルに対する記録媒体の応答が線型でない、もしくは比例係数が媒体や光学系に依存するために、精度良く多値レベルを記録することが難しかった。これに対して本発明の方式においては、上記のごとく変調量が極めて精度良く記録状態に反映されるため、簡易で高精度な記録が可能となり、その結果容易に多値度を高めることができる。
【0042】
ここで、発光パルスと位相変調器111の変調について詳しく述べる。1つの位相変調信号を記録媒体に記録する間、変調位相は一定値であることが望ましい。そうでなければ1箇所に複数異なる位相の干渉縞が記録されることになり、再生信号レベルの低下や再生信号の誤差を生じる原因となる。このため、図4のごとく、光源が発光状態である間に位相変調器の変調位相を固定し、発光していない状態のときに次の変調位相へと切り替えればよい。
【0043】
さて、図1に戻り、安定して記録動作を行うためのサーボ機構について説明する。半導体レーザ123は半導体レーザ103と異なる波長で発振する半導体レーザであり、マイクロプロセッサ101からの指示によりドライバ124によって駆動され、p偏光の光束を出射する。(以後、この光束をサーボ光と呼ぶ。)本実施例では光源103の波長が405nm、光源123の波長が650nmとした。光源103から出射された光束はコリメータ125を通過して平行光となった後、偏光ビームスプリッタ126とλ/4板127を通過し、右円偏光となってダイクロイックミラーに121入射する。ダイクロイックミラー121は波長405nmの光を反射し、650nmの光を反射する性質があり、これにより参照光とサーボ光が同軸とされる。サーボ光は、対物レンズ122によって記録媒体中117に形成されているサーボ面に集光される。(図5を参照のこと。)サーボ面は記録型のCD,DVDなどと同じようにグルーブ(溝)が形成されており、サーボ面からの反射光を4分割ディテクタ128によって検出し、対物レンズアクチュエータにサーボ信号をフィードバックすることで、フォーカスサーボ、トラックサーボを行うことができる。本実施例ではフォーカスサーボとして非点収差法を、トラックサーボとしてプッシュプル法を採用した。このとき、参照光はサーボ光と同軸になっているため、記録媒体上での集光点の相対位置が保たれる。従って、リレーレンズ114,120を適切に設定し、サーボ面に対して一定の距離の平面内に干渉縞を記録することができる。また、リレーレンズを構成する一方のレンズを光軸方向に動かすことにより、参照光の集光点の光軸方向の位置が変わる。これにより、一様な記録媒体中に多層記録を行うことができる。なお、リレーレンズ114,129は各設定において記録媒体で発生する球面収差をキャンセルし、回折限界の集光が行われるように設計されている。
【0044】
また、4分割ディテクタ128から出力されるサーボ信号のうちフォーカスエラー信号は、ミラー802が搭載された可動部も併せて駆動する。これにより、光ディスク117の面ぶれ発生時にも干渉縞が記録される集光部分において信号光と参照光の光路長が同程度になるように調整する。より具体的には、対物レンズ122と等しい量だけ駆動される。この調整を行うのは2つの理由による。1つは信号光と参照光が集光部分において十分なコヒーレンスを有するためであり、ミラー802を可動とすることで信号光と参照光の集光部分における光路長差を光源のコヒーレンス長以内に設定することができる。もう1つの理由は後述する位相サーボ制御を適切に行うためであり、信号光と参照光の集光部分における光路長差を位相サーボ制御に用いられるピエゾ素子147のストローク以内に収める役割がある。このため、ミラー802の駆動による光路長差の調整精度は光源(半導体レーザ103)のコヒーレンス長と、位相サーボ制御に用いる光路長調整素子(ピエゾ素子145)のストロークのいずれよりも十分小さい値とすべきであり。本実施例では半導体レーザ103のコヒーレンス長は100μm程度であり、ピエゾ素子145のストロークは10μm程度であるため、調整精度は5μm程度になるよう設計されている。なお、ミラーの位置調整にあたり、記録層の厚さ方向の位置に応じても光路長が変化するため、記録層の位置に応じてミラーの位置をオフセットさせる。(再生時にも同様の動作を行う。)
なお、本実施例では信号光、参照光生成のための半導体レーザ103とは別個にサーボ光生成のための光源123を用いたが、これは本発明において必須の構成ではなく、例えば同一光源から信号光、参照光、サーボ光を生成してもよい。
【0045】
一方、信号光は記録媒体117中で参照光と同一の集光点に集光される必要がある。このため、記録媒体117を透過した参照光を用いてサーボ駆動を行う。具体的には、記録媒体117を通過した参照光を4分割ディテクタ129によって検出し、非点収差法によって対物レンズ116の光軸方向位置を制御し、ラジアル方向のプッシュプル法によって対物レンズ116のラジアル方向位置を制御し、タンジェンシャル方向のプッシュプル法によってガルバノミラー115のタンジェンシャル方向の角度を制御する。これにより、参照光と信号光の光束を完全に一致(進行方向のみ逆)させることができ、信号光の集光点を参照光の集光点と一致させることで効果的に定在波を発生させる。
【0046】
次に、再生時の動作について説明する。半導体レーザ103はDC発光し、λ/2板106を通過して偏光ビームスプリッタ107に入射する。ここで再生時にはλ/2板106は光学軸方向が水平方向に対して22.5度に設定されており、45度偏光となった光束のp成分が偏光ビームスプリッタ107を反射し、s成分が透過する。透過光はλ/2板108を通過して偏光ビームスプリッタ109に入射するが、再生時にはλ/2板108は光学軸方向が水平方向に対して45度に設定されており、光束はs偏光となって偏光ビームスプリッタ109において全反射する。すなわち、記録時に信号光と呼ばれていた光束は生成されず、参照光のみが生成される。参照光は記録時と同じ光路を辿り、記録時と同様に半導体レーザ123の光束によってサーボ制御された対物レンズ122よって記録媒体117中に集光される。ここでもリレーレンズ120を適切に設定することで、所定の記録層上に参照光を集光させる。
【0047】
ここで、記録時に定在波が記録媒体117の屈折率変化として記録された場所に参照光が照射されると、周期的な屈折率変化によって反射光が生成される。そして記録されている干渉縞の光軸方向の位置によって、異なった位相で反射光が生成される。このことは次のようにして理解される。例えば、図6のように反射体である屈折率変化の分布が遠ざかれば、一般的なミラーでの反射と同じく遠ざかった距離の2倍の光路長が加わる。ここで既に述べたように、記録時に位相変調器で信号光に加えた光路長(位相)の半分の距離が定在波分布のシフトとなっていたため、再生時にはこのシフト量の2倍、すなわち位相変調器111で信号光に加えた位相と等しい量の位相が、反射光に与えられることになる。従って、この反射光は、記録時の信号光と同じ位相で出射されることになる。以後、この反射光を再生光と呼ぶ。
【0048】
上記再生光は、参照光の光路を逆向きに進み、ダイクロイックミラー121を通過した後にλ/4板119によってs偏光となって偏光ビームスプリッタ801を反射し、ミラー148によって光路が折り返され、λ/4板149を往復で通過することによってp偏光となって偏光ビームスプリッタ801、109、130を透過する。一方、偏光ビームスプリッタ107を反射したs偏光の光束(この光束を再生用参照光と呼ぶ)は、偏光ビームスプリッタ130を反射し、再生光と同軸になる。
【0049】
再生光と再生用参照光は、互いに偏光が直交した状態で検出光学系131に入射する。この入射した光束は光学軸が水平方向に対して22.5度に設定されたλ/2板133を通過して偏光が45度回転し、ウォラストンプリズム134によってp偏光成分とs偏光成分に分離される。分離された光束145,146は差動検出器135の2つのフォトダイオード136,137にそれぞれ入射し、強度の差に比例した電気信号が差動検出器135から出力される。後で述べるように、ウォラストンプリズム139で分離された後の光束は再生光と再生用参照光とが干渉した干渉光であり、差動検出器135の出力は干渉成分を抽出したものになっている。
【0050】
差動検出器135の詳細は図7のようになっており、2つのフォトダイオード136,137がそれぞれ干渉光を受光して発生する光電流の差がトランスインピーダンスアンプ701に入力され、電圧に変換されて出力される。従って、光束145,146の強度差に比例した出力電圧が出力されている。
【0051】
差動検出器135の出力はデジタル信号処理回路141に送られ、ここで記録されていた位相値に対応した再生信号が得られる。再生信号は複号回路143に送られてユーザデータに変換され、マイクロプロセッサ101を通して上位装置144に送られる。
【0052】
差動検出器135はまた、ローパスフィルタ150を通過して高周波の再生信号成分が取り除かれた後、再生用参照光を反射するミラー151が搭載されたピエゾ素子147の駆動電圧として使用される。後述するように、これによって再生光と再生用参照光が干渉するときの(再生信号成分を除いた)平均的な位相関係が一定に保たれ、安定な信号出力が得られる。(以後、このサーボ制御を位相サーボ制御と呼ぶ。)
ここで、検出光学系131で干渉光が生成され、これによって記録情報を再生する原理について述べる。検出光学系131に入射する光束は、p偏光成分として再生光を、s偏光成分として再生用参照光を含んでいるため、この偏光状態をジョーンズベクトルで表すと
【0053】
【数5】

【0054】
となる。ここでEsは再生光の電場、Er再生用参照光の電場である。また、このベクトルの第一成分はp偏光を、第二成分はs偏光を表す。この光束がλ/2板133を通過した後のジョーンズベクトルは
【0055】
【数6】

【0056】
となる。次にウォラストンプリズム134によってp偏光成分とs偏光成分に分離されるため、分離された光束の電場はそれぞれ
【0057】
【数7】

【0058】
【数8】

【0059】
となり、再生光と再生用参照光の重ね合わせ、すなわち干渉光となっている。これら分離された光束145,146の強度はそれぞれ、
【0060】
【数9】

【0061】
【数10】

【0062】
となり、それぞれ第1項、第2項が再生光、再生用参照光の強度成分を表し、第3項が再生光と再生用参照光の干渉を表す項である。Δφは再生用参照光の位相を基準とした再生光の位相であり、変調位相に一致する。差動検出器135の出力はこれらの分岐光の強度の差分に比例するため
【0063】
【数11】

【0064】
と表され、上記の干渉を表す項に比例した出力となっている。ηは検出器の変換効率である。ここで、Δφは上述のように8値に変調されており、変調位相に応じて−|EsEr|から|EsEr|の間の8種類の値が出力される。(本実施例では特にこれらの出力レベルの差が等間隔となるように位相変調を施した、すなわち出力レベルは−|EsEr|、−5|EsEr|/7、−3|EsEr|/7、−|EsEr|/7、|EsEr|/7、3|EsEr|/7、5|EsEr|/7、|EsEr|、の8種類である。)すなわち、差動検出器135の出力レベルが、記録された位相に対応した再生信号となっている。
【0065】
次に、位相サーボ制御により出力信号が安定化する原理について説明する。数16のΔφは、実際は変調位相以外の成分を含んでおり、正確には
【0066】
【数12】

【0067】
と表される。ここでφsは位相変調器111で変調された位相、φr1は記録された時点における信号光と参照光の光路長差(位相変調分は除く)に対応する位相差、φr2は再生時における再生光と再生用参照光の光路長差(位相変調分は除く)に対応する位相差、である。φr1、φr2はそれぞれ、記録時、再生時におけるミラー802による光路長制御の残差(本実施例ではそれぞれ5μm以内程度)によって発生する。そして、これらは時刻とともに変動し、変動速度は数10kHz〜数100kHz程度である。これに対し、本実施例のごとく回折限界近くまで集光して記録されたデータの再生速度は面ぶれよりも十分速い(数10MHz〜数100MHz程度)。ここで、ローパスフィルタ150で通過させる周波数を面ぶれと同程度に設定すると、信号変調による位相変化が平均化されて、面ぶれによる位相変化のみが反映された信号がピエゾ素子147に駆動される。この信号は、平均化された再生光電場
【0068】
【数13】

【0069】
(φnは8種類の変調位相それぞれの値)を検出したときの信号と考えることができ、
【0070】
【数14】

【0071】
のように表される。従って、この信号を位相の誤差信号とし、これがゼロとなるようにピエゾ素子を駆動してφr2を制御することにより、φr1+φr2=0、すなわち不要な位相成分をゼロに保つことが可能となる。この結果、再生信号としては信号変調の位相成分のみを含んだ出力となり、適切に再生信号を得ることができる。上記位相誤差信号は、数19からわかるように出力信号の揺らぎの原因である位相の変動を直接検出しているものであり、これを用いて光路長制御を行うことで、数nm以内程度の精度を得ることができ、安定な再生信号の出力が可能になる。
【0072】
上記の位相サーボ制御の原理をより明らかにするために、再生光電場を複素平面状に図示して説明する。まず、再生光に不要な位相成分(φr1+φr2)が含まれない理想的な場合の再生光の電場は、図8(a)のように、同心円状の位相0〜πの間に8つ配置された形になる。差動検出器135の出力信号は数16から明らかなようにこれらの電場の実部成分であり、変調位相に対応した電圧レベルが出力される。これに対し、不要な位相成分φr1+φr2が含まれている場合は、図8(b)のようにそれぞれの電場がφr1+φr2だけ回転し、差動検出器の出力信号に誤差が生じ、適切な再生信号が得られなくなる。ここで、このときの再生光の平均電場は図中に示すように位相90度の方向からφr1+φr2だけ回転した方向を向いており、その実部成分(ローパスフィルタ150の出力に対応)はφr1+φr2が正の値のときは正の値を、φr1+φr2が負の値のときは負の値となる。
従って、ピエゾ素子に正の電圧を加えるとφr2が減少し、負の電圧を加えるとφr2が増加するように制御することで、平均電場の実部成分を0に保つことができ、理想的な図8(a)の状態を維持することが可能となる。
【0073】
本実施例において、記録時の位相変調は0からπの範囲で行ったが、これは出力信号のS/N比を最大にするためである。差動検出器135の出力の範囲は上述のように−|EsEr|から|EsEr|の範囲であり、位相変調の範囲を0からπに設定することでこの出力範囲をすべて再生信号レベルとして用いることができる。逆に、位相変調範囲がこれ以上大きい場合も出力信号レベルの範囲は同等であり、S/N比が向上することはない。位相変調器による変調位相量は少ないほど駆動電圧や変調速度の面で有利となるため、0からπの範囲で変調することが最も効率的であるといえる。
【0074】
図9(a)は本実施例の再生信号アイパターンのシミュレーション結果である。変調位相0の時の出力信号レベル(本結果では1V)に対するS/N比を30dBとした。本結果においては変調位相に応じて−1から1の範囲で(等間隔に)8値の変調がなされ、それぞれのレベルが十分に識別可能である。これに対して位相サーボを駆動しない状態における再生信号アイパターンを図9(b)に示す。この場合は再生光と再生用参照光の間の位相がランダムに変化するため、出力レベルも連続的に変化し、位相変調に対応した出力レベルの違いを識別することが困難である。
【0075】
なお、本実施例では記録時に、半導体レーザ103からの光束を分岐して信号光、参照光を生成して記録媒体の反対側から入射する構成としたが、信号光、参照光の生成方法や、それらの入射方法はこの限りではない。たとえば図10のように、記録媒体に最初に入射する光束を参照光とし、記録媒体を透過した参照光を信号光としてもよい。この場合、信号光はミラー2301で反射して同じ光路を逆に辿り、再び記録媒体に入射して参照光と干渉する。位相変調器111は記録媒体とミラー2301の間に挿入すればよい。本構成における光路長調整として、記録時には信号光を反射するミラー2301を、再生時には再生用参照光を反射するミラー2302を、それぞれフォーカスサーボ信号を用い駆動する。また、特許文献8のごとく、信号光と参照光を同軸にして同一方向から記録媒体に入射し、一方の光を記録媒体の裏面に構成されるミラー面で片方の光束を反射させ、同一の集光点に反対方向から集光させる構成としてもよい。
【0076】
本実施例は信号変調として位相変調のみを扱ったが、本発明は、より一般に、信号光の電場複素振幅の変調を行い、再生光の平均電場が0でないような変調を行えば同様の効果を得ることができる。電場複素振幅の変調は、信号光の位相と強度を同時に変調することで実現できる。本実施例においては、信号光路中の位相変調器111の前後に強度変調器を配置するか、或いは位相変調器を駆動すると同時に半導体レーザ103の発光パワーを制御すればよい。図11は例として、位相を0、π/3、2π/3、πの4値で変調し、位相π/3、2π/3のときには強度変調として、位相0、πの時に比較して半分の強度にする場合の信号光電場である。このような場合にも平均電場は上記実施例の場合と同じ位相を有するため、位相サーボ制御が可能である。
【0077】
なお、本実施例では位相変調として8値の変調を行ったが、原理的には2値以上の任意の多値数での変調であっても構わない。特に本実施例のごとく3値以上とすることで、一般的な2値変調の光ディスクに比べて高密度で記録でき、かつデータ転送速度を高めることができる。3値変調の場合は、例えば図19のように変調位相を0、π/2、πとすることで実現できる。
【実施例2】
【0078】
本実施例は実施例1に対し、位相変調量の範囲がπよりも小さい場合である。本実施例の変調位相は0、π/6、π/3、π/2の4種類であり、変調された光の電場は図12(a)のように表される。ここで、再生時に位相サーボ制御を行った時の再生光電場は図12(b)のようになり、差動検出器135から―|EsEr|/√2から|EsEr|/√2の範囲で変調位相に対応した4種類のレベルを出力される。このように、位相変調器の位相調整可能範囲がπ未満である場合や、位相変調器の駆動電圧を小さく抑える必要がある場合、位相調整速度を高速に行う必要がある場合などにおいて、位相調整範囲をπ未満に制限しても位相サーボ駆動は可能であり、適切に再生信号を得ることが可能である。
【実施例3】
【0079】
本実施例は、位相サーボ制御としてサンプルサーボ方式を用いる場合の実施例である。この場合、記録時に一定周期でサーボ信号取得専用の情報記録を行う。このとき記録媒体には、図13に示すように所定の周期でデータ領域(図中「data」の領域)とサンプルサーボ信号領域(図中「servo」の領域)が繰り返される。このように記録された記録媒体を実施例1と同様の方法で再生され、データ領域の再生信号出力は実施例1と同じく再生信号として処理され、サンプルサーボ信号領域の再生信号出力は位相サーボ制御のための信号としてピエゾ素子に駆動される。本実施例では信号の位相変調を実施例1と同じく0、0.77、1.13、1.43、1.71、2.01、2.37、π(単位はラジアン)の8値とし、サンプルサーボ信号用の位相変調としてはπ/2の変調を行った(図14参照)。ここで、サンプルサーボ制御用の再生光電場は、実施例1の再生光の平均電場と同じ位相となっており、実施例1と同じく位相サーボ制御が可能となる。
【0080】
サンプルサーボ方式は、実施例1と異なり、電場の平均値を取得する必要がない。光路長の変動速度が信号変調の速度に比較的近い場合、実施例1の方法では平均値の統計的な揺らぎが発生して位相誤差信号が変動して再生信号が不安定になる可能性があるが、サンプルサーボ方式ではこのような場合でも安定して位相誤差信号を出力し、再生信号を安定に保つことができる。
【実施例4】
【0081】
本実施例は、本発明の光情報再生装置の一実施例である。本装置の構成は図15に示すとおりであり、実施例1の構成(図1)に対し、(記録時のみ使用する)信号光の光路が省略された形になっている。また、サーボ信号の取得方法として、実施例1ではサーボ用の光源を別に用いていたが、本実施例では再生光の一部を特殊偏光ビームスプリッタ1501で取り出し、4分割ディテクタ128で実施例1と同様にフォーカスエラー信号、トラックエラー信号を生成し、対物レンズ122とミラー802を駆動する。この特殊偏光ビームスプリッタは、p偏光を100%透過し、s偏光を90%透過、10%反射するというものであり、光源からの光束は100%透過し、記録媒体からの戻り光は一部反射する。ここでフォーカスエラー信号、トラックエラー信号の生成には記録媒体上のサーボ面を用いるのではなく、記録データによって生成されるものを用いている。本実施例では実施例1の再生時と同様の動作を行う。ただし、記録媒体は実施例1のごとく記録されたものに限らず、例えばROMディスクであっても構わない。例としてピット深さがλ/6n (nは媒体の屈折率)のROMディスクの場合について説明する。このようなROMディスクでは、周囲のスペース部に対して反射光の位相が2π/3だけ遅れるピット部の長さにより情報が記録されており、通常の光ディスク装置ではピット部の反射光とスペース部の反射光の干渉によって強度変調された戻り光を検出して情報を再生する。本実施例の再生方法は従来の方式とは異なり、実施例1と同様の原理で説明できる。スペース部からの反射光の位相を0、ピット部からの反射光の位相を−2π/3とすると、再生光の電場分布は図16(a)のように表される。ここで位相サーボ駆動を行うとこれらの電場は図16(b)のようになり、再生用参照光がスペース部に照射されているときは負の値が、ピット部に照射されているときは正の値がそれぞれ再生信号として出力される。その結果、従来と同様に再生信号を取得することができる。
【0082】
記録媒体は記録マーク部分で位相変化を生じる媒体であればよく、ライトワンス型や書換え型の媒体でも位相変化を伴う媒体であれば同様に再生可能である。
【実施例5】
【0083】
本実施例は、実施例4と同様の光情報再生装置において、サンプルサーボ方式によって位相サーボ制御を行う別の実施形態である。この場合、記録媒体としては実施例3に示した記録媒体を用いてもよく、またROMディスクであっても構わない。ROMディスクの場合は、実施例3と同様、図17のごとくデータ領域とサーボ領域が交互に繰り返されたものを用いる。ここでサーボ領域のピット深さはデータ領域のピット深さの半分となっており、スペース、データ領域のピット、サーボ領域のピットのそれぞれから反射される光電場は図18(a)のごとく表される。これによって位相サーボ制御を行った状態の再生光電場は図18(b)のように表され、実施例4と同様に再生信号の取得が可能である。(なお、このような複数種類のピット深さを有するROMディスクについては、例えば特開昭58−215735号公報などに述べられている。)
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明により、大容量と高い転送速度を両立した光情報記録再生装置の提供が可能となり、大容量ビデオレコーダや、ハードディスクデータバックアップ装置、保存情報アーカイブ装置など、幅広い産業応用が期待できる。
【符号の説明】
【0085】
101:マイクロプロセッサ、102:ドライバ、103:半導体レーザ、104:ドライバ105:コリメートレンズ、106,108,110:λ/2板、107,109,112:偏光ビームスプリッタ、111:位相変調器、113,119:λ/4板、114,120:リレーレンズ、115:ガルバノミラー、116,122:対物レンズ、117:記録媒体、118:符号化回路、121:ダイクロイックミラー、123:半導体レーザ、124:ドライバ、125:コリメートレンズ、126:偏光ビームスプリッタ、127:λ/4板、128,129:4分割ディテクタ、130:偏光ビームスプリッタ,131:検出光学系、133:λ/2板、134,139:ウォラストンプリズム、135:差動検出器、136,137:フォトディテクタ、141:信号処理部、143:復号回路、144:上位装置、145,146:干渉光、147:ピエゾ素子、148:ミラー、149:λ/4板、150:ローパスフィルタ、151:ミラー、701:トランスインピーダンスアンプ、801:偏光ビームスプリッタ、802:ミラー、803:λ/4板、1501:特殊偏光ビームスプリッタ、2301,2302:ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの光束を対向させて光情報記録媒体中のほぼ同一箇所に集光させ、前記2つの光束の干渉により生じる定在波を記録する光情報記録再生装置であって、
前記2つの光束の少なくとも一方の電場複素振幅を変調する電場複素振幅変調手段と、
前記2つの光束の、前記集光される箇所における光路長差を調整する第一の光路長調整手段と、
前記光情報記録媒体に前記2つの光束のいずれか一方を照射することによって生成される再生光を、光源から生成される再生用参照光と干渉させ、互いに干渉の位相が略180度異なる2つの干渉光を同時に生成する干渉光学系と、
前記再生光と前記再生用参照光の光路長差を調整する第二の光路長調整手段と、
前記再生光の変調による電場を平均化した平均電場と前記再生用参照光の電場の位相差を調整する位相調整手段と、
前記2つの干渉光の強度差を検出する検出器と、を備えることを特徴とする光情報記録再生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光情報記録再生装置において、前記電場複素振幅変調手段による変調が3値以上であることを特徴とする光情報記録再生装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光情報記録再生装置において、前記電場複素振幅変調手段により変調された光束の電場の平均が、ゼロでなく、かつ変調後の各電場の少なくとも1つと位相が異なることを特徴とする光情報記録再生装置。
【請求項4】
請求項1に記載の光情報記録再生装置において、前記電場複素振幅変調手段が、データ記録用の変調とサーボ制御信号記録用の変調を交互に繰り返し、かつ前記位相調整手段が、前記サーボ制御用信号記録用の変調により記録されたサーボ制御信号の再生信号により前記位相差を調整する位相調整手段であることを特徴とする光情報記録再生装置。
【請求項5】
請求項1に記載の光情報記録再生装置において、前記電場複素振幅変調手段が単一の位相変調手段であることを特徴とする光情報記録再生装置。
【請求項6】
請求項1に記載の光情報記録再生装置において、前記第一の光路長調整手段と、前記第二の光路長調整手段とが、同一の光路長調整手段であることを特徴とする光情報記録再生装置。
【請求項7】
請求項5に記載の光情報記録再生装置において、前記位相変調手段による位相変調の範囲がπラジアンであることを特徴とする光情報記録再生装置。
【請求項8】
請求項5に記載の光情報記録再生装置において、前記位相変調手段による位相変調の範囲がπラジアン未満であることを特徴とする光情報記録再生装置。
【請求項9】
光源と、
前記光源から出射される光束を第一の光束と第二の光束に分割する分割手段と、
光情報記録媒体に前記第一の光束を集光して照射することにより得られる戻り光を、前記第二の光束と合波し、前記戻り光と前記第二の光束の位相差が互いに略180度異なる2つの干渉光束を生成する干渉光学系と、
前記2つの干渉光束の強度差を検出する検出器と、
前記戻り光と前記第二の光束の光路長差を調整する光路長調整手段と、
前記戻り光と前記第二の光束の位相差を調整する位相調整手段と、
前記検出器の出力信号により前着位相調整手段を調整する位相制御機構と、を備えること特徴とする光情報再生装置。
【請求項10】
請求項9に記載の光情報再生装置において、前記位相調整手段は、前記戻り光の、前記光情報記録媒体により変調された光電場の平均の電場と、前記第二の光束の光電場の位相差に基づき前記位相差を調整する位相調整手段であることを特徴とする光情報再生装置。
【請求項11】
請求項9に記載の光情報再生装置において、前記位相調整手段は、前記検出器出力に所定の間隔で含まれる位相サーボ制御用の信号により前記位相差を調整する位相調整手段であることを特徴とする光情報再生装置。
【請求項12】
2つの光束を対向させて光情報記録媒体中のほぼ同一箇所に集光させ、前記2つの光束の干渉により生じる定在波を記録する光情報記録装置であって、
前記2つの光束の位相差を多段階に変調して記録する手段を有することを特徴とする光情報記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図3】
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【図6】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−129169(P2011−129169A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283578(P2009−283578)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【Fターム(参考)】