説明

光触媒機能塗料および光触媒機能塗装構造

【課題】光触媒機能塗料において、配合された光触媒粒子の光触媒機能を効率的に発揮できるようにして、形成される塗膜の光触媒機能を向上させる。
【解決手段】光触媒粒子を含有し、塗工し乾燥硬化された塗膜が光触媒機能を示す塗料であって、塗料中に固形分を0.2〜10重量%含み、前記固形分中に、無機系エマルジョンバインダー50〜89重量%と、粒径0.001〜3μmの無機微粒子10〜49重量%と、光触媒粒子0.2〜10重量%とを含み、前記塗膜が、透湿性200〜500g/m・24Hr、光線透過率70〜95%(光路長10mm、波長550nm)を示す。基材10、着色塗膜層20、乾燥厚5〜100μmの透明な光触媒機能塗膜層40を備える光触媒機能塗装構造が構成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒機能塗料および光触媒機能塗装構造に関し、詳しくは、光触媒性酸化チタンなどの光触媒機能を有する材料を配合して光触媒機能を付与してなる光触媒機能塗料と、このような光触媒機能塗料を、建築物の壁面などに塗工して形成され、表面の耐汚染性などに優れた光触媒機能塗装構造とを対象にしている。
【背景技術】
【0002】
光が当たると周囲の有機物を分解したりする光触媒機能が発揮される物質として、特定の結晶構造を有する酸化チタンなどが知られている。このような光触媒粒子を配合したコーティング剤は、コーティング膜に汚れが付き難く、付着した汚れも水洗いなどで容易に除去できることが知られている。
光触媒塗膜を、スプレー塗装やローラー塗装などの一般的な塗装方法で作業性良く塗装できるように、光触媒粒子と樹脂バインダーとを配合した塗料が提案されている。塗膜中で光触媒粒子の光触媒機能で樹脂バインダーが分解されたり劣化したりし難いように、樹脂バインダーにアクリルシリコーン樹脂を用いることも提案されている。
【0003】
特許文献1には、アクリルシリコーン樹脂、コロイダルシリカ、チタン酸カリウムウィスカー、酸化チタン、光触媒酸化チタンおよび水を含む水性無機塗料組成物が示されている。コロイダルシリカを配合しておくことで、塗膜に透湿性を付与でき、その結果として、光触媒機能も向上できるとされている。
特許文献2には、建築物内装面の塗装仕上げ方法として、吸放湿塗材を塗布した上に、アミン化合物などの化学物質吸着剤および光触媒物質を含み、水蒸気透過度100g/m・24h以上の塗膜を形成する透湿性塗材を塗付する技術が示されている。透湿性塗材には、バインダーとなる有機質樹脂、着色珪砂などの骨材を配合することによって、必要とされる透湿性が付与できるとされている。
【特許文献1】特開2003−206434号公報
【特許文献2】特開2005−186063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したような従来の光触媒機能塗料は、塗料に含まれる光触媒粒子の光触媒機能が十分に発揮されない。
特許文献1の技術では、光触媒機能塗料に白色顔料であって光触媒機能のない酸化チタンが含まれていて不透明であるため、塗膜の表面に存在する光触媒粒子は外光が到達して光触媒機能を発揮できるが、塗膜の内部に埋もれた状態の光触媒には光が十分に到達せず、光触媒機能が発揮できない。厚みのある塗膜に含まれる光触媒粒子の全量のうち、実際に光触媒機能を発揮するのは、表面に露出するわずかな量の光触媒粒子だけである。
特許文献2の技術でも、着色珪砂などの骨材を大量に含んでいるため、塗膜内部の光触媒粒子には外光が届かず、光触媒機能は発揮されない。
【0005】
本発明の課題は、前記した光触媒機能塗料において、配合された光触媒粒子の光触媒機能を効率的に発揮できるようにして、形成される塗膜の光触媒機能を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる光触媒機能塗料は、光触媒粒子を含有し、塗工し乾燥硬化された塗膜が光触媒機能を示す塗料であって、塗料中に固形分を0.2〜10重量%含み、前記固形分中に、無機系エマルジョンバインダー50〜89重量%と、粒径0.001〜3μmの無機微粒子10〜49重量%と、光触媒粒子0.2〜10重量%とを含み、前記塗膜が、透湿性200〜500g/m・24Hr、光線透過率70〜95%(光路長10mm、波長550nm)を示す。
各構成について具体的に説明する。
〔光触媒粒子〕
目的とする光触媒機能を有していれば、通常のコーティング剤や塗料に使用されている光触媒粒子が使用できる。
【0007】
具体的には、アナタース結晶を有する光触媒性酸化チタン(TiO)のほか、同様の光触媒性を有する酸化亜鉛(ZnO)、酸化ビスマス(Bi)、さらには、BiVO、SrTiO、CdS、InP、InPb、GaP、GaAs、BaTiO、BaTiO、BaTi、KNbO、Nb、Fe、Ta、Ta、KTaSi、WO、SnO、NiO、CuO、SiC、MoS、RuO、CeOなどが挙げられる。複数の光触媒粒子を組み合わせて用いることもできる。
光触媒粒子の粒径は、粒径1〜200nmに設定できる。粒径が大き過ぎると、塗膜の透明性を損なうことがある。
【0008】
〔無機系エマルジョンバインダー〕
通常の塗料に使用されるバインダー材料のうち、有機系樹脂成分のほかに無機系成分を含み、エマルジョン型をなすバインダーを用いる。
アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などのバインダー成分を含むことができる。アクリルシリコーン樹脂は、シリコーンなどの無機成分を1重量%以上含むことが望ましい。
〔無機微粒子〕
無機系エマルジョンバインダーとともに、塗膜に透湿性を付与する機能を有する。
【0009】
無機微粒子として、コロイダルシリカ、チタニアゾル、アルミナゾル、酸化鉄ゾルなどが用いられる。光触媒粒子と混在した状態で光触媒作用を受けて劣化したり分解されたりしない物質が望ましい。
無機微粒子の粒径を、0.001〜3μmに設定する。好ましくは、粒径0.002〜0.1μmである。粒径が小さいほど、塗膜の透明性を良好にした上で透湿性を高めることができる。粒径が小さ過ぎると製造および取り扱いが難しくなる。粒径が大き過ぎると、透明性や透湿性が低下する。
〔光触媒機能塗料〕
各構成成分を配合して光触媒機能塗料が得られる。通常の光触媒機能塗料と同様に、塗工し乾燥硬化させた塗膜が光触媒機能を示す塗料である。
【0010】
塗料は、水や有機溶媒などの液体分と塗膜を構成する固形分とを含む。塗料中に固形分を0.2〜10重量%含む。塗膜を形成するのに十分な量の固形分が含まれている必要がある。固形分量が多くなると、塗工作業性が悪くなることがある。
塗料に含まれる固形分中に、無機系エマルジョンバインダー、無機微粒子、光触媒粒子を含む。組成割合として、無機系エマルジョンバインダーを50〜89重量%、無機微粒子を10〜49重量%、光触媒粒子を0.2〜10重量%に設定できる。好ましくは、無機系エマルジョンバインダーを50〜70重量%、無機微粒子を10〜30重量%、光触媒粒子を1〜5重量%である。
【0011】
上記成分以外に、通常の塗料に配合される各種添加剤を配合しておくこともできる。但し、塗膜の透明性を確保するために、着色剤は配合しない。不透明な骨材も使用しない。添加剤として透明性を阻害する材料もできるだけ使用しない。塗膜の透明性を損なわない範囲で、添加剤の材料とその配合量を設定すればよい。
〔光触媒機能塗膜〕
光触媒機能塗料を塗工し、乾燥硬化させることで、光触媒機能塗膜が形成される。
光触媒機能塗膜は、透湿性が高く、透明性に優れている。具体的には、塗膜の厚みによっても異なるが、通常、透湿性200〜500g/m・24Hrである。好ましくは、透湿性300〜400g/m・24Hrである。透明性を評価する光線透過率70〜95%(光路長10mm、波長550nm)である。好ましくは、光線透過率70〜80%である。
【0012】
〔光触媒機能塗装構造〕
基本的には、基材の表面に塗料を塗工し乾燥硬化させてなり、表面が光触媒機能を示す塗装構造である。
<基材>
基材としては、建築物や装置機器の外面構造を構成する材料であればよい。具体的には、鋼材その他の金属材料、木材、合成樹脂材料、セラミック材料などがある。建築物の壁面を構成する建材として、石膏ボードやセメント硬化板、コンクリート板、木質繊維板などもある。
【0013】
<着色塗膜層>
基材の表面には、着色塗料からなる着色塗膜層が配置される。
着色塗膜層は、通常の塗装構造において、所望の色や色模様を施すために使用されている着色塗料を塗工し乾燥硬化させることで形成される。着色塗料の材料や配合、色などは通常の着色塗料と同様でよい。着色塗料として、有機系着色塗料と無機系着色塗料の何れでも使用できる。後述するバリアー塗膜層を設ければ、光触媒機能に悪影響を受け易い有機系着色塗料も問題なく使用できる。無機系着色塗料であれば、その上に直接に光触媒機能塗膜層を形成することもできる。
【0014】
<光触媒機能塗膜層>
着色塗膜層の表面に、光触媒機能塗料を塗工し乾燥硬化させて光触媒機能塗膜層が形成される。
光触媒機能塗料の塗工は、スプレー塗装やローラ塗装、刷毛塗りなどの通常の塗装手段が適用できる。形成される光触媒機能塗膜層の乾燥厚を5〜100μmに設定する。光触媒機能塗膜層が厚いほど、大量の光触媒粒子を含有して高い光触媒機能を発揮し易くなる。機械的強度や耐久性も向上できる。但し、分厚くなり過ぎると、透明性が低下し易くなり、下層の着色塗膜層が外観的に見え難くなる。
【0015】
<バリアー塗膜層>
着色塗膜層と光触媒機能塗膜層との間に、非透湿性の無機系透明塗料からなるバリアー塗膜層を配置することができる。バリアー塗膜層は、光触媒機能塗膜層の光触媒粒子による光触媒機能で、有機系着色塗料などの光触媒作用を受け易い着色塗膜層に悪影響がおよぶのを阻止する機能を有する。
バリアー塗膜層が非透湿性であれば、光触媒機能塗膜層から着色塗膜層への水分の移行を遮断することができる。水分の存在下で発現する光触媒作用が着色塗膜層に及ぶことを阻止できる。汚れなどの有害物質が水分とともに着色塗膜層に移行し蓄積されるのを防止できる。バリアー塗膜層の透湿性を、100g/m・24Hr以下に設定しておくことができる。
【0016】
バリアー塗膜層を形成する無機系透明塗料としては、通常の光触媒機能塗膜において、光触媒塗料に対する下地塗料として使用されている無機系透明塗料を用いることができる。具体的には、シリコーン系塗料などが挙げられる。固形分中に、シリコーンなどの無機成分を1重量%以上含むシリコーンアクリル樹脂塗料、シリコーン樹脂塗料が好ましい。
バリアー塗膜層の乾燥厚を5〜50μmに設定できる。バリアー塗膜層が分厚いほど、着色塗膜層と光触媒機能塗膜層との隔離遮断が確実になるが、分厚過ぎると、着色塗膜層の着色意匠が塗装構造の外観に現れ難くなる。
バリアー塗膜層の透明性を、光線透過率80〜100%(光路長10mm、波長550nm)に設定しておくことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる光触媒機能塗料は、形成された塗膜が、透湿性および光線透過率に優れたものであることによって、塗膜内に分散された光触媒粒子が、塗膜の外から内部まで効率的に送り込まれた光エネルギーの作用を有効に受けとめることができる。しかも、透湿性の高い塗膜は、塗膜内部の光触媒粒子が、塗膜表面に付着した水や湿気の水分とも有効に接触することで、水の存在下における有機物質などの分解作用や無害化作用を効率的に果すことができる。光触媒機能に必要な光エネルギーと水との両方を、塗膜内に分散された光触媒粒子に有効に作用させることができる。
特に、塗膜の厚みが増えても、光触媒機能に関与しない無駄な光触媒粒子が増えることがないので、塗膜の厚みを増やして光触媒機能を大幅に向上させることができる。
【0018】
その結果、光触媒機能塗料に求められる表面の耐汚染性や洗浄適性などを、格段に向上させることができる。
塗装構造として、基材の表面に、着色塗膜層を介して光触媒機能塗膜層を設けておけば、着色塗膜層の優れた着色意匠が、透明性の高い光触媒機能塗膜層を通して外部から良好に視認され、表面における光触媒機能に加えて、外観意匠性にも優れた塗装構造を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
〔塗装構造〕
図1に示す塗装構造は、建築物の外壁仕上げに使用される外装建材における塗装構造を模式的に表している。
セメント硬化板などからなる基材10の表面に、着色塗膜層20、無機バリアー塗膜層30および光触媒機能塗膜層40を順次塗工形成している。
着色塗膜層20は、通常の建築用塗料の中から、目的とする外観意匠性に合わせた色の塗料を用いて塗工形成される。建築用塗料として、色や種類が豊富な有機系着色塗料を用いることができる。色は、単色である場合、複数色で塗り分けられている場合、多彩色模様が形成されている場合などがある。
【0020】
無機バリアー塗膜層30は、透湿性および通気性を有さず、光触媒機能塗膜層40から着色塗膜層20を隔離遮断して、着色塗膜層20が光触媒作用によって変色したり退色したり劣化したりすることから保護する機能を果たす。基本的には、通常の光触媒塗料の施工時に下地塗料に使用される無機系塗料の中から非透湿性、非通気性があって、光触媒作用も受け難い塗料が使用される。無機バリアー塗膜層30には、着色塗膜層20の色や模様を損なわない透明性に優れた塗料が使用される。
光触媒機能塗膜層40は、光触媒粒子を含有する光触媒機能塗料を塗工して形成される。光触媒粒子による光触媒機能が発揮される。透明性が高いので、光触媒機能塗膜層40および無機バリアー塗膜層30を介して、着色塗膜層20の色や意匠外観が、外部に良好に現出される。また、外光が減衰されることなく光触媒機能塗膜層40の内部まで到達するので、光触媒機能塗膜層40の奥に存在する光触媒粒子にも十分な強さの光エネルギーが与えられて、高い光触媒機能を発揮することになる。光触媒機能塗膜層40が分厚くても、塗膜全体の光触媒粒子が良好な光触媒機能を発揮できる。しかも、光触媒機能塗膜層40は、透湿性が高いので、水分や湿気あるいは空気が光触媒機能塗膜層40の内部まで入り込むことができる。光触媒粒子による光触媒機能は、光触媒粒子の表面が水や気体と接触したときに生じる作用であるから、光触媒粒子に水や外気が接触している状態で光が当たることによって、光触媒粒子が有する本来の光触媒機能が効率的に発揮される。
【0021】
このような塗装構造を有する外装建材は、住宅の外壁などに施工される。屋外空間に露出している光触媒機能塗膜層40は、表面に汚れが付着し難く、しかも、汚れが付着しても雨水や散水などで表面を水が流れるだけで、付着した汚れが自然に洗い流される。自然に洗い流されない汚れであっても、散水したり水拭きを行えば、容易に除去することができる。表面にカビや雑菌、苔などが付着して繁殖することもないので、これらの問題による壁面の汚れも解消される。
〔別の塗装構造〕
図2に示す塗装構造は、基本的には前記実施形態と共通しているが、無機バリアー塗膜層30を備えていない。
【0022】
基材10の表面に着色塗膜層20が塗工形成される点は前記実施形態と共通している。但し、着色塗膜層20を、有機系着色塗料ではなく無機系着色塗料で塗工形成する。無機系着色塗料による塗膜は、光触媒作用による退色や変色、劣化が起こり難い。
着色塗膜層20の表面に、無機バリアー塗膜層30を介さず、直接に光触媒機能塗膜層40が塗工形成されている。光触媒機能塗料は、前記実施形態と同じものが使用できる。
この実施形態でも、前記同様に、施工後の表面に配置される光触媒機能塗膜層40は、表面に汚れが付き難く、付いた汚れも容易に除去される。無機バリアー塗膜層30がなくても、着色塗膜層20が光触媒作用による悪影響を受けることなく、良好な着色意匠を維持することができる。
【実施例】
【0023】
具体的に光触媒機能塗料を製造し、その性能を評価した。
〔光触媒機能塗料〕
<配合材料>
バインダー:「Vセラン#800」(商品名、大日本塗料社製、有機無機複合エマルションクリアー、シリコーン成分60%)。
無機微粒子:「アデライト」(商品名、旭電化工業社製、粒子径0.02μm)。
光触媒粒子:光触媒酸化チタン(石原産業社製、粒子径7nm)。
<塗料の配合>
各材料を混合して、下表に記載された配合の塗料を製造した。塗料の製造工程は常法にしたがった。
【0024】
<塗料の特性>
製造された各塗料について、単独での各特性を測定した。測定方法は常法にしたがった。
塗膜外観:塗膜の外観を観察して評価した。◎は良好、×は不良である。
接触角:塗膜を形成し十分に乾燥した状態(初期)と、UV(紫外線)照射を24時間行なったあとの状態(UV照射後)とのそれぞれで、水の接触角を測定した。
測定結果を下表に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
<評価>
(1) 実施例1の光触媒機能塗料は、光線透過率が十分に高いとともに透湿性も十分に大きなものである。表面の接触角が、UV照射によって格段に低下している。これは、光触媒粒子による超濡れ性が発現していることを裏付ける。
(2) これに対し、比較例1の塗料は、光触媒粒子が配合されていないので、UV照射を行なっても接触角は全く変わらない。光触媒機能は全く有しない。
(3) 比較例2の塗料は、無機微粒子が配合されていないので、透湿性が小さくなっている。そのため、光触媒粒子が配合されていながら、UV照射を行なっても接触角が低下しない。透湿性が十分でないと、光触媒粒子の光触媒機能が発揮できないことを裏付けている。
【0027】
(4) 比較例3の塗料は、光触媒粒子の配合量が多過ぎるために、塗膜が白濁し光線透過率が悪くなってしまっている。このように透明性の悪い塗料では、着色塗膜層の上に施工するクリアー塗膜層としては使用し難い。また、UV照射によって表面の接触角は低下しているので、表面における光触媒機能は発揮されるが、光線が塗膜の内部まで到達しないので、塗膜内部の光触媒粒子が十分に機能しない。
〔光触媒機能塗装構造〕
前記各塗料を用いて、常法により塗装構造を施工した。使用した材料は以下のとおりである。
【0028】
<使用材料>
基材:ACM材「クボタ松下電工外装(KMEW)社製、セメント系ボード」
着色層:「Ac−Si」は、アクリルシリコン樹脂塗料(「Vセラン#600」大日本塗料社製)を用いた。塗膜の乾燥厚み20〜30μmであった。「Ac」は、アクリル樹脂塗料(「Vセラン#300」大日本塗料社製)を用いた。塗膜の乾燥厚み20〜30μmであった。
バリアー層:「Vセラン#300」大日本塗料社製を用いた。塗膜の乾燥厚み5〜20μmであった。
【0029】
トップクリア層:前記実施例および比較例の塗料を使用した。乾燥厚さ10μmであった。
<塗装条件>
着色層、バリアー層およびトップクリア層を順次塗工した。各層の塗工前における基材温度は何れも40〜70℃であった。塗布量は、着色層が110〜130g/m・wet、バリアー層およびトップクリア層が80〜110g/m・wetであった。各層の塗工後の乾燥は、130℃×5〜10分であり、乾燥後の基材温度は60〜90℃であった。
【0030】
<性能評価試験>
得られた塗装構造について、以下の性能評価試験を行なった。
初期付着:JIS−K5400「ゴバン目テープ法」に準じて測定。◎は良好と評価された。
温水二次付着:前記JIS−K5400に準じて測定した。測定条件は、60℃温水浸漬8時間のあと風乾16時間を1サイクルとして、10サイクル行なった後で評価した。◎は良好、△はやや劣ると評価された。
SWOM:前記JIS−K5400に準じて測定した。曝露時間を5000時間に設定した。外観については、◎が良好、×は不良である。×1は、チョ−キング発生、×2は、塗膜浮きを意味する。−は、評価不可であった。
【0031】
S−UV:測定条件を、照射6時間、暗黒2時間、光源100W、散水30秒(照射終了時のみ)に設定した。合計の曝露時間を1000時間に設定した。外観については、◎が良好、×は不良である。×1は、チョ−キング発生、×2は、塗膜浮きを意味する。−は、評価不可であった。
雨筋汚染性:試験片を、屋外で雨の流れ道につづく場所に放置して、雨筋による汚染が生じるか否かを評価した。評価は、◎が良好、×が不良である。

下表に、使用した塗料と、塗装構造における性能を測定した結果を示す。
【0032】
【表2】

【0033】
<評価>
(1) 実施例10の塗装構造は、初期付着、温水二次付着および雨筋汚染性の何れにも高い評価を受けており、光触媒機能が良好に発揮されていることが裏付けられた。
SWOMおよびS−UVについても優れた性能を発揮できており、長期間にわたって優れた耐候性を示すことが実証された。良好な透明性が維持できるので、美麗な塗装仕上がりを持続的に発揮させることができる。
(2) 比較例10は、トップクリア層の塗料(比較例2)が無機微粒子を配合していないので、光触媒機能が十分に発揮できず、雨筋汚染性が良くない。耐候性にも劣る。
【0034】
(3) 比較例11は、トップクリア層の塗料(比較例1)が光触媒粒子を配合していないので、通気性はあっても汚染性に劣るものとなっている。
(4) 比較例12は、バリアー層を設けていないため、耐候性が低下した。トップクリア層の光触媒粒子が、着色層の色褪せなどを起こしたものと推定できる。
(5) 比較例13も、比較例12と同様にバリアー層を設けていないことの欠点が生じている。しかも、着色層がアクリル樹脂塗料であるため、比較例12のアクリルシリコン樹脂塗料よりも、光触媒粒子による劣化が甚だしく、塗膜浮きが生じてしまっている。
(6) 比較例14は、トップクリア層の塗料(比較例3)が光触媒粒子を過剰に配合していて、塗工時点で既にトップクリア層が白濁しているため、着色層の色や意匠が外観に現れず、耐候性試験による色差の変化などを評価することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、例えば、住宅の外壁塗装や外装建材の塗装仕上げに利用される。通常のスプレー塗装や刷毛塗り塗装などで容易かつ効率的に塗装施工ができるとともに、施工された塗膜は優れた光触媒機能を持続的に発揮できる。住宅の外観意匠性を長期間にわたって良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態を表す塗装構造の模式的断面図
【図2】別の実施形態を表す塗装構造の模式的断面図
【符号の説明】
【0037】
10 基材
20 着色塗膜層
30 無機バリアー塗膜層
40 光触媒機能塗膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒粒子を含有し、塗工し乾燥硬化された塗膜が光触媒機能を示す塗料であって、
塗料中に固形分を0.2〜10重量%含み、
前記固形分中に、
無機系エマルジョンバインダー50〜89重量%と、
粒径0.001〜3μmの無機微粒子10〜49重量%と、
光触媒粒子0.2〜10重量%とを含み、
前記塗膜が、透湿性200〜500g/m・24Hr、光線透過率70〜95%(光路長10mm、波長550nm)を示す、
光触媒機能塗料。
【請求項2】
前記無機系エマルジョンバインダーが、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂からなる群から選ばれるバインダー成分を含み、
前記無機微粒子が、コロイダルシリカ、チタニアゾル、アルミナゾル、酸化鉄ゾルからなる群から選ばれ、
前記光触媒粒子が、光触媒性を有する酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ビスマスからなる群から選ばれ、粒径1〜200nmである、
請求項1に記載の光触媒機能塗料。
【請求項3】
基材の表面に塗料を塗工し乾燥硬化させてなり、表面が光触媒機能を示す塗装構造であって、
前記基材の表面に配置され、着色塗料からなる着色塗膜層と、
前記着色塗膜層の表面に配置され、請求項1または2に記載の光触媒機能塗料を塗工し乾燥硬化させてなり、乾燥厚5〜100μmの透明な光触媒機能塗膜層と、
を備える光触媒機能塗装構造。
【請求項4】
前記着色塗膜層が、有機系着色塗料からなり、
前記着色塗膜層と前記光触媒機能塗膜層との間に配置され、非透湿性の無機透明塗料からなり、乾燥厚1〜100μmのバリアー塗膜層をさらに備える、
請求項3に記載の光触媒機能塗装構造。
【請求項5】
前記バリアー塗膜層が、固形分中に無機成分を1重量%以上含むシリコーンアクリル樹脂塗料からなる、
請求項4に記載の光触媒機能塗装構造。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−302851(P2007−302851A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135569(P2006−135569)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】