説明

免震構造、免震構造の設計方法、及び建築物

【課題】地震等により構造物に生じる揺れを低減する低コストの免震構造、この免震構造の設計方法、及びこの免震構造を有する建築物を提供する。
【解決手段】免震構造24は、免震支承20とセミアクティブダンパー22とを有している。セミアクティブダンパー22は、セミアクティブダンパー22の正負のストローク変位量δ、定数α、ストローク速度δ’に基づいて、上部構造物16にF又は−Fの抵抗力を付与可能な状態にする。よって、セミアクティブダンパー22は、ストローク変位量δが大きいときにはバネとして機能し、ストローク速度δ’が大きいときにはダンパーとして機能する。これにより、免震層18に生じる変形及び残留変形を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等により構造物に生じる揺れを低減する免震構造、この免震構造の設計方法、及びこの免震構造を有する建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
免震構造物の免震層に生じる地震時の変形や地震後の残留変形を小さくするために、アクチュエータによって免震構造物に生じる揺れを抑制するアクティブ免震構造が提案されている。
【0003】
図10に示すように、引用文献1のアクティブ免震装置は、免震支承としてのリニアスライダー300によって免震構造物302が地盤304上に支持されている。また、このリニアスライダー300が配置されている免震層には、ダンパー306、アクチュエータ308、及び復元バネ310が設けられている。そして、アクチュエータ308を駆動制御することによって、地震等により免震層に発生する変形を小さくする。
【0004】
しかし、引用文献1のアクティブ免震装置において、免震層に生じる地震時の変形や地震後の残留変形をより小さくしようとする場合、アクチュエータ308により作用させる制御力は大きなものとなる。このため、アクチュエータ308の大型化を図ったり、多くのアクチュエータ308を設置したりしなければならないので、設備コストが高くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−73621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る事実を考慮し、地震等により構造物に生じる揺れを低減する低コストの免震構造、この免震構造の設計方法、及びこの免震構造を有する建築物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、下部構造物の上に上部構造物を支持すると共に前記下部構造物に対する前記上部構造物の相対移動を可能とする免震支承と、抵抗力Fを生じさせて前記上部構造物に発生する振動を減衰するセミアクティブダンパーと、を有し、前記セミアクティブダンパーの正負のストローク変位量をδ、定数をα、前記δを時間微分したストローク速度をδ’とすると、式(1)によって求められるSが正となったときに前記上部構造物に−Fを付与可能な状態にし、式(1)によって求められるSが負となったときに前記上部構造物にFを付与可能な状態にする。
【0008】
【数1】

請求項1に記載の発明では、免震構造が、免震支承とセミアクティブダンパーとを有している。
免震支承は、下部構造物に対する上部構造物の相対移動を可能とするように、下部構造物の上に上部構造物を支持している。
セミアクティブダンパーは、抵抗力Fを生じさせて上部構造物に発生する振動を減衰する。
【0009】
ここで、セミアクティブダンパーの正負のストローク変位量をδ、定数をα、δを時間微分したストローク速度をδ’とし、式(1)によってSを求める。
そして、式(1)によって求められるSが正となったときに上部構造物に−Fを付与可能な状態にし、式(1)によって求められるSが負となったときに上部構造物にFを付与可能な状態にする。
【0010】
よって、セミアクティブダンパーは、Sの符号と反対方向に抵抗力Fを生じさせることにより、ストローク変位量δが大きいときにはバネとして機能し、ストローク速度δ’が大きいときにはダンパーとして機能する。
これにより、地震等により下部構造物と上部構造物との間の免震層に生じる変形及び残留変形を低減することができる。
【0011】
また、上部構造物の揺れの大きさに関係なく一定の抵抗力Fをセミアクティブダンパーに生じさせる簡単な振動制御によって、免震効果を発揮させることができる。
また、セミアクティブダンパーは、油圧式のアクチュエータのように油圧ポンプ等の付帯設備を必要としないので、低コスト化を図ることができる。
そして、これらにより、低コストの免震構造で、地震等により構造物に生じる揺れを低減することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、制御力Pの出力により前記上部構造物に発生する振動を制御するアクチュエータを有し、前記アクチュエータの正負のストローク変位量をδ、定数をα、前記δを時間微分したストローク速度をδ’とすると、前記式(1)によって求められるSが正となったときに前記上部構造物に−Pを作用させ、前記式(1)によって求められるSが負となったときに前記上部構造物にPを作用させる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、免震構造が、アクチュエータを有している。
アクチュエータは、制御力Pの出力により上部構造物に発生する振動を制御する。
【0014】
ここで、アクチュエータの正負のストローク変位量をδ、定数をα、δを時間微分したストローク速度をδ’とし、式(1)によってSを求める。
そして、式(1)によって求められるSが正となったときに上部構造物に−Pを作用させ、式(1)によって求められるSが負となったときに上部構造物にPを作用させる。
【0015】
よって、Sの正負に基づいて一定の力を付与するセミアクティブダンパーと、Sの正負に基づいて一定の力を作用させるアクチュエータとは互換可能である。
これにより、このような制御則のセミアクティブダンパーとアクチュエータとが複数配置された免震構造において、セミアクティブダンパーとアクチュエータとの数の割合が免震効果に大きく影響されない。
【0016】
例えば、抵抗力Fと制御力Pとが同じ大きさのセミアクティブダンパーとアクチュエータとが複数配置された免震構造は、これらのセミアクティブダンパーとアクチュエータとを合わせた数と同数のアクチュエータのみを配置した免震構造とほぼ同等の効果が得られる。
【0017】
また、アクチュエータの数に対するセミアクティブダンパーの数の割合を大きくすれば、より低コストの免震構造を構築することができ、セミアクティブダンパーの数に対するアクチュエータの数の割合を大きくすれば、免震層の残留変形が0となる可能性が高まり、より免震効果を向上させることができる。
【0018】
そして、セミアクティブダンパーの数とアクチュエータの数とを最適に組み合わせることにより、効果的な免震効果(免震層の変位やせん断力などの応答低減、残留変形低減)を発揮させることができると共に低コスト化を図ることが可能となる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、前記免震支承は、前記下部構造物の上面に取り付けられた下滑り部材と、前記上部構造物の下面に取り付けられ前記下滑り部材の上に支持される上滑り部材と、を有すると共に、前記下滑り部材と前記上滑り部材との間に生じる摩擦力よりも大きな水平力が前記上部構造物に作用したときに、前記下滑り部材と前記上滑り部材との間に滑りを生じさせて前記下部構造物に対して前記上部構造物を相対移動させる滑り装置である。
【0020】
請求項3に記載の発明では、免震支承が、下部構造物の上面に取り付けられた下滑り部材と、この下滑り部材の上に支持される上滑り部材とを有する滑り装置となっている。上滑り部材は、上部構造物の下面に取り付けられている。
【0021】
この滑り装置は、下滑り部材と上滑り部材との間に生じる摩擦力よりも大きな水平力が上部構造物に作用したときに、下滑り部材と上滑り部材との間に滑りを生じさせる。そして、これにより、下部構造物に対して上部構造物を相対移動させる。
よって、下滑り部材と上滑り部材との間に生じさせる摩擦力の設定によって、地震等により上部構造物に発生する振動加速度を変えることができる。
【0022】
請求項4に記載の発明は、前記滑り装置は、直動転がり支承である。
【0023】
請求項4に記載の発明では、滑り装置を直動転がり支承とすることにより、下滑り部材に対して上滑り部材が相対移動するときの抵抗力(下滑り部材と上滑り部材との間に生じる摩擦力)を小さくできるので、免震効果(上部構造物に発生する揺れを低減する効果)の高い免震構造を構築することができる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、前記アクチュエータの制御力Pは、前記下滑り部材と前記上滑り部材との間に生じる摩擦力よりも大きい。
【0025】
請求項5に記載の発明では、アクチュエータの制御力Pを、下滑り部材と上滑り部材との間に生じる摩擦力よりも大きくすることにより、免震層に生じる残留変形を確実に低減することができる。
【0026】
請求項6に記載の発明は、前記セミアクティブダンパーは、前記上部構造物に発生する振動を制御する力を出力するアクティブダンパーとして機能させることが可能である。
【0027】
請求項6に記載の発明では、セミアクティブダンパーを、必要に応じて、ストローク変位に抵抗する本来のセミアクティブダンパーとして機能させたり、又は上部構造物に発生する振動を制御する力を出力するアクティブダンパーとして機能させたりすることができる。
【0028】
セミアクティブダンパーは、ストローク変位に対して油圧抵抗や摩擦抵抗等によって受動的に抵抗力を生じさせるので、油圧式のアクティブダンパーのポンプ等のような、エネルギーをアクティブダンパーに入力する付帯設備を必要としない。すなわち、低コスト化を図ることができる。これに対して、アクティブダンパーは任意のストローク方向へ力を作用させることができるので、上部構造物に発生する振動を効果的に制御することができる。
【0029】
よって、例えば、複数のセミアクティブダンパーを免震層に設けた場合に、本来のセミアクティブダンパーとして機能させるセミアクティブダンパーの数と、アクティブダンパーとして機能させるセミアクティブダンパーの数とを最適に組み合わせることにより、効果的な免震効果(免震層の変位やせん断力などの応答低減、残留変形低減)を発揮させることができると共に低コスト化を図ることが可能となる。
【0030】
また、建築物の増改築や用途変更に伴う建築物の重量や免震層の剛性の変化等に対応して、免震設備の少ない変更で最適なセミアクティブダンパーとアクティブダンパーとの配置を実現でき、効果的な免震効果を発揮することができる。
【0031】
請求項7に記載の発明は、請求項3〜5の何れか1項に記載の免震構造の設計方法において、前記セミアクティブダンパーの抵抗力Fと、前記アクチュエータの制御力Pと、前記下滑り部材と前記上滑り部材との間に生じる摩擦力との合計を前記上部構造物の重量で除した値が、前記上部構造物の設計加速度を980cm/sで除した値となるように、前記抵抗力F、前記制御力P、及び前記摩擦力を設定する免震構造の設計方法である。
【0032】
請求項7に記載の発明では、セミアクティブダンパーの抵抗力Fと、アクチュエータの制御力Pと、下滑り部材と上滑り部材との間に生じる摩擦力とを合計する。そして、この合計した値を上部構造物の重量で除した値が上部構造物の設計加速度を980cm/sで除した値となるように、抵抗力F、制御力P、及び摩擦力を設定することにより免震構造の設計を行う。
よって、上部構造物に揺れが発生したときにこの上部構造物に発生する加速度を設計加速度とすることができる。
【0033】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜6の何れか1項に記載の免震構造を有する建築物である。
【0034】
請求項8に記載の発明では、地震等により上部構造物に生じる揺れを低減する低コストの免震構造を有する建築物を構築することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明は上記構成としたので、地震等により構造物に生じる揺れを低減する低コストの免震構造、この免震構造の設計方法、及びこの免震構造を有する建築物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るセミアクティブダンパーを示す説明図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るアクチュエータを示す説明図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係るセミアクティブダンパーを示す説明図である。
【図7】本発明の実施例に係る建築物を示す立面図である。
【図8】本発明の実施例に係る建築物を示す立面図である。
【図9】本発明の実施例に係るアクチュエータの制御力を示す線図である。
【図10】従来のアクティブ免震装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図を参照しながら、本発明の免震構造、免震構造の設計方法、及び建築物を説明する。なお、本実施形態では、鉄筋コンクリート造の建築物に本発明を適用した例を示すが、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、CFT造(Concrete-Filled Steel Tube:充填形鋼管コンクリート構造)、それらの混合構造など、さまざまな構造や規模の建築物に対して適用することができる。
【0038】
また、本実施形態を説明する図において、装置を区別し易くするために、セミアクティブダンパーには「SA」、アクチュエータには「A]、アクティブダンパーとして機能させることが可能なセミアクティブダンパーには「A/SA」の文字が付されている。
【0039】
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0040】
図1の立面図に示すように、建築物10は、地盤12上に設けられた下部構造物としての鉄筋コンクリート造の基礎14と、上部構造物としての鉄筋コンクリート造の上部建物16とを有している。
【0041】
基礎14と上部建物16との間の基礎免震層18には、基礎14上に上部建物16を支持する免震支承としての直動転がり支承20が設置されている。また、基礎免震層18には、一方の端部が上部建物16の下部に接続され、他方の端部が基礎14の上部に接続されたセミアクティブダンパー22が設けられている。すなわち、建築物10の基礎免震層18には、直動転がり支承20とセミアクティブダンパー22とを有する免震構造24が構築されている。なお、直動転がり支承には、いわゆるリニアスライダーが含まれる。
【0042】
直動転がり支承20は、基礎14の上面に固定された支持台26の上部に取り付けられた下滑り部材としてのレール28と、レール28に支持されてこのレール28上を滑る上滑り部材としての移動ブロック30とを有する滑り装置となっている。
【0043】
移動ブロック30にはベアリング(不図示)が内蔵されており、このベアリングを介してレール28上を移動ブロック30が滑る機構になっているので、レール28と移動ブロック30(ベアリング)との間に生じる摩擦力は小さくなっている。
【0044】
このような構成により、直動転がり支承20は、レール28と移動ブロック30との間に生じる摩擦力よりも大きな水平力が上部建物16に作用したときに、レール28と移動ブロック30との間に滑りを生じさせる。これによって、直動転がり支承20は、基礎14の上に上部建物16を支持しながら、基礎14に対して上部建物16を相対移動させる。
【0045】
セミアクティブダンパー22では、図2に示すように、シリンダー32内に配置されたピストン34によって、シリンダー32内部が、シリンダー32の左側に位置する部屋36とシリンダー32の右側に位置する部屋38とに分けられている。ピストン34は、このピストン34に端部が接続されたロッド40、42と連動してシリンダー32の軸方向に移動する。
【0046】
部屋36、38には、オイルが充填されている。そして、シリンダー32には、このオイルが出入りする出入口44、46が設けられている。また、出入口44に接続された油圧管48と、出入口46に接続された油圧管50とは、サーボ弁52を介して接続されている。
【0047】
これによって、ロッド40、42と連動するピストン34の移動に伴って、部屋36又は部屋38から排出されたオイルが油圧管48、50を通って部屋38又は部屋36に流入する。例えば、図2において、ピストン34が左に移動した場合には、部屋36内のオイルが出入口44から油圧管48へ排出され、油圧管48、サーボ弁52、油圧管50の順に流れて、出入口46から部屋38内へ流入される。
そして、このときのオイルの流れ抵抗がセミアクティブダンパー22に生じる抵抗力Fとなる。
【0048】
また、サーボ弁52の弁の開口面積(サーボ弁52内を流れるオイルの流路の大きさ)を変更することによってオイルの流れ抵抗を変え、これによって、セミアクティブダンパー22に生じる抵抗力Fを調整することができる。
【0049】
ここで、セミアクティブダンパー22の正負のストローク変位量をδ、定数をα、δを時間微分したストローク速度をδ’とし、式(1)によってSを求める。
【0050】
【数2】

そして、式(1)によって求められるSが正となったときに上部建物16に−Fを付与可能な状態にし、式(1)によって求められるSが負となったときに上部建物16にFを付与可能な状態にする。
【0051】
ここで、Sの正負とFの正負の関係について詳しく説明する。説明をわかり易くするために定数α=0として考える。
例えば、図1において、上部建物16が右方向へ移動したときのセミアクティブダンパー22のストローク変位の方向を正とする。
【0052】
上部建物16が右方向へ移動した場合、S=+δよりSは正となるので、セミアクティブダンパー22を、上部建物16の移動方向(右方向)と反対方向(左方向)の抵抗力−Fを上部建物16へ付与させることが可能な状態にする。
【0053】
また、上部建物16が左方向へ移動した場合、S=−δよりSは負となるので、セミアクティブダンパー22を、上部建物16の移動方向(左方向)と反対方向(右方向)の抵抗力+Fを上部建物16へ付与させることが可能な状態にする。
【0054】
なお、図2は、セミアクティブダンパー22の原理を説明するために示したモデル図であり、説明の都合上、図2で示したロッド40が図1では省略されている。図1では、図2で示したシリンダー32の左側の端部が上部建物16の下部に接続され、ロッド42の右側の端部が基礎14の上部に接続されていることになる。
【0055】
次に、本発明の第1の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0056】
図1に示すように、地震等により上部建物16が揺れ、基礎14に対して上部建物16が相対移動すると、セミアクティブダンパー22のシリンダー32が上部建物16と連動して移動する。このとき、シリンダー32とロッド40、42(ピストン34)とは相対移動するので、セミアクティブダンパー22に抵抗力が生じる。
【0057】
また、セミアクティブダンパー22は、式(1)によって求められるSが正となったときに上部建物16に−Fの抵抗力を付与可能な状態にし、式(1)によって求められるSが負となったときに上部建物16に+Fの抵抗力を付与可能な状態にし、これらの抵抗力によって、上部建物16に発生する振動を減衰する。
【0058】
よって、セミアクティブダンパー22は、式(1)によって求められるSの符号と反対方向に抵抗力Fを生じさせることにより、セミアクティブダンパー22のストローク変位量δが大きいときにはバネとして機能し、セミアクティブダンパー22のストローク速度δ’が大きいときにはダンパーとして機能する。
これにより、地震等により基礎14と上部建物16との間の基礎免震層18に生じる変形及び残留変形を低減することができる。
【0059】
また、上部建物16の揺れの大きさに関係なく一定の抵抗力Fをセミアクティブダンパー22に生じさせる簡単な振動制御によって、免震効果を発揮させることができる。
また、セミアクティブダンパー22は、油圧式のアクチュエータのように油圧ポンプ等の付帯設備を必要としないので、低コスト化を図ることができる。
そして、これらにより、低コストの免震構造24で、地震等により上部建物16に生じる揺れを低減することができる。
【0060】
また、滑り装置(直動転がり支承20)により、基礎14上に上部建物16を支持しているので、下滑り部材(レール28)と上滑り部材(移動ブロック30)との間に生じさせる摩擦力の設定によって、地震等により上部建物16に発生する振動加速度を変えることができる。
【0061】
また、滑り装置を直動転がり支承20とすることにより、レール28に対して移動ブロック30が相対移動するときの抵抗力(レール28と移動ブロック30との間に生じる摩擦力)を小さくできるので、免震効果(上部建物16に発生する揺れを低減する効果)の高い免震構造24を構築することができる。
【0062】
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
【0063】
なお、一般的なアクチュエータは、任意のストローク方向に力(制御力)を発生させることができるが、第1の実施形態のセミアクティブダンパー22は、減衰方向(ストローク変位量の増分方向と反対の方向)にしか力(抵抗力)を発生させられない。
【0064】
すなわち、セミアクティブダンパー22は、抵抗力を発生させる方向と反対方向へ上部建物16が移動したときにだけ上部建物16に抵抗力を作用させるものなので、抵抗力を発生させる方向と同じ方向へ上部建物16が移動したときに上部建物16に抵抗力を作用させることができない。
しかし、上部建物16に抵抗力を作用させることができないこのような状況が起こる頻度は少ないので十分な免震効果が得られる。
【0065】
また、第1の実施形態では、セミアクティブダンパーを油圧式のセミアクティブダンパー22とした例を示したが、セミアクティブダンパーは、このセミアクティブダンパーのストローク変位量の増分方向(ストローク速度方向)と反対の方向へ抵抗力を作用させることができこの抵抗力を所定の値に変更できる装置であればよく、オイルを送る流路に設けられたオリフィスの面積を変えたり、流路に設けられた弁を切換えたりすることによって抵抗力を変更する方式のオイルダンパーや、摩擦板への押し付け力を変化させて抵抗力を変更する方式の摩擦ダンパー等のセミアクティブダンパーとしてもよい。
【0066】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0067】
第2の実施形態は、第1の実施形態の基礎免震層18に、セミアクティブダンパー22と併設してアクチュエータを設けたものである。したがって、第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0068】
図3の立面図に示すように、基礎免震層18には、一方の端部が上部建物16の下部に接続され、他方の端部が基礎14の上部に接続されたアクチュエータ54が設けられている。すなわち、建築物10の基礎免震層18には、直動転がり支承20とセミアクティブダンパー22とアクチュエータ54とを有する免震構造56が構築されている。
【0069】
アクチュエータ54では、図4に示すように、シリンダー58内に配置されたピストン60によって、シリンダー58内部が、シリンダー58の左側に位置する部屋62とシリンダー58の右側に位置する部屋64とに分けられている。ピストン60は、このピストン60に端部が接続されたロッド66と連動してシリンダー58の軸方向に移動する。
【0070】
部屋62、64には、オイルが充填されている。そして、シリンダー58には、このオイルが出入りする出入口68、70が設けられている。また、出入口68に接続された油圧管72と、出入口70に接続された油圧管74とは、サーボ弁76を介して接続されている。また、サーボ弁76に接続され環状に配設された油圧管78にはオイルタンク80と油圧ポンプ82とが接続されており、油圧ポンプ82の作動により、オイルタンク80のオイルがサーボ弁76に供給される。
【0071】
そして、サーボ弁76の切り換えによって、部屋62又は部屋64からオイルを排出し、部屋64又は部屋62へオイルを流入する。そして、部屋62と部屋64との圧力差によってピストン60を移動させる。
【0072】
例えば、図4において、ピストン60を左に移動させる場合には、部屋62内のオイルを出入口68から油圧管72へ排出させると共に、部屋62から排出させる量のオイルがサーボ弁76から油圧管74へ送り込まれ、出入口70から部屋64内へ流入される。
【0073】
そして、このときの部屋62と部屋64との圧力差によってピストン60が移動し、このピストン60を移動させる力がアクチュエータ54から出力される制御力Pとなり、この制御力Pの出力により上部建物16に発生する振動を制御する。
【0074】
ここで、アクチュエータ54の正負のストローク変位量をδ、定数をα、δを時間微分したストローク速度をδ’とし、第1の実施形態で示した式(1)によってSを求める。
そして、式(1)によって求められるSが正となったときに上部建物16に−Pを作用させ、式(1)によって求められるSが負となったときに上部建物16にPを作用させる。
Sの正負とPの正負の関係については、第1の実施形態で説明した、Sの正負とFの正負との関係と同様である。
【0075】
例えば、図3において、上部建物16が右方向へ移動したときのアクチュエータ54のストローク変位の方向を正とする。
上部建物16が右方向へ移動した場合、S=+δよりSは正となるので、上部建物16の移動方向(右方向)と反対方向(左方向)の制御力−Pをアクチュエータ54から上部建物16に作用させる。
【0076】
また、上部建物16が左方向へ移動した場合、S=−δよりSは負となるので、上部建物16の移動方向(左方向)と反対方向(右方向)の制御力+Pをアクチュエータ54から上部建物16に作用させる。
【0077】
なお、図4は、アクチュエータ54の原理を説明するために示したモデル図である。図3では、図4で示したシリンダー58の左側の端部が上部建物16の下部に接続され、ロッド66の右側の端部が基礎14の上部に接続されていることになる。
【0078】
次に、本発明の第2の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0079】
第2の実施形態では、図3に示すように、地震等により上部建物16が揺れ、基礎14に対して上部建物16が相対移動すると、セミアクティブダンパー22は第1の実施形態で説明したように減衰効果を発揮する。
【0080】
また、アクチュエータ54のシリンダー58が上部建物16と連動して移動する。そして、このときのアクチュエータ54の正負のストローク変位量δ、ストローク速度δ’を式(1)に代入して求めたSの正負に基づいて、上部建物16に−P又は+Pの制御力を作用させ、上部建物16に発生する振動を制御する。
【0081】
よって、アクチュエータ54は、式(1)によって求められるSの符号と反対方向に制御力Pを作用させることにより、アクチュエータ54のストローク変位量δが大きいときにはバネとして機能し、アクチュエータ54のストローク速度δ’が大きいときにはダンパーとして機能する。
【0082】
これにより、セミアクティブダンパー22と共に、地震等により基礎14と上部建物16との間の基礎免震層18に生じる変形及び残留変形を低減することができる。
また、上部建物16の揺れの大きさに関係なく一定の制御力Pをアクチュエータ54に作用させる簡単な振動制御によって、免震効果を発揮させることができる。
【0083】
また、これまで説明したように、セミアクティブダンパー22とアクチュエータ54とは同じ制御則により上部建物16に力を加えるものである。すなわち、Sの正負に基づいて一定の力を付与するセミアクティブダンパー22と、Sの正負に基づいて一定の力を作用させるアクチュエータ54とは互換可能である。
【0084】
これにより、このような制御則のセミアクティブダンパー22とアクチュエータ54とが複数配置された免震構造56において、セミアクティブダンパー22とアクチュエータ54との数の割合が免震効果に大きく影響されない。
【0085】
例えば、抵抗力Fと制御力Pとが同じ大きさのセミアクティブダンパー22とアクチュエータ54とが複数配置された免震構造56は、これらのセミアクティブダンパー22とアクチュエータ54とを合わせた数と同数のアクチュエータ54のみを配置した免震構造とほぼ同等の効果が得られる。
【0086】
また、アクチュエータ54の数に対するセミアクティブダンパー22の数の割合を大きくすれば、より低コストの免震構造56を構築することができ、セミアクティブダンパー22の数に対するアクチュエータ54の数の割合を大きくすれば、基礎免震層18の残留変形が0となる可能性が高まり、より免震効果を向上させることができる。
【0087】
そして、セミアクティブダンパー22の数とアクチュエータ54の数とを最適に組み合わせることにより、効果的な免震効果(基礎免震層18の変位やせん断力などの応答低減、残留変形低減)を発揮させることができると共に低コスト化を図ることが可能となる。
【0088】
以上、本発明の第2の実施形態について説明した。
【0089】
なお、第2の実施形態の免震構造56において、下滑り部材(レール28)と上滑り部材(移動ブロック30)との間に生じる摩擦力よりもアクチュエータ54の制御力Pが大きくなるように設定すれば、基礎免震層18に生じる残留変形を確実に低減することができる。
【0090】
アクチュエータ54の制御力Pが下滑り部材(レール28)と上滑り部材(移動ブロック30)との間に生じる摩擦力よりも小さい場合においても、地震動のような左右に繰り返させる揺れに対しては、基礎免震層18の残留変形を低減することが可能である(基礎免震層18の残留変形をほぼ0にできる)。
【0091】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0092】
第3の実施形態は、第1の実施形態のセミアクティブダンパー22をアクティブダンパーとして機能させることができるようにしたものである。したがって、第3の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0093】
図5の立面図に示すように、基礎免震層18には、一方の端部が上部建物16の下部に接続され、他方の端部が基礎14の上部に接続されたセミアクティブダンパー84が設けられている。すなわち、建築物10の基礎免震層18には、直動転がり支承20とセミアクティブダンパー84とを有する免震構造90が構築されている。
【0094】
セミアクティブダンパー84は、図6に示すように、図2で示したセミアクティブダンパー22のサーボ弁52を、図4で示したサーボ弁76としたものである。サーボ弁76に接続され環状に配設された油圧管78にはオイルタンク80と油圧ポンプ82とが接続されている。また、サーボ弁76と油圧ポンプ82との間にはソレノイド弁86が設けられ、サーボ弁76とオイルタンク80との間にはソレノイド弁88が設けられている。
【0095】
そして、ソレノイド弁86、88の切り換えによって、セミアクティブダンパー84をセミアクティブダンパー22と同様に機能させたり、又はアクチュエータ54と同様に機能させたりすることができる。すなわち、セミアクティブダンパー84を、必要に応じて、セミアクティブダンパー84のストローク変位に抵抗する本来のセミアクティブダンパーとして機能させたり、又は上部建物16に発生する振動を制御する力を出力するアクティブダンパーとして機能させたりすることができる。
【0096】
なお、ソレノイド弁86、88を設けずに、この箇所にジョイント機構を設けて油圧管78を着脱可能にし、セミアクティブダンパー84を本来のセミアクティブダンパーとして機能させる(アクティブダンパーとして機能させない)場合には、オイルタンク80、油圧ポンプ82を設けなくてもよい。
【0097】
次に、本発明の第3の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0098】
セミアクティブダンパー22は、セミアクティブダンパー22のストローク変位に対して油圧抵抗や摩擦抵抗等によって受動的に抵抗力を生じさせるので、油圧式のアクティブダンパーのポンプ等のような、エネルギーをアクティブダンパーに入力する付帯設備を必要としない。すなわち、低コスト化を図ることができる。これに対して、アクチュエータ54は任意のストローク方向へ力を作用させることができるので、上部構造物に発生する振動を効果的に制御することができる。
【0099】
よって、例えば、複数のセミアクティブダンパー84を免震層に設けた場合に、本来のセミアクティブダンパーとしてセミアクティブダンパー22のように機能させるセミアクティブダンパー84の数と、アクティブダンパーとしてアクチュエータ54のように機能させるセミアクティブダンパー84の数とを最適に組み合わせることにより、効果的な免震効果(免震層の変位やせん断力などの応答低減、残留変形低減)を発揮させることができると共に低コスト化を図ることが可能となる。
【0100】
また、建築物の増改築や用途変更に伴う建築物の重量や免震層の剛性の変化等に対応して、免震設備の少ない変更で最適な本来のセミアクティブダンパーとして機能させるセミアクティブダンパーとアクティブダンパーとして機能させるセミアクティブダンパーとの配置を実現でき、効果的な免震効果を発揮することができる。
【0101】
次に、本発明の第4の実施形態とその作用及び効果について説明する。
【0102】
第4の実施形態は、第2の実施形態の免震構造56の設計方法の一例を示したものである。したがって、第4の実施形態の説明において、第2の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0103】
第4の実施形態の免震構造の設計方法では、まず、セミアクティブダンパー22の抵抗力Fと、アクチュエータ54の制御力Pと、下滑り部材(レール28)と上滑り部材(移動ブロック30)との間に生じる摩擦力とを合計する。
【0104】
そして、この合計した値を上部建物16の重量で除した値が上部建物16の設計加速度を980cm/sで除した値となるように、アクチュエータ54の制御力P、セミアクティブダンパー22の抵抗力F、及び下滑り部材(レール28)と上滑り部材(移動ブロック30)との間に生じる摩擦力を設定する。
【0105】
なお、第4の実施形態における抵抗力F、制御力P、及び摩擦力は、基礎免震層18に配置された全てのセミアクティブダンパー22の抵抗力、アクチュエータ54の制御力、及び下滑り部材(レール28)と上滑り部材(移動ブロック30)との間に生じる摩擦力の総和を意味する。
よって、地震等により上部建物16に揺れが発生したときにこの上部建物16に発生する加速度を設計加速度とすることができる。
【0106】
以上、本発明の第1〜第4の実施形態について説明した。
【0107】
なお、第1〜第4の実施形態では、免震支承を直動転がり支承20とした例を示したが、基礎14の上に上部建物16を支持すると共に基礎14に対する上部建物16の相対移動を可能とするものであればよく、転がり支承、滑り支承、積層ゴム等を用いてもよい。
【0108】
第2の実施形態では、下滑り部材(レール28)と上滑り部材(移動ブロック30)との間に生じる摩擦力よりもアクチュエータ54の制御力Pを大きくして、基礎免震層18に生じる残留変形を低減する例を示したが、免震支承を積層ゴムとした場合には、基礎免震層18に生じる残留変形を元に戻すことが可能な水平力よりもアクチュエータ54の制御力Pを大きくすればよい。
【0109】
また、第1〜第4の実施形態では、基礎免震層18に免震構造24、56、90を構築した例を示したが、免震構造24、56、90は、中間免震層に構築してもよい。
【0110】
また、第1〜第4の実施形態の免震構造24、56、90の基礎免震層18に油圧ダンパー、鋼製ダンパー、粘性ダンパー、積層ゴム等の減衰装置を併設してもよい。
【0111】
(実施例)
【0112】
本実施例では、本発明の第1の実施形態の免震構造24、及び第2の実施形態の免震構造56に対して実施した地震応答解析の結果について示す。
【0113】
図7には、免震構造24、56の比較例となるパッシブ免震構造92(以下、「ケース0」とする)が示されている。
基礎14と上部建物16との間の基礎免震層18には、基礎14上に上部建物16を支持する免震支承としての直動転がり支承20のみが設置されている(すなわち、表1におけるアクチュエータの制御力=0kN、セミアクティブダンパーの抵抗力=0kN)。
【0114】
上部建物16の重量を10,000kNとし、直動転がり支承20のレール28と移動ブロック30との間の摩擦係数μを0.01(直動転がり支承20のレール28と移動ブロック30との間に生じる免震構造92全体の摩擦力は100kN)とした。
これらの仕様が、表1のケース0の欄に示されている。
【0115】
【表1】

【0116】
図8には、免震構造24、56の比較例となる免震構造94(以下、「ケース1」とする)が示されている。基礎免震層18には、一方の端部が上部建物16の下部に接続され、他方の端部が基礎14の上部に接続されたアクチュエータ54が設けられている。すなわち、建築物10の基礎免震層18には、直動転がり支承20とアクチュエータ54とによって構成される免震構造94が構築されている。基礎免震層18に配置したセミアクティブダンパーの抵抗力の総和を、基礎免震層18に配置したセミアクティブダンパーの抵抗力の総和とアクチュエータの制御力の総和とを合計した値で割ったセミアクティブ比率は0%である。
【0117】
上部建物16の重量、直動転がり支承20のレール28と移動ブロック30との間の摩擦係数μ(直動転がり支承20のレール28と移動ブロック30との間に生じる免震構造94全体の摩擦力)は、ケース0と同じである。
【0118】
アクチュエータ54の制御力は、図9に示すように作用させ、最大値(定格出力)を上部建物16の重量の2%(200kN)とし、定数αを0.8とした。図9の縦軸には、制御力の大きさが示され、横軸には、S(=δ+α×δ’)が示されている。
これらの仕様が、表1のケース1の欄に示されている。
【0119】
表1のケース5は、第1の実施形態の図1で示した免震構造24の仕様を示したものである。建築物10の基礎免震層18には、直動転がり支承20とセミアクティブダンパー22とによって構成される免震構造24が構築されているので、基礎免震層18に配置したセミアクティブダンパーの抵抗力の総和を、基礎免震層18に配置したセミアクティブダンパーの抵抗力の総和とアクチュエータの制御力の総和とを合計した値で割ったセミアクティブ比率は100%となっている。
【0120】
上部建物16の重量、直動転がり支承20のレール28と移動ブロック30との間の摩擦係数μ(直動転がり支承20のレール28と移動ブロック30との間に生じる免震構造24全体の摩擦力)は、ケース0と同じである。
セミアクティブダンパー22の抵抗力の最大値(定格出力)は、上部建物16の重量の2%(200kN)とし、定数αを0.8とした。
これらの値が、表1のケース5の欄に示されている。
【0121】
表1のケース2〜4は、第2の実施形態の図3で示した免震構造56の仕様を示したものである。建築物10の基礎免震層18には、直動転がり支承20とセミアクティブダンパー22とアクチュエータ54とによって構成される免震構造56が構築されているので、基礎免震層18に配置したセミアクティブダンパーの抵抗力の総和(50kN、100kN、150kN)を、基礎免震層18に配置したセミアクティブダンパーの抵抗力の総和とアクチュエータの制御力の総和とを合計した値(200kN)で割ったセミアクティブ比率は、ケース2で25%、ケース3で50%、ケース4で75%となっている。セミアクティブダンパー22及びアクチュエータ54の定数αは0.8とした。
【0122】
上部建物16の重量、直動転がり支承20のレール28と移動ブロック30との間の摩擦係数μ(直動転がり支承20のレール28と移動ブロック30との間に生じる免震構造56全体の摩擦力)は、ケース0と同じである。
これらの値が、表1のケース2〜4の欄に示されている。
【0123】
表2には、ケース0〜5に対して行った地震応答解析の結果として、EL CENTRO NSの最大加速度511cm/s、TAFT EWの最大加速度497cm/s、HACHINOHE NSの最大加速度330cm/s、BCJ L2の最大加速度356cm/s、及びKOBE NSの最大加速度818cm/sを入力したときの基礎免震層18の最大変位、残留変位の値が示されている。最大変位、残留変位の値の単位は共にcmである。
【0124】
【表2】

表2からわかるように、本発明のケース2〜5の残留変形は、ケース0の残留変形よりも小さくなっている。また、ケース2〜5の最大変位については、KOBE NS以外でケース0の最大変位よりも小さくなっている。一般的な免震構造の設計においては、最大変位を50〜70cm程度としているので、このことからも上部建物16の基礎免震層18の変形が大きく低減されていることがわかる。
【0125】
また、基礎免震層18にセミアクティブダンパー22とアクチュエータ54とを配置したケース2〜4や、基礎免震層18にセミアクティブダンパー22のみを配置したケース5と、基礎免震層18にアクチュエータ54のみを配置したケース1とは、ほぼ同様の免震性能(最大変位、残留変位)を発揮している。これにより、アクチュエータ54よりも低コストのセミアクティブダンパー22を用いた低コストの免震構造においても十分な免震効果が得られることがわかる。
【0126】
また、表2に示されているように、セミアクティブ比率が50%以下のケース2、3においては、アクチュエータ54の制御力が支承の摩擦力(直動転がり支承20のレール28と移動ブロック30との間に生じる免震構造56全体の摩擦力)以上になっているので、理論上、基礎免震層18に残留変形は生じない。
【0127】
また、セミアクティブ比率が50%よりも大きいケース4、5においても、残留変形はほとんど生じていない。これにより、セミアクティブ比率を大きくして、アクチュエータ54の制御力を支承の摩擦力(直動転がり支承20のレール28と移動ブロック30との間に生じる免震構造56全体の摩擦力)よりも小さくした場合でも、十分な免震効果(基礎免震層18の変位低減、残留変形低減)が得られることがわかる。
【0128】
また、ケース2〜5の上部建物16の応答加速度は、0.03gal(=29.4cm/s)となっている。一般的な免震構造の設計においては、上部建物の応答加速度を100〜200gal程度としているので、このことからも上部建物16に生じる振動が大きく低減されていることがわかる。
【0129】
これまで説明したように、本発明の第1及び第2の実施形態(ケース2〜5)は、基礎免震層18に生じる残留変形を低減するだけでなく、最大変位量を通常許容される程度に抑えることができ、これによって、免震性能の高い免震構造を実現することができる。
【符号の説明】
【0130】
10 建築物
14 基礎(下部構造物)
16 上部建物(上部構造物)
20 直動転がり支承(滑り装置、免震支承)
22、84 セミアクティブダンパー
24、56、90 免震構造
28 レール(下滑り部材)
30 移動ブロック(上滑り部材)
54 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造物の上に上部構造物を支持すると共に前記下部構造物に対する前記上部構造物の相対移動を可能とする免震支承と、
抵抗力Fを生じさせて前記上部構造物に発生する振動を減衰するセミアクティブダンパーと、を有し、
前記セミアクティブダンパーの正負のストローク変位量をδ、定数をα、前記δを時間微分したストローク速度をδ’とすると、
式(1)によって求められるSが正となったときに前記上部構造物に−Fを付与可能な状態にし、
式(1)によって求められるSが負となったときに前記上部構造物にFを付与可能な状態にする免震構造。
【数1】

【請求項2】
制御力Pの出力により前記上部構造物に発生する振動を制御するアクチュエータを有し、
前記アクチュエータの正負のストローク変位量をδ、定数をα、前記δを時間微分したストローク速度をδ’とすると、
前記式(1)によって求められるSが正となったときに前記上部構造物に−Pを作用させ、
前記式(1)によって求められるSが負となったときに前記上部構造物にPを作用させる請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記免震支承は、前記下部構造物の上面に取り付けられた下滑り部材と、前記上部構造物の下面に取り付けられ前記下滑り部材の上に支持される上滑り部材と、を有すると共に、前記下滑り部材と前記上滑り部材との間に生じる摩擦力よりも大きな水平力が前記上部構造物に作用したときに、前記下滑り部材と前記上滑り部材との間に滑りを生じさせて前記下部構造物に対して前記上部構造物を相対移動させる滑り装置である請求項2に記載の免震構造。
【請求項4】
前記滑り装置は、直動転がり支承である請求項3に記載の免震構造。
【請求項5】
前記アクチュエータの制御力Pは、前記下滑り部材と前記上滑り部材との間に生じる摩擦力よりも大きい請求項3又は4に記載の免震構造。
【請求項6】
前記セミアクティブダンパーは、前記上部構造物に発生する振動を制御する力を出力するアクティブダンパーとして機能させることが可能である請求項1〜5の何れか1項に記載の免震構造。
【請求項7】
請求項3〜5の何れか1項に記載の免震構造の設計方法において、
前記セミアクティブダンパーの抵抗力Fと、前記アクチュエータの制御力Pと、前記下滑り部材と前記上滑り部材との間に生じる摩擦力との合計を前記上部構造物の重量で除した値が、前記上部構造物の設計加速度を980cm/sで除した値となるように、前記抵抗力F、前記制御力P、及び前記摩擦力を設定する免震構造の設計方法。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1項に記載の免震構造を有する建築物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−189922(P2010−189922A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35136(P2009−35136)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】