説明

光線治療器

【課題】 治療法に応じて使い分けられている複数の光源を1つの機械にまとめ省スペース化を図りつつ多機能な機器にする事、更に、光線を照射しづらい患部へも効率良く照射できるようにする事を目的とした。
【解決手段】 本発明は複数の異なる光源10,11,12からの光を集光し導光する光学系22,23,24と、集光し導光された光を多重搬送する光ファイバケーブル2と、該光ファイバケーブル2の先端からの出力光を投影する少なくとも1枚の投影レンズが設置されたハンドピースとを有することを特徴とする光線治療器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定範囲を含む複数の光エネルギを患部に照射することにより患部に滞留した光感受性物質を励起して患部を治療等する光線治療器に関する。
【背景技術】
【0002】
現代医療においては目的に応じて特定波長領域の光線を患部に照射するという光線治療法(広義にはレーザ治療も含む)がよく利用されている。この治療方法は生体に照射された光線の波長により生体の示す反応が異なることを利用している。大きく分類すると、紫外線(400nm以下)は主に蛋白質や核酸により吸収されて光化学作用を起こし、可視光線(400〜780nm)は主に色素により吸収されて色覚作用を起こし、赤外線(780nm以上)は主に水により吸収されて光熱作用を起こす(例えば、非特許文献1を参照)。例えば、A波紫外線(UVA)は主に皮膚から吸収されビタミンD前駆体の合成を促進する。また、赤外線による熱線には血行促進、鎮痛、消炎作用等の効果があるため、凍傷、凍瘡、下腿潰瘍等の治療に利用されている(例えば、非特許文献2を参照)。以下により具体的な治療方法をいくつか示す。
【0003】
光感受性物質が腫瘍内に高濃度に移行することを利用し、光化学療法が行われている。光感受性物質とは光エネルギーによって活性化される物質をいい、ソラレン、アクリジンオレンジなど核のDNA合成障害を起こすもの、ローズベンガル、ポルフィリン、アントラセンなどの細胞質を傷害するものが知られている。これらのうちソラレンは腫瘍内に高濃度に移行するため、UVA(315〜400nm)照射により活性化させて癌細胞の増殖を抑制するために利用されている(例えば、非特許文献2を参照)。
【0004】
癌細胞に450nmの波長領域(ソーレー帯)を含む光を照射すると癌細胞が分解されることが知られている。これは、細胞内小器官のミトコンドリアにおけるヘム蛋白質がソーレー帯を吸収し、励起されることによって電子伝達系の代謝が亢進され、ATPが増加することに関連していると考えられている。この為、人工太陽光を用いて患部へ照射するという治療方法が行われている。
【0005】
血管腫の治療には色素レーザーが用いられている。波長585nmの光は赤血球のヘモグロビンに吸収される光の中で最も皮膚深部に到達するため、この吸収されたエネルギーが毛細血管に伝わる時間がパルス幅(450μs)として利用されている(例えば、非特許文献3を参照)。但し、治療効果は症例(血管腫の存在する深さ、血管の太さ、血流の速さ、血管壁の厚さ、赤血球密度など)により異なる。これは、585nmの光の皮膚深達度に限界があること、パルス幅450μsに適した太さの血管は限られていること、血流が速いとレーザー光の熱エネルギーが血流によって運び去られてしまうことなどによる。
【0006】
また、母斑を除去するレーザ治療も行われている。母斑は正常組織細胞の中に母斑組織が増殖した状態にあるが、この母斑組織のみを選択的に除去するためにレーザ光が利用されている(例えば、非特許文献4を参照)。母斑には生体色素であるメラニンとヘモグロビンが含まれており、その密度や分布により皮膚の色が決定されている。また、事故により爆薬や砂等が埋入したり、人工的に刺青色素が入り込み変色している場合もある。これらの、色素を多量に含んだ細胞は特定の波長領域の光(一般には可視光)を吸収するため、その色素が吸収するレーザ光を照射することにより、色素または色素を含んだ細胞のみを選択的に除去することが可能である。
【0007】
レーザ光を照射することにより医療レーザ脱毛も行われている。レーザ脱毛においては、毛(白髪以外)に存在するメラニンに吸収される光(脱毛では一般に波長約700〜1000nmが用いられている。)を照射する(例えば、非特許文献5、6を参照)。これにより、吸収されたレーザ光の熱エネルギは毛から毛嚢へと拡散し、follicular stem cellを破壊し、最終的に脱毛をきたす。但しこの際には、皮膚にもメラニンが含まれているため、表皮に障害を与えないようにエネルギ照射量を低くする等の注意が必要である。
【0008】
炭酸ガスレーザ(CO2レーザ)から出力される波長10600nmの光は、そのエネルギの殆どを水に吸収されてしまう。一方、生体の約65%は水であるため、炭酸ガスレーザ光が照射された場合には、反射率が悪く殆ど吸収されるため、一定の効率で生体組織を切離・蒸散することが可能となる。毛細血管等は凝固閉塞されるため出血が少なく、焦点を絞って使用すればメスとしての利用が可能となる(例えば、非特許文献7を参照)。また焦点を少しずらして利用すれば組織を蒸散させることにより、病変を除去することが可能となる。
【0009】
このように、光線療法においてはその症状や用途により様々な波長、強さを持つ光が利用され、その為、多用な光源が用いられている。したがって異なる治療ごとに光線治療器を複数台必要とし、置き場所等に困ることも多い。
【非特許文献1】標準皮膚科学第6版 監修 池田重雄 編集 荒田次郎 西川武二 瀧川雅浩 医学書院 p507表42−3
【非特許文献2】標準皮膚科学第6版 監修 池田重雄 編集 荒田次郎 西川武二 瀧川雅浩 医学書院 p507表42−4
【非特許文献3】標準皮膚科学第6版 監修 池田重雄 編集 荒田次郎 西川武二 瀧川雅浩 医学書院 p510右欄、血管腫
【非特許文献4】皮膚科・形成外科医のためのレーザー治療 編集 渥美 和彦 荒瀬誠治 大城俊夫 中島龍夫 MEDICAL VIEW pp87−88レーザー治療のための母斑の分類、 p147写真
【非特許文献5】標準皮膚科学第6版 監修 池田重雄 編集 荒田次郎 西川武二 瀧川雅浩 医学書院 p511左欄、レーザー脱毛
【非特許文献6】皮膚科・形成外科医のためのレーザー治療 編集 渥美 和彦 荒瀬誠治 大城俊夫 中島龍夫 MEDICAL VIEW pp130−131医療レーザー脱毛、 pp164−165写真
【非特許文献7】最新口腔外科学第4版 監修 塩田重利 富田喜内 編集 榎本昭ニ 岡野博郎 工藤逸郎 道健一 関山三郎 天笠光雄 医歯薬出版株式会社 p413炭酸ガスレーザー
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現代医療においては、生体に照射された光線の波長によって生体の示す反応が異なることを利用した光線療法が広く行われているが、この為には、異なる治療ごとに別々の光線治療器を必要とし、置き場所に困ることも多い。
【0011】
また、人工太陽光のような電球光源を用いる場合には、口腔内のような光線の当てづらい患部への利用に困難をきたすこともある。そこで、本発明は治療法に応じて使い分けられている複数の光源を1つの機械にまとめ省スペース化を図りつつ多機能な機器にする事、更に、光線を照射しづらい患部へも効率良く照射できるようにする事を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)複数の異なる光源からの光を集光し導光する光学系と、集光し導光された光を多重搬送する光ファイバケーブルと、該光ファイバケーブルの先端からの出力光を投影する少なくとも1枚の投影レンズが設置されたハンドピースとを有することを特徴とする光線治療器である。
【0013】
ここで複数の異なる光源としては、人工太陽灯、白色灯、赤色灯、半導体レーザ(LD)、発光ダイオード(LED)、エレクトロルミネッセンス(EL)等の種々のものが採用できる。また光学系は、光を集光するためのレンズや導光する際に用いられるプリズム、反射鏡及び導光を遮蔽するシャッター等を含む概念である。
また光ファイバケーブルとしては、石英、プラスチック樹脂材料等の周知の光学樹脂材料を用いることができる。
さらにハンドピースには、光ファイバケーブルから導光されてきた光を拡散等するためのレンズが設置されており、患部へ光を効率良く照射することができる。このような光の照射によって、例えば、肝炎、脾臓の疾患、腎臓炎、心筋病、甲状腺炎、皮膚炎、アトピー、網膜症、口内炎、大腸炎、鼻炎等の臓器の様々な免疫病の治療に役立つ。
【0014】
(2)少なくとも一の光源から450nmの波長領域を含む光が照射されることを特徴とする(1)記載の光線治療器である。
請求項2に係る光線治療器を利用することにより、細胞に450nmの光を照射するとミトコンドリアのヘム蛋白質が励起されることによって電子伝達系の代謝が亢進される。
【0015】
(3)複数の異なる光源から異なった波長領域の光が照射されることを特徴とする(1)又は(2)記載の光線治療器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る光線治療器を利用することにより、複数の光源を1つの機械にまとめ省スペース化を図ることができる。また必要に応じて複数の異なる波長領域の光を合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明に係る光線治療器の一態様を示す図である。
本治療器は、図示しない第一光源、第二光源、第三光源を内部に収納した筐体1と、筐体1の上面より延出する光ファイバケーブル2から構成されている。筐体の正面には、光源等の射出状況を表示するモニター3と、光線器の電源スイッチ4が配置されている。光ファイバケーブル2の先端には把持部9を有したハンドピース7が形成されている。ハンドピース7の先端には投影レンズ8が設置されている。
【0018】
図2は、図1における光線治療器の制御系についての概念図である。筐体1内には第一光源10、第二光源11及び第三光源12が設置されている。筐体1の正面に配置されているスイッチ4を押し、電源を投入することによって第一光源10、第二光源11及び第三光源12から光エネルギーが供給される。光源の射出口の光路にはシャッター15,16及び17が設置されており、筐体正面のスイッチ18,19,20を押すことにより、シャッタ15,16,17が閉じるようになっている。各光源より射出された光エネルギはプリズム22,23,24によって導出光として光ファイバケーブル2に導光される。光ファイバケーブル2に導光された光エネルギーは、光源から射出された波長を保持しながら光ファイバケーブル2によって図示しないハンドピースに搬送される。
【0019】
ここで第一光源10は、400nm以下の紫外光で発振する1個または複数個の半導体レーザで構成されている。また第二光源11は、400nm〜780nmの範囲で発振する1個または複数個の半導体レーザで構成されている。さらに第三光源12としては、780以上の赤外領域で発振する1個または複数個の半導体レーザで構成されている。なお、各光源は、上記特定ピークとして発光する1個または複数個の発光ダイオードで構成されても良い。
【0020】
かかる光線治療器を用いることにより、癌細胞の増殖を抑制するためには、第一光源10から射出される光のみを患部に照射すればよい。この場合は、シャッター16及び17が閉じた状態にある。またミトコンドリアを励起するためには、第二光源として450nmのソーレー帯の光を患部に照射すればよい。この場合は、シャッター15及び17が閉じた状態にある。また遠赤外線治療を施す場合は、シャッター15及び16を閉じることにより第三光源のみを患部に照射すればよい。さらに第二光源と第三光源を同時に照射することによって、より強力な光を患部に照射することも可能である。
【0021】
図3は、主に光学系を示す概念図である。筐体1内の第一光源10から射出された光エネルギーは第1レンズ30を通してプリズム22で反射する。第二光源11及び第三光源13から射出された光エネルギは、それぞれプリズム23,24で反射する。各反射光は、集光レンズ系34によって集光される。集光された光エネルギーは、集光レンズ系34によってGI型光プラスチック光学樹脂材料等からなる光ファイバケーブル35の光搬送部に導光され多重搬送される。多重搬送された光エネルギは、図示しないハンドピースに設置された投影レンズ8より射出され、患部に照射される。
【0022】
図4は、本発明に係る光線治療器の他の一態様を示す図である。
本治療器は、集光用の2本の光ファイバ40,41と、図示しない光合成器及び射出用の光ファイバケーブル42と、その先端には把持部49を有したハンドピース47が形成されている。ハンドピース47の先端には投影レンズ48が設置されている。光ファイバ40,41のレンズ面には、人工太陽光40[コウケントー1号器(株式会社コウケントー製)]及び蛍光灯42[パワーUVB7.0(ビバリウムグロー社製)]が設置されている。これらの外部光源より適宜必要な光を集光し、筐体50より延出する光ファイバケーブル44から光を射出する。
【0023】
図5は、本発明に係る光線治療器の光ファイバケーブル52に利用できる端面形状の例示を示す図である。例えば(a)は光ファイバケーブル52の端面を球面状にしたものである。(b)は光ファイバケーブル52の端面を板面状にしたものである。光ファイバケーブル52の端面をこのような面状にすることによって、光の集光時には、広い範囲の光を集光することができ、光の照射時には、患部の広い範囲にわたって光を照射することができる。このように光ファイバケーブル52の端面形状は、集光・照射に応じて任意の形状を採用することができる。板面状の大きさ光ファイバケーブル52の線径によって代わるが、例えば、断面形状3〜7cm×3〜7cmの大きさが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る光線治療器の一態様を示す図である。
【図2】図1における光線治療器の制御系についての概念図である。
【図3】光学系を示す概念図である。
【図4】本発明に係る光線治療器の他の一態様を示す図である。
【図5】光線治療器における光ファイバケーブルの端面形状の例示を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1,50 筐体
2,44,52 光ファイバケーブル
7,47 ハンドピース
10 第一光源
11 第二光源
12 第三光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異なる光源からの光を集光し導光する光学系と、集光し導光された光を多重搬送する光ファイバケーブルと、該光ファイバケーブルの先端からの出力光を投影する少なくとも1枚の投影レンズが設置されたハンドピースとを有することを特徴とする光線治療器。
【請求項2】
少なくとも一の光源から450nmの波長領域を含む光が照射されることを特徴とする請求項1記載の光線治療器。
【請求項3】
複数の異なる光源から異なった波長領域の光が照射されることを特徴とする請求項1又は2記載の光線治療器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−217990(P2006−217990A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32485(P2005−32485)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(591107687)
【Fターム(参考)】