説明

光触媒被覆物を有する基板

本発明は基板の少なくとも一面の少なくとも一部に二酸化チタンに基づく光触媒被覆物を有する基板であって、基板の被覆面が基板の非被覆面よりも低い光の反射率を有することを特徴とする透明または半透明の基板に関する。また、本発明はこうした基板を得る方法、この基板の用途に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒被覆物が備わっていて少なくとも部分的には透明な基板、そのような被覆物を得る方法、得られる被覆物、および上記被覆物の種々の用途に関するするものである。
特に、この発明は、反射防止機能と光触媒被覆を兼ね備えた基板に関するするものである。
【0002】
その結果、本発明における被覆物は、汚し防止、防カビあるいは殺菌の特性と光の反射を少なくする特性とが特別に組み合わさることによって、被覆物を支持する基材に新しい機能を付与することに寄与する。
本発明の基板は、透明ないしは半透明で、無機あるいは有機で、例えばガラスあるいはガラスーセラミックスあるいは種々の硬質ポリマーあるいは可塑性ポリマーなどの基板である。
【背景技術】
【0003】
近年、ショーウィンドウあるいは店頭、フロントガラスのような自動車用の窓ガラス、あるいは眼科用レンズ用の透明板ガラスといった分野において、光の反射率を下げることの必要性が出現した。この必要性は本質的に感覚的な理由に由来し、特に窓ガラスの後ろに置かれた物体を目立たせることが重要である商店あるいは美術館の窓ガラスの場合、あるいは眼科用レンズの場合にはそうである。後者の場合には、レンズの厚さがだんだんと小さくなるために、高屈折率(従って、且つ高反射率)のポリマーが次第に採用されるので、反射防止膜の使用がきわめて重要である。安全性の理由もまた透明な基板の光の反射率を下げる必要性を正当化する。例えば、特に淡色の自動車の計器盤の場合に重要になる可能性のある望ましくない反射によって運転者が妨害されることを避けるための自動車用の透明板ガラス、特にフロントガラスの場合がそうである。
【0004】
最後に、例えば電力を起こす太陽電池パネルの透明板ガラス被膜光起電力電池の場合に、機能的な理由に対してその必要性が正当化されてもよい。この場合には、透明板ガラスの透明性のどんな増加も(例えば、反射光線の強度を下げることによる)十分なエネルギーの利益をもたらす。
無機および有機の基板のいずれでも、この必要性を満足させるために多岐にわたる被覆物が開発されてきた。それらは所与の基板の光の反射率を下げること、あるいは場合によっては光の反射率を無視することさえも策定される。一般に、被覆物が非被覆基板の反射率よりも低い反射率を有していると、被覆物は反射防止機能を有していると考えられている。
【0005】
これらの被覆物に共通な物理的原理は、主として破壊的に干渉して複合的反射を生じさせる多方面の接触面を生み出すことにある。
例えば、特許出願FR2721720にこのような眼科用レンズ用の被覆物が記載されている。それらは、を可視域の、従っておよそ550nmにおける平均の波長であるとして、その視角的厚さ(それは材料の屈折率によって増加される幾何学的厚さの産物である)が/4と等しい誘電体材料の単一の膜から構成されるのが基本である。この場合には、低い光の反射率は法線に近い光線の入射に対してのみ得られる。他の入射角度に対しては入射あるいは観測する角度とともに反射の色が変わることが、生じた干渉による部分的にのみ破壊的な性質を証明する。反射防止被覆物もまたさらに複雑で、これらの美観的性状を改善するには少なくとも3〜4層から構成される。それらはまた、機械的あるいは熱機械的強度あるいは耐摩耗性に関する厳しい規格を満足することも同様に求められる。
【0006】
このため、特許出願FR2841894は、曲げ処理、従って高温での高い機械的負荷を受けねばならない透明板ガラスを意図した反射防止被覆物を開示する。これらの被覆物は、それぞれが明確に規定された光学的厚さも有していて、屈折率の高い層と低い屈折率の層とを順に交代させた少なくとも4層の堆積からなる。
このタイプの被覆物の主要な欠点はそれらの光学的効果が汚れ、特に有機性汚れによって極度に影響を受けるという事実である。言い換えれば、好ましくない接触面が加わることで汚れが反射された光線の光学経路を変更し、その際に緩衝効果を妨害するため、汚れの厚さが小さくてもこれらの反射防止被覆物は汚れをさらに目立たせるということが明らかになった。それ故、例えば眼科用レンズや店頭への反射防止被覆物によって、“指紋”タイプの有機性汚濁は特に浮き彫りにされる。
【0007】
反射防止被覆物に関して行われる研究と同時に、主として二酸化チタンの光触媒活性に基づく汚し防止被覆物もこの10年間内で出現してきた。二酸化チタンは、“アナターゼ”結晶学的形態で少なくとも部分的にでも結晶である場合には特に、照射線、特に紫外線効果によって、有機分子のフリーラジカル反応による酸化、そしてそれ故に有機分子の分解に触媒するのに役立つ。基礎をなす物理的なメカニズムは、照射線のエネルギーが二酸化チタンの結合価と伝導帯との間のエネルギー“ギャップ”に等しいかそれ以上である照射線の効果に基づく電子と正孔との対の生成である。これらの被覆物は、例えば出願EP850204に記載されており、光誘起されて親水性の特性も有し基材に自浄作用を与える。親水性にされた表面は有機汚物および無機塵のいずれをも、例えば雨水によって、実際に清浄しやすいという効果がある。この親水性の特性は、水が水滴を形成するよりもむしろ透明な膜の形状で材料を被覆する傾向があり、材料に防曇性も与える。
【0008】
光触媒性の二酸化チタン被覆物は、種々の堆積法、例えば化学的蒸着(CVD)、(上記の出願EP850204に記載のように)、陰極スッパタリング法(出願FR2814094にはその特別な方法が示される)、あるいは“ゾルーゲル”法によって形成することができる。
二酸化チタンは、出願FR2738812に記載されているように、ナノスケールの結晶粒子の形で無機あるいは有機の結合剤に埋め込まれて部分的に取り込まれてもよく、あるいは上述の出願FR2814094のように現場で生じさせてもよい。他の方法は、
少なくとも部分的には結晶性二酸化チタン、特に完全に識別可能な粒子の形での結晶性二酸化チタンを含むメソ多孔性被覆物を堆積させるためにゾルーゲル法を利用することである。
出願FR2838734に記載されているこの特殊な方法によって得られる生成物は光触媒活性が増加する。
【0009】
特願書類EP−A−1 291331に汚し防止と反射防止との2つの機能を同じ材料で組み合わせた例が記載され、マグネトロンスパッタリング法によって蒸着された100nm未満の厚さの二酸化チタン膜は層の堆積の上になる。蒸着後、光誘起の親水性を改善するアナターゼ相の調製が100〜250℃での熱処理によって進行される。
【0010】
しかしながら、これらの蒸着条件では有機よごれを急速分解させる層が調製されないということが明らかになった。さらに、光触媒被覆物の厚さに比例して前述の堆積では反射特性のばらつきが非常に幅広くなり、前記被覆物を蒸着する間に被覆物の厚さの極度に正確な制御が必要となる。最後に、前述の堆積のほとんどには少なくとも1つの金属層が含まれ、この金属層には被覆基板の光透過率を大幅に減少させる効果がある。提案される堆積、特に金属層を含まない堆積は、波長への依存性が高い反射分布帯、そして400nmおよび/または700nmの波長において非被覆ガラスの反射率よりも実質的に高い反射率を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、この発明の目的は、これらの問題点を解決すること、そして屋外および屋内の条件下に有機よごれを素早く除くための材料であてかつ可能な限りの広範囲の波長において低反射率を有する材料を提供することである。
この発明の他の目的は、経済的な方法で光触媒被覆物を堆積させることが可能である材料を提案することである。
この発明の更なる目的は、耐薬品性および機械的強度が良好である材料を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の主題は、基板の少なくとも一面の少なくとも一部に二酸化チタンに基づく光触媒被覆物を有し、すべての堆積被覆物が当該基板に反射防止機能がもたらす透明または半透明の基板である。
この発明の文脈において、反射防止被覆物とは、基板の被覆されない面(非被覆面)によってもたらされる光の反射率よりも低い光の反射率がもたらされる被覆される面(被覆面)に対する被覆物を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明の被覆物は、屋外照射の条件下でステアリン酸の分解速度として表される活性(Kext)が1x10-2cm-1/分以上であると規定される高い光触媒活性を有するのが有利である。
この基材の被覆面全体の光の反射率は、好適には基板の非被覆面の反射率の80%以下、特に60%以下、さらに40%以下、実に20%あるいは15%以下である。
この発明の好ましい態様によれば、被覆面の反射率は可視光の波長幅に一致する400−800nmの全幅において基板の非被覆面の反射率よりも低い。
【0014】
ソーダ石灰シリカガラスの場合には、いずれの面も反射率は約4%である。それ故、この発明の被覆物は、好適には3.2%以下、特に2.4%以下、実に1.6%以下、そしてさらに0.8%あるいは0.6以下である被覆面の反射率を提供する。従って、この発明にしたがって材料の両面が被覆されると、ソーダ石灰シリカガラス基板の場合には反射率は全体で1.2%以下となる。
【0015】
前記の基板としては、無機、例えばガラスあるいはガラスーセラミック、あるいは有機であってよい。後者の場合、種々の硬質プラスチックあるいは可塑性プラスチックが使用でき、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリビニル・ブチラール、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリブチレングリコールテレフタレート、ポリアミンで中和したエチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーのようなアイオノマー樹脂、エチレン/ノルボルネン共重合体、エチレン/シクロペンタジエン共重合体のような環状オレフィン共重合体、ポリカーボネート/ポリエステル共重合体、エチレン/ビニルアセテート共重合体および類似の重合体を単独であるいはそれらの混合物を使用できる。
【0016】
さらに具体的にいうと眼科用レンズの場合には、使用される基板は、ビス−ジエチレングリコールアリルカーボネート(PPGインダストリー社から登録商標CR39にて入手可能)の重合によっても得ることができ、またポリチオウレタンに基づくか、またはポリスチレンあるいはジアリルフタレート樹脂に基づく(メタ)アリルポリマーあるいは(メタ)アクリルポリマー、(さらに特別には、ビスフェノールAに由来するモノマーあるいはプレポリマー単独からあるいは他の共重合可能なモノマーとの混合物から得られるポリマー)であってもよい。
【0017】
純粋の二酸化チタンは最も高い屈折率を有する材料である(ルチル結晶学的形態そしてアナターゼ結晶学形態に対しては各々、2.75および2.57)から、この分野の専門家であれば光触媒効果と反射防止効果の組み合わせを想定することは有り得ない。高屈折率層は反射防止機能を破壊するか、あるいは少なくとも反射防止機能を実質的に低下させるので、この2つを組み合わせは相いれないと考えられる。
【0018】
本発明の文脈において、本発明者らは、光触媒被覆物が2未満、好ましくは1.9未満、実に1.8未満、特に1.7未満、その中でも実に1.6未満の屈折率を有する選択的態様を選んだ。
特に好ましい方法では、光触媒被覆物の屈折率は1.5以下でさえある。この方法で、この発明の材料の反射率が非被覆基板の反射率よりも低くて光触媒機能と反射防止機能との真の組み合わせをみることが驚くほど実現可能であることがわかった。このことは、中間物層が時には光反射率を低くすることを唯一の目的として光触媒被覆物の下に置かれるので、むき出しの基板よりも反射率が低くなることはない先行技術の開示と相違する。
【0019】
視覚分野あるいは眼科用分野の応用に対しては、よごれで視界が邪魔されることは非常に短い間のみとなるように、光触媒活性を極度に強くすることも好ましい。このことは、直射日光、特に紫外線(UV)領域にさらされることが少なく時間のほとんどを室内で過ごす人々の場合に特に好ましい。屋外では、紫外線照射(315−400nmの波長域で)の平均強度は例えば1m2の照射面積に対して約50Wが、屋内では、特に透明板ガラスのフィルター能力のため2W/m2未満に低下する。
【0020】
従って、この発明の基板は、屋外照射の条件下でステアリン酸の分解速度として表される活性(Kext)が1x10-2cm-1/分以上、特に3x10-2cm-1/分以上、さらには3.5x10-2cm-1/分以上の光触媒被覆物で被覆されることが好ましい。
この発明の光触媒被覆物は、屋内照射の条件下で2時間照射後の分解したステアリン酸の重量%として表される活性(Kint)が15%より大、特に20%より大、さらには30%より大、その中でも特に40%より大、そして50%より大でさえあることが有利である。
前記のステアリン酸の分解速度は以下に詳細に記載の条件下にフーリエ変換赤外分光分析法(FTIR)によって測定されるCH2−CH3基の伸縮振動の面積の減少速度を示す。
この光触媒の活性の測定条件は、屋内光条件下および屋外光条件下のいずれもこの発明に基づく実施例の説明中に詳細が記載されている。
【0021】
この発明の好適な態様によれば、光触媒被覆物は、少なくとも部分的には結晶性の二酸化チタンを含み、特にアナターゼおよび/またはルチルの形状で、好適にはゾルーゲル法で調製されるメソ多孔性構造によって特徴付けられる。ちなみに、メソ多孔性構造は材料の比表面積を実質的に増加させ、それによって光触媒の活性を実質的に増加させることに役立つ。さらに、多孔性、そしてそれ故に低密度の無機材料は一般的に屈折率が低く、それは多孔性が増大するにつれて低くなる。
【0022】
この明細書では、“メソ多孔性”という言葉は孔の直径が2〜50nmであるものをいう。メソ多孔性構造はSi、W、Sb、Ti、Zr、Ta、V、B、Pb、Mg、Al、Mn、Co、Ni、Sn、Zn、In、FeおよびMoの少なくとも1種の元素の化合物、もし可能であればO、S、N、Cのような元素との共有結合にある少なくとも1種の化合物に基づく。
【0023】
二酸化チタンを除くと、この発明に従って被覆物を全面的に低屈折率とするためには、メソ多孔性構造は主としてシリカ(SiO2)からなることが好ましい。
メソ多孔性構造がシリカを含む場合には、Ti/Si原子比が0.25〜2、特に0.6〜1.2、その中でも実質的に1である被覆物を選択することが発明者にとって有利であることが明らかになった。実際のところ、Ti/Si原子比の低い被覆物は好ましい光触媒特性を有さず、一方でTi/Si原子比が高いと基材の屈折率がより高くなる。
【0024】
前記の細孔網状構造は、有機構造化剤の使用によって有利に得られ、好適には中あるいは長い距離の秩序(数nm〜数μm)を有する。
前記の少なくとも部分的に結晶性の二酸化チタンは、例えば完全に識別できる粒子の形でメソ多孔性構造に組み込まれる。この二酸化チタンは光触媒活性を増大させるかあるいは可視波長域でのさらなる強い活性を生み出すために他の材料と一緒に場合によってはドープされるか混ぜ合わされる(この明細書で参照用に引用される出願WO97/10185およびWO97/10186に説明されるように)。そしてこの二酸化チタンは、0.5〜100nm、特に1〜80nmの直径を有し、それらが0.5〜10nmの直径を有する粒子あるいは基本微結晶の塊からなるナノ粒子を構成する。
【0025】
この明細書では、“直径”という言葉は広い意味で考慮されるべきであり、むしろナノ粒子あるいは微結晶の粒度を評価するものである。その形状は球形に近いか、あるいは細長い米粒形状に近いかあるいは全く不揃いの形状に近いものであってもよい。二酸化チタンを組み込んでいるメソ多孔性構造全体は基本的には良好な凝集性そして優れた機械的強度と耐摩耗性とを有する固体である。メソ多孔性構造はチタンあるいはチタン酸化物のようなチタン化合物だけから形成されていてよく、特にアナターゼおよび/またはルチルの形状で結晶化されていてよい。このように組み込まれた二酸化チタンはその光触媒活性を格別に高水準まで発揮することが判明した。従って、単一のあるいは多重の透明板ガラスを通過した後の残余の紫外線照射あるいは屋内の電気照明器具に由来する残留紫外線照射は、この発明の好ましい態様に従った基板とって有機くずを分解するのには十分であり、そしてさらに、後者にとっては、照射により親水性にされた基板上に適用されて形成される比較的均一な液膜に同調されるに十分である。
【0026】
従って、この発明の被覆物は、光触媒による有機くずの分解機能と、凝縮のような任意の液体の効果に基づく、親水性/親油性の特性である有機および無機くずの除去性を兼ね備える。この発明の好適な態様によってもたらされる高い性能は、恐らく少なくとも部分的には、汚れの二酸化チタン粒子への接近を容易にしまたこれらの粒子表面で被覆物中での光生成種の拡散を容易にする細孔の網状組織の相互接続に起因すると考えることができる。
さらに、耐摩耗性およびこのような高いレベルまでの光触媒活性の耐久性が優れている。従って、この発明の好適な態様は、磨耗すると通常は表面層の高密度化およびそのために結局は汚し防止機能の喪失をもたらすという結果になると予想されるが、磨耗後にも多孔性を保つのに役立つ。
【0027】
この発明の好適な態様によれば、この発明の基板の光反射率をより効果的に低くするために、単一層の膜あるいは複数層の堆積が基板と光触媒被覆物との間に積層される。
前記の複数層の堆積は金属層、特に銀、チタンあるいは白金に基づく金属層を含まないことが好ましい。これらの層が存在すると、被覆基板の光透過率が大幅に下がる。この発明者らは金属層の存在は機械的強度と耐薬品性を低下させることも見出した。
【0028】
前記の積層される被覆物は、好適には以下の順で高屈折率と低屈折率が交互に連続する誘電体薄層からなる:
- 1.8〜2.3の屈折率n1および5〜50nmの幾何学的厚さe1を有する高屈折率の第1の層1、
- 1.35〜1.65の屈折率n2および10〜60nmの幾何学的厚さe2を有する低屈折率の第2の層2、
- 1.8〜2.5の屈折率n3および40〜150nmの幾何学的厚さe3を有する高屈折率の第3の層3。
【0029】
従って、二酸化チタンに基づく光触媒被覆物は層3の上に位置する第4の層を構成する。被覆物全体の反射防止特性を最適化するため、特に非常に低い反射率を得るためには、幾何学的厚さe4は40〜150nmであることが好ましい。
この発明の文脈において、“層”とは単一層あるいは問題となっている層に対して各層が指示された屈折率を有しかつ各層の幾何学的厚さの合計が問題となっている層に対して指示される値に等しくなっている重ね合わせの層のいずれをも意味する。
【0030】
この発明の文脈において、各層は誘電体材料、特に金属の酸化物、窒化物あるいは酸窒化物、または半導体素子で作られる。しかしながら、各層のうちの少なくとも1層が、例えば金属酸化物のドーピングによりわずかに導電性となるように、例えば反射防止の堆積に帯電防止機能をも付与するために、変性されることも可能である。
これらの好適な厚さと反射率の基準は、広帯域での低光反射率(つまり、400−800nm全域で基板の被覆面が基板の非被覆面よりも低い全反射率を有するような)を有し、そのように被覆された基板が観察される入射角度の如何に関わらず透過における中間色および反射における審美の良さを有する反射防止機能を得るために役立つ。
【0031】
第1および/または第3の堆積の層を調製するための高い屈折率を有して最も適した材料は、二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)から選ばれる金属酸化物、あるいは、例えば錫―亜鉛混合酸化物(SnxZnyz)、亜鉛―チタン混合二酸化物(TiZnOx)あるいは二酸化ケイ素―チタン(SixTiyz)、あるいはチタンージルコニウム酸化物(TixZr(1-x)2)などのこれら酸化物の複数からなる混合酸化物に基く。それらは、窒化ケイ素(Si34)および/または窒化アルミニウム(AlN)、あるいはケイ素/ジルコニウム混合窒化物(SiZrNx)から選ばれる窒化物に基いてもよい。これらの材料はすべて耐薬品性および/または機械的強度および/または電気絶縁性を改良するために場合によってはドープされることができる。
【0032】
第2の層の堆積Aのために低い屈折率を有して最も適した材料は、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素および/または酸炭化ケイ素に基き、あるいはケイ素アルミニウム混合酸化物に基く。このような混合酸化物は、純粋な二酸化ケイ素(この実施例が特許EP−791562に示されている)よりも耐久性、特に耐薬品性が良好な傾向がある。2種の酸化物のそれぞれの割合は、層の屈折率を過度に増加させることなく想定される耐久性を改善するために調整することができる。
【0033】
この発明の材料に熱機械的抵抗性を付与するため(例えば、店頭用のガラスの剛軟度を改善するため)、光触媒被覆物がその上に積層される堆積はこの明細書に参考として組み入れられた特許FR2841894の教示に従って調製することが好ましい。
前記の光触媒被覆物がその態様に従ってゾルーゲル法によって形成される態様の文脈において、被覆物あるいは基板と前記光触媒被覆物との間に積層される堆積は、ゾルーゲル法に特有ではあるが光触媒被覆物の厚さの変化が光の反射率の値に実質的に影響を及ぼさないように有利に最適化される。
【0034】
一般的にかつこの発明の目的に合致させて、被覆基板の反射率が非被覆基板の反射率よりも低水準にとどまる(好適には反射率が80%、60%、さらに40%低い)当該光触媒被覆物の厚さの幅の範囲が光触媒被覆物の厚さの平均値の少なくとも15%、特に25%、さらに30%あるいはさらに少なくとも50%のような被覆基板であると有利である。この態様の利点は、厚さ制御の正確さがあまり必要でないため、堆積が非常に簡単であることにある。この利点は、厚さを完全に制御するかあるいは完全に均一な厚さを得ることが困難なゾルーゲル法によって光触媒被覆物を得るときに特に際立つ。
【0035】
この発明の追加的な目的は上記の基板を得る方法に関するものであり、この方法は以下の一連の工程含む:
- 被覆物からなるメソ多孔性構造を構成する材料の前駆体の少なくとも1種および溶媒に希釈された有機構造化剤少なくとも1種を含む“ゾル”の調製工程、
- 有機構造化剤の周囲での前記前駆体の初期の沈澱そして前駆体から派生する分子の成長に対応するゾルの“熟成”工程、
- 場合によってはドープされてよい特徴的な粒度が0.5〜100nmの二酸化チタンのナノ粒子あるいは微結晶をゾルに添加、
- 被覆される基板の少なくとも1つの面にゾルの塗布、
- 溶媒の除去、
- 有機構造化剤の除去。
【0036】
ゾルは、少なくとも1つの酸化物の前駆体、例えばアルコキシドあるいはハライドのような加水分解可能な化合物、有利には例えばテトラエトキシシラン(TEOS)あるいはテトラメトキシシラン(TMOS)のような少なくとも1つのシリカ(SiO2)の前駆体を含むことが好ましい。シリカの前駆体はメソ多孔性構造の材料の前駆体の大部分でもあるいは全体に相当することが好ましい。同様に、メソ多孔性構造の材料の前駆体はチタンテトラブトキサイドあるいはチタンテトラエトキサイドのような二酸化チタンの前駆体の少なくとも1種を含んでも良い。
【0037】
前記の構造化剤は、有利には陽イオン界面活性剤、好適には第4アンモニウム類、例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)あるいは例えばエチレンオキサイドあるいはプロピレンオキサイドに基くジブロックまたはトリブロック共重合体などの非イオン界面活性剤から選ばれる。
前記の構造化剤は、ゾルの調製および熟成の工程の後に加えることもでき、後者の熟成工程は前駆体の予備凝縮が支持体表面の広い範囲で凝縮される被覆酸化物の構造化の助けとなると認められる。有利な熟成条件は、ゾルの40〜60℃の温度で30分〜24時間の維持から成り、温度が高いと熟成時間は短くなる。
使用される溶媒は好適にはアルコール、特にエタノールであり、エタノールは毒性が無いという利点がある。
【0038】
前記のゾルの基板への塗布は、既に述べてこの明細書に参考のため組み入れた特許出願EP−A−850204に記載のように、この分野の専門家に良く知られたゾルーゲル堆積技術によって実施することができ、例えば:
- スピンコーティング(回転している基板への堆積)、
- 浸漬被覆あるいは浸漬(ゾル中の基板の浸漬次いで制御された速度での取り出し)、
- 薄層状の被覆
- 基板が堆積されるゾルで充たされそして次いで制御された方法で水抜きされる実質的に平行な2つの面で挟まれる狭い空洞(あるいは“気泡”)を形成して被覆される、セル被覆、
- スプレー被覆技術(スプレーガン、等)。
【0039】
前記の基板がプラスチック製の場合、基板の少なくとも1面へのゾルの塗布後の工程にとっては、基板の分解および/または有機材料と無機材料とでの大幅な膨張係数の相違が原因で基板および/または種々の被覆物を弱める機械的応力を引き起こすことを避けるために、150℃より低い温度、好ましくは100℃未満、さらに好ましくは80℃以下その中でも60℃以下で行われるのが良い。
これに関連して、この発明の特に好適な態様は、50〜80℃の温度で被覆物を強固にし、引き続いてあるいは同時に、熱的ではなくて照射を通じての、例えば紫外線照射下での前記有機構造化剤の除去にある。
そして、光触媒特性を有するに酸化チタンが存在すると、構造化剤全体の速やかな分解を可能にすることが判明する。
この発明者らは、低い温度で実施されるこれらの処理が高空隙率とそれ故の被覆物への高光触媒活性を与える利点もあることを見つけた。
【0040】
機能性層あるいは機能性堆積を、この発明の基板と反射防止機能および光触媒機能を持つ層との間に積層することもできる。それらの層あるいは堆積は帯電防止あるいは特に金属類の導電性材料(例えば銀)に基いて選ばれる熱的(低放射率、太陽光線保護、など)機能層、または錫ドープされたインジウム酸化物(ITO)、アルミニウムドープされた亜鉛酸化物ZAO、フッ素のようなハロゲンあるいはアンチモンでドープされた錫酸化物のようなドープされた金属酸化物から成ってもよい。
【0041】
これらの層は、硬度を有して傷のつきにくいあるいは耐摩耗性に適して、特に眼科用レンズの場合に有用とすることもできる。これらの層は有機層であっても無機層であってもよく、あるいは有機/無機の混成層であってもよい。この後者の混成層の場合、コロイダルシリカ、場合によっては架橋結合触媒およびエポキシ化アルコキシシランおよび/またはフッ素化アルキルシランおよび/または非エポキシ化シランのようなシラン化合物の加水分解物1種あるいは加水分解物の混合物を含む組成物の硬化によって得られる硬い耐摩耗性被覆物を挙げることができる。特に眼科用途に対しては、これらの耐摩耗性層は、好適には最初の有機あるいは混成の耐衝撃性層の上あるいは下に、好適にはポリシロキサンに基いて堆積される。
【0042】
最後に、これらの層は、有機基板の場合には二酸化チタンによる光触媒作用に対して当該基板を保護するように、また無機ガラスに基く基板の場合にはアルカリ金属イオンのガラスから光触媒層中への泳動を防ぐように意図した層であってよい。前者の場合には、副層は好適にはシリカ(例えば、ゾルーゲル法で得られる)に基いているあるいは前に述べた傷のつきにくいまたは耐摩耗性の層から成ってよい。後者の場合には、副層は好適には酸炭化ケイ素に基いている。これらの層は、もし可能であれば材料全体の反射率を減じることを意図した層の堆積に属してもよい。
【0043】
この発明の基板は、エレクトロクロミック透明板ガラスのような電気的に制御された光学的な種々の特性を有する透明板ガラス、透明な状態から半透明な状態に通過するための液晶透明板ガラス、あるいは光発光放電または発光ダイオードの拠点である希ガスを入れることによって明るくなった透明板ガラスであってもよい。
【0044】
この発明のさらなる課題は、透明板ガラス、美術館の窓あるいはショーウィンドウ、水族館のガラス、インテリアあるいは都会の家具用透明板ガラス、眼科用レンズ、ディスプレー画面用透明板ガラス、熱および/または電力を取り出す太陽電池パネル用透明板ガラス、自動車、船舶あるいは飛行機用透明板ガラス、鏡、特に自動車のバックミラー、ヘッドライト光学素子、照明装置のような被覆基板の用途である。
この発明は、以下の限定されない実施例の態様の詳細な記載を読めばにさらに良く理解されるであろう。
【実施例】
【0045】
実施例1
厚さ4mmでフロート法で作られて商品名SGGプラニラックス(Planilux 登録商標)でサン−ゴバン グラスから販売される透明ガラスの両面に、磁気的に促進された陰極スパッタリング法(“マグネトロンスパッタリング”と呼ばれる)によって3層からなる次の堆積が被覆される:
ガラス / Si34 / SiO2 / TiO2
20.2nm 22.1nm 95.9nm
(同一の堆積が反対面に存在する。)。
【0046】
第1の層は550nmにおいて2.04の屈折率を有する。
第2および第3の層は550nmにおける屈折率が、各々1.48および2.33である。
メソ多孔性構造を有する光触媒被覆物が得られる基材の両面に形成される。
第1工程で、テトラエトキシシラン22.3ml、純エタノール22.1mlおよび脱塩水に入れた塩化水素9mlを透明(最終pH1.25)になるまで混合し、そして次いでフラスコを60℃の水槽中に1時間置くことによって、液体処理組成物が得られる。
【0047】
第二工程で、予め得られたゾルに、BASFから登録商標名プルロニックPE6800(分子量8000)にて販売されるポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロック共重合体の溶液状で、PE6800/Siのモル比が0.01となるような割合で有機構造化剤が加えられる。このモル比は、3.78gのPE6800、50mlのエタノールおよび25mlのゾルを混合することによって達成される。
【0048】
前記の液体組成物に、アナターゼの形状で結晶化されて粒度が約50nmであるTiO2のナノ粒子を、試料への堆積の前に加える。セル被覆によって、試料の両面に堆積される。
次いで、メソ多孔性被覆物を強固にし、そして溶媒と有機構造化剤とを除くために前記試料は250℃で2時間の熱処理を受ける。
このようにして形成された被覆物の細孔は4−5nmの大きさである。
このメソ多孔性構造を有する被覆物のSIMS(二次的イオン質量スペクトロスコピー)分析はTi/Si原子比が初めの液体組成物の比率と同一であることを裏付ける。このTi/Si比は1が選択される。このSIMS分析はナノ粒子が被覆物の3次元に均一に分散されることを確認するのにも役立つ。
【0049】
この光触媒被覆物の厚さe4がSIMS分析結果およびSEM(走査型電子顕微鏡)画像からnmで測定され、72nmである。この場合、この被覆物の下に積層される多層堆積は、最終の基材の光の反射率が光触媒被覆物の厚さによってほんのわずかに影響を受けるに過ぎないように最適化される。この場合、光触媒被覆物の厚さは60〜100nmで変化してよい。
この被覆物の屈折率がこの分野の専門家に良く知られる偏光解析法によって測定される。その値は550nmにおいて1.54である。
【0050】
反射率測定が紫外線可視分光光度計を用いてなされる。光反射率値(RL)および比色変数(a*、b*)が、参照として標準規格ISO/CIE10526で規定されるD65光源およびISO/CIE10527で規定されるCIE1931観察者によって、380〜780nmでほぼ標準の入射の実験に基く反射スペクトルから算出される。
光触媒活性は以下のように測定される:
- 試料を5x5cm2のサイズに切断、
- 試料を紫外線照射下に酸素で覆って45分間清浄化、
- 参照スペクトルを用意するための4000〜400cm-1の波数に対するFTIRによる赤外スペクトルの測定、
- ステアリン酸の分解:ステアン酸をメタノール中に5g/lの量で溶解したステアリン酸溶液60μlを試料上にスピンコートによって堆積させる、
- FTIRによる赤外線スペクトル測定、
3000〜2700cm-1でのCH2−CH3結合の伸縮帯域の面積の測定、
- UVA型の放射への暴露:屋外および屋内の暴露を想定して試料が受ける各々約35W/m2および4W/m2の出力は315−400nmの波長域の光電セルによって調整される。ランプの種類は照明条件によっても異なる:屋内暴露用には熱白色蛍光灯標準のフィリップスT12、屋外暴露用にはフィリップス・クレオ・パフォーマンス紫外線電球、
- 継続した10分間の暴露後の3000〜2700cm-1でのCH2−CH3結合の伸縮帯域の面積の測定によるステアリン酸の層の光崩壊の測定、
- 屋外条件下での光触媒活性kextが、0〜30分の間の継続したUV暴露時間に対応し3000〜2700cm-1でのCH2−CH3結合の伸縮帯域の面積を表す斜線のcm-1.min-1で示される傾斜によって規定される、
- 屋内条件下での光触媒活性kintが、2時間照射後の分解したステアリン酸の重量%(赤外線スペクトルから計算される)として規定される。
【0051】
これらの条件で、以下の測定結果が得られる:
ext=3.0x10-2cm-1/min
int=20%
光反射率RLは1%である。
比色変数(a*、b*)が(0,0)であり、完全な中間色を証明している。
それ故、被覆面での反射率は基板の非被覆面の反射率の12.5%である。
【0052】
実施例2(比較例)
この実施例は出願FR2814094に記載されていて、その実施例4である。
基板の1面のみが処理され、得られる基材は以下のような構成となる:
ガラス / Si34 / SiO2 / TiO2
25nm 22nm 104nm。
【0053】
この場合には、この光触媒被覆物は陰極スパッタリングにより得られるTiO2の1層から構成される。
この光反射率は15.8%であり、これは処理面が、約11.8%の光反射率、あるいは基板の非被覆面の反射率のほぼ3倍の光反射率を有することを意味する。それ故、この被覆物は、前記の出願でいくら適していると述べられていても、本発明の内容における反射防止としては適し得ない。
【0054】
実施例3
ここでは、屈折率が1.586であり、コロイダルシリカおよびエポキシ化アルコキシシランの加水分解物から成る溶液を硬化して得られる耐摩耗性の被覆物で被覆されたポリカーボネートに基く基板が用いられる。
この基板は実施例1に記載の条件に類似した条件のもとに光触媒被覆で被覆される。
実施例1における条件との相違点は以下の通りである:
- 強化処理および溶媒と構造化剤との除去が、基板の耐熱性が低いので高温で行うこ とができない。従って、これらの処理は紫外線照射下に60℃で3時間の加熱が実 施される強化熱処理で置き換えられる。この最終工程は二酸化チタンの光触媒作用 のおかげで構造化剤を分解するのに役立つ、
- Ti/Siの比は0.25である。
【0055】
この場合、耐摩耗性被覆物も光触媒によるポリカーボネート基板の何らかの分解を防ぐという効果を有する。
この光触媒層の屈折率は550nmにおいて1.39であり、その厚さは約100nmである。
この基板の被覆面の光の反射率は1.05%、あるいは基板の非被覆面の反射率の22%である。比色変数(a*、b*)は(5.6、7.6)である。
それ故、この場合は、光触媒単独では基板に反射防止機能を付与することが可能であるが、より複雑な被覆物で得られるものよりは機能が弱い。
【0056】
実施例4(比較例)
この実施例はTi/Siの比が2であることを除き他の条件は実施例3と同じ条件で再実験する。
この場合、光触媒被覆物の屈折率は550nmにおいて1.61であり、基材の光の反射率は9.72%であり、非被覆基板の反射率よりも大きい。
光触媒被覆物のチタンの含量が増加すると、実際に屈折率の増加を引き起こし、反射防止機能を得る可能性にとって不利である。
【0057】
実施例5
この実施例は光触媒被覆物と耐磨耗性被覆物との間に真空蒸着によって得られる堆積層を積層させる他は実施例4と同じ条件で再実験する。この堆積は、以下の構成に従ってジルコニウムとチタンの二酸化物に基く第1の層とシリカに基く第2の層と、二酸化チタンに基く第3の層とをからなる:
ポリカーボネート / ZrTiOx / SiO2 / TiO2
36nm 15nm 56nm
こうして、下記事項が得られる:
光反射率RLが1.21%、
比色変数(a*、b*)が(5.9、−5.8)、
それ故、基板の被覆面の反射率は基板の非被覆面の反射率の12.5%である。
【0058】
従って、この基板は、特に眼科用レンズに使用するのに好適である。実際、この基板は、さらに次の好都合がある:
- 例えば指紋の速やかな消失を保証するなどの屋内および屋外での非常に高い光触 媒活性、
- 低反射率および比較的中間の色。
【0059】
実施例6
この実施例はほぼ実施例1の操作条件を繰り返す。
違いは以下の通りである:
Ti/Si比が0.25である。光触媒被覆物は、屈折率が550nmにおいて1.39であり、厚さが97nmである。しかしながら、後者の光触媒被覆物の厚さは光反射率に実質的に影響を及ぼさないで70〜120nmで変えることができ、この厚さの変化の幅の範囲は光触媒被覆物の厚さの平均値の50%以上である。
【0060】
基板と光触媒被覆物との間に積層される堆積層の厚さは以下の通りである:
ガラス / Si34 / SiO2 / TiO2
18.2nm 43.9nm 113.4nm
こうして、下記事項が得られる:
L=1%
(a*、b*)=(0、0)
ext=1.0x10-2cm-1/min。
それ故、光学的な結果は実施例で得られた結果と同じである。
【0061】
実施例7
この実施例は以下の条件を除いて実施例1と同じ実験条件で再実験する:
基板は超透明プリントガラスで作られて商品名SGGアルバリノ(Albarino 登録商標)でサン−ゴバン グラスから販売される。基板の1面のみが処理される。
Ti/Si比が2である。それから光触媒被覆物の屈折率は550nmにおいて1.61であり、その厚さは83nmである。しかしながら、後者の光触媒被覆物の厚さは光反射率に実質的に影響を及ぼさないで70〜100nmで変えることができ、その光触媒被覆物の厚さの幅の範囲が光触媒被覆物の厚さの平均値の35%である。
【0062】
基板と光触媒被覆物との間に積層される堆積層の厚さは以下の通りである:
ガラス / Si34 / SiO2 / TiO2
41.0nm 14.2nm 56.1nm
こうして、下記事項が得られる:
L=4.5%、
(a*、b*)=(1.1、−2.0)、
ext=4.9x10-2cm-1/min。
被覆面の反射率は0.6%で、基板の非被覆面の反射率の15%である。
この光触媒被覆層はTi/Si比が大きく、それ故にその活性は極めて強い。
このガラスは太陽光電池パネルを作成するために使用される。反射防止と自浄作用の組み合わせは、それによって高くかつ耐久性のあるエネルギー効率を長期間得るのに役立つ。
【0063】
実施例8〜10
これらの各実施例は基板と光触媒被覆物との間に積層される堆積の種類、および場合によってTi/Si比が実施例1と異なる。
この堆積は次の層から成る:
ガラス / Si34 / SiO2 / Si34
1(nm) e2(nm) e3(nm)
ここでは第3層は二酸化チタンに代えて窒化ケイ素である。この変更は強靭化工程あ るいは曲げ工程の間に起こる耐熱機械応力への堆積の抵抗力を改良することを目的と する。
表1は各実験条件と3つの実施例の結果を示す。
【0064】
【表1】

【0065】
この数値△e4は、被覆物の反射率が非被覆基板の反射率よりも実質的に低い水準にとどまるe4値の範囲を示す。この厚さの幅の範囲は厚さの平均値の各々74%、50%および35%である。
これらの被覆面の反射率は非被覆面の反射率の各々12.5%、12.5%および20%である。さらに、被覆面の反射率は基板の非被覆面の反射率よりも全400−800nm域に渡って低い。
これらのガラスはショーウィンドウあるいはお店の店頭を調製するために適している。このようにして成形された曲線状の窓ガラスは、屋内での効果的な自浄作用を有しかつ反射防止機能があるおかげで売りに出されて置かれた物品を目立たせる利点がある。
【0066】
実施例11(比較例)
前述の特許出願EP−A−1291331の表1にある実施例を上記出願に記載された技術的な教示に従って再現した。下層の堆積および厚さが107.76nmの二酸化チタン層がマグネトロンスパッタリング法によって蒸着された。
屋外条件下に測定された活性kextは0.3x10-2cm-1/minであり、有機の汚れの速やかな分解を確かにするには不足している。さらに、上記出願の図8に示されているように、厚さのほんのわずかの変化(この場合は7nm)が反射率の値を大幅に変化させる。結局のところ、被覆基板の反射率は波長に大きく依存し、400nmおよび800nmにて測定された値は非常に大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面の少なくとも1つの面の少なくとも一部に二酸化チタンに基づく光触媒被覆物を有する基板であって、基板の被覆面が基板の非被覆面よりも低い光の反射率を有することを特徴とする透明または半透明の基板。
【請求項2】
光の反射率を低くするために基板と光触媒被覆物との間に少なくとも1つの被覆物が挿入されることを特徴とする請求項1に記載の基板。
【請求項3】
基板と光触媒被覆物との間に挿入される被覆物が多層の堆積物であることを特徴とする請求項2に記載の基板。
【請求項4】
基板と光触媒被覆物との間に挿入される被覆物が薄い誘電体層から構成され、前記誘電体層が順に、
- 1.8〜2.3の屈折率nおよび5〜50nmの幾何学的厚さeを有する高屈折率の第1の層1、
- 1.35〜1.65の屈折率nおよび10〜60nmの幾何学的厚さeを有する低屈折率の第2の層2、
- 1.8〜2.5の屈折率nおよび40〜150nmの幾何学的厚さeを有する高屈折率の第3の層3
を含む、ことを特徴とする請求項3に記載の基板。
【請求項5】
多層の堆積物が金属層を包含しないことを特徴とする請求項3又は4に記載の基板。
【請求項6】
基板の被覆面が基板の非被覆面の60%以下の光の反射率を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の基板。
【請求項7】
基板の被覆面が基板の非被覆面の15%以下の光の反射率を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の基板。
【請求項8】
400〜800nmの全波長域において、基板の被覆面が基板の非被覆面よりも低い反射率を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の基板。
【請求項9】
被覆基板の反射率が非被覆基板の反射率よりも低水準にとどまる光触媒被覆物の厚さの幅の範囲が光触媒被覆物の厚さの平均値の少なくとも15%に相当することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の基板。
【請求項10】
光触媒被覆物が550nmにおいて1.8未満の屈折率を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の基板。
【請求項11】
光触媒被覆物が550nmにおいて1.6未満の屈折率を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の基板。
【請求項12】
光触媒被覆物が、ステアリン酸の分解速度として示される屋外光条件下での活性が1x10−2cm−1/分以上であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の基板。
【請求項13】
光触媒被覆物が、分解したステアリン酸の重量%として示される屋内光条件下での活性が15%以上であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の基板。
【請求項14】
光触媒被覆物が、分解したステアリン酸の重量%として表される屋内光条件下での活性が30%以上であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の基板。
【請求項15】
光触媒被覆物が、少なくとも部分的に結晶性の二酸化チタンを含むメソ多孔性構造を有することを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の基板。
【請求項16】
メソ多孔性構造は、二酸化チタンを除くと、主としてシリカ(SiO)からなることを特徴とする請求項15に記載の基板。
【請求項17】
少なくとも部分的に結晶性の二酸化チタンが、完全に識別できる粒子の形でメソ多孔性構造に組み込まれることを特徴とする請求項15又は16に記載の基板。
【請求項18】
Ti/Siの原子比が0.6〜1.2であることを特徴とする請求項16又は17に記載の基板。
【請求項19】
基板と光触媒被覆物との間に耐傷性又は耐摩耗性の被覆物が挿入されることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック基板。
【請求項20】
光の反射率を低くするために耐傷性又は耐摩耗性の被覆物が基板と光触媒被覆物との間に挿入されることを特徴とする請求項2に記載のプラスチック基板。
【請求項21】
以下の工程:
- 被覆物のメソ多孔性構造を構成する材料の前駆体の少なくとも1種および溶媒に希釈された有機構造化剤の少なくとも1種を含む“ゾル”の調製、
- ゾルの“熟成”、
- ゾルに対する二酸化チタンのナノ粒子あるいは微結晶の添加、
- 被覆されるべき基板の少なくとも1つの面に対するゾルの塗布、
- 溶媒の除去、
- 有機構造化剤の除去
を含むことを特徴とする請求項1〜20のいずれか1項に記載の基板の製造法。
【請求項22】
基板がプラスチック製であって、溶媒および有機構造化剤の除去の工程が紫外線照射下に80℃以下の温度で実施されることを特徴とする請求項21に記載の基板の製造法。
【請求項23】
請求項1に記載の基板を含むことを特徴とする透明板ガラス。
【請求項24】
請求項19および20のいずれかに記載の基板を含むことを特徴とする眼科用レンズ。
【請求項25】
透明板ガラス、眼科用レンズ、美術館の窓あるいはショーウィンドウ、水族館のガラス、インテリアあるいは都会の家具用透明板ガラス、ディスプレー画面用透明板ガラス、熱および/または電力を取り出す太陽電池パネル用透明板ガラス、自動車、船舶あるいは飛行機用透明板ガラス、鏡、自動車のバックミラー、ヘッドライト光学素子、照明装置としての請求項1に記載の基板の利用。

【公表番号】特表2007−536137(P2007−536137A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512305(P2007−512305)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050307
【国際公開番号】WO2005/110937
【国際公開日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】