説明

内燃機関のカムシャフト支持構造

【課題】内燃機関のカムシャフト支持構造において、位置決め部に不純物が堆積することを防止しつつ、カムシャフトを容易に位置決めできるようにする。
【解決手段】排気カムシャフト55Eをシリンダーヘッド27との間で保持するキャップ195Eを備えた内燃機関のカムシャフト支持構造において、排気カムシャフト55Eにスラスト位置規制用の鍔部66Eを設け、排気カムシャフト55Eを上方から覆うキャップ195Eに鍔部66Eに嵌合するスラスト規制溝部133Eを設け、シリンダーヘッド27側にはスラスト規制溝部133Eのスラスト規制溝138Eの溝幅より広く、且つ、周方向に短い案内溝141Eを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のカムシャフト支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関において、カムシャフトに設けたリング状の鍔部を、シリンダーヘッド側に設けたスラストを規制する位置決め部としての溝に摺動可能に挿入し、カムシャフトの軸方向への移動を規制してカムシャフトを位置決めするカムシャフト支持構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−287841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のカムシャフト支持構造では、シリンダーヘッド側に設けたスラストを規制する上記溝の底部には、内燃機関を潤滑するオイル中に取り込まれた不純物が堆積することがあり、この不純物がカムシャフトの摺動の抵抗になる虞があった。このため、不純物の堆積を防止しつつ、カムシャフトを容易に位置決め可能なカムシャフト支持構造が望まれていた。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、内燃機関のカムシャフト支持構造において、位置決め部に不純物が堆積することを防止しつつ、カムシャフトを容易に位置決めできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、カムシャフト(55I、55E)をシリンダーヘッド(27)との間で保持するキャップ部材(195I、195E)を備えた内燃機関のカムシャフト支持構造において、前記カムシャフト(55I、55E)にスラスト位置規制用の鍔部(66I、66E)を設け、前記カムシャフト(55I、55E)を上方から覆う前記キャップ部材(195I、195E)に前記鍔部(66I、66E)に嵌合するスラスト規制溝部(133I、133E)を設け、前記シリンダーヘッド(27)側には前記スラスト規制溝部(133I、133E)の溝幅より広く、且つ、周方向に短い案内部(141I、141E)を設けたことを特徴とすることを特徴とする。
この構成によれば、カムシャフトの鍔部に嵌合するスラスト規制溝部を、カムシャフトを上方から覆うキャップ部材に設けたため、スラスト規制溝部に不純物が堆積することを防止できるとともに、カムシャフトをスラスト方向に位置決めできる。また、シリンダーヘッド側にスラスト規制溝部の溝幅よりも広い案内部を設けたため、組み付け作業の際に、鍔部を案内部によってガイドすることでカムシャフトを容易に位置決めでき、組み付け性を向上できる。
【0006】
また、上記構成において、前記キャップ部材(195I、195E)の上部には飛沫オイルを捕集して前記スラスト規制溝部(133I、133E)へ案内するオイル溜め部(143I、143E)が設けられていても良い。
この場合、キャップ部材の上部に設けたオイル溜め部からスラスト規制溝部にオイルを案内するため、カムシャフトを上方から覆うキャップ部材にスラスト規制溝部を設けた構成であってもオイルをカムシャフトに供給でき、摺動部の摩擦抵抗を低減できる。
【0007】
また、カムシャフト(55I、55E)をシリンダーヘッド(27)との間で保持するキャップ部材(195I、195E)を備えた内燃機関のカムシャフト支持構造において、前記カムシャフト(55I、55E)にスラスト位置規制用の鍔部(66I、66E)を設け、前記カムシャフト(55I、55E)を上方から覆う前記キャップ部材(195I、195E)に前記鍔部(66I、66E)に嵌合するスラスト規制溝部(133I、133E)を設け、前記キャップ部材(195I、195E)の上部には飛沫オイルを捕集して前記スラスト規制溝部(133I、133E)へ案内するオイル溜め部(143I、143E)が設けられている構成としても良い。
この構成によれば、カムシャフトの鍔部に嵌合するスラスト規制溝部を、カムシャフトを上方から覆うキャップ部材に設けたため、スラスト規制溝部に不純物が堆積することを防止できるとともに、カムシャフトをスラスト方向に位置決めできる。また、キャップ部材の上部に設けたオイル溜め部からスラスト規制溝部にオイルを案内するため、カムシャフトを上方から覆うキャップ部材にスラスト規制溝部を設けた構成であってもオイルをカムシャフトに供給でき、摺動部の摩擦抵抗を低減できる。
【0008】
さらに、前記キャップ部材(195I、195E)の前記スラスト規制溝部(133I、133E)は、前記カムシャフト(55I、55E)に駆動されるロッカーアーム(57I、57E)の一部と平面視で重なる位置に配置されていても良い。
この場合、スラスト規制溝部がロッカーアームの一部に重なる位置に配置されるため、スラスト規制溝部をロッカーアームに近接配置でき、内燃機関を小型化できる。
【0009】
さらにまた、前記オイル溜め部(143I、143E)の前記スラスト規制溝部(133I、133E)との連通孔(145I、145E)は、前記カムシャフト(55I、55E)の中心のカム軸線(150I、150E)に対して、内燃機関(24)の傾斜方向にオフセットして設けられても良い。
この場合、オイル溜め部の連通孔をエンジンの傾斜方向にオフセットして設けることで、オイル溜め部のオイルが傾斜方向に流れて連通孔へ流れるため、オイルを効率良くスラスト規制溝部に供給でき、潤滑性を向上できる。
【0010】
また、前記オイル溜め部(143I、143E)の前記スラスト規制溝部(133I、133E)との連通孔(145I、145E)は、前記カムシャフト(55I、55E)の中心のカム軸線(150I、150E)に対して、前記カムシャフト(55I、55E)のカム(58I、58E)の回転方向に沿うように一方にオフセットして設けられても良い。
この場合、連通孔がカムの回転方向に沿うように一方にオフセットされているため、カムの回転方向に沿って連通孔内のオイルを吸引でき、オイルの流入抵抗を低下させて効率良くオイルを供給できる。
【0011】
また、前記オイル溜め部(143I、143E)の真上に位置するシリンダヘッドカバー(28)には補強リブ(155)が格子状に設けられても良い。
この場合、補強リブを格子状としたため、ヘッドカバー全体を薄肉軽量化させつつ、飛沫オイルを格子状の補強リブに捕集して、補強リブから滴下するオイルをオイル溜め部に導いてオイル量を増加させることができ、潤滑性を向上できる。
さらに、前記スラスト規制溝部(133I、133E)を備える前記キャップ部材(195I、195E)は、前記カムシャフト(55I、55E)と一体に回転するカムスプロケット(61I、61E)側に配置されたキャップ部材であっても良い。
この場合、カムシャフトと一体に回転するカムスプロケットからの飛沫オイルをオイル溜め部に導いてオイル量を増加させることができ、潤滑性を向上できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る内燃機関のカムシャフト支持構造では、カムシャフトの鍔部に嵌合するスラスト規制溝部を、カムシャフトを上方から覆うキャップ部材に設けたため、スラスト規制溝部に不純物が堆積することを防止できるとともに、カムシャフトをスラスト方向に位置決めできる。また、シリンダーヘッド側にスラスト規制溝部の溝幅よりも広い案内部を設けたため、鍔部を案内部によってガイドすることでカムシャフトを容易に位置決めでき、組み付け性を向上できる。
【0013】
また、キャップ部材のオイル溜め部からスラスト規制溝部にオイルを案内するため、オイルをカムシャフトに供給でき、摺動部の摩擦抵抗を低減できる。
また、スラスト規制溝部を、キャップ部材に設けたため、スラスト規制溝部に不純物が堆積することを防止しつつ、カムシャフトをスラスト方向に位置決めできるとともに、オイル溜め部からスラスト規制溝部にオイルを案内するため、オイルをカムシャフトに供給でき、摺動部の摩擦抵抗を低減できる。
さらに、スラスト規制溝部をロッカーアームに近接配置でき、内燃機関を小型化できる。
【0014】
さらにまた、エンジンの傾斜方向にオフセットされた連通孔から、オイルを効率良くスラスト規制溝部に供給でき、潤滑性を向上できる。
また、連通孔内のオイルを吸引して、オイルの流入抵抗を低下させて効率良くオイルを供給できる。
また、補強リブによってヘッドカバー全体を薄肉軽量化させつつ、補強リブから滴下するオイルをオイル溜め部に導いてオイル量を増加させることができ、潤滑性を向上できる。
さらに、カムスプロケットからの飛沫オイルをオイル溜め部に導いてオイル量を増加させることができ、潤滑性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動二輪車を示す右側面図である。
【図2】エンジンを車両右側から見た一部破断断面図である。
【図3】ヘッドカバーを外した状態においてエンジンを上方から見た図である。
【図4】ヘッドカバーを外した状態においてエンジンを上方から見た図である。
【図5】吸気側ロッカーアームの平面図である。
【図6】吸気側ロッカーアームの側面図である。
【図7】図2における吸気側動弁装置の近傍の拡大図である。
【図8】一側被支持部の支持状態を示す側面断面図である。
【図9】キャップ体を軸受部の側から見た平面図である。
【図10】排気カムシャフトの支持構造を示す断面図である。
【図11】ヘッドカバーをシリンダーヘッド側から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る自動二輪車について図面を参照して説明する。なお、以下の説明で、上下、前後、左右の方向は、車両の運転者から見た方向をいう。
図1は、本発明の実施の形態に係る自動二輪車を示す右側面図である。
自動二輪車1の車体フレームFは、車両の前部に設けられたヘッドパイプ17と、ヘッドパイプ17から後下がりに延びるメインフレーム18と、メインフレーム18よりも下方でヘッドパイプ17に連接されるとともにメインフレーム18よりも急角度で後下がりに延びるダウンフレーム19と、メインフレーム18の後部の左右両側及びダウンフレーム19の下端部の左右両側の間を結ぶ左右一対のロアフレーム20と、メインフレーム18の後部に連接されて後方に延びる左右一対のシートレール21と、ロアフレーム20とシートレール21との後部とを結ぶ左右一対のリヤフレーム22とを備えている。
また、ヘッドパイプ17には前輪WFを軸支する左右一対のフロントフォーク15が支持され、フロントフォーク15の上端部には操舵用のハンドル16が設けられている。
【0017】
ロアフレーム20は、ダウンフレーム19の下部から垂下される第1フレーム部20aと、第1フレーム部20aから後方に略水平に延びる第2フレーム部20bと、第2フレーム部20bの後端から上方に延びる第3フレーム部20cとを一体に有している。ロアフレーム20は、側面視では上方に開いた略U字状に形成され、第3フレーム部20cの上端がメインフレーム18の後端部に連接される。
【0018】
車体フレームFには、車両のエンジン24(内燃機関)が、メインフレーム18、ダウンフレーム19及びロアフレーム20で囲われるようにして搭載される。エンジン24は、水冷式の4サイクル単気筒エンジンであり、クランクケース25と、クランクケース25の前側上部に結合されて前傾しつつ上方に立ち上がるシリンダーブロック26と、シリンダーブロック26の上端に結合されるシリンダーヘッド27と、シリンダーヘッド27の上端に結合されるヘッドカバー28とを備えている。
【0019】
シリンダーヘッド27の前部には、排気管37が接続され、排気管37は、下方に延びた後、エンジン24の下方を通って後方に延び、後輪WRの右側面に配置されるマフラー38に接続されている。
シリンダーヘッド27の後部には、エンジン24に空気を供給する吸気装置35が接続されている。
また、エンジン24の前方には、エンジン24の冷却水が循環するラジエータ82が設けられ、ラジエータ82はダウンフレーム19に支持されている。
さらに、エンジン24の上方でメインフレーム18上には、燃料タンク29が搭載され、燃料タンク29の後方には、シートレール21によって支持される乗員用のシート30が配置されている。
【0020】
ロアフレーム20には、第2及び第3フレーム部20b、20cに跨って設けられる左右一対のピボットプレート31が設けられており、このピボットプレート31にはピボット軸32を介してスイングアーム33が揺動可能に支持されている。後輪WRは、スイングアーム33の後端に軸支され、後輪WRは、エンジン24の出力軸(図示略)と後輪WRとの間に掛け渡される駆動チェーン(図示略)によって駆動される。また、車体フレームFとスイングアーム33との間には、リヤクッション34が伸縮自在に設けられる。
【0021】
図2は、エンジン24を車両右側から見た一部破断断面図である。
シリンダーブロック26は、ピストン39が摺動自在に嵌合するシリンダボア40を有し、シリンダボア40の軸線であるシリンダ軸線Cを鉛直方向よりも前傾させるようにしてクランクケース25に結合されている。クランクケース25内には、自動二輪車1の車幅方向に水平に延びるクランクシャフト41が回転自在に支持され、ピストン39は、コネクティングロッド42及びクランクピン43を介してクランクシャフト41に接続されている。
【0022】
シリンダーブロック26とシリンダーヘッド27との間には、ピストン39の頂部に臨む燃焼室44が形成され、シリンダーヘッド27にはその後部側壁27aに開口する吸気ポート45と、前部側壁27bに開口する排気ポート46とが設けられている。ここでは、シリンダーヘッド27が前傾して設けられているため、後部側壁27aは後方側の斜め上方に臨み、前部側壁27bは前方側の斜め下方に臨んでいる。
シリンダーヘッド27には、燃焼室44の中央に臨むようにして点火プラグ51が取り付けられている。
また、シリンダーヘッド27の後部側壁27aには、吸気ポート45に連通する吸気装置35(図1)が接続され、前部側壁27bには排気ポート46に連通する排気管37(図1)が接続される。
【0023】
吸気ポート45は、車幅方向に二股に分かれた一対の分岐路45a(左側面側の分岐路は不図示)を有し、排気ポート46は、車幅方向に二股に分かれた一対の分岐路46a(左側面側の分岐路は不図示)を有している。分岐路45aには、分岐路45aと燃焼室44との連通及び遮断を切り換える一対の吸気弁47が配置され、分岐路46aには燃焼室44との連通及び遮断を切り換える一対の排気弁48が配置され、吸気弁47及び排気弁48は開閉動作を可能に設けられている。
【0024】
吸気弁47はシリンダーヘッド27との間に設けられる弁ばね49によって閉弁方向に付勢され、排気弁48はシリンダーヘッド27との間に設けられる弁ばね49によって閉弁方向に付勢されている。詳細には、吸気弁47及び排気弁48は、燃焼室44を塞ぐ弁体47a、48aと、弁体47a、48aから延びる軸状のバルブステム47b、48bとを有し、バルブステム47b、48bの上端側のバルブステムエンド47c、48cには、弁ばね49を受けるスプリングシート90が設けられている。さらに、スプリングシート90には、円盤状のシム91が設けられている。
吸気弁47及び排気弁48は、点火プラグ51の周囲を囲うようにシリンダーヘッド27の中央に配置されている。
【0025】
シリンダーヘッド27は吸気ポート45及び排気ポート46の上方において燃焼室44側に窪んだ収容部Kを有し、収容部Kをヘッドカバー28で塞ぐことによって、シリンダーヘッド27の上部には動弁室53が形成されている。この動弁室53には、一対の吸気弁47を開閉駆動する吸気側動弁装置54Iと、一対の排気弁48を開閉駆動する排気側動弁装置54Eとが収容されている。吸気側動弁装置54I及び排気側動弁装置54Eは、燃焼室44の上方に吸気弁47及び排気弁48を備えた頭上弁式の動弁装置である。吸気側動弁装置54I及び排気側動弁装置54Eは、シリンダ軸線Cを中心として、前後方向に略対称に構成されている。
【0026】
図3及び図4は、ヘッドカバー28を外した状態においてエンジン24を上方から見た図である。なお、図3では、後述するキャップ194I、194E及びキャップ195I、195Eを取り外した状態を示している。さらに、図3及び図4では、スプリングシート90及びシム91の図示を省略している。
【0027】
図2から図4に示すように、吸気側動弁装置54Iは、クランクシャフト41と平行に設けられクランクシャフト41によって回転駆動される吸気カムシャフト55I(カムシャフト)と、吸気カムシャフト55Iに設けられ吸気カムシャフト55Iと一体に回転するカム58Iと、カム58Iにより揺動させられ、吸気弁47を開閉する吸気側ロッカーアーム57Iとを備えている。吸気側ロッカーアーム57Iは、吸気カムシャフト55Iと平行な吸気側ロッカシャフト56Iによって揺動可能に軸支され、揺動する吸気側ロッカーアーム57Iの先端側の作用点部73が吸気弁47に連結される。また、吸気側ロッカーアーム57Iには、カム58Iに転動可能に当接するローラ74を備えるローラ部75が設けられている。このように、吸気側ロッカーアーム57Iは、カム58Iにローラ74を介して当接するローラ式ロッカーアームである。
【0028】
排気側動弁装置54Eは、クランクシャフト41と平行に設けられクランクシャフト41によって回転駆動される排気カムシャフト55E(カムシャフト)と、排気カムシャフト55Eに設けられ排気カムシャフト55Eと一体に回転するカム58Eと、カム58Eにより揺動させられ、排気弁48を開閉する排気側ロッカーアーム57Eとを備えている。排気側ロッカーアーム57Eは、排気カムシャフト55Eと平行な排気側ロッカシャフト56Eによって揺動可能に軸支され、揺動する排気側ロッカーアーム57Eの先端側の作用点部73が排気弁48に連結される。また、排気側ロッカーアーム57Eには、カム58Eに転動可能に当接するローラ74を備えるローラ部75が設けられている。排気側ロッカーアーム57Eは、カム58Eにローラ74を介して当接するローラ式ロッカーアームである。
排気側動弁装置54Eは、点火プラグ51を挟んでシリンダーヘッド27の前部側に設けられ、吸気側動弁装置54Iは、点火プラグ51を挟んで後部側に設けられている。点火プラグ51が設けられるプラグ孔51Aは、平面視においてシリンダーヘッド27の中央部に位置している。
【0029】
図3に示すように、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eは互いに平行に配置され、その軸方向の一端側(本実施の形態ではエンジン24の右側面側)に被動スプロケット61I、61E(カムスプロケット)を有し、クランクシャフト41と被動スプロケット61I、61Eとの間に巻き掛けられたカムチェーン62によって、クランクシャフト41の回転数の半分の回転数で回転させられる。シリンダーヘッド27及びシリンダーブロック26の一端側には、カムチェーン62が通るカムチェーン室63が上下に延びるように形成されている。
【0030】
吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eは、被動スプロケット61I、61Eの側から順に、シリンダーヘッド27に軸支される一側被支持部68I、68Eと、該カムシャフトの外径方向に張り出した鍔部66I、66Eと、カム58I、58Eと、シリンダーヘッド27に軸支される他側被支持部69I、69Eとを備えている。
【0031】
図3及び図4に示すように、シリンダーヘッド27の上部には、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの一側被支持部68I、68Eを回転自在に支持する一側シャフト支持部92I、92Eがそれぞれ設けられている。また、シリンダーヘッド27の上部には、他側被支持部69I、69Eを回転自在に支持する他側シャフト支持部93I、93Eがそれぞれ設けられている。
鍔部66I、66Eは、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの軸方向視で円形に形成された円板部であり、軸方向の厚さが全周に亘って略同一に形成されている。鍔部66I、66Eは、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eとそれぞれ同軸に設けられるとともに、一側被支持部68I、68Eよりも大径に形成されている。
【0032】
図5は、吸気側ロッカーアーム57Iの平面図である。図6は、吸気側ロッカーアーム57Iの側面図である。本実施の形態では、吸気側ロッカーアーム57I及び排気側ロッカーアーム57Eは同様に構成されているため、ここでは排気側ロッカーアーム57Eの詳細な説明は省略する。
図3、図5及び図6に示すように、吸気側ロッカーアーム57I(排気側では排気側ロッカーアーム57E)は、吸気側ロッカシャフト56I(排気側では排気側ロッカシャフト56E)が挿通される挿通孔71aを有する揺動支点部71と、一対の吸気弁47(排気側では排気弁48)に対応し揺動支点部71から二股に分岐して延出されるアーム部72と、アーム部72の先端から吸気弁47(排気弁48)の側に下方に突出する作用点部73と、ローラ74を収容するローラ収容部75Aとを備えて構成されている。
【0033】
アーム部72は、挿通孔71aの軸方向と直交するように揺動支点部71の両端からそれぞれ延出され、各アーム部72において各作用点部73との連結部72aは、揺動支点部71の幅方向の外側に屈曲しながら先端側に延びて幅広に形成されている。
ローラ収容部75Aは、一対のアーム部72の間に形成されてアーム部72と平行に延びる空間であり、ローラ部75の先端側は開放されている。ローラ部75は、吸気側ロッカーアーム57Iの幅方向の中央に設けられ、ローラ74をローラ収容部75Aに収容して構成されている。
アーム部72には、アーム部72の側面を挿通孔71aと平行に貫通するピン支持孔77が形成されており、ローラ74の中心に挿通されてローラ74を回転自在に軸支するローラ支持ピン78は、ピン支持孔77に支持される。ピン支持孔77は、アーム部72の長手方向の中間部に位置し、挿通孔71aと作用点部73との間に形成されている。
【0034】
図6に示すように、吸気側ロッカーアーム57Iの厚さは、揺動支点部71からピン支持孔77までは略一定に形成され、連結部72a及び作用点部73では下面側が一段窪むようにして薄く形成されている。吸気弁47のシム91に当接する押し部73aは、作用点部73の先端から吸気弁47側に突出して形成されている。図5に示すように、押し部73aは吸気側ロッカーアーム57Iの幅方向に一対で設けられ、揺動支点部71よりも幅方向に大きく開いた二股形状で構成されている。
また、挿通孔71aの中心、ピン支持孔77の中心及び押し部73aの下面を結ぶ線Lは、略直線状となっており、挿通孔71a、ピン支持孔77及び押し部73aは略直線上に並ぶように形成されている。このように、挿通孔71a、ピン支持孔77及び押し部73aを略直線状に並ぶように配置したため、吸気側ロッカーアーム57Iを長手方向及び厚さ方向にコンパクトな形状とすることができる。
【0035】
図3及び図4に示すように、シリンダーヘッド27の上部には、後部側壁27aに連続するように支持壁部96Iが設けられ、この支持壁部96Iには、吸気ポート45側に下方へ窪んだロッカーアーム収容部49Iが形成されている。また、シリンダーヘッド27の上部には、前部側壁27bに連続するように支持壁部96Eが設けられ、この支持壁部96Eには、排気ポート46側に下方へ窪んだロッカーアーム収容部49Eが形成されている。
【0036】
図4に示すように、支持壁部96Iには、吸気側ロッカシャフト56Iをシリンダーヘッド27に支持するロッカシャフト支持孔97Iが設けられている。吸気側ロッカーアーム57Iは、揺動支点部71がロッカーアーム収容部49Iに収容された状態で挿通孔71a及びロッカシャフト支持孔97Iに吸気側ロッカシャフト56Iが挿通されることで、シリンダーヘッド27に取り付けられる。
また、支持壁部96Eには、排気側ロッカシャフト56Eをシリンダーヘッド27に支持するロッカシャフト支持孔97Eが設けられている。排気側ロッカーアーム57Eは、揺動支点部71がロッカーアーム収容部49Eに収容された状態で挿通孔71a及びロッカシャフト支持孔97Eに排気側ロッカシャフト56Eが挿通されることで、シリンダーヘッド27に取り付けられる。
【0037】
図3に示すように、吸気側ロッカーアーム57I及び排気側ロッカーアーム57Eは、その幅方向の中心に設けられた各ローラ74がシリンダーヘッド27の幅方向においてシリンダ軸線Cと一致する同一の位置に設けられ、互いに対向して設けられている。また、カム58I及びカム58Eは、その幅方向の中心がシリンダ軸線Cと一致して設けられており、平面視において、カム58I及びカム58Eは各ローラ74に対し重なるように配置されている。
【0038】
図7は、図2における吸気側動弁装置54Iの近傍の拡大図である。
図2及び図7に示すように、吸気側ロッカーアーム57Iは、吸気弁47及び排気弁48のバルブ軸線V1、V2の交差する角度により規定されるバルブ挟み角Aの範囲よりも外側位置に配置され、後部側壁27aの近傍に配置された吸気側ロッカシャフト56Iを支点として外側支点で支持されている。詳細には、吸気側ロッカーアーム57Iは、揺動支点部71及びアーム部72がバルブ挟み角Aの範囲よりも外側に位置している。
【0039】
吸気カムシャフト55Iは、ローラ74とカム58Iとが接する状態で吸気側ロッカーアーム57Iの上方に配置され、吸気カムシャフト55Iの軸方向に見た場合、ローラ支持ピン78と押し部73aとの間に位置している。すなわち、吸気カムシャフト55Iの中心位置O1は、ローラ74の中心O2と押し部73aとの間に位置し、ローラ74はカム58Iに対し、シリンダーヘッド27の内側方向に向けて内向きに接している。
このように、吸気カムシャフト55Iを、ローラ74の中心と押し部73aとの間に設けることで、吸気カムシャフト55Iをより内側に配置できるため、シリンダーヘッド27を小型化することができる。
【0040】
吸気カムシャフト55Iが回転されると、吸気側ロッカーアーム57Iは、ローラ74がカム58Iによって押し下げられることによって吸気側ロッカシャフト56Iを支点として下方に揺動される。これに伴って、吸気弁47は、吸気側ロッカーアーム57Iの先端の押し部73aによってシム91を介して弁ばね49に抗して押し下げられ、開弁される。
なお、排気側動弁装置54Eは、シリンダ軸線Cを挟んで吸気側動弁装置54Iと略対称に構成されているため、ここでは説明を省略する。
【0041】
また、カム58Iのベース円部58I1がローラ74に接している状態では、吸気側ロッカーアーム57Iの線Lとバルブ軸線V1とは略90°の角度で交差しているため、吸気側ロッカーアーム57Iの反力における後部側壁27aに向く成分は小さい。一方、カム58Iのカム山部58I2がローラ74に接する状態では、吸気側ロッカーアーム57Iの線Lとバルブ軸線V1とが交差する角度が略90°ではなくなるため、吸気弁47のリフト時には、吸気側ロッカーアーム57Iの反力における後部側壁27aに向く成分は大きくなる。
【0042】
図2及び図7に示すように、各ローラ74の中心O2と吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの中心位置O1とを結ぶ直線L1と、各バルブ軸線V1、V2との交点T1は、ヘッドカバー28の上縁より内側、かつ、後述する一対のボルト107の間に位置し、エンジン24の高さ内に位置している。このように、交点T1がエンジン24の高さ内に位置しており、ボルト107の締め付け力を吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの押さえに有効に作用させることができるため、吸気弁47及び排気弁48の反力の一部を後部側壁27aに向けて安定的に発生させることができる。このため、吸気側ロッカシャフト56I及び排気側ロッカシャフト56Eに対して吸気側ロッカーアーム57I及び排気側ロッカーアーム57Eを後部側壁27a側に一方に押し付けることにより、吸気側ロッカシャフト56I及び排気側ロッカシャフト56Eと吸気側ロッカーアーム57I及び排気側ロッカーアーム57Eとの間の嵌合のクリアランスによるガタを一方向に押し付けることができるため、吸気側ロッカーアーム57I及び排気側ロッカーアーム57Eの振動を低減できる。
【0043】
図3及び図5に示すように、ローラ部75のローラ収容部75Aの幅W1は、カム58I(排気側ではカム58E)の幅W2よりも大きく形成されており、カム58I(カム58E)は、その下部がローラ収容部75Aの上部に侵入可能となっている。図2及び図7に示すように、吸気カムシャフト55Iの軸方向から見た場合、カム58I(カム58E)の一部は、吸気側ロッカーアーム57I(排気側では排気側ロッカーアーム57E)のアーム部72に重なった状態で吸気側ロッカーアーム57I(排気側ロッカーアーム57E)に対して近接配置されている。このため、吸気カムシャフト55I(排気カムシャフト55E)を吸気側ロッカーアーム57I(排気側ロッカーアーム57E)側に下げるようにして近接配置することができ、シリンダーヘッド27の小型化を図ることができる。
【0044】
図8は、一側被支持部68I、68Eの支持状態を示す側面断面図である。
図3、図4及び図8に示すように、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの一側を支持する一側シャフト支持部92I、92Eは、一側被支持部68I、68Eの下半部を支持する半円部を有する軸受部98I、98Eと、一側被支持部68I、68Eの上半部を保持する半円部196I、196Eを有するキャップ195I、195E(キャップ部材)とを有している。
【0045】
軸受部98I、98Eはシリンダーヘッド27の上部にシリンダーヘッド27と一体に形成されている。
キャップ195I、195Eは、吸気カムシャフト55Iに直交するように延びる連結補強壁111によって連結されており、吸気側及び排気側の支持部が一体になったキャップ体112を構成している。
【0046】
吸気側のキャップ195Iには、吸気カムシャフト55Iを跨ぐ両側にボルト孔が1箇所ずつ設けられ、内側に配置された内側ボルト孔113、及び、外側に配置された外側ボルト孔114が形成されている。
また、排気側のキャップ195Eには、排気カムシャフト55Eを跨ぐ両側にボルト孔が1箇所ずつ設けられ、内側に配置された内側ボルト孔113、及び、外側に配置された外側ボルト孔114が形成されている。
さらに、吸気側及び排気側の各外側ボルト孔114の下部には、軸受部98I、98Eの側に突出する管状のノックピン119が外側ボルト孔114と同軸にそれぞれ設けられている。すなわち、一対のノックピン119は、キャップ体112の軸受部98I、98Eに対する取り付け面において、外側の部分に設けられている。
【0047】
軸受部98I、98Eの上面には、内側ボルト孔113及び外側ボルト孔114に対応した位置に、内側雌ねじ部115、及び、外側雌ねじ部116が形成されている。外側方向に位置する外側雌ねじ部116の深さは、内側に位置する内側雌ねじ部115よりも長く形成されている。
また、各外側雌ねじ部116には、一対のノックピン119が嵌合する位置決め穴116Aが形成されている。
キャップ体112は、内側ボルト孔113を介して内側雌ねじ部115に締結される内側取付ボルト117、及び、外側ボルト孔114を介して外側雌ねじ部116に締結される外側取付ボルト118によってシリンダーヘッド27に固定される。
【0048】
外側取付ボルト118は、外側雌ねじ部116の深さに対応して内側取付ボルト117よりも長く形成されており、外側雌ねじ部116では、内側雌ねじ部115よりも長いねじ部によって軸受部98I、98Eに締結されている。ところで、図4に示すように、被動スプロケット61I、61Eには、カムチェーン62によって、シリンダーヘッド27の内側を向く内向きの力F3が作用する。この内向きの力F3は、排気カムシャフト55Eに対しては前部側壁27b側の外側から内側に向けて作用し、吸気カムシャフト55Iに対しては後部側壁27a側の外側から内側に向けて作用する。
【0049】
本実施の形態では、図8に示すように、外側雌ねじ部116での締結長さを内側雌ねじ部115での締結長さよりも大きくしたため、一側シャフト支持部92I、92Eに対して外側から作用する内向きの力F3を、各外側雌ねじ部116を介してシリンダーヘッド27の外側部で受けることができる。このため、カムチェーン62から吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eに作用する応力を分散して受けることができ、シリンダーヘッド27に加わる負荷を低減できる。
さらに、ノックピン119を各外側雌ねじ部116に嵌合させるため、内向きの力F3を、シリンダーヘッド27における吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの外側部でノックピン119を介して受けることができ、シリンダーヘッド27に加わる負荷を低減できる。
また、キャップ体112を取り付けるだけで吸気側及び排気側を同時に支持できるため、組み付けが容易である。
【0050】
図3及び図8に示すように、シリンダーヘッド27には、シリンダーヘッド27をシリンダーブロック26に締結する固定部120が複数設けられている。詳細には、固定部120は、4箇所に設けられ、各一側シャフト支持部92I、92Eの下方、及び、各他側シャフト支持部93I、93Eの下方にそれぞれ配置されている。
【0051】
また、図3及び図4に示すように、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの他側を支持する他側シャフト支持部93I、93Eは、他側被支持部69I、69Eの下半部を支持する半円部を有する軸受部94I、94Eと、他側被支持部69I、69Eの上半部を保持する半円部を有するキャップ194I、194Eとを有している。
【0052】
軸受部94I、94Eはシリンダーヘッド27の上部にシリンダーヘッド27と一体に形成されている。
キャップ194I、194Eは、吸気カムシャフト55Iに直交するように延びる連結補強壁101によって連結されており、吸気側及び排気側の支持部が一体になったキャップ体102を構成している。
【0053】
吸気側のキャップ194Iは、吸気カムシャフト55Iを跨ぐ両側に設けられるボルト107によって軸受部94Iに締結される。また、排気側のキャップ194Eは、排気カムシャフト55Eを跨ぐ両側に設けられるボルト108によって軸受部94Eに締結される。キャップ体102は、管状のノックピン(図示略)を有し、このノックピンによって軸受部94I、94Eに位置決めされる。
【0054】
図9は、キャップ体112を軸受部98I、98Eの側から見た平面図である。図10は、排気カムシャフト55Eの支持構造を示す断面図である。
図4及び図9に示すように、キャップ体112は、被動スプロケット61I、61E側の軸受部98I、98Eに固定されるキャップである。
キャップ体112は、車両の前後方向に延びる板状に形成されており、軸受部98I、98Eに固定される側の面である下面130は、全体に亘って平坦に形成されている。半円部196I、196Eは、下面130側から上面側に側面視で半円状に窪んだ凹部である。
【0055】
キャップ195I、195Eを連結する連結補強壁111は、キャップ体112の幅方向における被動スプロケット61I、61E側である外側の側面部に偏って設けられており、連結補強壁111の内側の側方においてキャップ195I、195E間には、空間が形成されている。
【0056】
図9に示すように、キャップ195I、195Eは、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eを支持する支持部132I、132Eと、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eのスラスト方向への移動を規制するスラスト規制溝部133I、133Eとを有している。ここで、スラスト方向とは、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55の軸方向を指している。
支持部132I、132Eは、被動スプロケット61I、61Eの側であるキャップ体112の幅方向の外側に設けられ、スラスト規制溝部133I、133Eはキャップ体112の幅方向の内側に設けられている。
【0057】
支持部132I、132Eの半円部196I、196Eの内周面には、油溝135が形成されている。油溝135は、周方向に沿って互いに平行に延びる2本の縦溝135Aと、各縦溝135A間を繋ぐ横溝135Bとを有している。また、連結補強壁111の下面130には、支持部132Iの油溝135と支持部132Eの油溝135とを繋ぐ油溝136が形成されている。この油溝136は、シリンダーヘッド27に形成された油路(図示略)と繋がっており、各油溝135には、油溝136を介してオイルが供給される。
【0058】
スラスト規制溝部133I、133Eは、各油溝135よりも幅方向の内側に形成されている。詳細には、図4及び図10に示すように、スラスト規制溝部133I、133Eは、軸受部98I、98Eの上方で、軸受部98I、98Eの内側端部137I、137Eよりもさらにシリンダーヘッド27の内側へ張り出して形成されている。従って、スラスト規制溝部133I、133Eの下方には、内側端部137I、137Eの側方に空間Sが形成されている。
【0059】
スラスト規制溝部133I、133Eの半円部196I、196Eには、半円部196I、196Eの径方向に所定幅で凹んだスラスト規制溝138I、138Eが形成されている。スラスト規制溝138I、138Eは、半円部196I、196Eの所定幅において径方向の全周に設けられており、側面視では半円部196I、196Eと同軸の半円状に形成されている。
図10に示すように、排気カムシャフト55Eがシリンダーヘッド27に組み付けられた状態では、排気カムシャフト55Eの鍔部66Eが、スラスト規制溝138Eに摺動自在に嵌合され、排気カムシャフト55Eはスラスト方向の位置を規制される。なお、図10には吸気カムシャフト55Iが図示されていないが、吸気カムシャフト55Iと同様に、吸気カムシャフト55Iは、鍔部66Iがスラスト規制溝138Iに摺動自在に嵌合され、スラスト方向の位置を規制される。
【0060】
詳細には、スラスト規制溝138I、138Eの幅は、鍔部66I、66Eの幅よりもわずかに大きく形成されており、鍔部66I、66Eはスラスト規制溝138I、138E内で回転自在である。また、スラスト規制溝138I、138Eの径は、鍔部66I、66Eの径よりも大きく形成されているため、鍔部66I、66Eの両側面のみをスラスト規制溝138I、138Eでガイドして、摺動抵抗を低減できる。
【0061】
本実施の形態では、鍔部66I、66Eを上方から覆うキャップ195I、195Eに設けたスラスト規制溝138I、138Eによって吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eのスラスト方向の位置を規制するため、スラスト規制溝138I、138E内のオイルは重力によって落下するように流れる。このため、オイル中の不純物がスラスト規制溝138I、138Eに堆積することを防止できる。
【0062】
図3、図8及び図10に示すように、スラスト規制溝138I、138Eの下方には、鍔部66I、66E側に上方に突出した案内突起140I、140Eが形成されている。案内突起140I、140Eは、内側端部137I、137Eに隣接して設けられており、スラスト規制溝138I、138Eよりも幅広に形成された案内溝141I、141E(案内部)を有している。また、図3に示すように、案内溝141I、141Eは、鍔部66I、66Eの周方向の一部に対応して設けられており、鍔部66I、66Eに対し、周方向に短く形成されている。
【0063】
案内突起140I、140Eは、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eをシリンダーヘッド27に組み付ける際に使用される。具体的には、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eを軸受部98I、98Eに配置する際に、鍔部66I、66Eを案内溝141I、141Eに通してガイドすることで、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eをシリンダーヘッド27に仮組みすることができる。
【0064】
その後、キャップ195I、195Eを組み付けることで、スラスト規制溝138I、138Eによって吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eをスラスト方向に位置決めすることができる。吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eがスラスト規制溝138I、138Eによって位置決めされた状態では、案内溝141I、141Eと鍔部66I、66Eとの間には、クリアランスが確保されており、案内溝141I、141Eは、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの回転に影響しない。このように、案内溝141I、141Eによって吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eを仮に位置決めできるため、シリンダーヘッド27側に鍔部66I、66Eの位置を規制する溝部等を設けない場合においても、組み付け性を向上させることができる。
【0065】
図4に示すように、吸気側ロッカーアーム57Iのアーム部72及び作用点部73の一部は、平面視においてスラスト規制溝部133Iと重なる位置に設けられている。すなわち、アーム部72及び作用点部73の一部は、スラスト規制溝部133Iの下方の空間Sに配置されている。これにより、シリンダーヘッド27側に鍔部66I、66Eの位置を規制する溝部等を設けないことで生じた空間Sを利用して、スラスト規制溝部133Iを吸気側ロッカーアーム57I側の下方に近接配置できるため、エンジン24を小型化できる。
【0066】
図4及び図10に示すように、キャップ195I、195Eの上部には、スラスト規制溝138I、138Eの側に下方に凹んだオイル溜め部143I、143Eがそれぞれ形成されている。オイル溜め部143I、143Eの底部144は、スラスト規制溝138I、138Eの上方に位置し、底部144には、スラスト規制溝138I、138Eに連通する連通孔145I、145Eが形成されている。
【0067】
エンジン24が運転されると、シリンダーヘッド27には潤滑油としてのオイルが供給され、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの回転等によって発生した動弁室53内の飛沫オイルの一部は、オイル溜め部143I、143Eに捕集され、その後、連通孔145I、145Eを通ってスラスト規制溝138I、138Eに達し、鍔部66I、66Eを潤滑する。このため、スラスト規制溝138I、138Eに十分な量のオイルを供給でき、鍔部66I、66Eを効果的に潤滑できる。
【0068】
図2に示すように、エンジン24は前傾しているため、シリンダーヘッド27の上面に設けられたキャップ体102及びキャップ体112(図2には不図示)は前傾して配置されている。また、図4及び図9に示すように、連通孔145I、145Eは、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの中心を通るカム軸線150I、150Eに対してエンジン24の傾斜方向、すなわち、前側にオフセットして設けられている。このように、前傾した状態で低くなるキャップ体112の前側に連通孔145I、145Eを設けたため、オイル溜め部143I、143Eに捕集されたオイルを効率良く連通孔145I、145Eに流すことができ、潤滑性を向上できる。
【0069】
また、図4及び図9に示すように、連通孔145I、145Eは、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの中心を通るカム軸線150I、150Eに対して、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの回転方向に沿うように前方にオフセットして設けられている。すなわち、図2において、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eは図中の時計回りに回転し、カム58I、58Eは、図4においては、連通孔145I、145Eから、車両前側の下方に移動する方向に回転する。これにより、カム58I、58Eの回転によって連通孔145I、145Eのオイルを吸引することができ、効率良く鍔部66I、66Eにオイルを供給できるため、潤滑性を向上できる。
【0070】
図11は、ヘッドカバー28をシリンダーヘッド27側から見た平面図である。
図2及び図11に示すように、ヘッドカバー28は、シリンダーヘッド27の上面に対向する天面151と、天面151の縁部に沿って立設された側壁152と、側壁152の下端に形成されシリンダーヘッド27の上面に合わさる合わせ面153とを有している。
天面151の中央には、点火プラグ51が挿通されるプラグ挿通孔28Aが設けられている。また、天面151には、プラグ挿通孔28Aを跨いで2箇所にボルト孔28Bが形成されている。
また、天面151は、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの上方に対応するカムシャフト側天面部151A、及び、カムチェーン室63の上方に対応するチェーン側天面部151Bを有している。
【0071】
ヘッドカバー28は、合わせ面153がシリンダーヘッド27の上面に合わせられた状態で、ボルト孔28Bに挿通されるヘッドカバー取り付けボルト100によってシリンダーヘッド27に固定される。
図11に示すように、天面151の内面には、格子状の補強リブ155が立設されている。補強リブ155は、カムシャフト側天面部151Aに形成されている。
【0072】
動弁室53内の飛沫オイルの一部は、天面151の内面に付着し、天面151に付着した飛沫オイルは、カムシャフト側天面部151Aの補強リブ155を伝って吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの上方に導かれ、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55E側に滴下する。このように、補強リブ155をカムシャフト側天面部151Aに設けたため、キャップ体102及びキャップ体112のオイル溜め部143I、143E(図4参照)に飛沫オイルを効率良く集めることができ、潤滑性を向上できる。特に、オイル溜め部143I、143Eの真上に位置する補強リブ155を周囲の補強リブ155よりも下方に延ばすことで、オイル溜め部143I、143Eに効率良く飛沫オイルを集めることができる。
【0073】
以上説明したように、本発明を適用した実施の形態によれば、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eの鍔部66I、66Eに嵌合するスラスト規制溝138I、138Eを、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eを上方から覆うキャップ195I、195Eに設けたため、スラスト規制溝138I、138Eに不純物が堆積することを防止できるとともに、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eをスラスト方向に容易に位置決めできる。また、シリンダーヘッド27側にスラスト規制溝138I、138Eの溝幅よりも広い案内突起140I、140Eを設けたため、組み付け作業の際に、鍔部66I、66Eを案内突起140I、140Eによってガイドすることで吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eを容易に位置決めでき、組み付け性を向上できる。
【0074】
また、キャップ195I、195Eの上部に設けたオイル溜め部143I、143Eからスラスト規制溝138I、138Eにオイルを案内するため、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eを上方から覆うキャップ195I、195Eにスラスト規制溝138I、138Eを設けた構成であってもオイルを鍔部66I、66Eに供給でき、摺動部の摩擦抵抗を低減できる。
また、スラスト規制溝部133Iが、平面視で吸気側ロッカーアーム57Iのアーム部72及び作用点部73の一部に重なる位置に配置されるため、スラスト規制溝部133Iを吸気側ロッカーアーム57Iに近接配置でき、エンジン24を小型化できる。
【0075】
さらに、オイル溜め部143I、143Eの連通孔145I、145Eがエンジン24の傾斜方向にオフセットして設けることで、オイル溜め部143I、143Eのオイルが傾斜方向に流れて連通孔145I、145Eへ流れるため、オイルを効率良くスラスト規制溝138I、138Eに供給でき、潤滑性を向上できる。
さらにまた、連通孔145I、145Eがカム58I、58Eの回転方向に沿うように前方にオフセットされているため、カム58I、58Eの回転方向に沿って連通孔145I、145E内のオイルを吸引でき、オイルの流入抵抗を低下させて効率良くオイルを供給できる。
【0076】
また、ヘッドカバー28の補強リブ155を格子状としたため、ヘッドカバー28全体を薄肉軽量化させつつ、飛沫オイルを格子状の補強リブ155に捕集して、補強リブ155から滴下するオイルをオイル溜め部143I、143Eに導いてオイル量を増加させることができ、潤滑性を向上できる。
また、スラスト規制溝138I、138Eを備えるキャップ195I、195Eは、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eと一体に回転する被動スプロケット61I、61E側に配置されたキャップであるため、回転する被動スプロケット61I、61Eからの飛沫オイルをオイル溜め部143I、143Eに導いてオイル量を増加させることができ、潤滑性を向上できる。
【0077】
また、上記の実施の形態は本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
上記実施の形態では、シリンダーヘッド27側に案内突起140I、140Eを設け、案内溝141I、141Eに鍔部66I、66Eを通して吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eを仮に位置決めするものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、案内突起140I、140Eを設けずに、作業者の目測により、吸気カムシャフト55I及び排気カムシャフト55Eをシリンダーヘッド27に仮に位置決めしても良い。また、その他の自動二輪車1の細部構成についても任意に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0078】
24 エンジン(内燃機関)
27 シリンダーヘッド
28 ヘッドカバー(シリンダヘッドカバー)
55E 排気カムシャフト(カムシャフト)
55I 吸気カムシャフト(カムシャフト)
57E 排気側ロッカーアーム(ロッカーアーム)
57I 吸気側ロッカーアーム(ロッカーアーム)
58I、58E カム
61I、61E 被動スプロケット(カムスプロケット)
66I、66E 鍔部
133I、133E スラスト規制溝部
138I、138E スラスト規制溝
141I、141E 案内溝(案内部)
143I、143E オイル溜め部
145I、145E 連通孔
150I、150E カム軸線
155 補強リブ
195I、195E キャップ(キャップ部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムシャフト(55I、55E)をシリンダーヘッド(27)との間で保持するキャップ部材(195I、195E)を備えた内燃機関のカムシャフト支持構造において、
前記カムシャフト(55I、55E)にスラスト位置規制用の鍔部(66I、66E)を設け、前記カムシャフト(55I、55E)を上方から覆う前記キャップ部材(195I、195E)に前記鍔部(66I、66E)に嵌合するスラスト規制溝部(133I、133E)を設け、前記シリンダーヘッド(27)側には前記スラスト規制溝部(133I、133E)の溝幅より広く、且つ、周方向に短い案内部(141I、141E)を設けたことを特徴とする内燃機関のカムシャフト支持構造。
【請求項2】
前記キャップ部材(195I、195E)の上部には飛沫オイルを捕集して前記スラスト規制溝部(133I、133E)へ案内するオイル溜め部(143I、143E)が設けられていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のカムシャフト支持構造。
【請求項3】
カムシャフト(55I、55E)をシリンダーヘッド(27)との間で保持するキャップ部材(195I、195E)を備えた内燃機関のカムシャフト支持構造において、
前記カムシャフト(55I、55E)にスラスト位置規制用の鍔部(66I、66E)を設け、前記カムシャフト(55I、55E)を上方から覆う前記キャップ部材(195I、195E)に前記鍔部(66I、66E)に嵌合するスラスト規制溝部(133I、133E)を設け、前記キャップ部材(195I、195E)の上部には飛沫オイルを捕集して前記スラスト規制溝部(133I、133E)へ案内するオイル溜め部(143I、143E)が設けられていることを特徴とする内燃機関のカムシャフト支持構造。
【請求項4】
前記キャップ部材(195I、195E)の前記スラスト規制溝部(133I、133E)は、前記カムシャフト(55I、55E)に駆動されるロッカーアーム(57I、57E)の一部と平面視で重なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の内燃機関のカムシャフト支持構造。
【請求項5】
前記オイル溜め部(143I、143E)の前記スラスト規制溝部(133I、133E)との連通孔(145I、145E)は、前記カムシャフト(55I、55E)の中心のカム軸線(150I、150E)に対して、内燃機関(24)の傾斜方向にオフセットして設けられることを特徴とする請求項2または3記載の内燃機関のカムシャフト支持構造。
【請求項6】
前記オイル溜め部(143I、143E)の前記スラスト規制溝部(133I、133E)との連通孔(145I、145E)は、前記カムシャフト(55I、55E)の中心のカム軸線(150I、150E)に対して、前記カムシャフト(55I、55E)のカム(58I、58E)の回転方向に沿うように一方にオフセットして設けられることを特徴とする請求項3または5記載の内燃機関のカムシャフト支持構造。
【請求項7】
前記オイル溜め部(143I、143E)の真上に位置するシリンダヘッドカバー(28)には補強リブ(155)が格子状に設けられることを特徴とする請求項2または3記載の内燃機関のカムシャフト支持構造。
【請求項8】
前記スラスト規制溝部(133I、133E)を備える前記キャップ部材(195I、195E)は、前記カムシャフト(55I、55E)と一体に回転するカムスプロケット(61I、61E)側に配置されたキャップ部材であることを特徴とする請求項3または7記載の内燃機関のカムシャフト支持構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−208545(P2011−208545A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75848(P2010−75848)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】