説明

入力装置

【課題】ユーザの押圧操作による押圧力に応じた信号を、精度を向上させて出力することができる入力装置を提供する。
【解決手段】入力装置11は、車両1の車室内に設けられ、受圧面34aに作用する押圧力を検出する圧電素子33と、車両1の振動強度を検出する振動ピックアップ4と、振動ピックアップ4の検出値に基づいて、車両1の振動が圧電素子33の検出値に与える影響を減じるように、圧電素子33の検出値を補正するDSP50と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押圧操作による押圧力を検出する入力装置に関し、特に車両に搭載される入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のステアリングホイールの近傍に設けられ、車両の電装品に対して入力操作を行うための入力装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されたハンドル用スイッチユニットは、ハンドルのスポーク部分の表側に設けられる表側スイッチ部材と、裏側に設けられる裏側スイッチ部材とを備え、これら両スイッチ部材をスポーク部分を挟むようにして一体化するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−310740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このハンドル用スイッチユニットは、オン又はオフの信号のみを出力する構成であるので、例えば空調装置の温度設定やカーナビゲーションシステムの地図の縮尺等のように、複数の設定段階のうちの1つを指定する場合には何回もスイッチを押圧操作しなければならず、操作が煩雑になる場合がある。また、車両の振動等の外乱の影響により、スイッチの接点がチャタリングする等の問題が発生するおそれもある。またさらに、例えば複数個のスイッチ要素が押圧力に応じて動作する多段スイッチを用いた場合には、より振動等の影響による誤操作が発生しやすくなる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、押圧操作による押圧力に応じた信号を、精度を向上させて出力することができる入力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明は上記目的を達成するため、車両の車室内に設けられ、受圧面に作用する押圧力を検出する押圧力検出部と、前記車両の振動強度を検出する振動強度検出部と、前記振動強度検出部の検出値に基づいて、前記車両の振動が前記押圧力検出部の検出値に与える影響を減じるように、前記押圧力検出部の検出値を補正する補正手段と、を備えた入力装置を提供する。
【0008】
[2]前記押圧力検出部及び前記振動強度検出部は、前記車両の運転者による操舵操作に伴って回転する操舵部材に配置された、前記[1]に記載の入力装置であってもよい。
【0009】
[3]前記補正手段は、前記押圧力検出部の検出値から、前記補正後の検出値が小さくなるように調整された係数に基づいて処理された前記振動強度検出部の検出値を差し引いて補正を行う、前記[1]又は[2]に記載の入力装置であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、押圧操作による押圧力に応じた信号を、精度を向上させて出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る入力装置が搭載された車両の車室内の概略図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る操作部の概略の構成例をその周辺部と共に示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態の構成を説明するためのブロック図であり、(a)は入力装置の概略の構成例を、(b)は補正手段としてのDSPが実行する処理内容の一例を、それぞれ示す。
【図4】図4は、補正処理結果の例を示す図であり、(a)は操作部の出力信号波形を、(b)は振動ピックアップの出力信号波形を、(c)は信号処理回路の出力信号のレベルを表す波形を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る入力装置が搭載された車両の車室内の概略図である。車両1の車室内には、運転者の操舵操作に伴って回転する操舵部材としてのステアリング2、ユーザとしての運転者が押込操作する際の押圧力を検出する押圧力検出部としての操作部3、運転者からその表示画面10aの表示内容を視認可能な位置に配置された表示装置10、及びその他の装置が配置されている。操作部3は、ステアリング2に設けられ、運転者がステアリング2を把持した状態で操作可能な位置に配置されている。
【0013】
ステアリング2は、環状のステアリングホイール20と、ステアリング2の中心部にて車両1の操舵機構のステアリングシャフト(図示せず)に連結された本体部21と、ステアリングホイール20と本体部21とを連結する第1〜第4のスポーク部22a〜22dとを備えて概略構成されている。本体部21は、ステアリングパッド21aに覆われている。操作部3は、ステアリング2の中立位置(操舵角がゼロの位置)において、運転者から見て右上の部位にあたる第1のスポーク部22aに配置されている。
【0014】
図2は、操作部3の概略の構成例をその周辺部と共に示す断面図である。操作部3は、ステアリング2の第1のスポーク部22aに埋め込まれたケース部材31と、ケース部材31の底部に配置された弾性体32と、弾性体32に一方の側面が接触するように配置された押圧力検出部としてのシート状の圧電素子33と、一端部が圧電素子33の他方の側面に接触する受圧部材34とから概略構成されている。
【0015】
受圧部材34の一端部には圧電素子33を押圧する押圧面34bが形成されている。また、受圧部材34の他端部はケース部材31の開口部31aから突出し、この他端部には、運転者の押込操作による押圧力を受ける受圧面34aが形成されている。
【0016】
そして、操作部3は、運転者が受圧面34aをケース部材31側に向かって押圧操作すると、圧電素子33が受圧部材34の押圧面34bによって弾性体32に押し付けられて弾性的に変形し、押圧力に応じた強度の電気信号を圧電素子33の両端部に設けられた引き出し電極331,332から出力するように構成されている。
【0017】
ケース部材31は、ステアリングホイール20の回転力を本体部21に伝達する金属製のベース部材220に固定されている。受圧部材34は、ベース部材220を覆う合成樹脂製の被覆体221に形成された開口部221aから、受圧面34aが運転者に対向して外部に露出するように配置されている。
【0018】
また、ベース部材220には、ケース部材31に隣接して、振動強度検出部としての振動ピックアップ4が固定されている。振動ピックアップ4は、受圧部材34の受圧面34aの押圧方向(受圧面34aに垂直な方向)の振動を検出する向きに配置されている。振動ピックアップ4の検出方式としては、例えば圧電式や動電式、あるいはピエゾ抵抗式等の方式を採用することができる。
【0019】
また、ステアリング2の内部には、ベース部材220に固定されて、操作部3及び振動ピックアップ4からの信号を処理する信号処理回路5が設けられている。操作部3、振動ピックアップ4、及び信号処理回路5は、入力装置11を構成する。
【0020】
図3(a)は、入力装置11の概略の構成例を示すブロック図である。入力装置11は、操作部3、振動ピックアップ4、及び信号処理回路5を備え、出力値を表示装置10に送信するように構成されている。
【0021】
信号処理回路5は、DSP(Digital Signal Processor:デジタル信号処理プロセッサ)50と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等からなる記憶部51と、第1の信号増幅器(AMP)52と、第1のA/D変換器53と、第2の信号増幅器(AMP)54と、第2のA/D変換器55と、送信回路56とを備えて構成されている。DSP50は、記憶部51に記憶されたプログラムに従って動作することにより、圧電素子33によって検出した押圧力を補正する補正手段として機能する。
【0022】
第1の信号増幅器52は、操作部3の圧電素子33が出力する信号を増幅する。第1のA/D変換器53は、第1の信号増幅器52で増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、受圧面34aに作用する押圧力の検出値としてDSP50に出力する。
【0023】
第2の信号増幅器54は、振動ピックアップ4が出力する信号を増幅する。第2のA/D変換器55は、第2の信号増幅器54で増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、車両1の振動強度の検出値としてDSP50に出力する。
【0024】
送信回路56は、DSP50から出力された押圧力検出補正値を表示装置10に適した通信データ、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)、車載ネットワーク上のデータ、もしくはシリアルデータに変換し、表示装置10に送信する。
【0025】
図3(b)は、DSP50が補正手段として実行する処理内容の一例を示すブロック図である。この例では、LMS(Least Mean Square:最小二乗法)による適応型ノイズ抑制方式を用いた場合について説明する。
【0026】
DSP50は、第2のA/D変換器55の出力値(振動強度の検出値)に基づいて、車両1の振動が第1のA/D変換器53の出力値(押圧力の検出値)に与える影響を減じるように、第1のA/D変換器53の出力値を補正する。即ち、第1のA/D変換器53からDSP50に入力される押圧力の検出値は、運転者が意図して入力した押圧力の成分の他に、車両1の振動に起因するノイズ成分を含むので、このノイズ成分を除去するように第1のA/D変換器53の出力値を補正する。
【0027】
図3(b)に示すように、振動強度の検出値は、LMSブロック501及びFIRフィルタ(Finite Impulse Response Filter:有限インパルス応答フィルタ)502に入力される。また、押圧力の検出値は遅延ブロック504に入力される。遅延ブロック504は、FIRフィルタ502の応答遅れに対応する時間分の遅延を生じさせる。FIRフィルタ502の出力値は、減算器503に入力され、遅延ブロック504の出力値から減算される。減算器503の出力値は、押圧力検出補正値として送信回路56に出力されると共に、LMSブロック501に入力される。
【0028】
LMSブロック501は、減算器503の出力値の二乗和が最小となるように、FIRフィルタ502のフィルタ係数を動的に調整する。FIRフィルタ502は、与えられたフィルタ係数に基づいて、振動強度の検出値に対して有限インパルス応答によるフィルタリングを行う。
【0029】
前述のように、第1のA/D変換器53からDSP50に入力される押圧力の検出値は、運転者が意図して入力した押圧力の成分とノイズ成分とが混合されたものであるので、この押圧力の検出値から減算器503によってFIRフィルタ502の出力値を減算すると、ノイズ成分が減少し、信号レベルが小さくなり、ノイズ成分が最小になる。このように、DSP50による補正処理が行われる。
【0030】
図4は、DSP50による補正処理結果の例を示す図であり、(a)は操作部3の出力信号波形を、(b)は振動ピックアップ4の出力信号波形を、(c)は信号処理回路5の出力信号のレベルを表す波形を、それぞれ示す。
【0031】
例えば、車両1が路面を走行しているときに運転者が操作部3の受圧部材34の受圧面34aを押圧すると、路面の凹凸に起因する振動やエンジンの振動等の影響により、図4(a)に示すように、運転者の押圧操作による押圧力の成分の他に、車両1の振動による成分が混合された出力信号が操作部3から出力される。
【0032】
一方、振動ピックアップ4は、図4(b)に示すように、車両1の振動を検出して振動強度に応じたレベルの出力信号を出力する。
【0033】
信号処理回路5は、操作部3による押圧力の検出値から、FIRフィルタ502を通過した振動強度の検出値を減算することにより車両1の振動による成分を減少させ、図4(c)に示すように、運転者が意図した押圧力の成分を抽出し、表示装置10に送信する。
【0034】
表示装置10は、信号処理回路5から受信した信号のレベルに応じて、例えば表示画面10aに表示された地図の縮尺を変更したり、あるいは表示画面10aに表示された複数の選択項目のうちの1つを選択するためのカーソルを移動させる等の処理を行う。
【0035】
(実施の形態の効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る入力装置によれば、運転者の押圧力に応じて連続的にレベルが変化する信号を出力することができるので、オン又はオフの信号のみを出力するスイッチに比べ、押込操作に対応して出力される信号の情報量を増大させることができる。従って、運転者は、例えば表示装置10の表示内容に対して、多段階の設定を単純な操作で行うことが可能となる。
【0036】
また、DSP50は、振動ピックアップ4によって検出した振動に基づいて、押圧力の検出値を補正するので、車両1の振動の影響を低減し、ユーザの押圧操作による押圧力に応じた信号を、精度良く出力することができる。
【0037】
また、振動ピックアップ4は、操作部3と共通の部材に固定されているので、操作部3が受ける振動との相関が強い振動を検出することができ、さらに押圧力の検出値の精度を向上させることができる。
【0038】
また、操作部3は、運転者がステアリングホイール20を把持しながら操作することが可能な位置に固定されているので、例えば砂利道走行等の振動が激しい状況で操作部3を操作する場合でも、路面から車輪への入力によって操舵角が変化してしまうことを抑制できる。
【0039】
また、DSP50による補正処理では、LMSブロック501により動的に調整されたフィルタ係数を用いてFIRフィルタ502が動作し、押圧力の検出値を補正するので、車両1の走行状況に応じて精度良く補正処理を行うことができる。
【0040】
[他の実施の形態]
以上、本発明に好適な実施の形態を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で例えば以下に示すような種々の変形が可能である。
【0041】
上記実施の形態では、圧電素子33に作用する力によって受圧部材34への押圧力を検出するように操作部3を構成したが、これに限らず、他の方法によって押圧力を検出してもよい。例えば、受圧部材34をバネによって運転者側に押し付け、運転者が受圧部材34を押込操作した際の受圧部材34の変位量によって押圧力を検出してもよい。
【0042】
また、上記実施の形態では、操作部3をステアリング2の第1のスポーク部22aに設けたが、これに限らず、第2のスポーク部22b,第3のスポーク部22c,第4のスポーク部22dの何れか1つ、又はこれらのうちの複数の部位の表側(運転者側)もしくは裏側に操作部3を設けてもよい。あるいは、本体部21のステアリングパッド21aに操作部3を設けてもよい。またさらに、ステアリング2に限らず、車両1のコンソールパネルや表示装置10の周辺部等、運転者又は同乗者が操作可能な位置に操作部3を設けてもよい。
【0043】
また、上記実施の形態では、振動ピックアップ4を操作部3と共通の部材(ベース部材220)に固定したが、これに限らず、振動ピックアップ4と操作部3とを異なる部材に固定してもよい。例えば、振動ピックアップ4は、DSP50等が実装されたプリント基板に実装してもよく、ステアリング2以外の車両1の振動を検知することが可能な部位に設けてもよい。
【0044】
また、上記実施の形態では、車両1の振動強度を検出する振動強度検出部として振動ピックアップ4を用いたが、これに限らず、例えば音の大きさによって振動を検出するためのマイクロホンを用いてもよい。
【0045】
また、上記実施の形態では、FIRフィルタ502のフィルタ係数をLMSブロック501により調整するようにしたが、フィルタ係数は固定であってもよい。またさらに、他の適合フィルタ収束アルゴリズムを用いてもよい。
【0046】
また、上記実施の形態では、FIRフィルタ502によってフィルタリング処理を行った振動強度の検出値を押圧力の検出値から減算するように補正手段を構成したが、これに限らず、振動強度の検出値に所定の係数を乗じた積を検出値から減算するようにして補正手段を構成してもよい。
【0047】
また、上記実施の形態では、入力装置11から表示装置10に信号を出力するようにしたが、これに限らず、例えば車両1の空調装置に出力するようにしてもよい。この場合、受圧部材34の受圧面34aに作用する押圧力に基づいて、空調装置の設定温度を変化させること等が可能となる。
【0048】
また、LMSブロック501、FIRフィルタ502、及び減算器503は、DSP50の動作によって実現されるものに限らず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されるものでもよい。
【0049】
また、信号処理回路5が出力する信号は、量子化されたデジタル信号であってもよく、アナログ信号であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…車両、2…ステアリング、3…操作部、4…振動ピックアップ、5…信号処理回路、10…表示装置、10a…表示画面、11…入力装置、20…ステアリングホイール、21…本体部、21a…ステアリングパッド、22a〜22d…第1〜第4のスポーク部、31…ケース部材、31a…開口部、32…弾性体、33…圧電素子、34…受圧部材、34a…受圧面、34b…押圧面、51…記憶部、52…第1の信号増幅器、53…第1のA/D変換器、54…第2の信号増幅器、55…第2のA/D変換器、56…送信回路、220…ベース部材、221…被覆体、221a…開口部、331,332…引き出し電極、501…LMSブロック、502…FIRフィルタ、503…減算器、504…遅延ブロック


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車室内に設けられ、受圧面に作用する押圧力を検出する押圧力検出部と、
前記車両の振動強度を検出する振動強度検出部と、
前記振動強度検出部の検出値に基づいて、前記車両の振動が前記押圧力検出部の検出値に与える影響を減じるように、前記押圧力検出部の検出値を補正する補正手段と、
を備えた入力装置。
【請求項2】
前記押圧力検出部及び前記振動強度検出部は、前記車両の運転者による操舵操作に伴って回転する操舵部材に配置された請求項1に記載の入力装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記押圧力検出部の検出値から、前記補正後の検出値が小さくなるように調整された係数に基づいて処理された前記振動強度検出部の検出値を差し引いて補正を行う請求項1又は2に記載の入力装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−243396(P2011−243396A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114108(P2010−114108)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】