説明

内接歯車ポンプ

【課題】高圧となる吐出ポートから低圧となる吐出ポートへの作動油の漏出を低減し、高圧となる吐出ポートから吐出する作動油量の減少を抑制し、ポンプの容積効率を向上し得る内接歯車ポンプを提供する。
【解決手段】二つの吐出ポート14Aと15A間には離壁18Aを備え、離壁18A上に位置する内歯歯車6の内歯6Aと外歯歯車7の外歯7Aとの間には、高圧となる吐出ポート14Aに連通するポンプ室V1と低圧となる吐出ポート15Aに連通するポンプ室V2との間を仕切る最小隙間Xを形成し、この最小隙間Xを0.020mm以上0.110mm以下にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の吐出ポートを有する内接歯車ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の内接歯車ポンプは、ポンプハウジングの収容孔に、内歯を有するリング状の内歯歯車を回転自在に収容し、この内歯歯車の内歯と内接噛み合いする外歯を有する外歯歯車を内歯歯車の内部に偏心して収容し、両歯車の側面が摺接するポンプハウジングの摺接面としての収装孔の底面には、両歯車の回転に伴い両歯間の噛み合い隙間が増加する吸入域空間に連通して吸入ポートを開口すると共に、両歯間の噛み合い隙間が減少する吐出域空間に連通して、両歯車の回転方向に離間して二つの吐出ポートを開口して形成する。そして、二つの吐出ポートのうちで、両歯車の回転方向の後方側に位置する一方の吐出ポート(特許文献1では第3吐出ポートと記載されている。)を潤滑や冷却のための低圧の油圧回路に連通して低圧にし、また、一方の吐出ポートより両歯車の回転方向の前方側に位置する他方の吐出ポート(特許文献1では第2吐出ポートと記載されている。)をシフトコントロールバルブ等の高圧の油圧回路に連通して高圧にし、二つの吐出ポート間に備える離壁上に位置する内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯との間には、高圧となる吐出ポートに連通するポンプ室と低圧となる吐出ポートに連通するポンプ室との間を仕切る最小隙間を形成し、一つのポンプで二つの供給先に異なる圧力の作動油を供給できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−123967号公報(段落番号0028、0032、0033、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、かかる従来の内接歯車ポンプでは、両歯車の回転方向の前方側に位置する高圧となる吐出ポートに連通するポンプ室から両歯車の回転方向の後方側に位置する低圧となる吐出ポートに連通するポンプ室に前記最小隙間を介して漏出する作動油量が多く、高圧となる吐出ポートから吐出する作動油量が減少してポンプの容積効率が悪くなる問題があった。
【0005】
本発明の課題は、高圧となる吐出ポートから低圧となる吐出ポートへの作動油の漏出を低減し、高圧となる吐出ポートから吐出する作動油量の減少を抑制し、ポンプの容積効率を向上し得る内接歯車ポンプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を達成すべく、本発明は次の手段をとった。即ち、
ポンプハウジングの収容孔に内歯を有するリング状の内歯歯車を回転自在に収容し、内歯歯車の内歯と内接噛み合いする外歯を有する外歯歯車を内歯歯車の内部に偏心して収容し、両歯車間には両歯車の回転により両歯間の噛み合い隙間が増加する領域に吸入域空間を形成すると共に、両歯車の回転により両歯間の噛み合い隙間が減少する領域に吐出域空間を形成し、内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯とによりポンプ室を区画形成し、ポンプ室は両歯車の回転により吸入域空間で容積を増加すると共に、吐出域空間で容積を減少して設け、収容孔に収容した両歯車の側面が摺接するポンプハウジングの摺接面には、吸入域空間に連通して吸入ポートを開口すると共に、吐出域空間に連通して両歯車の回転方向に離間する二つの吐出ポートを開口し、この二つの吐出ポートのいずれか一方の吐出ポートを高圧にすると共に、他方の吐出ポートを高圧にした一方の吐出ポートの圧力より低圧にし、二つの吐出ポート間には離壁を備え、離壁上に位置する内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯との間には、高圧となる吐出ポートに連通するポンプ室と低圧となる吐出ポートに連通するポンプ室との間を仕切る最小隙間を形成し、この最小隙間を0.020mm以上0.110mm以下にしたことを特徴とする内接歯車ポンプがそれである。
【0007】
この場合、前記二つの吐出ポートは、両歯車の回転方向の後方側に位置する一方の吐出ポートの圧力を高圧にし、両歯車の回転方向の前方側に位置する他方の吐出ポートの圧力を一方の吐出ポートの圧力より低圧にしてもよい。
【発明の効果】
【0008】
以上詳述したように、請求項1に記載の発明は、二つの吐出ポート間に備えた離壁上に位置する内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯との間に形成した最小隙間を、0.020mm以上0.110mm以下にし、高圧となる吐出ポートに連通するポンプ室と低圧となる吐出ポートに連通するポンプ室との間を仕切った。このため、両歯車の回転により内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯とが頻繁に接触して歯先が摩耗することを抑制しつつ、高圧となる吐出ポートに連通するポンプ室から低圧となる吐出ポートに連通するポンプ室への作動油の漏出を低減でき、高圧となる吐出ポートから吐出する作動油量の減少を抑制してポンプの容積効率を向上することができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明の効果に加え、両歯車の回転方向の後方側に位置する一方の吐出ポートの圧力を高圧にし、両歯車の回転方向の前方側に位置する他方の吐出ポートの圧力を一方の吐出ポートの圧力より低圧にする。このため、高圧となる一方の吐出ポートが開口する箇所では、内歯歯車の内周側に作用する圧力が、高圧となる一方の吐出ポートから内葉歯車の側面を介して外周側に漏出して内歯歯車の外周側に作用する圧力より高くなり、内歯歯車は内周側に作用する圧力と外周側に作用する圧力との圧力差に基づく作用力で二つの吐出ポートが位置する側に向けて収装孔内周面に押圧される。なお、外歯歯車は、外周側に作用する吸入ポートの圧力と二つの吐出ポートの圧力との圧力差に基づく作用力で吸入ポートが位置する側に向けて押圧される。よって、内歯歯車と外歯歯車とは相反する反対方向に押圧されるから、内歯歯車と外歯歯車とが同一方向に押圧されて、内歯と外歯との噛み合い位置が、両歯間の噛み合い隙間が最小となる位置近傍にある最適噛み合い位置より回転方向の前方側にずれ易くなる従来のポンプに比し、内歯と外歯との噛み合い位置が、両歯間の噛み合い隙間が最小となる位置近傍にある最適噛み合い位置に安定して位置でき、騒音、振動を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態を示した内接歯車ポンプの縦断面図である。
【図2】図1の線A−Aに沿った断面図である。
【図3】図2とは異なる作動状態を示す断面図である。
【図4】ポンプ性能の測定結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、自動車の自動変速機のポンプに適用した本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
図1および図2において、1はポンプ本体で、有底の収容孔2を一端面に開口形成している。3は蓋部材で、収容孔2の開口を閉じるようポンプ本体1にボルト部材4で締結している。そして、ポンプ本体1と蓋部材3とでポンプハウジング5を構成している。6はリング状の内歯歯車で、10個の内歯6Aを有し、収容孔2へ回転自在に収容している。7は外歯歯車で、内歯6Aと内接噛み合いする9個の外歯7Aを有し、内歯歯車6の内部に偏心して収容している。そして、両歯車6、7の軸方向一側面は有底の収装孔2の底面2Aに、また、両歯車6、7の軸方向他側面は収容孔2の開口を閉じる蓋部材3の一側面3Aにそれぞれ摺接可能とする。収装孔2の底面2Aおよび蓋部材3の一側面3Aを両歯車6、7の側面が摺接するポンプハウジング5の摺接面としている。外歯歯車7は中心に貫通孔7Bを軸方向へ貫通形成し、貫通孔7Bには潤滑性に優れ焼き付き難くするよう銅合金から成した円筒状の軸受ブッシュ部材8を圧入して固定している。また、貫通孔7Bの径方向へ対向する2箇所に凹部7Cを窪み形成している。
【0012】
9は固定軸としてのステータシャフトで、ポンプハウジング5の蓋部材3に固定し、先端部がポンプ本体1を貫通して延在し、軸受ブッシュ部材8を摺接自在に外嵌して外歯歯車7を回転自在に軸支している。10は駆動軸としてのオイルポンプドライブハブで、円筒状に形成し、外歯歯車7と同芯にポンプハウジング5のポンプ本体1へ軸受ブッシュ部材11を介して回転自在に軸支し、先端部に径方向の対向する2箇所に凸部10Aを軸方向へ突出して形成し、凸部10Aを外歯歯車7の凹部7Cに挿入して外歯歯車7を回転駆動する。
【0013】
Sは吸入域空間、Pは吐出域空間でそれぞれ両歯車6、7間に備え、吸入域空間Sは両歯車6、7の回転により両歯6A、7A間の噛み合い隙間が増加する領域に形成している。また、吐出域空間Pは歯車6、7の回転により両歯6A、7A間の噛み合い隙間が減少する領域に形成している。12A、12Bは吸入域空間Sに連通する吸入ポートで、吸入域空間Sへ軸方向の一方側から連通するポンプ本体1側の吸入ポート12Aは収容孔2の底面2Aに窪み形成して開口し、吸入域空間Sへ軸方向の他方側から連通する蓋部材3側の吸入ポート12Bは蓋部材3の一側面3Aに窪み形成して開口している。13はポンプ本体1に形成の吸入流路で、吸入ポート12A、12Bに接続し、図示しないタンクから吸入する油を流通する。V(図3に示す)、V1、V2はポンプ室で、内歯歯車6の内歯6Aと外歯歯車7の外歯7Aとにより区画形成し、両歯車6、7の回転により吸入域空間Sで容積を増加すると共に、吐出域空間Pで容積を減少する。
【0014】
14A、14Bと15A、15Bは吐出域空間Pに連通して両歯車6、7の回転方向Bに離間する二つの吐出ポートで、両歯車6,7の回転方向Bの後方側に位置する一方の吐出ポート14A、14Bと回転方向Bの前方側に位置する他方の吐出ポート15A、15Bとから成る。回転方向Bの後方側に位置する吐出ポート14A、14Bはポンプ本体1に形成の第1吐出流路16に接続し、この第1吐出流路16よりシフトコントロールバルブ等の高圧の油圧回路に連通して高圧とし、吐出域空間Pへ軸方向の一方側から連通するポンプ本体1側の吐出ポート14Aは収容孔2の底面2Aに窪み形成して開口し、吐出域空間Pへ軸方向の他方側から連通する蓋部材3側の吐出ポート14Bは蓋部材3の一側面3Aに窪み形成して開口している。
【0015】
回転方向Bの前方側に位置する吐出ポート15A、15Bは、ポンプ本体1に形成の第2吐出流路17に接続し、この第2吐出流路17より潤滑や冷却のための低圧の油圧回路に連通して回転方向Bの後方側に位置する吐出ポート14A、14Bの圧力より低圧とし、吐出域空間Pへ軸方向の一方側から連通するポンプ本体1側の吐出ポート15Aは収容孔2の底面2Aに窪み形成して開口し、吐出域空間Pへ軸方向の他方側から連通する蓋部材3側の吐出ポート15Bは蓋部材3の一側面3Aに窪み形成して開口している。
【0016】
18A、18Bは離壁で、両歯車6、7の回転方向Bに離間する二つの吐出ポート14A、14Bと15A、15Bとの間に備え、離壁18Aは高圧となる吐出ポート14Aと低圧となる吐出ポート15Aを窪み形成する収容孔2の底面2Aに設け、離壁18Bは高圧となる吐出ポート14Bと低圧となる吐出ポート15Bを窪み形成する蓋部材3の一側面3Aに設ける。離壁18A、18B上に位置する内歯歯車6の内歯6Aと外歯歯車7の外歯7Aとの間には、回転方向Bの後方側に位置する一方の吐出ポート14A、14Bに連通するポンプ室V1と回転方向Bの前方側に位置する他方の吐出ポート15A、15Bに連通するポンプ室V2との間を仕切る最小隙間Xを形成している。ここで、内歯歯車6は設計上の回転中心C1より内周側に作用する圧力と外周側に作用する圧力との圧力差に基づく作用力で二つの吐出ポート14A、14B、15A、15Bが位置する図2の左方向側へ向けて矢印Cで示す如き収装孔2内周面に押圧される。また、外歯歯車7は設計上の回転中心D1より外周側に作用する吸入ポート12A、12Bの圧力と二つの吐出ポート14A、14B、15A、15Bの圧力との圧力差に基づく作用力で吸入ポート12A、12Bが位置する図2の右方向側に向けて矢印Dで示す如き押圧される。最小隙間Xは、内歯歯車6が設計上の回転中心C1より矢印Cで示す方向に押圧されると共に、外歯歯車7が設計上の回転中心D1より矢印Dで示す方向に押圧され、両歯車6、7が径方向の相反する方向に押圧された状態で0.020mm以上0.110mm以下にしている。
【0017】
離壁18A、18Bは、図2に示すポンプ室V1が両歯車6、7の回転で、図3に示すよう離壁18A、18Bに一つのポンプ室Vとして位置した状態で、ポンプ室Vを二つの吐出ポート14A、14Bと15A、15Bのいずれにも連通させずに閉じ込み状態とするよう、両歯車6、7の回転方向Bの長さ寸法をポンプ室Vの長さ寸法と略同等か若干長く設ける。19A、19Bは離壁18A、18Bに開口形成する外側溝で、内歯歯車6の内歯6Aと外歯歯車7の外歯7Aとの間に形成される最小隙間Xより径方向の外側に位置して、低圧となる吐出ポート15A、15Bの後方端より両歯車6、7の回転方向Bの後方側に向けて延在する。外側溝19A、19Bは、延在する回転方向Bの長さ寸法を、図3に示す如く、両歯車6、7の回転で一つのポンプ室Vが離壁18A、18B上に位置して閉じ込み状態にあるとき、先端部を僅かにポンプ室Vに開口して残りの部分を内歯6Aの側面で覆う形状に設ける。この形状により外側溝19A、19Bは、図2に示す如く、ポンプ室V1が高圧となる吐出ポート14A、14Bに連通しているとき、先端部が内歯6Aの側面で覆われてポンプ室V1と低圧となる吐出ポート15A、15Bとの間の連通を遮断する。そして、外側溝19A、19Bは深さ寸法を接続した低圧となる吐出ポート15A、15Bの深さ寸法と略同等に設ける。
【0018】
20A、20Bは離壁18A、18Bに開口形成する内側溝で、最小隙間Xより径方向の内側に位置して、低圧となる吐出ポート15A、15Bの後方端より両歯車6、7の回転方向Bの後方側に向けて延在する。内側溝20A、20Bは、延在する回転方向Bの長さ寸法を、図3に示す如く、両歯車6、7の回転で一つのポンプ室Vが離壁18A、18B上に位置して閉じ込み状態にあるとき、先端部をポンプ室Vに開口して残りの部分を外歯7Aの側面で覆う形状に設ける。この形状により内側溝20A、20Bは、図2に示す如く、ポンプ室V1が高圧となる吐出ポート14A、14Bに連通しているとき、全ての部分が外歯7Aの側面で覆われてポンプ室V1と低圧となる吐出ポート15A、15Bとの間の連通を遮断する。そして、内側溝20A、20Bは深さ寸法を接続した低圧となる吐出ポート15A、15Bの深さ寸法と略同等に設ける。
【0019】
次に、かかる構成の作動を説明する。
オイルポンプドライブハブ10により外歯歯車7を回転駆動すると、外歯歯車7と内接噛み合いする内歯歯車6が回転駆動され、吸入流路13の油が吸入ポート12A、12Bより吸入域空間Sで容積を増大するポンプ室に吸入されて吐出域空間Pに搬送され、吐出域空間Pでポンプ室が容積を減少することで高圧となる吐出ポート14A、14Bおよび低圧となる吐出ポート15A、15Bより吐出される。そして、高圧となる吐出ポート14A、14Bより吐出された油は第1吐出流路16を流れてシフトコントロールバルブ等の高圧の油圧回路に供給される。また、低圧となる吐出ポート15A、15Bより吐出された油は第2吐出流路17を流れて潤滑や冷却のための低圧の油圧回路に供給される。
【0020】
かかる作動で、二つの吐出ポート14A、14Bと15A、15B間に備えた離壁18A、18B上に位置する内歯歯車6の内歯6Aと外歯歯車7の外歯7Aとの間に形成した最小隙間Xを、0.020mm以上0.110mm以下にし、高圧となる吐出ポート14A、14Bに連通するポンプ室V1と低圧となる吐出ポート15A、15Bに連通するポンプ室V2との間を仕切った。このため、両歯車6、7の回転により内歯歯車6の内歯6Aと外歯歯車7の外歯7Aとが頻繁に接触して歯先が摩耗することを抑制しつつ、高圧となる吐出ポート14A、14Bに連通するポンプ室V1から低圧となる吐出ポート15A、15Bに連通するポンプ室V2への作動油の漏出を低減でき、高圧となる吐出ポート14A、14Bから吐出する作動油量の減少を抑制してポンプの容積効率を向上することができる。
【0021】
また、両歯車6、7の回転方向Bの後方側に位置する一方の吐出ポート14A、14Bの圧力を高圧にし、両歯車6、7の回転方向Bの前方側に位置する他方の吐出ポート15A、15Bの圧力を後方側に位置する一方の吐出ポート14A、14Bの圧力より低圧にする。このため、高圧となる吐出ポート14A、14Bが開口する箇所では、内歯歯車6の内周側に作用する圧力が、高圧となる吐出ポート14A、14Bから内歯歯車6の側面を介して外周側に漏出して内歯歯車6の外周側に作用する圧力より高くなり、内歯歯車6は内周側に作用する圧力と外周側に作用する圧力との圧力差に基づく作用力で二つの吐出ポート14A、14B、15A、15Bが位置する側、すなわち図2の左方向側に向けて矢印Cで示す如き収装孔2内周面に押圧される。なお、外歯歯車7は、外周側に作用する吸入ポート12A、12Bの圧力と二つの吐出ポート14A、14B、15A、15Bの圧力との圧力差に基づく作用力で吸入ポート12A、12Bが位置する側、すなわち図2の右方向側に向けて矢印Dで示す如き押圧される。よって、内歯歯車6と外歯歯車7とは相反する反対方向に押圧されるから、両歯間6、7の噛み合い隙間が最小となる位置近傍にある最適噛み合い位置より回転方向Bの前方側にずれ易くなる従来のポンプに比し、内歯6Aと外歯7Aとの噛み合い位置が、両歯6A、7A間の噛み合い隙間が最小となる位置近傍にある最適噛み合い位置Eに安定して位置でき、騒音、振動を低減することができる。
【0022】
また、両歯車6、7の回転で二つの吐出ポート14A、14Bと15A、15B間の離壁18A、18B上に位置して閉じ込み状態にあるポンプ室V(図3に示す)は、外側溝19A、19Bおよび内側溝20A、20Bにより低圧となる吐出ポート15A、15Bに連通して圧力を低減でき、外歯歯車7を回転駆動するトルクの低減を図れる。また、両歯車6、7の回転で高圧となる吐出ポート14A、14Bに連通状態にあるポンプ室V1(図2に示す)は、外側溝19A、19Bおよび内側溝20A、20Bによる低圧となる吐出ポート15A、15Bとの間の連通を遮断して油の排出を阻止できる。このため、二つの吐出ポート14A、14Bと15A、15B間に備える離壁18A、18B上に位置して閉じ込み状態にあるポンプ室V(図3に示す)の圧力低減を図りつつ、高圧となる吐出ポート14A、14Bから低圧となる吐出ポート15A、15Bへの作動油の排出を阻止してポンプの容積効率を一層向上することができる。
【0023】
また、両歯車6、7の回転で高圧となる吐出ポート14A、14Bにポンプ室V1が連通しているとき、内歯6Aと外歯7Aとの間の最小隙間Xより径方向の外側に位置する外側溝19A、19Bは、先端部を内歯6Aの側面で覆われてポンプ室V1と低圧となる吐出ポート15A、15Bとの間の連通を遮断し、最小隙間Xより径方向の内側に位置する内側溝20A、20Bは、外歯7Aの側面で覆われて高圧となる吐出ポート14A、14Bに連通するポンプ室V1と低圧となる吐出ポート15A、15Bとの間の連通を遮断する。このため、高圧となる吐出ポート14A、14Bに連通するポンプ室V1と低圧となる吐出ポート15A、15Bとの間の連通を遮断する部材を格別に要することなくでき、構成の簡素化を図ることができる。
【0024】
また、二つの吐出ポート14A、14Bと15A、15B間の離壁18A、18B上に位置して閉じ込み状態にあるポンプ室Vを、外側溝19A、19Bと内側溝20A、20Bとの両方の溝により低圧となる吐出ポート15A、15Bに連通できるため、両方の溝19A、19Bと20A、20Bを介して大流量を流通でき、閉じ込み状態にあるポンプ室Vの圧力低減を迅速に図ることができる。さらにまた、外側溝19A、19Bと内側溝20A、20Bは深さ寸法を接続した低圧となる吐出ポート15A、15Bの深さ寸法と略同等に設けているため、溝を傾斜状に形成した従来のポンプと比べ、閉じ込み状態にあるポンプ室Vから低圧となる吐出ポート15A、15Bにより一層大流量を流通でき、閉じ込み状態にあるポンプ室Vの圧力低減をより一層迅速に図ることができる。
【0025】
また、外歯歯車7には軸受ブッシュ部材8を備え、ポンプハウジング5には駆動軸としてのオイルポンプドライブハブ10とは別の固定軸としてのステータシャフト9を備え、外歯歯車7を軸受ブッシュ部材8を介してポンプハウジング5のステータシャフト9に回転自在に軸支する。このため、外歯歯車7を径方向へのがたつきを抑制して軸支できるから、外歯歯車7を最適噛み合い位置Eにより一層安定して位置でき、内歯歯車6を最適噛み合い位置Eに安定して位置できることと相俟って、騒音、振動を一層低減することができる。
【0026】
以上説明した内接歯車ポンプの効果について検証試験を行った。
構成は、内歯歯車6と外歯歯車7の歯形のモジュール6.46、内歯歯車6の歯数10、外歯歯車7の歯数9、押しのけ容積14cc/rev、両歯車6、7の回転方向Bの後方側に位置する高圧となる吐出ポート14A、14Bの圧力を1.0MPa、両歯車6、7の回転方向Bの前方側に位置する低圧となる吐出ポート15A、15Bの圧力を0.5MPa、回転数2000rpm、油温を80℃とした。
【0027】
以上のように構成し、内歯歯車6が設計上の回転中心C1より矢印Cで示す方向に押圧されると共に、外歯歯車7が設計上の回転中心D1より矢印Dで示す方向に押圧され、両歯車6、7が径方向の相反する方向に押圧された状態で、高圧となる吐出ポート14A、14Bに連通するポンプ室V1と低圧となる吐出ポート15A、15Bに連通するポンプ室V2との間を仕切る内歯歯車6の内歯6Aと外歯歯車7の外歯7Aとの間の最小隙間Xを本発明の一実施形態に相当する内接歯車ポンプで、高圧となる吐出ポート14A、14Bからの吐出量を測定したところ、最小隙間X0.020mmで吐出量11.94L/min、最小隙間X0.040mmで吐出量11.22L/min、最小隙間X0.060mmで9.60L/min、最小隙間X0.080mmで7.07L/min、最小隙間X0.100mmで3.64L/min、最小隙間X0.110mmで1.59L/minであった。
【0028】
しかるに、かかる構成で、本発明の一実施形態に相当する内接歯車ポンプの最小隙間X0.020mm以上0.110mm以下より、最小隙間を小さくしたものと大きくしたものとで、高圧となる吐出ポート14A、14Bからの吐出量を測定したところ、小さくした最小隙間0.013mmで吐出量11.98L/min、大きくした最小隙間0.114mmで吐出量0.70L/minであった。
【0029】
これらの測定結果は図4に線Fで示す。前述の一実施形態に相当する最小隙間X0.020mmで吐出量11.94L/minに対し、これより小さくした最小隙間0.013mmで吐出量11.98L/minであり、吐出量の差は僅少であった。そして、最小隙間が0.013mmでは、両歯車6、7の回転により内歯歯車6の内歯6Aと外歯歯車7の外歯7Aとが頻繁に接触することに起因するものと考えられる騒音が確認された。一方、前述の一実施形態に相当する最小隙間X0.020mmでは係る騒音は殆ど確認されなかった。また、前述の一実施形態に相当する最小隙間X0.110mmで吐出量1.59L/minに対し、これより大きくした最小隙間0.114mmで吐出量0.70L/minであり、吐出量は大幅に低減した。
【0030】
なお、一実施形態では、ポンプハウジング5を有底の収容孔2を開口形成したポンプ本体1と蓋部材3とで構成したが、収容孔を貫通形成したポンプ本体と収容孔の両端開口を閉塞するようポンプ本体の両側に備えた蓋部材とでポンプハウジングを構成しても良い。また、両歯車6、7の両側面が摺接する収容孔2の底面2A(摺接面)と蓋部材3の一側面3A(摺接面)にそれぞれ吸入ポート12A、12Bおよび二つの吐出ポート14A、14Bと15A、15Bを開口し、二つの吐出ポート14A、14Bと15A、15Bとの間に離壁18A、18Bを備えたが、いずれか一つの摺接面に吸入ポートおよび吐出ポートを開口して離壁を備えても良い。また、外側溝19A、19Bと内側溝20A、20Bとを備えたが、いずれか一方の溝のみを備えるか又は溝は必要に応じて備えなくても良い。また、外側溝19A、19Bと内側溝20A、20Bは深さ寸法を接続した一方の吐出ポート15A、15Bの深さ寸法と略同等に設けたが、これに限定されるものではなく、例えば傾斜溝としても良い。また、二つの吐出ポート14A、14Bと15A、15Bを設けたが、三つ以上の吐出ポートを設けても良い。さらにまた、両歯車6、7の回転方向Bの後方側に位置する吐出ポート14A、14Bを高圧として回転方向Bの前方側に位置する吐出ポート15A、15Bを低圧としたが、回転方向Bの後方側に位置する吐出ポート14A、14Bを低圧として回転方向Bの前方側に位置する吐出ポート15A、15Bを高圧としても良いことは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
2:収容孔
2A:底面(摺接面)
3A:一側面(摺接面)
5:ポンプハウジング
6:内歯歯車
6A:内歯
7:外歯歯車
7A:外歯
12A、12B:吸入ポート
14A、14B、15A、15B:吐出ポート
18A、18B:離壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプハウジングの収容孔に内歯を有するリング状の内歯歯車を回転自在に収容し、内歯歯車の内歯と内接噛み合いする外歯を有する外歯歯車を内歯歯車の内部に偏心して収容し、両歯車間には両歯車の回転により両歯間の噛み合い隙間が増加する領域に吸入域空間を形成すると共に、両歯車の回転により両歯間の噛み合い隙間が減少する領域に吐出域空間を形成し、内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯とによりポンプ室を区画形成し、ポンプ室は両歯車の回転により吸入域空間で容積を増加すると共に、吐出域空間で容積を減少して設け、収容孔に収容した両歯車の側面が摺接するポンプハウジングの摺接面には、吸入域空間に連通して吸入ポートを開口すると共に、吐出域空間に連通して両歯車の回転方向に離間する二つの吐出ポートを開口し、この二つの吐出ポートのいずれか一方の吐出ポートを高圧にすると共に、他方の吐出ポートを高圧にした一方の吐出ポートの圧力より低圧にし、二つの吐出ポート間には離壁を備え、離壁上に位置する内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯との間には、高圧となる吐出ポートに連通するポンプ室と低圧となる吐出ポートに連通するポンプ室との間を仕切る最小隙間を形成し、この最小隙間を0.020mm以上0.110mm以下にしたことを特徴とする内接歯車ポンプ。
【請求項2】
前記二つの吐出ポートは、両歯車の回転方向の後方側に位置する一方の吐出ポートの圧力を高圧にし、両歯車の回転方向の前方側に位置する他方の吐出ポートの圧力を一方の吐出ポートの圧力より低圧にしたことを特徴とする請求項1に記載の内接歯車ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−185297(P2010−185297A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28383(P2009−28383)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000241267)豊興工業株式会社 (63)
【Fターム(参考)】