説明

免震装置

【課題】上部構造体および下部構造体それぞれにおける設置孔の水平方向に沿う相対的な配置位置が設計と異なっていても、容易に設置する。
【解決手段】上部構造体11および下部構造体12に固定ボルト13により各別に固定される上下一対の端板14、15間に弾性体16が介在された免震装置1であって、端板14、15において、弾性体16から径方向の外側に張り出した外周部分14a、15aには、アダプタ板20が回転自在に嵌合される収納孔21が形成され、アダプタ板20には、固定ボルト13が挿通される長穴22が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば下記特許文献1に示されるような、上部構造体および下部構造体に固定ボルトにより各別に固定される上下一対の端板間に弾性体が介在された免震装置が知られている。
ここで、前記端板において弾性体から径方向の外側に張り出した外周部分には、取り付け孔が周方向に間隔をあけて複数形成されており、免震装置は、これらの取り付け孔に固定ボルトが各別に挿通されて各構造体に形成された設置孔に固定されることで設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−302982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の免震装置では、上部構造体および下部構造体それぞれにおける設置孔の水平方向に沿う相対的な配置位置が設計と異なっている場合に、設置作業が困難になるという問題があった。なおこのような位置ずれは、例えば、各構造体の施工精度が低かったり、あるいは地震や火災等により両構造体が互いに位置ずれしたりすること等によって生ずると考えられる。
そこで、このような問題を解決するための手段として、例えば、前記端板に形成する取り付け孔を、固定ボルトの外径に比べて相当大きくしたり、あるいは長穴にしたりすることが考えられる。
しかしながら、前者の場合では、固定ボルトと取り付け孔との間の隙間によって、免震装置が所期した性能を発揮し難くなり、また後者の場合では、対応可能な、前記設置孔の設計に対する水平方向に沿う位置ずれの方向が、一方向に限定されてしまい実用性に乏しい。
【0005】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、上部構造体および下部構造体それぞれにおける設置孔の水平方向に沿う相対的な配置位置が設計と異なっていても、容易に設置することができる免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の免震装置は、上部構造体および下部構造体に固定ボルトにより各別に固定される上下一対の端板間に弾性体が介在された免震装置であって、前記端板において、前記弾性体から径方向の外側に張り出した外周部分には、アダプタ板が回転自在に嵌合される収納孔が形成され、前記アダプタ板には、前記固定ボルトが挿通される長穴が形成されていることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、端板の外周部分に形成された収納孔に、長穴の形成されたアダプタ板が回転自在に嵌合されているので、上部構造体および下部構造体それぞれにおける設置孔の水平方向に沿う相対的な配置位置が設計と異なっていても、アダプタ板の長穴を設置孔に連通させ易くすることが可能になり、免震装置を容易に設置することができる。
すなわち、対応可能な、前記設置孔の設計に対する水平方向に沿う位置ずれの方向を、一方向に限定することなく、水平方向に沿う全ての方向として、この対応可能な位置ずれの範囲を広くすることができる。
【0008】
ここで、前記長穴は直線状に延在し、該長穴の両端は、前記アダプタ板の中央部および外周部に各別に位置してもよい。
【0009】
この場合、直線状に延びる長穴の両端が、アダプタ板における中央部を挟んだ両側の外周部ではなく、アダプタ板の中央部および外周部に各別に位置しているので、長穴の長さを抑えつつ、前述の作用効果を奏功させることができる。
【0010】
また、前記アダプタ板を覆う被覆体が備えられ、該被覆体は前記固定ボルトにより端板上に押し当てられてもよい。
【0011】
この場合、前記被覆体を備えるので、端板を各構造体に容易かつ確実に固定することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る免震装置によれば、上部構造体および下部構造体それぞれにおける設置孔の水平方向に沿う相対的な配置位置が設計と異なっていても、容易に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る一実施形態として示した免震装置の概略図である。
【図2】図1に示す免震装置の一部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る免震装置の一実施形態を、図1および図2を参照しながら説明する。
本実施形態の免震装置1は、建物本体等の上部構造体11および基礎等の下部構造体12に固定ボルト13により各別に固定される上下一対の端板14、15間に弾性体16が介在されて構成されている。
そして、この免震装置1は、下部構造体12と上部構造体11との間に配設されて、上部構造体11を下部構造体12に対して水平移動可能に支持している。
【0015】
ここで、一対の端板14、15はそれぞれ円板状体とされるとともに、弾性体16は円柱状体とされ、これら14〜16は上下方向に沿って延びる共通軸と同軸に配置されている。以下、この共通軸を軸線Oといい、水平方向のうち軸線Oに直交する方向を径方向といい、軸線Oを中心に周回する方向を周方向という。
【0016】
一対の端板14、15はそれぞれ、例えば金属材料若しくは硬質の樹脂材料等で形成されている。また、一対の端板14、15はそれぞれ、弾性体16より大径に形成され、かつ弾性体16における軸線O方向の両端に配設されており、これらの端板14、15の各外周部分14a、15aは、全周にわたって弾性体16から径方向の外側に張り出している。
弾性体16は、軟質板17と硬質板18とが軸線O方向に交互に積層され、かつこれらの軟質板17および硬質板18の全体が一体に径方向の外側から被覆ゴム19により被覆されて構成され、水平方向にせん断変形可能となっている。軟質板17および被覆ゴム19は、一体に形成された加硫ゴムとされるとともに、複数の硬質板18に加硫接着されている。なお、硬質板18は、例えば金属材料若しくは硬質の樹脂材料等で形成される。
【0017】
そして本実施形態では、一対の端板14、15の各外周部分14a、15aに、アダプタ板20が回転自在に嵌合される収納孔21が形成されている。収納孔21は、一対の端板14、15の各外周部分14a、15aに、周方向に間隔をあけて複数形成され、各収納孔21にアダプタ板20が回転自在に嵌合されている。収納孔21およびアダプタ板20はそれぞれ平面視円形状に形成されている。
【0018】
アダプタ板20には、固定ボルト13が挿通される長穴22が形成されている。長穴22は直線状に延在し、長穴22の両端は、アダプタ板20の中央部および外周部に各別に位置している。
さらに本実施形態では、アダプタ板20を覆う被覆体23が備えられ、該被覆体23は固定ボルト13により端板14、15上に押し当てられている。
【0019】
被覆体23は、外径が収納孔21およびアダプタ板20より大きい円板状体となっている。さらに被覆体23には、図2に示されるように、その径方向に延びる切欠き穴25が形成されていて、被覆体23は平面視C字状に形成されている。切欠き穴25は、アダプタ板20に形成された長穴22より長く、かつ固定ボルト13の外径より僅かに幅が広くなっている。そして固定ボルト13は、切欠き穴25およびアダプタ板20の長穴22を通して、上部構造体11や下部構造体12に形成された設置孔内に到達して固定されている。
また本実施形態では、長穴22に、例えばコンクリート、樹脂材料若しくは金属材料等の充填剤24が充填され、固定ボルト13と長穴22の内周面との間の隙間が埋められている。
【0020】
次に、以上のように構成された免震装置1を設置する方法について説明する。
まず、アダプタ板20を収納孔21に嵌合したときに、設置孔と長穴22とが連通していない場合には、アダプタ板20を収納孔21内で回転させて、長穴22を設置孔に連通させる。そして、被覆体23の切欠き穴25内に挿通された固定ボルト13を、長穴22を通して設置孔内に到達させて固定する。これにより、被覆体23が、固定ボルト13により端板14、15上に押し当てられてアダプタ板20を覆う。
その後、アダプタ板20の長穴22のうち、被覆体23の切欠き穴25に開口している部分から、切欠き穴25を通して、長穴22内に充填剤24を注入して硬化させ、固定ボルト13と長穴22の内周面との間の隙間を埋める。
【0021】
以上説明したように、本実施形態による免震装置1によれば、端板14、15の外周部分14a、15aに形成された収納孔21に、長穴22の形成されたアダプタ板20が回転自在に嵌合されているので、上部構造体11および下部構造体12それぞれにおける設置孔の水平方向に沿う相対的な配置位置が設計と異なっていても、アダプタ板20の長穴22を設置孔に連通させ易くすることが可能になり、免震装置1を容易に設置することができる。
すなわち、対応可能な、前記設置孔の設計に対する水平方向に沿う位置ずれの方向を、一方向に限定することなく、水平方向に沿う全ての方向として、この対応可能な位置ずれの範囲を広くすることができる。
【0022】
また、直線状に延びる長穴22の両端が、アダプタ板20における中央部を挟んだ両側の外周部ではなく、アダプタ板20の中央部および外周部に各別に位置しているので、長穴22の長さを抑えつつ、前述の作用効果を奏功させることができる。
さらに、被覆体23を備えるので、端板14、15を各構造体11、12に容易かつ確実に固定することができる。
【0023】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0024】
例えば前記実施形態では、被覆体23は、切欠き穴25を有しない円環状体であってもよい。この場合、被覆体23に長穴22に開口する注入穴を形成し、該注入穴を通して、長穴22内に充填剤24を注入してもよい。
また、免震装置1を設置するに際し、長穴22を設置孔に連通させた後に、被覆体23の切欠き穴25内に挿通された固定ボルト13を、長穴22を通して設置孔内に到達させて固定したが、これに代えて例えば、固定ボルト13を長穴22に挿通した状態で、被覆体23を水平方向にスライド移動させ、切欠き穴25内に固定ボルト13を進入させてもよい。
【0025】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
上部構造体および下部構造体それぞれにおける設置孔の水平方向に沿う相対的な配置位置が設計と異なっていても、容易に設置することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 免震装置
11 上部構造体
12 下部構造体
13 固定ボルト
14、15 端板
14a、15a 外周部分
16 弾性体
20 アダプタ板
21 収納孔
22 長穴
23 被覆体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体および下部構造体に固定ボルトにより各別に固定される上下一対の端板間に弾性体が介在された免震装置であって、
前記端板において、前記弾性体から径方向の外側に張り出した外周部分には、アダプタ板が回転自在に嵌合される収納孔が形成され、
前記アダプタ板には、前記固定ボルトが挿通される長穴が形成されていることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
請求項1記載の免震装置であって、
前記長穴は直線状に延在し、該長穴の両端は、前記アダプタ板の中央部および外周部に各別に位置していることを特徴とする免震装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の免震装置であって、
前記アダプタ板を覆う被覆体が備えられ、該被覆体は前記固定ボルトにより端板上に押し当てられていることを特徴とする免震装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−82939(P2012−82939A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231553(P2010−231553)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】