説明

免震装置

【課題】被支持体の重量変化があっても適切に免震効果を得ることの可能な免震装置を得る。
【解決手段】可変部材は、水平用積層ゴム体12に対して積層方向Bに直列的に配置され、被支持体の荷重に応じて弾性変形して積層方向Bに伸縮する。規制部材30は、可変部材の積層方向Bの伸縮長に応じて、側方からみて可変部材よりも水平用積層ゴム体12側へ突出可能とされ、該突出した突出部34により突出長に応じて水平用積層ゴム体12の水平方向のせん断変形を阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震等の振動から建築物、構造物を保護するため、従来から免震装置が用いられている。例えば、免震装置として、弾性板と金属板を相互に積層した積層体で構造物を支持するものが知られている。このような免震装置では、主に弾性板のせん断変形により、水平方向の振動が免震されている。(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
ところで、免震装置の免震特性は、支持する構造体の重量によって変化するため、支持の対象となる被支持体から受ける荷重を考慮して、所定の免震特性が得られるように設計されている。
【0004】
しかしながら、支持の対象となる被支持体の重量が変化する場合、例えば、タンクや貯水槽などの内容物の量によって重量の変化する被支持体では、免震特性を維持することが難しく、所望の免震効果を得ることが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−147993
【特許文献2】特表2006−514181
【特許文献3】登録実用新案312118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記事実を考慮して成されたものであり、支持の対象となる被支持体の重量変化があっても適切に免震効果を得ることの可能な免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に係る免震装置は、弾性板と剛性金属板とが交互に積層され、積層方向の一端が基部または被支持体の一方に固定された積層ゴム体と、前記積層ゴム体に対して前記積層方向に直列的に配置され、前記積層方向の一端が基部または被支持体の他方に固定されると共に前記積層方向の他端が前記積層ゴム体の前記積層方向の他端に固定され、被支持体の荷重に応じて弾性変形して前記積層方向に伸縮する可変部材と、前記積層方向の一端が基部または被支持体の他方に固定され、前記可変部材の前記積層方向の伸縮長に応じて、側方からみて前記可変部材よりも前記積層ゴム体側へ突出可能とされ、該突出により突出長に応じて前記積層ゴム体の水平方向のせん断変形を阻止する、規制部材と、を備えている。
【0008】
請求項1の免震装置は、積層ゴム体を有している。積層ゴム体は、積層方向の一端が基部または被支持体の一方に固定されている。ここで、被支持体とは、免震装置によって支持される構造物を意味している。また、基部は、免震装置が設置される土台、基礎を意味している。ここでの固定は、直接的な固定でもよいし、取付プレートなどの他の部材を介しての間接的な固定でもよい。
【0009】
積層ゴム体に対して積層方向に直列的に可変部材が配置されている。可変部材は、積層方向の一端が基部または被支持体の他方に固定されると共に前記積層方向の他端が前記積層ゴム体の前記積層方向の他端に固定されている。すなわち、可変部材は、積層ゴム体と被支持体の間、または、積層ゴム体と基部の間、に配置されている。なお、ここでの固定も、直接的な固定でもよいし、取付プレートなどの他の部材を介しての間接的な固定でもよい。可変部材は、免震装置で支持される被支持体の荷重に応じて弾性変形し積層方向に伸縮する。
【0010】
規制部材は、積層方向の一端が基部または被支持体の他方に固定され、可変部材の積層方向の伸縮長に応じて、側方からみて可変部材よりも積層ゴム体側へ突出可能とされている。すなわち、規制部材の一端は、可変部材の一端と同じ側の基部または被支持部に固定され、側方からみて可変部材よりも積層ゴム体側へ突出可能とされている。なお、ここでの固定も、直接的な固定でもよいし、取付プレートなどの他の部材を介しての間接的な固定でもよい。規制部材は、該突出した突出部により、突出長に応じて積層ゴム体の水平方向のせん断変形を阻止する。
【0011】
上記構成の免震装置では、被支持体の荷重が大きいときには、可変部材が圧縮するように弾性変形して、可変部材の積層方向が縮んで長さが短くなり、規制部材の積層ゴム体側への突出長は長くなる。したがって、積層ゴム体において、水平方向にせん断変形する部分の高さが大きく規制され、水平方向にせん断変形可能な部分の高さは短くなる。
【0012】
ここで、免震装置の免震特性を考えると、免震周期T、被支持体からの荷重m、及び、積層ゴム体の水平方向のバネ定数kの関係は、式(1)のようになる。
【0013】
【数1】

【0014】
したがって、荷重mが変化する場合、所望の免震周期fを確保するためには、被支持体からの荷重mの増加と共に積層ゴム体の水平方向のバネ定数kを高くすればよい。
【0015】
請求項1の免震装置によれば、前述のように、被支持体の荷重が大きくなると積層ゴム体の水平方向にせん断変形する部分の高さは短くなるので、積層ゴム体全体の水平方向のバネ定数は大きくなる。したがって、積層ゴム体の水平方向のばね定数が一定の場合と比較して、免震特性を維持することができる。
【0016】
請求項2に係る免震装置は、前記積層ゴム体には、前記積層方向に前記突出部が挿入される挿入孔が構成され、前記突出部は前記可変部材の伸縮に応じで前記挿入孔への挿入量が変化すること、を特徴とする。
【0017】
このように、積層ゴム体に挿入孔を構成し、規制部材を挿入孔へ挿入することにより、簡易な構成で、挿入量に応じて積層ゴム体の水平方向へのせん断変形可能部分の高さを変化させることができる。
【0018】
請求項3に係る免震装置は、前記可変部材の前記積層方向のバネ定数が、前記積層ゴム体の前記積層方向のバネ定数よりも小さいこと、を特徴とする
【0019】
このように、可変部材のバネ定数を積層ゴム体のバネ定数より小さくすることにより、積層ゴム体の積層方向の剛性を確保しつつ、可変部材を伸縮させて免震装置の免震特性を維持することができる。
【0020】
請求項4に係る免震装置は、前記可変部材が、ゴム体を含んで構成されていること、を特徴とする。
【0021】
このように、可変部材をゴム体を含んで構成することにより、積層ゴム体と一体的に形成することができ、製造を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明の免震装置によれば、支持の対象となる被支持体の重量変化があっても適切に免震効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係る免震装置の斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る免震装置を被支持体(軽量時)と基部との間に配置した状態を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る免震装置を被支持体(軽量時)の動作状態を示す断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る免震装置を被支持体(重量時)と基部との間に配置した状態を示す断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る免震装置を被支持体(重量時)の動作状態を示す断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態の変形例に係る免震装置を被支持体(軽量時)と基部との間に配置した状態を示す断面図である。
【図7】本発明の第1実施形態の他の変形例に係る免震装置の斜視図である。
【図8】本発明の第1実施形態の他の変形例に係る免震装置を被支持体(軽量時)と基部との間に配置した状態を示す断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る免震装置を被支持体(軽量時)と基部との間に配置した状態を示す断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る免震装置を被支持体(軽量時)の動作状態を示す断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る免震装置を被支持体(重量時)と基部との間に配置した状態を示す断面図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る免震装置を被支持体(重量時)の動作状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態]
【0025】
以下、本発明の第1実施形態に係る免震装置10について図面を参照して説明する。
【0026】
図1及び図2には、本発明の実施形態に係る免震装置10が示されている。免震装置10は、図2に示すように、免震装置10の支持対象である被支持体と、免震装置10が設置される基部54の間に配置されている。本実施形態の免震装置10は、特に、重量の変化が予め想定されている、タンク、貯水槽などの免震用として、好適に用いることができる。本実施形態では、貯水槽56を被支持体として支持する場合を例に説明する。免震装置10は、本発明の積層ゴム体としての水平用積層ゴム体12、及び、本発明の可変部材としての鉛直用積層ゴム体20を備えている。
【0027】
水平用積層ゴム体12は、複数枚の円板状の水平用金属板18と、複数枚の円板状の水平用ゴム16とを厚み方向(矢印B方向、図2参照)に交互に積層した積層体とされている。水平用金属板18と水平用ゴム16とは、加硫接着により強固に一体化されている。このように、水平用ゴム16だけでなく、水平用金属板18を使用してこれらを交互に積層したことで、鉛直方向(矢印B方向)の荷重に対しては所定の剛性を有し、水平方向(矢印E方向)の荷重に対しては、ばね機能を発揮すると共に所定の変形量を確保することが可能になっている。
【0028】
水平用金属板18の外径は、水平用積層ゴム体12の外径よりも小さくされており、水平用金属板18の外縁には、円筒状に被覆ゴム19が配置されている。この被覆ゴム19によって水平用金属板18が覆われており、水平用金属板18が外部へ露出せず劣化が防止されている。
【0029】
水平用積層ゴム体12の厚み方向(矢印B方向)の両端側には、取付プレート14A、14Bが固着されている。取付プレート14A、14Bは、肉厚の円環状の鋼板で構成されている。
【0030】
取付プレート14A、14Bはそれぞれ、地盤に設置される基部54、及び、鉛直用積層ゴム体20の後述する取付プレート22Bに固定される。この状態で、地盤(及び基礎)と貯水槽56とが水平方向に相対移動すると、この相対移動の振動エネルギーが、水平用積層ゴム体12のせん断変形によって一部吸収されるようになっている。
【0031】
水平用積層ゴム体12及び取付プレート14Aの円中心部分には、水平用積層ゴム体12を厚み方向(矢印B方向)に沿った挿入孔21が形成されている。挿入孔21には、後述する規制部材30が挿入される。
【0032】
鉛直用積層ゴム体20は、複数枚の円板状の鉛直用金属板24と、複数枚の円板状の鉛直用ゴム26とを厚み方向(矢印B方向)に交互に積層した積層体とされている。鉛直用ゴム26は、水平用ゴム16よりも厚みが厚く、鉛直用積層ゴム体20の積層方向Bのバネ定数は、水平用積層ゴム体12の積層方向Bのバネ定数よりも小さくなっている。鉛直用金属板24と鉛直用ゴム26とは、加硫接着により強固に一体化されている。このように、鉛直用積層ゴム体20の積層方向Bのバネ定数を、水平用積層ゴム体12の積層方向Bのバネ定数よりも小さくすることにより、水平用積層ゴム体12の積層方向Bの剛性を確保しつつ、鉛直用積層ゴム体20の積層方向Bの伸縮量αを、貯水槽56からの荷重に応じて比較的大きくすることが可能になっている。
【0033】
鉛直用積層ゴム体20の厚み方向(矢印B方向)の両端側には、取付プレート22A、22Bが固着されている。取付プレート22A、22Bは、肉厚の円環状の鋼板で構成されている。
【0034】
鉛直用金属板24の外径は、鉛直用積層ゴム体20の外径よりも小さくされており、鉛直用金属板24の外縁には、円筒状に被覆ゴム25が配置されている。この被覆ゴム25によって鉛直用金属板24が覆われており、鉛直用金属板24が外部へ露出せず劣化が防止されている。取付プレート22A、22Bはそれぞれ、貯水槽56、及び、水平用積層ゴム体12の取付プレート14Aに固定される。
【0035】
鉛直用積層ゴム体20及び取付プレート22Bの円中心部分には、鉛直用積層ゴム体20を厚み方向(矢印B方向)に貫通する貫通孔28が形成されている。貫通孔28には、後述する規制部材30が挿入される。
【0036】
規制部材30は、円柱状とされ、一端が取付プレート22Aに固定されている。規制部材30は、貫通孔28に挿入され、取付プレート22Aに固定された基端部32から水平用積層ゴム体12へ向かって延出されている。規制部材30の先端側は、取付プレート22B及び鉛直用積層ゴム体20の下面から突出され、水平用積層ゴム体12の挿入孔21に挿入されている。以下、取付プレート22B及び鉛直用積層ゴム体20の下面から突出されて、水平用積層ゴム体12の挿入孔21に挿入されている部分を「突出部34」という。規制部材30は、貫通孔28を構成する鉛直用積層ゴム体20の内壁及び挿入孔21を構成する水平用積層ゴム体12の内壁とは非接着とされている。
【0037】
突出部34の突出長34A(挿入量)は、貯水槽56からの荷重に応じて変化する鉛直用積層ゴム体20の積層方向Bの伸縮量αに応じて変化する。すなわち、鉛直用積層ゴム体20がα短くなると、突出長34Aはα長くなり、鉛直用積層ゴム体20がα長くなると、突出長34Aはα短くなる。
【0038】
規制部材30の突出部34は、側方からみて水平用積層ゴム体12と重なり合っている部分、すなわち突出長34A(図2、3参照)部分において、水平用積層ゴム体12のせん断変形を阻止する。したがって、水平用積層ゴム体12が水平方向にせん断変形可能な高さH1は、水平用積層ゴム体12の積層方向Bの全長と突出部34の突出長34Aとの差分に相当し、突出長34Aに応じて変化する。
【0039】
規制部材30は、鉛直用積層ゴム体20、及び、突出部34が挿入された部分の水平用積層ゴム体12の水平方向のせん断変形を阻止できるように、十分な剛性を有している。規制部材30は、一般構造用圧延鋼材/SS400、溶接構造用圧延鋼材/SM490などの、剛性の高い金属材料で構成することができる。
【0040】
次に、免震装置10の作用について説明する。
【0041】
免震装置10に対して、鉛直方向の荷重が作用していない場合(貯水槽56を支持していない場合)には、鉛直用積層ゴム体20は圧縮変形されず、伸縮量α=0である。このとき、規制部材30の先端は挿入孔21に挿入されず、取付プレート14Aの下面と略面一の高さに維持されている。
【0042】
貯水槽56の重量が最も軽い場合、すなわち、貯水槽56内の貯水量がほぼゼロである場合には、免震装置10は、貯水槽56からの荷重Mにより主として鉛直用積層ゴム体20が弾性変形し、鉛直用積層ゴム体20の伸縮量はα1となる。このとき、規制部材30の先端は挿入孔21に挿入され、突出部34の突出長34Aは、α1となる(図2参照)。
【0043】
この状態で、地震などの振動入力により、基部54と貯水槽56が水平方向に相対移動すると、図3に示すように、高さH1分の水平用積層ゴム体12がせん断変形し、振動エネルギーの一部が吸収され、免震効果を発揮することができる。
【0044】
貯水槽56の重量が最も重い場合、すなわち、貯水槽内の貯水量が満水の場合には、免震装置10は、貯水槽56からの荷重aMにより鉛直用積層ゴム体20が更に大きく弾性変形し、鉛直用積層ゴム体20の伸縮量はα2となる。このとき、規制部材30の先端は挿入孔21にさらに挿入され、突出部34の突出長34Aは、α2となる(図4参照)。
【0045】
この状態で、地震などの振動入力により、基部54と貯水槽56が水平方向に相対移動すると、図5に示すように、高さH2分の水平用積層ゴム体12がせん断変形し、振動エネルギーの一部が吸収され、免震効果を発揮することができる。
【0046】
ここで、免震装置10の免震特性を考えると、免震周期T、被支持体からの荷重m、及び、積層ゴム体の水平方向のバネ定数kの関係は、式(1)のようになる。
【0047】
【数2】

【0048】
したがって、荷重mが変化する場合、所望の免震周期Tとなるように、被支持体からの荷重mの増加と共に積層ゴム体の水平方向のばね定数kが高くなるように、突出長34Aが変化するように設計すればよい。
【0049】
本実施形態の免震装置10によれば、前述のように、貯水槽56からの荷重mが大きくなると水平用積層ゴム体の水平方向にせん断変形する部分の高さは短くなるので、水平方向用積層ゴム体12全体の水平方向のバネ定数kは大きくなる。したがって、水平用積層ゴム体12の水平方向のバネ定数kが一定の場合と比較して、免震特性を維持することができる。
【0050】
なお、本実施形態のように、荷重m=0のときの突出長34Aを0とすると、以下のようにして、鉛直用積層ゴム体20の鉛直バネ定数kを決定することができる。水平用ゴム16の外径をD、水平用積層ゴム体12の有効断面積をA、水平用ゴム16の1層の厚さをt、水平用金属板18の1層の厚さをt、水平用積層ゴム体12の総高さをh、水平用積層ゴム体12のせん断弾性率をG、貯水槽56からの荷重をm、重力加速度をg、鉛直用積層ゴム体20の鉛直バネ定数をk、水平用積層ゴム体12の水平バネ定数をk、所望の免震周期をT、とする。
【0051】
まず、水平バネ定数kは、式(2)のようになる。
【0052】
【数3】

【0053】
貯水槽56からの荷重がMからaMに変化した場合、鉛直用積層ゴム体20の縮み量は、Mg/kからam/kに変化する。これにより、規制部材30の突出長34AもMg/kからaM/kに変化する。したがって、水平バネ定数kは、式(3)から式(4)へ変化する。
【0054】
【数4】

【0055】
【数5】

【0056】
したがって、免震装置10の免震周期Tも、T(M)「式(5)」から、T(aM)「式(6)」へ変化する。
【0057】
【数6】

【0058】
【数7】

【0059】
よって、想定される被支持体からの荷重変動の範囲が、M<m<aM、である場合、
T(M)=T(aM)となるようにkを設計すれば、被支持体の質量が変化しても、免震周期Tの変動を抑制することができる。鉛直バネ定数kが(式7)を満たせば、T(M)=T(aM)が満たされる。なお、このときの免震周期T(m)は、(式8)となる。
【0060】
【数8】

【0061】
【数9】

【0062】
例えば、荷重mが、M<m<2M、の間で変動する場合に、得られる効果について考察する。被支持体からの荷重に応じて水平用積層ゴム体12のせん断変形可能な高さが変化しない場合、免震周期Tは、荷重2Mのときに最大値(2M/k1/2となり、荷重Mのときに最小値(M/k1/2となる。最小値に比べて最大値は、41%程度大きくなる。
【0063】
一方、本実施形態の免震装置10において、鉛直バネ定数kを(式7)のように設定すると、免震周期Tは(式8)より、m=3M/2のときに最大値(式9)をとり、m=M、2Mのときに最小値(式10)をとる。
【0064】
【数10】

【0065】
【数11】

【0066】
最小値に比べて最大値は、6%程度の変化になり、免震周期Tを所望の範囲に維持することができることがわかる。
なお、水平ばね定数kと鉛直ばね定数kの比k/kは、等価せん断弾性率と面圧の比程度となる。
【0067】
本実施形態では、鉛直方向の荷重が作用していない場合(貯水槽56を支持していない場合)の規制部材30の先端位置を、取付プレート14Aの下面と略面一の高さに設定したが、必ずしもこの位置に設定する必要はなく適宜変更可能である。例えば、貯水槽56の重量が最も軽い場合に、規制部材30の先端位置を取付プレート14Aの下面と略面一の高さに設定してもよい。
【0068】
また、本実施形態では、水平用積層ゴム体12を基部54へ固定し、鉛直用積層ゴム体20を貯水槽56へ固定したが、図6に示すように、水平用積層ゴム体12を貯水槽56へ固定し、鉛直用積層ゴム体20を基部54へ固定してもよい。
【0069】
また、本実施形態では、規制部材30を1本のみとしたが、2本以上、3本、4本など、複数本で構成してもよい。この場合には、貫通孔28、挿入孔21も、対応するように複数構成する。
【0070】
また、本実施形態では、可変部材として鉛直用積層ゴム体20を用いたが、金属板を積層せずにゴム材料のみで可動部材を構成することもできる。また、必ずしも可変部材としてゴム体を用いる必要はなく、空気バネ(図示省略)を用いてもよいし、図7に示されるように、コイルバネ36を可変部材として用いることもできる。この場合には、規制部材30の外周にコイルバネ36を配置し、コイルバネ36の一端を取付プレート22Aに固定し、他端を取付プレート22Bに固定すればよい。
【0071】
また、本実施形態では、水平用積層ゴム体12と鉛直用積層ゴム体20とを、取付プレート14A、22Bを介して積層する例について説明したが、図8に示すように、取付プレート14A、22Bを省略し、水平用積層ゴム体12と鉛直用積層ゴム体20とを一体的に構成してもよい。このように構成することにより、水平用積層ゴム体12と鉛直用積層ゴム体20の加硫を1回で行うことができ、製造工程を簡略化することができる。
【0072】
[第2実施形態]
【0073】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態と同一の部分については同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0074】
図9に示すように、本実施形態の免震装置40は、水平用積層ゴム体12及び鉛直用積層ゴム体20を有している。水平用積層ゴム体12及び鉛直用積層ゴム体20には、挿入孔21、貫通孔28が構成されておらず、さらに、取付プレート14A、22Bを有していない点が、第1実施形態と異なっている。
【0075】
取付プレート22Aには、外周規制部材42が固定されている。外周規制部材42は、鉛直用積層ゴム体20の径方向外側に周方向に沿って等間隔に複数本(3本以上)配置されている。外周規制部材42は、円柱状とされ、一端が取付プレート22Aに固定されている。外周規制部材42は、取付プレート22Aに固定された基端部43から水平用積層ゴム体12へ向かって延出されている。外周規制部材42の先端側は、鉛直用積層ゴム体20の下面から突出され、側方からみて水平用積層ゴム体12と重なり合うように突出されている。以下、鉛直用積層ゴム体20の下面から突出されて、水平用積層ゴム体12へ突出されている部分を「突出部44」という。
【0076】
突出部44の突出長44Aは、貯水槽56からの荷重に応じて変化する鉛直用積層ゴム体20の積層方向Bの伸縮量αに応じて変化する。
【0077】
外周規制部材42の突出部44は、側方からみて水平用積層ゴム体12と重なり合っている部分、すなわち突出長44Aにおいて、水平用積層ゴム体12のせん断変形を阻止する(図10参照)。したがって、水平用積層ゴム体12が水平方向にせん断変形可能な部分の高さH1は、水平用積層ゴム体12の積層方向Bの全長と突出部44の突出長44Aとの差分に相当し、突出長44Aに応じて変化する。
【0078】
外周規制部材42は、鉛直用積層ゴム体20、及び、突出部44が突出された部分の水平用積層ゴム体12の水平方向のせん断変形を阻止できるように、十分な剛性を有している。外周規制部材42は第1実施形態と同様に、一般構造用圧延鋼材/SS400、溶接構造用圧延鋼材/SM490などの、剛性の高い金属材料で構成することができる。
【0079】
次に、免震装置40の作用について説明する。
【0080】
免震装置40に対して、鉛直方向の荷重が作用していない場合(貯水槽56を支持していない場合)には、鉛直用積層ゴム体20は弾性変形されず、伸縮量α=0である。このとき、外周規制部材42の先端は水平用積層ゴム体12へ突出されず、鉛直用積層ゴム体20の下面と略面一の高さに維持されている。
【0081】
貯水槽56の重量が最も軽い場合、すなわち、貯水槽内の貯水量がほぼゼロである場合には、免震装置40は、貯水槽56からの荷重Mにより主として鉛直用積層ゴム体20が圧縮されて弾性変形し、鉛直用積層ゴム体20の伸縮量はα1となる。このとき、外周規制部材42の先端は水平用積層ゴム体12側へ突出され、突出部44の突出長44Aは、α1となる(図9参照)。
【0082】
この状態で、地震などの振動入力により、基部54と貯水槽56が水平方向に相対移動すると、図10に示すように、高さH1の水平用積層ゴム体12がせん断変形し、振動エネルギーの一部が吸収され、免震効果を発揮することができる。
【0083】
貯水槽56の重量が最も重い場合、すなわち、貯水槽内の貯水量が満水の場合には、免震装置10は、貯水槽56からの荷重aMにより鉛直用積層ゴム体20が更に圧縮されて大きく弾性変形し、鉛直用積層ゴム体20の伸縮量はα2となる。このとき、外周規制部材42の先端は水平用積層ゴム体12側へさらに突出され、突出部44の突出長44Aは、α2となる(図11参照)。
【0084】
この状態で、地震などの振動入力により、基部54と貯水槽56が水平方向に相対移動すると、図12に示すように、高さH2の水平用積層ゴム体12がせん断変形し、振動エネルギーの一部が吸収され、免震効果を発揮することができる。
【0085】
本実施形態の免震装置40によっても、貯水槽56からの荷重mが大きくなると水平用積層ゴム体の水平方向にせん断変形する部分の高さは短くなるので、水平方向用積層ゴム体12全体のバネ定数kは大きくなる。したがって、水平用積層ゴム体12の水平方向のバネ定数kが一定の場合と比較して、免震特性を維持することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 免震装置
12 水平用積層ゴム体(積層ゴム体)
16 水平用ゴム
18 水平用金属板
20 鉛直用積層ゴム体(可変部材)
21 挿入孔
24 鉛直用金属板
26 鉛直用ゴム
28 貫通孔
30 規制部材
34 突出部
34A 突出長
40 免震装置
42 外周規制部材
44A 突出長
44 突出部
54 基部
56 貯水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性板と剛性金属板とが交互に積層され、積層方向の一端が基部または被支持体の一方に固定される積層ゴム体と、
前記積層ゴム体に対して前記積層方向に直列的に配置され、前記積層方向の一端が前記基部または前記被支持体の他方に固定されると共に前記積層方向の他端が前記積層ゴム体の前記積層方向の他端に固定され、被支持体の荷重に応じて弾性変形して前記積層方向に伸縮する可変部材と、
前記積層方向の一端が前記基部または前記被支持体の他方に固定され、前記可変部材の前記積層方向の伸縮長に応じて、側方からみて前記可変部材よりも前記積層ゴム体側へ突出可能とされ、該突出した突出部により突出長に応じて前記積層ゴム体の水平方向のせん断変形を阻止する、規制部材と、
を備えた免震装置。
【請求項2】
前記積層ゴム体には、前記積層方向に前記突出部が挿入される挿入孔が構成され、前記突出部は前記可変部材の前記伸縮に応じで前記挿入孔への挿入量が変化すること、を特徴とする請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記可変部材の前記積層方向のバネ定数は、前記積層ゴム体の前記積層方向のバネ定数よりも小さいこと、を特徴とする請求項1または請求項2に記載の免震装置。
【請求項4】
前記可変部材は、ゴム体を含んで構成されていること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−163194(P2012−163194A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26272(P2011−26272)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】