説明

光触媒系マイクロ反応装置

【課題】光触媒に対して低親和性の原料液体であってもマイクロ流路内で光触媒表面における存在割合を効果的に高めることができ、光触媒反応を更に効率的に進行させることを可能にした光触媒系マイクロ反応装置を提供すること。
【解決手段】反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、マイクロ流路に反応原料を送り込む原料送り込み手段と、マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、を備えた光触媒系マイクロ反応装置において、前記反応原料が、気体原料と、光触媒に対して低親和性の有機液体原料または光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料である場合に対して、前記原料送り込み手段は、前記有機液体原料または前記有機溶液原料が前記マイクロ流路の内面に沿って流れ、気体原料が中央部を流れる状態のパイプフローを形成可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性材料より成り、反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、前記マイクロ流路に反応原料を送り込む原料送り込み手段と、前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、前記光触媒の層に光を照射する光照射手段とを備えた光触媒系マイクロ反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒を用いた光触媒化学反応では、例えばバッチ方式のマクロ反応装置の場合には光触媒粉末をマクロ反応容器の原料液体中に懸濁させて反応を行うため、懸濁している光触媒粉末によって光が散乱し、また溶媒や反応生成物が前記反応容器中に増えていくことに基づく光子の減衰、更には反応生成物が結晶化するものである場合にはその結晶物による光子の減衰によって、光触媒反応を効率的に進行させる上で限界があった。そして、反応後に光触媒を反応生成物から分離する作業が必要であるため操作が煩雑であった。
【0003】
上記各問題を解決するために、光透過性材料より成り、反応原料液体が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、前記マイクロ流路に反応原料液体を送り込む原料送り込み部と、前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、前記光触媒の層に光を照射する光照射部とを備えた光触媒系マイクロ反応装置が提案されている(特許文献1)。特許文献1の光触媒系マイクロ反応装置は、原料液体を光触媒層を有する微細なマイクロ流路を通過させつつ、該原料液体中に含まれる反応分子を光触媒反応させることができるので、上記バッチ方式の反応装置の問題を改善し、光触媒反応を効率的に進行させることが可能になった。
【特許文献1】特開2005−279595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の光触媒系マイクロ反応装置は、原料液体は光触媒と親和性の高いものを用いるという前記バッチ方式の延長線上の考え方で提案されているため、具体的には二酸化チタン触媒の場合、非プロトン性の極性の低い原料、すなわち二酸化チタン触媒に対して低親和性の原料液体については、親水性の高い溶媒に溶解させて親水性の原料溶液として前記マイクロ流路を流通させて光触媒反応をさせている。そのため、光触媒反応をさせる原料分子の光触媒表面における存在割合を高めるには限界があった。
【0005】
本発明の課題は、光触媒に対して低親和性の原料液体であってもマイクロ流路内で光触媒表面における存在割合を効果的に高めることができ、光触媒反応を更に効率的に進行させることを可能にした光触媒系マイクロ反応装置を提供することにある。
【0006】
また、光触媒に対して低親和性の原料液体中で光触媒反応によって生成した生成物が前記反応原料液体よりも親水性である場合に、その生成物をマイクロ流路の下流側において効果的に分離抽出することができる抽出用マイクロ流路を備えた光触媒系マイクロ反応装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様に係る光触媒系マイクロ反応装置は、光透過性材料より成り、反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、前記マイクロ流路に反応原料を送り込む原料送り込み手段と、前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、を備えた光触媒系マイクロ反応装置であって、前記反応原料が、気体原料と、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料である場合に対して、前記原料送り込み手段は、前記有機液体原料または前記有機溶液原料が前記マイクロ流路の内面に沿って流れ、前記気体原料が中央部を流れる状態のパイプフローを形成可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明によれば、前記反応原料が、気体原料と、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料である場合に対して、前記原料送り込み手段は、前記有機液体原料または前記有機溶液原料が前記マイクロ流路の内面に沿って流れ、前記気体原料が中央部を流れる状態のパイプフローを形成可能に構成されている。従って、反応原料の一方である気体原料を利用してパイプフローを形成することで前記光触媒に対して親和性の低い前記有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料であっても、その全量を強制的に光触媒層の表面近傍に局在させてマイクロ流路を層流状態で通過させることができる。
【0009】
すなわち、光触媒と親和性の高い溶媒を用いること無く、光触媒に対して親和性の低い前記有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料について、その全量を光触媒層の表面近傍に局在させた状態でマイクロ流路を通過させることができる。これにより、当該気体原料も光触媒層の近傍で前記有機液体原料または前記有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料と接触することになるので、当該光触媒反応を高効率で進行させることができる効果が得られる。
【0010】
本発明の第2の態様に係る光触媒系マイクロ反応装置は、前記第1の態様の光触媒系マイクロ反応装置において、前記光触媒の層は前記マイクロ流路の内面の全面に設けられていることを特徴とするものである。本発明によれば、マイクロ流路の内面の全面に光触媒の層が設けられているので、光触媒反応を効率的に行うことができる。
【0011】
本発明の第3の態様に係る光触媒系マイクロ反応装置は、光透過性材料より成り、反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、前記マイクロ流路に反応原料を送り込む原料送り込み手段と、前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、前記光触媒の層に光を照射する光照射手段と、を備えた光触媒系マイクロ反応装置であって、前記反応原料が、気体原料と、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料である場合に対して、前記原料送り込み手段は、前記有機液体原料または前記有機溶液原料が前記マイクロ流路の内面に沿って流れ、前記気体原料が中央部を流れる状態のパイプフローを形成可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明によれば、第1の態様と同様の作用効果が得られるとともに、光照射手段によって、用いられる光触媒やマイクロは流路において行う反応に応じて、適切な波長の光を効率的に照射することができる。
【0013】
本発明の第4の態様に係る光触媒系マイクロ反応装置は、前記第3の態様の光触媒系マイクロ反応装置において、前記光触媒の層は前記マイクロ流路の内面の全面に設けられ、前記光照射手段は前記マイクロ反応器の外部に設けられていることを特徴とするものである。本発明によれば、光触媒に対する光照射を効率的に行うことができる。
【0014】
本発明の第5の態様に係る光触媒系マイクロ反応装置は、前記第3の態様または第4の態様の光触媒系マイクロ反応装置において、前記光照射手段は、光源として200nm〜400nmの紫外線を主に放射する発光ダイオードを備えていることを特徴とするものである。本発明によれば、光照射手段の光源として発光ダイオードを用いているので、光触媒系マイクロ反応装置の省スペース化と低フォトンコストを実現することができる。
【0015】
本発明の第6の態様に係る光触媒系マイクロ反応装置は、前記第1の態様から第5の態様のいずれか一つの光触媒系マイクロ反応装置において、前記気体原料は二酸化炭素であることを特徴とするものである。
本発明によれば、第1の態様と同様の作用効果に加えて、二酸化炭素を気体原料として前記マイクロ流路内でパイプフローを形成するので、光触媒に対して低親和性の有機液体原料との間で有用な化合物を得る光合成反応を高効率で進行させることができる。
【0016】
本発明の第7の態様に係る光触媒系マイクロ反応装置は、前記第1の態様から第5の態様のいずれか一つの光触媒系マイクロ反応装置において、更に、前記マイクロ流路の出口に連通された抽出用マイクロ流路を備え、該抽出用マイクロ流路は、光触媒反応の生成物が前記反応原料より親水性である場合に対して、水系液体と合流されて両液体の接触面を境界にして2層の液体が層流状態で流通されて、前記光触媒反応の生成物が前記反応原料中から前記接触面を介して前記水系液体中に移れるように構成されていることを特徴とするものである。
ここで、「水系液体」とは水の他にメタノール等の親水性の液体を総て含む意味で使われている。
【0017】
本発明によれば、パイプフローを形成した光触媒反応の生成物が前記反応原料より親水性である場合に、マイクロ流路の出口から抽出用マイクロ流路に送られ、水系液体と層流状態で合流されて、前記生成物が前記反応原料中から前記接触面を介して前記水系液体中に移れるように構成されているので、マイクロ流路内で光触媒反応で生成した生成物を、直ちに且つ容易にマイクロ流路内と同じ流速を維持した状態で安定して反応原料中から分離抽出することができる。すなわち、改めて分離抽出する煩雑さの問題が無い。
【0018】
本発明の第8の態様に係る光触媒系マイクロ反応装置は、光透過性材料より成り、反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、前記マイクロ流路に反応原料を送り込む送り込み手段と、前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層とを備えた光触媒系マイクロ反応装置であって、更に、前記マイクロ流路の出口に連通された抽出用マイクロ流路を備え、前記反応原料が、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料であり、光触媒反応の生成物が前記反応原料より親水性である場合に対して、前記抽出用マイクロ流路は、水系液体と合流されて両液体の接触面を境界にして2層の液体が層流状態で流通されて、前記反応生成物が前記反応原料中から前記接触面を介して前記水系液体中に移れるように構成されていることを特徴とするものである。
【0019】
本発明においても、マイクロ流路の出口から抽出用マイクロ流路に送られ、水系液体と層流状態で合流されて、前記生成物が前記反応原料中から前記接触面を介して前記水系液体中に移れるように構成されているので、マイクロ流路内で光触媒反応で生成した生成物を、直ちに且つ容易にマイクロ流路内と同じの流速を維持した状態で安定して反応原料中から分離抽出することができる。すなわち、改めて分離抽出する煩雑さの問題が無い。
【0020】
本発明の第9の態様に係る光触媒系マイクロ反応装置は、光透過性材料より成り、反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、前記マイクロ流路に反応原料を送り込む送り込み手段と、前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、前記光触媒の層に光を照射する光照射手段とを備えた光触媒系マイクロ反応装置であって、更に、前記マイクロ流路の出口に連通された抽出用マイクロ流路を備え、前記反応原料が、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料であり、光触媒反応の生成物が前記反応原料より親水性である場合に対して、前記抽出用マイクロ流路は、水系液体と合流されて両液体の接触面を境界にして2層の液体が層流状態で流通されて、前記反応生成物が前記反応原料中から前記接触面を介して前記水系液体中に移れるように構成されていることを特徴とするものである。
【0021】
本発明によれば、第8の態様と同様の作用効果が得られるとともに、光照射手段によって、用いられる光触媒やマイクロは流路において行う反応に応じて、適切な波長の光を効率的に照射することができる。
【0022】
本発明の第10の態様に係る光触媒系マイクロ反応装置は、前記第1の態様から第9の態様のいずれか一つの光触媒系マイクロ反応装置において、前記光触媒は、二酸化チタンであることを特徴とするものである。本発明によれば、二酸化チタンによって高い光触媒活性が得られる。
【0023】
本発明の第11の態様に係るカルボン酸製造方法は、カルボン酸用原料から酸化反応工程を経て最終的にカルボン酸を製造するカルボン酸製造方法であって、前記酸化反応工程の少なくとも一部の工程を、第1の態様または第3の態様の光触媒系マイクロ反応装置を用いて行うことを特徴とするものである。
【0024】
カルボン酸用原料から酸化反応工程を経て最終的にカルボン酸を製造するカルボン酸製造方法は、従来は硝酸、過マンガン酸塩、重クロム酸塩等の酸化剤を用いて且つ大規模な反応容器で行われている。従って、酸化剤は大量に供される。
本発明によれば、この多段階の反応の少なくとも一部の工程を第1の態様または第3の態様の光触媒系マイクロ反応装置を用いて行うので、前記酸化剤の使用量を大幅に低減する又は無しにすることができる。
【0025】
本発明の第12の態様に係る光触媒反応方法は、光透過性材料より成り、反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、前記マイクロ流路に反応原料を送り込む送り込み手段と、前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、を備えた光触媒系マイクロ反応装置を用いて行う光触媒反応方法であって、前記送り込み手段から、反応原料として、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料を送り込んで反応を行わせることを特徴とするものである。
【0026】
本発明によれば、前記反応原料が、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料であっても、マイクロ流路内で光触媒との高い比表面積を持った反応系が実現でき、光触媒反応を高効率で進行させることができる効果が得られる。
【0027】
本発明の第13の態様に係る光触媒反応方法は、光透過性材料より成り、反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、前記マイクロ流路に反応原料を送り込む送り込み手段と、前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、前記光触媒の層に光を照射する光照射手段と、を備えた光触媒系マイクロ反応装置を用いて行う光触媒反応方法であって、前記送り込み手段から、反応原料として、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料を送り込んで反応を行わせることを特徴とするものである。
本発明によれば、第12の態様と同様の作用効果が得られるとともに、光照射手段によって、用いられる光触媒やマイクロは流路において行う反応に応じて、適切な波長の光を効率的に照射することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、反応原料の一方である気体原料を利用してパイプフローを形成することで前記光触媒に対して親和性の低い前記有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料であっても、その全量を強制的に光触媒層の表面近傍に局在させてマイクロ流路を層流状態で通過させることができる。すなわち、光触媒と親和性の高い溶媒を用いること無く、光触媒に対して親和性の低い前記有機液体原料または有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料について、その全量を光触媒層の表面近傍に局在させた状態でマイクロ流路を通過させることができる。これにより、当該気体原料も光触媒層の近傍で前記有機液体原料または有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料と接触することになるので、当該光触媒反応を高効率で進行させることができる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(実施例1)
本発明の実施形態の一例を図1〜図4を用いて説明する。
図1は、本発明に係る光触媒系マイクロ反応装置の第1の実施例を示す斜視図である。図2は、本発明に係る光触媒系マイクロ反応装置の第1の実施例を示す断面図である。図3は、図2のA部のI−I断面の拡大図であり、マイクロ流路中におけるパイプフロー状態を示す図である。図4は図2のII−II断面図を示す図である。
【0030】
本実施例に係る光触媒系マイクロ反応装置1は、図1および図2に示されるように、パイレックス(登録商標)または石英の基板2と天板3とを接合させて構成されている。前記基板2表面には、エッチング、または機械加工によって幅500μm、深さ10−500μm、長さ50mmの溝6が形成されている。前記溝6には、図4のように光触媒の層5が形成されている。本実施例においては、前記光触媒として酸化チタン(TiO)が用いられる。該光触媒は勿論酸化チタンに限定されない。前記光触媒の層5が形成された溝6を備えた基板2と天板3とを接合することによって、マイクロ流路4が構成される。当該天板3のマイクロ流路4の上面を成す部分には光触媒の層5を形成せず、図4のようにマイクロ流路4の側壁面と底面にのみに光触媒が設けられている。このことによって、該天板3の上面に後述する光照射手段を設け、光触媒に効率よく光を照射することができる。また、可視光応答性光触媒を用いれば、光触媒の励起光源として太陽光を利用することが可能である。
【0031】
基板2に設けられた溝6の一端には、マイクロ流路4に原料を供給するための第1の供給口11が設けられている。また、天板3には、前記基板2と接合したときに、前記第1の供給口11とほぼ対向する位置に、第2の供給口12が設けられている。更に、前記天板3には、マイクロ流路4を通過した反応液が取り出される取り出し口13が設けられている。
【0032】
前記第1の供給口11および前記第2の供給口12は、一方が気体原料の供給口として用いられ、もう一方が低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料の供給口として用いられる。
また、第1の供給口および第2の供給口にはチューブコネクタ18が設けられ、マイクロチューブ14、15を介してシリンジポンプ16、17等の原料送り込み手段に接続されており、前記有機液体原料等がマイクロ流路4の内面に沿って流れ、前記気体原料が中央部を流れる状態のパイプフローを形成するように、前記気体原料および前記有機液体原料等の供給速度を調整できるように構成されている。マイクロ流路4を通過した反応液は、取り出し口13から取り出される。
【0033】
光反応を誘起するために光触媒の層5に光を照射する光照射手段としては、光源として紫外発光ダイオード19(主波長:365nm、出力:9.8mW)を用いた光照射装置8を用いことが望ましい。光照射装置8の光源として発光ダイオードを用いることによって、光触媒系マイクロ装置1の省スペース化と低フォトンコストを実現することができる。前記光照射装置8は、光が天板3の上面に設けられ、前記紫外発光ダイオード19がマイクロ流路4に沿って直列に並べられて配置されている。
尚、前記光触媒の層5に可視光応答性光触媒を用いた場合には、光触媒の励起光源として太陽光を利用することが可能であるため、光照射装置8のない構成とすることができる。
【0034】
尚、図5は図4によって説明した光触媒の層5が形成されたマイクロ流路4の変形例である。すなわち、天板3のマイクロ流路4の上面を成す部分に光触媒の層5を形成し、マイクロ流路4全面に光触媒を設けることもできる。この場合には、該光触媒の層5は、光照射装置8によって照射される光を透過する程度に薄く形成されることが望ましい。このように、前記光触媒がマイクロ流路4の全面に設けられている場合には、基板2下面側に更に光照射装置(図示せず)を設け、マイクロ流路4の上面および下面から光が照射されるように構成することが好ましい。また、該光触媒をマイクロ流路4の全面に形成する場合には、当該光触媒の層5をスリット状に形成し、光照射装置8によって照射される光をイクロ流路4内まで透過し易くすることもできる。
【0035】
以上のような光触媒系マイクロ反応装置1を用い、第1の供給口11から供給する気体原料として酸素、第2の供給口12から供給する光触媒に対して低親和性の有機液体原料としてトルエンを用いて反応を行った。
トルエンの流速を7μl/min(マイクロリットル/分)に設定し、酸素の流速を調整して、前記マイクロ流路4内において、図3に示すようなパイプフローを形成させ、前記紫外発光ダイオード19による光照射を行った。酸素の流速を0(パイプフロー現象なし)、175、350、525、700、875μl/minに設定し、取り出し口13から取り出した反応液をガスクロマトグラフィーに供し、反応液中の生成物の量を測定した。その結果を図6に示す。
【0036】
酸素の流速を0、すなわちパイプフロー現象を形成していない状態では、ベンズアルデヒドとベンジルアルコールが生成した。酸素を供給し、パイプフロー現象を形成させると、ベンズアルデヒドおよびベンジルアルコールに加えて、酸素を流通させない場合には生成が認められなかったo−クレゾール、m−クレゾール、および、p−クレゾール(特にo−クレゾール)が生成することが確認された。酸素の流速を早くすると、パイプフロー形成により前記マイクロ流路への滞留時間も短くなる。すなわち、図6の結果は、酸素の流速の増大とともに単位時間当たりの反応率が上昇し、効率よく反応が行われていることを示している。
【0037】
本実施例における、反応液のマイクロ流路内への滞留時間は、LEVYによるパイプフローの気液間運動量交換のモデルを用いて計算することができる。この計算によると、酸素の流速が0である場合の反応溶液のマイクロ流路内での滞留時間は107.1秒であるが、酸素の流速が700μl/minである場合の滞留時間は15.4秒、875μl/minである場合は約12.8秒であり、極めて短い時間でトルエンが酸化され、ベンズアルデヒドおよびo−クレゾールが生成していると言える。
すなわち、反応原料の一方である酸素を利用してパイプフローを形成することで前記光触媒に対して親和性の低いトルエンであっても、その全量を強制的に光触媒層5の表面近傍に局在させてマイクロ流路を層流状態で通過させることができるため、光触媒と親和性の高い溶媒を用いる必要が無い。これにより、酸素も光触媒層5の近傍でトルエンと接触することになるので、当該光触媒反応を高効率で進行させることができる。
【0038】
トルエンのような非プロトン性の極性の低い溶媒に対しては、光触媒である酸化チタンの親和性が著しく低いため、従来は、アセトニトリル溶液に少量のトルエンを溶解し、該トルエン含有アセトニトリル溶液を用いてトルエンの酸化反応実験が行われていた。本発明の光触媒系マイクロ反応装置1によって、光触媒に対して親和性の低い原料液体に対して高い比表面積を有する反応系が実現可能となり、当該トルエンの酸化反応を高効率で行うことができる。更に、本実施例においては、従来の反応系では起こらなかった反応(o−クレゾールを生成させる反応)が観測された。このことによって、新規な反応を実現することができる可能性があると言える。
【0039】
また、トルエンの酸化反応では、前記マイクロ流路4の長さを長く設定し、光反応時間を長くすることによって、トルエン→ベンズアルデヒドの反応に続いて更に酸化反応を進行させ、安息香酸を生成させることも可能である。
また、反応原料としてのトルエンを、n−ヘキサン等の光触媒に対して低親和性の他の有機溶媒に溶解させた反応溶液をマイクロ流路4に流通させ、酸素によってパイプフローを形成させることによっても、当該反応溶液を強制的に光触媒層5の表面近傍に局在させてマイクロ流路4を層流状態で通過させることができ、光触媒反応を高効率で進行させることができる。
【0040】
以上説明したトルエンの酸化反応のほか、本実施例に係る光触媒系マイクロ反応装置1を用いれば、様々な有用な反応を効率よく行うことができる。例えば、ベンゼンの直接酸化によるフェノールの合成(反応例1−1)や、シクロヘキサンの酸化によるナイロン合成中間体の製造(反応例1−2)などが挙げられる。
【0041】
<反応例1−1>
フェノールの工業的な合成は、通常、ベンゼンを原料として、3段階の反応からなるクメン法という反応によって行われている。この反応は、多くのエネルギーを必要とする上、有害な副生成物が多く発生するため環境への負荷が大きいという問題がある。したがって、ベンゼンを1段階の反応で直接酸化させてフェノールを合成することができれば、抵コスト且つ環境負荷が小さい製造方法として有用である。
【0042】
光触媒、例えば酸化チタンを用いれば、ベンゼンを直接酸化してフェノールが生成するが、酸化チタン等の光触媒はベンゼン等の親油性の有機化合物原料と馴染まない。したがって、親水性の光触媒である酸化チタンの一部を親油性に変え、親水性および親油性を併せ持った特殊な触媒粒子を合成し、原料であるベンゼンと水との界面に酸化チタンが配列されるようにすることによって、光触媒(酸化チタン)によるベンゼンの酸化を行うことが研究されている。
【0043】
このベンゼンの酸化反応に、本実施例に係る光触媒系マイクロ反応装置1を用い、有機液体原料としてベンゼン、気体原料として酸素を送り込み、酸素のパイプフローを形成することによって、ベンゼン全量を強制的に光触媒層5の表面近傍に局在させてマイクロ流路を層流状態で通過させ、酸素も光触媒層5の近傍でベンゼンと接触することになるので、ベンゼンの酸化反応を高効率で進行させることができる。したがって、前述のような親水性および親油性を併せ持った特殊な触媒を用いなくても、工業原料として有用なフェノールがベンゼンからの1段階の反応によって直接得られると期待される。
【0044】
<反応例1−2>
シクロヘキサノンはナイロンの原料となるε−カプロラクタム合成のための重要な中間体であり、工業的にはシクロヘキサン酸化法やフェノール水素化法を用いて製造されている。これらの製造方法には、酸化過程で高次酸化物が生成するため環境負荷が大きい、原料コストが高い、などの問題がある。
【0045】
また、前記製造方法によって得られるのはKAオイルと呼ばれるシクロヘキサノンとシクロヘキサノールの混合物であり、これをε−カプロラクタム合成に用いるためには、KAオイル中のシクロヘキサノールの脱水素化というプロセスが必要であるが、このプロセスもエネルギー負荷が大きい問題がある。
【0046】
ここで、光触媒反応を用いれば、シクロヘキサンからシクロヘキサノンを選択的に合成できることが明らかとなっている。本実施例に係る光触媒系マイクロ反応装置1を用い、有機液体原料としてシクロヘキサン、気体原料として酸素を用いてパイプフローを形成させれば、光触媒の大きな比表面積、および高い相間の物質移動の効率により、反応効率が向上することに加え、ヘキサン等の飽和炭化水素(光触媒に対して低親和性)への酸素の溶解度は、水やアルコール等の親水性溶媒(光触媒に対して高親和性)に比べて大きいため、シクロヘキサン中の酸素濃度を高くすることができる。
【0047】
また、酸素のパイプフローを形成させることによって、シクロヘキサン中に常に酸素が供給されているため、光触媒の近傍で酸素が使われて局所的に酸素濃度が低下するような問題が生じにくい。
【0048】
実際に、幅500μm、深さ300μmのマイクロ流路を備え、底面及び側面に酸化チタンを担持させた光触媒系マイクロ反応装置に、シクロヘキサンと酸素を送り込み、液相の厚みが20μmになるようにパイプフローを形成させ、光照射(450mW、UV−LED[365nm])を行ったところ、70秒の反応時間によって15%の転化率でシクロヘキサンが他の化合物に変換された。すなわち、シクロヘキサンの酸化反応が極めて高効率で行われていると言える。
【0049】
このようにシクロヘキサンを効率よく反応させ、選択的にシクロヘキサノンを生成させることによって、環境負荷が小さく、且つ低コストでシクロヘキサノンを製造することが可能になると期待される。
【0050】
(実施例2)
次に、本発明の実施形態の他の一例について説明する。
実施例2は、二酸化炭素を気体原料として前記マイクロ流路内でパイプフローを形成し、該二酸化炭素を、光触媒に対して低親和性の有機液体原料または光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料で還元する反応例である。本実施例には、実施例1の光触媒系マイクロ反応装置1を用いることができる。気体原料である二酸化炭素は第1の供給口11から供給される。第2の供給口12から供給される光触媒に対して低親和性の有機液体原料としては、n−ヘキサン、1−デセン、トルエン、ベンゼン等が挙げられる。
【0051】
通常、酸化チタンを分散させた中で二酸化炭素の光還元を行うと、その還元生成物の選択性は溶媒の誘電率に大きく依存し、誘電率の低い溶媒ではギ酸イオン(HCOO)が選択的に生成され、誘電率の高い溶媒では一酸化炭素(CO)のみが生成されることが知られている。
【0052】
本発明の光触媒系マイクロ反応装置1を用いることによって、光触媒である酸化チタンに対して低親和性の有機液体原料中において、二酸化炭素の光還元を行うことができる。すなわち、酸化チタンを分散させることができない飽和炭化水素(n−ヘキサン等)や四塩化炭素などの低誘電率の非プロトン性溶媒を用いて光還元を行うことができる。このことによって、前記ギ酸イオン生成の選択性の向上と、新規な反応の実現が可能であり、光触媒に対して低親和性の有機液体原料との間で有用な化合物を得る光合成反応を行う人工光合成装置として利用することが可能である。
【0053】
(実施例3)
本発明の実施形態の他の一例を図7および図8を用いて説明する。
図7は、本発明に係る光触媒系マイクロ反応装置の第3の実施例を示す斜視図である。図8は、図7の光触媒系マイクロ反応装置のマイクロ流路の要部拡大図である。
本実施例に係る光触媒系マイクロ反応装置21は、図7に示されるように、パイレックス(登録商標)または石英の基板22と天板23とを接合させて構成されている。前記基板22表面には、エッチング、または機械加工によって深さ10−500μmの溝が形成されている。該溝は、図8に示されるように、反応用マイクロ流路24と、該反応用マイクロ流路24の出口28に連通された抽出用マイクロ流路26を構成するものである。
【0054】
本実施例における反応用マイクロ流路24の流路幅は500μm、流路長は50mmである。また、抽出用マイクロ流路26の流路幅は、前記反応用マイクロ流路24よりも幅広に設定されることが好ましく、前記反応用マイクロ流路24の約2倍の幅に設定されることが好ましい。また、抽出用マイクロ流路26の流路長は、40mmに設定されている。前記反応用マイクロ流路24および前記抽出用マイクロ流路26の流路長は、特に制限されるものではなく、光触媒系マイクロ反応装置21において行う反応に応じて設定することができる。
【0055】
前記反応用マイクロ流路24の入口側、すなわち上流側には、反応用マイクロ流路24に原料を供給するための第1の供給口用溝31と、第2の供給口用溝32とが形成されている。反応用マイクロ流路24の出口28の近傍には、該出口28に連通された抽出用マイクロ流路26に流通させる水系液体を供給するための、第3の供給口用溝33が形成されている。抽出用マイクロ流路26の下流側には、前記反応用マイクロ流路24を通過した反応液が取り出される第1の取り出し口用溝34と、前記水系液体を取り出すための第2の取り出し口用溝35とが形成されている。
【0056】
前記反応用マイクロ流路24を成す領域の溝には、光触媒として酸化チタン(TiO)の層25が形成されている。光触媒は勿論酸化チタンに限定されない。また、可視光応答性光触媒を用いれば、光触媒の励起光源として太陽光を利用することが可能である。当該基板22と天板23とを接合することによって、反応用マイクロ流路24が構成される。該光触媒の層25は、実施例1の場合と同様、反応用マイクロ流路24の全面に設けられるように、天板23側にも形成されていてもよい。また、該光触媒層25がスリット状に形成され、光照射装置(図示せず)や太陽光によって照射される光を反応用マイクロ流路24内まで透過し易くするように構成されていてもよい。
【0057】
前記天板23には、前記基板22に設けられた第1〜第3の供給口用溝31、32、33、および、第1、第2の取り出し口用溝34、35の端部に対向する位置に、第1〜第3の供給口41、42、43、および、第1、第2の取り出し口44、45が設けられている。
第1の供給口41および第2の供給口42は、一方が気体原料の供給口として用いられ、もう一方が光触媒に対して低親和性の有機液体原料または光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料の供給口として用いられる。第1の供給口41および第2の供給口42はマイクロチューブ46を介してシリンジポンプ等の原料送り出し手段(図示せず)に接続されており、前記有機液体原料等が反応用マイクロ流路24の内面に沿って流れ、前記気体原料が中央部を流れる状態のパイプフローを形成するように、該気体原料および該有機液体原料等の供給速度を調整できるように構成されている。
【0058】
第3の供給口43も同様にマイクロチューブ47を介してシリンジポンプ等の水系液体送り出し手段(図示せず)に接続されており、反応用マイクロ流路25に合流する抽出用マイクロ流路26に流通させる水系液体が、反応用マイクロ流路24を流通する反応液と層流を形成して流通するよう該水系液体の供給速度を調整できるように構成されている。
【0059】
すなわち、抽出用マイクロ流路26は、反応用マイクロ流路24における光触媒反応の生成物が前記反応原料より親水性である場合に対して、水系液体と合流されて両液体の接触面27を境界にして2層の液体が層流状態で流通されて、前記光触媒反応の生成物が前記反応液中から前記接触面27を介して前記水系液体中に移れるように構成されている。
【0060】
前記2層は、抽出用マイクロ流路26を通過した後、反応液が取り出し口44から取り出され、水系液体が取り出し口45から取り出されて分離される。
光触媒反応を誘起するために光触媒層25に光を照射する光照射手段としては、実施例1と同様に、紫外発光ダイオードを用いた光照射装置が天板23上面に設けられる。
【0061】
以上のような光触媒系マイクロ反応装置21を用い、第1の供給口41から気体原料として酸素を、第2の供給口42から光触媒に対して低親和性の有機液体原料としてトルエンを供給し、反応用マイクロ流路24内においてパイプフローを形成させて光反応を行うと、実施例1と同様にトルエンの酸化反応により主生成物としてベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、o−クレゾール、m−クレゾール、および、p−クレゾール(以下、クレゾールと記載する場合は、オルト体、メタ体、パラ体すべてを含むものとする)が生成する。
【0062】
ベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、およびクレゾールは、反応原料であるトルエンよりも親水性であり、アルコールやエーテルのような水系溶媒に可溶である。
したがって、前記反応用マイクロ流路24において、トルエンと酸素によるパイプフローを用いた光触媒反応が行われ、ベンズアルデヒド等の生成物が生成された後、抽出用マイクロ流路26にアルコール、エーテル等の水系溶媒を流すと、反応用マイクロ流路24を通過した反応溶液と前記水系液体とが合流し、両液体の接触面27を境界にして2層の液体が層流状態で流通されることによって、前記光触媒反応の生成物であるベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、およびクレゾールがトルエン中から前記接触面27を介して前記水系液体中に移って抽出される。このことによって光触媒反応によって生じた生成物を原料溶媒であるトルエンから、直ちに且つ容易に反応用マイクロ流路24内と同じ流速を維持した状態で安定して反応原料中から分離抽出することができる。すなわち、改めて分離抽出する煩雑さの問題が無い。
【0063】
尚、ベンジルアルコールはクレゾールよりも水系溶媒への溶解性が高く、また、クレゾールはベンズアルデヒドよりも水系溶媒に対する溶解度が高い。特に、水に対する溶解度の差は顕著である。このことを利用し、抽出用マイクロ流路26に水を流通させることによって、主生成物であるベンズアルデヒドをトルエン中に残し、ベンジルアルコールおよびクレゾールを水層中に抽出し、反応溶液中から分離することも可能である。また、水系溶媒に対するベンジルアルコールとクレゾールの溶解性の差を利用し、ベンジルアルコールおよびクレゾールを分離することも可能である。
【0064】
また、反応原料としてのトルエンを、n−ヘキサン等の光触媒に対して低親和性の他の有機溶媒に溶解させた反応溶液をマイクロ流路に流通させ、酸素によってパイプフローを形成させて光触媒反応を行った場合も、同様の操作を行うことによって生成物の分離を行うことができる。
【0065】
(実施例4)
本発明の実施形態の他の一例について説明する。
実施例4には、実施例3の光触媒系マイクロ反応装置21が用いられる。本実施例の反応原料としては、光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に溶解させた反応原料が用いられる。反応原料が、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料であっても、反応用マイクロ流路24内で光触媒との高い比表面積を持った反応系が実現できるので、光触媒反応を高効率で進行させることができる。
【0066】
<反応例4−1>
前記有機液体原料としては、トルエンが挙げられる。トルエンを図7または図8に示される光触媒系マイクロ反応装置21の反応用マイクロ流路24に流通させ、光触媒反応を行うと、有機液体原料であるトルエン中の溶存酸素によってトルエンが酸化され、反応液中にはベンズアルデヒドおよびベンジルアルコールが生成される。
【0067】
本実施例においても、反応用マイクロ流路24の出口から反応液が抽出用マイクロ流路26に送られ、水系液体と層流状態で合流されて、前記生成物が前記反応原料中から前記接触面27を介して前記水系液体中に移れるように構成されているので、反応用マイクロ流路24内で光触媒反応で生成した生成物を、直ちに且つ容易に反応用マイクロ流路24内と同じの流速を維持した状態で安定して反応原料中から分離抽出することができる。すなわち、改めて分離抽出する煩雑さの問題が無い。
【0068】
また、反応原料としてのトルエンを、n−ヘキサン等の光触媒に対して低親和性の他の有機溶媒に溶解させた反応溶液をマイクロ流路に流通させて光触媒反応を行った場合も、同様の操作を行うことによって生成物の分離を行うことができる。
【0069】
<反応例4−2>
本反応例は、p−ニトロトルエンの還元によるp−トルイジンの合成反応[式(1)]である。
【0070】
【化1】

【0071】
反応原料であるp−ニトロトルエン(1mM)を光触媒に対して低親和性の有機溶媒であるヘキサンに溶解させ、更に、犠牲試薬としてエタノール(1〜10mM)を添加した。これを図7または図8に示される光触媒系マイクロ反応装置21の反応用マイクロ流路24に流通させ、光触媒反応を行うと、式1の反応が進行してp−トルイジンが生成する。
【0072】
ここで、反応原料であるp−ニトロトルエンと、生成物であるp−トルイジンの水への溶解度は大きく異なり、それぞれ0.35g/リットルおよび6.64g/リットルである。すなわち、p−トルイジンを水によって抽出することが可能である。
【0073】
反応用マイクロ流路24の出口から反応液が抽出用マイクロ流路26に送られ、該反応液を水と層流状態で合流させることによって、生成物であるp−トルイジンが反応液であるヘキサン中から前記接触面27を介して水中に移り、反応用マイクロ流路24内において生成したp−トルイジンを、直ちに且つ容易に反応用マイクロ流路24内と同じの流速を維持した状態で安定してヘキサン中から分離抽出することができる。
なお、p−トルイジンは、中性よりも酸性の水への溶解度が高いため、酢酸を添加した水を用いるとより効果的である。
【0074】
流速や有機相と水相の相対流量等を精密に制御することにより、第1の取り出し口用溝34から有機相(溶媒としてヘキサンを用いた反応液)を、第2の取り出し口用溝35から水相を分けて取り出すことができ、また、水相中には効率よくp−トルイジンを抽出できる。
【0075】
(実施例5)
次に、実施例1の光触媒系マイクロ反応装置1を用い、カルボン酸用原料から酸化反応工程を経て最終的にカルボン酸を製造するカルボン酸製造方法について説明する。
本実施例係るカルボン酸製造方法は、カルボン酸用原料から酸化反応工程を経て最終的にカルボン酸を製造するカルボン酸製造方法において、前記酸化反応工程の少なくとも一部の工程を、実施例1の光触媒系マイクロ反応装置1を用いて行うものである。
【0076】
カルボン酸用原料としてトルエンを用いた場合、本実施例の光触媒系マイクロ反応装置1において、トルエンからベンジルアルコールまたはベンズアルデヒドが生成される。前記光触媒系マイクロ反応装置1を用いた反応によって得られたベンジルアルコールまたはベンズアルデヒドを、更に酸化することによって安息香酸を得ることができる。ベンジルアルコールまたはベンズアルデヒドから安息香酸への酸化反応は、公知の酸化反応によって行うことができる。また、本実施例の光触媒系マイクロ反応装置1において、マイクロ流路を延ばしてマイクロ流路4への滞留時間を長くすることにより、ベンズアルデヒドを更に酸化させて安息香酸を得ることもできる。
【0077】
また、カルボン酸用原料としてキシレンあるいはナフタレンを用い、本実施例の光触媒系マイクロ反応装置1を用いた反応による酸化反応工程を経て、無水フタル酸およびフタル酸を製造することができる。また、カルボン酸用原料としてシクロヘキサンを用い、本実施例の光触媒系マイクロ反応装置1を用いた反応による酸化反応工程を経て、アジピン酸を製造ことができる。また、カルボン酸用原料としてベンゼンを用い、本実施例の光触媒系マイクロ反応装置1を用いた反応による酸化反応工程を経て、マレイン酸を製造ことができる。
【0078】
カルボン酸用原料から酸化反応工程を経て最終的にカルボン酸を製造するカルボン酸製造方法は、従来は硝酸、過マンガン酸塩、重クロム酸塩等の酸化剤を用いて且つ大規模な反応容器で行われている。従って、酸化剤は大量に供される。
本実施例によれば、この多段階の反応の少なくとも一部の工程を実施例1の光触媒系マイクロ反応装置1を用いて行うので、前記酸化剤の使用量を大幅に低減する又は無しにすることができる。
【0079】
(実施例6)
本発明に係る光触媒系マイクロ反応装置を用い、パイプフローを用いた1−デセンの末端オレフィンの光酸化実験を行った。
有機溶媒中において、光触媒により末端オレフィンを酸化することができる。式(2)は1−デセンの酸化反応である。
【0080】
【化2】

【0081】
その際、n−ヘキサン、ニトロメタン、アセトニトリル、n−ブチロニトリルなどの非プロトン性溶媒を用いると、触媒活性が溶媒により大きく変化することが知られている。本実施例においては、1−デセンを、光触媒に対して低親和性の有機液体原料としてそのままマイクロ流路に流通させ、気体原料として酸素を用いてパイプフローを形成させた。比較例として、n−ブチロニトリル(光触媒に対して親和性がある)を溶媒として1mMの1−デセンを溶解させたものを有機溶液原料(反応液)として用いた実験を行った。
【0082】
[反応条件]
マイクロ流路:幅500μm、深さ300μm
光触媒:酸化チタン(TiO)[底面と側面に担持]
光照射装置:450mW UV−LED(365nm)
原料送り込み手段:シリンジポンプ
反応時間:70秒
パイプフロー状態の液相の厚み:20μm
【0083】
前記条件において、光触媒に対して低親和性の有機液体原料として1−デセンを用いて反応を行うと、1−デセンは4.5%の転化率で他の化合物(1,2−エポキシデカン、ノナナール、および2−デカノン、その他)に変換された。
比較例として、n−ブチロニトリルに1mMの1−デセンを溶解させた有機溶液原料を光触媒系マイクロ反応装置のマイクロ流路に流通させたところ、有機溶液原料中の1−デセンの転化率は22%であった。
【0084】
ここで、1−デセン(有機液体原料)または1−デセンを溶解させたn−ブチロニトリル(有機溶液原料)を、それぞれ1リットル、マイクロ流路に流通させたとして、反応した1−デセンの量を計算すると、1−デセンをそのまま有機液体原料として用いた場合(転化率4.5%)では、0.24モル、1−デセンを溶解させたn−ブチロニトリルを有機溶液原料とした場合(転化率22%)では、0.22×10−3モルとなる。すなわち、1−デセンをそのまま有機液体原料として用いることによって、約1000倍の高効率で反応を行うことができる。
【0085】
1−デセンを溶解させたn−ブチロニトリルを有機溶液原料として用いた反応は、溶媒であるn−ブチロニトリルが光触媒に対して親和性があるので、バッチ方式のマクロ反応装置による反応も行うことができるが、1−デセンそのものを有機液体原料として用いた反応は、1−デセンが光触媒と低親和性であるため従来は行うことができなかった。
【0086】
本発明の光触媒系マイクロ反応装置を用いることによって、光触媒に対して親和性の低い1−デセンに対して高い比表面積を有する反応系が実現可能となり、当該1−デセンの酸化反応を高効率で行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、反応原料が、気体原料と、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料である光触媒反応を高効率で進行させることができる光触媒系マイクロ反応装置として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係る光触媒系マイクロ反応装置の第1の実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る光触媒系マイクロ反応装置の第1の実施例を示す断面図である。
【図3】図2のA部のI−I断面の拡大図であり、マイクロ流路中におけるパイプフロー状態を示す図である。
【図4】図2のII−II断面図を示す図である。
【図5】図4によって説明した光触媒の層が形成されたマイクロ流路の変形例である。
【図6】実施例1の光触媒系マイクロ反応装置を用いた実験結果を示す図である。
【図7】本発明に係る光触媒系マイクロ反応装置の第3の実施例を示す斜視図である。
【図8】図7の光触媒系マイクロ反応装置のマイクロ流路の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0089】
1 光触媒系マイクロ反応装置、 2 基板、 3 天板、 4、マイクロ流路、
5 光触媒層、 6 溝、 8 光照射装置(光照射手段)、
11 第1の供給口、 12 第2の供給口、 13 取り出し口、
21 光触媒系マイクロ反応装置、 22 基板、 23 天板、
24 反応用マイクロ流路、 25 光触媒層、 26 抽出用マイクロ流路、
27 接触面、 28 出口、
41 第1の供給口、 42 第2の供給口、 43 第3の供給口、
44 第1の取り出し口、 45 第2の取り出し口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性材料より成り、反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、
前記マイクロ流路に反応原料を送り込む原料送り込み手段と、
前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、を備えた光触媒系マイクロ反応装置であって、
前記反応原料が、気体原料と、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料である場合に対して、前記原料送り込み手段は、前記有機液体原料または前記有機溶液原料が前記マイクロ流路の内面に沿って流れ、前記気体原料が中央部を流れる状態のパイプフローを形成可能に構成されていることを特徴とする光触媒系マイクロ反応装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光触媒系マイクロ反応装置において、前記光触媒の層は前記マイクロ流路の内面の全面に設けられていることを特徴とする光触媒系マイクロ反応装置。
【請求項3】
光透過性材料より成り、反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、
前記マイクロ流路に反応原料を送り込む原料送り込み手段と、
前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、
前記光触媒の層に光を照射する光照射手段と、を備えた光触媒系マイクロ反応装置であって、
前記反応原料が、気体原料と、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料である場合に対して、前記原料送り込み手段は、前記有機液体原料または前記有機溶液原料が前記マイクロ流路の内面に沿って流れ、前記気体原料が中央部を流れる状態のパイプフローを形成可能に構成されていることを特徴とする光触媒系マイクロ反応装置。
【請求項4】
請求項3に記載の光触媒系マイクロ反応装置において、前記光触媒の層は前記マイクロ流路の内面の全面に設けられ、前記光照射手段は前記マイクロ反応器の外部に設けられていることを特徴とする光触媒系マイクロ反応装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の光触媒系マイクロ反応装置において、前記光照射手段は、光源として200nm〜400nmの紫外線を主に放射する発光ダイオードを備えていることを特徴とする光触媒系マイクロ反応装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の光触媒系マイクロ反応装置において、前記気体原料は二酸化炭素であることを特徴とする光触媒系マイクロ反応装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の光触媒系マイクロ反応装置において、更に、前記マイクロ流路の出口に連通された抽出用マイクロ流路を備え、該抽出用マイクロ流路は、光触媒反応の生成物が前記反応原料より親水性である場合に対して、水系液体と合流されて両液体の接触面を境界にして2層の液体が層流状態で流通されて、前記光触媒反応の生成物が前記反応原料中から前記接触面を介して前記水系液体中に移れるように構成されていることを特徴とする光触媒系マイクロ反応装置。
【請求項8】
光透過性材料より成り、反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、
前記マイクロ流路に反応原料を送り込む送り込み手段と、
前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、を備えた光触媒系マイクロ反応装置であって、
更に、前記マイクロ流路の出口に連通された抽出用マイクロ流路を備え、
前記反応原料が、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料であり、光触媒反応の生成物が前記反応原料より親水性である場合に対して、前記抽出用マイクロ流路は、水系液体と合流されて両液体の接触面を境界にして2層の液体が層流状態で流通されて、前記反応生成物が前記反応原料中から前記接触面を介して前記水系液体中に移れるように構成されていることを特徴とする光触媒系マイクロ反応装置。
【請求項9】
光透過性材料より成り、反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、
前記マイクロ流路に反応原料を送り込む送り込み手段と、
前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、
前記光触媒の層に光を照射する光照射手段と、を備えた光触媒系マイクロ反応装置であって、
更に、前記マイクロ流路の出口に連通された抽出用マイクロ流路を備え、
前記反応原料が、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料であり、光触媒反応の生成物が前記反応原料より親水性である場合に対して、前記抽出用マイクロ流路は、水系液体と合流されて両液体の接触面を境界にして2層の液体が層流状態で流通されて、前記反応生成物が前記反応原料中から前記接触面を介して前記水系液体中に移れるように構成されていることを特徴とする光触媒系マイクロ反応装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の光触媒系マイクロ反応装置において、前記光触媒は、二酸化チタンであることを特徴とする光触媒系マイクロ反応装置。
【請求項11】
カルボン酸用原料から酸化反応工程を経て最終的にカルボン酸を製造するカルボン酸製造方法であって、
前記酸化反応工程の少なくとも一部の工程を、請求項1または3の光触媒系マイクロ反応装置を用いて行うことを特徴とするカルボン酸製造方法。
【請求項12】
光透過性材料より成り、反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、
前記マイクロ流路に反応原料を送り込む送り込み手段と、
前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、を備えた光触媒系マイクロ反応装置を用いて行う光触媒反応方法であって、
前記送り込み手段から、反応原料として、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料を送り込んで反応を行わせることを特徴とする光触媒反応方法。
【請求項13】
光透過性材料より成り、反応原料が流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、
前記マイクロ流路に反応原料を送り込む送り込み手段と、
前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、
前記光触媒の層に光を照射する光照射手段と、を備えた光触媒系マイクロ反応装置を用いて行う光触媒反応方法であって、
前記送り込み手段から、反応原料として、前記光触媒に対して低親和性の有機液体原料または前記光触媒に対して低親和性の有機溶媒に反応原料を溶解させた有機溶液原料を送り込んで反応を行わせることを特徴とする光触媒反応方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−86993(P2008−86993A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234701(P2007−234701)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】