説明

免震装置

【課題】簡易な構成で圧力損失(減衰量)を低減し、補助タンクを有効利用することで、免震効果の向上を図る。
【解決手段】免震装置120は、建築物のスラブ110と床構造体130に狭装された空気ばね150と、空気ばねと連通管154を通じて連通する複数の補助タンク152とを備え、複数の補助タンクは、空気ばねに並列に連設される。こうして、連通管による圧力損失を抑制し、適切な数の補助タンクを連設することで、免震効果が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動を低減して床構造体を効果的に保護する免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
免震装置は、柔軟に変位可能なアイソレータによって、地震時の振動(地震動)を低減し、コンピュータや精密機器を積載した床構造体にその振動を極力伝達させない装置である。免震装置は、鉛直方向に機能するものと水平方向に機能するものがある。鉛直方向の免震装置としては、コイルバネ(例えば、特許文献1)や空気ばねが用いられる。ここでは、コイルバネや空気ばねのばね定数が小さいほど、地面(スラブ)の振動が床構造体に伝達しないこととなる。
【0003】
しかし、ばね定数を小さくするため単に空気ばねの容積を増やすには限界がある。そこで、空気ばねに並行してコイルバネ等を用い、鉛直方向の振動の長周期化を実現する技術が知られている(例えば、特許文献2、3)。また、空気ばねに補助タンクを連設し、空気ばねの見かけの体積を増やす技術も開示されている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−288234号公報
【特許文献2】特開2007−71399号公報
【特許文献3】特開2004−44748号公報
【特許文献4】特開平10−205112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空気ばねに補助タンクを連設する技術では、空気ばねの見かけの体積を増やすことで、地震発生時におけるスラブの振動による床構造体への影響を低減することができる。また、空気ばねと補助タンクとを連通する連通管の口径を絞り、連通管に減衰機能を持たせることで、平常時においては、人の移動や歩行による荷重変化に応じた床構造体の揺れを抑制することも可能となる。
【0006】
ただし、補助タンクとして必要な容積に比べ、スラブと床構造体との制限された空間において補助タンクが占有可能な容積は小さいので、通常、補助タンクは、所定容積の複数の耐圧容器を連設して構成される。また、補助タンクそれぞれの配置や他の構造部材との取り回しの関係から、従来では空気ばねに対して補助タンクが直列に連設されていた。
【0007】
このように補助タンクを直列に複数連設する場合、スラブと床構造体とによって占有空間が制限されているので、補助タンクを直線上に配置するのは困難である。したがって、空気ばねと補助タンク、または、補助タンク同士を、他と連設する口である通気口の方向を異にして配置し、管の中心軸が屈折したエルボ等を連通管に設ける必要があった。そうすると、エルボによる圧力損失(圧力損出)が生じ、想定していた減衰量を大幅に上回る事態が生じていた。また、補助タンクを直列に連設することで、空気ばねと離隔した補助タンクでの圧力損失が大きくなり、圧力変動が離間した補助タンクまで伝達しなくなって、連設する補助タンクを増やしたとしても、最早、ばね定数の低減に寄与しないという問題もあった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、連通管による減衰効果を維持し、補助タンクを有効利用することで、免震効果の向上を図ることが可能な、免震装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の免震装置は、建築物のスラブと床構造体に狭装された空気ばねと、空気ばねと連通管を通じて連通する複数の補助タンクと、を備え、複数の補助タンクは、空気ばねに並列に連設されることを特徴とする。
【0010】
連通管は、空気ばねに設けられた複数の通気口と複数の補助タンクとをそれぞれ連通してもよい。
【0011】
複数の通気口のうち、少なくとも1の通気口は、他の通気口より開口面積が大きいとしてもよい。このとき、1の通気口と他の通気口の直径比は、1よりも大きく16よりも小さくてもよい。
【0012】
連通管は、空気ばねに設けられた通気口から延伸し、さらに複数に分岐することで、空気ばねと複数の補助タンクとをそれぞれ連通してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な構成で連通管による減衰効果を維持し、補助タンクを有効利用することで、免震効果の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】免震システムの概略的な構成を説明するための説明図である。
【図2】空気ばねと複数の補助タンクとの位置関係を示した説明図である。
【図3】空気ばねに、補助タンクが接続された系の力学モデルを示した説明図である。
【図4】スラブに印加された振動の床構造体への影響を説明するための説明図である。
【図5】空気ばねと複数の補助タンクとの位置関係を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
(免震システム100)
図1は、免震システム100の概略的な構成を説明するための説明図である。免震システム100は、スラブ110と、免震装置120と、床構造体130とを含んで構成され、地震動を低減して床構造体130を効果的に保護することが可能である。
【0017】
スラブ110は、建築物における構造物基礎の最上部の床構造または上下階間の床構造であり、面に垂直な荷重を支える石やコンクリート等の厚板を示す。本実施形態において、スラブ110は、地震時に地面と一体的に振動する。免震装置120は、地震時にスラブ110にかかる振動を、床構造体130に極力伝達させない装置である。本実施形態では、振動を伝達させない鉛直方向のアイソレータとして空気ばねおよびオイルダンパが用いられる。床構造体130は、建築物屋内における居住者や作業者が移動可能な領域の床部分に相当する。
【0018】
地震等が生じると、スラブ110が地面と一体となって振動するが、免震装置120がスラブ110から床構造体130へ伝達される振動を低減するので、床構造体130上にいる居住者や作業者への地震の影響は少なくなる。このとき、免震能力を高めるためには、免震装置120のばね定数は小さい方がよい。しかし、免震能力を高めようとして、免震装置120における空気ばねのばね要素を単に柔らかくするだけでは、床構造体130上にいる居住者や作業者等の移動や歩行による荷重変動に対しても床構造体130が揺れてしまい、居住者や作業者は違和感を覚えることとなる。また、床構造体130上にコンピュータや精密機器を積載している場合、このような振動の影響を極力回避しなければならない。
【0019】
そこで、本実施形態では、免震装置120を構成する空気ばねに複数の補助タンクを並設し、さらに、その連通部分を工夫することで、地震発生時におけるスラブ110の振動による床構造体130への影響を低減すると共に、平常時においては、人の移動や歩行による荷重変化に応じた床構造体130の揺れを抑制する。以下、このような目的を実現可能な免震装置120の詳細な構成を説明する。
【0020】
(免震装置120)
免震装置120は、図1に示すように、空気ばね150と、補助タンク152と、連通管154と、オイルダンパ156と、相対変位検出部158と、空気圧制御部160と、空気源162と、サーボバルブ164とを含んで構成される。
【0021】
空気ばね150は、ベローズ形やダイヤフラム形の可撓性容器で形成された外装中に、所定の圧力の空気(気体)を封入してなる弾性体である。空気ばね150は、建築物のスラブ110と床構造体130に狭装されている。また、空気ばね150は、内包する空気の容積を変化させることで任意にばね定数を設定することができ、極めて柔らかい弾性を実現することが可能である。したがって、金属ばねでは吸収しきれない微震を低減することもでき、地震動によっては共振し難いといった特性も有している。
【0022】
免震装置120の弾性体として、仮に金属ばねを用いた場合、コンピュータ等のダウンサイジングによって床構造体130上の積載物の重量が変わり床構造体130の固有振動数が高くなると(固有周期が短期化すると)、それに合わせて金属ばね自体を、ばね定数が小さい新たな金属ばねに交換しなければならなくなる。また、このような金属ばねの硬化により免震能力が低下してしまうといった問題も生じることとなる。本実施形態で用いられる空気ばね150では、積載荷重が変化しても固有振動数がほとんど変化しないので、メンテナンスや免震能力の維持において有利である。
【0023】
また、空気ばね150は可撓性容器で形成された弾性体なので、鉛直方向のみならず、水平方向の免震能力も備えているが、実用性の面から、水平方向の免震には、別途、積層ゴム等を用いるのが一般的である。説明の便宜上、本実施形態においては、鉛直方向の免震を担う空気ばね150の作用のみに着目し、水平方向の免震については記載を省略する。
【0024】
ここでは、空気を用いた空気ばね150を採用しているが、空気に限らず、液体等、その用途に応じた流体を封入した流体ばね等も用いることができる。また、ここでは、説明の便宜上、空気ばね150内の気体を空気と表現しているが、その成分を限定するものではなく、様々な気体を適用することができる。
【0025】
補助タンク(補助空気室)152は、複数の耐圧容器で構成され、連通管154を通じて空気ばね150に連通している。また、他の補助タンク152に連通することもある。
【0026】
上述したように、地震動に対する固有周期の長周期化を図るためには、空気ばね150を大きくする必要がある。ここでは、空気ばね150に補助タンク152を連設することで、空気ばね150の見かけの容積を増やして固有周期の長周期化を図る。このような空気ばね150の見かけの容積を効果的に増やすためには、補助タンク152の容積を大きくとる必要がある。ただし、スラブ110と床構造体130との間の空間は狭く、他の構造部材もあるため、補助タンク152の形状や占有体積が制限され、配置自由度が小さい。ここでは、補助タンク152を複数並設することで、容積を確保することとする。詳しくは後述するが、本実施形態においては、空気ばね150と複数の補助タンク152とを、直列ではなく並列に連設している。
【0027】
連通管154は、空気ばね150と補助タンク152とを連通する。また、補助タンク152同士を連通することもある。図1における連通管154と空気ばね150および補助タンク152との連通位置は、模式的に説明するためのものであって、実際には、剛性等を踏まえ適所に配置される。また、連通管154は、その管の径を例えばオリフィス等により絞ることで(例えば、口径を10mm以下とすることで)、地震動を減衰する機能も生じる。このような連通管154の絞りは、可変バルブの開口度調整や、内周の異なるワッシャーの置換等を通じて調整することができる。
【0028】
また、連通管154に、リリーフバルブや電磁弁等を設けることもできる。リリーフバルブは、空気ばね150と補助タンク152との気圧差が所定閾値以上になると自体の弁を開き、空気ばね150と補助タンク152とを連通し、空気ばね150と補助タンク152との気圧差が再び所定閾値未満となると弁を閉じる。電磁弁は、地震の発生を地震波検知センサで検知して電気的な駆動弁を開閉する。こうして、地震動の大きさに応じて空気ばね150のばね定数を切り換えることが可能となる。
【0029】
オイルダンパ156は、地震動による振動エネルギーを吸収し(減衰し)、当該免震装置120に必要な減衰機能を空気ばね150と補助タンク152とによる減衰機構と按分する。オイルダンパ156としては、減衰係数(減衰特性)が固定されたものを用いることもできるが、地震動の大きさに応じて減衰係数が切り換わるセミ・アクティブ型のオイルダンパ156を用いてもよい。
【0030】
ところで、空気ばね150は、床構造体130上の荷重変動に応じて、その荷重変動に対応した内圧を得るために空気ばね150内の容積が変化し、床構造体130の鉛直位置が変化する場合がある。ここでは、図1に示した、相対変位検出部158、空気圧制御部160、空気源162、サーボバルブ164を用いて、以下のように床構造体130をレベル制御している。
【0031】
相対変位検出部158は、スラブ110に立設され床構造体130に対するレーザ反射時間を検出するレーザ変位計等で構成され、スラブ110と床構造体130との相対変位(鉛直方向の相対距離)を検出する。
【0032】
空気圧制御部160は、床構造体130上の荷重変動による床構造体130自体の変位に応じて、その変位を相殺する制御指令を生成し、後述するサーボバルブ164に送信する。
【0033】
空気源162は、コンプレッサで構成され、空気ばね150および補助タンク152に空気を供給することで、大気圧より高い気圧を任意に加えることができる。
【0034】
サーボバルブ164は、空気圧制御部160からの制御指令に応じて空気源162の気圧を制御し、空気ばね150および補助タンク152の気圧を増減する。また、初期設定時には、空気ばね150および補助タンク152の両者の気圧が予め設定された所定の気圧になるように空気源162から空気を供給させる。
【0035】
(空気ばね150と補助タンク152との連設例)
上述したように、空気ばね150は、1または複数の補助タンク152を連設することで見かけの体積を増やすことができる。例えば、空気ばね150がベローズ形である場合において、空気ばね150の横断面積の変化率を無視すると、空気ばね150のばね定数は、大凡、容積の逆数に比例し、固有振動数は、そのばね定数の2乗根に比例する。したがって、1または複数の補助タンク152すべての総容積(合計の容積)を空気ばね150の3倍とし、空気ばね150と補助タンク152とを連通した場合、空気ばね150のばね定数は、連通していないときの1/(1+3)=1/4倍になり、固有振動数は1/√4=1/2倍となる。例えば、補助タンク152を連通していないときの固有振動数が1Hzであれば、連通すると0.5Hzとなる。このように、補助タンク152を連設すればするほど、固有周期の長周期化を図ることができ、地震発生時におけるスラブ110の振動による床構造体130への影響を低減することができる。ただし、補助タンク152の総容積は空気ばね150の容積の3倍以下とするのが望ましい。
【0036】
また、上述したように、空気ばね150と補助タンク152とを連通する連通管154の口径を絞ることで、免震装置120に減衰機能を持たせることができる。このような連通管154による減衰量は連通管154を流れる流体の速度の増加の2乗に比例して大きくなる。したがって、空気ばね150が受ける振動の周波数が高いほど減衰量が大きくなる。こうして、上記地震発生時におけるスラブ110の振動による床構造体130への影響を低減するのみならず、平常時においては、人の移動や歩行による荷重変化に応じた床構造体130の高周波数の揺れを抑制することが可能となる。
【0037】
ところで、従来、このような補助タンク152は、その配置や他の構造部材との取り回しの関係から、空気ばね150に対して直列に連設されていた。補助タンク152を直列に連設すると、連設に用いるエルボの圧力損失の変動範囲が大きいため、全体的な減衰量を設定し難く、減衰量の事後的な調整を余儀なくされたり、空気ばね150と離隔した補助タンク152、即ち、空気ばね150との間に複数段の他の補助タンク152が存在する補助タンク152では、他の補助タンク152による圧力損失が大きくなり、圧力変動が伝達しなくなって、その連通管154において有効な減衰効果を得られない、という問題があった。連通管154において減衰効果を得られないことは、換言すれば、その後段の補助タンク152が見かけの体積としても機能しないこととなり、最早、その後段の補助タンク152は、ばね定数の低減に寄与していなかった。そこで、本実施形態では、空気ばね150と複数の補助タンク152とを並列に連通し、空気ばね150と連通管154との距離を短くする。
【0038】
図2は、空気ばね150と複数の補助タンク152(図2中、152a、152b、152cで示す。)との位置関係を示した説明図である。図2(a)では、空気ばね150に3つの通気口150a、150b、150cが設けられ、連通管154は、通気口150a、150b、150cと3つの補助タンク152とをそれぞれ連通している。ただし、補助タンク150は3つに限らず、また、その空気ばね150における通気口150a、150b、150cの配置も図示の位置に限定されない。
【0039】
このように空気ばね150と補助タンク152a、152b、152cとを並列に連通することで、連通管154の総口径は、1つの場合と比較して3倍となり、それぞれの連通管154の流量および流速は1/3となる。そうすると、各連通管154で負担する減衰量が1/9となる。そこで、補助タンク152を直列に連設する場合に相当する減衰を並列に連設する場合においても維持するためには、各連通管154の口径を1/3にすればよい。
【0040】
ここでは、空気ばね150と補助タンク152a、152b、152cとを並列に連通しているので、空気ばね150と補助タンク152a、152b、152cとの距離を均一的に短くすることができる。そうすると、補助タンク152をさらに増設したとしても補助タンク152が見かけの体積として機能し、ばね定数をさらに低減することが可能となる。かかる事象については、力学モデルや振動伝達率を用いて以下に詳述する。
【0041】
図3は、空気ばね150に、補助タンク152が接続された系の力学モデルを示した説明図である。図3(a)は、本実施形態における、補助タンク152a、152b、152cを並列に連設した場合の力学モデルを示し、図3(b)は、従来における、3つの補助タンク152を直列に連設した場合の力学モデルを示している。ここで、補助タンク152はバネ剛性Kと減衰係数Cとを並列接続した等価式で表すことができる。図3(b)のモデルでは、例えば、減衰係数C、C、Cのうち、いずれかの減衰が過大になると、それ以降のばねおよび減衰は、どのような数値であろうと機能しなくなる。これは、物理的に途中の連接箇所を閉じてしまうと、最早、後の補助タンク152には空気が行き届かなくなり、活用できなくなってしまうことを意味する。したがって、直列に連設した補助タンク152の段数が増えたとしても、任意の補助タンク152以降の補助タンク152では、最早ばね定数の低減に寄与しない。これに対して図3(a)では、並設した補助タンク152の減衰係数C、C、Cが免震システム100全体に同等に影響し、減衰係数C、C、Cのうち、いずれかの減衰が大きくても、機能しなくなるのは閉じられた補助タンク152のみとなり、他への影響はない。そうすると、並設数を増やせば増やすほど、ばね定数を低減することができる。このように、直列接続においては、減衰は並列に機能するので、簡単のために、減衰係数C、C、Cの値を同一(C=C=C=C)とすると、C/3となる。一方、並列接続では、減衰は直列に機能するので、減衰は3C=C+C+Cで表すことができる。したがって、並列連設では、補助タンク152の組み合わせを変えることで、空気ばね150と補助タンク152との容積比を容易に調整することが可能となる。
【0042】
図4は、スラブ110に印加された振動の床構造体130への影響を説明するための説明図である。図4では、横軸に振動周波数、縦軸に振動伝達率が示されている。図4を参照すると、補助タンク152を並列に連設した方が、補助タンク152を直列に連設した場合と比較して、圧力損失が軽減され、減衰量が小さく(1/2倍)なるので、振動伝達率のピークは2倍に増えるものの、比較的高周波数の振動に対して振動伝達率が小さくなっているのが理解できる。こうすることで、連通管154の絞りやオイルダンパ156による減衰量を調整する自由度が増えることとなる。
【0043】
また、減衰量が小さくなるので(連通管による減衰効果を維持できるので)、補助タンク152のさらなる増設が可能となり、補助タンク152を増設した分、見かけの体積を増やし、ばね定数を低減することができる。さらに、不用意にエルボを多用することがなくなるので、減衰量が想定外に大きくなることもなく、全体的な減衰量の変動幅も推定でき、連通管154の絞りやオイルダンパ156による減衰量の調整が容易となる。
【0044】
また、ここでは、空気ばね150に連設する補助タンク152の数だけ通気口を設ける例を示したが、かかる場合に限らず、図2(b)の如く、空気ばね150に1の通気口150aのみを設けてもよい。この場合、連通管154は、通気口150aから延伸し、さらに複数に分岐することで、空気ばね150と複数の補助タンク152a、152b、152cとをそれぞれに連通する。かかる構成によっても、通気口を複数設けた場合同様の作用効果を期待することができる。
【0045】
(空気ばね150と補助タンク152との他の連設例)
図5は、空気ばね150と複数の補助タンク152(図5中、152a、152b、152c、152dで示す。)との位置関係を示した説明図である。図5では、図2(b)同様、空気ばね150に1つの通気口150aが設けられ、連通管154は、空気ばね150と複数の補助タンク152a、152b、152cとをそれぞれに連通する。また、図5の例では、さらに、空気ばね150に通気口150dが設けられ、連通管154は、通気口150dと1つの補助タンク152dとを連通している。
【0046】
また、ここでは、通気口150aの口径と通気口150dの口径が異なる。具体的に、通気口150aは、連通管154による所望する減衰効果を得られる大きさ(例えば直径13mm以下、面積130mm以下)で構成され、通気口150dは、通気口150aより開口面積が大きく設定され(例えば直径25〜35mm、面積490〜960mm)、比較的、圧力損失に影響がないように構成される。通気口150aと通気口150dとの直径比は1より大きく4よりも小さい倍率となり、面積比は1より大きく16よりも小さい倍率となる。これは、乱流を仮定した場合に、開口面積が絞られることによって生じる減衰が直径比の4乗で効くことに基づく。
【0047】
こうすることで、補助タンク152a、152b、152cを見かけの体積とする一方で、補助タンク152dを空気ばね150と一体的に捉えることが可能となる。上述したように、補助タンク152の総容積は空気ばね150の容積の3倍以下とするのが望ましいが、補助タンク152dは実質的に空気ばね150の容積が大きくなったとみなすことができるので、補助タンク152a、152b、152cの総容積を、空気ばね150および補助タンク152dの総容積の3倍まで許容できることとなる。したがって、設計の自由度を高めることが可能となる。
【0048】
また、減衰効果を得る目的で連設する補助タンク152が3つに限られないのと同様、空気ばね150の実質的な容積を増量するための補助タンク152(補助タンク152d)も上記1つに限らず、また、その空気ばね150における通気口150a、150dの配置も図示の位置に限定されない。
【0049】
以上、説明した免震装置120では、補助タンク152を並列に連設するといった簡易な構成で連通管による減衰効果を維持し、補助タンクを有効利用することができ、免震効果の向上を図ることが可能となる。
【0050】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、地震動を低減して床構造体を効果的に保護する免震装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
100 …免震システム
110 …スラブ
120 …免震装置
130 …床構造体
150 …空気ばね
150a、150b、150c、150d …通気口
152 …補助タンク
154 …連通管
156 …オイルダンパ
158 …相対変位検出部
160 …空気圧制御部
162 …空気源
164 …サーボバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物のスラブと床構造体に狭装された空気ばねと、
前記空気ばねと連通管を通じて連通する複数の補助タンクと、
を備え、
前記複数の補助タンクは、前記空気ばねに並列に連設されることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記連通管は、前記空気ばねに設けられた複数の通気口と前記複数の補助タンクとをそれぞれ連通することを特徴とする請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記複数の通気口のうち、少なくとも1の通気口は、他の通気口より開口面積が大きいことを特徴とする請求項2に記載の免震装置。
【請求項4】
前記1の通気口と他の通気口の面積比は、1よりも大きく16よりも小さいことを特徴とする請求項3に記載の免震装置。
【請求項5】
前記連通管は、前記空気ばねに設けられた通気口から延伸し、さらに複数に分岐することで、前記空気ばねと前記複数の補助タンクとをそれぞれ連通することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−68265(P2013−68265A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206736(P2011−206736)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(509338994)株式会社IHIインフラシステム (104)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】