説明

免震装置

【課題】地震エネルギーの大きさに応じて水平変形量を制御することができ、且つ優れた地震エネルギーの減衰効果を発揮して上部構造の揺れを確実に抑えることが可能な免震装置を提供する。
【解決手段】上部構造G1と下部構造G2の間に介設され、地震時に作用した地震エネルギーを吸収し減衰させて上部構造G1の揺れを抑えるための免震装置Aを、弾性体1と補剛体2とを交互に積層した積層部3に繊維からなる繊維体4を一体に設けて形成するとともに、繊維体4を、複数の繊維の繊維方向Mを積層部3の積層方向T1に配した状態で積層部3に一体に設ける。また、繊維体4を、破断伸びが異なる複数種の繊維を組み合わせて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば橋梁や建物などの上部構造と下部構造の間に介設され、地震時に作用した地震エネルギーを吸収し減衰させて上部構造の揺れを抑えるための免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば橋梁や高層建物などにおいては、主桁や主構と橋台や橋脚の間、建物と基礎の間など、上部構造と下部構造の間に免震装置(免震支承)を介設し、地震時に、上部構造の固有周期を例えば地震動(地震エネルギー)の卓越周期帯域から長周期側にずらし、応答加速度を小さくすることによって揺れを抑えるようにしている。
【0003】
そして、この種の免震装置には、高減衰ゴムなどのゴム材(弾性体)と鋼板(補剛体)とを上下方向に交互に積層して構成したものがある。この免震装置においては、ゴム材及び鋼板によって鉛直荷重に対し高ばね化されているため、上部構造を支持することができる。また、水平荷重に対しゴム材が水平方向に変形するように低ばね化されているため、地震時に水平方向に大きな外力(地震エネルギー)が作用するとともにゴム材が水平方向に変形し、このゴム材の変形によって地震エネルギーが吸収される。
【0004】
一方、この種の免震装置には、ゴム材の中にゴム材と交互になるように織布や不織布(繊維材)を積層埋設して構成したものもある(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。この免震装置においては、一定値以上の鉛直荷重が作用した場合に繊維材が破断することでエネルギー吸収効果を発揮し、鉛直方向(上下方向、積層方向)の衝撃荷重の発生を抑制することができる。また、一定値以上の水平荷重が作用した場合には、繊維材とゴム材の界面が剥離することでエネルギー吸収効果を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−140524号公報
【特許文献2】特開2001−49619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のゴム材と鋼板を交互に積層して構成した免震装置においては、地震時に作用した地震エネルギー(水平荷重)をゴム材の水平方向の変形のみで吸収して減衰効果を発揮し、また、一定値以上の変形が発生して初めて減衰効果を発揮するため、免震装置(ゴム材)の水平変形量が大きく、上部構造の水平変位量が大きくなる。すなわち、この種の免震装置は、例えばレベル1地震動(構造物の供用期間内に1〜2度発生する確率をもつ地震動)の地震時にゴム材の厚さの150%程度、レベル2地震動(極めて稀であるが非常に強い地震動)の地震時にゴム材の厚さの250%程度の水平変位が発生する。このため、この免震装置を例えば橋梁の主桁(主構)と橋台の間に介設した場合には、地震時に免震装置の変位(ゴム材の変形)とともに主桁が大きく水平方向に変位することになり、主桁の端部と橋台との間の遊間を大きく設定する必要が生じていた。そして、これに伴い、大きなフィンガージョイントなどのジョイント構造が必要になって、ジョイント構造のコストが高くなるなどの問題があった。
【0007】
一方、上記従来のゴム材の中に繊維材を積層埋設して構成した免震装置においては、地震時に作用した一定値以上の地震エネルギー(水平荷重)を繊維材とゴム材の界面が剥離することで吸収し、減衰効果を発揮するため、ゴム材の水平変形量ひいては上部構造の水平変位量を制御できる。しかしながら、このような繊維材とゴム材の剥離によって地震エネルギーを減衰させる場合には、繊維材の破断による減衰効果ほど大きな効果を期待できず、例えばレベル1地震動やレベル2地震動に対しては、やはりゴム材の水平変形量ひいては上部構造の水平変位量を十分に制御できない。
【0008】
本発明は、地震エネルギーの大きさに応じて水平変形量を制御することができ、且つ優れた地震エネルギーの減衰効果を発揮して上部構造の揺れを確実に抑えることが可能な免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明の免震装置は、上部構造と下部構造の間に介設され、地震時に作用した地震エネルギーを吸収し減衰させて前記上部構造の揺れを抑えるための免震装置であって、弾性体と補剛体とを交互に積層した積層部に繊維からなる繊維体を一体に設けて形成され、前記繊維体が前記複数の繊維の繊維方向を前記積層部の積層方向に配した状態で設けられ、前記繊維体は破断伸びが異なる複数種の繊維を組み合わせて形成されていることを特徴とする。
【0011】
この発明においては、積層部が高減衰ゴムなどの弾性体と鋼板などの補剛体とを交互に積層して形成されているため、主に補剛体の剛性によって、上部構造から作用する鉛直荷重を支持することができる。また、繊維体が繊維の繊維方向を積層方向(上下方向)に配して設けられているため、地震エネルギーが作用して積層部(弾性体)が水平方向に変形するとともに、繊維体の繊維に引張力が生じて積層部の水平変形が抑制される。そして、大きな地震エネルギーが作用して積層部の水平変形量が一定値以上になると、繊維体の繊維が伸びて破断し、この繊維の破断エネルギーで地震エネルギーを吸収することが可能になる。このため、適宜所望の伸び量で破断する繊維を用いて繊維体を形成しておくことで、積層部(弾性体)の水平変形量を制御することが可能になり、且つ水平変形量の大きさに応じて(地震エネルギーの大きさに応じて)繊維体の繊維を破断させることにより地震エネルギーの減衰効果を得ることが可能になる。これにより、免震装置の水平変位量(積層部の水平変形量)を制御することが可能になるとともに、地震エネルギーを弾性体の変形に加えて繊維体の破断によって吸収し減衰させることが可能になり、地震エネルギーの優れた減衰効果を発揮させることが可能になる。
【0012】
さらに、破断伸びが異なる複数種の繊維を組み合わせて繊維体を形成することにより、地震エネルギーが作用して積層部が水平方向に変形した際に、水平変形量に応じて繊維体の破断伸びが小さい繊維から破断伸びが大きい繊維の順に破断させることが可能になる。これにより、例えばレベル1地震動の地震時に破断する繊維と、レベル2地震動の地震時に破断する繊維とを組み合わせて繊維体を形成するなどして、広範の地震エネルギーに対し、免震装置の水平変位量を制御しつつ優れた地震エネルギーの減衰効果を発揮させることが可能になる。
【0013】
また、本発明の免震装置においては、破断伸びが異なる繊維を用いてそれぞれ形成した前記繊維体が前記積層部の外側から内部に向かう水平方向に並設されていてもよい。
【0014】
この発明においては、例えば、積層部の外側から内部に向かう水平方向に、破断伸びが小さい繊維を用いた繊維体と破断伸びが大きい繊維を用いた繊維体とを並設した場合に、地震エネルギーが作用して積層部が水平方向に変形するとともに、水平変形量に応じて、破断伸びが小さい繊維を用いた繊維体から破断伸びが大きい繊維を用いた繊維体の順に繊維を破断させることが可能になる。これにより、レベル1地震動の地震時に破断する繊維を用いた繊維体と、レベル2地震動の地震時に破断する繊維を用いた繊維体を並設するなどして、広範の地震エネルギーに対し、免震装置の水平変位量を制御しつつ優れた地震エネルギーの減衰効果を発揮させることが可能になる。
【0015】
さらに、本発明の免震装置においては、前記積層部が円柱状に形成されており、前記繊維体が前記積層部の周方向に並設されていてもよい。
【0016】
この発明においては、積層部を円柱状に形成し、この積層部の周方向に繊維体を並設することによって、例えば破断伸びが等しい同種の繊維を用いてそれぞれ形成した複数の繊維体を設けた場合においても、地震エネルギーが作用して積層部が水平方向に変形するとともに、変形方向(地震エネルギーの作用方向)に応じて各繊維体の繊維に作用する引張力を変えることができる。これにより、積層部の水平変形量の大きさ、ひいては地震エネルギーの大きさに加えて、積層部の変形方向に応じて、順次積層部の周方向に並設した繊維体の繊維を破断させることが可能になり、免震装置の水平変位量を制御しつつ優れた地震エネルギーの減衰効果を発揮させることが可能になる。
【0017】
さらに、本発明の免震装置において、前記繊維体は、繊維を束ねた無端状の繊維束として形成されており、前記繊維方向を互いに平行にした一対の破断部を前記積層方向に配した状態で、前記一対の破断部に繋がる円弧状の一対の定着部をそれぞれ前記積層部の前記弾性体に埋設して設けられていることが望ましい。
【0018】
この発明においては、一対の破断部を積層方向に配した状態で、円弧状の定着部を弾性体の内部に埋設させて繊維束(繊維体)を設置することによって、例えば上部構造から作用した鉛直荷重で弾性体が圧縮されるとともにこの弾性体に押圧されて定着部を容易に且つ強固に積層部に定着させることが可能になる。これにより、地震エネルギーが作用して積層部が水平方向に変形し、繊維束の破断部に引張力が発生した際に、定着部が積層部から引き抜かれるようなことがなく(繊維体の定着が解除されるようなことがなく)、水平変形量に応じて確実に破断部の繊維を伸ばし、破断させることが可能になる。よって、免震装置の水平変位量を制御しつつ確実に優れた地震エネルギーの減衰効果を発揮させることが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の免震装置によれば、弾性体と補剛体とを交互に積層した積層部に、繊維の繊維方向を積層方向に配した状態で繊維体を設けることによって、地震時に、積層部(弾性体、免震装置)の水平変形量を制御することが可能になるとともに、地震エネルギーを弾性体の変形に加えて繊維体の破断で減衰させることが可能になる。これにより、地震エネルギーの大きさに応じて水平変形量を制御することができ、且つ優れた地震エネルギーの減衰効果を発揮して上部構造の揺れを確実に抑えることが可能になる。
【0020】
そして、このように、優れた減衰効果を発揮して上部構造の揺れを抑えることが可能になることで、例えば橋梁の主桁(主構)と橋台の間に介設した場合に、従来の免震装置のように主桁の端部と橋台との間の遊間を大きく設定する必要がなくなり、フィンガージョイントなどのジョイント構造のコストを低減させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る免震装置を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る免震装置を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る免震装置の変形例を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る免震装置の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1及び図2を参照し、本発明の一実施形態に係る免震装置について説明する。本実施形態は、例えば橋梁の主桁や主構と橋台や橋脚の間、建物と基礎の間など、上部構造と下部構造の間に介設され、地震時に作用した地震エネルギーを吸収し減衰させて上部構造の揺れを抑える免震装置に関するものである。
【0023】
本実施形態の免震装置Aは、図1及び図2に示すように、直方体形状で形成されており、高減衰ゴムの弾性体1と鋼板の補剛体2とを上下方向(積層方向T1)に交互に積層した積層部3に、繊維からなる繊維体4を一体に設けて形成されている。また、直方体形状の積層部3の4つの側面側にそれぞれ繊維体4が設置されており、各繊維体4は、繊維の繊維方向Mを積層部3の積層方向T1に配した状態で、すなわち繊維の繊維方向Mが積層部3の側面に沿うようにして設置されている。さらに、平行する積層部3の側面にそれぞれ設置された繊維体4同士は互いに対向配置されている。なお、本実施形態の免震装置Aにおいては、積層部3の側面及び繊維体4を覆うように例えばゴム製の保護カバー5が設けられている。
【0024】
また、繊維体4は、例えばポリアミド系繊維、ビニロン繊維、ガラス繊維などの複数の繊維を束ねた無端状の繊維束として形成されている。具体的に、本実施形態の繊維体4は、例えば破断伸び(破断時の伸び量(伸び率))が20%、25%、40%、引張強度が588N/cm、882N/cm、1764N/cm、ヤング係数が1.08×103N/mm2、3.14×102N/mm2、5.8×102N/mm2、ポアソン比が0.38、0.40、0.35の物理的性質(破断伸び)が異なる複数種の繊維を組み合わせて形成されている。
【0025】
さらに、無端状の繊維束として形成された本実施形態の繊維体4は、繊維方向Mを互いに平行にした一対の破断部4aと、一対の破断部4aに繋がる円弧状の一対の定着部4b、4cとを備え、一方の定着部4b側と、他方の定着部4c側とをそれぞれ直角に折り曲げて側面視コ字状に形成されている。そして、一方の定着部4b側と他方の定着部4c側とを、積層部3の積層方向M最外方の弾性体1(1a、1b)の内部にそれぞれ埋設し、破断部4aの一部を積層部3の側面に沿う積層方向T1に配した状態で設置されている。
【0026】
また、このとき、積層部3の各弾性体1は、薄板状の複数の高減衰ゴムを一体に積層して形成されており、繊維体4の一方の定着部4b側と他方の定着部4c側は、最外方の弾性体1(1a、1b)の薄板状の高減衰ゴムの間に挟み込んで埋設されている。そして、各定着部4a、4b側が例えば上部構造G1から作用した鉛直荷重で弾性体1が圧縮されるとともに上下の高減衰ゴムに押圧されて挟持され、強固に定着されている。これにより、繊維体4は、破断部4aの一部を積層方向T1に配した状態で、上下を積層部3に一体に定着して設置されている。
【0027】
ついで、上記構成からなる本実施形態の免震装置Aの作用及び効果について説明する。
【0028】
本実施形態の免震装置Aは、積層方向T1を上下方向に向け、積層方向T1上方の補剛体2(上鋼板2a)を上部構造G1に、積層方向T1下方の補剛体2(下鋼板2b)を下部構造G2に接触させて、上部構造G1と下部構造G2の間に介設される。そして、この免震装置Aは、鉛直荷重に対して高ばね化され、弾性体1と補剛体2によって(主に補剛体2の剛性によって)上部構造G1を支持することができる。
【0029】
一方、大規模な地震が発生した際には、水平荷重に対し弾性体1が水平方向T2に変形するように低ばね化されているため、積層部3(弾性体1)が水平方向T2に変形して地震エネルギーを吸収する。また、このとき、繊維体4が積層部3に一体に設けられ、この繊維体4の破断部4aが積層部3の積層方向T1に繊維方向Mを配した状態で設けられているため、地震エネルギーが作用して積層部3が水平方向T2に変形するとともに、繊維体4の破断部4aの複数の繊維に引張力が生じて積層部3の水平変形が抑制される。
【0030】
そして、本実施形態においては、破断伸びが異なる複数種の繊維を組み合わせて繊維体4が形成されているため、例えばレベル1地震動の地震時に、破断部4aの複数の繊維に20%の伸びが生じるように積層部3が水平方向T2に変形すると(積層部3の水平変形量が一定値以上になると)、破断伸びが20%の繊維が破断し、この繊維の破断エネルギーで地震エネルギーが吸収される。
【0031】
また、例えばレベル2地震動の地震時に、地震エネルギーを吸収しながら積層部3が水平方向T2に大きく変形すると、この積層部3の水平変形量が大きくなるに従って、破断部4aの複数の繊維が、破断伸びが20%の繊維、25%の繊維、40%の繊維の順に破断し、破断伸びが異なる繊維が段階的に破断する。このように積層部3の水平変形量に応じて破断伸びが異なる繊維が段階的に破断することによって順次地震エネルギーが吸収される。また、それぞれの繊維は、積層部3の水平方向T2の変形に従って伸びている間(破断するまで)、積層部3の水平変形を抑制するように作用する。
【0032】
すなわち、本実施形態のように、高減衰ゴムの弾性体1と鋼板の補剛体2とを交互に積層した積層部3に、繊維の繊維方向Mを積層方向T1に配した状態で、所望の伸び量で破断する繊維からなる繊維体4を一体に設けることで、免震装置Aの水平変位量を制御しながら地震エネルギーが吸収される。さらに、地震エネルギーの大きさに応じて(水平変形量の大きさに応じて)、繊維体4の複数の繊維が段階的に破断することによっても地震エネルギーが吸収される。これにより、広範の地震エネルギーに対し、免震装置Aの水平変位量を制御しつつ優れた地震エネルギーの減衰効果が発揮される。
【0033】
また、このとき、繊維体4を、繊維を束ねて無端状の繊維束として形成し、円弧状の定着部4b、4cを弾性体1(1a、1b)の内部に埋設させ、破断部4aの一部を積層方向T1に配した状態で強固に定着されている。これにより、積層部3の水平変形量に応じた引張力が確実に破断部4aに発生し、水平変形量に応じた伸び量で破断部4aの複数の繊維が伸び、水平変形量が一定値に達するとともに確実に破断部4aの繊維が破断して地震エネルギーが吸収される。
【0034】
したがって、本実施形態の免震装置Aにおいては、積層部3が高減衰ゴムの弾性体1と鋼板の補剛体2とを交互に積層して形成されているため、主に補剛体2の剛性によって、上部構造G1から作用する鉛直荷重を支持することが可能になる。また、繊維体4が繊維の繊維方向Mを積層方向T1に配して設けられているため、地震エネルギーが作用して積層部3(弾性体1)が水平方向T2に変形するとともに、繊維体4の繊維に引張力が作用して積層部3の水平変形が抑制される。そして、大きな地震エネルギーが作用して積層部3の水平変形量が一定値以上になると、繊維体4の繊維が伸びて破断し、この繊維の破断エネルギーで地震エネルギーを吸収することが可能になる。このため、適宜所望の伸び量で破断する繊維を用いて繊維体4を形成しておくことにより、積層部3の水平変形量を制御することが可能になり、且つ水平変形量の大きさに応じて(地震エネルギーの大きさに応じて)繊維体4の繊維を破断させることで地震エネルギーの減衰効果を得ることが可能になる。
【0035】
よって、本実施形態の免震装置Aによれば、弾性体1と補剛体2とを交互に積層した積層部3に、繊維の繊維方向Mを積層方向T1に配した状態で繊維体4を設けることにより、地震時に、免震装置Aの水平変位量を制御することが可能になるとともに、地震エネルギーを弾性体1の変形に加えて繊維体4の破断によって吸収し減衰させることが可能になる。これにより、地震エネルギーの大きさに応じて水平変形量を制御することができ、且つ優れた地震エネルギーの減衰効果を発揮して上部構造G1の揺れを確実に抑えることが可能になる。
【0036】
そして、このように、優れた減衰効果を発揮して上部構造G1の揺れを抑えることが可能になることで、例えば橋梁の主桁(主構)と橋台の間に介設した場合においても、従来の免震装置のように主桁の端部と橋台との間の遊間を大きく設定する必要がなくなり、フィンガージョイントなどのジョイント構造のコストを低減させることが可能になる。
【0037】
また、破断伸びが異なる複数種の繊維を組み合わせて繊維体4を形成することにより、地震エネルギーが作用して積層部3が水平方向に変形した際に、水平変形量に応じて繊維体4の破断伸びが小さい繊維から破断伸びが大きい繊維の順に破断させることが可能になる。これにより、例えばレベル1地震動の地震時に破断する繊維と、レベル2地震動の地震時に破断する繊維とを組み合わせて繊維体4を形成するなどして、広範の地震エネルギーに対し、免震装置Aの水平変位量を制御しつつ優れた地震エネルギーの減衰効果を確実に発揮させることが可能になる。
【0038】
さらに、繊維体4を、繊維を束ねた無端状の繊維束として形成し、破断部4aを積層方向T1に配した状態で、円弧状の定着部4b、4cを弾性体1(1a、1b)の内部に埋設して設置することで、上部構造G1から作用した鉛直荷重で弾性体1が圧縮されるとともにこの弾性体1に押圧されて定着部4b、4cを容易に且つ強固に積層部3に定着させることが可能になる。これにより、地震エネルギーが作用して積層部3が水平方向T2に変形し、繊維体4の破断部4aに引張力が発生した際に、定着部4b、4cが積層部3から引き抜かれるようなことがなく(繊維体4の定着が解除されるようなことがなく)、水平変形量に応じて確実に破断部4aの繊維を伸ばし、破断させることが可能になる。よって、免震装置Aの水平変位量を制御しつつ、より確実に優れた地震エネルギーの減衰効果を発揮させることが可能になる。
【0039】
以上、本発明に係る免震装置の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、繊維体4が破断部4a(繊維体4の複数の繊維の繊維方向Mが積層部3の積層方向T1に配される部分)を積層部3の外側(側面側)に配した状態で積層部3に一体に設けられているものとしたが、本発明の免震装置においては、例えば図3に示すように、繊維体4’、4’’を、積層部3の外側から内部に向かう水平方向T2に並設してもよい。この場合には、例えば積層部3(弾性体1及び補剛体2)に上下に連通するスリットを形成し、このスリットに繊維体4’’を挿通配置することによって、繊維の繊維方向Mを積層方向T1に配した状態で繊維体4’’を設置することができる。そして、並設する各繊維体4’、4’’を、破断伸びが異なる繊維を用いてそれぞれ形成することで、地震エネルギーが作用して積層部3が水平方向に変形した際に、水平変形量に応じて、積層部3の外側から内部に向かう水平方向T2に並設した破断伸びが小さい繊維を用いた繊維体4’(4’’)から破断伸びが大きい繊維を用いた繊維体4’’(4’)の順に繊維を破断させることが可能になる。これにより、例えばレベル1地震動の地震時に破断する繊維を用いた繊維体4’(4’’)と、レベル2地震動の地震時に破断する繊維を用いた繊維体4’’(4’)を並設するなどして、本実施形態と同様に、広範の地震エネルギーに対し、免震装置Aの水平変位量を制御しつつ優れた地震エネルギーの減衰効果を発揮させることが可能になる。
【0040】
さらに、本実施形態では、積層部3が直方体形状で形成され、4つの側面にそれぞれ繊維体4が設置されているものとしたが、本発明の免震装置においては、例えば図4に示すように、積層部3を円柱状に形成し、繊維体4をこの積層部3の周方向に並設してもよい。この場合には、例えば破断伸びが等しい同種の繊維を用いて形成した複数の繊維体4を設けた場合においても、地震エネルギーが作用して積層部3が水平方向T2に変形した際に、変形方向(地震エネルギーの作用方向)に応じて各繊維体4の繊維(及び同一の繊維体4を形成する各繊維)に作用する引張力を変えることができる。これにより、積層部3の水平変形量の大きさ、ひいては地震エネルギーの大きさに加えて、積層部3の変形方向に応じて、積層部3の周方向に並設した繊維体4の繊維を順次段階的に破断させることが可能になり、本実施形態と同様に、免震装置Aの水平変位量を制御しつつ優れた地震エネルギーの減衰効果を発揮させることが可能になる。なお、この場合において、破断伸びが異なる複数種の繊維を組み合わせて形成した繊維体4を積層部3の周方向に並設したり、個々の繊維体4’、4’’(4)を破断伸びが等しい同種の繊維を用いて形成し、破断伸びが異なる繊維を用いてそれぞれ形成した複数種の繊維体4’、4’’を積層部3の周方向に並設するようにしてもよい。
【0041】
また、本実施形態では、繊維体4が、繊維を束ねた無端状の繊維束であるものとしたが、本発明に係る繊維体は、繊維を備えて形成し、積層部3の積層方向T1に繊維方向Mが配されるように設けられていればよく、例えば繊維を並べてシート状に形成した繊維シートであってもよい。この場合には、繊維シート(繊維体)の両端側を例えば接着剤で積層部3に固着するなどして容易に定着させることが可能である。そして、地震エネルギーが作用して積層部3が水平方向T2に変形した際には、この水平変形量に応じて繊維シートの繊維が伸び、順次繊維を破断させることが可能である。よって、本実施形態と同様に、免震装置Aの水平変位量を制御しつつ地震エネルギーの優れた減衰効果を発揮させることが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 弾性体
2 補剛体
3 積層部
4 繊維体
4’ 繊維体
4’’ 繊維体
4a 破断部
4b 定着部
4c 定着部
5 保護カバー
A 免震装置
G1 上部構造
G2 下部構造
M 繊維方向
T1 積層方向(上下方向)
T2 水平方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造と下部構造の間に介設され、地震時に作用した地震エネルギーを吸収し減衰させて前記上部構造の揺れを抑えるための免震装置であって、
弾性体と補剛体とを交互に積層した積層部に繊維からなる繊維体を一体に設けて形成され、
前記繊維体が前記複数の繊維の繊維方向を前記積層部の積層方向に配した状態で設けられ、
前記繊維体は破断伸びが異なる複数種の繊維を組み合わせて形成されていることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
請求項1記載の免震装置において、
破断伸びが異なる繊維を用いてそれぞれ形成した前記繊維体が前記積層部の外側から内部に向かう水平方向に並設されていることを特徴とする免震装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の免震装置において、
前記積層部が円柱状に形成されており、前記繊維体が前記積層部の周方向に並設されていることを特徴とする免震装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の免震装置において、
前記繊維体は、繊維を束ねた無端状の繊維束として形成されており、
前記繊維方向を互いに平行にした一対の破断部を前記積層方向に配した状態で、前記一対の破断部に繋がる円弧状の一対の定着部をそれぞれ前記積層部の前記弾性体に埋設して設けられていることを特徴とする免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−141062(P2012−141062A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−87300(P2012−87300)
【出願日】平成24年4月6日(2012.4.6)
【分割の表示】特願2008−121251(P2008−121251)の分割
【原出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】