説明

免疫を抑制するための可溶性CD160の使用

組織移植片または臓器拒絶反応、および自己免疫疾患などの望ましくない免疫応答が関与する炎症状態を治療するための可溶型CD160を含む医薬組成物;感染性および自己免疫疾患、組織移植片および臓器拒絶反応などの炎症状態の存在、または腫瘍もしくは活性化された内皮細胞の存在に関して個体をスクリーニングするためのin vitroでの方法、あるいは自己免疫障害や組織もしくは臓器拒絶反応などの炎症状態の療法、または抗血管新生物質もしくは抗体を用いる治療を含む化学療法の間の腫瘍をモニターするためのin vitroでの方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫学の分野に関し、特に、望ましくない免疫応答を抑制する可溶性CD160の使用に関する。可溶性CD160の投与は、自己免疫障害や組織もしくは臓器拒絶反応などの炎症状態の治療に特に有用である。本発明はさらに、感染性および自己免疫疾患、組織移植片および臓器拒絶反応などの炎症状態の存在、または腫瘍の存在に関して個体をスクリーニングするための方法、または自己免疫障害や組織もしくは臓器拒絶反応などの炎症状態の療法をモニターするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、自然免疫系と適応または獲得免疫系の双方を含む。
【0003】
自然免疫応答は、より特異的な適応免疫系が特異的な抗体およびT細胞を組織することができるまで、侵入してくる外部のノキシエント(noxient)を制御する非特異的免疫応答としばしば呼ばれる。たとえば自然免疫系は、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球および単球/マクロファージを含む。NK細胞は腫瘍細胞の死滅に関与し、ウイルス感染に対する応答に必須である。自然免疫系の別の重要なメカニズムは、感染の存在を他の細胞に警告するサイトカインメディエーターおよびケモカインの活性化である。
【0004】
適応免疫系は、液性免疫と呼ばれB細胞により調節される抗体媒介性免疫、およびT細胞により制御される細胞媒介性免疫を含む。液性免疫と細胞媒介性免疫の両方が、侵入する生物から宿主を保護することに関与している。この相互作用が、外来生物の有効な死滅または制御を引き起こすことができる。特にMHCクラスI分子に結合した抗原を認識する場合、CD8+ T細胞は細胞障害性T細胞に分化し、特にグランザイムBおよびパーフォリンを発現し、したがって感染細胞を死滅させることができる。
【0005】
しかし時には、免疫系は異常になり、この調節不全は自己免疫疾患および臓器拒絶反応などの炎症状態を引き起こす。
【0006】
様々な細胞障害性因子は、外来の移植片もしくは免疫原に対する宿主の免疫応答を低下させるか、または「自己」に対する宿主の抗体産生を低下させるために、自己免疫疾患および組織移植片もしくは臓器拒絶反応、または移植片対宿主疾患などの炎症状態の治療に使用される。たとえば、T細胞に対して強い抑制効果を有する治療剤、たとえばサイクロスポリンもしくはFK-506、抗サイトカイン薬剤、抗接着分子薬剤、または種々のモノクローナル抗体がこれらの治療に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO98/21240
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Maizaら、J Exp Med 1993年;178:1121〜6頁
【非特許文献2】Anumanthanら、J Immunol. 1998年、161:2780〜90頁
【非特許文献3】Le Bouteillerら、PNAS 2002年; 99(26):16963〜8頁
【非特許文献4】Tsujimuraら、Immunology letter 2006年、オンラインでアクセスが可能
【非特許文献5】Maedaら、J Immunol. 2005年; 175:4426〜321頁
【非特許文献6】Remington's Pharmaceutical Sciences第16版、Osol, A.編、(1980年)
【非特許文献7】Bensussan, A.、B. Tourvieille、L-K. Chen、J. Dausset、and M. Sasportes. 1985年. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 6642〜6646頁
【非特許文献8】Anumanthan, A.、A. Bensussan、L. Boumsell、A. D. Christ、R. S. Blumberg、S. D. Voss, A. T. Patel、M. J. Robertson、L. M. Nadler、とG. J. Freeman. 1998年. J. Immunol. 161: 2780〜2790頁
【非特許文献9】Schofield, J. N.、とT. W. Rademacher. 2000. Biochim. Biophys. Acta. 1494年: 189〜194頁
【非特許文献10】Delaire, S.、C. Billard、R. Tordjman、A. Chedotal、A. Elhabazi、A. Bensussan、とL. Boumsell. 2001年. J. Immunol. 166: 4348〜4354頁
【非特許文献11】Maiza, H.、G. Leca、I. G. Mansur、V. Schiavon、L. Boumsell、とA. Bensussan. 1993年. J. Exp. Med. 178: 1121〜1126頁
【非特許文献12】Le Bouteiller, P.、A. Barakonyi、J. Giustiniani、F. Lenfant、A. Marie-Cardine、M. Aguerre-Girr、M. Rabot、I. Hilgert、F. Mami-Chouaib、J. Tabiasco、L. Boumsell、とA. Bensussan. 2002年. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 16963〜16968頁
【非特許文献13】McGeehan, G. M.、J. D. Becherer、R. C. Bast, Jr.、C. M. Boyer、B. Championら、1994年. Nature. 370: 558〜561頁
【非特許文献14】Salih, H. R.、H. G. Rammensee、とA. Steinle. 2002年. J. Immunol. 169: 4098〜4102頁
【非特許文献15】Metz, C. N.、G. Brunner、N. H. Choi-Muira、H. Nguyen、J. Gabrilove、I . W. Caras、N. Altszuler、D. B. Rifkin、E. L. Wilson、とM. A. Davitz. 1994年. EMBO J. 13: 1741〜1751頁
【非特許文献16】Naghibalhossaini, F.、とP. Ebadi. P. 2006年. Cancer Lett. 234: 158〜167頁
【非特許文献17】David、V., J-F., Bourge、P. Guglielmi、D. Mathieu-Mahul、L. Degos、とA. Bensussan. 1987年. J. Immunol. 138: 2831〜2836頁.
【非特許文献18】Barakonyi, A., M. Rabot、A. Marie-Cardine、M. Aguerre-Girr、B. Polgar、V. Schiavon、A. Bensussan、とP. Le Bouteiller. 2004年. J. Immunol. 173: 5349〜5354頁
【非特許文献19】Nikolovaら、Int Immunol. 2002年 May;14(5):445〜51頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、望ましくない免疫応答の抑制のための、特に自己免疫疾患および組織移植片または臓器拒絶反応を含む炎症状態の治療のための代替手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本出願人は、CD160、特に可溶性CD160の役割に着目した。
【0011】
CD160は、多量体グリコシルホスファチジルイノシトールアンカーリンパ球表面受容体であり、その発現は専らヒトの細胞障害性の高いCD56ディム(dim)CD16+末梢血液サブセットに限定されている。CD160はまた、ヒトにおいてTCRαβCD8ブライト(bright)+ T細胞のサブセットであるほとんどのTCRγδ細胞、およびほとんどすべての腸管上皮内リンパ球(iIEL)で発現する[Maizaら、J Exp Med 1993年;178:1121〜6頁; Anumanthanら、J Immunol. 1998年、161:2780〜90頁]。MHCクラスI分子は、循環中のNKリンパ球上のCD160に結合し、これらの相互作用が、その細胞障害活性およびサイトカイン産生を誘発することが既に報告されている[Le Bouteillerら、PNAS 2002年; 99(26):16963〜8頁]。
【0012】
WO98/21240は、現在CD160と呼ばれているヒトBY55をコードする核酸およびアミノ酸配列、ならびに特異的な細胞におけるCD160の発現または活性を調節する方法、特に阻害する方法を開示した。このような方法は、CD160活性を阻害するCD160の競合物質または拮抗物質をコードする核酸の投与を含む。たとえばCD160の活性に関与するそのドメインを変更することができ、こうして得られた変更されたタンパク質は、天然型のCD160と競合し、それによってその活性を阻害することができる。CD160の拮抗物質の一例として、CD160の翻訳を阻害することができる核酸が挙げられる。
【0013】
より最近では、Tsujimuraら[Tsujimuraら、Immunology letter 2006年、オンラインでアクセスが可能]が、抗マウスのCD160モノクローナル抗体(mAb)を調製して、マウスCD160は、以前に報告されたようにほとんどすべてのiIELおよびCD8+ T細胞のマイナーサブセット、ならびにNKおよびNKT細胞上で発現することを示した[Maizaら、J Exp Med 1993年;178:1121〜6頁; Anumanthanら、J Immunol. 1998年、161:2780〜90頁; Maedaら、J Immunol. 2005年; 175:4426〜321頁]。Tsujimuraらはまた、CD160は記憶CD8+ T細胞上で優先的に発現されることを見出した。さらに彼らは、脾臓およびiIEL由来のCD8+の両方が、活性化後に可溶性CD160を分泌するが、これは抗CD3 mAbによって誘導されるT細胞の増殖応答に関して何らかの影響を与えないことを示した。Tsujimuraらは彼らの研究から、マウスCD160は、抗原に曝露されたCD8+ T細胞の有用なマーカーであるが、これまでのところ末梢のCD8+ iIELおよびT細胞の機能において有意な役割を有していないようであると結論づけた。
【0014】
本出願人は、予想外の以下の観察をした。すなわち、自然免疫系および適応免疫系の双方で媒介される免疫応答の活性化は、CD160を発現する細胞、たとえばNK細胞、T細胞、マスト細胞、または活性化された内皮細胞から可溶型CD160の放出を誘導する。次いでこの可溶型CD160は、古典的および非古典的MHCクラスI分子ならびにCD1分子に結合でき、細胞障害性CD8+ T細胞活性の阻害、CD160媒介NK細胞活性の阻害ならびにTCRγδおよびNKT機能の阻害を生じる。
【0015】
したがって本発明は、望ましくない免疫応答を抑制する手段であって、前記手段が可溶型CD160である手段に関する。本発明はまた、自己免疫疾患および組織移植片または臓器拒絶反応などの望ましくない免疫応答が関与する炎症状態を治療するための前記手段の使用に関する。本発明はまた、炎症状態または腫瘍の存在に対するマーカーとしての前記手段の使用に関する。本発明はさらに、炎症状態に関して対象をスクリーニングする方法、および炎症状態に対する療法をモニターする方法に関する。本発明はまた、このような方法を実施するためのキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】IL-15活性化PB-NKリンパ球の細胞表面におけるCD160の発現低下を示すずである。(A)CD56発現レベルは、NK細胞の2つの亜集団を詳細に記載したものである。PB-NK細胞は、健常ドナーのPBMCから単離され、PE結合対照IgGまたは抗CD56 mAbを使用して免疫標識した。フローサイトメトリー細胞分析を実施し、示したようにCD56ディム(dim)CD160+(≧90%)およびCD56ブライト(bright)CD160-(≦10%)亜集団の検出を可能にした。(B)休止PB-NKリンパ球およびIL-15処理PB-NKリンパ球上の膜結合CD160のフローサイトメトリー分析。PB-NK細胞は培地単独(左のパネル)またはIL-15(10ng/ml;右のパネル)を補充した培地で、72時間培養した。細胞を、BY55および抗IgM FITC結合二次抗体またはCL1-R2および抗IgG FITC結合二次抗体のいずれかで標識し、フローサイトメトリーによりさらに分析した。(C)PB-NK細胞亜集団におけるCD160 mRNA合成の分析。CD56ディム(dim)とCD56ブライト(bright)NK細胞サブセットは、抗CD56 PE結合mAbを用いる免疫染色に引き続く、細胞ソーティング法により精製したPB-NKリンパ球から得た。次いで、それぞれの亜集団を、サイトカインの非存在下(- IL-15)または存在下(+ IL-15)の培養で72時間維持した。全mRNAをそれぞれの細胞タイプから抽出し、逆転写およびCD160 cDNA特異的増幅のために処理した。βアクチンプライマーを用いた同じ逆転写産物の増幅を、内部対照として使用した。
【図2】IL-15活性化PB-NKリンパ球上でのCD160細胞表面発現の下方調節が、Zn2+依存性プロテアーゼを含み、GPI-PLD酵素の新合成と相関することを示す図である。(A)1,10 PNTの存在下におけるIL-15誘導CD160のダウンエクスプレッション(down-expression)の阻害。新たに単離したPB-NK細胞を、IL-15含有培地単独でまたはホスホリパーゼインヒビター1,10 PNT(10μM)補充培地またはU73122(2μM)補充培地で培養した。膜結合CD160を、抗CD160 mAb BY55と抗IgM-FITC抗体を用いるフローサイトメトリー分析により検出した。対照IgMは、陰性対照として使用した。(B)NK細胞のIL-15活性化に引き続くCD160 mRNAの発現。ソートしたCD56ディム(dim)またはCD56ブライト(bright)NK細胞を、全mRNAの抽出前に培養液(±IL-15)中で72時間増殖した。逆転写後、GPI-PLD1変異体2およびβアクチンの特異的コード配列に対応する産物の合成をもたらすプライマー対を使用して、cDNA増幅を実施した。(C)IL-15処理は、PB-NK細胞によるGPI-PLDの合成を誘導する。休止PB-NKリンパ球またはIL-15活性化PB-NKリンパ球を、免疫標識する前にサポニン含有緩衝液中で透過化処理工程に付した。次いで、細胞を特異的抗GPI-PLD抗体または対照抗体、およびFITC結合二次試薬とともにインキュベートした。細胞内タンパク質免疫染色を、さらにフローサイトメトリー分析により検出した。
【図3】IL-15刺激PB-NK細胞の細胞外環境中での可溶性CD160分子の検出を示す図である。PB-NK細胞を無処置で放置するか、またはIL-15で72時間活性化した後、洗浄してIL-15単独でまたは1,10 PNTプロテアーゼインヒビターを補充してインキュベートした。細胞培養上清を採取し、CL1-R2 mAbを使用して抗CD160免疫沈降に付した。還元状態でSDS-8%PAGEによるタンパク質分離の後、沈殿したタンパク質をニトロセルロースメンブレン上に移し、抗CD160イムノブロッティングに付した。免疫反応性タンパク質を、HRP結合二次抗体およびECL検出システムを使用して可視化した。
【図4】sCD160が、EBV-B細胞系に対するNKおよび同種異系CD8+細胞障害性リンパ球の細胞溶解活性を阻害することを示す図である。(A)in vitroで作製されたsCD160-Flagタンパク質は、活性化PB-NK細胞により放出されたsCD160分子に構造的に対応する。COS7細胞を、pcDNA3対照ベクターまたはFlagタグ付き可溶性CD160タンパク質(sCD160-Flag)をコードする発現構築物で一過性にトランスフェクトした。2日培養後、細胞上清を採取し、抗Flag免疫沈降物を調製した。抗CD160免疫沈降を、並行してIL-15処理PB-NKリンパ球由来の培地で実施した。免疫沈降物を還元SDS-8%PAGEにより分析し、抗CD160 mAb CL1-R2を使用するウエスタンブロット分析に付した。図3の説明に記載したように、タンパク質をオートラジオグラフィーにより、最終的に検出した。(B)sCD160-Flag融合タンパク質は、効率良くHLA-C分子に結合する。親細胞系221またはHLA-Cw3発現トランスフェクタント(221-Cw3)を、pcDNA3(陰性対照)またはsCD160-FlagコーディングベクターでトランスフェクトしたCOS7細胞から得た培養液とともにインキュベートした。sCD160-Flag含有培地の50g/ml濃度を、示した実験で使用した。細胞に対するsCD160-Flagの結合を、抗Flag mAbおよび抗IgG FITC-結合抗体を使用する免疫染色により評価し、続いてフローサイトメトリー分析で評価した。(C)sCD160は、CTLの細胞障害活性を阻害する。標的細胞として51Crを付与したHLA-A11発現EBV形質転換B細胞を使用して、細胞障害性アッセイを実施した。標的細胞を、エフェクター細胞と接触させる前に、対照またはトランスフェクトしたCOS7細胞由来のsCD160-Flag含有培養液とともにインキュベートした。HLA-A11-特異的ヒト細胞障害性T細胞クローンJF1(左のパネル)、またはソートした同種異系CD8+細胞障害性Tリンパ球(右のパネル)を、エフェクター細胞として選択した。各実験条件を3回反復して実施し、3つの異なるエフェクター/標的細胞比率が含まれた。Cr51放出を共培養上清で測定し、結果を特異的細胞溶解±SDの%として表示した。
【図5】K562細胞上でのMHC-I分子とsCD160の相互作用が、PB-NK細胞の細胞障害活性を下方制御することを示す図である。(A)K562細胞に対するsCD160-Flagの結合。K562細胞を、抗MHC I分子mAb W6/32で標識するか(左のパネル)または図4Bの説明に記載したようにsCD160-Flag結合アッセイに付した。(B)K562細胞を、エフェクターPB-NKリンパ球と接触させる前に、対照培地またはsCD160-Flag含有培地でプレインキュベートした。あるいは共培養開始前に、抗CD160 mAb CL1-R2をエフェクター細胞に添加した。材料および方法の項で説明したように、K562細胞の細胞溶解を定量した。
【図6】CD160の発現およびマスト細胞による可溶性CD160の産生を示す図である。 標準的手順ならびにβアクチンおよびCD160用の特異的プライマーを使用して、RT-PCRを実施した。細胞系および末梢白血球由来のmRNAを、Trizol試薬技術を使用して精製した。HMC-1細胞および健常ドナー由来の末梢好塩基球は、2つの選択的スプライシングされた、それぞれ339および665塩基対の短い転写物および長い転写物を有するCD160 mRNAの発現を示す。同様の発現が、健常ドナーおよびNK92細胞由来のPBLおよびNK細胞で認められる。陰性対照としてのCos細胞およびJurkat細胞は、CD160の発現を示さない。 CD160免疫沈降を、HMC-1細胞溶解物および上清、ならびに臍帯血(CB-MC)または健常ドナーのサイタフェレーシス(C-MC)に由来するCD34+多能性前駆細胞由来の培養で増殖したヒトマスト細胞の上清で実施した。タンパク質分離後、Tm60モノクローナル抗体および西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体を使用するイムノブロッティングを実施した。特異的な83kDの免疫沈降物が、HMC-1細胞およびヒトマスト細胞に由来するCD34+前駆細胞の両方の上清に認められ、これらの細胞は可溶性CD160を産生することを示している。 CD160およびマスト細胞トリプターゼの標準的な免疫組織化学的検出を、Tm60モノクローナル抗体(CL1-R2)(A、C、E)および(B、D、F)を用いる、アビジンビオチン-ペルオキシダーゼ技術を使用して実施した。免疫蛍光試験に関しては、二次ビオチン化抗マウスIgG抗体およびフルオロイソチオシアネート結合ストレプトアビジン(streptavidine)を使用した(G、H)。正常な皮膚および副唾液腺パラフィン包埋組織切片において、マスト細胞は抗CD160モノクローナル抗体で強く染色される(A、C、矢印)。皮膚において、マスト細胞は、真皮乳頭層中および中層および深層真皮の皮膚毛細血管周辺に存在する(A)。唾液腺において、マスト細胞は、唾液腺管および腺房周辺に見られる(C)。皮膚および唾液腺の両方において、マスト細胞は、形態学的におよびマスト細胞トリプターゼの発現によって特徴づけられる(B、D)。HMC-1細胞は、特に細胞質顆粒中で(E)、ならびにマスト細胞トリプターゼ(F)中でCD160を強く発現する。免疫蛍光試験を使用して、皮膚の肥満細胞症由来のマスト細胞(G)およびHMC-1細胞(H)は、CD160の強い顆粒性の発現を示す(矢印)。 (倍率:A、B、C、D、E、F×200;G、H:×400)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、以下の定義により、よりよく理解される。
【0018】
「炎症状態」という用語は当技術分野で知られており、本明細書において、感染性(細菌およびウイルス)ならびに自己免疫疾患を含む、一般に任意の炎症細胞媒介疾患を意味する。感染性疾患は、一般にウイルスまたは細菌に起因する疾患を意味する。感染性疾患を引き起こすウイルスの例として、HIV-1ウイルス、単純ヘルペス、サイトメガロウィルス、エプスタインバーウイルス、HTLV-1、白血病ウイルスが含まれるが、これには限定されない。細菌感染性疾患の例として、梅毒および結核が含まれるが、これには限定されない。自己免疫疾患は一般に、免疫系が過敏性であり、自己と非自己とを区別する能力を失った疾患を意味する。炎症性疾患の非限定例には、同種移植片拒絶、関節リウマチ、変形性関節症、感染性関節炎、乾癬性関節炎、多発性軟骨炎、関節周囲疾患、大腸炎、膵臓炎、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、多発性硬化症、結膜炎、糖尿病、皮膚炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、喘息、全身性硬化症、敗血症性ショック、アレルギー、アナフィラキシー、全身性肥満細胞症、および肝炎または潰瘍などの内臓の感染性疾患が含まれる。
【0019】
「望ましくない免疫応答が関与する炎症状態」という用語は一般に、免疫系が過敏性であり、自己と非自己とを区別する能力を失った疾患、たとえば自己免疫疾患または免疫応答が所望されない疾患、たとえば組織移植片および臓器拒絶反応、移植片対宿主疾患を意味する。
【0020】
「抗体」という用語は当技術分野で知られており、本明細書においては一般に、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを含むすべてのタイプの免疫グロブリンを意味する。「免疫グロブリン」という用語は、IgG1、IgG2、IgG3...などのこれらの免疫グロブリンのサブタイプを含む。抗体は、たとえばマウス、ラット、ウサギ、ウマ、またはヒトを含む任意の種に由来してもよく、あるいはキメラ抗体またはヒト化抗体であってもよい。モノクローナル抗体は、既知の技術に従って作製される。本明細書中で用いる「抗体」または「抗体(複数)」いう用語は、標的抗原に結合する能力を保持する抗体断片、たとえばFab、F(ab')2、およびFv断片ならびにIgG以外の抗体から得られる対応する断片を含む。このような断片はまた、既知の技術によって作製される。
【0021】
「免疫抑制剤」という用語は、当技術分野において知られており、本明細書においては一般に、免疫系活性を低下させるか、または停止させる薬剤を意味する。免疫抑制剤を、臓器移植後に体が免疫応答を開始しないようにするために、または過敏性免疫系により引き起こされる疾患を治療するために投与しうる。免疫抑制剤には、サイトカイン産生を抑制する、または自己抗原の発現を下方制御するかもしくは抑制する、またはMHC抗原を遮蔽する物質が含まれるが、これには限定されない。このような薬剤の例には、グルココルチコイド、細胞増殖抑止剤、抗体、イムノフィリンおよびインターフェロンに作用する薬剤、オピオイド、TNF結合タンパク質がある。このような免疫抑制剤には、2-アミノ-6-アリール-5-置換ピリミジン、アザチオプリン(またはシクロホスファミド)、ブロモクリプチン、グルタールアルデヒド、MHC抗原およびMHC断片に対する抗イディオタイプ抗体、サイクロスポリンA、ステロイド、たとえばグルココルチコステロイド(プレドニゾン、メチルプレドニゾン、デキサメサゾン)、サイトカインおよびインターフェロンガンマ、ベータ、またはアルファ抗体を含むサイトカイン受容体拮抗剤、抗腫瘍壊死因子抗体、抗インターロイキン2抗体および抗IL-2受容体抗体、抗L3T4抗体、異種性抗リンパ球グロブリン、汎T抗体、好ましくは抗CD3または抗CD4抗体、LFA-3結合ドメインを含む可溶性ペプチド、ストレプトキナーゼ、TGF-ベータ、ストレプトドルナーゼ、FK506、RS-61443、デオキシスペルグアリン、ラパマイシン、T細胞受容体、T細胞受容体断片およびT10B9などのT細胞受容体抗体が含まれるが、これには限定されない。好ましくは免疫抑制剤には、サイクロスポリンA、FK506、ラパマイシン、ステロイド、たとえばグルココルチコステロイド(最も好ましくはプレドニゾンまたはメチルプレドニゾロン)、メトトレキセートなどの細胞増殖抑止剤、アザチオプリン、およびモノクローナル抗体、たとえば0KT3または抗TNFが含まれる。
【0022】
「移植片」という用語は、当技術分野において知られており、本明細書においては一般に、レシピエントまたは宿主への移植のためのドナー由来の生物物質を意味する。移植片には、たとえば、膵島細胞および神経由来細胞などの単離した細胞、新生児の羊膜、骨髄、造血前駆細胞などの組織、および皮膚、心臓、肝臓、脾臓、膵臓、甲状腺葉、肺、腎臓、管状臓器...などの多様な物質が含まれる。移植片は、ヒトを含む任意の哺乳動物の供給源に由来する。ある実施形態では、移植片は、好ましくは骨髄または心臓、腎臓または肝臓などの臓器である。
【0023】
「移植する」または「移植」という用語は、当技術分野において知られており、本明細書においては一般に、移植が同系(ドナーおよびレシピエントが遺伝的に同一である場合)、同種異系(ドナーおよびレシピエントは、遺伝的起源が異なるが、同一種の場合)、または異種間(ドナーおよびレシピエントが異なる種である場合)であるかどうかにかかわらず、宿主への移植片の挿入を意味する。典型的には宿主はヒトであり、移植片は、同一または異なる遺伝的起源のヒトに由来する同系移植片である。
【0024】
「個体」とは、哺乳動物、特にヒトを意味する。
【0025】
本明細書で用いる「治療」または「治療すること」とは、一般に治療対象の個体または細胞の自然経過を変更する試みにおける臨床的介入を意味し、予防のためかまたは臨床病理学経過の間に実施しうる。望ましい効果には、限定されるものではないが、疾患の発生または再発を予防すること、症状を緩和すること、疾患の何らかの直接的もしくは間接的な病理学的結果を抑制、減少または阻害すること、転移を予防すること、疾患の進行速度を低下させること、疾患状態を改善または緩和すること、および緩解または改善した予後をもたらすことが含まれる。
【0026】
本発明の目的は、可溶型CD160を含む医薬組成物を提供することである。
【0027】
本明細書で用いる「可溶型」には、分子がGPI結合で切断された切断型、およびタンパク質を細胞膜に、または細胞膜中に結合するアミノ酸残基を欠失した任意の他の型である切断型が含まれる。
【0028】
本明細書で用いる「可溶型CD160」は、CD160の細胞外部分(アミノ酸1〜160、Genbank受託番号AF060981(ヒト)またはAF060982(マウス))、ならびにこれらの断片および誘導体を意味する。
【0029】
可溶性CD160を意味する場合、「断片」という用語は、本質的にタンパク質CD160としての同一の生体機能または活性を保有するタンパク質を意味する。CD160のこの生体機能または活性には、古典的もしくは非古典的MHCクラスI分子への結合またはCD1分子への結合が含まれる。したがってこの機能に関して、本発明の可溶型CD160の断片および誘導体は、タンパク質CD160の活性の少なくとも約50%を、好ましくは少なくとも75%を、より好ましくは少なくとも95%を維持する。
【0030】
可溶性CD160断片または誘導体は、(i)1つまたは複数のアミノ酸残基が保存的または非保存的アミノ酸残基(好ましくは保存的アミノ酸残基)で置換され、このような置換されたアミノ酸残基が、遺伝コードによりコードされたアミノ酸残基のでもよくまたはそうでなくてもよいペプチド、あるいは(ii)1つまたは複数のアミノ酸残基が置換基を含むペプチド、あるいは(iii) 成熟タンパク質が、ポリペプチドの半減期を増加させる化合物(たとえば、ポリエチレングリコール)などの別の化合物と融合しているペプチドでありうる。たとえば可溶型CD160は、免疫グロブリンと融合タンパク質を形成するために使用できる。
【0031】
本発明の1つの実施形態において、前記医薬組成物は、少なくとも1つの許容可能な担体および場合によっては他の治療成分と組み合わせた可溶型CD160を含む。
【0032】
担体(複数可)は、製剤のその他の成分と適合性があり、かつそのレシピエントに有害でないという意味で「許容可能」でなければならない。
【0033】
本発明によれば、前記医薬組成物は、経口、直腸、経鼻、局所および非経口(皮下、筋肉内、静脈内、および皮内を含む)投与に適した医薬組成物を含む。前記医薬組成物の非経口投与が使用されるのが好ましい。製剤は、錠剤および徐放性カプセルならびにリポソームまたはイムノパスタイド(immunopastides)中などの単位投薬形態で提供されるのが好都合であり、当技術分野で周知の方法により調製することができる。
【0034】
経口投与に適する本発明の医薬組成物は、個別単位として提供でき、たとえば粉剤または顆粒剤として、水性液体もしくは非水性液体中の、あるいはコロイド状薬剤送達系(たとえば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子およびナノカプセル)中の、あるいはマクロエマルション中の溶液または懸濁液としてそれぞれ所定量の活性成分を含むカプセル剤、マイクロカプセル、カシェ剤または錠剤として提供することができる。このような技術は、(Remington's Pharmaceutical Sciences第16版、Osol, A.編、(1980年))に開示されている。
【0035】
非経口投与に適する本発明の医薬組成物は、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤を含みうる水性または非水性無菌注射溶液および製剤を意図するレシピエントの血液と等張にする溶質、ならびに懸濁剤および増粘剤を含みうる水性または非水性無菌懸濁液を含む。製剤は、単位服用量または多用量容器、たとえば封入されたアンプルおよびバイアルで提供することができ、使用直前に無菌の液体担体、たとえば注射用水の添加のみを必要とする凍結乾燥(凍結乾燥した)状態で保存できる。即席注射用溶液および懸濁液は、無菌の粉剤、顆粒剤および錠剤から調製できる。
【0036】
本発明の医薬組成物はまた、所望の部位に局所的に投与することができる。様々な技術、たとえば注射、カテーテルの使用、トロカール、プロジェクタイル、プルロニックゲル、ステント、持続性薬剤放出ポリマーまたは内部アクセスを提供する他のデバイスを、医薬組成物を所望の部位に提供するために用いることができる。個体からの切除により臓器または組織がアクセス可能な場合、このような臓器または組織は、前記医薬組成物を含む媒質に浸すことができ、医薬組成物は、臓器上へ塗ることもでき、または任意の便利な様式で適用することもできる。また、たとえば抗体などの組織標的化を伴うリポソームを用いる全身投与も使用されうる。
【0037】
また本発明の目的は、組織移植片または臓器拒絶反応、および自己免疫疾患などの望ましくない免疫応答が関与する炎症状態を治療するための可溶型CD160を含む前記医薬組成物を提供することである。
【0038】
いかなる理論によっても拘束されることを望まないが、その必要がある個体への可溶型CD160を含む医薬組成物の投与は、古典的および非古典的MHCクラスI分子およびCD1分子が、細胞障害性CD8+ T細胞、NK細胞、NKTおよびTCRγδ細胞によって認識されることを防ぎ、それにより細胞障害性CD8+ T細胞活性、CD160媒介NK細胞活性ならびにNKTおよびTCRγδ機能の阻害を生じるものでなければならない。この作用は、望ましくない免疫応答の阻害をもたらすはずである。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、前記医薬組成物は、心臓、腎臓または肝臓拒絶反応などの臓器拒絶反応の治療を可能にする。
【0040】
本発明の別の好ましい実施形態では、前記医薬組成物は、炎症性疾患、たとえば関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、乾癬、多発性硬化症、糖尿病、狼瘡および炎症性腸疾患の治療を可能にする。
【0041】
本発明はさらに、組織移植片または臓器拒絶反応、および自己免疫疾患を含む炎症状態を治療する医薬組成物の調製のための可溶型CD160の使用に関する。
【0042】
好ましい実施形態では、本発明は、心臓、腎臓または肝臓拒絶反応などの臓器拒絶反応を治療する医薬組成物の調製のための可溶型CD160の使用に関する。
【0043】
好ましい実施形態では、本発明は、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、乾癬、多発性硬化症、糖尿病、狼瘡および炎症性腸疾患などの炎症性疾患を治療する医薬組成物の調製のための可溶型CD160の使用に関する。
【0044】
この発明の特定の実施形態は、組合せ療法に関する。1つの実施形態では、本発明の医薬組成物は、炎症状態を治療するために、少なくとも1つの免疫抑制剤と組み合わせて使用される。好ましくは、少なくとも前記免疫抑制剤は、サイクロスポリンA、FK506、ラパマイシン、グルココルチコステロイド(最も好ましくはプレドニゾンまたはメチルプレドニゾロン)などのステロイド、メトトレキセート、アザチオプリンなどの細胞増殖抑止剤、およびOKT3または抗TNFなどのモノクローナル抗体を含む。
【0045】
免疫抑制剤は、免疫系の活性を阻害するかまたは防止するために免疫抑制療法で使用される。免疫抑制剤は、細胞媒介性免疫および液性免疫を抑制することができ、かつ様々な炎症事象を抑制することができる。前記免疫抑制剤と組み合わせた本発明の医薬組成物の使用は、T細胞およびNK細胞媒介性応答を特異的に抑制し、したがって免疫抑制療法の有益な効果を増強することを可能にするはずである。
【0046】
本発明の別の目的は、上述した医薬組成物および上述した少なくとも1つの免疫抑制剤を含む、炎症状態を治療するためのキットを提供することである。
【0047】
好ましい実施形態では、本発明は、組織移植片または臓器拒絶反応を治療するための前記キットを提供する。
【0048】
本発明は、感染性および自己免疫疾患、組織移植片および臓器拒絶反応などの炎症状態の存在、または腫瘍もしくは活性化された内皮細胞の存在をスクリーニングするためのin vitroでの方法であって、可溶性CD160をマーカーとして使用する方法に関する。
【0049】
実際に本出願人は、自然免疫系と適応免疫系の双方で媒介される免疫応答の活性化が、CD160を発現する細胞、たとえばNK細胞、T細胞、マスト細胞、活性化された内皮細胞から、可溶型CD160の放出を誘導することを観測した。したがって、個体由来の生体試料中の高レベルの可溶性CD160の存在は、感染性および自己免疫疾患において、組織移植片または臓器拒絶反応において、ならびに腫瘍または活性化された内皮細胞の存在において観測できる免疫応答の存在を示唆するはずである。
【0050】
本発明は、自己免疫障害や組織もしくは臓器拒絶反応などの炎症状態の療法をモニターし、または抗血管新生物質もしくは抗体を用いる治療を含む化学療法の間の腫瘍の存在をモニターするためのin vitroでの方法であって、可溶性CD160をマーカーとして使用する方法に関する。
【0051】
したがって、自己免疫疾患または組織もしくは臓器拒絶反応などの炎症状態の治療を、可溶性CD160のレベルによってモニターすることができる。免疫抑制剤で治療された個体由来の生体試料中の高レベルの可溶性CD160の存在は、望ましくない免疫応答が抑制されていないことを示唆しているはずである。同様に、抗血管新生物質または抗体を用いる治療を含む化学療法での腫瘍の治療を、可溶性CD160のレベルによりモニターすることができる。腫瘍に対して治療された個体由来の生体試料中の高レベルの可溶性CD160の存在は、腫瘍は依然として存在し、免疫応答を誘導できることを示唆しているはずである。
【0052】
好ましい実施形態では、上述の前記方法は、心臓、腎臓または肝臓拒絶反応などの臓器拒絶反応の療法をスクリーニングまたはモニターするために使用される。
【0053】
好ましい実施形態では、上述の前記方法は、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、乾癬、多発性硬化症、糖尿病、狼瘡および炎症性腸疾患などの炎症性疾患の療法をスクリーニングまたはモニターするために使用される。
【0054】
可溶性CD160のレベルを、個体由来の生体試料中で検出することができ、健常対照集団由来の可溶性CD160のレベルと比較することができる。対照集団由来の可溶性CD160のレベルは一般に、炎症状態、組織移植片もしくは臓器拒絶反応または腫瘍を伴わない複数の個体由来の可溶性CD160の平均レベルを表す。
【0055】
可溶性CD160レベルの測定に適した生体試料には、たとえば血液(全血、血漿および血清を含む)、尿、脳脊髄液、関節滲出液、腹水、羊水が含まれる。好ましくは、血清が生体試料として使用される。
【0056】
感染性および自己免疫疾患などの炎症状態の存在、組織移植片もしくは臓器拒絶反応の存在、または腫瘍もしくは活性化された内皮細胞の存在は、対照集団に対する可溶性CD160のレベルに基づいて決定することができる。したがって、対照集団で観測される可溶性CD160のレベルと比較して、可溶性CD160のレベルが増加するか、同じであるかまたは減少するかどうかを測定する。対照集団の可溶性CD160レベルに対するこのレベルの増加は、感染性および自己免疫性状態などの炎症状態の指標、組織移植片もしくは臓器拒絶反応の指標、または腫瘍もしくは活性化された内皮細胞の存在の指標となる。このような障害を診断する場合に考慮されるさらなる要因には、たとえば患者歴、家族歴、遺伝的要素が含まれる。
【0057】
個体中の可溶性CD160のレベルもまた、前記炎症状態の治療または抗血管新生物質もしくは抗体を用いる治療を含む化学療法などの治療のモニターに使用することができる。典型的には、可溶性CD160の個体ベースラインレベルを治療前に得て、治療後または治療の間、たとえば治療後1日目または複数日目、数週間目、または数ヶ月目の様々な時点における可溶性CD160のレベルと比較する。ベースラインレベルに対する可溶性CD160レベルの減少は、治療に対する陽性応答の指標となる。
【0058】
可溶性CD160は、たとえば1つまたは複数の抗体を使用する免疫学的アッセイにより検出することができる。これらのアッセイにおいて、可溶性CD160に対して特異的な結合親和性を有する抗体またはこのような抗体に結合する二次抗体は、直接または間接的に標識することができる。適切な標識としては、限定されないが、放射性核種(たとえば125I、131I、35S、3H、3P、33Pまたは14C)、蛍光部分(たとえばフルオレセイン、FITC、PerCP、ローダミン、AlexaまたはPE)、ルミネセンス部分(たとえばQuantum Dot Corporation、Palo Altoによって供給されるQdot(商標)ナノ粒子)、限定された波長の光を吸着する化合物、または酵素(たとえばアルカリホスファターゼもしくは西洋ワサビペルオキシダーゼ)が挙げられる。抗体をビオチンとの結合により間接的に標識し、次いで上述の分子で標識されたアビジンまたはストレプトアビジンを用いて検出することができる。標識を検出するかまたは定量する方法は、標識の性質に依存し、当技術分野で知られている。検出器の例には、限定されるものではないが、X線フィルム、放射活性カウンター、シンチレーションカウンター、分光光度計、比色計、蛍光計、照度計、およびデンシトメーターが含まれる。当業者によく知られているこれらの手法の組合せ(「多層(multilayer)」アッセイを含む)を、アッセイの感度を増強するために使用することができる。
【0059】
可溶性CD160を検出する免疫学的アッセイは、サンドイッチアッセイ、競合アッセイまたはブリッジイムノアッセイを含む様々な公知の形式で実施することができる。
【0060】
1つの実施形態では、感染性および自己免疫疾患、組織移植片および臓器拒絶反応などの炎症状態の存在、または腫瘍もしくは活性化された内皮細胞の存在をスクリーニングし、あるいは自己免疫障害または組織もしくは臓器拒絶反応などの炎症状態の療法をモニターするための前記in vitroでの方法は、
生体試料を可溶性CD160に結合するリガンドと接触させる段階と、
前記リガンドに対する可溶性CD160の結合を検出する段階と
を含む。
【0061】
好ましい実施形態では、前記リガンドは、可溶性CD160に結合する抗体あるいは古典的もしくは非古典的MHCクラスI分子またはCD1分子などのCD160受容体の1つを含む。
【0062】
1つの実施形態では、可溶性CD160に対して特異的結合親和性を有する前記リガンドは、当技術分野で知られている任意の様々な方法により固体基質上に固定し、生体試料に曝露することができる。固体基質上のリガンドに対する可溶性CD160の結合は、表面プラスモン共鳴現象を利用することにより検出することができ、これは結合により表面プラスモン共鳴の強度に、Bioacore装置(BIAcore International AB、Rapsgatan、Sweden)などの適切な機器により定性的または定量的に検出することができる変化を生じる。あるいは、上記のようにリガンドは標識し、検出することができる。可溶性CD160の既知量を使用する標準曲線を、可溶性CD160レベルの定量化を助けるために作成することができる。
【0063】
別の実施形態においては、捕捉抗体が固体基質上に固定されている「サンドイッチ」アッセイが、可溶性CD160のレベルを検出するために使用される。捕捉抗体には、可溶性のCD160に結合する抗体またはFc断片もしくは免疫グロブリン定常領域を含む組換え型抗体および可溶性のヒト古典的もしくは非古典的MHCクラスIまたはヒトCD1が含まれるが、これらに制限されない。
【0064】
試料中の任意の可溶性CD160を、固定した抗体に結合できるように、固体基質を生体試料と接触させることができる。抗体に結合した可溶性CD160のレベルは、可溶性CD160に対して特異的結合親和性を有する「検出」抗体と上記の方法を使用して測定することができる。これらのサンドイッチアッセイにおいて、捕捉抗体は、検出抗体と同じエピトープ(またはポリクローナル抗体の場合には、エピトープの範囲)に結合しない方がよいことは理解されよう。サンドイッチアッセイは、サンドイッチELISAアッセイ、サンドイッチウェスタンブロッティングアッセイ、またはサンドイッチ免疫磁気検出アッセイとして実施することができる。
【0065】
捕捉抗体などの抗体が結合することができる適切な固体基質には、限定されるものではないが、マイクロタイタープレート、チューブ、メンブレン、たとえばナイロンもしくはニトロセルロースメンブレンおよびビーズまたは粒子、たとえばアガロース、セルロース、ガラス、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、磁性または磁化できるビーズまたは粒子が含まれる。磁性または磁化できる粒子は、自動イムノアッセイシステムが使用される場合、特に有用でありうる。
【0066】
可溶性CD160を検出する代替の技術には、質量-分光光度的技術、たとえばエレクトロスプレーイオン化法(ESI)、マトリックス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI)が含まれる。このような用途に有用な質量分光光度計は、Applied Biosystems、Bruker DaltronicsおよびAmersham Pharmaciaから入手可能である。
【0067】
本発明の1つの実施形態では、可溶性CD160のレベルは、モノクローナル抗体を使用して検出される。
【0068】
本発明の1つの実施形態では、可溶性CD160のレベルは、捕捉抗体および検出抗体を使用して検出され、前記検出抗体は標識を含む。前記捕捉抗体は、好ましくは固体基質に結合しており、前記固体基質は、ビーズまたはマイクロタイタープレートを含む。
【0069】
本発明はまた、生体試料由来の可溶性CD160を検出し、感染性および自己免疫疾患、組織移植片および臓器拒絶反応などの炎症状態の存在、または腫瘍もしくは活性化された内皮細胞の存在をスクリーニングし、あるいは自己免疫障害や組織または臓器拒絶反応などの炎症状態の療法をモニターし、あるいは抗血管新生物質または抗体を用いる治療を含む化学療法の間の腫瘍の存在をモニターするためのキットに関し、前記キットは、
可溶性CD160に対して特異的結合親和性を有する少なくとも1つのリガンドであって、抗体または古典的もしくは非古典的なMHCクラスI分子またはCD1分子を含むリカインドと、
二次抗体などの試薬と
を含む。
【0070】
本発明を以下の実施例を用いてさらに説明するが、これは特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定するものではない。
【0071】
(実施例)
材料および方法
細胞
PBMCを、MSL(PAA Laboratories、Les Mureaux、France)密度勾配遠心分離により、健常ドナーから得たヘパリン添加静脈血から単離した。新鮮なPB-NK細胞を、製造業者(Miltenyi Biotec、Bergish-Gladbach、Germany)の推奨に従って、磁気活性化細胞ソーター(magnetic-activated cell sorter)(MACS)およびNK細胞分離キットを使用して単離した。PB-NK細胞の純度は、>90%であることが示された。先に報告されているように、in vitroでの同種異系MHCクラスI拘束性エフェクターTリンパ球の選択を実施した(Bensussan, A.、B. Tourvieille、L-K. Chen、J. Dausset、and M. Sasportes. 1985年. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 6642〜6646頁)。簡単に述べると、PBMCを照射したEBV形質転換B細胞とともに、ペニシリン(100IU/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、L-グルタミン(2mM)、および10%熱不活性化ヒト血清(Jacques Boy Institute、Lyon、France)を補充したRPMI 1640培地で6日間共培養した。混合リンパ球培養の6日目に、CD8+集団を、製造業者(Miltenyi Biotec)の指示に従って、CD8+ミクロビーズを使用して単離した。次いで細胞を十分に洗浄して37℃で一夜培養し、特異的同種異系EBV-B標的細胞系に対するエフェクター細胞として、リンパ球媒介細胞傷害アッセイでさらに試験した。CD8+細胞は、単離したリンパ球集団の90%を超えることを示した。CD56ディム(dim)およびCD56ブライト(bright)PB-NK細胞集団を分離するために、PB-NK細胞を、抗CD56 PE結合mAbを用いて染色し、ELITE細胞ソーター(Beckman-Coulter、Miami、FL)を使用してソートした。
【0072】
この研究で使用したすべての細胞系は、10%ウシ胎仔血清(FCS; Perbio Science、Brebieres、France)を含む標準的な培養液で培養した。721.221-HLACw3安定トランスフェクタント(221-Cw3は、Dr Philippe(Le Bouteiller、INSERM U563、Toulouse、France)の好意により供与を受けた)は、HLA-Cw3コーディングベクターを用いる721.221細胞(221)のトランスフェクションによって得た。
【0073】
抗体およびフローサイトメトリー
この研究で使用した抗体は、下記であった:抗Flag M2 mAb (Sigma、St Quentin Fallavier、France)、ウサギ抗GPI-ホスホリパーゼD(Caltag laboratories、Burlingame、CA)、抗CD56 mAb(Beckman-Coulter、Marseille、France)、ならびに抗CD160 mAb(現地生産したBY55(IgM)およびCL1-R2(IgG1))。無関係なアイソタイプ適合抗体を、陰性対照として使用した。FITCもしくはPE結合ヤギ抗マウスIgGまたはIgM(Beckman-Coulter)、またはヤギ抗ウサギIgG(Caltag laboratories)を、二次試薬として使用した。細胞は、間接免疫蛍光法によって表現型を決定した。簡単に述べると、細胞を、特異的mAbとともに4℃で30分間インキュベートしてPBSで2回洗浄し、さらに適当なFITCまたはPE標識した二次抗体とともにインキュベートした。洗浄後、細胞をEPICS XL装置(Beckman-Coulter)でフローサイトメトリーにより分析した。細胞内染色のために、染色前に細胞をサポニン緩衝液中(PBS/0.1%BSA/0.1%サポニン)(Sigma)で透過性にし、上記のようにすべてのその後の工程は、サポニン緩衝液中で実施した。
【0074】
可溶性CD160(sCD160)結合アッセイのために、COS7細胞を、Flag標識可溶性CD160タンパク質をコードする発現ベクターでトランスフェクトした。細胞を回収後、0.5から10μg/mlの範囲に及ぶsCD160の濃度に対応するいくつかのCOS7細胞培養液の希釈物を、HLA-Cw3を発現する細胞を標識するこれらsCD160の能力について試験した。典型的には105の221-Cw3細胞を、96ウェル丸底プレート中で、50μlのsCD160-Flagを含む上清とともにインキュベートした。エンプティベクターでトランスフェクトしたCOS7細胞から得た培養液を、陰性対照として使用した。37℃で1時間後に、細胞を洗浄して4℃で20分間、2%パラホルムアルデヒドを含むPBSで固定した。次いで細胞を2回洗浄して4℃で20分間、抗Flag M2 mAbとともにインキュベートし、FITC結合ヤギ抗マウス抗体で染色した。洗浄後、XLフローサイトメーター(Beckman-Coulter)を使用して、細胞を分析した。
【0075】
GPIアンカーCD160切断の阻害
ホスホリパーゼインヒビターU73122、U73343および1,10フェナントロリン(1,10 PNT)は、Sigmaから購入した。3×105/mlのPB-NK細胞を、10%熱不活性化ヒト血清、ペニシリン/ストレプトマイシン、L-グルタミンおよびIL-15(10ng/ml;PeproTech, Levallois-Perret, France)を補充したRPMI 1640で72時間培養した。次いで細胞を洗浄し、培地のみを含むIL-15中で、または1,10 PNT(10μM)、U73122(2μM)もしくはU73343(2μM)を補充したIL-15中で、37℃で8〜12時間インキュベートした。U73122の不活性類似体であるU73343を、陰性対照として使用した。PBSで2回洗浄後、細胞を、CD160免疫染色およびフローサイトメトリー分析のために処理した。
【0076】
RNA抽出、逆転写およびcDNA増幅(RT-PCR)
全RNAを、製造業者(Invitrogen、Cergy Pontoise、France)の指示に従ってTrizol試薬を使用して単離した。それぞれの逆転写に対して、5μgのRNAを使用した。500ngのオリゴdTプライマー(Invitrogen)およびPowerscript逆転写酵素(Clontech、Palo Alto、CA)を使用して、全容量20μlで逆転写を実施した。CD160ならびにGPI-PLD1変異体1および2のcDNA増幅用の特異的プライマーを、公開された配列に基づき設計した(Anumanthan, A.、A. Bensussan、L. Boumsell、A. D. Christ、R. S. Blumberg、S. D. Voss、A. T. Patel、M. J. Robertson、L. M. Nadler、とG. J. Freeman. 1998年. J. Immunol. 161: 2780〜2790頁;Schofield, J. N.、とT. W. Rademacher. 2000年. Biochim. Biophys. Acta. 1494: 189〜194頁)。CD160プライマーは以下の通りであった。5'-TGCAGGATGCTGTTGGAACCC-3'(順方向、配列番号1)および5'-CCTGTGCCCTGTTGCATTCTTG-3'(逆方向、配列番号2)。GPI-PLD1変異体1のcDNA増幅用のプライマー配列は、5'-ATGGATGGCGTGCCTGACCTGGCC-3(順方向、配列番号3)および5'-CAGCGGTGGCTGCAGGTCGGATGT-3'(逆方向、配列番号4)、ならびにGPI-PLD1変異体2については、5'-GTGTTGGACTTTAACGTGGACGGC-3'(順方向、配列番号5)および5'-CAGCAGAGGCTGCGCGTCAGATAT-3'(逆方向、配列番号6)であった。内部対照として、βアクチンcDNA増幅を並行して実施した。特異的cDNA断片の合成は、全容量20μlで標準的手順(Invitrogen)に従って、1μlの逆転写産物を使用して達成した。各試料を、35サイクルの変性(94℃、30秒)、アニーリング(60℃、30秒)、および伸長(72℃、90秒)の工程に付した。増幅産物は、1%アガロースゲルで分離した。
【0077】
可溶性CD160-Flagの産生および定量化
C末端Flag(DYKDDDK)タグ付き可溶性CD160(sCD160-Flag)をコードするcDNAを、以下のプライマーを用いて、CD160のアミノ酸1〜160に対応する配列のPCR増幅によって作製した:5'-TGCAGGATGCTGTTGGAACCC-3'(順方向、配列番号1)および5'-TCACTTGTCATCGTCGTCCTTGTAGTCGCCTGAACTGAGAGTGCCTTC-3'(Flag-逆方向、配列番号7)。精製後、得られたPCR産物をpcDNA3発現ベクター(Invitrogen)に連結し、構築物二本鎖の配列を決定した。
【0078】
COS7細胞を、DEAE-デキストラン法を使用してpcDNA3ベクターまたはsCD160-Flag発現ベクターで一過性にトランスフェクトし、次いでL-グルタミンおよび抗生物質を補充した無血清RPMI 1640培地で72時間培養した。可溶性CD100の定量化のために以前に実施されたように(Delaire, S.、C. Billard、R. Tordjman、A. Chedotal、A. Elhabazi、A. Bensussan、とL. Boumsell. 2001年. J. Immunol. 166: 4348〜4354頁)、細胞培養液中の産生されたsCD160-Flagタンパク質を検出するELISA法を開発した。簡単に述べると、抗Flag M2 mAb(5μg/ウェル)を、4℃で一夜、96ウェルプレート(MaxiSorp、Nunc、CliniSciences、Montrouge、France)中にコートした。すべてのその後の工程は、4℃で実施した。PBS/1%BSAで4時間飽和した後、トランスフェクトしたCOS7細胞のsCD160-Flag含有培地を2時間添加した。PBS/1%BSAでの徹底的に洗浄後、抗CD160(CL1-R2)-ビオチン化mAb(PBS/1%BSAで希釈した)を添加した。洗浄してストレプトアビジン-アルカリホスファターゼとともにインキュベーション後、ELIS用pNpp液体基質システム(pNpp liquid substrate system)(Sigma)を使用する顕色工程を実施した。暗所、室温で1時間インキュベーション後、プレートリーダー分光光度計(Packard、Downers Grove、IL)を使用して405nmの吸光度を測定した。精製sCD160-Flagタンパク質を使用して標準曲線を得た。この目的のために、sCD160-Flagを、プロテインG-セファロースビーズ結合CL1-R2 mAb(Amersham Biosciences、Orsay、France)を使用して、トランスフェクトしたCOS7培養液から免疫沈降し、2mM グリシン-HCl pH2.8で溶出した。中和後、アガロース結合抗Flag mAb(Sigma)を用いて第2の免疫沈降工程を実施した。sCD160-Flagを、2mM グリシン-HCl pH2.8で最終的に溶出した。溶出液を中和してPBS中へ透析を行ない、濃縮した(Centricon、Millipore、Bedford、MA)。次いでタンパク質濃度を、BSAの既知の量と比較する銀染色ゲル上で評価した。
【0079】
免疫沈降およびイムノブロッティング
トランスフェクトしたCOS7細胞由来の培養液(10ml)を、5μgの抗Flag M2 mAbとともに4℃で1時間30分間インキュベートし、免疫複合体を、20μlのプロテインG-セファロースビーズを用いて採取した。あるいは、2×107対照またはIL-15活性化PB-NKリンパ球を、10mlの血清を含まないRPMI 1640培地で24〜48時間培養した。培養上清を採取し、CL1-R2 mAb(1試験あたり10μg)とともにインキュベートした後、プロテインG-セファロースビーズが引き続いた。洗浄後、沈殿したタンパク質を、SDS-8%PAGEによって分離した。次いでタンパク質をニトロセルロースメンブレン上へ移し、抗CD160(CL1-R2、5μg/ml)または抗Flag M2(5μg/ml)mAbを使用するウエスタンブロット分析に付した。HRP結合ヤギ抗マウス抗体(Jackson Immunoresearch、Westgrove、PA)を、二次抗体として使用し、ECLキット(Amersham Biosciences)を用いて、免疫反応性タンパク質を可視化した。
【0080】
リンパ球媒介細胞障害性
リンパ球細胞障害性を、51Cr放出アッセイで試験した。標的細胞を37℃で90分間、100μCiのNa51CrO4で標識し、10%FCSを含むRPMI 1640培地で3回洗浄した。次いで標的細胞を37℃で1時間、V底96ウェルマイクロタイタープレート(Greiner、Essen、Germany)に播種した。必要に応じて、細胞を、pcDNA3またはsCD100-Flag発現ベクターでトランスフェクトしたCOS7細胞由来の培養液50μlを用いる予備的なインキュベーション工程に付した。次いでエフェクター細胞を、1ウェルあたり最終容量150μlで添加した。様々なE:T細胞比率で、103標的細胞におけるアッセイを3回反復して実施した。37℃で4時間培養後、プレートを遠心沈殿して、100μlの細胞上清を各ウェルから採取した。51Cr放出の測定を、ガンマカウンター(Packard)を使用して実施した。特異的細胞溶解のパーセンテージを、先に報告されたよう測定した(Maiza, H.、G. Leca、I. G. Mansur、V. Schiavon、L. Boumsell、とA. Bensussan. 1993年. J. Exp. Med. 178: 1121〜1126頁)。10%を超える最大レベルの細胞溶解を示す場合、細胞溶解は有意であるとみなした。
【0081】
細胞系、末梢血液細胞および組織
HMC-1マスト細胞系ならびにCos、JurkatおよびNK92細胞系を、10%ウシ胎仔血清(FCS)を補充したRPMI 1640で培養した。
【0082】
ヒト臍帯血(CB-MC)および末梢血液サイタフェレーシス由来のマスト細胞(C-MC)を、健常ドナー由来のCD34+前駆細胞から得た。簡単に述べると、末梢血液(サイタフェレーシス)由来のCD34+前駆細胞および臍帯血を、FCS、ウシ血清アルブミン、ヒト組換え型幹細胞因子および組換え型ヒトIL-6を補充したα最小必須培地からなるマスト細胞培養液中で培養した。10週間を超える培養後に、95%を超える細胞を、細胞の形態学的特徴によってMCとして同定した。
【0083】
末梢血液リンパ球、ナチュラルキラー細胞(PB-NK細胞)および好塩基球は、健常ドナーの末梢血液から単離した。簡単に述べると、末梢血液単核細胞(PBMC)を、lymphoprep(PAA Laboratories、Linz、Austria)の密度勾配遠心分離によって、ヘパリン処理した静脈血から単離した。PB-NK細胞および好塩基球を、製造業者の指示に従って、それぞれ磁気活性化細胞ソーター(magnetic-activated cell sorter)(MACS)NK細胞分離キットおよび好塩基球分離キット(Miltenyi Biotec、Auburn、CA)を使用して精製した。
【0084】
皮膚肥満細胞症(色素性じんま疹)を有する患者由来の皮膚バイオプシーを含むホルマリン固定パラフィン包埋皮膚および唾液組織試料を、本発明者らの施設の病理学部(hopital Henri Mondor、Creteil、France)のアーカイブファイルから取り出した。
【0085】
βアクチンおよびCD160 mRNAのRT-PCR増幅
全RNAを、細胞系および末梢血液由来細胞からの1〜5×106細胞から、Trizol試薬(Invitrogen、Cergy-Pontoise、France)およびクロロホルム/イソプロパノール沈殿を使用して抽出した。逆転写のために、全mRNA(5〜15μg)を、オリゴdTプライマーおよびPowerscript逆転写酵素(RT Clontech、Palo Alto、CA)を使用して逆転写した。
【0086】
PCR反応を、全cDNA1μgで実施した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を、CD160に対する以下のプライマーを使用して実施した:順方向(5'-TGCAGGATGCTGTTGGAACCC-3'、配列番号1)および逆方向(5'-CCTGTGCCCTGTTGCATTCTTC-3'、配列番号2)、2つの選択的スプライシングされたCD160の短い転写物および長い転写物由来の隣接する2つの339および665塩基対セグメント。陽性対照として使用したβアクチンに対するRT-PCRを、245塩基対セグメントの増幅を可能にする以前に報告されているプライマーを用いて実施した。
【0087】
ウェスタンブロッティング
HMC-1細胞由来の培養上清および細胞溶解物ならびにCB-MCおよびC-MC由来の上清を採取し、Tm60 mAb(1試験あたり10μg)と、その後プロテインG-セファロースビーズとともにインキュベートした。洗浄後、沈殿したタンパク質を、SDS-8%PAGEによって分離した。次いでタンパク質を、ニトロセルロースメンブレン上へ移し、抗CD160(CL1-R2)moAbを使用するウエスタンブロット分析に付し、特異的な83kDの免疫沈降物またはアイソタイプ対照moAbの検出を可能にした。本発明者らの研究室で抗CD160 Tm60 moAbを作製して産生し、精製腹水液として使用した。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウス抗体(Jackson Immunoresearch、Westgrove、USA)を、二次抗体として使用し、化学ルミネセンスキット(Amersham Biosciences)を使用して、免疫反応性タンパク質を可視化した。
【0088】
免疫組織化学
組織試料の免疫染色法手順ために、3マイクロメートル厚切片を、Superfrost plusスライド(CML、Angers、France)上に載せ、使用前にキシレンで脱パラフィン化した。HMC-1細胞の免疫染色法のために、Shandon cytospin 4 centrifuge(Thermo electron corporation、Waltham、MA)を使用する遠心分離によって、2×105細胞を、スーパーフロストプラススライドに塗布して、空気乾燥し、アセトンで固定した。CD160(CL1-R2)に対する一次moAbおよびマスト細胞トリプターゼ(Dako SA、Glostrup、Denmark)を、それぞれ1:50および1:100希釈で使用した。組織切片にmoAbを、クエン酸緩衝液中で再水和および熱による抗原賦活後に適用した。免疫染色法を、ペルオキシダーゼ結合ビオチン/アビジンシステム(Vectastain ABC-P kit from Vector、Burlingame、USA)を使用して実施した。ペルオキシダーゼ反応は、ジアミノベンジジン(Sigma-Aldrich、Saint Quentin Fallavier、France)で認められ、切片はヘマトキシリンでブルーに対比染色した。免疫蛍光染色のために、二次ビオチン化抗マウスIgG抗体およびフルオロイソチオシアネート結合ストレプトアビジンを使用した。
【0089】
結果
(CD160細胞膜発現は、IL-15で培養したPB-NKリンパ球では減少する)
最初の所見は、PMAで処理したNK細胞上でBY55/CD160細胞表面発現の減少を示していた(Maiza, H.、G. Leca、I. G. Mansur、V. Schiavon、L. Boumsell、とA. Bensussan. 1993年. J. Exp. Med. 178: 1121〜1126頁)。より最近では、本発明者らが、IL-2存在下で培養されたNKリンパ球は、未処理の細胞と比べた場合、抗CD160 mAbに対する細胞表面反応性の減少を示すことを報告した(Le Bouteiller, P.、A. Barakonyi、J. Giustiniani、F. Lenfant、A. Marie-Cardine、M. Aguerre-Girr、M. Rabot、I. Hilgert、F. Mami-Chouaib、J. Tabiasco、L. Boumsell、とA. Bensussan. 2002年. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 16963〜16968頁)。同様なCD160免疫標識化を、9/1比率でCD56ディム(dim)CD160+およびCD56ブライト(bright)CD160-リンパ球サブセットからなる高度に精製したPB-NK細胞上で実施した(図1A)。本発明者らは、IL-15を用いてこれらの細胞を短時間インキュベーションすると、フローサイトメトリー分析により認められるように、その細胞表面で抗CD160 mAb認識に大きな減少が生じることを観測した(図IB)。抗CD160抗体の両方、すなわち分子の相異なるエピトープに対するCL1-R2およびBY55は、IL-15活性化NKリンパ球に対するこれらの抗体の反応性を喪失した。興味深いことに本発明者らは、IL-15活性化CD56ディム(dim)NKリンパ球の細胞表面でCD160分子は検知されなくなるが、CD160転写物レベルは、これらの細胞中で変更されないで、非処理細胞で検出されるレベルと依然として同じであることを見出した(図1C、左パネル)。対照的に、これらのCD160-表現型と一致して、CD160 mRNA合成は、休止CD56ブライト(bright)NK細胞では検出されないが、IL-15とこの細胞をインキュベーションすると誘導される(図1C、右パネル)。
【0090】
膜結合CD160は、メタロプロテアーゼ依存性プロセスにより切断される
タンパク質分解性切断を介して媒介される可溶型での膜結合タンパク質の放出は、様々な分子に関して報告されてきた(McGeehan, G. M.、J. D. Becherer、R. C. Bast, Jr.、C. M. Boyer、B. Championら、1994年. Nature. 370: 558〜561頁; Salih, H. R.、H. G. Rammensee、とA. Steinle. 2002年. J. Immunol. 169: 4098〜4102頁)。したがって、同様のメカニズムが、活性化CD56ディム(dim)NKリンパ球の表面でGPIアンカーCD160の検出の減少に関与しうるかどうかを、本発明者らは調べた。PB-NKリンパ球をIL-15で刺激し、さらにホスホリパーゼC(PLC)タイプインヒビターU73122、またはGPI特異的ホスホリパーゼD(GPI-PLD)インヒビター1,10-フェナントロリン一水和物(1,10 PNT)の存在下でインキュベートした。次いで細胞を、フローサイトメトリー分析に付し、膜結合CD160を可視化した。図2Aに示す結果は、CD160細胞表面発現のIL-15誘導下方調節(down-modulation)は、U73122インヒビターの添加よって影響を受けないことを示した。対照的に、1,10 PNTが細胞培養液に添加される場合、これは部分的に損なわれる。GPIアンカー膜受容体の放出プロセスにおける、GPI-PLD1プロテアーゼの関与を報告する以前の研究(Metz, C. N.、G. Brunner、N. H. Choi-Muira、H. Nguyen、J. Gabrilove、I . W. Caras、N. Altszuler、D. B. Rifkin、E. L. Wilson、とM. A. Davitz. 1994. EMBO J. 13: 1741〜1751頁; Naghibalhossaini, F.、とP. Ebadi. P. 2006年. Cancer Lett. 234: 158〜167頁)とともに、この最初の観察から、本発明者らはPB-NKリンパ球でこの酵素の発現を調べることを企てた。GPI-PLD1の既知の変異体1および2(Schofield, J. N.、とT. W. Rademacher. 2000年. Biochim. Biophys. Acta. 1494: 189〜194頁)に対応するmRNA転写物の存在を、最初にRT-PCRにより評価した。健常者のPBMCから分離されたNK細胞で実施した代表的な実験の結果は、PB-NKサブセットのCD56ブライト(bright)も、CD56ディム(dim)も、GPI-PLD1変異体2に対する転写物を発現しないことを示している(図2B)。また循環中のPB-NKリンパ球は、GPI-PLD1変異体1転写物の合成を示さないが、変異体1および変異体2 mRNAの両方がPBMCおよび精製Tリンパ球中で検出されることに留意されたい(データは示さず)。重要な点は、本発明者らが、IL-15存在下で培養した場合、GPI-PLD1変異体2転写物合成が、CD56ブライト(bright)およびCD56ディム(dim)NKプールの両方で誘導されることを確認したことである(図2B)。これらのデータは、特異的抗PLD抗体を用いる免疫染色実験をすることにより、タンパク質レベルでさらに確認された。実際に本発明者らは、IL-15処理後、透過化処理した循環中のNKリンパ球中で、GPI-PLDタンパク質発現の誘導を観測した(図2C)。全体としてこれらの結果は、NK細胞細胞膜由来のCD160の消失は、GPI-PLD酵素の新合成と相関し、このZn2+依存性プロテアーゼは、膜結合CD160の切断および可溶型でのその放出に関与しうることを強く示唆することを示している。
【0091】
IL-15刺激PB-NX細胞の細胞外環境に放出された可溶性CD160(sCD160)分子の特徴づけ
活性化NKリンパ球による可溶性CD160のIL-15媒介放出を明確に証明するために、かつ分子レベルでより良好にこの可溶型を特徴づけるために、抗CD160免疫沈降物を、休止またはIL-15処理PB-NK細胞培養液から調製した。抗CD160 mAb CL1-R2を使用するウエスタンブロットによる免疫沈殿タンパク質の分析により、80kDaの見かけの分子量を有する特有なタンパク質バンドが検出される(図3)。抗CD160 mAb BY55を、YTおよびNKリンパ球全細胞溶解物の免疫沈降に使用した場合、同様の認識パターンが得られ(データは示さず)、したがってCD160の膜結合型および可溶型は、還元剤に耐性である同じ多量体構造を示すことを示唆している。重要な点は、タンパク質バンドは、非活性化PB-NKリンパ球の培養上清、または1,10 PNTインヒビターの存在下で培養したIL-15刺激細胞の培養上清からは免疫沈降しないことである(図3)。この後者の観察は、sCD160は、循環中のNKリンパ球により構成的に生産されていなくて、CD160タンパク質分解性切断のホスホリパーゼ依存性を裏付けるものであることを示している。
【0092】
sCD160-Flag融合タンパク質は、MHCクラスI分子に結合し、細胞障害性リンパ球の活性を阻害する
sCD160の機能的役割を調べるために、本発明者らは、C末端Flagタグ付き可溶性CD160タンパク質(sCD160-Flag)をコードする発現ベクターを作製した。この融合タンパク質は、一過性にトランスフェクトしたCOS7細胞で発現した場合、抗CD160 mAbイムノブロッティングにより、80kDaのポリペプチドとしてその検出によって示されているように、IL-15処理PB-NK培養上清から沈降したsCD160分子と同じ多量体構造を示す(図4A)。HLA-Cw3発現721.221細胞で、sCD160-Flag結合アッセイを実施することにより、本発明者らは、sCD160-Flagタンパク質は、組換え型タンパク質の5μg/mlの濃度において観測される最大結合で、MHC-クラスI分子と効率的に相互作用することを立証している(図4B)。重要なことには、sCD160-Flagの同様の濃度、またはより高い濃度を使用して、親細胞系221を有意に標識することができなく、検出された相互作用の特異性を推測することができていない。
【0093】
MHCクラスI分子と相互作用するsCD160分子の能力により、この関連がMHCクラスI拘束性細胞障害性Tリンパ球(CTL)活性に機能的に影響を与えることができるかどうかを、本発明者らは検討した。したがって、HLA-A11拘束性ヒト細胞障害性T細胞クローンJF1(David, V.、J-F., Bourge、P. Guglielmi、D. Mathieu-Mahul、L. Degos、とA. Bensussan. 1987年. J. Immunol. 138: 2831〜2836頁)の細胞溶解活性について、特異的HLA-A11 EBV形質転換B細胞系に対して試験した。標的細胞を、エンプティ発現ベクター(対照)またはsCD160-Flagコーディング構築物のいずれかでトランスフェクトしたCOS7細胞から得た培養上清とともにプレインキュベートした。図4C(左パネル)に示す代表的な実験は、sCD160は、JF1クローンにより発揮された特異的CTL活性を部分的に阻害することを明らかにした。観測された阻害レベルは、試験したすべてのエフェクター/標的細胞比率に対して決して25〜30%を超えなかった。さらにまた、sCD160-Flagのより高い濃度(>5μg/ml)を用いる標的細胞のインキュベーションでは、より高い阻害レベルが検出される結果にはならなくて、1μg/ml未満のsCD160-Flagを使用した場合、ほとんど阻害は得られなかった(データは示さず)。重要な点は、6日目の同種異系混合リンパ球培養から単離されたCD8+ CTLが、エフェクター細胞として使用される場合、細胞障害性のsCD160誘導阻害も観測されることである(図4C、右パネル)。このことは、細胞溶解活性のsCD160媒介下方調節(down-modulation)は、細胞障害性T細胞クローンに限定されないで、同種異系刺激Tリンパ球にも有効でありうることを示唆している。
【0094】
本発明者らは既に、新たに単離したPB-NKリンパ球(有意量のCD160を発現した、図1Bを参照)によるK562細胞の細胞溶解は、CD160/HLA-C相互作用に部分的に依存していることを報告した(Barakonyi, A., M. Rabot、A. Marie-Cardine、M. Aguerre-Girr、B. Polgar、V. Schiavon、A. Bensussan、とP. Le Bouteiller. 2004年. J. Immunol. 173: 5349〜5354頁)。さらに、K562 NKリンパ球感受性標的細胞は、抗MHC-I mAb W6/32を使用するフローサイトメトリー分析によって示されるように、少量のMHCクラスI分子を発現した(図5A、左パネル)。本発明者らは、HLA-Cw3としてこれらのNK細胞標的によって発現されるMHC-I分子を最近同定したことに留意されたい(Barakonyi, A.、M. Rabot、A. Marie-Cardine、M. Aguerre-Girr、B. Polgar、V. Schiavon, A. Bensussan、とP. Le Bouteiller. 2004年. J. Immunol. 173: 5349〜5354頁)。本発明者らはさらに、sCD160-Flagタンパク質は、K562細胞によって発現されるHLA‐C分子に結合することを立証している(図5A、右パネル)。したがって、K562細胞に対するPB-NKリンパ球細胞障害性の有意な阻害が観測される(図5B)。他の箇所で報告されるように、抗CD160 mAb CL1-R2の添加(図5B)、または抗MHC-I mAb W6/32の添加(データは示さず)により、K562細胞に対するPB-NK細胞媒介細胞障害性が同様に損なわれる。これらのデータは、MHCクラスI分子へのsCD160の結合により、細胞障害性エフェクター細胞による標的細胞の認識が損なわれ、したがってこれらの細胞の細胞溶解活性が減少することを示している。
【0095】
T細胞によって、またはマスト細胞によって放出される可溶性CD160(sCD16O)分子の特徴づけ
Nikolovaらは、CD160細胞膜発現は、数時間活性化されたリンパ球で下方調節されることを示した(Nikolovaら、Int Immunol. 2002年 May;14(5):445〜51頁)。したがって、これらの活性化細胞の培養上清を、可溶性CD160の存在について評価した。可溶性CD160が検出され、活性化T細胞は可溶性CD160を産生することでできることが示された(データは示さず)。
【0096】
CD160を発現し、可溶性CD160を産生するマスト細胞の能力も評価した(図6)。
【0097】
(HMC-1および健常ドナー由来の末梢好塩基球におけるCD160のRT-PCR)
RT-PCRは、標準的な方法ならびにβアクチンおよびCD160に対する特異的プライマーを使用して実施した。細胞系および末梢白血球由来のmRNAは、Trizol試薬技術を使用して精製した。HMC-1細胞(マスト細胞系)および健常ドナー由来の末梢好塩基球は、2つの選択的スプライシングされたそれぞれ339および665塩基対の短い転写物ならびに長い転写物を有する、CD160 mRNAの発現を示す。同様の発現が、健常ドナー由来のPBLおよびNK細胞ならびにNK92細胞に認められる。陰性対照としての、CosおよびJurkat細胞はCD160発現を示さない。
【0098】
ヒトマスト細胞培養上清におけるCD160免疫沈降
CD160免疫沈降を、HMC-1細胞溶解物および上清、ならびに臍帯血(CB-MC)または健常ドナーのサイタフェレーシス(C-MC)に由来するCD34+多能性前駆細胞由来の培養で増殖したヒトマスト細胞の上清で実施した。タンパク質を分離後、Tm60モノクローナル抗体(CL1-R2)および西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体を使用する、イムノブロッティングを実施した。特異的83kDの免疫沈降物が、HMC-1細胞およびヒトマスト細胞に由来するCD34+前駆体細胞の両方の上清に認められ、これらの細胞は可溶性CD160を産生することを示している。
【0099】
正常組織および皮膚肥満細胞症由来のヒトマスト細胞ならびにHMC-1によるCD160の免疫組織化学的発現
CD160およびマスト細胞トリプターゼの標準的な免疫組織化学的検出を、Tm60モノクローナル抗体(CL1-R2)(A、C、E)および(B、D、F)を使用する、アビジンビオチン-ペルオキシダーゼ技術を用いて実施した。免疫蛍光試験のために、二次ビオチン化抗マウスIgG抗体およびフルオロイソチオシアネート結合ストレプトアビジンを使用した(G、H)。正常な皮膚および副唾液腺パラフィン包埋組織切片において、マスト細胞は抗CD160モノクローナル抗体での強く染色される(A、C、矢印)。皮膚において、マスト細胞は真皮乳頭層中および中層および深層真皮の皮膚毛細血管周辺に存在する(A)。唾液腺において、マスト細胞は唾液腺管および腺房周辺に見られる(C)。皮膚および唾液腺の両方において、マスト細胞は、形態学的におよびマスト細胞トリプターゼの発現によって特徴づけられる(B、D)。HMC-1細胞は、特に細胞質顆粒中で(E)、ならびにマスト細胞トリプターゼ(F)中でCD160を強く発現する。免疫蛍光試験を使用して、皮膚肥満細胞症由来のマスト細胞(G)およびHMC-1細胞(H)は、CD160の強い顆粒性の発現を示す(矢印)。
(倍率:A、B、C、D、E、F×200;G、H:×400)
【図2C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶型CD160を含む医薬組成物。
【請求項2】
少なくとも1つの許容可能な担体をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
経口、直腸、経鼻、局所または非経口投与に、好ましくは非経口投与に適した、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
組織移植片または臓器拒絶反応、および自己免疫疾患などの望ましくない免疫応答が関与する炎症状態を治療するための、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
心臓、腎臓および肝臓拒絶反応などの臓器拒絶反応を治療するための、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、乾癬、多発性硬化症、糖尿病、狼瘡および炎症性腸疾患などの炎症性疾患を治療するための、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
組織移植片または臓器拒絶反応および自己免疫疾患などの炎症状態を治療する医薬組成物を調製するための可溶型CD160の使用。
【請求項8】
心臓、腎臓および肝臓拒絶反応などの臓器拒絶反応を治療するための、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、乾癬、多発性硬化症、糖尿病、狼瘡および炎症性腸疾患などの炎症性疾患を治療するための、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
炎症状態を治療するために、少なくとも1つの免疫抑制剤と組み合わせた、請求項7から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記免疫抑制剤が、サイクロスポリンA、FK506、ラパマイシン、グルココルチコステロイド(最も好ましくはプレドニゾンまたはメチルプレドニゾロン)などのステロイド、メトトレキセート、アザチオプリンなどの細胞増殖抑止剤、およびOKT3または抗TNFなどのモノクローナル抗体である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物および少なくとも1つの免疫抑制剤を含む、組織移植片または臓器拒絶反応および自己免疫疾患などの炎症状態を治療するためのキット。
【請求項13】
感染性および自己免疫疾患、組織移植片および臓器拒絶反応などの炎症状態の存在、または腫瘍もしくは活性化された内皮細胞の存在に関して個体をスクリーニングするためのin vitroでの方法であって、可溶性CD160をマーカーとして使用する方法。
【請求項14】
自己免疫障害や組織もしくは臓器拒絶反応などの炎症状態の療法をモニターし、または抗血管新生物質もしくは抗体を用いる治療を含む化学療法の間の腫瘍の存在をモニターするための方法であって、可溶性CD160をマーカーとして使用する方法。
【請求項15】
前記個体由来の生体試料中の可溶性CD160のレベルを検出する工程と、前記試料中の可溶性CD160のレベルを、対照集団由来の可溶性CD160のレベルと比較する工程とを含み、可溶性CD160レベルの増加が、感染性および自己免疫性状態などの炎症状態の指標、組織移植片もしくは臓器拒絶反応の指標または前記個体内の腫瘍もしくは活性化された内皮細胞の存在の指標となる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記炎症状態に対する治療、または抗血管新生物質もしくは抗体を用いる治療を含む化学療法を受けている個体由来の生体試料中の可溶性CD160のレベルを検出する工程と、前記試料中の可溶性CD160のレベルを、前記個体中に存在する可溶性CD160のベースラインレベルと比較する段階とを含み、ベースラインレベルに対する可溶性CD160レベルの減少が、治療に対する陽性応答の指標となる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記臓器拒絶反応が心臓、腎臓または肝臓拒絶反応を含む、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記炎症性疾患が、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、乾癬、多発性硬化症、糖尿病、狼瘡および炎症性腸疾患を含む、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記生体試料が、血清、血漿、尿、脳脊髄液、関節滑液、腹水または羊水を含む、請求項13から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
生体試料を、可溶性CD160に結合するリガンドと接触させる工程と、
前記リガンドに対する可溶性CD160の結合を検出する工程と
を含む、請求項13から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記リガンドが、可溶性CD160に結合する抗体あるいは古典的もしくは非古典的MHCクラスI分子またはCD1分子などのCD160受容体の1つを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
可溶性CD160のレベルが、モノクローナル抗体を使用して検出される、請求項13から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
可溶性CD160のレベルが、捕捉抗体および検出抗体を使用して検出され、前記検出抗体が標識を含む、請求項13から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記捕捉抗体が、固体基質に結合している、請求項13から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記固体基質が、ビーズまたはマイクロタイタープレートを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
可溶性CD160に対して特異的結合親和性を有する少なくとも1つのリガンドであって、抗体または古典的もしくは非古典的なMHCクラスI分子またはCD1分子を含むリガンドと、および
二次抗体などの試薬と
を含むキット。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−544596(P2009−544596A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519982(P2009−519982)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057447
【国際公開番号】WO2008/009711
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(507002516)アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル) (4)
【Fターム(参考)】