説明

光記録・再生方法及び光記録・再生装置

【課題】書換可能な相変化型光記録媒体における繰り返し記録耐久性を改善する。
【解決手段】基板上に、相変化型記録層を有する記録再生機能層を形成した情報記録用媒体に、局所的にレーザー光を照射して情報を記録・再生する際に、記録時の相変化型記録層上のレーザー集光面積が再生時の相変化型記録層上のレーザー集光面積より大きくなるようにレーザー集光面積の制御を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相変化型記録層を有する情報記録用媒体における光記録・再生方法及び光記録・再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
相変化を利用した情報の記録方法としては、光、電流(ジュール熱)などのエネルギービームもしくはエネルギー流を作用させることで、金属又は半導体の結晶構造を可逆的に変化せしめる方法が知られている。一般的には結晶状態と非晶質状態における物理的パラメータ、例えば、屈折率、電気抵抗、体積、密度変化等の差を検出することで、情報の記録再生を行なう。本明細書においては、こうした記録再生に用いられる、実際に情報が記録される媒体を「情報記録用媒体」と記載する。更に、光エネルギーを利用して情報の記録再生を行なう場合の情報記録用媒体を「光学的情報記録用媒体」と記載する。
【0003】
相変化型記録層を有する光学的情報記録用媒体(以下、「相変化型光記録媒体」と記載する場合がある。)においては、通常集束光ビームを照射して局所的に生起せしめた結晶状態と非晶質状態との可逆的な変化に伴う反射率変化を利用して記録再生が行なわれる。
【0004】
このような相変化型光記録媒体は、可搬性、耐候性、耐衝撃性等に優れた安価な大容量の記録媒体として開発及び実用化が進んでいる。例えば、CD−RW、書換型DVDなどの書換可能な相変化型光記録媒体(以下、「相変化型光ディスク」と記載する場合がある。)が普及している。青色レーザー使用や対物レンズの高NA化による高密度化、記録パルス波形の改良による高速記録化などの開発、商品化も行なわれている。
【0005】
ここで、上記相変化型記録層の材料としては、カルコゲン系合金が多く用いられる。カルコゲン系合金としては、例えば、GeSbTe系、InSbTe系、AgInSbTe系合金が挙げられる。これら合金はオーバーライト可能な材料でもある。オーバーライトとは、一旦記録済みの光学的情報記録用媒体に再度記録をする際に、記録前に消去を行なうことなくそのまま重ね書きする手法、いわば消去しながら記録する手法である。
【0006】
相変化型光記録媒体は通常、相変化型記録層以外に、相変化型記録層を挟む、使用レーザーに対して透明な保護層と、熱伝導度の大きいAgやAlを主成分とする合金からなる反射層とを設ける。これらの層を含め、後述するように、通常の相変化型光記録媒体は、少なくとも1層の相変化型記録層(異なる材料を積層した2層以上の場合であっても、機能的に1つの相変化型記録層とみなせる場合を含む。以下の記載においても同様とする。)に対して、種々の機能を持たせた層が複数積層された構成を有する。ここでは、これら1組の複数層からなる構成全体を「記録再生機能層」と呼ぶ。
【0007】
近年、情報量の増大に伴い、ますます高容量の光学的情報記録用媒体が望まれている。高容量化の1つの方法として、記録再生機能層を光学的に分離できる程度に距離を離して複数積み重ねることにより多層型の光学的情報記録用媒体とし、容量を大幅に増やす多層化技術が挙げられる。
【0008】
多層型の光学的情報記録用媒体では、レーザー入射側から最も遠い記録再生機能層以外の記録再生機能層には所定の透過率が必要なため、反射層や相変化型記録層を厚くし難いという事情がある。書換可能な相変化型光記録媒体において、反射層はレーザー光を吸収した相変化型記録層から熱を速やかに逃がす役割があり、実験的には熱伝導度の大きい反射層を厚く設けることにより記録し易く、かつ消去もし易い光学的情報記録用媒体の設計が可能となる。即ち、反射層が薄いと光学的情報記録用媒体の設計が難しくなる傾向にある。それでも、2層の記録再生機能層を持つ書換可能な相変化型光記録媒体におけるレーザー入射側の記録再生機能層の場合、記録線速度が速くなければ、10nm程度のAg合金などを反射層として使用し、記録層、保護層等の膜厚設計を慎重に行なうことにより商品化に必要なレベルの信号特性を得ることができる。但し、書換可能な相変化型光記録媒体では、記録再生機能層を3層以上設けることは現状では難しい。
【0009】
なお、上述の多層型の相変化型光記録媒体の設計指針について記載した文献としては、例えば非特許文献1等が挙げられる。
【0010】
【非特許文献1】奥田昌宏監修、「次世代光記録技術と材料」、シーエムシー出版、p.41−52(柚須圭一郎執筆)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、2層の記録再生機能層を持つ書換可能な相変化型光記録媒体のレーザー入射側の記録再生機能層においては、初期の信号特性は良くても繰り返し記録耐久性が十分とはならない場合があることが判明した。具体的には、記録再生機能層が1層の相変化型光記録媒体では通常1000回以上の書換可能回数を保証するが、2層の記録再生機能層を持つ相変化型光記録媒体のレーザー入射側の記録再生機能層においては100回程度の記録で信号特性が大きく劣化してしまう場合があるのである。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、書換可能な相変化型光記録媒体の繰り返し記録耐久性を改善することが可能な光記録・再生方法及び光記録・再生装置を提供することにある。特に、複数の記録再生機能層を持つ書換可能な相変化型光記録媒体の繰り返し記録耐久性を改善することが可能な光記録・再生方法及び光記録・再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、同一の相変化型記録層上での記録時のレーザー集光面積を、再生時のレーザー集光面積より大きくすることにより、前記繰り返し記録耐久性が改善されることを見出して本発明に到達した。
【0014】
本発明の要旨は、基板上に、相変化型記録層を有する記録再生機能層を形成した情報記録用媒体に、局所的にレーザー光を照射して情報を記録・再生するための光記録・再生方法であって、記録時の相変化型記録層上のレーザー集光面積が再生時の相変化型記録層上のレーザー集光面積より大きくなるようにレーザー集光面積の制御を行なうことを特徴とする、光記録・再生方法に存する(請求項1)。
【0015】
ここで、前記レーザー光の波長が500nm以下であることが好ましい(請求項2)。
【0016】
また、前記レーザー集光面積の制御を、球面収差の調整により行なうことが好ましい(請求項3)。
【0017】
また、前記情報記録用媒体が前記記録再生機能層を複数有する多層型の情報記録用媒体であり、前記多層型の情報記録用媒体において、前記レーザー光が入射する面から最も遠くに位置する記録再生機能層以外の記録再生機能層の相変化型記録層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なうことが好ましい(請求項4)。
【0018】
また、前記レーザー光の透過率が30%以上である記録再生機能層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なうことが好ましい(請求項5)。
【0019】
また、前記相変化型記録層の膜厚が3nm以上、12nm以下である前記記録再生機能層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なうことが好ましい(請求項6)。
【0020】
また、SbxTe1-x(0.6≦x≦0.9)を主成分とする相変化型記録層を有する前記記録再生機能層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なうことが好ましい(請求項7)。
【0021】
本発明の別の要旨は、基板上に、相変化型記録層を有する記録再生機能層を形成した情報記録用媒体に、局所的にレーザー光を照射して情報を記録・再生する光記録・再生手段と、該光記録・再生手段による記録時の前記相変化型記録層上のレーザー集光面積が再生時の前記相変化型記録層上のレーザー集光面積より大きくなるようにレーザー集光面積の制御を行なう集光面積制御手段を有することを特徴とする、光記録・再生装置に存する(請求項8)。
【0022】
ここで、該光記録・再生手段により照射される前記レーザー光の波長が500nm以下であることが好ましい(請求項9)。
【0023】
また、該集光面積制御手段が、前記レーザー集光面積の制御を、球面収差の調整により行なうことが好ましい(請求項10)。
【0024】
また、前記情報記録用媒体が前記記録再生機能層を複数有する多層型の情報記録用媒体であり、該集光面積制御手段が、前記多層型の情報記録用媒体において、前記レーザー光が入射する面から最も遠くに位置する記録再生機能層以外の記録再生機能層の相変化型記録層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なうことが好ましい(請求項11)。
【0025】
また、該集光面積制御手段が、前記レーザー光の透過率が30%以上である記録再生機能層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なうことが好ましい(請求項12)。
【0026】
また、該集光面積制御手段が、前記相変化型記録層の膜厚が3nm以上、12nm以下である前記記録再生機能層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なうことが好ましい(請求項13)。
【0027】
また、該集光面積制御手段が、SbxTe1-x(0.6≦x≦0.9)を主成分とする相変化型記録層を有する前記記録再生機能層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なうことが好ましい(請求項14)。
【0028】
なお、光ビームのスポットサイズを調整することにより、最適なビームスポットの異なる複数種の光ディスクで良好な再生信号を得る技術は、特開平9−44888号公報に記載されている(段落0041)。しかし、この文献では、同一の光ディスクにおける記録時と再生時とでスポットサイズを変更するための調整は行なっていない。
【発明の効果】
【0029】
本発明の光記録・再生方法及び光記録・再生装置によれば、書換可能な相変化型光記録媒体において、繰り返し記録耐久性を改善することができる。特に、複数層の記録再生機能層を有する相変化型光記録媒体におけるレーザー光入射側に近い記録再生機能層における繰り返し記録耐久性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0031】
(A)光記録・再生方法:
本発明の光記録・再生方法(以下、「本発明の方法」と略称する場合がある。)は、基板上に、相変化型記録層を有する記録再生機能層を形成した情報記録用媒体に、局所的にレーザー光を照射して情報を記録・再生するための光記録・再生方法であって、記録時の前記相変化型記録層上のレーザー集光面積が再生時の前記相変化型記録層上のレーザー集光面積より大きくなるようにレーザー集光面積の制御を行なうものである。
【0032】
(1)基本概念:
本発明の方法の実施には、通常、相変化型記録層を有する記録再生機能層を形成した情報記録用媒体と、局所的にレーザー光を照射することの出来る光ピックアップ部、情報記録用媒体を駆動する媒体駆動部等を有する光記録・再生装置を用いる。好ましくは一台の光記録・再生装置において、同一情報記録用媒体の相変化型記録層上のレーザー集光面積を記録時と再生時とで変更できることが望ましいが、同一情報記録用媒体において記録時と再生時との集光面積の関係が所望の状態に実現できるのであれば、光記録装置と光再生装置が別個のものでも構わない。また、以下に特定する本発明の要旨を超えない範囲において、従来の記録再生に使用されている情報記録用媒体、光記録・再生装置を用いることが出来る。
【0033】
本発明の方法の実施においては、記録時と再生時とでレーザー集光面積を変化させる。相変化型記録層上のレーザー集光面積を意図的に変更する方法としては、例えば、収差補正の調整により行なう方法を挙げることが出来る。
【0034】
一般に、レーザー集光面積が小さいほど、高密度な光記録・再生が実現可能とされている。このため、レーザー集光面積は通常、装置性能が許す限り小さくなるように調整される。従って、収差補正についても、これを目的として補正の程度が決定される。ここから、収差補正の程度をずらすことにより、レーザー集光面積を大きくすることが出来る。
【0035】
他には、例えば集光面積を可能な限り小さくした状態で、フォーカス位置から意図的に媒体の位置をずらす方法も考えられる。但し、この場合、情報記録用媒体の面ぶれなどにより、フォーカス最適位置から情報記録用媒体が更に遠のく方向にぶれた場合と近づく方向にぶれた場合とでは、レーザー集光面積が大きく変化する傾向があるので、均一な記録ができ難くなると考えられる。この点に関しては、収差補正を調整する方が好ましいと思われる。
【0036】
具体的な収差補正の調整手段は、球面収差の調整によって行なうことが好ましい。球面収差の調整は、例えば、凹レンズ及び凸レンズを備えたビームエキスパンダユニットにおいて、凸レンズ及び凹レンズの一方又は双方を駆動し、凸レンズと凹レンズとの間の距離を調整することにより行なわれる。また、液晶の複屈折を利用することで球面収差を調整する技術もある。情報記録用媒体を意図的にレーザーに対して傾けることも集光面積を大きくする方法の1つなので、この方法によっても、集光面積の制御を行なうことが出来る。上記の収差補正の調整や球面収差の調整の具体的な方法については、従来公知の方法を用いればよい。
【0037】
本発明において繰り返し記録耐久性が改善される理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は以下のような推測をしている。
【0038】
繰り返し記録することにより特性が劣化する原因の1つは、相変化型記録層の材料(以下「記録層材料」と記載する場合がある。)が溶融、凝固を繰り返す間に記録層材料が移動してしまい、その結果相変化型記録層内で厚い部分と薄い部分ができてしまうことにあると考えられる。この記録層材料の移動は記録トラックに沿っても起こり得るし、半径方向にも起こり得る。具体的には、半径方向の記録層材料の移動については、CD−RWにおける繰り返し記録後の観察において、トラックの中心付近では相変化型記録層の膜厚が繰り返し記録を行なう前よりも厚くなり、トラック中心からマーク幅の半分程度離れた部分では膜厚が薄くなる傾向を確認している(相変化記録研究会 シンポジウム講演予稿集「相変化型光ディスクの基礎と応用(II)」、1992年、p.43〜48)。即ち、繰り返し記録によりトラックの外側(両脇)からトラック中心に向かって記録層材料が移動する傾向にある。ここで、トラック方向の記録層材料の物質移動については、記録開始点が常に同じ位置の場合は、繰り返し記録時の記録開始点付近で顕著に見られる。このため、繰り返し記録時の記録開始点を意図的にずらすことにより、上記記録層材料の移動による相変化型記録層の膜厚の変化は軽減されることが知られている。
【0039】
これらの記録層材料の移動原因はもちろん記録時の熱履歴によるものだが、おそらく記録層のディスク面内で温度の傾きが大きい方が物質の移動も大きくなるのではないかと推測される。物質が移動する原因は移動元と移動先との間に何らかの違いがあるからであり、もしどの部分も同時に同じ温度まで上がり、また同時に温度が下がるのであれば、物質が移動する原因が存在しないからである(拡散現象等により原子は移動するであろうが、膜厚が厚くなる部分と薄くなる部分が生じる原因にはなり難いと考えられる。)。
【0040】
一方、相変化型記録層の膜厚が薄いほど結晶化が進み難くなることも、繰り返し記録耐久性が劣化する理由の1つであると考えている。つまり、前記のように記録層材料はトラックの外側からトラック中心に向かって移動する傾向にある。このため、繰り返し記録により、トラックの外側の相変化型記録層の膜厚は薄くなる傾向にある。この結果、結晶化がトラックの外側からトラック中心へ進んでいく場合には、初期には問題なく結晶化していた部分(トラック外側付近)でも、繰り返し記録後には結晶化し難くなり特性が悪化する可能性がある。
【0041】
つまり、繰り返し記録耐久性を改善するためには、記録層材料の繰り返し記録に伴う物質移動を抑制することが望まれる。
【0042】
上記メカニズムに鑑み、本発明者等は、記録層材料の物質移動を低減するためには、相変化型記録層上に形成されるレーザー光のビーム形状を、最も絞った状態よりもある程度広がったビーム形状にして、相変化型記録層内の位置による温度の違い(温度の傾き)を小さくすると良いのではないかと考えた。つまり、記録時には、相変化型記録層上に形成されるレーザーの集光面積(ビーム形状)を大きくしておき、再生時にはレーザー光を絞り集光面積(ビーム形状)を小さくすることにより、繰り返し記録耐久性を改善できる方法を得ることができると考えたのである。そして、後述の実施例に裏付けられる通り、特に透過率が大きい記録再生機能層を有する情報記録用媒体の繰り返し記録耐久性が改善されることが判った。
【0043】
本発明の目的とする上記効果を得るためには、記録時のレーザー集光面積が、再生時のレーザー集光面積よりある程度以上大きければよい。具体的には、記録時のレーザー集光面積を、再生時のレーザー集光面積に対して、通常1.02倍以上、好ましくは1.04倍以上、更に好ましくは1.06倍以上とする。再生時のレーザー集光面積に対する記録時のレーザー集光面積の比率が小さ過ぎると、目的とする上述の効果が得られない場合がある。
【0044】
しかしながら、通常の情報記録用媒体では、隣接するトラック間の距離が短いことによる不具合が生じる場合がある。即ち、相変化型記録層上に形成されるレーザー集光面積を大きくし過ぎると、再生時に隣り合うトラックのマークからの反射光が漏れこむことによる信号特性の悪化(クロストーク)や、記録時に隣り合うトラックのマークを結晶化させてしまうことによる信号特性の悪化(クロスライト)や、溝信号特性の悪化が起こると考えられる。結果として、10回程度の繰り返し記録回数では、記録時のレーザー集光面積が大きいと記録特性が悪化する場合も有り得る。更に、当然ながら記録時の集光面積が小さい方が記録分解能の点で有利である。従って、繰り返し記録特性全体のバランスを考慮してレーザー集光面積を制御することが望ましい。
【0045】
上述した通り、他の記録特性への影響等を考慮すると、記録時のレーザー集光面積は、本発明の効果が得られる範囲であることを前提に、再生時のレーザー集光面積の2倍以下が好ましく、更に好ましくは1.6倍以下、特に好ましくは1.4倍以下である。
【0046】
記録時のレーザー集光面積をどの程度大きくするかについては、実際に使用する装置と情報記録用媒体の組み合わせにより確認することが望ましい。但し、光記録・再生装置と情報記録用媒体の種類(層構成、記録密度、基板厚み等)とが決まれば、その組み合わせにおいては記録時の最適なレーザー集光面積は一定であると考えられる。実際の確認方法についての詳細は後述の実施例において説明するが、まず、相変化型記録層上に形成されるレーザー集光面積を適当な範囲で変更して記録をそれぞれ行なう。次に、それぞれの記録条件で記録されたマークの再生を行なって種々の信号品質を評価する。そして、その結果を基に、記録時のレーザー集光面積を決定すればよい。その場合、再生時のレーザー集光面積は、記録密度等の観点から、用いるレーザーユニットやレンズ等の性能が許す限り小さくする。そして、再生時のレーザー集光面積を基準として、記録時のレーザー集光面積を大きくする方向に変化させて、記録時のレーザー集光面積を特定することが好ましい。
【0047】
本発明におけるレーザー集光面積は、一般的な定義である、レーザー光の中心強度に対して1/e2(=0.135335・・・)以上の強度を持つ部分の面積という概念を含むものであるが、本発明において、記録時のレーザー集光面積が再生時のレーザー集光面積より広いという状態は、より詳細には下記の規定により特定される。
【0048】
即ち、記録時のレーザー集光面積が再生時のレーザー集光面積より広いという状態は、再生時のレーザー光に対する記録時のレーザー集光度が1.00未満となる状態である。ここで、レーザー集光度は、以下の(i)〜(iii)により定義される。
【0049】
(i)基準となるレーザー光、及び、比較対象となるレーザー光の、情報記録用媒体上でのレーザー光強度分布を測定する。
(ii)基準となるレーザー光の全エネルギーと、比較対象となるレーザー光の全エネルギーとが等しくなるように、比較対象となるレーザー光の強度を規格化する。
(iii)基準となるレーザー光のビーム中心のレーザー光強度に対する、規格化後の比較対象となるレーザー光のビーム中心のレーザー光強度の比を、レーザー集光度と定義する。
【0050】
上記記載から明確なように、レーザー集光度とは、基準となるレーザー光に対する相対的な値であり、基準レーザー光に対し、対象となるレーザー光エネルギーの収束度合いを示す指標と言える。再生時のレーザー光を基準レーザー光とした時、記録時のレーザー光のレーザー集光度が1.00より小さいほど、記録時のレーザー光エネルギーがより広がった状態であることを意味するので、記録媒体における温度の傾きが小さくなることが予想でき、従って、良好な繰り返し記録特性を得ることが可能となるのである。
【0051】
本発明における、再生時のレーザー光を基準とした記録時のレーザー集光度は、0.98以下が好ましく、更に好ましくは0.96以下、更に好ましくは0.94以下である。また、他の記録特性への影響を考慮すると0.50以上が好ましく、更に好ましくは0.60以上、更に好ましくは0.70以上である。
【0052】
集光面積の一般的な定義では、レーザー光強度分布のある1点しか考慮されていないのに対し、本発明におけるレーザー集光度は、レーザー光強度分布全体を考慮した形となっている。このため、より正確なレーザー光の収束度合いの比較が可能であり、本発明に適したパラメータの一つと言える。
【0053】
本発明に用いる集束光ビームは、通常、半導体レーザーやガスレーザーなどのレーザー光であって、その波長は通常300nm以上、好ましくは350nm以上、また、通常800nm以下、好ましくは700nm以下の範囲である。特に1Gbit/inch2以上の高面記録密度を達成するためには、集束光ビーム径を小さくすることが望ましい。具体的には、波長350nmから680nmの青色から赤色のレーザー光と開口数NAが0.5以上の対物レンズを用いて集束光ビームを得ることが望ましい。
【0054】
また、一般に、使用するレーザー光の波長(以下「レーザー波長」と略す場合がある。)が短いほど集光面積は小さくなるため記録層内の温度の傾きは大きくなる。従って、レーザー波長が短い場合ほど前記の繰り返し記録特性の劣化原因が重要になると思われる。即ち、本発明はレーザー波長が短い場合に特に有効であると思われる。特に、通常500nm以下、好ましくは450nm以下の波長のレーザー光を使用する場合に有効である。
【0055】
(2)情報記録用媒体の基本構成:
本発明に用いる情報記録用媒体は、基板上に1層以上の記録再生機能層を有してなる。
【0056】
(2−1)基板:
情報記録用媒体に使用する基板としては、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどの樹脂、或いはガラス、アルミニウム等の金属を用いることができる。通常、基板には深さ20〜80nm程度の案内溝が設けられているので、案内溝を成形によって形成できる樹脂製の基板が好ましい。また、記録消去再生用の集束光ビームが基板側から入射する、いわゆる基板面入射の場合は、基板は透明であることが好ましい。
【0057】
基板の厚さは、通常0.05mm以上、1.5mm以下とするが、CDでは1.2mm程度、DVDでは0.6mm程度のものが用いられる。また、高密度化のためにレーザーの光学ヘッドを高NA、短波長とする場合には0.1mm程度の薄いものも用いられる。
【0058】
(2−2)記録再生機能層:
前述した通り、記録再生機能層は、1層の相変化型記録層(以下、単に「記録層」と記載する場合がある。)を有する。そして、記録再生機能層とは、この相変化型記録層での記録再生を良好に行なうために設けられる種々の機能を有する1組の層の集合を総称したものである。一般には、再生光の入射方向に沿って順に、第1保護層、記録層、第2保護層、反射層、保護コート層が設けられている構成をとる。
【0059】
もちろん、これらの各層はそれぞれ2層以上で形成されていてもよく、また、それらの間に中間層が設けられていてもよい。例えば、基板側から再生光を入射する場合の基板/保護層間や、基板とは反対側から再生光を入射する場合の保護層上に、半透明の極めて薄い金属、半導体、吸収を有する誘電体層等を設けて、記録層に入射する光エネルギー量を制御することも可能である。
【0060】
なお、上記の通り記録再生用のレーザー光(記録再生光)の入射側とは反対側に反射層を設けることが多いが、この反射層は用いなくてもよい。また、記録層の少なくとも一方の面に設けられることが好ましい保護層において、特性の異なる材料を多層化することも行なわれる。
【0061】
以下、各層について詳しく説明する。
【0062】
(2−2−1)相変化型記録層:
相変化型記録層の材料としては、前述の通りカルコゲン系合金が多く用いられる。この中でも、本発明においてはSbxTe1-x(ここでxは、0.6≦x≦0.9を満たす数を表わす。これを以下、単に「0.6≦x≦0.9」と表記する。)を主成分とする材料が好ましい。「SbxTe1-x(0.6≦x≦0.9)を主成分とする」とは、相変化型記録層全体に対してSbxTe1-x(0.6≦x≦0.9)が50原子%以上含有されていることをいう。相変化型記録層全体に対するSbxTe1-x(0.6≦x≦0.9)の含有量は、70原子%以上とすることが好ましく、80原子%以上とすることがより好ましく、90原子%以上とすることが更に好ましく、95原子%以上とすることが特に好ましい。
【0063】
SbxTe1-x(0.6≦x≦0.9)を主成分とする相変化型記録層は、結晶化時に結晶核の生成が少なく、結晶成長が支配的であることが知られている。この場合、オーバーライト時、少なくとも結晶化部の一部はトラックの外側からトラック中心に向かって結晶化が進む。例えばオーバーライト前に存在した長い非晶質のマーク上に短い非晶質のマークをオーバーライトする場合、結晶核が生成されなければ、新しく形成される上記短い非晶質のマーク後端部の近くの結晶化されるべき部分は、トラック外側から中心部へ結晶化が進まない限り結晶化は起こりえない。従って、繰り返し記録によりトラックの外側部で膜厚が薄くなったときは、結晶化が進行し難くなり特性に悪影響を及ぼすと考えられる。一方、GeTe−Sb2Te3ライン上の組成に代表される材料を相変化型記録層に用いる場合、結晶核生成が結晶化において大きな役割を果たす。このため、トラックの外側部の記録層膜厚が多少薄くなったときでも、SbxTe1-x(0.6≦x≦0.9)を主成分とする記録層と比較して結晶化に支障は出難いと考えられる。周りの結晶と接していないトラック中心部にも結晶核が形成され、この結晶核から結晶化が進むと考えられるからである。従って、本発明は結晶成長が支配的である材料を相変化型記録層として用いる場合に特に有効であると思われる。但し、結晶核生成が支配的である材料を相変化型記録層に用いる場合であっても、本発明の効果が現れる可能性は十分にあると思われる。
【0064】
SbxTe1-x(0.6≦x≦0.9)を主成分とする相変化型記録層には、種々の特性改善のために、所定の添加元素を含有させてもよい。添加元素としては、具体的には、Au、Ag、Al、Ge、In、Ga、Zn、Si、Cu、Pd、Pt、Rh、Pb、Cr、Mo、W、Mn、Co、O、N、Se、Sn、V、Nb、Ta、Ti、Bi、B、及びTb、Dy、Gd等の希土類元素等を挙げることが出来る。特性改善の効果を得易くするために、添加量は、相変化型記録層の全体の0.1原子%以上が好ましい。但し、SbxTe1-x(0.6≦x≦0.9)の組成への添加量は、20原子%以下に留めるのが好ましい。添加元素として特に好ましいのは、Ge、Inである。Geはアモルファスの安定性を改善し、Inはアモルファス安定性及び記録可能な線速度の範囲を改善する効果があるからである。
【0065】
なお、希土類元素(希土類金属元素)とは、周期表第3B族に属する元素をいい、具体的には、Sc、Y、ランタノイド元素、及びアクチノイド元素をいう。
【0066】
また、前述のように、相変化型記録層の膜厚が薄い記録再生機能層に本発明を適用した場合に、特に効果が大きいと思われる。記録層の膜厚が厚過ぎると透過率が小さくなる傾向があるため、記録層の膜厚は12nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましく、8nm以下が更に好ましい。一方、記録層の膜厚が薄過ぎると信号強度が小さくなる傾向があるため、3nm以上が好ましく、4nm以上がより好ましく、5nm以上が更に好ましい。
【0067】
(2−2−2)相変化型記録層の製造方法:
上記相変化型記録層は、所定の合金ターゲットを、不活性ガス、特にArガス中でDC又はRFスパッタリングすることにより得ることができる。
【0068】
また、記録層の密度は、バルク密度の通常80%以上、好ましくは90%以上とする。ここでいうバルク密度ρとは、通常は下記式(1)による近似値を用いるが、記録層を構成する合金組成の塊を作製して実測することもできる。
【0069】
ρ=Σmiρi (1)
(式中、iは記録層を構成する各元素を表わし、miは各元素iのモル濃度を表わし、ρiは元素iの原子量を表わす。)
【0070】
スパッタ成膜法においては、成膜時のスパッタガス(通常はAr等の希ガスを用いる。以下、Arの場合を例に説明する。)の圧力を低くしたり、ターゲット正面に近接して基板を配置するなどして、記録層に照射される高エネルギーAr量を多くすることによって、記録層の密度を上げることができる。高エネルギーArは、通常スパッタのためにターゲットに照射されるArイオンが一部跳ね返されて基板側に到達するものか、プラズマ中のArイオンが基板全面のシース電圧で加速されて基板に達するものかの何れかである。
【0071】
このような高エネルギーの希ガスの照射効果をAtomic peening効果というが、一般的に使用されるArガスでのスパッタリングではAtomic peening効果によりArがスパッタ膜に混入される。従って、膜中のAr量により、Atomic peening効果を見積もることができる。即ち、Ar量が少なければ、高エネルギーAr照射効果が少ないことを意味し、密度の疎な膜が形成され易い。
【0072】
一方、Ar量が多ければ、高エネルギーArの照射が激しくなり、膜の密度は高くなるものの、膜中に取り込まれたArが繰り返し記録時にvoidとなって析出し、繰り返し記録耐久性を劣化させ易い。従って、適度な圧力、通常は10-2〜10-1Paのオーダーの範囲で放電を行なう。
【0073】
(2−2−3)保護層:
相変化型記録層の相変化に伴う蒸発・変形を防止し、その際の熱拡散を制御するため、通常、記録層の上下一方又は両方に保護層が形成される。保護層は、好ましくは、相変化型記録層の上下両方に形成される。保護層の材料は、屈折率、熱伝導率、化学的安定性、機械的強度、密着性等に留意して決定される。一般的には、透明性が高く高融点である金属や半導体の酸化物、硫化物、窒化物、炭化物や、Ca、Mg、Li等のフッ化物等の誘電体を用いることができる。
【0074】
この場合、これらの酸化物、硫化物、窒化物、炭化物、フッ化物等は、必ずしも化学量論的組成をとる必要はなく、屈折率等の制御のために組成を制御したり、混合して用いることも有効である。繰り返し記録特性を考慮すると誘電体の混合物が好ましい。より具体的には、ZnSや希土類硫化物等のカルコゲン化合物と酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物等の耐熱化合物の混合物が挙げられる。例えば、ZnSを主成分とする耐熱化合物の混合物や、希土類の硫酸化物、特にY22Sを主成分とする耐熱化合物の混合物は好ましい保護層組成の一例である。
【0075】
保護層を形成する材料としては、通常、誘電体材料を挙げることができる。誘電体材料としては、例えば、Sc、Y、Ce、La、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Zn、Al、Cr、In、Si、及びGe等の酸化物;Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Zn、B、Al、Si、Ge、及びSn等の窒化物;Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、及びSi等の炭化物;Zn、Y、Cd、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、及びBi等の硫化物、セレン化物及びテルル化物;Y、及びCe等の酸硫化物;Mg、Ca等のフッ化物;並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0076】
更に、誘電体材料の具体例としては、ZnS−SiO2、ZnS−ZrO2、SiN、SiO2、TiO2、CrN、TaS2、Y22S等を挙げることができる。これら材料の中でも、ZnS−SiO2は、成膜速度の速さ、膜応力の小ささ、温度変化による体積変化率の小ささ、及び優れた耐候性から広く利用される。ZnS−SiO2を用いる場合、ZnSとSiO2との組成比(ZnS:SiO2)は、通常0:1以上、好ましくは0.5:0.5以上、より好ましくは0.7:0.3以上、また、通常1:0以下、好ましくは0.95:0.05以下、より好ましくは0.9:0.1以下とする。なお、ここでは、ZnSの比率が高くなることを「以上」、低くなることを「以下」と表わしている。最も好ましいのは、ZnS:SiO2を0.8:0.2程度とすることである。
【0077】
繰り返し記録特性を考慮すると、保護層の膜密度はバルク状態の80%以上であることが機械的強度の面から望ましい。誘電体の混合物を用いる場合には、バルク密度として上述の式(1)の理論密度を用いる。
【0078】
保護層の厚さは、一般的に通常1nm以上500nm以下である。1nm以上とすることで、基板や記録層の変形防止効果を確保することができ、保護層としての役目を果たすことができる。また、500nm以下とすれば、保護層としての役目を果たしつつ、保護層自体の内部応力や基板との弾性特性の差等が顕著になって、クラックが発生するということを防止し易くなる。
【0079】
特に、第1保護層を設ける場合、第1保護層は、熱による基板変形や保護コート層変形等を抑制することが望ましい。このため、その厚さは通常1nm以上、好ましくは5nm以上、特に好ましくは10nm以上である。このようにすれば、繰り返し記録中の微視的な基板変形の蓄積が抑制され易くなり、再生光が散乱されてノイズ上昇が著しくなるということを抑制し易くなる。
【0080】
一方、第1保護層の厚みは、成膜に要する時間の関係から、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、更に好ましくは100nm以下である。このようにすれば、記録層等の成膜による溝形状の変動が極力抑えられる。例えば、溝の深さや幅が、意図した形状より小さくなったりする現象が起こり難くなる。
【0081】
一方、第2保護層を設ける場合、第2保護層の膜厚は、記録層の変形抑制のために、通常1nm以上、好ましくは2nm以上、特に好ましくは3nm以上である。また、反射層に速やかに熱を逃がし易くするため、第2保護層の膜厚は、好ましくは20nm以下、より好ましくは15nm以下、更に好ましくは10nm以下、特に好ましくは8nm以下である。
【0082】
なお、記録層及び保護層の厚みは、機械的強度、信頼性の面からの制限の他に、多層構成に伴う干渉効果も考慮して、レーザー光の吸収効率がよく、記録信号の振幅が大きく、即ち記録状態と未記録状態のコントラストが大きくなるように選ばれる。
【0083】
保護層は、通常、公知のスパッタリング法によって製造すればよい。
【0084】
なお、保護層は、前述のような異なる材料からなる複数の層で構成されていてもよい。特に、記録層と接する側の界面、及び/又は、Agを主成分とする反射層と接する側の界面に、硫黄を含まないか又は硫黄含有量の少ない界面層を設けることが好ましい。
【0085】
ここで、Agを主成分とする反射層と接する側の界面に設ける界面層は、保護層に硫黄が含有される場合に、Agと硫黄との反応(Agの腐食)を抑制するために通常用いられる。
【0086】
この場合の界面層の材料としては、硫黄を含まない誘電体を用いることが好ましい。このような材料としては、具体的には、金属や半導体の酸化物、窒化物、炭化物等を挙げることが出来る。より具体的には、上記材料としては、SiC、Si34、SiC、GeN、GeCrN、Ta25、ZrO2、AlN、Al23等が用いられる。これらは、必ずしも化学量論比組成でなくてもよいし、混合物であってもよい。
【0087】
界面層の膜厚は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上である。界面層の膜厚が過度に薄いと、保護層と反射層との反応を抑制し難くなる場合があるが、上記範囲とすれば、高温高湿下(例えば、80℃/85%RH)という過酷環境下における信頼性試験においても、情報記録用媒体の信頼性が良好に確保されるようになる。
【0088】
一方、界面層の膜厚は、好ましくは10nm以下、より好ましくは8nm以下、更に好ましくは6nm以下である。上記範囲とすれば、界面層の透過率を良好に確保しつつ、反射層中のAgと保護層中のSとの反応を抑制し易くなる。
【0089】
界面層は通常、スパッタリング法で形成される。
【0090】
(2−2−4)反射層:
情報記録用媒体は、記録層の放熱性を高める観点から、更に反射層を有することが好ましい。
【0091】
反射層の設けられる位置は、通常再生光の入射方向に依存し、入射側に対して記録層の反対側に設けられる。即ち、基板側から再生光を入射する場合は、基板に対して記録層の反対側に反射層を設けるのが通常であり、記録層側から再生光を入射する場合は、記録層と基板との間に反射層を設けるのが通常である。
【0092】
反射層に使用する材料は、反射率の大きい物質が好ましく、特に放熱効果も期待できるAu、Ag又はAl等の金属が好ましい。その放熱性は膜厚と熱伝導率で決まるが、熱伝導率は、これら金属ではほぼ体積抵抗率に比例するため、放熱性能を面積抵抗率で表すことができる。面積抵抗率は、通常0.05Ω/□以上、好ましくは0.1Ω/□以上、また、通常0.6Ω/□以下、好ましくは0.5Ω/□以下、より好ましくは0.4Ω/□以下、更に好ましくは0.2Ω/□以下の範囲とする。
【0093】
これは、特に放熱性が高いことを保証するものであり、情報記録用媒体に用いる記録層のように、非晶質マーク形成において非晶質化と再結晶化の競合が顕著である場合に、再結晶化をある程度抑制するために、放熱性を確保することが重要となる。反射層自体の熱伝導度制御や、耐腐蝕性の改善のため上記の金属にTa、Ti、Cr、Mo、Mg、V、Nb、Zr、Si等を少量加えてもよい。添加量は通常0.01原子%以上20原子%以下である。Ta及びTiの少なくとも一方を15原子%以下含有するアルミニウム合金、特に、AlαTa1-α(0≦α≦0.15)なる合金は、耐腐蝕性に優れており、情報記録用媒体の信頼性を向上させる上で特に好ましい反射層材料である。
【0094】
他に反射層の材料として特に好ましいのは、Agを主成分とすることである。「Agを主成分とする」とは、反射層全体に対してAgが50原子%以上含有されていることをいう。反射層全体に対するAgの含有量は、70原子%以上とすることが好ましく、80原子%以上とすることがより好ましく、90原子%以上とすることが更に好ましく、95原子%以上とすることが特に好ましい。放熱性を高める観点から最も好ましいのは、反射層の材料を純Ag(Ag100原子%)とすることである。
【0095】
Agに、Mg、Ti、Au、Cu、Pd、Pt、Zn、Cr、Si、Ge、Bi、及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の元素を、0.01原子%以上10原子%以下の割合で含むAg合金も、反射率、熱伝導率が高く、耐熱性も優れていて好ましい。
【0096】
反射層の膜厚は、十分な透過率を得たい場合は、20nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましく、12nm以下が更に好ましい。一方、ジッタ等の信号特性を良好に保ち易くするためには、4nm以上が好ましく、6nm以上がより好ましく、8nm以上が更に好ましい。所定の透過率が必要ない場合には、反射層の膜厚は、20nm以上とすることが好ましく、40nm以上とすることがより好ましい。また、ある程度の生産性と強度を確保するために、反射層の膜厚は、通常は500nm以下とするが、400nm以下とすることが好ましく、300nm以下とすることがより好ましい。
【0097】
反射層も記録層、保護層と同じく、通常スパッタリング法などによって形成される。
【0098】
記録層用ターゲット、保護層用ターゲット、必要な場合には反射層材料用ターゲットを同一真空チャンバー内に設置したインライン装置で膜形成を行なうことが、各層間の酸化や汚染を防ぐ点で望ましい。また、生産性の面からも優れている。
【0099】
(2−2−5)保護コート層(カバー層):
情報記録用媒体の最表面側には、空気との直接接触を防いだり、異物との接触による傷を防ぐため、紫外線硬化樹脂や熱硬化型樹脂からなる保護コート層を設けるのが好ましい。保護コート層は通常1μmから数百μmの厚さである。また、硬度の高い誘電体保護層を更に設けたり、その上に更に樹脂層を設けることもできる。
【0100】
(3)本発明に用いる情報記録用媒体の他の好ましい態様:
前項において、本発明に用いる情報記録用媒体の基本構成について記載したが、他の好ましい態様について以下に説明する。
【0101】
実験的には、透過率が小さい記録再生機能層の繰り返し記録耐久性が、透過率が大きい記録再生機能層の繰り返し記録耐久性に比べて良好となる傾向にある。これらの構成の大きな違いは、反射層及び記録層の厚さが、透過率の大きい記録再生機能層では薄いことである。反射層が薄いと、記録層が吸収した熱が反射層に速やかに逃げ難くなり、記録層が高温に保持される時間が長くなる傾向となる。このことが、透過率の大きい記録再生機能層が繰り返し記録耐久性に劣る傾向にある理由の1つであると思われる。
【0102】
このことから、本発明に用いるレーザー集光面積の所定の制御は、透過率の大きい記録再生機能層に対して特に有効である。
【0103】
一般に、記録再生機能層を複数層有する多層型の情報記録用媒体では、レーザー入射側から最も遠い位置にある記録再生機能層に対しても、記録再生に必要な程度のレーザー光が到達しなければならない。即ち、レーザー入射側から最も遠い位置にある記録再生機能層以外の記録再生機能層は、レーザー光に対してある程度以上の透過率を有する必要がある。従って、本発明で用いる所定のレーザー集光面積の制御は、上記レーザー光が入射する面から最も遠くに位置する記録再生機能層以外の記録再生機能層の相変化型記録層に対して行なうことが好ましい。
【0104】
例えば、2層の記録再生機能層を有する情報記録用媒体におけるレーザー入射側の記録再生機能層については、現状の再生技術レベルでは、30%以上の透過率を有することが好ましく、40%以上の透過率を有することがより好ましく、45%以上の透過率を有することが更に好ましい。このことから、本発明において使用される記録再生機能層においても、同様の透過率を有することが好ましい。
【0105】
ここで、記録再生機能層の透過率を30%以上とするには、前述した各層の好ましい膜厚の範囲で、より薄い膜厚を適宜選択することで可能である。
【0106】
一方、本発明において使用される記録再生機能層の透過率の上限に制限はないが、通常は95%以下、好ましくは80%以下、更に好ましくは70%以下である。
【0107】
記録再生機能層の透過率の測定は、例えば以下のようにして行なう。まず、2層の記録再生機能層を持つ情報記録用媒体において、レーザー光の入射側から見て奥側の記録再生機能層の最適記録レーザー光パワーP1を測定する。ここで、「最適記録レーザー光パワー」は、記録レーザー光パワーを種々変更した場合に、例えばPRSNR等の記録再生特性について最も良好な数値が得られるパワーとして決定される。次に、この2層型の情報記録用媒体の奥側の記録再生機能層のみを用いた1層の記録再生機能層からなる情報記録用媒体(即ち、手前側の記録再生機能層を設けない情報記録用媒体)で、同様に最適記録レーザー光パワーP2を測定する。このとき、前記2層の記録再生機能層を持つ情報記録用媒体において、手前側の記録再生機能層の透過率T(%)は、T=(P2/P1)×100(%)によって求められる。
【0108】
また、前記理由から、多層型の情報記録用媒体において、本発明は好適に用いられる。更に、レーザー入射側から最も遠い記録再生機能層以外の記録再生機能層に対して、本発明は特に好適に用いられる。記録再生機能層の層数の上限に制限は無いが、通常7層以下、好ましくは5層以下、更に好ましくは3層以下である。
【0109】
(4)本発明に用いる記録パルス:
記録マークを形成する際、記録パワーを高レベル(記録パワー)と低レベル(消去パワー)の2レベルで変調させる方式による記録を行なうこともできるが、本発明においては、下記のような、記録マークを形成する際に消去パワーより十分低いオフパルス期間を設けるなどの3レベル以上の記録パワーの変調による方式による記録方法を採用することが特に好ましい。
【0110】
長さnT(ここで、Tは基準クロック周期を表わす。また、nはマーク長変調記録において取りうるマーク長であり、整数値である。)にマーク長変調された非晶質マークを形成する際、m=n−k(但しkは0以上の整数を表わす。)個の記録パルスに分割する。ここで、個々の記録パルスの幅をαiT(1≦i≦m)とする。そして、個々の記録パルスにβiT(1≦i≦m)なる時間のオフパルス(冷却パルス)区間を付随させる。ここで、αi≦βi或いはαi≦βi-1(2≦i≦m或いは2≦i≦m−1)とするのが好ましい。なお、Σαi+Σβiは通常n付近であるが、正確なnTマークを得るためにΣαi+Σβi=n+j(jは−2≦j≦2を満たす定数を表わす。)とすることもできる。
【0111】
記録の際、マーク間においては、非晶質を結晶化し得る消去パワーPeの記録光を照射する。また、αiT(1≦i≦m)においては、記録層を溶融させるのに十分な記録パワーPwの記録光を照射する。βiT(1≦i≦m−1)なる時間においては、Pb<Pe、好ましくはPb≦(1/2)Peとなるバイアスパワー(冷却パワー、オフパルスパワー)Pbの記録光を照射する。
【0112】
なお、期間βmTなる時間において照射する記録光のパワーPbは、βiT(1≦i≦m−1)の期間と同様、通常Pb<Pe、好ましくはPb≦(1/2)Peとするが、Pb≦Peとなっていてもよい。
【0113】
上記の記録方法を採用することによって、パワーマージンや記録時線速度マージンを広げることができる。この効果は、特にPb≦(1/2)PeとなるようにバイアスパワーPbを十分低くとる際に顕著である。
【0114】
なお、記録パルス(区間αiT)とオフパルス(区間βiT)の切り替え周期(αi+βi)T或いは、(βi-1+αi)Tを、概ねTと等しくする、即ち、(αi+βi)或いは、(βi-1+αi)を概ね1とする場合が通常だが、この切り替え周期を1Tより大きくすることも可能であり、特に、2Tや3Tにすることも可能である。高速記録においては、(αi+βi)或いは(βi-1+αi)を2以上とすることが好ましい。
【0115】
更に、記録時の線速度が上昇すると、クロック周期が短縮されるため、オフパルス区間が短くなって冷却効果が損なわれる傾向が強くなる。このような場合には、nTマーク記録の際に記録パルスを分割し、オフパルスによる冷却区間を実時間にして1nsec以上、より好ましくは5nsec以上設定することが有効である。一方、上記冷却区間を長くし過ぎると分割した各パルスに対応する各アモルファス部が再生時に分離して見えてしまうので、上記冷却区間の時間は4Tマーク長に相当する時間以下、好ましくは3Tマーク長に相当する時間以下である。
【0116】
(B)光記録・再生装置:
本発明の光記録・再生装置(以下、「本発明の装置」と略称する場合がある。)は、基板上に、相変化型記録層を有する記録再生機能層を形成した情報記録用媒体に、局所的にレーザー光を照射して情報を記録・再生する光記録・再生手段と、光記録・再生手段による記録時の前記相変化型記録層上のレーザー集光面積が再生時の前記相変化型記録層上のレーザー集光面積より大きくなるようにレーザー集光面積の制御を行なう集光面積制御手段を有するものである。
【0117】
光記録・再生手段は、従来の光記録・再生装置が有する、情報記録用媒体に光記録・再生を行なうための各種の機能要素、即ち、局所的にレーザー光を照射することの出来る光ピックアップ部、情報記録用媒体を駆動する媒体駆動部、記録再生信号の処理を行なう制御演算部等の機能要素から構成されることになる。
【0118】
集光面積制御手段は、上述の光記録・再生手段を構成する機能要素を制御することにより、相変化型記録層上の記録時のレーザー集光面積が再生時のレーザー集光面積より大きくなるようにレーザー集光面積の制御を行なうものである。なお、レーザー集光面積の制御の詳細等については、上記(A)欄で述べた通りであるので、ここでは省略する。
【0119】
以上の構成を有する本発明の装置は、従来公知の各種の光記録・再生装置を一部改造することで実現可能である。即ち、従来の光記録・再生装置に適切な制御手段を組み込んで、上述したレーザー集光面積の制御を行なわせればよい。
【0120】
例えば、後述する実施例において使用しているパルステック社製ODU1000テスタは、収差補正によりレーザー集光面積を変更する機能を予め有している。この装置において、実施例において後述する方法により記録時における最適な集光面積を実現する収差補正値を特定し、記録時と再生時に前記特定の収差補正制御を実施するような制御手段を組み込むことによって、本発明の光記録・再生装置が実現可能である。
【0121】
なお、本発明の装置は、上述したレーザー集光面積の制御が実現できる構成であれば、情報の記録と再生とが1組の別個の装置によって達成される構成であっても構わない。
【0122】
また、本発明の装置に用いる情報記録用媒体は、上記(A)欄で述べたものと同様であるため、説明は省略する。
【0123】
以下、本発明の光記録・再生装置の一例について、図1を用いてより具体的に説明する。なお、図1は、本発明の一実施形態に係る光記録・再生装置の要部構成を模式的に示す図である。
【0124】
図1に示す光記録・再生装置10は、情報記録用媒体11を回転駆動するスピンドルモータ12と、例えばレーザダイオード(LD)などの半導体レーザー(レーザー光源)13、ビームスプリッタ14、ビームエキスパンダユニット15(これは例えば、凸レンズ及び凹レンズ等を有し、これらの一方又は両方が駆動できるように構成される。)、対物レンズ16、光検出器17(これは例えばフォトダイオード(PD)等により構成される。)を含む光ピックアップ18と、光ピックアップ18によって検出された信号を増幅するアンプ19と、半導体レーザー13を駆動するレーザドライバ(駆動部;例えば駆動回路)20と、制御演算部21(これは例えば、CPU21A及びメモリ(記憶部)21Bを含んで構成される。)とを備えて構成される。
【0125】
光記録・再生装置10において、情報記録用媒体11に対する情報の記録の際には、制御演算部21に記録命令(書込命令)が入力されると、制御演算部21がレーザドライバ20に制御信号を出力し、レーザドライバ20が半導体レーザー13を駆動する。これにより、半導体レーザー13からビームスプリッタ14、ビームエキスパンダユニット15、対物レンズ16等を介して、情報記録用媒体11の所望の記録層にレーザー光(記録光)を照射し、情報の記録を行なうようになっている。そして、情報記録用媒体11からの反射光の光量を、ビームスプリッタ14を介して光検出器17で検出し、アンプ19で増幅し、制御演算部21に入力するようになっている。
【0126】
一方、情報記録用媒体11からの情報の再生の際には、制御演算部21に再生命令が入力されると、制御演算部21がレーザドライバ20に制御信号を出力し、レーザドライバ20が半導体レーザー13を駆動する。これにより、半導体レーザー13からビームスプリッタ14、ビームエキスパンダユニット15、対物レンズ16等を介して、情報記録用媒体11の所望の記録層にレーザー光(再生光)を照射する。そして、情報記録用媒体11からの反射光の光量を、ビームスプリッタ14を介して光検出器17で検出し、アンプ19で増幅し、制御演算部21に入力するようになっている。そして、制御演算部21が、入力された情報記録用媒体11からの反射光の光量に関する情報に基づいて、情報記録用媒体11に記録された情報の再生を行なうようになっている。
【0127】
更に、図1の光記録・再生装置10では、上述の情報の記録・再生時に、制御演算部21がビームエキスパンダユニット15を介して、球面収差の調整を行なう。これによって、記録時の相変化型記録層上のレーザー集光面積が再生時の相変化型記録層上のレーザー集光面積より大きくなるように、レーザー集光面積が制御される。球面収差の調整は、具体的には、制御演算部21がビームエキスパンダユニット15の凸レンズ及び/又は凹レンズを駆動制御して、凸レンズと凹レンズとの間の距離を調整することにより行なわれる。
【0128】
即ち、図1の光記録・再生装置10では、各構成要素(スピンドルモータ12、光ピックアップ18(半導体レーザー13、ビームスプリッタ14、ビームエキスパンダユニット15、対物レンズ16、光検出器17)、アンプ19、レーザドライバ20、制御演算部21)が協動することにより、本発明の光記録・再生装置における光記録・再生手段として機能するとともに、制御演算部21及びビームエキスパンダユニット15が協動することにより、本発明の光記録・再生装置における集光面積制御手段として機能するようになっている。
【0129】
なお、図1に示す光記録・再生装置10は、あくまでも本発明の光記録・再生装置の一実施形態に過ぎず、適宜変形を加えることが可能である。
【0130】
例えば、ビームエキスパンダユニット15の制御以外の手法を用いて球面収差を調整する手段、例えば、液晶の複屈折を利用して球面収差を調整する手段を設けてもよい。
また、球面収差の調整以外の手法(例えば、集光面積を可能な限り小さくした状態で、フォーカス位置から意図的に媒体の位置をずらす手法)によりレーザー集光面積を制御する手段を設けてもよい。
【0131】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、光記録・再生装置の構成要素は適宜追加・削除等することが可能である。
【実施例】
【0132】
以下に本発明を実施例を用いて説明するが、本発明はその要旨の範囲を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0133】
(実施例1)
溝幅0.180μm、溝深さ24nm、溝ピッチ0.4μmの案内溝を有する直径120mm、0.6mm厚のディスク状ポリカーボネート基板上に、次のように第1層から第7層を順にスパッタリング法により設けた。この第1層〜第7層が記録再生機能層となる。第1層は(ZnS)80(SiO220層(35nm)、第2層は(ZrO290(ZnS)10層(5nm)、第3層はGe5In3Sb71Te21(Ge5In3(Sb77Te2392)記録層(7.5nm)、第4層は(ZrO290(ZnS)10層(3nm)、第5層はAg99.5Au0.5層(10nm)、第6層は(ZrO290(ZnS)10層(2nm)、第7層は(ZnS)80(SiO220層(12nm)である。その後に、未成膜の同様の0.6mm厚基板を、接着剤を介して上記記録再生機能層上に貼り合せ、情報記録用媒体(以下、「光ディスク1」と記載する。)を作製した。本実施例は、通常の2層の記録再生機能層を有する情報記録用媒体の、レーザー入射側の記録再生機能層の構成を想定した、透過率の比較的高い層構成を有する。この光ディスク1の記録再生機能層の透過率は47%であった。
【0134】
なお、透過率の測定は、上記[発明を実施するための最良の形態]の欄で説明した方法に基づき、以下の手順により行なった。まず、光ディスク1と同様の記録再生機能層をレーザー光の入射側から見て手前側に有する2層型の情報記録用媒体(以下、「光ディスク1A」と記載する。)と、光ディスク1Aの奥側の記録再生機能層のみを有する単層型の情報記録用媒体(以下、「光ディスク1B」と記載する。)を準備した。そして、光ディスク1Aの奥側の記録再生機能層の最適記録レーザー光パワーP1と、光ディスク1Bの最適記録レーザー光パワーP2をそれぞれ測定し、光ディスク1の透過率Tを、式T=(P2/P1)×100(%)によって算出した。
【0135】
この光ディスク1に対して、以下の手順により初期結晶化を行なった。
初期結晶化用のレーザー光としては、幅約1μm、長さ約100μmの形状を有し、波長810nm/パワー450mWのレーザー光を用いた。そして、上記光ディスク1を6.0m/sで回転させながら、上記レーザー光の長軸が上記基板に形成された案内溝に垂直になるようにして光ディスク1に照射した。そして、光ディスク1の1回転あたりの送り量を90μmとして、上記レーザー光を光ディスク1の半径方向に連続的に移動させることにより初期化を行なった。
【0136】
記録再生評価は、パルステック社製ODU1000テスタ(波長約405nm、NA=0.65)を用いた。標準線速度6.61m/sとし、溝内にフォーカスサーボ及びトラッキングサーボをかけ、ETM、RLL(1,10)信号のオーバーライトを行なった。データの基準クロック周波数(基準クロック周期Tの逆数)は64.8MHzとした。
【0137】
各マーク長記録用のパルス列の設定は次の通りとした。nTのマークを記録するためにn−1個の高パワー部からなるパルス列を用い、パルス列を表わすパラメータを、図2の通りに定義した。記録パルス列内の高パワー部のレーザーパワーをPw(記録パワー)、低パワー部のレーザーパワーをPb(バイアスパワー)とし、マーク間部(スペース部)に相当する、記録パルス列と記録パルス列の間はパワーPe(消去パワー)のレーザーを照射した。図2の縦軸はレーザーパワーであるが、照射タイミングが分かり易いように図示したため、レーザーパワーの原点はそれぞれのマーク長で異なっている。4Tより長いマークのパラメータ値は4Tと同じとし、マーク長が1T長くなるごとにパルス列の中間にパワーPw、照射時間Tmp×Tのレーザー照射部とパワーPb、照射時間(1−Tmp)×Tのレーザー照射部(即ち合計1Tの長さのレーザー照射部)を付加えたパルス列で記録を行なった。
【0138】
各マーク長記録用のパルス列パラメータのうちTcl(記録パルス列最後のPb照射部の長さに相当)、Tsfp(記録パルス列の先頭パルス直前の基準クロックから先頭パルスの立ち上がりまでの時間に相当)、Telp(記録パルス列最後のPw照射部の長さに相当。但し2Tに関しては(Telp+1−Tsfp)がPw照射部の長さに相当)は、2T、3T、4T以上のマークで独立に設定した。また、TsfpとTelpは、直前のマーク間長(スペース長)に応じて変化させることもできる。
【0139】
実施例1で用いた記録用パルス列のパラメータ値を下記表1に示す。
【表1】

【0140】
記録パワーPwは11.2mW、消去パワーPeは4.3mW、再生パワーPrは0.9mW、バイアスパワーPbは0.1mWとした。
【0141】
記録再生特性の評価指標としては、PRSNRを用いた。PRSNRとは、再生信号のS/N(信号対雑音比)及び、実際の再生波形と理論的なPR波形線形性を同時に表現できる指標で、情報記録用媒体のビット誤り率の推定を行なうために用いられる指標の一つである。この数値が大きいほどエラーの発生の少ない良好な記録再生が実現されることとなり、実用に耐え得るには通常15dB以上とすることが好ましい。上記テスタにはPRSNR値を測定する機能が備わっている。
【0142】
記録時と再生時のレーザー集光面積が同等の場合、一般にレーザー集光面積が小さいほど信号品質が良好となる。このことから、(記録と再生を同一収差補正状態で行なうことを前提として)収差補正の程度を変更してレーザー集光面積を変化させ、信号品質を評価した場合、最も良好な信号品質を示す収差補正状態においてレーザー集光面積が最小となっていると予想される。本発明においては、実施例の検討に先立って、収差補正量を以下のように定量化した。
【0143】
まず、実施例で使用する光ディスク1において、上述の手順によりレーザー集光面積が最小となる収差補正状態を実現し、その状態を収差補正量ゼロと規定する。次に、基板厚みを変更した別の情報記録用媒体においても上述の手順によりレーザー集光面積が最小となる収差補正状態を規定する。この場合の収差補正量は、基板厚みが違うために、ゼロからある程度ずれた値をとることとなる。このズレ量を、両基板の厚さの差の数値に換算することにより、収差補正量の定量化を行なった。即ち、収差補正値ゼロでは、実施例の光ディスク1においてレーザー集光面積が最小となる状態が実現されており、収差補正値が例えば+2μmであれば、実施例の光ディスク1に比べ基板厚みが2μm厚い情報記録用媒体において、レーザー集光面積が最小となる状態が実現されていることになる。
【0144】
また、本実施例において、前記レーザー集光度を下記の計算方法により算出し、レーザー集光面積の変化の度合いを見積もった結果を示した。
【0145】
(レーザー集光度のシミュレーション方法)
スカラー回折理論を用いて各収差補正値におけるレーザー集光度の計算を行なった。計算条件は、レーザー波長は405nm、NAは0.65、レーザー光は対物レンズに垂直に同位相で入射し、光強度分布はレンズ中心で最も強度が大きい対称なガウス分布であり、レンズ端での光強度がレンズ中心の1/2であるとした。収差補正が理想値からずれる場合は焦点距離が一意的に定まらないが、ビームが最も絞られると思われる位置での値を記載した。
【0146】
以上の記録再生条件を用いて以下の測定を行なった。まず、種々の収差補正値において、10回オーバーライトした後に記録時と同一の収差補正値において再生した場合のPRSNRを測定し、次に収差補正値をゼロに戻してPRSNRの値を測定した。また、同様に種々の収差補正値において300回オーバーライトした後に収差補正値をゼロに戻してPRSNRの値を測定した。
【0147】
実施例1で得られた収差補正値とPRSNRの値を下記表2に示す。
【表2】

【0148】
表2の結果より、以下のことが明らかである。
まず、10回オーバーライト後に対して再生時に収差補正値を変更しない場合においては、記録時の収差補正値が0の場合が最も良好なPRSNRが得られており、収差補正値0の場合にレーザー集光面積が最小になっていることが改めて確認できる。
【0149】
次に、10回オーバーライト後の再生時に収差補正値をゼロに戻した結果を見ると、収差補正値のずれが大きくなるに従いPRSNRの値は悪化する傾向にはあるが、通常下限値といわれる15dBよりは良い値を示す収差補正値の範囲が十分にあることがわかる。300回オーバーライト後の結果からは、収差補正値がゼロ、即ち記録時と再生時の集光面積が等しいときは、PRNSRが13.9dBで再生において不十分な値まで劣化していることが判る。一方、収差補正値をずらしたとき、即ち記録時の集光面積が再生時より大きい場合の結果は、PRSNRが15〜17.3dBであり、繰り返し記録耐久性が改善されている。ここで、レーザー集光度としては、0.94以下程度の値が好ましいことが判る。
【0150】
(実施例2)
溝幅0.240μm、溝深さ28nm、溝ピッチ0.4μmの案内溝を有する直径120mm、0.6mm厚のディスク状ポリカーボネート基板上に次のように第1層から第5層を順にスパッタリング法により設けた。この第1層〜第5層が記録再生機能層となる。第1層は(ZnS)80(SiO220層(60nm)、第2層はGe5In3Sb71Te21(Ge5In3(Sb77Te2392)記録層(14nm)、第3層は(ZnS)80(SiO220層(4nm)、第4層はGeCrN層(3nm)、第5層はAg99.5Au0.5層(100nm)である。その後に、未成膜の同様の0.6mm厚基板を、接着剤を介して上記記録再生機能層上に貼り合せ、情報記録用媒体(以下、「光ディスク2」と記載する。)を作製した。この光ディスク2の構成は、通常の1層の記録再生機能層を有する情報記録用媒体を想定した構成である。この光ディスク2の記録再生機能層の透過率は反射層が100nmと厚いためほぼ0%である。
【0151】
初期結晶化用のレーザー光としては、幅約1μm、長さ約100μmの形状を有し、波長810nm/パワー500mWのレーザー光を用いた。そして、上記光ディスク2を8.0m/sで回転させながら、上記レーザー光の長軸が上記基板に形成された案内溝に垂直になるようにして光ディスク2に照射した。そして、光ディスク2の1回転あたりの送り量を80μmとして、上記レーザー光を光ディスク2の半径方向に連続的に移動させることにより初期化を行なった。
【0152】
記録再生評価は、実施例1と同様のテスタ及び信号源を用いて行なった。
【0153】
実施例2で用いた記録用パルス列のパラメータ値を下記表3に示す。
【表3】

【0154】
記録パワーPwは8.2mW、消去パワーPeは3.9mW、再生パワーPrは0.5mW、バイアスパワーPbは0.1mWとした。
【0155】
収差補正値は、実施例1と同様の手法で決定した。
【0156】
また、本実施例においても、前記レーザー集光度を実施例1と同様の計算方法により算出し、レーザー集光面積の変化の度合いを見積もった結果を示した。
【0157】
本発明の実施例2で得られた収差補正値とPRSNRの値を下記表4に示す。
【表4】

【0158】
表4の結果より、以下のことが明らかである。
300回オーバーライト後に収差補正値をゼロに戻して再生した際のPRSNRの測定結果は、収差補正値によらず通常下限値といわれる15dBよりは十分に良い値を示しており、実用上問題はないと思われる。但し、収差補正値がゼロの場合のPRSNRが25.6dBであるのに対して、収差補正をずらしたときの結果はPRSNRが25.8〜27.6dBであり、繰り返し記録耐久性が改善されている。即ち、透過率の比較的低い、1層の記録再生機能層を有する情報記録用媒体においても、本発明の効果は得られていると言える。
【0159】
上記の結果より、多層の記録再生機能層を有する情報記録用媒体において、特にレーザー入射側の記録再生機能層に適用した場合、本発明の効果は大きいと言える。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明の光記録・再生方法及び光記録・再生装置は、書換可能な相変化型光記録媒体における情報の記録・再生において、好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】本発明の一実施形態に係る光記録・再生装置の要部構成を模式的に示す図である。
【図2】実施例で用いた各マーク長記録用のパルス列のパラメータを説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0162】
10 光記録・再生装置
11 情報記録用媒体
12 スピンドルモータ
13 半導体レーザー(レーザー光源)
14 ビームスプリッタ
15 ビームエキスパンダユニット
16 対物レンズ
17 光検出器
18 光ピックアップ
19 アンプ
20 レーザドライバ
21 制御演算部
21A CPU
21B メモリ(記憶部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、相変化型記録層を有する記録再生機能層を形成した情報記録用媒体に、局所的にレーザー光を照射して情報を記録・再生するための光記録・再生方法であって、
記録時の相変化型記録層上のレーザー集光面積が再生時の相変化型記録層上のレーザー集光面積より大きくなるようにレーザー集光面積の制御を行なう
ことを特徴とする、光記録・再生方法。
【請求項2】
前記レーザー光の波長が500nm以下である
ことを特徴とする、請求項1記載の光記録・再生方法。
【請求項3】
前記レーザー集光面積の制御を、球面収差の調整により行なう
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の光記録・再生方法。
【請求項4】
前記情報記録用媒体が前記記録再生機能層を複数有する多層型の情報記録用媒体であり、前記多層型の情報記録用媒体において、前記レーザー光が入射する面から最も遠くに位置する記録再生機能層以外の記録再生機能層の相変化型記録層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なう
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の光記録・再生方法。
【請求項5】
前記レーザー光の透過率が30%以上である記録再生機能層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なう
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の光記録・再生方法。
【請求項6】
前記相変化型記録層の膜厚が3nm以上、12nm以下である前記記録再生機能層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なう
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の光記録・再生方法。
【請求項7】
SbxTe1-x(0.6≦x≦0.9)を主成分とする相変化型記録層を有する前記記録再生機能層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なう
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の光記録・再生方法。
【請求項8】
基板上に、相変化型記録層を有する記録再生機能層を形成した情報記録用媒体に、局所的にレーザー光を照射して情報を記録・再生する光記録・再生手段と、
該光記録・再生手段による記録時の前記相変化型記録層上のレーザー集光面積が再生時の前記相変化型記録層上のレーザー集光面積より大きくなるようにレーザー集光面積の制御を行なう集光面積制御手段を有する
ことを特徴とする、光記録・再生装置。
【請求項9】
該光記録・再生手段により照射される前記レーザー光の波長が500nm以下である
ことを特徴とする、請求項8記載の光記録・再生装置。
【請求項10】
該集光面積制御手段が、前記レーザー集光面積の制御を、球面収差の調整により行なう
ことを特徴とする、請求項8又は請求項9に記載の光記録・再生装置。
【請求項11】
前記情報記録用媒体が前記記録再生機能層を複数有する多層型の情報記録用媒体であり、該集光面積制御手段が、前記多層型の情報記録用媒体において、前記レーザー光が入射する面から最も遠くに位置する記録再生機能層以外の記録再生機能層の相変化型記録層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なう
ことを特徴とする、請求項8〜10の何れか一項に記載の光記録・再生装置。
【請求項12】
該集光面積制御手段が、前記レーザー光の透過率が30%以上である記録再生機能層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なう
ことを特徴とする、請求項8〜11の何れか一項に記載の光記録・再生装置。
【請求項13】
該集光面積制御手段が、前記相変化型記録層の膜厚が3nm以上、12nm以下である前記記録再生機能層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なう
ことを特徴とする、請求項8〜12の何れか一項に記載の光記録・再生装置。
【請求項14】
該集光面積制御手段が、SbxTe1-x(0.6≦x≦0.9)を主成分とする相変化型記録層を有する前記記録再生機能層に対して、前記レーザー集光面積の制御を行なう
ことを特徴とする、請求項8〜13の何れか一項に記載の光記録・再生装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−33979(P2008−33979A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202786(P2006−202786)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【Fターム(参考)】