説明

光走査装置及びそれを備えた画像形成装置

【課題】コントラストの高い静電潜像を形成することができる光走査装置を提供する。
【解決手段】走査光学装置100は、レーザ光源1と、光束を走査するポリゴンミラー5と、シリンドリカルレンズ3とポリゴンミラー5との間の光路中に設けられ、レーザ光源1から出射された光束を電圧印加により偏向する電気光学結晶構造体4と、電気光学結晶構造体4に印加する電圧を制御するEO結晶電圧制御部13とを備える。EO結晶電圧制御部13は、1ドットに対応する静電潜像を感光体上に形成する時間内において、ポリゴンミラー5の回転数に応じた所定電圧を電気光学結晶構造体4に印加することにより、光束が照射される感光ドラム7上の照射位置を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
複写機やレーザビームプリンタ等の画像形成装置に設けられる光走査装置及びそれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式の画像形成装置では、一般に、入力された画像データに応じて半導体レーザを駆動して発光されるレーザ光をスキャナモータにより回転する回転多面鏡(ポリゴンミラー)で偏向走査し、感光体に照射する。これにより、潜像形成が行われ、トナー像へと現像し、そのトナー像を記録媒体上に転写することにより画像形成が行われる。
【0003】
近年、このような画像形成装置においても印刷やデスクトップパブリッシング分野への対応が進んでいるが、この分野で要求される画質、特に高精細の文字や線画画像、中間調の表現などには、感光体上でのコントラストの高い露光像が必須となる。ポリゴンミラーの高速化、画像処理速度の高速化、複数走査線の同時走査等によって画像形成の高速化や高解像度化が図られており、分解能は向上しつつある。しかし、画像の精細度や画質に寄与する露光像のコントラストについては、光学系の制約によってビーム径の小径化に限界があることから、十分な改善がなされていない。
【0004】
つまり、露光像のコントラストを向上させる方法としては、レーザビームの小径化がある。
【0005】
一般に、レーザビームのビーム径を小さくするには、(1)レーザ波長の短波長化、(2)、fθレンズへの入射ビーム径D、即ち、ポリゴンミラーに入射するレーザビーム径を大きくする、等の方法がある。
【0006】
光走査装置では、上記(1)の方法、すなわち、赤外レーザ、赤色レーザ、そして将来的にはブルーレーザを用いる方法により、レーザ波長の短波長化が図られている。しかし、現状では赤外レーザの波長780nmに対して赤色レーザの波長660nmは必ずしも十分とはいえず、ブルーレーザの波長400nmでも赤外レーザの波長の1/2程度にすぎない。一方、使用するレーザビームの波長を通常のレーザビームの1/2に短波長化すると感光体面での焦点深度も1/2になってしまうこと、感光体は短波長領域で感度が低下すること等、新たな技術課題も発生する。
【0007】
また、上記(2)の方法を光走査装置に適用すると、回転多面鏡の大径化を必要とし、風損の増大によるモータ昇温、騒音等の問題が発生する。
【0008】
このため、従来の方法ではレーザビームの小径化は困難な状況である。
【0009】
そこで、この問題を解決する方法として、多重露光による潜像形成方法が提案されている。
【0010】
例えば、画像信号を処理して生成した画像信号と、この画像信号を反転して生成した反転画像信号を出力し、画像信号に応じて変調された所定強度の第1の光ビームと、反転画像信号に応じて変調された上記所定強度より小なる第2の光ビームとを出射し、第1の光ビーム及び第2の光ビームを合成して合成光ビームとし、該合成光ビームを感光体上に走査して静電潜像を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
また、複数の光束を偏向手段で偏向させ、偏向させた複数の光束で順次被走査面上の略同一領域を光走査して被走査面に多値的な光量を与える方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0012】
ここで、上記の合成光ビームを用いる方法は、多重露光により感光体上に形成される静電潜像のエッジ部を急峻にして高コントラスト化を図ったものであるが、第1の光ビームと第2の光ビームの合成の位置精度を恒久的に維持することは温度環境等の観点から難しいこと、また、1走査において2個の光ビームが必要であるため、画像形成の高速化に対応させるには光走査装置の複雑化を伴う等の問題がある。
【0013】
また、上記の複数の光束を用いる方法によれば、多重露光によって形成された静電潜像を現像したドット像が小径化するため、光束のスポット系を小径化したことと同様の効果が得られる。しかし、この方法では、主走査方向のある位置を照射する光束が同一ではないため、ポリゴンミラーの面倒れや、ポリゴンミラーを駆動するモータのジッタ、光束のレンズ透過位置の相違等により、複数の光束を同一の位置に正確に照射することが困難である。
【0014】
加えて、従来の光走査装置では、主走査方向への走査に起因する1ドットのコントラストが悪化する場合がある。
【0015】
図8は、一般的な従来の光走査装置の構成を概略的に示す図である。
【0016】
図8において、画像形成装置600は、画像信号に応じて変調されたレーザビームを出射するレーザ光源601、レーザ光源601から出射された拡散光を平行ビームにするコリメータレンズ602、コリメータレンズ602を通過したレーザビームを副走査方向に収束させるシリンドリカルレンズ603、不図示のモータにより回転駆動されるポリゴンミラー605、ポリゴンミラー605によって偏向走査されるレーザビームを集光させて所定の主走査位置上を等速走査するFθレンズ606、レーザビームの走査によって静電潜像が形成される感光ドラム607およびレーザ駆動回路608で構成される。
【0017】
この画像形成装置600では、600DPIで画像形成を実行する場合において、1ドットに対応する画像信号を不図示の画像信号制御部が受け取ると、レーザ駆動回路608は、ある回転数ではレーザビームを約10nS間点灯する。レーザビーム点灯の間に、感光ドラム面上ではレーザビームが主走査方向に通常約40μm(1ドット分)走査される。点灯のタイミングに関しては、ドットを打ちたい位置の5nS前に点灯を始め、ドットを打ちたい位置の5nS後に点灯を終了する。この時に感光ドラム上に形成される静電潜像を示したのが図9であり、(a)は、感光ドラム上に形成される静電潜像を感光ドラムの表面に対して垂直な方向からみたスポット形状を示し、(b)は、(a)のスポット形状の光量分布を示す。図9(a)および(b)中、701a,701bは1ドットを形成した場合を示し、702a,702bは1スペース間隔で2ドットを形成した場合を示している。
【特許文献1】特開平09−169136号公報
【特許文献2】特開2002−116395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、レーザビームのドット径が、例えば60μmである場合、1ドット形成中に主走査方向に等速で約40μm移動する為、感光ドラム上には、中心部が最も光量の大きい幅100μmの静電潜像が形成される。また、1スペース間隔で2ドットを形成した場合は、1スペースの部分では2つの静電潜像が重なり、図9(b)の702bのような光量分布が生じてしまう。このことにより、感光ドラム上の静電潜像のコントラストが小さくなるという問題がある。
【0019】
本発明の目的は、コントラストの高い静電潜像を形成することができる光走査装置及びそれを備えた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、請求項1記載の光走査装置は、光源と、前記光源から出射された光束を主走査方向に走査する第1の光偏向手段と、前記走査された光束の照射位置に静電潜像を形成する感光体と、前記光源と前記第1の光偏向手段との間の光路中に設けられ、前記光源から出射された光束の進路を電圧印加により主走査方向に偏向する第2の光偏向手段と、前記第1の光偏向手段及び前記第2の光偏向手段に電気的に接続され、前記第1の光偏向手段の走査情報に基づいて前記第2の光偏向手段に印加する電圧を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、1ドットに対応する静電潜像を前記感光体上に形成する時間内において、前記走査情報に応じた電圧を前記第2の光偏向手段に印加することにより、前記光束が照射される前記感光体上の照射位置を保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、光源と第1の光偏向手段との間の光路中に、前記光源から出射された光束の進路を電圧印加により主走査方向に偏向する第2の光偏向手段が設けられ、制御手段は、1ドットに対応する静電潜像を感光体上に形成する時間内において、走査情報に応じた電圧を第2の光偏向手段に印加することにより、光束が照射される感光体上の照射位置を保持する。これにより、主走査方向への走査に起因して照射位置のずれが生じてしまう場合であっても、感光体上に光束のスポット径と同等の大きさの静電潜像を形成することができ、もってコントラストの高い静電潜像を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳述する。
<本実施形態の光走査装置の第1構成例>
図1は、本発明の実施の形態に係る光走査装置の構成を概略的に示す平面図である。
【0023】
図1において、光走査装置100は、レーザ光源(レーザダイオード)1と、レーザ光源1から出射された光束(レーザ光)を略平行光束へと変換するコリメータレンズ2と、コリメータレンズ2によって変換された略平行光束に副走査方向への変化を与えると共に、該光束を後述の電気光学結晶41に入射させるシリンドリカルレンズ3と、光束を走査するポリゴンミラー(第1の光偏向手段)5と、シリンドリカルレンズ3とポリゴンミラー5との間の光路中に設けられ、レーザ光源1から出射された光束を電圧印加により偏向する電気光学結晶構造体(第2の光偏向手段)4と、ポリゴンミラー5によって走査された光束を感光ドラム7上に結像するfθレンズ6と、レーザ光源1および電気光学結晶構造体4と電気的に接続され、光走査装置1を統括的に制御する制御部(制御手段)10とを備える。
【0024】
BDセンサ8は、感光ドラム7の主走査方向の書き込み基準となる水平同期(BD)信号を検出する。画像領域に先立つ書き出し側の光束が、BDセンサ8に入射する。
【0025】
また、光走査装置100は、光走査装置100が設けられる画像形成装置200又は外部装置からの画像信号を受け取る画像処理部11からの信号に基づいて、レーザ光源1のON/OFF制御を行うレーザ駆動部12と、電気光学結晶構造体4に印加する電圧を制御するEO結晶電圧制御部13とを備える。
【0026】
電気光学結晶構造体4は、後述する高速かつ広角な電気光学効果により、光束をポリゴンミラー5に導く。
【0027】
EO結晶電圧制御部13は、記録密度(DPI)及び/又はポリゴンミラー5の回転数に基づいて電気光学結晶構造体4に印加する電圧を制御する。
【0028】
上記のように構成される光走査装置100において、画像処理部11が画像形成装置等から画像データを受け取ると、画像処理部11は画像信号をレーザ駆動部12に送信すると同時に、画像タイミング信号をEO結晶電圧制御部13に送信する。
【0029】
例えば600DPIの記録密度で画像形成を実行する場合において、1ドットに対応する画像信号を画像処理部11が受け取ると、レーザ駆動部12は、ある回転数では光束を約10nS点灯する。光束点灯の間に、ポリゴンミラー5により走査された光束はFθレンズ6によって等速変換され、感光ドラム7上では光束が主走査方向に約40μm(1ドット分)走査される。一方、画像タイミング信号を受け取ったEO結晶電圧制御部13は、ポリゴンミラー5の回転数に応じた所定電圧を電気光学結晶構造体4に印加する。電気光学結晶構造体4に所定電圧が印加されると、EO結晶41内には主走査方向に沿って印加電圧に対応した電界が発生する。レーザ光源1から出射された光束は、コリメータレンズ2およびシリンドリカルレンズ3を通過し、EO結晶41内を通過するときに主走査方向(電界方向)に偏向される。
【0030】
(電気光学結晶構造体4の構成例)
図2は、図1における電気光学結晶構造体4の構成を概略的に示す斜視図である。
【0031】
図2に示すように、電気光学結晶構造体4は、光束の入射面41aおよび出射面41bを有する直方体形状の電気光学結晶(以下、「EO結晶」という)41を備える。また、主走査方向に対して直角をなす両端面に取り付けられた一対の電極42a,42bと、一対の電極42a,42b間に電圧を印加する不図示の電源とを備える。電極42a,42bは比較的細い電極幅d、長さLにて直線短冊形状に形成されたものである。電極42a,42bの材料は例えばAuが使用されるが、他の導電性材料であってもよい。製法は真空蒸着法による。
【0032】
一対の電極42a,42bは、EO結晶41の内部に、EO結晶41内を通過する光束の進路に対して垂直方向(図2の主走査方向)の電界を形成する。
【0033】
電極42a,42bに電圧を印加しない状態ではEO結晶41はレンズ作用を持たず、入射ビームはそのままポリゴンミラー5へ向けて出射される。
【0034】
一対の電極42a,42bに最大5〜10kVの電圧を印加して電気光学結晶21内に電界を発生させることにより電界分布が生じ、ms〜ns単位の時間内に光束を主走査方向に十数度、例えば12度偏向する。電気光学結晶構造体4は、この高速かつ広角な電気光学効果により、光束を偏向させる。
【0035】
ここで、電気光学結晶とは、電圧を印加することにより屈折率が変化する特性を有する結晶である。EO結晶41は、カリウム,タンタル,ニオブおよび酸素から成る、例えば、KTN(KTaNbO3 :タンタル酸ニオブ酸カリウム、KTa1-xNbxO3)結晶等の電気光学結晶で形成されている。KTN結晶は、通常の光学ガラス同様に扱うことが可能であり、良好な加工性を有して切削や研磨加工での表面精度の確保が容易である。また、KTN結晶の光線の透過率については、レーザの波長である赤外から可視光全域に至るまで1mあたり95%以上の内部透過率を示し、複屈折も小さい。さらに、KTN結晶の吸水率は、通常のガラス以下であって、樹脂などに対して極端に小さい。
【0036】
また、KTN結晶は、内部に電界を作用させることで内部の屈折率が変化することが知られている。KTN結晶の両端に電極を設置(一方に電圧=V、他方に電圧=0)して内部に電界を発生させた場合には、内部に電界が傾斜して分布することにより屈折率もその影響で傾斜して分布することになり、光が方向を変えながら進むことが判っている。KTN結晶は、高速かつ広角走査が可能という特徴がある。
【0037】
EO結晶41では、その両端部に印加する電圧の増大に応じて、EO結晶41内を通過する光束の進路がその電界方向に大きく偏向される。
【0038】
本発明では、この現象を利用してレーザビームを透過させる際に進路を変化させるものである。
【0039】
<光走査装置を備える画像形成装置の構成例>
図3は、図1の光走査装置を備える画像形成装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【0040】
図3において、制御部10には、画像処理部11およびポリゴンミラー5を回転駆動させるモータ324を制御するモータ制御部314が含まれる。また、光走査装置100には、レーザ光源1,レーザ光源1の光量を検知するための光量検知センサ313,BDセンサ8,レーザ駆動部12,光量制御部315,EO結晶電圧制御部13,ポリゴンミラー5を回転駆動させるモータ324,および電気光学(EO)結晶構造体4が含まれる。
【0041】
画像処理部11は、BDセンサ8から得られるBD信号に基づいて、非画像領域で光量制御を行う指示を光量制御部315に出力する。光量制御部315は、画像処理部11からの指示を受けてレーザ光源1を発光させる。そして、光量検知センサ313から得られる検知光量と基準電圧に対応する光量との比較を繰り返しながら、レーザ光源1から出射される光束の光量を所望の光量になるように制御する(以下、APCと称する)。そして検知光量が規定の値になると、画像処理部11は外部から入力された画像データに基づいて、光束のON/OFFを制御するビデオ信号をレーザ駆動部12に出力する。
【0042】
なお、本発明は、APCの制御の詳細に関連するものではなく、光量検知センサによる光量検知のための構成と制御に係るものであり、APCの制御内容は詳説しない。
【0043】
EO結晶電圧制御部13は、BDセンサ11より得られたBD信号に基づいてEO結晶41に電圧を印可する指示を送信する。これによりEO結晶41は、この高速かつ広角な電気光学効果により、光束を偏向させる。さらに、EO結晶電圧制御部13は、APC終了のタイミングでEO結晶21への電圧印加を停止する指示を送信する。これによりEO結晶21はレンズ作用を持たず、入射ビームはそのままポリゴンミラー5へ向けて出射される。
<本実施形態の光走査装置の動作例>
図4は、図1における制御部10で実行される走査制御方法を説明する図である。
【0044】
ユーザが操作部からコピーボタンを押すか、又はPC等の外部機器から送信されるプリント指示を受ける。すると、ポリゴンミラー5が一定速度で回転する状態になったら、主走査方向の発光タイミングを制御するための基準として、レーザ光源1から光束を発光させて、BDセンサ8によりBD信号を検知する。次に、BD信号を検知してから所定タイミング後に画像の書出しを行う。1画素単位で以下の制御を繰り返し行うことで画像形成を行う。ここでは、1画素の動作に注目して説明を行う。
【0045】
まず、EO結晶41への電圧印加を行わず、レーザダイオード1から発光される光束の進路をポリゴンミラー5へ直進させる。
【0046】
図4において、ポリゴンミラー5の回転方向が反時計方向(図4中の矢印方向)である場合、ポリゴンミラー5の反射面は、1ドット形成時間である10nSの間に反射位置5aから反射位置5bに回転移動する。EO結晶41への電圧印加を行わないので1ドット点灯開始時における光束は、ポリゴンミラー5の反射位置5aで反射され、感光ドラム7上のP1点を照射する(図4中の光路X1)。
【0047】
次に、電気光学結晶構造体4の一対の電極42a,42b間に所定電圧を印加する。これにより、EO結晶41に電圧が印加される。EO結晶41内に発生する電界を制御して光束を主走査方向に約12度偏向させる。これにより1ドット点灯終了時における光束は、電気光学結晶構造体4に印加された所定電圧によって、ポリゴンミラー5の反射面の回転方向に対して反対方向に偏向され、ポリゴンミラー5の反射位置5bで反射されて、感光ドラム7上のP1点を照射する(図4中の光路X2)。すなわち、1ドット形成時間である10nSの間に、光束は、光路X1から光路X2に変更され、感光ドラム7上の照射位置(P1)が保持される。そして、EO結晶21への電圧印加を停止する。この動作を1画素単位で繰り返し行う。1走査ライン分の画像データの走査が終了したか否かを判別し、全画像データの走査が終了していない場合は上記動作を繰り返し行う。1ページ分の全画像データの走査が終了している場合は、本処理を終了する。
【0048】
尚、1ドット点灯開始時および終了時について説明したが、1ドット形成時間中、電気光学結晶構造体4に印加される電圧を連続的に制御し、ポリゴンミラー5の反射位置に応じて光束を適宜主走査方向に偏向することにより、1ドット形成時間中に出射された全ての光束が感光ドラム7上のP1点を照射する。したがって、1ドット形成時間中、光束は感光ドラム7上のP1点を静止光として照射する。
【0049】
図5は、図4を用いて説明される走査方法により感光ドラム上に形成された静電潜像を示す図であり、(a)は、感光ドラムの表面に対して垂直な方向からみたスポット形状を示し、(b)は、(a)のスポット形状の光量分布を示す。尚、図5(a)および(b)中、301a,301bは1ドットを形成した場合を示し、302a,302bは1スペース間隔で2ドットを形成した場合を示している。
【0050】
図5(a)および(b)に示すように、1ドットを形成する場合或いは1スペース間隔の2ドットを形成する場合のいずれにおいても、感光ドラム7上に形成される静電潜像は静止スポットとなるので、光束のスポット径とほぼ同一径の静電潜像が形成される。これにより、露光量が集中したコントラストの高い静電潜像が感光ドラム7上に形成される。
【0051】
本実施の形態によれば、シリンドリカルレンズ3とポリゴンミラー5との間の光路中に、レーザ光源1から出射された光束の進路を電圧印加により主走査方向に偏向する電気光学結晶構造体4が設けられ、EO結晶電圧制御部13は、1ドットに対応する静電潜像を感光ドラム7上に形成する時間内において、ポリゴンミラー5の回転数に応じた所定電圧を電気光学結晶構造体4に印加することにより、光束が照射される感光ドラム7上の照射位置を保持する。これにより、主走査方向への走査に起因して照射位置のずれが生じてしまう場合であっても、感光ドラム7上に光束のスポット径と同等の大きさの静電潜像を形成することができ、もってコントラストの高い静電潜像を形成することができる。
【0052】
また、ポリゴンミラー5は、レーザ光源1から出射された光束を反射する反射面が設けられた回転部材からなり、EO結晶電圧制御部13は、ポリゴンミラー5の回転数に基づいて電気光学結晶構造体4に印加する電圧を制御するので、主走査方向に関する感光ドラム7上の照射位置を確実に保持することができる。
【0053】
さらに、電気光学結晶構造体4は、レーザ光源1から出射された光束を、ポリゴンミラー5の反射面の回転方向に対して反対方向に偏向するので、主走査方向に関する感光ドラム7上の照射位置をより確実に保持することができる。
【0054】
本実施の形態では、1ドットを形成する場合或いは1スペース間隔の2ドットを形成する場合を説明したが、連続ドットを形成する場合においても、同様のシーケンスの繰り返し実行することにより、露光量が集中したコントラストの高い静電潜像を感光ドラム7上に形成することができる。
【0055】
図6(a)および(b)は、連続ドットに対応する静電潜像を形成する場合に、図1における制御部10で実行される他の走査制御方法を説明する図である。
【0056】
図6(a)および(b)において、ポリゴンミラー5の回転方向が反時計方向(図6(a)中の矢印方向)である場合、ポリゴンミラー5の反射面は、連続ドットのうちの最初の1ドット形成時間(10nS)の半分にあたる5nSの間に反射位置5cから反射位置5dに回転移動する。最初の1ドット点灯開始時における光束は、ポリゴンミラー5の反射位置5cで反射され、感光ドラム7上のP2点を照射する(図6(a)中の光路Y1)。最初の1ドット点灯開始時から5nSが経過するまでの間(所定時間)、ポリゴンミラー5の回転数に応じた所定電圧V1(第1の印加電圧)が電気光学結晶構造体4に印加される。これにより、光速は、ポリゴンミラー5の反射面の回転方向に対して反対方向に偏向され、ポリゴンミラー5の反射位置5dで反射されて、感光ドラム7上のP2点を照射する(図6(a)中の光路Y2)。すなわち、最初の1ドット点灯開始時から5nSが経過するまでの間、所定電圧V1がEO結晶41に印加されることにより、光束は光路Y1から光路Y2に変更され、感光ドラム7上の照射位置が(P2)保持される。
【0057】
その後、連続ドットに対応する光束が連続的に出射される間、電気光学結晶構造体4に印加される電圧を、最初の1ドット点灯開始後5nS経過時に印加された所定電圧V1に保持する。
【0058】
連続ドットのうちの最後の1ドット点灯開始時における光束は、ポリゴンミラー5の反射位置5eで反射され、感光ドラム7上のP3点を照射する(図6(a)中の光路Y3)。ポリゴンミラー5の反射面は、最後の1ドット形成時間(10nS)の半分にあたる5nSの間に反射位置5eから反射位置5fに回転移動する。最後の1ドット点灯開始後5nSが経過する間(所定時間)、ポリゴンミラー5の回転数に応じた所定電圧V2(第2の印加電圧)が電気光学結晶構造体4に印加される。尚、本実施の形態では、所定電圧V1および所定電圧V2には、V1<V2の関係がある。これにより、光束は、ポリゴンミラー5の反射面の回転方向に対して反対方向に偏向され、ポリゴンミラー5の反射位置5fで反射されて、感光ドラム7上のP3点を照射する(図6(b)中の光路Y3)。最後の1ドット形成開始時から5nS経過後10nS経過するまでの間、電気光学結晶構造体4に印加される電圧は所定電圧V1から所定電圧V2に連続的に増加される。これにより、光束は、ポリゴンミラー5の反射面の回転方向に対して反対方向に偏向され、ポリゴンミラー5の反射位置5fで反射されて、感光ドラム7上のP3点を照射する(図6(b)中の光路Y4)。すなわち、最後の1ドット形成開始時から5nS経過後10nS経過するまでの間、所定電圧V2がEO結晶41に印加されることにより、光束は光路Y3から光路Y4に変更され、感光ドラム7上の照射位置が保持される。
【0059】
上記走査制御方法によれば、連続ドットに対応する静電潜像を感光ドラム7上に形成する場合において、最初の1ドット点灯開始時から5nSが経過するまでの間、ポリゴンミラー5の回転数に応じた所定電圧V1を電気光学結晶構造体4に印加し、さらに、連続ドットのうちの最後の1ドット形成開始時から5nS経過後10nS経過するまでの間、ポリゴンミラー5の回転数に応じた所定電圧V2を電気光学結晶構造体4に印加するので、連続ドットに対応する静電潜像のエッジにおける高コントラストを得ることができる。
【0060】
図7は、1ドット形成時と連続ドット形成時において、各ドットに対応する画像信号および電気光学結晶構造体4に印加される電圧についてのタイミングチャートを示す図であり、(a)は各ドットに対応する画像信号、(b)は図4における走査制御方法における印加電圧、(c)は図6(a)および(b)における走査制御方法における印加電圧を夫々示す。
【0061】
図7(a)乃至図7(c)に示すように、1ドットを形成する場合は、EO結晶電圧制御部13は、図4における走査制御方法及び図6(a)および図6(b)における走査制御方法のいずれにおいても、電気光学結晶構造体4に印加する電圧は同じである。一方、連続ドットを形成する場合、図6(a)および図6(b)における走査制御方法では、最初の1ドット形成開始時から5nS経過する間、及び最後の1ドット形成開始時から5nS経過後10nS経過するまでの間で、電気光学結晶構造体4に印加する電圧を連続的に増加することで、連続ドットに対応する静電潜像のエッジにおける高コントラストを得ることができる。また、図6(a)および図6(b)における走査制御方法では、図4における走査制御方法に比して電気光学結晶構造体4の制御周波数を全体的に低くすることができるため、高周波ノイズの発生を抑制することができる。
【0062】
本実施の形態では、電気光学結晶構造体4は、シリンドリカルレンズ3とポリゴンミラー5との間の光路中に設けられるが、これに限るものではなく、レーザ光源1とポリゴンミラー5との間の光路中に設けられてもよい。
【0063】
本実施の形態では、ポリゴンミラー5によって感光ドラム8を走査するが、これに限るものではなく、ガルバノミラーやMEMS(Micro Electro Mechanical System)によって感光ドラムを走査する構成であってもよい。
【0064】
また、本発明の目的は、上述した実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムを記憶した記憶媒体を光走査装置に供給し、その光走査装置光走査装置のコンピュータ(又はCPUやMPU等)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読出して実行することによっても、達成される。
【0065】
この場合、記憶媒体から読出されたプログラムコード自体が上述した実施の形態の機能を実現することとなり、そのプログラムコードおよび該プログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成する。
【0066】
また、プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW等の光ディスク、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。または、プログラムコードをネットワークを介してダウンロードしてもよい。
【0067】
コンピュータから読出されたプログラムコードを実行することにより、上述した上記実施の形態の機能が実現されだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動するOS(オペレーティングシステム)等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0068】
さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態に係る光走査装置の構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図1における電気光学結晶構造体の構成を概略的に示す斜視図である。
【図3】図1の光走査装置を備える画像形成装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【図4】図1における制御部で実行される走査制御方法を説明する図である。
【図5】図4を用いて説明される走査方法により感光ドラム上に形成された静電潜像を示す図であり、(a)は、感光ドラムの表面に対して垂直な方向からみたスポット形状を示し、(b)は、(a)のスポット形状の光量分布を示す。
【図6】連続ドットに対応する静電潜像を形成する場合に、図1における制御部で実行される他の走査制御方法を説明する図である。
【図7】1ドット形成時と連続ドット形成時において、各ドットに対応する画像信号および電気光学結晶構造体に印加される電圧についてのタイミングチャートを示す図であり、(a)は各ドットに対応する画像信号、(b)は図4における走査制御方法における印加電圧、(c)は図6(a)および(b)における走査制御方法における印加電圧を夫々示す。
【図8】一般的な従来の光走査装置の構成を概略的に示す図である。
【図9】従来の走査光学装置において感光ドラム上に形成される静電潜像を示す図であり、(a)は、感光ドラム上に形成される静電潜像を感光ドラムの表面に対して垂直な方向からみたスポット形状を示し、(b)は、(a)のスポット形状の光量分布を示す。
【符号の説明】
【0070】
1 レーザ光源
2 コリメータレンズ
3 シリンドリカルレンズ
4 電気光学結晶構造体
5 ポリゴンミラー
6 fθレンズ
7 感光ドラム
10 制御部
11 画像処理部
12 レーザ駆動部
13 EO結晶電圧制御部
41 電気光学結晶
42a,42b 一対の電極
100 光走査装置
313 光量検知センサ
314 モータ制御部
315 光量制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、前記光源から出射された光束を主走査方向に走査する第1の光偏向手段と、前記走査された光束の照射位置に静電潜像を形成する感光体と、前記光源と前記第1の光偏向手段との間の光路中に設けられ、前記光源から出射された光束の進路を電圧印加により主走査方向に偏向する第2の光偏向手段と、前記第1の光偏向手段及び前記第2の光偏向手段に電気的に接続され、前記第1の光偏向手段の走査情報に基づいて前記第2の光偏向手段に印加する電圧を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、1ドットに対応する静電潜像を前記感光体上に形成する時間内において、前記走査情報に応じた電圧を前記第2の光偏向手段に印加することにより、前記光束が照射される前記感光体上の照射位置を保持することを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
前記第1の光偏向手段は、前記光源から出射された光束を反射する反射面が設けられた回転部材を有し、前記制御手段は、前記回転部材の回転数に基づいて前記第2の光偏向手段に印加する電圧を制御することを特徴とする請求項1記載の光走査装置。
【請求項3】
前記第2の光偏向手段は、前記光源から出射された光束を、前記反射面の回転方向に対して反対方向に偏向することを特徴とする請求項2記載の光走査装置。
【請求項4】
前記第2の光偏向手段は、電圧印加により屈折率が変化する特性を有する電気光学結晶を有し、前記電気光学結晶は、カリウム、タンタル、ニオブおよび酸素から成ることを特徴とする請求項2又は3記載の光走査装置。
【請求項5】
前記制御手段は、連続ドットに対応する静電潜像を前記感光体上に形成する場合において、前記連続ドットのうちの最初の1ドット形成開始時から所定時間が経過する間、前記走査情報に応じた第1の印加電圧を前記第2の光偏向手段に印加し、さらに、前記連続ドットのうちの最後の1ドット形成開始時から所定時間が経過するまでの間、前記走査情報に応じた第2の印加電圧を前記第2の光偏向手段に印加することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光走査装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光走査装置を備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−181106(P2008−181106A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325452(P2007−325452)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】