説明

光重合性組成物および感光性平版印刷版材料

【課題】830nm付近に発光するレーザーを使用する走査型露光装置を用いてネガ型光重合性組成物において、現像性に優れ、耐薬品性に優れた材料を提供する。
【解決手段】分子内に一般式(1)で示される構造単位を有する化合物を含有することを特徴とする光重合性組成物を用いる。
一般式(1)


1,R2は各々水素原子または任意の基を表す。Aは炭素数1から4のアルキレン基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はネガ型の感光性組成物に関し、更にこれを利用した感光性平版印刷版材料に関する。更に詳しくは、830nm付近に発光する近赤外線レーザー等の光源を利用する走査露光装置を用いて画像形成可能な光重合性組成物および感光性平版印刷版材料に関する。
【背景技術】
【0002】
光重合性組成物として従来から光重合開始剤とバインダー樹脂および各種多官能性アクリレートモノマーやオリゴマーからなる光重合系が用いられてきたが、これらは一般的に重合が溶存している酸素による阻害を防止するために、光重合を行う層の上部にポリビニルアルコールなどの酸素遮断層を設ける必要があった。これに対して、本発明者が特開2001−290271号公報(特許文献1)にて明らかにしたように、側鎖にスチレン性不飽和結合を有するポリマーや、分子内に2個以上のスチレン性不飽和結合を有する化合物を使用することで、重合が溶存酸素の影響を受けにくくなり、酸素遮断層を用いることなく高感度の光重合性組成物を与えることが分かっている。
【0003】
上記のスチレン性不飽和結合を導入した系では確かに高感度でコントラストの高い光重合性組成物を与え、更にこうした系を平版印刷版材料として利用した場合にも、通常の印刷条件では十分な耐刷性を有する印刷版を与えることを見出した訳であるが、市場に於いて様々な性能要求が蓄積するに従い、場合によっては未だ十分な性能に達していないことが判明した。そのうち代表的な問題として、1.種々の薬品に対する耐性が不足している、2.低pHのアルカリ性現像液で現像する場合に、残膜により非画像部に汚れが出やすいといった問題が特に重要な問題として浮上してきた。
【0004】
特にネガ型の感光性組成物においては、現像性を良好にするため、アルカリ水溶液に溶解性の高いバインダー樹脂を使用するのが常であるが、こうしたバインダー樹脂を使用した場合に、現像液や印刷中に使用されるインキ洗浄溶剤、プレートクリーナー等によりダメージを受け易くなるなど、耐薬品性に劣るといった問題があった。
【0005】
上記の問題1および2を両立させるには、現像性が良好であり、かつ耐薬品性を高めるために、非画像部においては良好な現像性を示し、画像部においては、より架橋密度を高めることで耐薬品性を高めることが条件であり、こうした性能を実現する素材、手段が切望されているのが現状である。
【特許文献1】特開2001−290271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、近赤外領域(700〜900nm)に発光するレーザーを使用する走査型露光装置を用いたネガ型光重合性組成物を利用する際に、種々の薬品に対する耐性が良好で、かつ低pHのアルカリ性現像液で現像する場合に、残膜により非画像部に汚れが出難い光重合性組成物を与えることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、分子内に一般式化1で示される構造単位を有する化合物を含有することを特徴とする光重合性組成物を利用することで基本的には解決される。
【0008】
【化1】

【0009】
1,R2は各々水素原子もしくは任意の基を表す。Aは炭素数1から4のアルキレン基を表す。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、近赤外領域(700〜900nm)に発光するレーザーを使用する走査型露光装置を利用するネガ型光重合性組成物において、現像性が良好で、かつ耐薬品性に優れた光重合性組成物が得られる。さらにはこれを用いた平版印刷版材料を利用することで現像性、耐薬品性に優れた平版印刷版が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に関わる光重合性組成物とは、光照射により重合を開始するための光重合開始剤を含み、更に、分子内に化1で示す構造単位を有する化合物を含む系を意味する。
【0012】
化1で示す構造単位を有する化合物とは、具体的には尿素結合を介して、アルキレン基に結合したメタクリロイルオキシ基が結合した構造を有する化合物であれば任意の化合物が該当し、本発明の目的とする効果が認められるが、最大の効果を発揮するためには、それぞれの光重合系において最適の構造を有する化合物が選択され、複数の化合物を組み合わせて使用することも好ましく行われる。好ましい該化合物の例を化2に示す。化2の内、M−1で示す化合物の合成例を後述する合成例1に示した。
【0013】
【化2】

【0014】
上記に示した化合物以外に、更に好ましい例として、該化合物がポリエチレンイミンに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加することにより得られる化合物である場合を挙げることが出来る。ここで言うポリエチレンイミンとは、市販される様々な種類のポリエチレンイミンを原料として使用するものであり、ポリエチレンイミンの製造方法により分子量、分子量分布、分岐度、およびエチレンイミン繰り返し単位以外に含まれる1級アミンや3級アミンの割合が様々に異なるものが利用できる。分子量に関しては、100から1000程度の低分子オリゴマーであっても良く、或いはこれを越えて数万から数十万に達する分子量のものも使用することが出来る。繰り返し単位中に含まれるエチレンイミン構造の割合についても、構造中に30%程度或いはこれ以上含まれている場合が特に好ましいが、市販される代表的なポリエチレンイミンとして、アミン比が1級(%):2級(%):3級(%)がそれぞれ20〜50:30〜60:20〜30の範囲にあるような性状のものが極めて好ましく用いることが出来る。こうした市販のポリエチレンイミンを使用した場合には、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートとの反応において、1級アミン部分および2級アミン部分には1等量の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートが付加し、3級アミン部分は未反応のまま残るように計算された量の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを加えて反応を行うことが好ましいが、これより過剰の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを加えたり、或いは意図的に等量以下の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを添加して反応を行い、付加する2−メタクリロイルオキシエチル基の割合をコントロールすることも好ましく行われる。このようにして生成する付加物の代表的な構造を化3に示す。化3において、先に説明を行ったように、原料であるポリエチレンイミンには、様々な分岐構造が混在しているため、構造は単一でなく、化3に示す構造はこれらの一例であり、実際に得られる物質は化3のN−6やN−7に示すような構造を有する化合物の混合物であり、さらにこうした例以外に様々な分岐を有する化合物の混合物である。合成方法については、後に合成例2で具体的に示す。
【0015】
【化3】

【0016】
化3中、nは1から1000の間の任意の整数を表す。
【0017】
化1で示す構造単位を有する化合物のもう一つの好ましい例として、該化合物が、ポリアリルアミンに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加することにより得られる化合物である場合を挙げることが出来る。使用する原材料であるポリアリルアミンは、先のポリエチレンイミンの場合と同様に、様々な分子量、分岐度、アミン比を有するものが使用できる。これらに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加することで化4で示される繰り返し単位を有する化合物が得られ、極めて好ましく用いることが出来る。
【0018】
【化4】

【0019】
化4中、mは1から1000の間の任意の整数を表す。
【0020】
化1で示す構造単位を有する化合物のもう一つの好ましい例として、該化合物が、ポリジアリルアミンに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加することにより得られる化合物である場合を挙げることが出来る。使用する原材料であるポリジアリルアミンは、先のポリエチレンイミンの場合と同様に、様々な分子量、分岐度、アミン比を有するものが使用できる。これらに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加することで化5で示される繰り返し単位を有する化合物が得られ、極めて好ましく用いることが出来る。
【0021】
【化5】

【0022】
化5中、pは1から1000の間の任意の整数を表す。
【0023】
本発明で示す該化合物の特徴として、特に好ましい例として例えばポリエチレンイミンに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加した化合物のように、分子全体の体積に占める反応性基の体積分率が高く、従って架橋した場合の架橋密度が高いという好ましい性質を示すことから、本発明の目的の一つである耐刷性の大幅な向上に極めて効果的であることが挙げられる。化3、化4および化5で示すような化合物は、分子内に多数の重合性反応基を高密度に含むため、特に架橋密度が高く、耐薬品性向上効果が大きいため極めて好ましく用いることが出来る。また、同様に極めて極性の高い尿素結合を分子内に多数含むことから、こうした化合物を光重合性組成物に用いることにより、非画像部においては現像液の浸透性が促進されるために、例えばpHが13未満であるような低pHの現像液を使用した場合においても、現像性が極めて良好になると言う好ましい効果が認められる。具体的な効果については後に実施例で示す。
【0024】
本発明に関わる光重合開始剤については特に有機ホウ素塩が好ましく用いられる。有機ホウ素塩を構成する有機ホウ素アニオンは、下記化6で表される。
【0025】
【化6】

【0026】
式中、R3、R4、R5およびR6は各々同じであっても異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらの内で、R3、R4、R5およびR6の内の一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0027】
上記の有機ホウ素アニオンは、これと塩を形成するカチオンが同時に存在する。この場合のカチオンとしては、アルカリ金属イオン、オニウムイオン及びカチオン性増感色素が挙げられる。オニウム塩としては、アンモニウム、スルホニウム、ヨードニウムおよびホスホニウム化合物が挙げられる。アルカリ金属イオンまたはオニウム化合物と有機ホウ素アニオンとの塩を用いる場合には、別に増感色素を添加することで色素が吸収する光の波長範囲での感光性を付与することが行われる。また、カチオン性増感色素の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有する場合は、該増感色素の吸収波長に応じて感光性が付与される。しかし、後者の場合は更にアルカリ金属もしくはオニウム塩の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを併せて含有するのが好ましい。特に好ましい有機ホウ素塩の例を下記に示す。
【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
本発明において、有機ホウ素塩とともに用いることでさらに高感度化、硬調化が具現される光重合開始剤としてトリハロアルキル置換化合物が挙げられる。上記トリハロアルキル置換化合物とは、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、好ましい例としては、該トリハロアルキル基が含窒素複素環基に結合した化合物としてs−トリアジン誘導体およびオキサジアゾール誘導体が挙げられ、或いは、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合したトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0031】
トリハロアルキル置換した含窒素複素環化合物やトリハロアルキルスルホニル化合物の特に好ましい例を化9および化10に示す。
【0032】
【化9】

【0033】
【化10】

【0034】
上述したような光重合開始剤の含有量は、光重合性組成物全体の量に対して1質量%から50質量%の範囲にあることが好ましい。
【0035】
本発明に係わる最も好ましい様態の一つとして、有機ホウ素塩とこれを増感する色素を併せて含む感光性組成物であり、この場合の有機ホウ素塩は700〜900nmの波長領域に感光性を示さず、増感色素の添加によって初めてこうした波長領域の光に感光性を示すものである。本発明に関わる光重合性組成物は、700nm〜900nmに感度のピークを有し、この波長領域に吸収を有し、前述の光重合開始剤を増感する増感色素を併せて含有する。このような増感色素として、シアニン、フタロシアニン、メロシアニン、クマリン、ポリフィリン、スピロ化合物、フェロセン、フルオレン、フルギド、イミダゾール、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン、アゾ化合物、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ポリメチンアクリジン、クマリン、ケトクマリン、キナクリドン、インジゴ、スチリル、スクアリリウム化合物、ピリリウム化合物が挙げられ、更に、欧州特許第0,568,993号、米国特許第4,508,811号、同5,227,227号に記載の化合物も用いることができる。
【0036】
好ましく用いることの出来る増感色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0037】
【化11】

【0038】
【化12】

【0039】
本発明は、光重合性組成物中に化1で示す構造を有する化合物以外に、他の多官能性モノマーを含有することが好ましい。好ましい多官能性モノマーの例としては、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールグリセロールトリアクリレート、グリセロールエポキシトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能性アクリル系モノマー、或いは、アクリロイル基、メタクリロイル基を導入した各種重合体としてポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等も同様に使用される。
【0040】
多官能性モノマーのより好ましい例として、下記化13で示すような、スチレン系二重結合基を分子内に2個以上有する化合物(以降、スチレニル系モノマーと称す)を含有することでより高感度で硬調な調子再現性を示す光重合性組成物を与えることから好ましい。スチレニル系モノマーを使用した場合、効果的に架橋を行うため、高感度のネガ型感光材料を作製することができる。
【0041】
【化13】

【0042】
式中、Z1は連結基を表す。R8〜R10は水素原子またはメチル基を表す。R7は置換可能な基または原子を表す。m1は0〜4の整数を表し、k1は2以上の整数を表す。
【0043】
化13について更に詳細に説明する。Z2の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R11)−、−C(O)−O−、−C(R12)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR11及びR12は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0044】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、これらには置換基が結合していても良い。
【0045】
上記化13で表される化合物の中でも好ましい化合物が存在する。以下に化13で表される化合物の好ましい具体例を示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0046】
【化14】

【0047】
【化15】

【0048】
【化16】

【0049】
上記したスチレニル系モノマーの添加量は、光重合性組成物全量に対して1質量%から80質量%の範囲で含まれることが好ましく、さらに5質量%から50質量%の範囲で含まれることが特に好ましい。
【0050】
本発明に関わる光重合性組成物にはバインダー成分が含まれていても良い。バインダーとしては、特に側鎖に重合性二重結合基を有するポリマーが好ましく用いることが出来る。最も好ましいバインダーとしては、側鎖に化17で示される置換基を有するポリマーが挙げられる。
【0051】
【化17】

【0052】
式中、Z2は連結基を表し、R14〜R16は水素原子またはメチル基を表し、R13は置換可能な任意の原子または基を表す。nは0または1を表し、m2は0〜4の整数を表し、k2は1〜4の整数を表す。
【0053】
化17について更に詳細に説明する。Z2の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R17)−、−C(O)−O−、−C(R18)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基、及び下記化18で表される基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR17及びR18は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。上記化17における連結基としては複素環を含むものが好ましく、k2は1または2であるものが好ましい。
【0054】
【化18】

【0055】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、更にこれらの複素環には置換基が結合していても良い。
【0056】
化17で表される基の好ましい例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0057】
【化19】

【0058】
【化20】

【0059】
【化21】

【0060】
【化22】

【0061】
上記の例で示されるような基を有するポリマーとしては、アルカリ性水溶液に可溶性を有することが好ましく、そのためにカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として含む重合体であることが特に好ましい。この場合、共重合体組成に於ける化17で示される基の割合として、トータル組成100質量%中に於いて化17で示される基は1質量%以上95質量%以下であることが好ましく、これ以下の割合ではその導入の効果が認められない場合がある。また、95質量%以上含まれる場合に於いては、共重合体がアルカリ水溶液に溶解しない場合がある。さらに、共重合体中に於けるカルボキシル基含有モノマーの割合は同じく5質量%以上99質量%以下であることが好ましく、これ以下の割合では共重合体がアルカリ水溶液に溶解しない場合がある。
【0062】
上記のカルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−カルボキシエチルエステル、メタクリル酸2−カルボキシエチルエステル、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン等のような例が挙げられる。
【0063】
カルボキシル基を有するモノマー以外にも共重合体中に他のモノマー成分を導入して多元共重合体として合成、使用することも好ましく行うことが出来る。こうした場合に共重合体中に組み込むことが出来るモノマーとして、スチレン、4−メチルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−カルボキシスチレン、4−アミノスチレン、クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ドデシル等のメタクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アリールエステル或いはアルキルアリールエステル類、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基を有するメタクリル酸エステル類、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸2−ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有メタクリル酸エステル類、或いはアクリル酸エステルとしてこれら対応するメタクリル酸エステルと同様の例、或いは、リン酸基を有するモノマーとしてビニルホスホン酸等、或いは、アリルアミン、ジアリルアミン等のアミノ基含有モノマー類、或いは、ビニルスルホン酸およびその塩、アリルスルホン酸およびその塩、メタリルスルホン酸およびその塩、スチレンスルホン酸およびその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその塩等のスルホン酸基を有するモノマー類、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環を有するモノマー類、或いは4級アンモニウム塩基を有するモノマーとして4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライドによる4級化物、N−ビニルイミダゾールのメチルクロライドによる4級化物、4−ビニルベンジルピリジニウムクロライド等、或いはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、またアクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシエチルアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等のアクリルアミドもしくはメタクリルアミド誘導体、さらにはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、またメチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等各種モノマーを適宜共重合モノマーとして使用することが出来る。これらのモノマーの共重合体中に占める割合としては、先に述べた共重合体組成中に於ける化17で示す基およびカルボキシル基含有モノマーの好ましい割合が保たれている限りに於いて任意の割合で導入することが出来る。
【0064】
上記のようなポリマーの分子量については好ましい範囲が存在し、重量平均分子量で1000から100万の範囲であることが好ましく、さらに1万から30万の範囲にあることが特に好ましい。
【0065】
本発明に係わる側鎖に化17で示される基を有するポリマーの例を下記に示す。式中、数字は共重合体トータル組成100質量%中に於ける各繰り返し単位の質量%を表す。
【0066】
【化23】

【0067】
【化24】

【0068】
【化25】

【0069】
【化26】

【0070】
【化27】

【0071】
従来のような光ラジカル重合を利用する場合には、大気中の酸素の影響を受けやすく、一般に酸素バリヤ性を有するポリビニルアルコールのような樹脂を感光層の表面にオーバー層として設ける必要があった。また、露光後に重合を促進あるいは完結させるため100℃前後の温度で数分間程度加熱処理を行う必要があった。これに対して、上記のようなポリマーおよびスチレニル系モノマーを併せて使用する場合には、上記のようなオーバー層を設けなくとも十分に光硬化する系を与え、かつ、露光後に加熱処理を行う必要がないことが特徴である。
【0072】
本発明の効果の一つとして重要な点は、現像性が良好なため、かぶりが生じにくく、感光特性として硬調な画像再現を与えることであり、レーザー走査露光用感光性組成物として特に好ましく用いることが出来る点である。特に光源として830nm付近に発光する近赤外半導体レーザーを光源として用いた場合に、画像のエッジ部が先鋭に再現され、高解像度の画質を与えることから極めて好ましく使用することが出来る。
【0073】
光重合性組成物を構成する要素として、他に、画像の視認性を高める目的で種々の染料、顔料を添加することや、感光性組成物のブロッキングを防止する目的等で無機物微粒子あるいは有機物微粒子を添加することも好ましく行われる。
【0074】
光重合性組成物中には、さらに長期にわたる保存に関して、熱重合による暗所での硬化反応を防止するために重合禁止剤を添加することが好ましく行われる。こうした目的で好ましく使用される重合禁止剤としては、公知の各種フェノール化合物等が使用できる。
【0075】
平版印刷版材料として使用する場合の感光層自体の厚みに関しては、支持体上に0.5μmから10μmの範囲の乾燥厚みで形成することが好ましく、さらに1μmから5μmの範囲であることが耐刷性を大幅に向上させるために極めて好ましい。感光層は上述の3つの要素を混合した溶液を作製し、公知の種々の塗布方式を用いて支持体上に塗布、乾燥される。支持体については、例えばフィルムやポリエチレン被覆紙を使用しても良いが、より好ましい支持体は、研磨され、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板である。
【0076】
上記のようにして支持体上に形成された感光層を有する材料を印刷版として使用するためには、これに密着露光あるいはレーザー走査露光を行い、露光された部分が架橋することでアルカリ性現像液に対する溶解性が低下することから、後述するアルカリ性現像液により未露光部を溶出することでパターン形成が行われる。
【0077】
アルカリ性現像液としては、本発明の重合体を溶解する液で有れば特に制限は無いが、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、メタ珪酸ナトリウム、メタ珪酸カリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアンモニウムハイドロキサイド等のようなアルカリ性化合物を溶解した水性現像液が良好に未露光部を選択的に溶解し、下方の支持体表面を露出出来るため極めて好ましい。さらには、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール等の各種アルコール類をアルカリ性現像液中に添加することも好ましく行われる。現像液のpHについては、特に13未満であることが好ましい。また、こうしたアルカリ性現像液を用いて現像処理を行った後に、アラビアゴム等を使用して通常のガム引きが好ましく行われる。
【0078】
以下実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。実施例に記載したポリマーおよびスチレニル系モノマーはいずれも特開2001−290271号公報中に記載した方法で得られたものを使用した。なお、実施例中の部数や百分率は質量基準である。
【0079】
合成例1(化2中M−1の合成例)
エチレンジアミン30gをジクロロメタン200gに溶解し、氷水浴中で内温が10℃を越えないように、滴下漏斗から2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートとして、株式会社日本触媒から入手したカレンズMOIを155gとり、徐々に滴下を行った。滴下終了後、さらに室温で10時間攪拌を行い、全体を分液漏斗に移し、純水で3回有機相の洗浄を行った後、有機相をエバポレートして油状物質を得た。プロトンNMRによる構造解析の結果、目的とする化2中M−1の構造を有する化合物であることを確認した。
【0080】
合成例2(化3の合成例)
ポリエチレンイミンとして株式会社日本触媒から入手したエポミンSP−006(分子量600,アミン比:1級:2級:3級=35:35:30)を使用した。2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートとして、株式会社日本触媒から入手したカレンズMOIを使用した。攪拌機、温度計を備えた1リッターフラスコ内に、エポミンSP−006を75グラム添加し、ジエチレングリコールジメチルエーテル450グラムを加えて均一な溶液にした。氷水浴上で内温10℃に保ち、カレンズを205.5グラムを徐々に滴下し、内温が20℃を越えないように滴下速度を調節した。滴下終了後、さらに室温で12時間攪拌を行い、ついで減圧蒸留により溶媒を除いた後に、得られた粘張オイル状物質を真空乾燥機内で一昼夜乾燥を行った。プロトンNMRにより構造を解析した結果、化3で示すような化合物の混合物であることを確認した。
【0081】
合成例3(化4の合成例)
ポリアリルアミンとして日東紡績株式会社から入手したPAA−01(分子量1000)を使用した以外は合成例1と全く同様にして合成を行った。プロトンNMRにより構造を解析した結果、化4で示す化合物であることを同定した。
【0082】
合成例4(化5類縁体の合成例)
ポリジアリルアミン−スルホン共重合体として日東紡績株式会社から入手したPAS−M−1(分子量20000)を使用した以外は合成例1と全く同様にして合成を行った。プロトンNMRにより構造を解析した結果、下記化28で示す化合物であることを同定した。
【0083】
【化28】

【実施例】
【0084】
厚みが0.24mmである砂目立て処理を行った陽極酸化アルミニウム板を使用して、この上に下記の処方で示される感光性塗工液を乾燥厚みが2.5μmになるよう塗布を行い、80℃の乾燥器内にて5分間乾燥を行い、感光性平版印刷版材料を作製した。
<感光性塗工液>
バインダーポリマー(化23中P−1) 10部
光重合開始剤(化8中BC−6) 0.9部
光重合開始剤(化9中T−4) 0.5部
10%フタロシアニン分散液(着色剤) 0.5部
本発明の化合物 (下記表1)
化14中C−5 3部
トリメチロールプロパントリアクリレート 3部
増感色素(化11中S−33) 0.2部
メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)0.1部
ジオキサン 70部
シクロヘキサノン 20部
【0085】
上記感光性塗工液中の本発明に関わる化合物を表1のように用いて、各種感光性平版印刷版材料を作製した。また、同時に本発明の化合物を用いない他は上記の感光性塗工液処方と全く同様にして、比較例1の試料も作製した。比較例2として、本発明の化合物に類似した化合物としてジエチレングリコールジメタクリレートを本発明の化合物と同量使用して、試料を作製した。
【0086】
【表1】

【0087】
得られた感光材料をCreo社製トレンドセッター(830nmのレーザーを搭載した描画装置)を使用して、版面に照射される露光量を80mJ/cm2に合わせて露光を行った。露光された感光性平版印刷版材料を下記の構成で作製された現像液を用いて種々の条件で現像を行った。
【0088】
(現像液処方)
ジメチルアミノエタノール 30部
水酸化テトラメチルアンモニウム 5部
ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム 5部
水を加えて全量を1000部に調整した後、リン酸を添加して現像液のpHを10.8に調整した。
【0089】
(現像性試験)
上記の様にして露光した試料を用いて、以下のようにして現像性試験を行った。現像は三菱製紙株式会社製自動現像装置P−1310Tを使用して処理を行った。現像温度を28℃および30℃の2条件に設定し、各々の温度で処理時間を10秒、12秒および15秒の3条件で処理を行い、非画像部の溶出性(完全に残膜が無くなる場合を○とし、僅かに残膜が認められる場合を△、明確に残膜が発生し、溶出不良である場合を×とした)を評価した。結果を表2に纏めた。
【0090】
【表2】

【0091】
(印刷性試験)
上記の現像性試験で得られた実施例の試料のうち、28℃、15秒の現像処理条件で得られた試料を用いて通常のオフセット印刷を行った。比較試料として同じく28℃、15秒処理で得られた試料を使用して同時に印刷試験を行った。印刷機は三菱重工業株式会社製オフセット輪転機リソピアを使用し、印刷インキは東京インキ(株)製新聞オフ輪用紅インキを使用し、吸湿液は東洋インキ(株)製オフセット印刷用吸湿液アクワユニティWKKの1%水溶液を使用した。印刷評価項目として、耐刷性について刷版上のテスト画像中のベタ部の反射濃度を測定し、刷り初めからの反射濃度の低下を追跡することで耐刷性を評価した。刷版上のベタ部分の反射濃度が約0.6程度になった時点でインキの着肉性が悪くなり、部分的にインキが乗らなくなることを別途確認した。結果を表3に纏めた。全ての本発明の感光性平版印刷版を使用した場合(実施例1〜4)には、耐刷性に関しては15万インプレッションの印刷においても良好な印刷物が得られ、刷版上の画像部の膜べりも軽微であった。また、地汚れの発生もなく良好な結果が得られた。比較例1および2では印刷開始から約5000インプレッションまで地汚れが発生したが、それ以降の印刷物には僅かな地汚れが認められる結果であった。また、15万インプレッションの印刷で半分程度の画像部膜べりが発生していた。
【0092】
【表3】

【0093】
(耐薬品性評価)
実施例1〜4及び比較例1、2の平版印刷版原版を、上記耐刷性の評価と同様にして露光・現像及び印刷を行った。この際、10,000枚印刷する毎に、クリーナー(富士写真フイルム社製、マルチクリーナーCL−2)で版面の画像部の一部分を拭く工程を加え、耐薬品性を評価した。このクリーナー液を塗布した部分の印刷後の画像部の反射濃度を測定することで、耐薬品性評価を行った。結果を下記表4に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
(インキ着肉性評価)
前記耐薬品性の評価において、10,000枚印刷を行った時点での版面清浄作業後、さらに水拭きを行い、印刷を再開した。印刷再開から画像部にインキが供給され、安定な印物が得られるまでの刷りだし枚数によりインキ着肉性を評価した。結果を下記表5に示す。
【0096】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によれば、オーバー層を必要とせず、酸素の影響を受けにくい高感度な感光性組成物が得られる。830nm付近に発光する近赤外線レーザー等の光源を利用する走査露光装置を用いて画像形成可能な感光性組成物および感光性平版印刷版材料に関する。更に、プリント配線基板作成用レジストや、カラーフィルター、蛍光体パターンの形成等に好適な感光性組成物に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に化1で示される構造単位を有する化合物を含有することを特徴とする光重合性組成物。
【化1】

1,R2は各々水素原子もしくは任意の基を表す。Aは炭素数1から4のアルキレン基を表す。
【請求項2】
請求項1の該化合物が、ポリエチレンイミンに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加することにより得られる化合物である請求項1に記載の光重合性組成物。
【請求項3】
請求項1の該化合物が、ポリアリルアミンに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加することにより得られる化合物である請求項1に記載の光重合性組成物。
【請求項4】
請求項1の該化合物が、ポリジアリルアミンに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加することにより得られる化合物である請求項1に記載の光重合性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、さらに多官能性アクリレート化合物を含む光重合性組成物。
【請求項6】
上記請求項1〜5に記載の光重合性組成物が側鎖にスチレン性二重結合を有するポリマーを含むことを特徴とする光重合性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光重合性組成物の層を有する感光材料を処理する方法であって、該層に700〜900nmの範囲に吸収を有する色素および有機ホウ素塩を含むことを特徴とし、かつ現像液のpHが13未満である水性現像液を使用することを特徴とする処理方法。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれか1つに記載の光重合性組成物を利用したことを特徴とする感光性平版印刷版材料。

【公開番号】特開2007−139840(P2007−139840A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329694(P2005−329694)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】