説明

光源装置及び該光源装置を有する光断層画像撮像装置

【課題】発振波長が可変な光源装置として、安価で作製が容易な構造であり、発振線幅を狭帯化することが可能となる光源装置を提供する。
【解決手段】半導体光増幅媒体の出射光をコリメートするコリメートレンズ102と、コリメートされた光束に、波長によって異なる角度分散を与える回折格子103と、角度分散を与えられた光束を波長により異なる位置に集光する集光レンズ104と、集光レンズによる焦点面内を走査して一部の波長の光を反射する反射部または透過する透過部を備えた波長選択手段と、を有する光源装置において、波長選択手段は、光学的パワーを有する等幅に形成された反射部あるいは透過部を、回転可能とされた円板形状の基板上に配置し、円板形状の基板の回転に伴い、集光レンズによる円板形状の基板表面上の集光スポットに対し、前記反射部または透過部で反射または透過される前記出射光の波長を変化させ、波長掃引光源として動作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振波長を変化させることが可能な光源装置及び該光源装置を有する光断層画像撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光源、特にレーザー光源の発振波長を可変とする技術において、波長掃引の高速性と狭線幅の両立が切望されている。
波長掃引光コヒーレンストモグラフィー(SS−OCT:Swept Source Optical Coherence Tomography)では、深さ情報を得るのにスペクトル干渉を用いる。このような光干渉による断層画像撮像装置は分光器を用いないことから光量のロスが少なく高SN比の像取得も期待されている。
上記SS−OCT技術を適用した光断層画像撮像装置は、医用画像撮像装置を構成する場合には、掃引速度が速いほど画像取得時間を短縮でき、生体組織を生きたまま観察することにも好適である。
また、波長掃引幅が広いほど断層像の空間解像度を高めることが可能なためこれらのパラメータは重要である。具体的には波長掃引幅Δλ、発振波長λ0、とするとき深さ分解能は、次式によって表される。

【0003】
したがって、奥行き分解能を高めるためには波長掃引幅の拡大が必要であり、広帯域な波長掃引光源が求められている。
OCT技術は深さ方向の解像度を数ミクロンとし、且つ数mmの深さまで断層像を得ることができる技術であり、眼底撮影などに用いられている。
特許文献1および特許文献2には、発光波長が可変である光源技術が開示されている。
【0004】
特許文献1では、ゲイン媒体からの光を回折格子で分光し、分光された光は波長ごとに異なる位置に集光する。
該集光位置付近に、分光された一部の波長の光のみを反射するための幅の細いスリットミラーを用意することで、該反射ミラーによってある特定の波長の光のみゲイン媒体に戻される光共振器構成をとっている。
さらに、前記スリットミラーは光軸に対して垂直に導入された回転する円板の表面に形成されており、該円板の回転に伴いスリットミラーの位置が移動する。
スリットミラーの位置に依存して分光された光に対するスリットミラーの位置が変化し、スリットミラーで反射され前記光増幅器に戻る波長が変化することにより、波長可変光源として動作する。
また、特許文献2は、上記特許文献1と同様の光学系を取るが、特許文献1におけるスリットミラーが、透過型スリットに替わり、かつその後部側に反射ミラーを構えて光を光増幅器に帰還している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−526620号公報
【特許文献2】特開2008−98395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SS−OCTでは、物体からの反射率スペクトルの干渉を、光源の波長を掃引しながら取得する。
このため、光源のスペクトル線幅は、上記スペクトル取得の各点同士の波長間隔よりも細い必要がある。
例えば、掃引帯域を840nm±40nmとした場合、この帯域でスペクトルを1000点で取得することを想定すると、スペクトル各点を分離しながら取得するためには線幅0.08nm以下であることが必要である。
また、干渉計測における可干渉距離を長く取るためにも(コヒーレンス長の観点から)、狭帯域な線幅の光源が望ましい。
【0007】
上記したように、SS−OCTによる光源としては、高速広帯域な波長掃引と、掃引中の線幅が狭帯域な光源の実現が求められている。
上記の特許文献1および特許文献2における光源では、発振線幅がスリットミラーの幅あるいは透過型スリットの幅に依存するため発振線幅を狭帯化するためには幅の狭いスリットを作製することが必要である。
しかし、スリット幅が数ミクロンオーダーになると、幅の狭いスリットを作製するためには高いプロセス精度が必要となる。そのため、安価で作製が容易な狭発振線幅の光源を構成する上での課題となっている。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、発振波長が可変な光源装置として、安価で作製が容易な構造であり、発振線幅を狭帯化することが可能となる光源装置及び該光源装置を有する光断層画像撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光源装置は、
半導体光増幅媒体と、
前記半導体光増幅媒体の出射光をコリメートするコリメートレンズと、
前記コリメートされた光束に、波長によって異なる角度分散を与える回折格子と、
前記回折格子により角度分散を与えられた光束を波長により異なる位置に集光する集光レンズと、
前記集光レンズによる焦点面内を走査して一部の波長の光を反射する反射部または透過する透過部を備えた波長選択手段と、
を有する光源装置において、
前記波長選択手段は、光学的パワーを有する等幅に形成された前記反射部あるいは前記透過部を、回転可能とされた円板形状の基板上にし、
前記円板形状の基板の回転に伴い、前記集光レンズによる前記円板形状の基板表面上の集光スポットに対し、該基板に配置した前記反射部または前記透過部で反射または透過される前記半導体光増幅媒体からの出射光の波長を変化させ、
波長掃引光源として動作させることを特徴とする。
また、本発明の光断層画像撮像装置は、光源装置を有し、該光源装置からの光を被検査物に照射し、被検査物からの反射光を伝達させる被検査物の測定部と、
前記光源装置からの光を参照ミラーに照射し、該参照ミラーからの反射光を伝達させる参照部と、
前記被検査物の測定部からの反射光と前記参照部からの反射光とを干渉させる干渉部と、
前記干渉部からの干渉光を検出する光検出部と、
を備え、前記光検出部で検出された光を用い、前記被検査物の断層画像を撮像する光断層画像撮像装置であって、
前記光源装置が、上記した光源装置によって構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発振波長が可変な光源装置として、安価で作製が容易な構造であり、発振線幅を狭帯化することが可能となる光源装置及び該光源装置を有する光断層画像撮像装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態における光源装置の構成例について説明する図。
【図2】本発明の実施形態における回転スリット円板を透過型とした構成例について説明する図。
【図3】本発明の実施形態における回転スリット円板を透過型とした構成例について説明する図。
【図4】本発明の実施形態における回転スリット円板に遮光部材を形成しない構成例について説明する図。
【図5】本発明の実施形態における光透過部材を異なる形態とした構成例について説明する図。
【図6】本発明の実施形態における回転スリット円板を反射型とした構成例について説明する図。
【図7】本発明の実施形態における回転スリット円板を反射型とした構成例について説明する図。
【図8】本発明の実施例1における光源装置の構成例について説明する図。
【図9】本発明の実施例1における光源装置の反射部の構成について説明する図。
【図10】本発明の実施例2における光源装置の構成例について説明する図。
【図11】本発明の実施例2における光源装置の透過部の構成について説明する図。
【図12】本発明の実施例3における光断層画像撮像装置の構成例について説明する図。
【図13】本発明の実施例3における干渉信号を差動検出するための構成例について説明する図。
【図14】本発明の実施形態における回転スリット円板の動作を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態における光源装置の構成例について説明する。
本実施形態の光源装置は、半導体光増幅媒体(半導体光増幅器)を備え、該半導体光増幅媒体からの出射光をコリメートレンズによりコリメートされた光束に、回折格子によって波長より異なる角度分散が与えられる。
この角度分散を与えられた光束が、集光レンズによって波長により異なる位置に集光される。
そして、前記集光レンズによる焦点面内を走査し、反射部または透過部を備えた波長選択手段によって、一部の波長の光を反射または透過するように構成されている。
この光源装置の具体的な構成例が図1に示されている。
但し、本発明はこのような本実施形態の構成によって何ら限定されるものではない。
図1(a)は本実施形態における光源装置の概略図である。
図1(a)に示されるように、半導体光増幅器101、コリメータ102、回折格子103、集光レンズ104、回転スリット円板(波長選択手段)105によって光共振器100が構成される。
回転スリット円板105は、光学的パワーを有する等幅に形成された反射部あるいは透過部を、回転可能とされた円板形状の基板上に配置している。
また、図1(a)では、回折格子の周期構造は紙面垂直方向に形成されている。回転スリット円板105が反射型の波長選択素子の場合には、上記構成であるが、回転スリット円板105が透過型の波長選択素子の場合には、光反射ミラー111が対向して配置される。さらに、光増幅器101には駆動制御部107が接続される。そして、回折格子103からの透過光をミラー108で反射して、集光レンズ109を通して光ファイバ110に結合することで、本実施形態の光源装置の出力を共振器外へ取り出す構成になっている。
駆動制御部107は光増幅器にエネルギーを投入しそのゲインを制御するための機器であり、電源装置及びこれらを制御するためのPCなどで構成される。
光共振器100の共振器長は、高速に狭線幅で波長掃引動作をおこなうためには、たとえば5cm程度以下に抑えることが好適である。
【0013】
本実施形態の光源装置において、発振波長を選択するのは回転スリット円板105である(図1(b))。
回転スリット円板105は、回折格子103によって波長毎に異なる焦点位置に集光した光の一部を選択的に透過あるいは反射することで、共振器内に存在する光の波長を選択する。
回転スリット円板の回転に伴って、発振波長が変化する(図14)。
開口部113は複数あるが、そのうちのあるスリットが分光集光スポット114を横切り始めるときの回転スリット円板105の回転角をθs1、横切り終わるときをθe1とするとき、この間発振波長は図14に示すように回転角にλsからλeまで変化する。
そして、開口部が分光集光スポットから外れると発振が停止する。そして次の開口部が分光集光スポットを横切り始める時の回転角をθs2、横切り終わるときの回転角をθe2とするとき、この間で同様に発振波長がλsからλeまで変換する。
この動作を繰り返すことで本発明の光源は波長掃引光源として動作する。
【0014】
回転スリット円板105には遮光部112、開口部113が設けられている。そして、回折格子にて分光された光は分光集光スポット114として回転スリット円板上に集光する。
分光集光スポット114は回転スリット円板の円周方向に波長分解されている。そして分光された波長の一部を開口部によって切りだす。また回転原点検出スリット115に対して光源からの光あるいは別の光源の光等を用いて、スリットの回転をモニタリングすることも好適である。
【0015】
つぎに、図2、図3を用いて、回転スリット円板が透過型の場合の素子構成について説明する。
図2(a)は、回折格子により分光された光が入射する開口部に注目した模式図である。
図2の構成では、光学的にパワーを持った透過型の回転スリット円板とその後段の反射ミラーを用いて波長選択を行う。
遮光部201は開口部202を有する。また遮光部201の下層には光透過部材203が配置されており、かつ開口部202において光透過部材203は光学的パワー部204を有する構成となっている。そして、後段に反射ミラー205を配置する。
ここでは光学的パワー部204が凸レンズの働きをする場合を用いて説明する。回折格子103にて分光され集光レンズ104にて集光された光のうち、波長λ1の光から波長λ5の光までが開口部202へ入射するものとする。
【0016】
図2(b)に示すように、開口部202の幅をa、開口部から反射ミラーまでの距離(光反射ミラーとの対向距離)をL、光学的パワー部の焦点距離をfとする。
このとき、光学的パワー部が開口内に存在することにより、開口部202に入射した光の一部は光学的パワーにより屈折され、焦点位置が透過部の後方における前記光反射ミラー表面以外の位置となる。
さらに、その後光反射ミラーで反射されたのち遮光部にて遮光されることになる。
つまり、光増幅器から透過部に到達する光の波長範囲をΔλとし、所定の波長選択範囲Δλ’とするとき、開口部202に入射する光の波長幅、つまりλ5−λ1=Δλは開口部の光学的パワーにより波長選択条件がより厳しくなりΔλ’になる。
これは実効的に波長選択能を光学的パワーにより向上していることに対応する。所定の波長幅Δλ’以下に抑えるためには、幾何学的な考察より開口部内の光学的パワーの焦点距離fおよび光反射ミラーとの対向距離Lが、次の式(1)を満たすことが必要である。

【0017】
また上記説明は開口部内の光学的パワーが凸レンズに相当する場合の議論であるが、同様に凹レンズに相当するパワーを持つ場合でもその焦点距離fに対して条件を定義できる。
図3に示すように、遮光部301、開口部302、光透過部材303、光学的パワー部304、反射ミラー305を配置する。
凹レンズの焦点位置を図3のように定義する場合、光学的パワーが凸レンズの場合と同様に幾何学的な考察から、所定の波長幅Δλ’以下に抑えるためには、開口部内の光学的パワーの焦点距離fおよび光反射ミラーとの対向距離Lが、次の式(2)を満たすことが必要である。

【0018】
図4(a)、(b)に示すように、回転スリット円板は必ずしも遮光部材を必要とするものではない。
光透過部材401に対して、凸レンズ部402や凹レンズ部403を周期的に有する構造にしておき、実効的に狭い幅の開口部が周期的に配列している構成を取ることも好適である。
また、好適なレンズ形状は球面レンズで近軸光線のみを考える場合、薄肉レンズであれば、例えば次の式(3)を使用することができる。

【0019】
このとき、レンズ前面の曲率半径をr1、後面の曲率半径をr2とし、レンズ後面側にできる焦点の焦点距離をレンズ中心から定義した値をf1と書く。
片面が平面のレンズは平面の曲率半径rを無限大にすれば良い。
さらに、開口部内の光学的パワーは、上述のように凸レンズや凹レンズ形状によって持たせる形態に限るものではない。
例えば、図5のように平板状の光透過部材501であってもその内部に高屈折率部502や低屈折率部503等の屈折率分布を有することで凸レンズや凹レンズに相当する光学的なパワーを発現するものであってもよい。
また、透過部材の光学的パワーはシリンドリカルレンズ様のパワーであることも好適である。この場合、光学的パワーは分光された光が波長に依存して分散されている方向にのみ有していることが好適である。
【0020】
また、例えば回転スリット円板が反射型の場合の構成を図6、図7に示す。
図6では、光学的にパワーを持った反射型の回転スリット円板の開口部付近を図示する。
遮光部601は開口部602を有する。また遮光部601の下層には反射部603が配置されており、かつ開口部602において反射部603は光学的パワー部604を有する構成となっている。その際、この反射部603は凹面鏡あるいは凸面鏡で構成することができる。
回折格子103にて分光され集光レンズ104にて集光された光のうち、波長λ1の光から波長λ5の光までが開口部602へ入射する。
開口部602の半幅をa、開口部から射出瞳までの距離をL、射出瞳の半径をA、光学的パワー部を球面とみなしその曲率半径をrとする。このとき、光学的パワー部が開口部内に存在することにより、開口部に入射した光の一部は光学的パワー部で入射光と異なる角度に反射されるため、開口部602に入射した光の一部は射出瞳で遮られ、半導体光増幅器に戻らなくなる。
つまり、開口部602に入射する光の波長幅、つまりλ5−λ1=Δλは開口部の光学的パワーにより波長選択条件がより厳しくなる。
開口内の幅b以内の光のみが波長選択されるとし、所定の波長選択幅をΔλ’と置く。
波長幅Δλを所定の波長選択幅Δλ’以下に抑制するためには、開口部内の光学的パワー部の曲率半径rおよび開口部の幅(反射部の半幅)aについて、次の式(4)を満たすことが必要である。
但し、開口部の幅aは射出瞳の半径Rに対してa<<Rを満たすと仮定する。

【0021】
波長選択後の波長幅が所定の波長幅以下に収まるためには上記Δλ’を該所定の線幅以下に収まる様に、rを設定することが必要である。
また上記説明は開口部内の反射面が凸形状である場合の議論であるが、同様の考察により、凹形状である場合でもその曲率半径rに対して上式と同じ条件が導出できる。
【0022】
図7に示すように、回転スリット部は必ずしも遮光部材を必要とするものではない。
光反射部材703の構成として、例えば、図7(a)に示すように凹面反射部701が周期的に配列している構成を採ることができる。
また、図7(b)に示すように凸面反射部702が周期的に配列している構成にしておき、実効的に開口部が周期的に配列している構成を採ることも好適である。
また、反射部材の光学的パワーはシリンドリカルミラー状のパワーであってもよい。
この場合光学的パワーは分光された光が波長に依存して分散されている方向にのみ有している構成である。
【0023】
このような素子形状の作成方法としては、例えば、透過型の場合には、光透過部材がSiO2ならば凹構造はフッ素化合物系のプラズマを用いた等方的ドライエッチング、あるいはフッ酸(HF)でwetエッチングを施す。その後、遮光層を成膜、パターニングすることで作製可能である。
遮光層の材質はたとえば酸化クロムなどがあげられるが、これに限るものではない。光源の発振波長において吸収が大きい材質が好ましい。
また、凹、凸構造共に、光透過部材に対してインプリント技術などで予め曲面構造を形成したうえで遮光層を成膜、パターニングすることでも作製可能である。また、インプリントの対象はたとえば透明基板そのものでもよいし、透明基板上に加工容易性が高い透明樹脂等を塗布したものなども好適である。
光透過部材の材質はSiO2に限るものではなく、光源の発振波長帯に於いて透過率が高い材質ならば好適である。
【0024】
また、反射型の場合には、たとえば光反射部材がSiO2基板上に金属反射膜が成膜されたものである場合、凹構造は予め基板をHFでwetエッチングなどした上に反射層となる金属を成膜したのち、遮光層を成膜、パターニングすることでも作製可能である。
凹、凸構造共に、金属反射層に対してインプリント加工してもよいし、あるいはSiO2基板に対してインプリント技術等で予め曲面構造を形成したうえで反射金属層を成膜し遮光層を成膜およびパターニングすることで作製可能である。
【0025】
逆に、単純なプロセスとして、平滑な表面を持つ円板状の基板表面にスリット状のミラーをパターニングして作製する場合、ミラー部分を成膜する前に基板表面形状の加工をあらかじめ行っておく、
あるいは、反射面形成後に金属表面を曲面状に成形するなどの特段の措置を取らない限りは、光学的パワーを有するような有意な曲面形状を形成することは困難である。
平面基板上に金属を成膜するプロセスで作製する場合、例えばスパッタあるいは蒸着成膜した場合、金属膜表面は金属グレインの凹凸構造、つまり数nm程度の直径の金属微粒子の集合体となるため光学的には曲面とみなされない微細な凹凸が形成されるのみである。
波長分解能向上のために、より狭い幅のスリットなど作製困難な構造を用いない、作成容易な構造で発振線幅が狭帯域な波長可変光源を構成できる。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した光源装置の構成例について、図8を用いて説明する。但し、本発明は以下に説明する実施例の構成によって何ら限定を受けるものではない。
図8(a)は本発明の光源を横から見た図である。
図8(a)において、半導体光増幅器801、コリメータ802、回折格子803、集光レンズ804、回転スリット円板805によって光共振器800が構成される。
半導体光増幅器のゲイン帯域は800nmから880nmである。回転スリット円板805が反射型の波長選択素子である。ただし回転スリット円板は反射型に限るものではなく、透過型の波長選択素子であってもよい。
その場合には、反射ミラーを回転スリット円板後段に配置する。さらに、光増幅器801にはLDドライバ807が接続される。そして、回折格子803からの透過光をミラー808で反射して、集光レンズ809を通して光ファイバ810に結合することで、本発明の光源の出力を共振器外へ取り出す構成になっている。
【0027】
LDドライバ807は光増幅器にエネルギーを投入しそのゲインを制御するための機器である。
LDドライバ807は制御装置814に接続される。制御装置814はLDドライバや回転スリット制御装置811の制御を行う。
回転スリット制御装置811は回転スリット円板の回転速度の制御や電源供給等を行う。
回転スリット円板には反射部813、遮光部812がある(図8(b))。遮光部は厚さ100nmの酸化クロムで構成する。
反射部は石英基板上にアルミニウムを厚さ100nmで形成したものである。
集光スポット815は回転スリット円板の周方向に波長分散して集光している。また、回転原点検出スリット816により回転スリットの原点を検出することも好適である。
【0028】
本実施例では、半導体光増幅器801から回転スリット円板805表面までの光路の長さが共振器長であり50mmである。
回折格子により半導体光増幅器からの光は分光され、回転スリット円板805の表面上に、波長800nmから880nmの光が5mmの幅に分光され波長ごとに異なる位置に集光される。
この集光位置は回転スリット円板表面上(円板形状の基板表面上)であり、集光スポットに対して回転スリット円板上の反射部が移動して行くことで、反射される波長が変化し、波長掃引光源として動作する。
【0029】
集光レンズ804は、焦点距離100mm、直径5mmである。反射部813からみた射出瞳はこの集光レンズにほぼ一致していると考えて構成する。
ここで、反射部813は図9に示すようにその内部が凸面形状に形成されている。
遮光層901の一部に開口部902が形成され、開口部902内には反射層903に形成されている凹部904が配されている。
また、開口部902の幅は10μmである。したがって、この開口部の幅に到達する波長幅は0.32nmとなる。
この波長選択幅を0.08nmにするために曲率半径が約50μmの球面を凹部904として形成しておく。この形状は具体的には凹面形状の中央部が開口部端よりも約1μm窪んでいる形状に相当する。これは実施の形態に記載の数式から導かれる構成である。
つまり、凹面を単純な球面と考えた場合、1μm以上の窪みを与えれば所定の波長分解能を達成可能である。
このように、開口部の幅が広くても、開口部内に光学的パワーを持たせることで実際の波長選択幅を大幅に狭帯化することが可能である。
【0030】
本実施例では、回転スリット円板として開口部内が凹形状のものを記載したが、本発明の内容はこれに限るものではない。開口部内の形状が凸形状であってもよい。
所定の波長選択性を実現するためには実施の形態に記載の関係式を用いて凹形状、凸形状の曲率半径を設定すればよい。
あるいは、ミラーから射出瞳までの距離を調節してもよい。
また、開口部内の光学的パワーを回折格子の周期の方向にのみ有しているシリンドリカルミラー状であってもよい。
【0031】
[実施例2]
実施例2として、実施例1と異なる形態の光源装置の構成例について、図10を用いて説明する。
図10(a)は、本実施例の光源装置を横から見た図である。
図10(a)において、半導体光増幅器1001、コリメータ1002、回折格子1003、集光レンズ1004、回転スリット円板1005によって光共振器1000が構成される。
半導体光増幅器のゲイン帯域は1000nmから1100nmである。回転スリット円板1005が透過型の波長選択素子である。ただし回転スリット円板は透過型に限るものではない。
反射ミラー1015を回転スリット円板後段に配置する。反射ミラーは回転スリットの回折格子側表面から1mmの距離に設置する。さらに、光増幅器1001にはLDドライバ1007が接続される。そして、回折格子1003からの透過光をミラー1008で反射して、集光レンズ1009を通して光ファイバ1010に結合することで、本発明の光源の出力を共振器外へ取り出す構成になっている。
【0032】
LDドライバ1007は光増幅器にエネルギーを投入しそのゲインを制御するための機器である。
LDドライバ1007は制御装置1014に接続される。制御装置1014はLDドライバや回転スリット制御装置1011の制御を行う。
回転スリット制御装置1011は回転スリット円板の回転速度の制御や電源供給等を行う。
回転スリット円板には透過部1013、遮光部1012がある(図10(b))。
遮光部は厚さ100nmの酸化クロムで構成する。透過部は石英基板上にHF溶液処理にて凹部を形成したものである。
集光スポット1016は開店スリット円板の周方向に波長分散して集光している。
また、回転原点検出スリット1017により回転スリットの原点を検出することも好適である。
【0033】
本実施例では、半導体光増幅器1001から回転スリット円板1005表面までの光路の長さが共振器長であり50mmである。
回折格子により半導体光増幅器からの光は分光され、回転スリット円板1005の表面上に、波長1000nmから1100nmの光が6.25mmの幅に分光され波長ごとに異なる位置に集光される。
この集光位置は回転スリット円板表面上であり、集光スポットに対して回転スリット円板上の透過部が移動して行くことで、透過される波長が変化し、波長掃引光源として動作する。
【0034】
ここで、透過部1013は図11に示すようにその内部が凹面形状に形成されている1101遮光層の一部に開口部1102が形成され、開口部1102内には反射層1103に形成されている凹部1104が配されている。
また、ここでの開口部1102の幅は40μmである。透過部の屈折率を1.46とする。
【0035】
開口部の幅に到達する波長幅は0.8nmとなる。
この波長選択幅を0.08nmにするために曲率半径が約61μmの球面を凹部1104として形成しておく。
この形状は具体的には凹面形状の中央部が開口部端よりも約3.3μm窪んでいる形状に相当する。
したがって、凹部を球面と考える場合、3.3μm以上窪ませておけば所定の波長分解能を達成可能である。
このように、開口部の幅が広くても、開口部内に光学的パワーを持たせることで実際の波長選択幅を大幅に狭帯化することが可能である。
【0036】
本実施例では、回転スリット円板として開口部内が凹形状のものを記載したが、本発明の内容はこれに限るものではない。開口部内の形状が凸形状であってもよい。
所定の波長選択性を実現するためには実施の形態に記載の関係式を用いて焦点距離を設定すればよい。
あるいは、開口部から反射ミラーまでの距離を調節してもよい。
また、開口部内の光学的パワーを回折格子の周期の方向にのみ有しているシリンドリカルレンズ状であってもよい。
【0037】
[実施例3]
実施例3では、本発明の光源装置を用いた光断層画像撮像装置の構成例を、図12を用いて説明する。
本実施例の光断層画像撮像装置は、図12に示すように、光源部を構成する波長可変光源1201、参照部を構成する参照光光路用ファイバ1202、干渉部を構成するファイバカップラ1203、反射ミラー1204が配置される。
さらに、被検査物からの反射光を伝達させる被検査物の測定部を構成する検査光光路用ファイバ1205、照射集光光学系1206、照射位置走査用ミラー1207が接続される。
これに加え、光検出部を構成する受光用ファイバ1208、フォトディテクタ1209、照射用ファイバ1210、画像処理部を構成する信号処理装置1211、画像出力モニタ1213が接続される。そして、光源部を構成する光源制御装置1212が接続され光断層画像撮像装置が構成される。1214は被検査物である。
なお、干渉光学系を構成するファイバは、本実施例では光源の波長帯域でシングルモードファイバで構成し、各種ファイバカップラは3dBカップラで構成するが本発明の構成はこのような構成に限定されるものではない。
【0038】
本実施例における波長可変光源は、光源制御装置によりその発振波長や強度及びその時間変化を制御する。
波長可変光源から出射された光はファイバカップラにおいて参照光光路用ファイバ及び検査光光路用ファイバに分割されて導入される。
さらに、参照光光路用ファイバの先端には反射ミラーが配置され、反射ミラーで光は反射され受光用ファイバに導入されフォトディテクタに到達する。
同時に、ファイバカップラにて検査光光路用ファイバに導入された光は検査物体に照射され、後方散乱光が被検査物の内部及び表面から発生する。
後方散乱光は照射集光光学系を通してファイバカップラからフォトディテクタに集光される。
フォトディテクタで受光された光は信号処理装置にてスペクトル信号に変換され、さらにフーリエ変換を施すことで被検査物の奥行き情報を取得する。取得された奥行き情報は画像出力モニタに表示される。
同時に、信号処理装置からは照射位置走査用ミラーの駆動信号を発振し、かつ波長可変光源制御信号も送出する。
本実施例の光源装置は、線幅が細い為にコヒーレンス長が長いことから、OCT画像の参照ミラーと等距離の位置から遠い位置までの干渉像を取得することが可能となる。
これはコヒーレンス長が長いことすなわち可干渉距離が長いことにより、干渉光学系を構成する二つの光路の光路長差が長くても干渉信号を得られることに相当する。
このため、光源の線幅が狭いことは、被検査物の奥深い構造まで検知できるため好適である。
【0039】
図12では最も簡易な構成を示したが、例えば図13に示すような、干渉信号を差動検出するための光学系で構成しても良い。
図13においては、光源部を構成する波長可変光源1301と、アイソレータ1302、参照部を構成する参照光光路用ファイバ1306、偏波コントローラ1318、干渉部を構成するファイバカップラ1305、反射ミラー1307を配置する。
さらに、被検査物の測定部を構成する検査光光路用ファイバ1314、偏波コントローラ1319、照射集光光学系1315、照射位置走査用ミラー1308を接続する。
これに加え光検出部を構成するファイバカップラ1303、ファイバカップラ1304、受光用ファイバ1316、受光用ファイバ1317、バランスフォトディテクタ1310、画像処理部を構成する信号処理装置1311、画像出力モニタ1313が接続される。
そして、光源部を構成する光源制御装置1312が接続され光断層画像撮像装置が構成される。1309は検査対象物である。
また、図示しないが、光源からの出射光の強度を逐次モニタリングし、そのデータを干渉信号の振幅補正に用いるなどの構成もまた好適である。
【符号の説明】
【0040】
100:光共振器
101:半導体光増幅器
102:コリメータ
103:回折格子
104:集光レンズ
105:回転スリット円板
107:駆動制御部
108:ミラー
109:集光レンズ
110:光ファイバ
111:反射ミラー
112:遮光部
113:開口部
114:分光集光スポット
115:回転原点検出スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体光増幅媒体と、
前記半導体光増幅媒体の出射光をコリメートするコリメートレンズと、
前記コリメートされた光束に、波長によって異なる角度分散を与える回折格子と、
前記回折格子により角度分散を与えられた光束を波長により異なる位置に集光する集光レンズと、
前記集光レンズによる焦点面内を走査して一部の波長の光を反射する反射部または透過する透過部を備えた波長選択手段と、
を有する光源装置において、
前記波長選択手段は、光学的パワーを有する等幅に形成された前記反射部あるいは前記透過部を、回転可能とされた円板形状の基板上に配置し、
前記円板形状の基板の回転に伴い、前記集光レンズによる前記円板形状の基板表面上の集光スポットに対し、該基板上に配置した前記反射部または前記透過部で反射または透過される前記半導体光増幅媒体からの出射光の波長を変化させ、
波長掃引光源として動作させることを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記透過部は、前記光学的パワーが負であり、光反射ミラーに対向して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
前記光反射ミラーとの対向距離をL、前記半導体光増幅媒体から前記透過部に到達する光の波長範囲をΔλ、透過部の焦点距離をfとするとき、
所定の波長選択範囲Δλ’に対して透過部の焦点距離fおよび光反射ミラーとの対向距離Lが次の式を満たすことを特徴とする請求項2に記載の光源装置。

【請求項4】
前記透過部は、前記光学的パワーが正であり、光反射ミラーに対向して設けられ、該透過部による焦点位置が前記透過部の後方における前記光反射ミラー表面以外の位置とされていることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項5】
前記光反射ミラーとの対向距離をL、前記光増幅器から前記透過部に到達する光の波長範囲をΔλ、透過部の焦点距離をfとするとき、
所定の波長選択範囲Δλ’に対して透過部の焦点距離fおよび光反射ミラーとの対向距離Lが次の式を満たすことを特徴とする請求項4に記載の光源装置。

【請求項6】
前記反射部は、凹面鏡あるいは凸面鏡で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項7】
前記反射部の半幅をa、前記凹面鏡あるいは凸面鏡の曲率半径をr、前記反射部からみた光学系の射出瞳の半幅をA、反射部から射出瞳までの距離をL、前記反射部に入射する光の波長範囲をΔλ、所定の波長選択範囲をΔλ’とし、
前記aが前記射出瞳の半径Rに対してa<<Rとされているとき、次の式を満たすことを特徴とする請求項6に記載の光源装置。

【請求項8】
前記反射部は、前記光学的パワーを前記回折格子の周期の方向に有していることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項9】
光源装置を有し、該光源装置からの光を被検査物に照射し、被検査物からの反射光を伝達させる被検査物の測定部と、
前記光源装置からの光を参照ミラーに照射し、該参照ミラーからの反射光を伝達させる参照部と、
前記被検査物の測定部からの反射光と前記参照部からの反射光とを干渉させる干渉部と、
前記干渉部からの干渉光を検出する光検出部と、
を備え、前記光検出部で検出された光を用い、前記被検査物の断層画像を撮像する光断層画像撮像装置であって、
前記光源装置が、請求項1から8のいずれか1項に記載の光源装置によって構成されていることを特徴とする光断層画像撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−41860(P2013−41860A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175873(P2011−175873)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】