説明

内燃機関のトルク変動抑制装置、それを搭載した車両、及び内燃機関のトルク変動抑制方法

【課題】小型、且つ高出力密度電動機を用いて、内燃機関のトルク変動を抑制することができ、且つギアの歯打ち音を低減することができる内燃機関のトルク変動抑制装置、それを搭載した車両、及び内燃機関のトルク変動抑制方法を提供する。
【解決手段】互いに逆向きのトルクを発生する回生電動機10と力行電動機20とを備えると共に、両電動機10及び20のそれぞれに、エンジン(内燃機関)2のクランク軸3に固着した同一のエンジンギア31と噛合する回生ギア33と力行ギア35とを備え、回生電動機10にトルク変動を抑制する回生抑制トルクTr1を発生させる場合は、力行電動機20に、回生抑制トルクTr1と逆向きの力行微小トルクTi1を発生させ、力行電動機20にトルク変動を抑制する力行抑制トルクTi2を発生させる場合は、回生電動機10に、力行抑制トルクTi2と逆向きの回生微小トルクTr2を発生させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型、且つ高出力密度電動機を用いてトラックのエンジンなどの内燃機関のトルク変動を抑制すると共に、ギアの歯打ち音を低減する内燃機関のトルク変動抑制装置、それを搭載した車両、及び内燃機関のトルク変動抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エンジンなどの内燃機関では、吸気行程、圧縮行程、燃焼と膨張行程、及び排気行程で出力トルクは大きく変動する。この変動を抑制するために電動機を用いることで、内燃機関と電動機の合算トルクの変動幅を抑える機構が知られている(例えば、特許文献1参照)。この装置のように従来の技術では、燃焼と膨張行程の高いトルクを電動機の回生トルクで抑制し、電力を貯蔵する。貯蔵した電力は、その他の行程で使用し、電動機の電力収支は損失を除きゼロとなる。また、トルク変動を抑制する電動機は内燃機関と同軸上に配置されたものや、プーリ及びベルトで連結されたものが多い。
【0003】
従来の技術に用いられている小型、且つ高出力密度電動機は、高回転、且つ低トルクになる傾向があり、一定の減速比を持って内燃機関の軸に接続する必要がある。そのため、プーリ及びベルトを使用して内燃機関の軸と連結する場合が多い。一方、小型、且つ高出力密度電動機は、大径、又は多極化によっても実現できるため、従来の内燃機関トルクを平滑化するためのフライホイールと置き換えた電動機もある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
前者を採用する場合には、高トルクの伝達や伝達効率に課題があり、その解決策としてギアによって連結することも考えられるが、ギア駆動では内燃機関トルク変動抑制時の交番トルクによるラトル音(ギアの歯打ち音)やギアの耐久性などの課題がある。一方後者を利用する場合には設計上の変更点も多く多品種少量生産の内燃機関では採用が難しいなどの課題がある。
【0005】
上記の内燃機関のトルク変動抑制時の交番トルクによるラトル音を低減する装置として、モータジェネレータを力行側と回生側に制御して、ギアのラトル音を低減する装置がある(例えば、特許文献3参照)。しかし、電動機(モータジェネレータ)を力行側と回生側に制御するため、制御が複雑になるという問題がある。また、力行側、又は回生側とでは駆動電流の位相を反転させる必要があり、高速な電流変化が生じるため、電動機の損失につながるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11―82094号公報
【特許文献2】特開平11−44231号公報
【特許文献3】特開2008−162397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、小型、且つ高出力密度の電動機を用いて、内燃機関のトルク変動を高トルクで抑制することができ、且つギアの歯打ち音を抑制すると共に、ギアの耐久性を向上させることができる内燃機関のトルク変動抑制装置、それを搭載した車両、及び内燃機関のトルク変動抑制方法を提供すること
である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を解決するための本発明の内燃機関のトルク変動抑制装置は、内燃機関のトルク変動抑制装置において、一方の電動機が前記内燃機関で発生するトルク変動を抑制するトルクを発生し、他方の電動機が前記一方の電動機が発生するトルクと逆向きのトルクを発生するように、互いに逆向きのトルクを発生させる2つの電動機を備えると共に、前記2つの電動機のそれぞれに前記内燃機関の同一ギアと噛合するギアを備えて構成する。
【0009】
この構成によれば、内燃機関のクランク軸と一体に回転するギアと噛合するギアをそれぞれが有した2つの電動機を使用し、互いに逆向きのトルクを発生させることで、内燃機関側のギアを電動機側のギアで挟み込むことができる。これにより、内燃機関のトルク変動を抑制することができ、且つギアのラトル音(歯打ち音)を抑制すると共に、ギアの耐久性も向上させることができる。
【0010】
また、内燃機関と電動機とがギア駆動のため、高トルクによるトルク変動抑制を行うことができる。加えて、内燃機関と電動機の連結に減速比を持たせられるため、小型、高出力密度な電動機を使用することができる。さらに、ギア駆動のため、電動機の回転子位置と内燃機関のクランク軸位置が同期しており、内燃機関の気筒判別、停止位置推定、電動機のセンサレス駆動など、回転軸位置を必要とする制御を行うことができる。
【0011】
また、上記の内燃機関のトルク変動装置において、第1電動機と第2電動機の一方を回生専用電動機で形成し、他方を力行専用電動機で形成し、前記第1電動機のトルクで前記内燃機関の膨張行程で発生するトルクを減少させるときに、前記第2電動機が前記第1電動機のトルクと逆向きのトルクを発生させて、前記第1電動機と前記第2電動機のそれぞれのギアで前記内燃機関のギアを挟み込み、前記第2電動機のトルクで前記内燃機関の吸気行程、圧縮行程、及び排気行程で発生するトルクを増加させるときに、前記第1電動機が前記第2電動機のトルクと逆向きのトルクを発生させ、前記第1電動機と前記第2電動機のそれぞれのギアで前記内燃機関のギアを挟み込むように構成する。
【0012】
この構成によれば、内燃機関のトルク変動を抑制することができ、且つ、ラトル音などの騒音を防止すると共に、ギアの耐久性を向上させることができる。また、単一モータで考えた場合に力行と回生を繰り返さないため、制御性を向上させることができると共に、1つの電動機を使用して交番トルクを発生させた場合に比べて効率を良くすることができる。この場合には、力行と回生では電動機駆動電流の位相を反転させる必要がある。高速な電流変化が生じ、その電流変化が電動機の損失(一般的に鉄損という)につながる可能性があるからである。
【0013】
加えて、上記の内燃機関のトルク変動抑制装置において、前記第1電動機と前記第2電動機のどちらか一方のロータ軸を中空軸で形成すると共に、他方のロータ軸を前記中空軸に挿通する挿通軸で形成し、前記中空軸と前記挿通軸とが同一軸線上になるように前記第1電動機と前記第2電動機を配置し、前記中空軸に固着したギアと、前記挿通軸に固着したギアが、前記内燃機関の出力軸と固着したギアと噛合するように構成する。この構成によれば、電動機を直列して配置することができ、2つの電動機を用いても省スペースを実現することができる。
【0014】
さらに、上記の内燃機関のトルク変動抑制装置において、前記第1電動機と前記第2電動機とを、回転速度と出力トルクに対する効率マップの異なる電動機で形成すると共に、前記内燃機関のトルク変動を抑制しない場合に、前記第1電動機と前記第2電動機とに同じ方向のトルクを発生させるように構成する。
【0015】
この構成によれば、内燃機関のトルク変動抑制が必要無い場合に、2つの電動機で内燃機関の始動時などのトルクアシストや、回生ブレーキを高い効率で行うことができる。また、回転速度と出力トルクに対する効率マップの異なる電動機を用いることで、部分負担での効率を向上させることができる。
【0016】
上記の問題を解決するための車両は、上記に記載の内燃機関のトルク変動抑制装置を搭載して構成される。この構成によれば、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0017】
上記の問題を解決するための内燃機関のトルク変動抑制方法は、2つの電動機を用いる内燃機関のトルク変動抑制方法であって、一方の電動機が前記内燃機関で発生するトルク変動を抑制するトルクを発生するときに、他方の電動機が前記一方の電動機が発生するトルクと逆向きのトルクを発生し、前記2つの電動機それぞれのギアで前記内燃機関のギアを挟み込むことを特徴とする方法である。
【0018】
また、内燃機関のトルク変動抑制方法において、第1電動機と第2電動機の一方を回生専用電動機で形成し、他方を力行専用電動機で形成し、第1電動機のトルクで前記内燃機関の膨張行程で発生するトルクを減少させるときに、第2電動機が前記第1電動機と逆向きのトルクを発生し、第2電動機のトルクで前記内燃機関の吸気行程、圧縮行程、及び排気工程で発生するトルクを増大させるときに、前記第1電動機が前記第2電動機と逆向きのトルクを発生する。
【0019】
上記の方法によれば、2つの電動機を用いて、内燃機関のトルク変動を抑制することができ、且つ、ギアのラトル音を抑えると共に、ギアの耐久性を向上させることもできる。加えて、内燃機関と電動機の連結に減速比を持たせられるため、小型、高出力密度な電動機を使用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、小型、且つ高出力密度の電動機を用いて、内燃機関のトルク変動を高トルクで抑制することができ、且つギアの歯打ち音を抑制すると共に、ギアの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の内燃機関のトルク変動抑制装置を示した図である。
【図2】図1のギア機構を示した拡大図であり、(a)に膨張行程を示し、(b)に吸気行程、圧縮行程、及び排気行程を示し、(c)に回生ブレーキを示し、(d)にトルクアシストを示した図である。
【図3】本発明に係る第1の実施の形態の内燃機関のトルク変動抑制装置のトルク変動抑制トルクと微小トルクを示した図であり、(a)に回生電動機の発生トルクを示し、(b)に力行電動機の発生トルクを示し、(c)に回生電動機と力行電動機の発生トルクを合せた交番トルクを示した図である。
【図4】本発明に係る第1の実施の形態の内燃機関のトルク変動抑制装置の両電動機の出力特性領域を示した図であり、(a)に回生電動機の出力特性領域を示し、(b)に力行電動機の出力特性領域を示し、(c)に両電動機の出力特性領域を合せた領域を示した図である。
【図5】本発明に係る第2の実施の形態の内燃機関のトルク変動抑制装置を示した図である。
【図6】本発明に係る第3の実施の形態の内燃機関のトルク変動抑制装置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関のトルク変動抑制装置、それを搭載した車両、及び内燃機関のトルク変動抑制方法について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
最初に本発明に係る第1の実施の形態の内燃機関のトルク変動抑制装置について、図1を参照しながら説明する。トルク変動抑制装置1は、回生電動機(第1電動機)10、力行電動機(第2電動機)20、ギア機構30、ECU(制御装置)40、インバータ(電力変換器)41、及びバッテリ(蓄電装置)42を備える。
【0024】
回生電動機10は、固定子として6つ(図中では2つ、残りの4つを省略)の電機子11と回転子として永久磁石12とを備える永久磁石同期電動機である。力行電動機20も同様に6つの電機子21と永久磁石22とを備える永久磁石同期電動機である。上記の構成に加えて、力行電動機20の回転子である永久磁石22は、挿通軸32を挿通するように内部を中空状に形成する。
【0025】
これら両電動機10及び20は、回生電動機10の回生によるトルクと、力行電動機20の力行によるトルクが反対方向になるように設定されている。また、これら両電動機10及び20は、周知の技術の電動機を用いることができ、上記の構成に限らず、誘導電動機やリラクタンスモータを使用することができる。
【0026】
また、従来では1台又は2台の電動機の出力の合計が8kW以下で、ベルト駆動型のシステムが多数提案されているが、上記の両電動機10及び20の出力は従来と同等、好ましくは片方の出力が、4kW以上が好ましい。これによれば、高トルクでエンジン2のトルク変動を抑制することができる。
【0027】
加えて、両電動機10及び20を小型化するために、高回転化したものを使用するとよい。好ましくは定格回転数で6000rpm近傍からそれ以上の回転数であり、トルクを発生可能な電気的最大回転数は10000rpm以上の回転数である。この高回転化した小型の電動機10及び20は、例えば、エンジン2の最大回転数を4000rpmに抑えた場合に減速比を3とすると、電動機の機械的最大回転数(トルクを発生せず)は12000rpmを要することになる。
【0028】
ギア機構30は、エンジンギア31、挿通軸32、回生ギア33、中空軸34、力行ギア35を備える。エンジンギア31は、エンジン2のクランク軸3に固着されたギアであり、このエンジンギア31にそれぞれ噛合するように、回生ギア33と力行ギア35を配置する。
【0029】
中空軸34を回転子である永久磁石22と接合すると共に、中空状に形成し、その中空軸34に力行ギア35を固着する。また、挿通軸32を、回転子である永久磁石12と接合すると共に、力行電動機20の中空状の永久磁石22と中空軸34に挿通する。この挿通軸32に回生ギア33を固着する。
【0030】
このギア機構30は、エンジン2の回転と両電動機10及び20の回転に任意の減速比を持たせるために、エンジンギア31と回生ギア33又は力行ギア35との間にさらにギアを追加してもよい。
【0031】
上記のように、本発明の実施の形態のトルク変動抑制装置1は、回生ギア33と力行ギア35とを同一のエンジンギア31に噛合させる構成となる。両電動機10及び20とエンジン2のクランク軸3とをギア機構30を介す構成によれば、エンジン2と両電動機1
0及び20の連結に減速比(ギア比)を持たせることができる。そのため、小型、且つ高出力密度な電動機を使用することができる。また、ギア駆動のため、高トルクによるエンジン2のトルク変動の抑制を行うことができる。
【0032】
さらに、ギア駆動のため、両電動機10及び20と回転子位置とエンジン2のクランク軸3位置が同期しており、エンジン2の気筒判別、停止位置推定、及び両電動機10及び20のセンサレス駆動など、回転軸位置を必要とする制御を、両電動機10及び20の回転子位置から判断して行うことができる。この回転子位置は、両電動機10及び20と接続されているインバータ41により検出することができる。
【0033】
上記の両電動機10及び20は、インバータ41を介して、バッテリ42と繋がっている。このインバータ41とバッテリ42とは、周知の技術のインバータとバッテリを用いることができる。インバータ41は、好ましくは両電動機10及び20の回転数を変化させることができるインバータであり、より好ましくはVVVF(可変電圧可変周波数制御)インバータである。
【0034】
ECU40は、エンジンコントロールユニットと呼ばれる制御装置であり、電気回路によってトランスミッションを含むパワープラント全体の制御を担当している。またエンジンもコントロールしており、電気的な制御を総合的に行うマイクロコントローラである。オートマチック車においては、ECU40にあらゆる運転状態における最適制御値を記憶させ、その時々の状態をクランク角センサやカム角センサなどで検出し、それらセンサからの入力信号により、記憶しているデータの中から最適値を選出し各機構を制御している。本発明の実施の形態においては、両電動機10及び20の出力トルクを制御している。
【0035】
次に、エンジン2のトルク変動抑制方法について図2を参照しながら説明する。エンジン2の膨張行程により、クランク軸3の回転方向に大きなトルクT1が発生した場合は、図2の(a)に示すように、回生電動機10にトルク変動を抑制する回生抑制トルクTr1を発生させる。これにより、クランク軸3の回転方向に増大したトルクT1によるトルク変動を抑制する。同時に、力行電動機20に回生抑制トルクTr1と反対方向の微小な力行微小トルクTi1を発生させて、エンジンギア31を回生ギア33と力行ギア35とで挟み込む。
【0036】
このとき、エンジンギア31の歯面S1は回生ギア33と接触しており、エンジンギア31の歯面S2は力行ギア35と接触する。力行ギア35が、力行微小トルクTi1により、歯面S2と接触することで、エンジンギア31の歯面S1と同一側の歯面は、常に回生ギア33と接触する。
【0037】
一方、エンジン2の吸気行程、圧縮行程、及び排気行程により、クランク軸3の回転方向へ、エンジン2の回転を持続させるために不十分なトルクT2が発生した場合は、図2の(b)に示すように、力行電動機20にトルク変動を抑制する力行抑制トルクTi2を発生させる。これにより、クランク軸3の回転方向にトルクT2と力行抑制トルクTi2とを合せた充分なトルクを発生させる。同時に、回生電動機10に力行抑制トルクTi2と反対方向の微小な回生微小トルクTr2を発生させて、エンジンギア31を力行ギア35と回生ギア33とで挟み込む。
【0038】
このとき、エンジンギア31の歯面S2は力行ギア35と接触しており、エンジンギア31の歯面S1は回生ギア33と接触する。回生ギア33が、回生微小トルクTr2により、歯面S1と接触することで、エンジンギア31の歯面S2と同一側の歯面は、常に力行ギア35と接触する。
【0039】
上記のようなエンジン2のトルク変動が無い場合で、回生ブレーキを行う場合は、図2の(c)に示すように、回生電動機10にエンジン2のトルクT3と反対方向の回生トルクTr3を発生させ、また、力行電動機20にエンジン2のトルクT3と反対方向の回生トルクTi3を発生させる。このとき、回生ギア33と力行ギア35は共に、エンジンギア31の歯面S1と接触する。
【0040】
また、図2の(d)に示すように、エンジン2の始動時などのエンジン2のトルクT4が小さく、クランク軸3を十分に回転させることができないような場合は、回生電動機10に、トルクT4と同一方向の力行トルクTr4を発生させ、また、力行電動機20も同様に力行トルクTi4を発生させる。このとき、回生ギア33と力行ギア35は共に、エンジンギア31の歯面S2と接触する。
【0041】
上記の動作によれば、エンジン2のトルク変動が大きい場合に、2つの両電動機10及び20に互いに逆向きのトルク(Tr1とTi1、Tr2とTi2)を発生させることで、エンジン2のトルク変動を抑制することができ、且つ、エンジン2のエンジンギア31を回生ギア33と力行ギア35とで挟み込むことにより、エンジンギア31の同一側歯面が回生ギア33又は力行ギア35のどちらかと常に接触するため、ギアのラトル音(歯打ち音)を抑制すると共に、ギア機構30の耐久性を向上することができる。
【0042】
また、回生電動機10と力行電動機20のそれぞれが、エンジン2のトルク変動を抑制するときに、力行と回生を繰り返さないため、両電動機10及び20の制御性を向上させることができる。加えて、回生と力行を繰り返してトルク変動を抑制する場合と比べて、電動機の鉄損を防ぎ、効率性も向上させることができる。
【0043】
ここで、ECU40で行われる両電動機10及び20の出力トルクの算出方法について説明する。この算出方法で得られるトルクの波形を図3に示す。まず、エンジン2の回転数Nを算出するステップを行う。エンジン2の回転数Nは、回生電動機10又は力行電動機20の回転子の回転数を算出し、その回転数と減速比(ギア比)を用いて算出する方法や、エンジン2にクランク角センサを設けて計測する方法により算出することができる。
【0044】
次に、算出したエンジン2の回転数Nから、以下の数式(1)、及び(2)を用いて、正弦波基本周波数λを算出するステップを行う。
【0045】
【数1】

【0046】
【数2】

【0047】
正弦波基本周波数λが算出されると次に、エンジン2の燃料噴射量qを取得するステップを行う。この燃料噴射量qは、エンジン2に設けたインジェクタ(図示せず)が各気筒に噴射する燃料の量であり、その燃料噴射量qはECU40が制御しており、その値をそのまま使用する。次に、その燃量噴射量qに応じたエンジン2のトルク変動のピークであるトルクT1及びT2を決定する。このトルクT1及びT2は、燃料噴射量qの値によって予め定められた設定値であり、ECU40に記憶されている。
【0048】
次に、回生抑制トルクTr1と、力行抑制トルクTi2を算出するステップを行う。燃料を燃料噴射量qで噴射したときに発生する1サイクルの平均トルクT0と、トルク変動のピークであるトルクT1の差分トルクΔT1を算出する。この差分トルクΔT1を打ち消すトルクとして、回生抑制トルクTr1を算出する。また同様に、平均トルクT0とトルクT2との差分から、力行抑制トルクTi2を算出する。以上により、エンジン2のトルク変動を抑制する回生抑制トルクTr1と力行抑制トルクTi2の算出が完了する。
【0049】
次に、エンジン2の1サイクル(吸気、圧縮、膨張、及び排気行程)の加減速度ω2を算出するステップを行う。この加減速度ω2は、回生電動機10、力行電動機20、又はクランク角センサなどのパルス検出型角度センサの1パルスに要する時間(コントローラクロック数という)より算出する。
【0050】
次に、回生微小トルクTr2及び力行微小トルクTi1を算出するステップを行う。ここで、回生電動機10の慣性モーメントをIr、角加速度をω2r’、フリクショントルクをTfrし、力行電動機20の慣性モーメントIi、角加速度をω2i’、フリクショントルクをTfiとすると、回転系の運動方程式より、以下の数式(3)及び(4)が成り立つ。
【0051】
【数3】

【0052】
【数4】

【0053】
ここでフリクショントルクTfrとTfiは、各電動機10及び20の性状から推定することができる。よって、エンジン2の最大加減速度以上、つまり回生電動機10の角加速度ω2r’と力行電動機20の角加速度ω2i’とが、エンジン2の1サイクル内の最大加速度以上、または、1サイクル内の最大減速度以下になるように、上記の数式(3)及び(4)を満たす回生微小トルクTr2及び力行微小トルクTi1とを算出する。
【0054】
上記により算出される回生微小トルクTr2及び力行微小トルクTi1が、エンジンギア31の同一側歯面が常に接触して、ギアのラトル音を低減することができる必要充分なトルクである。上記の算出方法は、両電動機10又は20の慣性モーメントIrとIi、及びフリクショントルクTfrとTfiがエンジン2のそれらよりも極めて小さいことで可能となる。
【0055】
以上の方法で算出された回生電動機10の正弦波基本周波数λ、トルク変動抑制トルクTr1、及び微小トルクTr2より、図3の(a)に示す、トルク波形を算出することができる。また、力行電動機20の正弦波基本周波数λ、トルク変動抑制トルクTi2、及び微小トルクTi1より、図3の(b)に示す、トルク波形を算出することができる。それら回生電動機10と力行電動機20とが発生させるトルクを合せたトータルトルクは、図3の(c)で示す通りとなり、これが、エンジン2のトルク変動を抑制する交番トルクとなる。
【0056】
上記の算出方法によれば、エンジン2の膨張行程によって増加するトルクを減少する回生抑制トルクTr1を発生する回生電動機10に対して、もう一方の力行電動機20は、その逆方向の力行微小トルクTi1を発生する。これにより、エンジンギア31の同一側
歯面が常に回生ギア33と接触するようにできる。
【0057】
また、エンジン2の吸気行程、圧縮行程、及び排気行程によって減少するトルクを増加する力行抑制トルクTi2を発生する力行電動機20に対して、もう一方の回生電動機10は、その逆方向に回生微小トルクTr2を発生する。これにより、エンジンギア31の同一側歯面が常に力行ギア35と接触するようにできる。
【0058】
加えて、上記の回生抑制トルクTr1と力行抑制トルクTi2、及び回生微小トルクTr2と力行微小トルクTi1とを算出する方法に必要なエンジン2の回転数と1サイクルの加減速度とを、回生電動機10、又は力行電動機20をパルス検出型角速度センサとして使用することで、別途特別な装置を追加することなく行うことができる。
【0059】
上記の算出方法は、図3に示すようなトルク波形を算出することができれば、上記の算出方法に限定しないが、必要とするセンサが最小で、計算が容易な上記の算出方法が好ましい。
【0060】
次に、上記のトルク変動抑制装置1の両電動機の出力特性領域について、図4を参照しながら説明する。上記のトルク変動抑制装置1は、回生電動機10と力行電動機20が、互いに異なる出力特性領域内の主動作領域を有している。回生電動機10は、図4の(a)に示す出力特性領域内の主動作領域aを有し、力行電動機20は、図4の(b)に示す出力特性領域内の主動作領域bを有する。この回生電動機10と力行電動機20とを1つの電動機として考えた場合に、トルク変動抑制装置1は、図4の(c)に示す出力特性領域内の主動作領域cを有することになる。
【0061】
この構成によれば、エンジン2のトルク変動の抑制が必要無い場合には、図4の(c)に示す主動作領域(2台の両電動機10又は20の効率)を考慮して、エンジン2の始動時のトルクアシストや回生ブレーキをかけることで、部分負担での効率を向上させることができる。これにより、エネルギ効率を向上させることができる。
【0062】
この場合、例えば回生電動機10は、出力特性領域のうち高トルク低回転数の領域を主動作領域aとなるように集中巻きモータとし、力行電動機20は、出力特性領域のうち、低トルク高回転数の領域を主動作領域bとなるように分布巻きモータとする。好ましくは、主動作領域aと主動作領域bとが、なるべく近くに分布するようにするとよい。
【0063】
次に、本発明に係る第2及び第3の実施の形態のトルク変動抑制装置について、図5及び図6を参照しながら説明する。本発明に係る第2の実施の形態のトルク変動抑制装置4と本発明に係る第3の実施の形態のトルク変動抑制装置5の相違点は、両電動機の配置だけである。
【0064】
トルク変動抑制装置4は、図5に示すように、回生電動機50、力行電動機60、及びギア機構70を備える。回生電動機50は、固定子として6つ(図中では2つ、残りの4つを省略)の電機子51と回転子として永久磁石52とを備え、力行電動機60は、同様に、固定子としての電機子61と回転子として永久磁石62とを備える。ギア機構70は、エンジンギア71、回生軸72、回生ギア73、力行軸74、及び力行ギア75を備える。クランク軸3に固着されたエンジンギア71を図面の上下方向に跨ぐように、エンジンギア71の上下に回生ギア73と力行ギア75とが配置され、それぞれエンジンギア71と噛合している。
【0065】
この構成によれば、一方の電動機と回転軸を中空状に形成することがなく、略同型の電動機を用いることができる。設置スペースが本発明に係る第1の実施の形態のトルク変動
抑制装置1よりは、大きくなるが、同様の作用効果を得ることができる。
【0066】
トルク変動抑制装置5は、図6に示すように、上記で説明した構成の回生電動機50を、エンジンギア71を図面の左右方向に跨ぎ、回生軸72と力行軸74とが同一軸上になるように配置する。この構成でも、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
上記のトルク変動抑制装置1、4、又は5は、電動機とエンジンの両方を駆動源とするハイブリット車に適用することができる。また、ハイブリット車でなくても、スタータとして電動機を備えた車両にもう一つ電動機を加えることで適用することができる。これら、トルク変動抑制装置1、4、又は5を搭載した車両は、エンジンのトルク変動を抑制でき、且つギアのラトル音を低減することができる。
【0068】
また、エンジンの構成は限定せず、ディーゼルエンジンとガソリンエンジンに適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の内燃機関のトルク変動抑制装置は、内燃機関のトルク変動を小型、且つ高出力密度電動機で抑制することができ、且つ、ギアのラトル音を低減すると共にギアの耐久性を向上することができるため、特に筒内圧力が高くエンジントルク変動も大きいディーゼルエンジンを搭載したトラックなどの車両に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1、4、5 トルク変動抑制装置
2 エンジン(内燃機関)
3 クランク軸
10 回生電動機(第1電動機)
20 力行電動機(第2電動機)
30 ギア機構
40 ECU(制御装置)
41 インバータ(電力変換器)
42 バッテリ(蓄電装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のトルク変動抑制装置において、一方の電動機が前記内燃機関で発生するトルク変動を抑制するトルクを発生し、他方の電動機が前記一方の電動機が発生するトルクと逆向きのトルクを発生するように、互いに逆向きのトルクを発生させる2つの電動機を備えると共に、
前記2つの電動機のそれぞれに前記内燃機関の同一ギアと噛合するギアを備えることを特徴とする内燃機関のトルク変動抑制装置。
【請求項2】
第1電動機と第2電動機の一方を回生専用電動機で形成し、他方を力行専用電動機で形成し、
前記第1電動機のトルクで前記内燃機関の膨張行程で発生するトルクを減少させるときに、前記第2電動機が前記第1電動機のトルクと逆向きのトルクを発生させて、前記第1電動機と前記第2電動機のそれぞれのギアで前記内燃機関のギアを挟み込み、
前記第2電動機のトルクで前記内燃機関の吸気行程、圧縮行程、及び排気行程で発生するトルクを増加させるときに、前記第1電動機が前記第2電動機のトルクと逆向きのトルクを発生させ、前記第1電動機と前記第2電動機のそれぞれのギアで前記内燃機関のギアを挟み込むよう構成することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のトルク変動抑制装置。
【請求項3】
前記第1電動機と前記第2電動機のどちらか一方のロータ軸を中空軸で形成すると共に、他方のロータ軸を前記中空軸に挿通する挿通軸で形成し、
前記中空軸と前記挿通軸とが同一軸線上になるように前記第1電動機と前記第2電動機を配置し、
前記中空軸に固着したギアと、前記挿通軸に固着したギアが、前記内燃機関の出力軸と固着したギアと噛合することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関のトルク変動抑制装置。
【請求項4】
前記第1電動機と前記第2電動機とを、回転速度と出力トルクに対する効率マップの異なる電動機で形成すると共に、前記内燃機関のトルク変動を抑制しない場合に、前記第1電動機と前記第2電動機とに同じ方向のトルクを発生させるよう構成することを特徴とする請求項2又は3に記載の内燃機関のトルク変動抑制装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関のトルク変動抑制装置を搭載することを特徴とする車両。
【請求項6】
2つの電動機を用いる内燃機関のトルク変動抑制方法であって、一方の電動機が前記内燃機関で発生するトルク変動を抑制するトルクを発生するときに、他方の電動機が前記一方の電動機が発生するトルクと逆向きのトルクを発生し、前記2つの電動機それぞれのギアで前記内燃機関の同一ギアを挟み込むことを特徴とする内燃機関のトルク変動抑制方法。
【請求項7】
第1電動機と第2電動機の一方を回生専用電動機で形成し、他方を力行専用電動機で形成し、
第1電動機のトルクで前記内燃機関の膨張行程で発生するトルクを減少させるときに、第2電動機が前記第1電動機と逆向きのトルクを発生し、第2電動機のトルクで前記内燃機関の吸気行程、圧縮行程、及び排気工程で発生するトルクを増大させるときに、前記第1電動機が前記第2電動機と逆向きのトルクを発生することを特徴とする請求項6に記載の内燃機関のトルク変動抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−60886(P2013−60886A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199853(P2011−199853)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】