説明

内径面加工方法、内径面加工用ツールおよび内径面加工装置

【課題】砥石部の径方向への拡幅振動により、ワークの被加工穴内径面についての高い加工能率化を実現することができる内径面加工技術を提供する。
【解決手段】ツール本体30と、このツール本体30の一部に設けられ、軸方向振動により径方向へ拡幅振動する構造を有する砥石加工部31と、ツール本体30に軸方向振動を与える超音波振動子32とを備えてなり、超音波振動子32によりツール本体30に軸方向振動が与えられると、この軸方向振動により砥石加工部31が径方向へ拡幅振動して、ワークの被加工穴内径面に対して径方向振動を伴った加工を行う。これにより、ホーニング加工等の内径面加工における加工効率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内径面加工方法、内径面加工用ツールおよび内径面加工装置に関し、さらに詳細には、特に工作物の小径の被加工穴内径面を仕上加工するのに適した内径面加工技術に関する。
【背景技術】
【0002】
工作物(以下、ワークと称する)の被加工穴内径面を仕上加工する内径面加工、例えば、ワークの穴内径面を鏡面に仕上げるホーニング加工においては、ホーニング盤の回転主軸先端にホーニングツールを取り付けて、このホーニングツールとワークを相対的に浮動の状態におき、ホーニングツールに回転と往復運動を与えるとともに、ホーニングツールの砥石を拡張ロッドのウェッジまたはコーンにより拡張させながら、ワーク内径面に精密仕上げを行う。
【0003】
ところで、ホーニング加工においては、図13(a)に示すように、砥石a、a、…がワークWの被加工穴内径面Waに常に接しながら研削加工を行っており、これは、図13(b)に示すように、回転砥石(砥石車)bを加工部として備える研削加工において、砥石車bが1回転でワークWの被加工面Wbに一瞬だけ接するのと対照をなす。
【0004】
このように、砥石a、a、…がワークWの被加工穴内径面Waに常に接するホーニング加工においては、砥石面gからの切り屑の排出性が悪いという状況下にある。
【0005】
例えば、図13(c)は、ホーニング加工において、砥石a、a、…のワークWに対する切り込み量が小さい場合を示しているが、このように切り込み量が小さい場合は、砥石aの砥石面gとワークWの被加工穴内径面Waの間に隙間dがあり、この隙間dは切り屑eが排出されるための通路となる。
【0006】
さらに砥石a、a、…のワークWに対する切り込み量が大きくなると、切り屑eが排出されるための隙間dは狭くなり、これに伴い、切り屑eの排出を助ける切削油剤も流入し難くなり、これがため、切り屑eは上記砥石面gと被加工穴内径面Waとの間から排出されずに砥石面gの砥粒hに付着してしまい、上記隙間dをさらに狭くする。この結果、切削により発生する熱は逃げ難くなり、ホーニング加工精度の悪化を招くことになる。これは、砥粒hが細かく(砥粒径寸法が小さく)なることで、さらに加工状態を厳しくする。
【0007】
この点に関して、特許文献1および特許文献2に開示されるようなホーニング加工技術が知られている。これらのホーニング加工技術は、ホーニング工具が、回転運動と往復運動を同時に行うとともに、これらの運動に加えて、超音波励起されて固有振動数で振動するように構成されている。
【0008】
そして、ホーニング工具に加えられた超音波振動により、従来に比較して材料除去量が増えるだけでなく、穴の良好な形状修正が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表平6−506157
【特許文献2】特表平7−502459
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、この特許文献1および特許文献2に開示されるような従来のホーニング加工技術においては、振動子はホーニング工具を振動させたい方向に向けて配置される構成であるため、ホーニング工具を径方向に拡張させるには振動子を径方向に向けて配置できる配置空間が必要で、加工対象であるワーク径が小さい場合には、超音波振動を加えることは困難であり、実際には行われていなかった。
【0011】
すなわち、これら従来のホーニング技術における振動は、軸方向成分と径方向成分を含むところ、これら両成分は固有振動数の影響下にあり、しかも、前者の軸方向成分に比較して後者の径方向成分は小さくて(効率が悪く)、この振動の径方向成分を仕上がり寸法の調整はもとより、切り込み運動として積極的に活用するには不十分であり、またそのような技術思想は存在していなかった。
【0012】
また、これら従来のホーニング技術においては、ホーニング工具の工具長さや形状寸法などの設計条件も、拘束条件が多くて厳しく、この点からも実用上さらなる改良の余地があった。
【0013】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、砥石部の径方向への拡幅振動により、ワークの被加工穴内径面についての高い加工能率化を実現することができる内径面加工技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の内径面加工方法は、工作機械等の主軸に取り付けた加工用ツールによって、ワークの被加工穴内径面を加工する内径面加工方法であって、上記加工用ツールとして、そのツール本体の一部に、ツール本体の軸方向振動により径方向へ拡幅振動する構造の砥石加工部を設け、上記ツール本体に軸方向振動を与えることにより、上記砥石加工部を径方向へ拡幅振動させてワークの被加工穴内径面を加工することを特徴とする。
【0015】
好適な実施態様として、上記ツール本体に軸方向振動を与える振動付与手段が、上記ツール本体の基端に一体接続された超音波振動子の形態とされている。
【0016】
また、本発明の内径面加工用ツールは、工作機械等の主軸に取り付けられて、ワークの被加工穴内径面を加工するものであって、ツール本体と、このツール本体の一部に設けられ、軸方向振動により径方向へ拡幅振動する構造を有する砥石加工部と、上記ツール本体に軸方向振動を与える振動付与手段とを備えてなることを特徴とする。
【0017】
好適な実施態様として、以下の構成が採用される。
(1)上記振動付与手段は、上記ツール本体の基端に一体接続された超音波振動子である。
【0018】
(2)上記ツール本体の下端部に上記砥石加工部の錘作用をなす錘部が設けられるとともに、この錘部の上側に少なくとも径方向外方への撓み特性を有する砥石部が設けられて、上記砥石加工部が構成され、上記振動付与手段による上記ツール本体の軸方向振動と上記錘部の錘作用との協働作用により、上記砥石部が径方向外方へ撓んで拡幅振動する。
【0019】
(3)上記錘部は、少なくとも上記砥石部の構成材料よりも比重(密度)の大きな材料から構成されている。
【0020】
(4)上記砥石部は、上記ツール本体の円筒外周に連続する中空円筒体に複数の拡幅用スリットが設けられて中空構造の砥石本体が形成されるとともに、上記砥石本体の外周面に砥粒が電着されてなる。
【0021】
(5)上記砥石部は、上記ツール本体の外周部に沿った円筒輪郭上に複数枚の薄肉金属板が配されて中空構造の砥石本体が形成されるとともに、この砥石本体の外周面に砥粒が電着されてなる。
【0022】
また、本発明の内径面加工装置は、加工ツールとして、上述の内径面加工用ツールが主軸に取り付けられてなり、上記振動付与手段により、上記加工ツールの砥石加工部が径方向へ拡幅振動して、ワークの被加工穴内径面を仕上加工することを特徴とする。
【0023】
好適な実施態様として、以下の構成が採用される。
(1)上記振動付与手段は、上記ツール本体の基端に一体接続された超音波振動子からなり、この超音波振動子は、上記主軸内に配置されている。
【0024】
(2)加工中に上記超音波振動子を動作制御することにより、上記砥石加工部の拡幅振動の振幅量をインプロセスで調整する構成を備える。
【0025】
(3)上記インプロセスで調整される上記砥石加工部の拡幅振動の振幅量が砥石摩耗量である。
【0026】
(4)上記インプロセスで調整される上記砥石加工部の拡幅振動の振幅量が加工寸法調整のための振幅量である。
【0027】
(5)超音波振動子に対する電力供給が非接触給電である。
【0028】
(6)ワークの被加工穴内径面の軸線方向へ往復移動可能とされるとともに、軸線まわりに回転可能に軸支されてなる回転主軸である上記主軸と、この回転主軸を軸線回りに回転駆動する主軸回転手段と、上記回転主軸を上記被加工穴内径面の軸線方向へ往復動作させる主軸往復手段と、上記主軸回転手段および主軸往復手段の動作を相互に連動して自動制御する制御手段とを備えてなる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、工作機械等の主軸に取り付けた加工用ツールとして、そのツール本体の一部に、ツール本体の軸方向振動により径方向へ拡幅振動する構造の砥石加工部を設け、上記ツール本体に軸方向振動を与えることにより、上記砥石加工部を径方向へ拡幅振動させてワークの被加工穴内径面を加工するから、上記ツール本体に軸方向振動が与えられると、この軸方向振動により上記砥石加工部が径方向へ拡幅振動して、これを切り込み運動に活用することにより、ワークの被加工穴内径面に対して径方向振動を伴った機械的除去加工を行うことができる。
【0030】
すなわち、本発明によれば、例えば、超音波の軸振動を、砥石加工部の径方向への拡幅振動として効率的に変換することができ、ホーニング加工等の内径面加工における加工効率を向上させることができる。このような加工用ツールにおける工具径方向の大きな振動の発現は、ワークの被加工穴内径面の精密加工技術に新しい進展をもたらすものである。
【0031】
換言すれば、砥石加工部が径方向に振動することで、砥石加工部がワークの被加工穴内径面に対して切り込んで、これら両者間の隙間が狭くなったり、砥石加工部がワークの被加工穴内径面から離れて、これら両者間の隙間が広くなったりと、これら両状態の間での動作を繰り返す結果、ここに生じるポンプ作用で切削油が上記隙間に入りやすく、また排出されることで、切り屑の排出性が上がる。
【0032】
これにより、内径面加工時の切削抵抗が過度に上がらないので、砥石加工部の切り込み量を大きく設定することで加工時間が短縮される。また、薄肉ワークには切削抵抗が小さいので、ひずみが少なく高精度な穴加工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る実施形態1であるホーニング盤を示す側面図である。
【図2】同ホーニング盤の主要構成部であるホーニングツールを示す正面断面図である。
【図3】同ホーニングツールのツール本体を示す正面図である。
【図4】同ツール本体の砥石加工部を拡大して示す正面図で、図4(a)は常態時の状態を示し、図4(b)は拡幅時の状態を示す。
【図5】同ホーニングツールの構造と超音波振動メカニズムとの関係を模式的に示す図である。
【図6】同ツール本体の砥石加工部を拡大して示す模式図で、図6(a)は拡幅時の状態、図6(b)は常態時の状態、および図6(c)は縮幅時の状態をそれぞれ示す。
【図7】同ツール本体の砥石加工部の変形例を拡大して示す模式図である。
【図8】同ツール本体のホーニング砥石(砥石部)の拡幅時の断面輪郭形状の種類を示す輪郭線図である。
【図9】同ホーニングツールの砥石加工部の砥石面とワークの被加工穴内径面との関係を模式的に示す図で、図9(a)はホーニングツールの砥石加工部の砥石面による切り込み隙間が狭くなった状態を示し、図9(b)は同切り込み隙間が広くなった状態を示す。
【図10】図10(a)は、同ホーニングツールによるワークの被加工内径面の仕上げ面の走査電子顕微鏡写真、および図10(b)は従来のホーニングツールによるワークの被加工穴内径面の仕上げ面と比較して示す走査電子顕微鏡写真である。
【図11】同ホーニングツールによるワークの被加工内径面の仕上げ面粗さを、従来のホーニングツールによるワークの被加工穴内径面の仕上げ面粗さと比較して示すグラフである。
【図12】本発明の実施形態2に係るホーニングツールのツール本体の砥石加工部を示す正面図で、図12(a)は常態時の状態を示し、図12(b)は拡幅時の状態を示す。
【図13】図13(a)は,ホーニング加工における砥石とワークの被加工穴内径面との関係を示す模式図、図13(b)は,研削加工における砥石とワークの被加工面との関係を示す模式図、図13(c)は、ホーニング加工における砥石部の砥石面とワークの被加工穴内径面との関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面全体にわたって同一の符号は同一の構成部材または要素を示している。
【0035】
本発明に係る内径面加工装置を図1に示し、この内径面加工装置は、具体的には、ワークWの小径(図示の場合は内径4.0mm程度)の被加工穴Wa内径面をホーニング加工するホーニング盤であって、加工ツールとして本発明の特徴構成であるホーニングツール(内径面加工用ツール)1を回転主軸2の先端に備えるとともに、このホーニングツール1が、砥石切り込み部としての砥石振動部3により径方向へ拡幅振動しながら、ワークWの被加工穴内径面Waをホーニング仕上加工するものである。
【0036】
ホーニング盤は、上記構成に加えて従来公知の基本構造を備える。すなわち、ホーニング盤は、ワークWの被加工穴内径面Waの軸線方向へ往復移動可能とされるとともに、その軸線まわりに回転可能に軸支されてなる上記回転主軸2、この回転主軸2をその軸線回りに回転駆動する主軸回転駆動部(主軸回転手段)4、および回転主軸2をワークWの被加工穴内径面Waの軸線方向へ往復動作させる主軸往復駆動部(主軸往復手段)5を主要部として備えてなり、これら主要部は装置本体であるコラム7上に装置されるとともに、上記主軸回転駆動部4および主軸往復駆動部5が装置制御部(制御手段)6により相互に連動して駆動制御される構成とされている。
【0037】
また、ワークWは、その被加工穴内径面である円筒内径面Waの軸線が上下方向へ向いた状態で、ワーク保持部のワーク保持治具8に水平方向へ浮動状態(前後左右方向へ揺動可能な状態)でかつ取外し交換可能に支持される。
【0038】
回転主軸2は、その先端つまり下端に上記ホーニングツール1を備えるとともに、主軸駆動軸10、動力伝達部11a〜11cおよび駆動モータ12等を含む上記主軸回転駆動部4と、スライド本体15、送りネジ機構16、駆動モータ17等を含む上記主軸往復駆動部5とにそれぞれ連係されている。
【0039】
すなわち、回転主軸2はスライド本体15に回転可能に軸支されており、このスライド本体15は、案内レール(図示省略)により昇降案内されるとともに、昇降駆動源である上記送りネジ機構16および駆動モータ17に駆動連結されて、上記主軸往復駆動部5が構成されている。
【0040】
上記案内レールは、具体的には図示しないが、機体19上に上下方向へ直線状に延びて設けられ、この案内レールに上記スライド本体15の摺動部15aが摺動案内可能に支持されている。また、スライド本体15の摺動部15aには、送りネジ機構16のナット体16aが一体的に連結固定され、このナット体16aが、機体19に垂直上下方向へ延びるとともに回転可能に軸支された送りネジ16bに上下方向へ螺進退可能に螺合されている。送りネジ16bは、その上端部がカップリング20を介して上記駆動モータ17のモータ軸17aに駆動連結されている。この駆動モータ17としては、ロータリエンコーダ等の位置検出センサ21が一体的に内蔵されてなるサーボモータが使用されており、上記位置検出センサ21により駆動モータ17の回転量が検出される。
【0041】
そして、この駆動モータ17のモータ軸17aが回転駆動することにより、送りネジ機構16の送りネジ16bが回転されて、ナット体16aと一体のスライド本体15が上下方向へ移動され、このスライド本体15を介して、回転主軸2つまりはホーニングツール1が昇降動作されることとなる。また、このホーニングツール1の昇降動作は、駆動モータ17に内蔵された上記位置検出センサ21により検出されて、その検出結果が後述する装置制御部6に送られる。
【0042】
また、回転主軸2の上端部2bは上記主軸回転駆動部4に駆動連結されている。すなわち、回転主軸2の上端部2bは、機体19のヘッド部19aに回転可能に設けられた主軸駆動軸10にスプライン嵌合されて、この主軸駆動軸10に対して、上下方向(軸線方向)へ相対的に移動可能でかつ一体回転可能に連結されている。
【0043】
具体的には、回転主軸2の上端部2bが、ロータリスプライン装置22により、機体19のヘッド部19aに上下方向へ摺動可能に軸支されるとともに、上記主軸駆動軸10に同軸上にかつ一体回転可能に接続されている。
【0044】
主軸駆動軸10には伝動プーリ11aが取り付けられ、この伝動プーリ11aが、伝動ベルト11bを介して、駆動モータ12のモータ軸12aに取り付けられた伝動プーリ11cに連結されている。この駆動モータ12としては、ロータリエンコーダ等の位置検出センサ23が一体的に内蔵されてなるサーボモータが使用されており、上記位置検出センサ23により駆動モータ12の回転量が検出され、これにより、上記ホーニングツール1の回転動作が検出される。
【0045】
そして、この駆動モータ12の回転駆動により、主軸駆動軸10を介して、回転主軸2つまりはホーニングツール1が回転駆動されることとなる。また、このホーニングツール1の回転動作は、駆動モータ12に内蔵された上記位置検出センサ23により検出されて、その検出結果が後述する装置制御部6に送られる。
【0046】
ホーニングツール1は、図2に示すように、ツール本体30、径方向へ拡幅振動する砥石加工部31、および振動付与手段を構成する超音波振動子32を主要部として備えるとともに、取付け部33を介して、上記回転主軸2の先端取付け部2aに交換可能に取付け固定され装着される構成とされている。また、このホーニングツール1の装着時において、上記超音波振動子32は回転主軸2の先端部中空部2cに収納配置される。
【0047】
ツール本体30は、具体的には、加工対象となるワークWの被加工穴内径面Waよりも小径の直線状金属棒の形態とされるとともに、その先端部つまり下端部に錘部35が設けられるとともに、この錘部35の上側に砥石部を構成する複数(図示例の場合は4つ)のホーニング砥石36、36、…が設けられ、これら錘部35とホーニング砥石36、36、…により上記砥石加工部31が構成されている。
【0048】
図示の実施形態においては、中実円柱状のツール本体30の先端部30aに、上記ホーニング砥石36、36、…を構成する中空円筒体36Aが一体的に外嵌接続され、さらにこの中空円筒体36Aの下側に、中実円柱状の上記錘部35が一体的に嵌入接続されて、これら三者30、36Aおよび35が同軸上にかつ直線状に接続されている。
【0049】
上記ホーニング砥石36、36、…は、図4に示すように、上記ツール本体30の円筒外周に連続する上記中空円筒体36Aに複数(図示例の場合は4本)の拡幅用スリット37、37、…が設けられて中空構造の砥石本体(砥石台)が形成されるとともに、この砥石本体の外周面に多数の微小な砥粒38が電着されてなる。これにより、ホーニング砥石36、36、…は、円周方向へ等間隔に複数(図示例の場合は4つ)配置されている。
【0050】
ホーニング砥石36を構成する砥粒としては、CBN砥粒やダイヤモンド砥粒などの超砥粒が好適に使用可能であり、本実施形態のホーニング砥石36は、CBN砥粒が電着されてなるCBN電着砥石が採用されている。
【0051】
なお、ホーニング砥石36の具体的構成は、後述する特性(少なくとも径方向外方への撓み特性)を有する条件を満たす限り特に限定されず、例えば、砥粒38が電着以外の貼着手段で中空円筒体36Aの外周面に貼着される構造も採用可能である。
【0052】
錘部35は、上記ホーニング砥石36、36、…に対する錘作用をなすもので、少なくともホーニング砥石36、36、…の構成材料よりも比重(密度)の大きな材料から構成されるとともに、ホーニング砥石36、36、…は少なくとも径方向外方(本実施形態においては、径方向外方および内方の双方)への撓み特性を有する(撓みやすい)構造とされ、これら錘部35とホーニング砥石36、36、…との組合せ構造から、軸方向振動により径方向へ拡幅振動する構造の砥石加工部31が構成されている。
【0053】
なお、上記錘部35は、ツール本体30をワークWの被加工穴Wa内へ案内するパイロット案内部としても機能することから、その径寸法は必然的にホーニング砥石36、36、…の外径寸法よりも小さく設計されるので、この点からも上記錘部35が比較的大きな比重(密度)の材料からなることは重要である。
【0054】
上記ツール本体30、ホーニング砥石36の砥石本体を構成する中空円筒体36A、および錘部35の構成材料は、後述するように、超音波振動子32によるツール本体30の軸方向振動つまり上下方向振動と上記錘部35の錘作用との協働作用により、上記ホーニング砥石36、36、…が少なくとも径方向外方へ撓んで拡幅振動するように、その材料特性、とりわけ比重(密度)を考慮して選択採用される。
【0055】
これに関連して、上記ツール本体1の基端部には、ツールホルダ45がロー付等の固定手段46により一体固定されており、このツールホルダ45の接続ボルト45aが上記超音波振動子32の第1のホーン40の先端40aに螺合固定されて、ツール本体30と超音波振動子32が同軸状に一体固定されている。また、具体的には図示しないが、これらツール本体1とツールホルダ45は、削り出しの一体構造とされても良い。
【0056】
そして、図5を参照して、締結ボルト43により強固に固定されたピエゾ素子41、41、…に、振動系であるツール本体30の共振周波数に等しい周波数の交流電圧が印加されると、超音波振動子32は軸方向に共振振動する。一方、ツールホルダ45、ツール本体30、砥石部36および錘部35からなる上記振動体は、超音波振動子32による加振により同一周波数で軸振動することになる。
【0057】
通常の共振振動は、振動体が均質な棒形状で、かつ材質も均一であれば、例えば図5の振動体45、30、36、35の先端部の振動振幅の分布は、二点鎖線で示す分布のように正弦波状に上昇カーブを描く。
【0058】
しかしながら、本実施形態の上記振動体45、30、36、35は、先端部の錘部35が比重(密度)の大きい超硬合金などから構成され、砥石部36、36、…が上述したような構成とされていることにより、その振動分布は図5の上段の実線で示されるように、先端部の錘部35では振幅が低下する。
【0059】
このとき、剛性が低くて径方向外方(本実施形態においては、径方向外方および内方)への撓み特性を有するホーニング砥石36、36、…は、上記軸振動の影響で径方向外方に撓む、撓み振動に変換されることになる。図5の下段の実線で示されるものは、径方向の振幅を測定した振幅分布図で、剛性の低いホーニング砥石36、36、…のみ際だって突出した径方向外方の振幅となる。この径方向振動の振幅は、軸振動を発生させる超音波振動子32の振幅に比例する。したがって、超音波振動子32を駆動する交流電圧を正確に制御することで、ホーニング砥石36、36、…の径方向外方(および内方)の振幅に正確に変換することが可能となる。
【0060】
すなわち、超音波振動子32が軸方向に共振振動することにより、ツールホルダ45、ツール本体30、砥石部36および錘部35からなる上記振動体も、超音波振動子32と同一周波数で軸振動することになるが、この場合、ホーニング砥石36、36、…は剛性が低くて少なくとも径方向外方(本実施形態においては、径方向外方および内方)への撓み特性を有する一方、このホーニング砥石36、36、…よりも先端側(下端側)には、比重(密度)の大きな錘部35が接続され存在するため、軸方向後端(上端)方向への振動力が加わっても、ホーニング砥石36、36、…は図4(a)に示す常態を維持するが(外径=D0)、これと逆に軸方向先端(下端)方向への振動力が加わると、ホーニング砥石36、36、…は常態を維持することができず、径方向外方に撓む(外径=D1)あるいは内方(本実施形態)に撓む。本実施形態におけるホーニング砥石36、36、…の径方向外方および内方への撓みは、常態にある図6(b)(図4(a))の状態を中心として、外方(図6(a))および内方(図6(c))へ均等な振幅で均等に増減する。
【0061】
つまり、上記超音波振動子32によるツール本体30の軸方向振動と錘部35の錘作用との協働作用により、ホーニング砥石36、36、…は径方向外方および内方へ撓んで拡幅振動することになる。そして、上記撓み時の外径D1と常態時の外径D0の差D1−D0の1/2がホーニング砥石36、36、…の切り込み量になる。
【0062】
なお、ホーニング砥石36、36、…が所期の作用効果を発揮するためには、少なくとも、ホーニング砥石36、36、…は少なくとも径方向外方への撓み特性を有することが条件となるが、本実施形態のホーニング砥石36、36、…は、上述したように、径方向外方および内方の双方への撓み特性を有する構造とされている(図6(a)、(b)、(c)参照)。
【0063】
これにより、本実施形態のホーニング砥石36、36、…は、径方向外方および内方への撓み(拡幅・縮幅)動作、つまり拡幅・縮幅動作が交互に規則正しく行われるが、そのための構造的条件について考察する。
【0064】
ホーニング砥石36、36、…の外径の拡大(+)と縮小(−)が交互に規則正しく生じる(両振幅運動)ための構造上の条件は、図4を参照して、ホーニング砥石36、36、…の砥石本体(砥石台)を構成する中空円筒体36Aが平行パイプ状つまり直円筒状であることと、拡幅用スリット37、37、…による中空円筒体36の分割数が深く関わっていると考えられる。
【0065】
例えば、図7に示すように、上記中空円筒体36Aが平行ではなく、極端に径方向外方へ膨出状に湾曲している場合は、ホーニング砥石36、36、…の外径の拡大(+)と常態(0)を繰り返し(片振幅運動)、あるいは縮小(−)するとしてもその値は僅かであり、均等な両振幅運動は得られないと思われる。
【0066】
また、拡幅用スリット37、37、…幅が小さくて、中空円筒体36の分割数が少ない場合にも上記と同様な現象が生じ、加えて大きな振幅は得られないと思われる。また、これと逆に、中空円筒体36の分割数が多い場合は、ホーニング砥石36、36、…の剛性不足により、振動の節が複数現れて(例えば図8(b)、(c)参照)、制御不能となることは実験的に判明している。
【0067】
ホーニング砥石36、36、…の砥石本体(砥石台)を構成する中空円筒体36Aが平行パイプ状であり、かつ中空円筒体36の分割数が適当な場合には、20,000gにも達する加速度が作用すると、ホーニング砥石36、36、…が軸方向に伸びて撓みが中立となるべきタイミングにオーバーラン現象が生じ、その瞬間に再び軸方向の縮小行程が始まるために今度は一つ前の縮小行程とは逆のオーバーラン方向に撓みが生じ、これを繰り返すために、上述したような片振幅ではなく、本実施形態のホーニング砥石36、36、…のように、規則正しい(+)、(−)の振動(両振幅運動)が径方向に生じるものと考えられる。
【0068】
なお、本実施形態においては、ホーニング砥石36、36、…が両振幅型構造となっているが、目的に応じて、ホーニング砥石36、36、…の砥石本体(砥石台)を構成する中空円筒体36Aの設計変更により、片振幅型のホーニング砥石36、36、…を備えるホーニングツール1も製作可能である。
【0069】
また、ホーニング砥石36、36、…の拡幅時の断面輪郭形状については、中空円筒体36Aの肉厚寸法を調整することで、例えば図8(a)、(b)または(c)に示すように変化する。ちなみに、図8(a)の輪郭形状が本実施形態において理想とされる形状であり、さらに上記肉厚寸法を小さくすると、図8(b)または図8(c)に示すような形状となる。中空円筒体36Aの肉厚寸法は、有限要素法で解析しながら調整される。
【0070】
しかして、本実施形態のように、ホーニング砥石36、36、…が、図6(b)に示す常態位置(外径=D0)から、図6(a)に示すように径方向外方に撓む(外径=D1)(拡幅する)だけでなく、さらに図6(c)に示すように径方向内方へも撓む(外径=D2(D0−(D1−D0))(縮幅する)構造とされていると、後述するように、図9(a)に示す状態と図9(b)に示す状態との間の隙間Cの繰り返される変化によるポンプ作用が有効かつ顕著に発揮されて、潤滑油の円滑な流れによる切り屑Wcの大きな排出効果が得られる。
【0071】
砥石振動部3は、切り込み部としてホーニングツール1のホーニング砥石36、36、…を径方向へ拡幅振動させるもので、具体的には、上記超音波振動子32、電力供給部50および電力供給制御部51を主要部として備える。
【0072】
電力供給制御部51は、上記電力供給部50が超音波振動子32に印加すべき交流電圧(周波数)の印加タイミングおよび交流電圧(周波数)の大きさを制御するもので、具体的には、超音波振動子32の軸方向の振幅を制御することで、それに比例してホーニング砥石36、36、…の拡幅振動の振幅量が変化する。電力供給制御部51は、後述する装置制御部6の一部を構成している。
【0073】
電力供給制御部51には、ホーニングツール1におけるホーニング砥石36、36、…の動作を制御するためのプログラムが予め組み込まれ、または適宜変更可能とされており、本実施形態においては、ホーニング加工中に上記超音波振動子32を動作制御することにより、ホーニング砥石36、36、…の拡幅振動の振幅量をインプロセスで調整するように構成されている。したがって、本実施形態においては、ワークWの被加工穴内径面Waの仕上がり精度の補正方法を電気的手段だけで実現することができ、従来の機械的補正に対して精度の向上(制御安定性と経時的変化の抑制)が得られる。
【0074】
また、電力供給部50による超音波振動子32に対する電力供給には非接触給電方式が採用されている。
【0075】
装置制御部6は、ホーニング盤の各駆動部の動作を相互に連動して自動制御するもので、具体的には、CPU、ROM、RAMおよびI/Oポートなどからなるマイクロコンピュータを主要部として構成されている。
【0076】
この装置制御部6には、ホーニング加工を実行させるための加工プログラム等が組み込まれており、上述した砥石振動部3の電力供給制御部51を構成要素として含んでいる。
【0077】
しかして、以上のように構成されたホーニング盤において、上記砥石振動部3、主軸回転駆動部4および主軸往復駆動部5が装置制御部6により相互に関連して自動制御され、これにより、ワーク保持治具8に支持されたワークWの被加工穴内径面Waに対して、ホーニングツール1によるホーニング加工工程が行われる。
【0078】
すなわち、装置制御部6に予めまたは適宜入力設定された制御プログラムに従って、ホーニングツール1は、そのホーニング砥石36、36、…が、超音波振動子32による軸方向振動と錘部35の錘作用との協働作用により、径方向外方へ撓んで拡幅振動しながら、上記回転主軸2の動作に伴って、ワークWの被加工穴内径面Wa内に送込み挿入されるとともに、回転と往復運動を与えられながら、ワークWの被加工穴内径面Waに対する精密仕上げを行う。
【0079】
この場合、ホーニングツール1がワークWの被加工穴内径面Wa内に送込み挿入される時のホーニング砥石36、36、…の拡幅振動幅は小さく設定される。また、ワークWの被加工穴内径面Waとホーニング砥石36、36、…との距離が近い場合には、ホーニング砥石36、36、…の拡幅振動が停止した状態で、ホーニングツール1がワークWの被加工穴内径面Wa内に送込み挿入される。
【0080】
以上のように、本実施形態のホーニングツール1は、ツール本体30と、このツール本体30の一部に設けられ、軸方向振動により径方向へ拡幅振動する構造を有する砥石加工部31(35、36)と、上記ツール本体30に軸方向振動を与える超音波振動子32とを備えてなるから、超音波振動子32により上記ツール本体30に軸方向振動が与えられると、この軸方向振動により砥石加工部31ホーニング砥石36、36、…が径方向へ拡幅振動して、ワークWの被加工穴内径面Waに対して径方向振動を伴った加工を行うことができる。つまり、本実施形態によれば、超音波振動子32の軸振動を、ホーニング砥石36、36、…の径方向への拡幅振動として効率的に変換することができ、ホーニング加工における加工効率を向上させることができる。
【0081】
すなわち、上記のようにホーニング砥石36、36、…が径方向へ振動する構成によれば、切り屑の排出性を良くすることができ、ホーニング加工における材料除去効率を上げることができる。
【0082】
換言すれば、砥石加工部31のホーニング砥石36、36、…が径方向に超音波振動することで、図9(a)に示すように、ホーニング砥石36の砥石面36aの砥粒38、38、…がワークWの被加工穴内径面Waに切り込んで(図4(b)参照)、これら両者36a、Wa間の隙間Cが狭くなったり、図9(b)に示すように、ホーニング砥石36の砥石面36aの砥粒38、38、…がワークWの被加工穴内径面Waから離れて(図4(a)参照)、これら両者36a、Wa間の隙間Cが広くなったりと、これら両状態の間での動作を繰り返す結果、ここに生じるポンプ作用で切削油(矢符参照)が隙間Cに入りやすく、また排出されることで、切り屑Wcの排出性が上がる。
【0083】
また、ホーニング砥石36、36、…が径方向へ超音波振動することで大きな加速度が働き、ホーニング砥石36、36、…への目詰まり防止や凝着防止効果が大きい。例えば、周波数44kHz、振動振幅3μmの場合、重力加速度の2万倍以上の加速度をホーニング砥石36、36、…が持つ。
【0084】
これにより、ホーニング加工時の切削抵抗が過度に上がらないので、ホーニング砥石36、36、…の切り込み量を大きく設定することで加工時間が短縮される。また、薄肉ワークWには切削抵抗が小さいので、ひずみが少なく高精度な穴加工が可能となる。
【0085】
本実施形態のホーニング盤は、最終仕上工程用として使用する場合でも、荒工程用として使用する場合でも、それぞれ以下のような効果が得られる。
【0086】
(1)最終仕上工程で使用する場合:
(a)ホーニングツール1に超音波振動をかけることで、ホーニング砥石36の砥石面36aの砥粒38、38、の番手が同じでも、ワークWの被加工穴内径面Waの面粗度が良好に仕上がる。
【0087】
換言すれば、ホーニング砥石36の砥石面36aに少し粗めの砥粒38、38、…を使用することができるので、その効果として、ホーニング砥石36の砥石面36aとワークWの被加工穴内径面Waとの間に十分な隙間Cを確保することができ、切り屑Wcの排出性が良好となる。この結果、ホーニング砥石36、36、…の切り込み量を増やし、加工時間短縮も可能となる。
【0088】
(b)ワークWの被加工穴内径面Waには、図10(a)に示すような超音波振動による等間隔の模様ができて、均一性の高い仕上面となるため、機械摺動面として使用した場合には、これらの模様を形成する溝に潤滑油が溜まり、均一で安定した摺動抵抗低減効果が期待できる。
【0089】
ちなみに、通常の超音波振動を伴わない加工では、ワークWの被加工穴内径面Waには、図10(b)に示すような不規則に盛り上がった模様ができて、切り屑の残留が多く荒れた仕上面となる。
【0090】
(c)また、ワークWの被加工穴内径面Waの仕上面粗さは、図11に示すように、本実施形態の超音波振動を伴うホーニング加工では、通常の超音波振動を伴わないホーニング加工に対して1/2倍と良好である。
【0091】
(2)荒工程で使用する場合:
(a)荒工程においては、下穴径のばらつきの小さい方が加工時間が安定し、加工時間を短縮することができる。
【0092】
つまり、下穴径がばらついていることによる弊害として、ばらつきが大きいほど、ホーニング砥石36、36、…がワークWの被加工穴内径面Waに接触しないエアカット量を増やす(ホーニング砥石36、36、…をワークWの被加工穴内径面Waから逃す)必要があり、これがため、エアカット時間が長くなって、加工時間も長くなってしまう。
【0093】
逆に、エアカット量を小さくすると、すぐにホーニング砥石36、36、…がワークWの被加工穴内径面Waに接触して、ホーニングツール1の破損やホーニング砥石36、36、…の目詰まり状態となり、正常に加工することができないという事態を招いてしまう(ちなみに、加工開始直後のホーニング砥石36、36、…の切り込み量は、加工時間を短縮するため一般的に大きく、たとえ穴径誤差があっても何とか加工できるような設定となっている)。
【0094】
この点に関して、本実施形態のように、ホーニングツール1に超音波振動をかけることで、ワークWの被加工穴内径面Waの下穴径がばらついていても、ホーニング砥石36の砥石面36aがワークWの被加工穴内径面Waに直ちに接触して、ホーニングツール1の破損やホーニング砥石36、36、…の目詰まり状態を招く可能性は低い。
【0095】
(b)また、一般に、ホーニング加工開始直後、ワークWの被加工穴内径面Waはホーニング砥石36と全面当たりしていないため、加工負荷は低くなりやすい(切り屑Wcが逃げる空間も多い)。
【0096】
この点に関して、本実施形態のホーニングツール1は超音波振動することでワークWの被加工穴内径面Waと接するため、ワークWの被加工穴内径面Waの穴径が想像以上に小さいと、ホーニング砥石36、36、…の振幅量が制限されて、撓み量が小さくなる。そのため、ホーニングツール1を破損し難い。
【0097】
ホーニング砥石36、36、…の拡張量を電気的に制御することで、ワークWの被加工穴内径面Waの仕上がり径をインプロセスで調整することができる。この場合のホーニング砥石36、36、…の拡張量の具体的な調整方法としては、砥石摩耗量を補正する砥石摩耗補正と、加工寸法調整のための振幅量制御の2種類が考えられる。
【0098】
この場合、ホーニング加工中のホーニング砥石36、36、…の振幅量制御は従来のウェッジを押し込んで切り込んでいく方法と同じ考え方である。例えば、ホーニング加工中にホーニング砥石36、36、…の振幅量を無段階で連続的に、または複数段階で増加させる。最初はワークWの被加工穴内径面Waの径寸法が小さいので振幅量を小さくするが、穴径が大きくなるにつれて段階的に振幅量を増やしていく。
【0099】
また、もうひとつの考え方として、最初からある大きな拡張量(振幅量)として加工する方法である。初期のワークWの被加工穴内径面Waの穴径が小さいときは、拡張(撓み)量が制限され、小さいが徐々に切削されて穴径が大きくなり目標穴径に仕上げる。
【0100】
回転主軸2の中に、超音波振動子32が組み込まれるとともに、その先端に径方向に超音波振動可能なツール本体30が配置されて、超音波振動子32による軸方向振動をホーニング砥石36、36、…の径方向振動に変換するという小型かつ簡素な構造のため、ホーニングツール1の小型化が可能である。
【0101】
実施形態2
本実施形態は図12に示されており、実施形態1のツール本体30の具体的構造が若干改変されたものである。
【0102】
すなわち、本実施形態のツール本体30のホーニング砥石36、36、…は、上記ツール本体30の外周部に沿った円筒輪郭上に複数枚(図示例の場合は4枚)の薄肉金属板136、136、…が等間隔をもって配されて中空構造の砥石本体が形成されるとともに、この砥石本体の外周面に砥粒38、38、…が電着されてなる。
【0103】
具体的には、ツール本体30の先端部30aと錘部35の基端部35aが、これらの円筒外周面に橋絡状に接続固定された4枚の薄肉金属板136、136、…により、同軸上にかつ直線状に一体接続されるとともに、上記薄肉金属板136、136、…により、中空構造の砥石本体が形成され、この砥石本体の外周面に多数の砥粒38、38、…が電着されて、ホーニング砥石36、36、…が形成されている。これにより、ホーニング砥石36、36、…は、円周方向へ等間隔に複数(図示例の場合は4つ)配置されている。
その他の構成および作用は実施形態1と同様である。
【0104】
なお、上述した実施形態1および2はあくまでも本発明の好適な実施態様を示すものであって、本発明はこれらに限定されることなく、その範囲において種々の設計変更が可能である。
【0105】
例えば、ホーニングツール1の具体的構造(ホーニング砥石36、36、…、超音波振動子32など)は、同様な機能を有する限り種々設計変更可能である。
【0106】
図示の実施形態においては、超音波振動子32への電力供給は非接触給電方式とされているが、具体的には図示しないが、スリップリング式の接触給電方式も利用可能である。
【0107】
また、図示の実施形態のホーニング盤においては、回転主軸2側が回転する構造とされているが、ワーク保持治具8側が回転する構造も採用可能である。
【0108】
さらに、本発明は図示の実施形態のようなホーニング盤のほか、ファインボーリング盤など、他の同種の精密加工用の工作機械にも適用可能であることをはじめとして、ホーニングツール1は、ユニット形式としてまたはアタッチメントを介して、マシニングセンタ等の汎用型工作機械に用いられるなどの適用も可能である。
【符号の説明】
【0109】
W ワーク
Wa ワークの被加工穴内径面
1 ホーニングツール(内径面加工用ツール)
2 回転主軸
3 砥石振動部
4 主軸回転駆動部(主軸回転手段)
5 主軸往復駆動部(主軸往復手段)
6 装置制御部(制御手段)
30 ツール本体
31 砥石加工部
32 超音波振動子(振動付与手段)
35 錘部
36 ホーニング砥石(砥石部)
36A 中空円筒体
37 拡幅用スリット
38 砥粒
40 第1のホーン
41 ピエゾ素子
42 第2のホーン
50 電力供給部
51 電力供給制御部
136 薄肉金属板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械等の主軸に取り付けた加工用ツールによって、工作物の被加工穴内径面を加工する内径面加工方法であって、
前記加工用ツールとして、そのツール本体の一部に、ツール本体の軸方向振動により径方向へ拡幅振動する構造の砥石加工部を設け、
前記ツール本体に軸方向振動を与えることにより、前記砥石加工部を径方向へ拡幅振動させて工作物の被加工穴内径面を加工する
ことを特徴とする内径面加工方法。
【請求項2】
前記ツール本体に軸方向振動を与える振動付与手段が、前記ツール本体の基端に一体接続された超音波振動子の形態とされている
ことを特徴とする請求項1に記載の内径面加工方法。
【請求項3】
工作機械等の主軸に取り付けられて、工作物の被加工穴内径面を加工する内径面加工用ツールであって、
ツール本体と、このツール本体の一部に設けられ、軸方向振動により径方向へ拡幅振動する構造を有する砥石加工部と、前記ツール本体に軸方向振動を与える振動付与手段とを備えてなる
ことを特徴とする内径面加工用ツール。
【請求項4】
前記振動付与手段は、前記ツール本体の基端に一体接続された超音波振動子である
ことを特徴とする請求項3に記載の内径面加工用ツール。
【請求項5】
前記ツール本体の下端部に前記砥石加工部の錘作用をなす錘部が設けられるとともに、この錘部の上側に少なくとも径方向外方への撓み特性を有する砥石部が設けられて、前記砥石加工部が構成され、
前記振動付与手段による前記ツール本体の軸方向振動と前記錘部の錘作用との協働作用により、前記砥石部が径方向外方へ撓んで拡幅振動する
ことを特徴とする請求項3に記載の内径面加工用ツール。
【請求項6】
前記錘部は、少なくとも前記砥石部の構成材料よりも比重の大きな材料から構成されている
ことを特徴とする請求項5に記載の内径面加工用ツール。
【請求項7】
前記砥石部は、前記ツール本体の円筒外周に連続する中空円筒体に複数の拡幅用スリットが設けられて中空構造の砥石本体が形成されるとともに、前記砥石本体の外周面に砥粒が電着されてなる
ことを特徴とする請求項3に記載の内径面加工用ツール。
【請求項8】
前記砥石部は、前記ツール本体の外周部に沿った円筒輪郭上に複数枚の薄肉金属板が配されて中空構造の砥石本体が形成されるとともに、この砥石本体の外周面に砥粒が電着されてなる
ことを特徴とする請求項3に記載の内径面加工用ツール。
【請求項9】
加工ツールとして、請求項3、5、6、7および8のいずれか一つに記載の内径面加工用ツールが主軸に取り付けられてなり、
前記振動付与手段により、前記加工ツールの砥石加工部が径方向へ拡幅振動して、工作物の被加工穴内径面を仕上加工する
ことを特徴とする内径面加工装置。
【請求項10】
前記振動付与手段は、前記ツール本体の基端に一体接続された超音波振動子からなり、
この超音波振動子は、前記主軸内に配置されている
ことを特徴とする請求項9に記載の内径面加工装置。
【請求項11】
加工中に前記超音波振動子を動作制御することにより、前記砥石加工部の拡幅振動の振幅量をインプロセスで調整する構成を備える
ことを特徴とする請求項10に記載の内径面加工装置。
【請求項12】
前記インプロセスで調整される前記砥石加工部の拡幅振動の振幅量が砥石摩耗量である
ことを特徴とする請求項11に記載の内径面加工装置。
【請求項13】
前記インプロセスで調整される前記砥石加工部の拡幅振動の振幅量が加工寸法調整のための振幅量である
ことを特徴とする請求項11に記載の内径面加工装置。
【請求項14】
前記超音波振動子に対する電力供給が非接触給電である
ことを特徴とする請求項10に記載の内径面加工装置。
【請求項15】
工作物の被加工穴内径面の軸線方向へ往復移動可能とされるとともに、軸線まわりに回転可能に軸支されてなる回転主軸である前記主軸と、
この回転主軸を軸線回りに回転駆動する主軸回転手段と、
前記回転主軸を前記被加工穴内径面の軸線方向へ往復動作させる主軸往復手段と、
前記主軸回転手段および主軸往復手段の動作を相互に連動して自動制御する制御手段とを備えてなる
ことを特徴とする請求項9から14のいずれか一つに記載の内径面加工装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−45642(P2012−45642A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187691(P2010−187691)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(390003665)株式会社日進製作所 (32)
【出願人】(000203531)多賀電気株式会社 (8)
【Fターム(参考)】