説明

内燃機関のシリンダブロック

【課題】冷却水通路を確保しながらボア変形を減らし、LOCを減らすことが可能な内燃機関のシリンダブロックを提供する。
【解決手段】シリンダブロック1に、シリンダヘッドを取り付けるためのヘッドボルト5の先端部が螺合するめねじ部31をシリンダブロック1上部から十分離れた下方に形成すると共に、めねじ部31より上方に、シリンダブロック上部とめねじ部31との間にヘッドボルト5が貫通する断面積の大きい冷却水通路2を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な内燃機関では、図5、図6に示すようなシリンダブロックが用いられている。図5、図6に示すようにシリンダブロック1aのシリンダボア10周りには、複数(図では1シリンダ当り6本)のヘッドボルト穴3が形成されており、ヘッドボルト7によりシリンダヘッド(図示せず)がシリンダブロック1aに取り付けられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−188506号公報
【特許文献2】特開2009−281297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、LOC(Lubrication Oil Consumption、オイル消費)に大きく影響するものとして、ボア変形がある。このボア変形は、図6(A)、(B)に示すように、シリンダヘッドとシリンダブロック1aとがヘッドボルト7で強固に締め付けられることにより、締め付けられた箇所(めねじ部31の周囲)のシリンダボア10の肉が盛り上がり、締め付けられていない箇所が凹むことで生じる。シリンダボア10とピストン6との間に介在されるピストンリング6aは、ボア変形に沿って変形されるとは限らず、ボア変形によってピストンリング6aの片当りが生じ、摺動摩擦抵抗が増大する結果、エンジンの機械損失が増加して燃料消費率を悪化させる。また部分的にシリンダボア10とピストンリング6aとのクリアランスが大きくなることから、エンジンのクランクケース(図示せず)に吹き抜ける燃焼ガス(ブローバイガス)が増加したり、LOCが増加する。
【0005】
ボア変形が少ないほどLOCは少なくなる。このボア変形は、上記のごとく主にヘッドボルト7によるシリンダヘッドの締め付けにより生じるが、シリンダブロック1a側のめねじ部31の位置が低いほどボア変形が少なくなることが知られている。
【0006】
しかしながら、従来構造のままめねじ部31の位置を低く下げると図7(A)、(B)に示すようにシリンダブロック1a内の冷却水通路(ウォータージャケット)8が狭くなり(特に図7(A)に示すようにシリンダボア10右側上部には、冷却水通路8が無くなっている)、温度が高くて最も冷やしたいシリンダボア10上部に冷却水が流れないことになってしまう。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、冷却水通路を確保しながらボア変形を減らし、LOCを減らすことが可能な内燃機関のシリンダブロックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明は、シリンダブロックに、シリンダヘッドを取り付けるためのヘッドボルトの先端部が螺合するめねじ部を該シリンダブロック上部から十分離れた下方に形成すると共に、前記めねじ部より上方に、前記シリンダブロック上部と該めねじ部との間に前記ヘッドボルトが貫通する断面積の大きい冷却水通路を形成したことを特徴とする。
【0009】
また前記各ヘッドボルトが前記冷却水通路の冷却水に接触することがないようにするためのパイプを、前記シリンダブロック上部から前記めねじ部との間に設けるのが好ましい。
【0010】
また前記各ヘッドボルトは、少なくとも前記冷却水通路における露出面に防錆処理を施したものであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、冷却水通路(ウォータージャケット)を確保しながらボア変形を減らし、LOCを減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るシリンダブロックの概略構成を示す部分平面図である。
【図2】図2は、図1のシリンダブロックを示す図で、(A)は図1のA−A断面図で、(B)は(A)の一部を拡大し、シリンダブロックのめねじ部にヘッドボルトをねじ込んだ状態を示す断面図である。
【図3】図3(A)は図1のB−B断面図で、図3(B)は(A)の一部を拡大し、シリンダブロックのめねじ部にヘッドボルトをねじ込んだ状態を示す断面図である。
【図4】図4(A)は、本発明の他の実施形態に係るシリンダブロックを示す断面図で、図4(B)は(A)の一部を拡大し、シリンダブロックのめねじ部にヘッドボルトをねじ込んだ状態を示す断面図である。
【図5】図5は、従来のシリンダブロックの概略構成を示す部分平面図である。
【図6】図6は、従来のシリンダブロックを示す図で、(A)は図5のC−C断面図で、(B)は図5のD−D断面図である。
【図7】図7(A)は、従来のシリンダブロックのめねじ部をそのまま下げた状態を示す断面図で、図7(B)はシリンダボア間の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお従来例と同様の部分については同一の符号を付して説明する。
【0014】
図1に示すようにシリンダブロック1には、シリンダボア10が、シリンダブロック1の長手方向(前後方向)に沿って所定間隔で複数形成されている(図1では全体のうち半分のみを示している)。シリンダブロック1は、アルミニウム合金製もしくは鋳鉄製であって、このシリンダブロック1の上部15には、シリンダヘッドガスケット(図示せず)を介して、図示しないシリンダヘッドがヘッドボルト5(図2(B)、図3(B)参照)により締結される。なお、図2(A)に示すようにシリンダボア10には、ピストン6が往復摺動自在に収容されている。
【0015】
図2(A)、(B)に示すように、各シリンダボア10の周囲には、冷却水通路(ウォータージャケット)2がシリンダブロック1の外壁部16とシリンダボア壁11との間に所定の深さで形成されている。図3に示すように冷却水通路2には、シリンダブロック1の外壁部16に形成された冷却水導入口20から、ウォータポンプ(図示せず)により圧送された冷却水が導入される。導入された冷却水は、冷却水通路2内を流れてシリンダボア10の周囲を冷却し、冷却水流出口21から流出され、図示していないエンジンのラジエータへ排出されるようになっている。
【0016】
この冷却水通路2は、後述するようにヘッドボルト5が冷却水通路2内を貫通するようにシリンダボア10の径方向外側に大きく形成されている。
【0017】
冷却水通路2に沿った所定の位置には、シリンダヘッド側の冷却水通路(図示せず)に冷却水を移動させるための連通路22(図3参照)が、シリンダブロック1の上部15に複数形成されている。
【0018】
シリンダブロック1には、シリンダボア10の周方向に所定間隔を隔ててヘッドボルト穴3が複数形成されている。本実施形態では、図1に示すようにヘッドボルト穴3は、シリンダボア10の周方向に略60度間隔で配置されて1つのシリンダボア10当たり6箇所形成されている。
【0019】
ヘッドボルト穴3は、シリンダヘッドをシリンダブロック1に固定する際にヘッドボルト5をねじ込むためのものであり、めねじのない穴部30と、ヘッドボルト5のおねじ部5aを螺合させるための所定長さのめねじ部31とからなる。穴部30は、シリンダブロック1の上部15から冷却水通路2に至るまで形成され、さらにシリンダブロック1の上部15から十分離れた下方、すなわち冷却水通路2の下側のシリンダブロック1にめねじ部31が設けられている。
【0020】
このため、本実施形態ではめねじ部31より上方に、シリンダブロック1の上部15とめねじ部31との間にヘッドボルト5が貫通する断面積の大きい冷却水通路2が形成されることになる。
【0021】
ヘッドボルト5が穴部30から挿通され、冷却水通路2内を貫通して、その先端部のおねじ部5aがめねじ部31に螺合してシリンダブロック1にシリンダヘッドを締め付ける。
【0022】
ヘッドボルト5は、シリンダヘッドとシリンダブロック1とを燃焼ガスの圧力に耐え得るように強固に締め付けており、しかも冷却水通路2内を貫通して冷却水に浸された状態であるため、ヘッドボルト5の遅れ破壊が心配される。このため本実施形態では、図2及び図3に示すようにシリンダブロック1の上部15からめねじ部31との間に、スティール製のパイプ4がシリンダブロック1に圧入されるなどして取り付けられている。パイプ4は、ヘッドボルト5が冷却水通路2内の冷却水に触れないようにするためのものであり、これによってヘッドボルト5の遅れ破壊を防ぐことができる。
【0023】
本実施形態は、シリンダブロック1に、シリンダヘッドを取り付けるためのヘッドボルト5の先端部(おねじ部5a)が螺合するめねじ部31をシリンダブロック上部15から十分離れた下方に形成すると共に、めねじ部31より上方に、シリンダブロック上部15とめねじ部31との間にヘッドボルト5が貫通する断面積の大きい冷却水通路2を形成して、めねじ部31を宙吊り構造としたものである。めねじ部31を宙吊り構造とすることによって、めねじ部31の位置を下げてもシリンダボア10上部の冷却水通路2の大きさを十分に確保することができ、温度が高くて最も冷やしたいシリンダボア10上部に冷却水が確実に流れることになる。
【0024】
本発明の他の実施形態を図4に示す。
【0025】
本実施形態は、ヘッドボルト5の表面に窒化処理等の防錆処理を行ってパイプ4を省略したものである。本実施形態も、シリンダブロック1に、シリンダヘッドを取り付けるためのヘッドボルト5の先端部(おねじ部5a)が螺合するめねじ部31をシリンダブロック上部15から十分離れた下方に形成すると共に、めねじ部31より上方に、シリンダブロック上部15とめねじ部31との間にヘッドボルト5が貫通する断面積の大きい冷却水通路2を形成して、めねじ部31を宙吊り構造とすることができ、温度が高くて最も冷やしたいシリンダボア10上部に冷却水が確実に流れることになる。
【0026】
なお、シリンダヘッドとシリンダブロック1との間には、通常、複数枚のシールプレートからなるヘッドガスケットが介在されているので、パイプ4を省略しても冷却水通路2内の冷却水が穴部30からシリンダブロック1の外部に漏れることはないが、ヘッドガスケットのボルト穴の箇所に耐熱性のゴムあるいは合成樹脂からなる円環状のラバーリング等を設けることでより確実にシールすることができる。
【0027】
以上、本発明によれば、冷却水通路2を確保しながら、めねじ部31の位置を下げることができ、これによりシリンダボア10の変形を減らし、LOCを減らすことが可能となる。
【0028】
また副次的に、冷却水をシリンダボア10上部のみに流し、もともと温度が低く冷やす必要のないシリンダボア10下部に冷却水を流さなくすることも可能になる。これによりシリンダボア10下部の過冷却によるオイル粘度上昇に基づくピストン6のフリクションの増加を避けることができ、燃費を向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 シリンダブロック
2 冷却水通路
3 ヘッドボルト穴
4 パイプ
5 ヘッドボルト
5a おねじ部
6 ピストン
10 シリンダボア
11 シリンダボア壁
15 上部
16 外壁部
20 冷却水導入口
21 冷却水流出口
22 連通路
30 穴部
31 めねじ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックに、シリンダヘッドを取り付けるためのヘッドボルトの先端部が螺合するめねじ部を該シリンダブロック上部から十分離れた下方に形成すると共に、前記めねじ部より上方に、前記シリンダブロック上部と該めねじ部との間に前記ヘッドボルトが貫通する断面積の大きい冷却水通路を形成したことを特徴とする内燃機関のシリンダブロック。
【請求項2】
前記各ヘッドボルトが前記冷却水通路の冷却水に接触することがないようにするためのパイプを、前記シリンダブロック上部から前記めねじ部との間に設けた請求項1記載の内燃機関のシリンダブロック。
【請求項3】
前記各ヘッドボルトは、少なくとも前記冷却水通路における露出面に防錆処理を施したものである請求項1記載の内燃機関のシリンダブロック。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−163215(P2011−163215A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26854(P2010−26854)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】