説明

光源装置及びそれを用いた分光光度計

【課題】硫酸アンモニウムの結晶の付着に起因する光源装置の光量低下を防止する。
【解決手段】光源装置1は、放射波長に紫外線を含んで周辺雰囲気の酸素からオゾンを発生させるランプ3と、ランプ3が配置されるランプ配置空間13,15で発生したオゾンを空間13,15から除去するために空間13,15内に風を送るためのファン11を備えている。光源装置1は、さらに、ランプ3を支持し、かつランプ3に電源を供給するためのソケット5と、ランプ3に対向して配置されたガラス部材7と、ソケット5及びガラス部材7を支持するための支持部材9を備えている。ガラス部材7のランプ3側の面はランプ配置空間15と接している。ファン11は、ガラス部材7のランプ3とは反対側の面にも風を送る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源装置及びそれを用いた分光光度計に関し、特に、放射波長に紫外線を含んで周辺雰囲気の酸素からオゾンを発生させるランプを備えた光源装置及びそれを用いた分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料中の目的の成分濃度を定量する装置として紫外可視分光光度計や紫外可視近赤外分光光度計がある。このような分光光度計には、分光した光を液体試料に照射する前分光方式のもの(例えば特許文献1を参照。)と、液体試料を透過した光を分光する後分光方式のもの(例えば特許文献2を参照。)がある。
【0003】
紫外可視分光光度計や紫外可視近赤外分光光度計において、光源として、例えばキセノンフラッシュランプや、キセノンランプ、水銀キセノンランプ、低圧水銀ランプ、重水素ランプ及びタングステンランプなどが用いられる。これらのランプは、点灯時に紫外線(UV)を放射するので、周辺雰囲気の酸素からオゾンを発生させる。
【0004】
紫外可視分光光度計や紫外可視近赤外分光光度計など、オゾンを発生させるランプを光源として使用する装置において、ランプ周辺で発生するオゾンと、装置設置環境下の周辺雰囲気に含まれるアンモニア(NH3)や二酸化硫黄(SO2)、窒素酸化物(NOx)などの化学物質が反応することによって、硫酸アンモニウム((NH42SO4)が生成することがある。
【0005】
硫酸アンモニウムの生成過程における化学反応を以下に示す。
SO2+UV光(オゾン)→SO2*
SO2*+O2→SO3
SO3+H2O→H2SO4
NH3+H2O→NH4OH
2SO4+2NH4OH→(NH42SO4+2H2
*はラジカル状態を表す。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−51767号公報
【特許文献2】特開2008−070274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ランプの周辺で硫酸アンモニウムが発生すると、ランプのガラス表面やランプ周辺に配置されたレンズ等に硫酸アンモニウムの結晶が付着して光源装置の光量が低下することがあった。
【0008】
図6は、硫酸アンモニウムの結晶の付着に起因する、従来の光源装置の光量の経時変化を示す図である。縦軸は光強度(任意単位)、横軸は時間(単位は時間)を示す。ランプはキセノンフラッシュランプである。243nm、254nm、265nm、275nm、290nmの5波長について光量の経時変化を調べた。
各波長について、硫酸アンモニウムの結晶の付着によって、時間経過とともに光強度が大幅に低下したのが分かる。
【0009】
本発明は、硫酸アンモニウムの結晶の付着に起因する光源装置の光量低下を防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる光源装置は、放射波長に紫外線を含んで周辺雰囲気の酸素からオゾンを発生させるランプを備えた光源装置であって、上記ランプが配置されるランプ配置空間で発生したオゾンを上記ランプ配置空間から除去するために上記ランプ配置空間内に風を送るためのファンを備えているものである。
ファンは、ランプ配置空間に風を送ることによって、ランプの点灯時にランプ配置空間で発生したオゾンをランプ配置空間から除去する。
【0011】
従来、光源装置として、ランプを支持し、かつランプに電源を供給するためのソケットと、ランプに対向して配置されたガラス部材と、ソケット及びガラス部材を支持するための支持部材と、を備え、ランプ配置空間は支持部材内に形成されており、ガラス部材のランプ側の面はランプ配置空間と接している構成がある。このような構成をもつ従来の光源装置において、ガラス部材の表面にも硫酸アンモニウムの結晶が付着することがあった。
【0012】
そこで、本発明の光源装置がこの構成をもつ場合、ランプ配置空間内に風を送るためのファンは、ガラス部材のランプとは反対側の面にも風を送るようにしてもよい。
ここで、ガラス部材は、レンズ機能をもつものであってもよいし、レンズ機能をもたないものであってもよい。
ファンは、ランプに対向して配置されたガラス部材のランプとは反対側の面にも風を送ることによって、ランプの点灯時にガラス部材のランプとは反対側の面で発生したオゾンをガラス部材周辺から除去する。
【0013】
上記ランプの例はキセノンフラッシュランプ又は低圧水銀ランプである。ただし、本発明の光源装置において、ランプはキセノンフラッシュランプ及び低圧水銀ランプに限定されない。ランプの他の例は、キセノンランプ、水銀キセノンランプ、低圧水銀ランプ、重水素ランプなどである。
【0014】
本発明にかかる分光光度計は、本発明の光源装置と、上記光源装置から放射された光の光路上に液体試料を配置するための試料配置部と、上記液体試料に入射する光、又は上記液体試料を透過した光を分光するための分光器と、上記液体試料を透過した光の光強度を検出するための光検出器と、を備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光源装置では、放射波長に紫外線を含んで周辺雰囲気の酸素からオゾンを発生させるランプが配置されるランプ配置空間内に風を送るためのファンを備えているようにした。ランプ配置空間内に風が送られることによって、ランプの点灯時にランプ配置空間内で発生したオゾンはランプ配置空間から除去される。
上述したように、硫酸アンモニウムの生成には、二酸化硫黄、水、オゾン(活性酸素)、アンモニアが必要である。
本発明の光源装置では、ランプの点灯時にランプ配置空間内で発生したオゾンはランプ配置空間から除去されるので、ランプ配置空間内で硫酸アンモニウムの生成反応が進まず、ランプのガラス表面への硫酸アンモニウムの結晶の付着が防止される。これにより、本発明は、硫酸アンモニウムの結晶の付着に起因する光源装置の光量低下を防止することができる。
【0016】
本発明の光源装置が、ランプを支持し、かつランプに電源を供給するためのソケットと、ランプに対向して配置されたガラス部材と、ソケット及びガラス部材を支持するための支持部材と、を備え、ランプ配置空間は支持部材内に形成されており、ガラス部材のランプ側の面はランプ配置空間と接している構成をもつ場合、ランプ配置空間内に風を送るためのファンは、ガラス部材のランプとは反対側の面にも風を送るようにしてもよい。
ガラス部材のランプとは反対側の面にも風が送られることによって、ガラス部材のランプとは反対側の面の近傍で発生したオゾンは、ガラス部材のランプとは反対側の面の近傍から除去される。これにより、ガラス部材表面への硫酸アンモニウムの結晶の付着が防止される。そして、この態様の本発明は、ガラス部材表面への硫酸アンモニウムの結晶の付着に起因する、光源装置の光量低下を防止することができる。
なお、ファンからランプ配置空間内に風が送られることによって、ランプの点灯時にランプ配置空間内で発生したオゾンはランプ配置空間から除去されるので、ガラス部材のランプ側の面への硫酸アンモニウムの結晶の付着も防止される。
【0017】
本発明の分光光度計は、硫酸アンモニウムの結晶の付着に起因する放射光量の低減を防止した本発明の光源装置を備えているようにしたので、硫酸アンモニウムに起因する光源装置の光量の低下、ひいては測定能力の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】光源装置の一実施例を示す概略的な上面図である。
【図2】同実施例の概略的な側面図である。
【図3】同実施例の概略的な正面図である。
【図4】同実施例の光量の経時変化を示す図である。
【図5】分光光度計の一実施例を示す概略的な構成図である。
【図6】従来の光源装置の光量の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1から図3は、光源装置の一実施例を示す概略的な図である。図1は上面図である。図2は側面図である。図3は正面図である。図2では、ファンは仮想線(二点鎖線)で示されている。
光源装置1は、ランプ3、ソケット5、レンズ(ガラス部材)7、支持部材9及びファン11を備えている。
【0020】
ランプ3は例えばキセノンフラッシュランプである。ランプ3はソケット5に取り付けられている。ソケット5は、ランプ3を支持し、かつランプ3に電源を供給するものである。ソケット5は支持部材9に取り付けられている。
【0021】
支持部材9は例えば直方体形状のアルミニウムからなる。支持部材9に、ランプ配置穴13、光放射穴15、レンズ配置穴17、風取込穴19及び風排出穴21が形成されている。ランプ配置穴13及び光放射穴15は、ランプ配置空間を構成する。
【0022】
ランプ配置穴13は支持部材9の面9aに設けられている。ソケット5は支持部材9の面9aに取り付けられている。ランプ3はランプ配置穴13内に配置されている。
光放射穴15は、ランプ配置穴13の底面から支持部材9の面9bへ向かって形成されている。
【0023】
レンズ配置穴17は支持部材9の面9bに設けられている。レンズ配置穴17は光放射穴15とつながっている。レンズ7は、ランプ3に対向してレンズ配置穴17に配置されている。
風取込穴19は支持部材9の面9cに設けられている。風取込穴19はランプ配置穴13の側面とつながっている。
風排出穴21は支持部材9の面9dに設けられている。風排出穴21は、風取込穴19がランプ配置穴とつながっている位置とは異なる位置で、ランプ配置穴13の側面とつながっている。
【0024】
ファン11は、図示しないファン支持部材を介して支持部材9に取り付けられている。ファン11の吹出し口は支持部材9の面9cに対向して配置されている。ファン11は、ファン11の吹出し口から排出される風がレンズ7及び支持部材9の風取込穴19に当たる位置に配置されている。
【0025】
ファン11はランプ3の点灯時に駆動される。ファン11が駆動されることにより、風が風取込穴19を介してランプ配置穴13へ送られる。これに伴い、ランプ配置穴13内の空気は風排出穴21から排出される。また、風が風取込穴19を介してランプ配置穴13へ送られることにより、ランプ配置穴13内及び光放射穴15内の空気が動き、ランプ3のガラス表面、及び、レンズ7のランプ3側の面にも風が送られる。
【0026】
ランプ3の点灯によってランプ配置穴13内及び光放射穴15内で発生したオゾンは風排出穴21から排出される。ランプ3の点灯時には、ランプ配置穴13内及び光放射穴15内に存在する酸素からオゾンが順次生成する。しかし、生成したオゾンは風排出穴21から排出されるので、ランプ配置穴13内及び光放射穴15内にオゾンは蓄積されない。これにより、ランプ配置穴13内及び光放射穴15内での硫酸アンモニウムの生成が低減される。
【0027】
また、ファン11が駆動されることにより、レンズ7のランプ3とは反対側の面(外側面)にも風が送られる。ランプ3から放射された光は、光放射穴15及びレンズ7を介して光源装置1外へ放射される。レンズ7の外側面の近傍で発生したオゾンは、ファン11から送られる風によって、レンズ7の外側面の近傍から除去される。これにより、レンズ7の外側面の近傍での硫酸アンモニウムの生成が低減される。
【0028】
ランプ配置穴13内、光放射穴15内、及びレンズ7の外側面の近傍での硫酸アンモニウムの生成が低減されることにより、ランプ3のガラス表面及びレンズ7の表面への硫酸アンモニウムの結晶の付着が防止される。
なお、オゾンは自然に分解されて酸素になるので、風排出穴21から排出されたオゾン、及びレンズ7の外側面の近傍から除去されたオゾンは自然に分解されると考えられる。
【0029】
図4は、本発明の光源装置1の光量の経時変化を示す図である。縦軸は光強度(任意単位)、横軸は時間(単位は時間)を示す。243nm、254nm、265nm、275nm、290nmの5波長について光量の経時変化を調べた。
【0030】
図4(本発明)と図6(従来技術)とを比較すると、本発明の光源装置1は、ランプ3のガラス表面及びレンズ7の表面への硫酸アンモニウムの結晶の付着が防止されるので、従来技術の光源装置に比べて光量の低下が遅いのが分かる。
【0031】
図5は、分光光度計の一実施例を示す概略的な構成図である。
分光光度計23は、光源装置1、試料配置部25、グレーティング(分光器)27及び光検出器29を備えている。
【0032】
光源装置1は図1から図3を参照して説明したものである。試料配置部25は、光源装置1から放射された光の光路上に液体試料を配置するためのものである。グレーティング27は試料配置部25で液体試料を透過した光を分光するためのものである。光検出器29は、液体試料を透過した光の光強度を検出するためのものである。この実施例では、光検出器29は複数の受光素子が配列されたフォトダイオードアレイ型のものである。光検出器29はグレーティング27で分光された複数の波長の光強度をそれぞれ検出する。
【0033】
分光光度計23は、硫酸アンモニウムの結晶の付着に起因する放射光量の低減を防止した光源装置1を備えているので、硫酸アンモニウムの付着に起因する光源装置1の光量の低下、ひいては測定能力の低下を防止することができる。
【0034】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、形状、材料、配置、などは一例であり、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
例えば、支持部材9は直方体形状のアルミニウムによって構成されているが、本発明の光源装置において、支持部材の形状及び材料はこれに限定されず、どのような形状及び材料であってもよい。
光源装置1において、レンズ7に替えて、レンズ機能をもたないガラス板を備えているようにしてもよい。また、光源装置1はレンズ7を備えていなくてもよい。
【0035】
図5に示した分光光度計23はフォトダイオードアレイ型の光検出器29を備えているが、本発明の分光光度計は、これに限定されない。本発明の分光光度計は、1つ又は複数の光検出器と、分光器を回転駆動させる機能を備え、分光器を回転駆動させて光検出器に入射される光の波長を変化させて、複数の波長の光強度を検出するようにしてもよい。
図5に示した分光光度計23は後分光方式のものであるが、本発明の分光光度計は前分光方式のものであってもよい。
【0036】
光源装置1はランプ3としてキセノンフラッシュランプを備えているが、本発明の光源装置においてランプはキセノンフラッシュランプに限定されない。本発明の光源装置においてランプは、放射波長に紫外線を含んで周辺雰囲気の酸素からオゾンを発生させるランプであればどのようなランプであってもよい。
上記実施例では、本発明の光源装置は分光光度計に適用されているが、本発明の光源装置が適用される装置は分光光度計に限定されない。本発明の光源装置はどのような装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 光源装置
3 ランプ
5 ソケット
7 レンズ(ガラス部材)
9 支持部材
11 ファン
13,15 ランプ配置空間
23 分光光度計
25 試料配置部
27 グレーティング(分光器)
29 光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射波長に紫外線を含んで周辺雰囲気の酸素からオゾンを発生させるランプを備えた光源装置において、
前記ランプが配置されるランプ配置空間で発生したオゾンを前記ランプ配置空間から除去するために前記ランプ配置空間内に風を送るためのファンを備えたことを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記ランプを支持し、かつ前記ランプに電源を供給するためのソケットと、
前記ランプに対向して配置されたガラス部材と、
前記ソケット及び前記ガラス部材を支持するための支持部材と、をさらに備え、
前記ランプ配置空間は前記支持部材内に形成されており、
前記ガラス部材の前記ランプ側の面は前記ランプ配置空間と接しており、
前記ファンは、前記ガラス部材の前記ランプとは反対側の面にも風を送る請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
前記ランプはキセノンフラッシュランプ又は低圧水銀ランプである請求項1又は2に記載の光源装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の光源装置と、
前記光源装置から放射された光の光路上に液体試料を配置するための試料配置部と、
前記液体試料に入射する光、又は前記液体試料を透過した光を分光するための分光器と、
前記液体試料を透過した光の光強度を検出するための光検出器と、を備えた分光光度計。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−247648(P2011−247648A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118756(P2010−118756)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】