説明

免震装置の耐火被覆構造

【課題】 本発明は、必要最小限度の材料と手間で効率よく免震装置の耐火被覆を構成することができる免震装置の耐火被覆構造を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 すべり支承12のフランジ12a下面におけるすべり材保持片12bの周囲にはすべり支承12すべりを覆うようにドーナツ状の熱膨張耐火材19が接着されている。熱膨張耐火材19は平常時にすべり板13と接触しないように厚みが設定されている。柱3の耐火被覆はすべり支承12のフランジ12a側面下端部に到達するように構成されている。熱膨張耐火材19は、地震時に上部構造体Cが相対的に変位した際には上部構造体Cの変位に追従して変位し、変位が収束するとともに当初の位置に復帰する。そして、火災時には、熱膨張耐火材19は熱によって膨張しすべり材12c及びすべり板13の上面のうち上部構造体の荷重が伝達されるすべり支承12下部の領域を火炎から効率よく保護することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すべり材とすべり板とを有するすべり支承型の免震装置の耐火被覆構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にすべり支承型の免震装置は、すべり材がすべり板の上面を滑らかに摺動するように摩擦抵抗の小さな樹脂や金属で構成されている。免震装置を備えた免震建物を法令で定められた耐火建築物とする場合、この免震装置にも建物の構造体と同等の耐火性能が求められるので、耐火性を有する材料で被覆する必要がある。
【0003】
免震建物は、地震時にはすべり材とすべり板との接触部分以外は非接触状態が維持されながらも、火災時には樹脂部分や金属部分が耐火材料で隙間なく被覆される必要がある。このような条件を満たす技術が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の免震装置によれば、支持柱の上部に珪酸カルシウム成形板等の耐火断熱成形体を取り付けて耐火被覆を構成し、耐火被覆と上部躯体との隙間に熱を受けて発泡する発泡型耐火断熱性材料の薄膜体を配置することによって、地震時には免震機能が発揮され、火災時には火炎の影響を受けない免震装置とすることが可能である。
【0004】
【特許文献1】特許第4047915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この技術では、発泡型耐火断熱性材料をすべり板の周囲に沿って配置する必要があり、挙動範囲の大きなすべり支承型の免震装置に適用した場合、施工に手間がかかるという問題があった。また、すべり板全体を覆う耐火被覆についても、下地となる鉄骨フレームを含め複雑に材料を組み合わせて構成する必要があり、施工に手間がかかるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の課題を解決し、必要最小限度の材料と手間で効率よく免震装置の耐火被覆を構成することができる免震装置の耐火被覆構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来技術の課題を解決する為の本発明に係る免震装置の耐火被覆構造の第1の構成は、下部構造体に取り付けられるすべり板と上部構造体に前記すべり板の上面を摺動するように取り付けられる樹脂製あるいは金属製のすべり材とを有するすべり支承型の免震装置において、前記すべり材の周囲に火災時に膨張して前記すべり材を被覆する熱膨張耐火材を前記すべり板と非接触状態を保って取り付けたことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る免震装置の耐火被覆構造の第2の構成は、前記第1の構成において、前記すべり板は樹脂製あるいは金属製であり、その上面のうち前記熱膨張耐火材で囲まれた領域外の曝露領域をシート状もしくはマット状の耐火材で覆ったことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る免震装置の耐火被覆構造の第1の構成によれば、建物の上部構造体の荷重を免震装置より下方の下部構造体に伝達するための樹脂製あるいは金属製のすべり材の周囲にすべり板と非接触状態を保って熱膨張耐火材を取り付けたので、地震時の摺動に影響を与えることなく火災時にはすべり材を効率よく被覆することができる。
【0010】
本発明に係る免震装置の耐火被覆構造の第2の構成によれば、樹脂製あるいは金属製のすべり板の上面のうち熱膨張耐火材で囲まれた領域は火災時に熱膨張耐火材で被覆され、また、熱膨張耐火材で囲まれた領域以外の曝露領域はシート状もしくはマット状の耐火材を載置することで被覆される。このように、という簡単な作業ですべり板上面の全面的な耐火被覆を行うことができ施工の手間を削減することができる。しかも、すべり板の上面に塵埃が堆積することも防止することができ免震装置の初期の性能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る免震構造の最も好ましい実施形態について図を用いて説明する。図1は本発明に係る免震構造を適用した免震建物の斜視図、図2は免震建物のうち主に下部構造体の断面図、図3は免震装置まわりの構成を示す図、図4は免震プレートまわりの構成を示す図、図5は免震装置を構成するすべり支承とすべり板に施された耐火被覆構造の構成を示す図である。
【0012】
先ず、図1を参照して免震建物Aの全体構成を説明する。免震建物Aは3層の住宅であり、1階は玄関、ホール及び階段室以外は外部空間であるピロティであり、2、3階に居室が構成されている。また構造種別としては、下部構造体Bを構成する基礎1及び円柱(1階柱)2が鉄筋コンクリート造、上部構造体Cを構成する2階及び3階の柱3、大梁4a〜4cからなる架構が鉄骨造であり、妻方向1スパン、桁行き方向2スパンで構成されている。
【0013】
次に、図1及び図2を参照して下部構造体Bの構成について説明する。下部構造体Bは、ベタ基礎形式の基礎1を有し、基礎1から円柱2が立ち上がっている。円柱2の柱脚部2bは基礎梁1aと耐圧盤1bにより剛に固定されているが、柱頭部2aは梁で連結されておらず、円柱2は片持ち状態で突出している。円柱2の直径は上部構造体Cから作用する荷重に基づき700mmに設定されている。なお、1cはピロティの床を構成する土間コンクリートである。
【0014】
次に、図1〜図3を参照して上部構造体Cの構成について説明する。上部構造体Cにおいて、柱3は150mm角のシームレス(水平断面内に継目を持たない)角形鋼管で構成されており、平面的に円柱2と同じ位置に配置されている。柱3の側面の所定の位置にはボルト孔が穿設され後述する大梁4a〜4cが接合される梁接合部3aが形成されており、柱3の下端部には後述するすべり支承12が柱3と一体で形成されている。
【0015】
隣接する柱3どうしを連結する大梁4a〜4cはH形鋼からなる。H形鋼の両端には柱3の梁接合部3aに形成されたボルト孔に対応する位置にボルト孔が穿設された接合プレート4a1〜4c1が溶接されている。そして、梁接合部3aにメタルタッチされ高力ボルトで剛接合されている。
【0016】
柱3の梁接合部3aのうち大梁4a〜4cが接合されていない建物の外側方向の梁接合部3aには、大梁4a〜4cと同一断面のH形鋼からなる片持ち梁5a〜5cが配置され、これらの片持ち梁5a〜5cの一端に大梁4a〜4cの接合プレート4a1〜4c1と同様に構成された接合プレート5a1〜5c1が溶接されている。そして、梁接合部3aにメタルタッチされ高力ボルトで剛接合されている。片持ち梁5a〜5cの先端側には大梁4a〜4cと同一断面のH形鋼からなる鼻先梁6a〜6cが取り付けられている。
【0017】
鼻先梁6a〜6cのフランジには外壁パネルの支持と位置決めの為の金物(不図示)が取り付けられ、該金物によってALCパネルからなる外壁パネル7が固定され外壁8が構成されている。また、対向する大梁4a〜4cの間にはH形鋼からなる小梁(不図示)が適宜架け渡された上で、ALC(軽量気泡コンクリート)パネルからなる床パネル9が前記各種梁の上フランジに載置されて床10が構成されている。
【0018】
上記片持ち梁5a〜5cや鼻先梁6a〜6cによって上部構造体Cの床10は柱3よりもせり出した状態となり、後述する免震プレートEや免震装置Dは床面の領域内に配置される。
【0019】
また、免震建物Aを耐火建築物とする為に、上部構造体を構成する柱3や前記各種梁4、5、6等の鉄骨部材の、ALCパネルからなる床パネル9や外壁パネル7で覆われない部位には所定の耐火性を有するロックウール、繊維混入珪酸カルシウム耐火被覆板、石膏ボート、マット状耐火被覆材等にて耐火被覆が施される(不図示)。
【0020】
次に、図2、図3を参照して免震装置Dの構成について説明する。本実施例で使用される免震装置Dはすべり支承型であり、支持機能を有するすべり支承12とすべり板13、復元機能を有する復元ゴム14、減衰機能を有するオイルダンパー15で構成されている。
【0021】
次に、図4を参照して免震プレートEの構成について説明する。免震プレートEは免震装置Dを載置あるいは固定する為の部材である。材質は表面に防錆塗装が施された鋼製である。なお、防錆塗装にかえて溶融亜鉛めっき等の防錆処理を施したものでもよい。形状は、外径1370mm、厚さ29mmの円盤状であり、上面にはすべり支承12の移動範囲を規制する環状の突起部11が溶接されて突起部11の内部の面がすべり板載置部16となっている。すべり板載置部16の直径は、上部構造体Cに求められる免震効果から算定された相対的な最大変位に基づき890mmに設定されており、また、上部構造体Cが最大限変位した際にも上部構造体Cからの鉛直荷重が免震プレートEに対し圧縮力のみが作用し曲げが作用しないように設定されている。
【0022】
突起部11よりも外側の周縁部17には復元ゴム14、オイルダンパー15をボルト固定する為のボルト孔17aが形成されている。このボルト孔17aは等間隔で4個所(90度間隔)穿設されており、夫々対応する機能部材(復元ゴム14あるいはオイルダンパー15)のボルト孔に対応させて4個、6個の孔が穿設されている。
【0023】
免震プレートEのすべり板載置部16及び円柱2との接触面以外の部分は吹き付けされたロックウールからなる湿式耐火被覆材18にて被覆されている。
【0024】
次に、図5を参照して免震装置Dを構成するすべり支承12とすべり板13、及びそれらに施された耐火被覆の詳細な構成について説明する。すべり支承12は、円盤状のフランジ12aの下面中央の凹部にフランジ12aよりも小径の円盤状のすべり材保持片12bを嵌め込んで固定し、更にすべり材保持片12b下面中央の凹部にすべり材保持片12bよりも更に小径の円盤状のすべり材12cを、その下端がすべり材保持片12bの下面よりも突出するように嵌め込んで構成されている。そして、1階の大梁4aの下フランジよりも下方に突出した柱3の下端部に溶接された円形の接合プレート3bの下面にボルト接合されている。すべり板13は八角形の板状であり、免震プレートEの突起部11に頂点がほぼ内接するように、すべり板載置部16に載置、固定されている。すべり支承12及びすべり板13は地震時に滑らかに変位するために表面にフッ素樹脂コーティングがなされている。
【0025】
すべり支承12のフランジ12a下面におけるすべり材保持片12bの周囲にはすべり支承12すべりを覆うようにドーナツ状の熱膨張耐火材19が接着されている。熱膨張耐火材19は平常時にすべり板13と接触しないように厚みが設定されている。柱3の耐火被覆はすべり支承12のフランジ12a側面下端部に到達するように構成されている。
【0026】
本実施例のドーナツ状の熱膨張耐火材19は、ブチルゴム、水添石油樹脂、ポリブデン、ポリ燐酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、熱膨張性黒鉛、炭酸カルシウムを、ニーダーを用いて溶解混錬して得られた樹脂組成物を、カレンダー成形によって、アルミ箔とガラスクロスからなる積層シートを積層させながらシート状に成形したもの(商品名:フィブロック、積水化学工業株式会社製)である。そして、200度以上に熱せられた際に体積が20倍以上に膨張するように設定されている。
【0027】
熱膨張耐火材19は、地震時に上部構造体Cが相対的に変位した際には上部構造体Cの変位に追従して変位し、変位が収束するとともに当初の位置に復帰する。そして、火災時には、熱膨張耐火材19は熱によって膨張しすべり材12c及びすべり板13の上面のうち上部構造体の荷重が伝達されるすべり支承12下部の領域を火炎から効率よく保護することができる。
【0028】
なお、熱膨張耐火材19は、上記のようにフランジ12aの下面以外に、柱3下端の接合プレート3bもしくはフランジ12aの側端面に巻きつけるように接着してもよい。
【0029】
すべり板13の上面のうち、すべり支承12下部の熱膨張耐火材19で覆われた領域以外の曝露領域にはシート状の耐火材20が載置されている。耐火材20は、上記熱膨張耐火材19と同一の材料で構成されており、平常時はすべり板13上面に塵埃が堆積することを防止し、火災時には、すべり板13上面を火炎から保護する。耐火材20は、加工が容易ですべり板13の上面に載置するだけであるので施工に手間を要しない。また、軽量かつ柔軟性を有するので地震時には容易に移動あるいは変形し上部構造体Cの変位(すべり支承の摺動)に影響を与えることがない。なお、地震時の上部構造体Cの変位によって位置ずれが生じる可能性があるが、すべり板13上面に載置しているだけであるので容易に所定の位置に復帰させることができる。
【0030】
耐火材20としてはこのような所定の温度で熱膨張するシート状の材料に限らず、マット状のロックウールからなる耐火被覆材(商品名:マキベエ、ニチアス株式会社製等)などを適用することができ、同様の作用効果を発揮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、中間階における免震装置に限らず、一般的な地盤面付近に設けられる免震装置にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る免震構造を適用した免震建物の斜視図である。
【図2】免震建物の主に下部構造体の断面図である。
【図3】免震装置まわりの構成を示す図である。
【図4】免震プレートまわりの構成を示す図である。
【図5】免震装置を構成するすべり支承とすべり板に施された耐火被覆構造の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
A…免震建物
B…下部構造体
C…上部構造体
D…免震装置
E…免震プレート
1…基礎
1a…基礎梁
1b…耐圧盤
1c…土間コンクリート
2…円柱(1階柱)
2a…柱頭部
3…柱
3a…梁接合部
3b…接合プレート
4a〜4c…大梁
4a1〜4c1…接合プレート
5a〜5c…片持ち梁
5a1〜5c1…接合プレート
6a〜6c…鼻先梁
7…外壁パネル
8…外壁
9…床パネル
10…床
11…突起部
12…すべり支承
12a…フランジ
12b…すべり材保持片
12c…すべり材
13…すべり板
14…復元ゴム
15…オイルダンパー
16…受け板載置部
17…周縁部
17a…ボルト孔
18…湿式耐火被覆材
19…熱膨張耐火材
20…耐火材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体に取り付けられるすべり板と上部構造体に前記すべり板の上面を摺動するように取り付けられる樹脂製あるいは金属製のすべり材とを有するすべり支承型の免震装置において、
前記すべり材の周囲に火災時に膨張して前記すべり材を被覆する熱膨張耐火材を前記すべり板と非接触状態を保って取り付けたことを特徴とする免震装置の耐火被覆構造。
【請求項2】
前記すべり板は樹脂製あるいは金属製であり、その上面のうち前記熱膨張耐火材で覆われた領域以外の曝露領域をシート状もしくはマット状の耐火材で覆ったことを特徴とする請求項1に記載した免震装置の耐火被覆構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−24617(P2010−24617A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183418(P2008−183418)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】