説明

内燃機関の制御装置

【課題】電動アシストターボチャージャの電力消費を低減させ、且つ電動アシストターボチャージャによる所望の過給を行い得るようにした内燃機関の制御装置を得ることを目的とする。
【解決手段】電動アシストターボチャージャを備え、内燃機関の低速回転域では電動アシストトルクにより過給しながら再循環通路の流量を調整することで内燃機関の出力を確保し、内燃機関の高速回転域では必要に応じて電動アシストトルクは少なくともタービンホイールとコンプレッサインペラと電動機との慣性を補償することで不要な電気エネルギーを省き且つ電動アシストターボチャージャによる所望の過給を行うことができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動アシストターボチャージャを備えた内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の低燃費を実現すると共に内燃機関の出力を増加させるために、内燃機関の吸気通路に、排気ガスを利用した排気ターボ過給機と電動機で駆動される電動アシストターボチャージャとを備えた内燃機関が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に示された従来の内燃機関は、排気ガスが不足し排気ターボ過給機では所望の過給圧が得られない場合や内燃機関の低速回転時には、前述の電動機を駆動して電動アシストターボチャージャにより過給を行い、排気ターボ過給機により所望の過給圧が得られる場合には、排気ターボ過給機により過給を行うものである。
【0003】
又、一般的に、内燃機関の低速回転域で過給する際には、過給機の容量が大きい場合にサージが発生し易く、サージが発生すると内燃機関やその吸気系に損傷を及ぼす可能性がある。そこで、従来、サージの発生を防止するために、過給機に於ける圧縮機の出口側の空気を圧縮機の入口側に再循環させる再循環路を設け、この再循環路に空気冷却器を設置し、圧縮機の出口側から再循環路に流入する空気を空気冷却器により冷却して圧縮機の入口側に再循環させるようにした内燃機関の制御装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−19835号公報
【特許文献2】特表2007−528956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示された従来の装置は、十分な空気量が得られない内燃機関の低速回転時に電動アシストターボチャージャにより過給を行う場合、電動アシストターボチャージャの容量が大きいとサージが発生する可能性があり、車両としての品質上十分な過給ができないという課題がある。又、サージの発生を防止するために電動アシストターボチャージャの容量を小さくすると、過給圧が小さいため内燃機関の高速回転時の出力が低下するという課題がある。
【0006】
一方、特許文献2に示された従来の装置は、吸入空気を再循環させている間に電動機による圧縮機の動力アシストを行う場合、電動機による電力消費対策が考慮されていないため、効率的ではないという課題がある。
【0007】
この発明は、従来の装置に於ける前述のような課題を解決するためになされたもので、電動アシストターボチャージャの電力消費を低減させ、且つ電動アシストターボチャージャによる所望の過給を行い得るようにした内燃機関の制御装置を得ることを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による内燃機関の制御装置は、
車両に搭載された内燃機関の排気通路内に設置され前記内燃機関の排気ガスエネルギー
により駆動されるタービンホイールと、前記内燃機関の吸気通路内に設置され前記タービンホイールにより駆動されて前記吸気通路内の空気を圧縮するコンプレッサインペラと、必要に応じて前記コンプレッサインペラにアシストトルクを加える電動機とを有する電動アシストターボチャージャを備え、前記コンプレッサインペラにより圧縮された空気を前記内燃機関に過給することにより前記内燃機関の出力トルクを増加させるようにした内燃機関の制御装置であって、
少なくとも前記車両を運転するドライバの加速意図に基づいて、前記電動アシストターボチャージャを制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記加速意図が所定以上の素早い加速を要求する加速意図であるときは、少なくとも前記タービンホイールと前記コンプレッサインペラと前記電動機の慣性モーメントを補償するアシストトルクを発生するように前記電動機を制御することを特徴とするものである。
【0009】
又、この発明による内燃機関の制御装置は、
車両に搭載された内燃機関の排気通路内に設置され前記内燃機関の排気ガスエネルギーにより駆動されるタービンホイールと、前記内燃機関の吸気通路内に設置され前記タービンホイールにより駆動されて前記吸気通路内の空気を圧縮するコンプレッサインペラと、必要に応じて前記コンプレッサインペラにアシストトルクを加える電動機とを有する電動アシストターボチャージャを備え、前記コンプレッサインペラにより圧縮された空気を前記内燃機関に過給することにより前記内燃機関の出力トルクを増加させるようにした内燃機関の制御装置であって、
少なくとも前記車両を運転するドライバの加速意図と前記内燃機関の回転数とに基づいて、前記電動アシストターボチャージャを制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記加速意図が所定以上の素早い加速を要求しない加速意図である場合であって前記回転数が所定値以下であるときは、前記電動機のアシストトルクにより前記コンプレッサインペラを駆動するように前記電動機を制御し、前記加速意図が所定以上の素早い加速を要求しない加速意図である場合であって前記回転数が所定値を超えているときは、前記電動機を消勢して前記タービンホイールのトルクのみにより前記コンプレッサインペラを駆動させることを特徴とするものである。
【0010】
更に、この発明による内燃機関の制御装置は、
車両に搭載された内燃機関の排気通路内に設置され前記内燃機関の排気ガスエネルギーにより駆動されるタービンホイールと、前記内燃機関の吸気通路内に設置され前記タービンホイールにより駆動されて前記吸気通路内の空気を圧縮するコンプレッサインペラと、必要に応じて前記コンプレッサインペラにアシストトルクを加える電動機とを有する電動アシストターボチャージャを備え、前記コンプレッサインペラにより圧縮された空気を前記内燃機関に過給することにより前記内燃機関の出力トルクを増加させるようにした内燃機関の制御装置であって、
少なくとも前記内燃機関の回転数に基づいて、前記電動アシストターボチャージャを制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記内燃機関の所定の回転数以上で前記内燃機関の出力トルクを増加させるときは、少なくとも前記タービンホイールと前記コンプレッサインペラと前記電動機の慣性モーメントを補償するアシストトルクを発生するように前記電動機を制御することを特徴とするものである。
【0011】
この発明による内燃機関の制御装置に於いて、望ましくは、前記ドライバの加速意図は、前記内燃機関のスロットルポジションの変位速度に基づいて得るものであり、前記スロットルポジションの変位速度が所定値以上のとき、前記所定以上の素早い加速を要求する加速意図であると判断し、前記スロットルポジションの変位速度が前記所定値未満のとき、前記所定以上の素早い加速を要求しない加速意図であると判断するものである。
【0012】
又、この発明による内燃機関の制御装置に於いて、望ましくは、前記吸気通路に於ける前記コンプレッサインペラの下流側の空気を前記コンプレッサの上流側に還流させる再循環通路と、前記再循環通路の空気流量を調整して前記下流側と前記上流側の空気の圧力比を制御する空気流量調整手段とを備え、前記空気流量調整手段は、少なくとも前記下流側の空気圧と前記電動機の前記アシストトルクに基づいて前記再循環路の空気流量を調整するものである。この場合、前記空気流量調整手段により前記再循環通路により還流する空気の流量を調整することで、コンプレッサインペラによる空気の圧縮により発生するサージを防止することができる。
【0013】
更に、この発明による内燃機関の制御装置に於いて、前記電動アシストターボチャージャは、回転数が200,000[rpm]未満、望ましくは140,000[rpm]、更に望ましくは80,000[rpm]で、前記コンプレッサインペラに対する下流側と上流側との空気圧の比が2.0以上の容量を備えていることが望ましい。
【0014】
又、前記内燃機関は、容積が1.4[L]未満、望ましくは1.2[L]のシリンダを備え、且つ前記電動アシストターボチャージャは、回転数が200,000[rpm]未満、望ましくは140,000[rpm]、更に望ましくは80,000[rpm]で、前記コンプレッサインペラに対する下流側と上流側との空気圧の比が2.0以上の容量を備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明による内燃機関の制御装置によれば、少なくとも車両を運転するドライバの加速意図に基づいて、電動アシストターボチャージャを制御する制御手段を備え、前記制御手段は、前記加速意図が所定以上の素早い加速を要求する加速意図であるときは、少なくともタービンホイールとコンプレッサインペラと電動機の慣性モーメントを補償するアシストトルクを発生するように前記電動機を制御するようにしたので、電動アシストターボチャージャの電力消費を低減させ、且つ電動アシストターボチャージャによる所望の過給を行うことができ、排気ガスエネルギーのみで駆動されるターボチャージャでは実現できない内燃機関のダウンサイジングが可能になる。
【0016】
又、この発明による内燃機関の制御装置によれば、少なくとも車両を運転するドライバの加速意図と前記内燃機関の回転数とに基づいて、電動アシストターボチャージャを制御する制御手段を備え、前記制御手段は、前記加速意図が所定以上の素早い加速を要求しない加速意図である場合であって前記回転数が所定値以下であるときは、前記電動機のアシストトルクにより前記コンプレッサインペラを駆動するように前記電動機を制御し、前記加速意図が所定以上の素早い加速を要求しない加速意図である場合であって前記回転数が所定値を超えているときは、前記電動機を消勢して前記タービンホイールのトルクのみにより前記コンプレッサインペラを駆動させるようにしたので、電動アシストターボチャージャの電力消費を低減させ、且つ電動アシストターボチャージャによる所望の過給を行うことができ、排気ガスエネルギーのみで駆動されるターボチャージャでは実現できない内燃機関のダウンサイジングが可能になる。
【0017】
更に、この発明による内燃機関の制御装置によれば、少なくとも前記内燃機関の回転速度に基づいて、電動アシストターボチャージャを制御する制御手段を備え、前記制御手段は、前記内燃機関の所定の回転速度以上で前記内燃機関の出力トルクを増加させるときは、少なくとも前記タービンホイールと前記コンプレッサインペラと前記電動機の慣性モーメントを補償するアシストトルクを発生するように前記電動機を制御するようにしたので、電動アシストターボチャージャの電力消費を低減させ、且つ電動アシストターボチャージャによる所望の過給を行うことができ、排気ガスエネルギーのみで駆動されるターボチ
ャージャでは実現できない内燃機関のダウンサイジングが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置に於ける制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置の動作を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置について、図に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置の全体構成を示す構成図である。図1に於いて、内燃機関1は、インジェクタによりシリンダ内に燃料が直接噴射される直接噴射タイプの多気筒内燃機関であるが、図1には一つの気筒のみを断面図として示している。又、内燃機関1は、後述する電動機により過給機のコンプレッサインペラを駆動してより多くの吸入空気を過給し、高出力化だけでなく低燃費化をも実現し得るように構成されている。
【0020】
尚、内燃機関1は、シリンダ内に燃料を直接噴射する直接噴射タイプの内燃機関だけでなく、スロットルバルブの下流側の吸気通路に燃料を噴射するポート噴射タイプの内燃機関であってもよいことは勿論である。
【0021】
内燃機関1は、シリンダ18と、このシリンダ18内に収納されて軸方向に往復運動するピストン19とを備える。ピストン19の往復運動は、クランク20により回転運動に変換されて内燃機関1の回転出力となる。シリンダ18に固定されたインジェクタ12は、シリンダ18の燃焼室内に燃料を直接噴射する。シリンダ18の頂部には、点火プラグ10が設けられている。吸気通路100は、一端がシリンダ18の燃焼室内に連結され、他端がエアクリーナ3を介して大気側に開口している。排気通路200は、一端がシリンダ18の燃焼室に連結され、他端が排気浄化触媒21を介して大気側に開口している。
【0022】
吸気通路100に設けられたスロットルバルブ8は、シリンダ18の燃焼室内に流入させる吸入空気の量を調整する。吸気弁9は、吸気通路100に於けるスロットルバルブ8の下流側通路17とシリンダ18の燃焼室との連結部に設けられ、ピストン19及びクランク20の動作に連動して吸気通路100を開閉する。同様に、シリンダ18の燃焼室と排気通路200との連結部に設けられた排気弁11は、ピストン19及びクランク20の動作に連動して排気通路200を開閉する。
【0023】
電動アシストターボチャージャ130は、エアクリーナ3を介して吸気通路100内に吸入された空気を圧縮するコンプレッサインペラ13と、このコンプレッサインペラ13の軸に回転子軸が連結された電動機14と、この電動機14の回転子軸に軸が連結され後述する排気ガスにより駆動されるタービンホイール15とを備えている。電動機14は、電動アシストターボチャージャ130を制御する制御手段16により後述するように制御される。吸気通路100に於けるコンプレッサインペラ13の下流側通路4に設置されたインタークーラ7は、電動アシストターボチャージャ130のコンプレッサインペラ13による圧縮動作により温度が上昇した空気を冷却し空気の充填効率を向上させる。
【0024】
再循環通路5は、吸気通路100に於けるコンプレッサインペラ13の上流側通路2と下流側通路4とに連通し、コンプレッサインペラ13の下流側通路4の空気を上流側通路
2へ再循環させる。再循環通路5に設けられた空気流量調整手段6は、制御手段16により制御されて再循環通路5による空気の再循環流量を調整する。
【0025】
以上のように構成されたこの発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置に於いて、吸気通路100により内燃機関1に吸入される空気は、先ずエアクリーナ3により塵埃等が取り除かれた後、コンプレッサインペラ13の上流側通路2に入る。その後、上流側通路2内の空気は、コンプレッサインペラ13により圧縮され、コンプレッサインペラ13の下流側通路4からインタークーラ7に入る。
【0026】
一方、電動アシストターボチャージャ130のコンプレッサインペラ13により圧縮された空気の一部は、再循環通路5によりコンプレッサインペラ13の下流側通路4から上流側通路2へ還流される。このとき、コンプレッサインペラ13により圧縮された空気によりサージが発生する恐れがある場合には、空気流量調整手段6は、制御手段16からの制御信号に基づいて再循環通路5による空気の再循環流量を調整し、サージの発生を防止する。
【0027】
尚、コンプレッサインペラ13の下流側通路4内の空気は、上流側通路2内の空気に比べて圧縮により温度が上昇しているため、再循環通路5により再循環する空気の温度上昇を低減するために再循環通路5に空気冷却手段を備えてもよい。或いは、例えば再循環通路5の一端をインタークーラ7の下流側通路に連結し、インタークーラ7により冷却された空気をコンプレッサインペラ13の上流側通路2内に再循環させるようにしてもよい。
【0028】
さて、電動アシストターボチャージャ130のコンプレッサインペラ13により圧縮された空気は、コンプレッサインペラ13の下流側通路4からインタークーラ7に入る。インタークーラ7は、インペラ13の圧縮による圧力上昇に伴って温度が上昇した空気の温度を下げ、過給する空気の充填効率を向上させる。インタークーラ7により冷却された高圧の空気は、スロットルバルブ8を介してスロットルバルブ8の下流側通路17に至る。
【0029】
スロットルバルブ8の下流側通路17内の空気は、ピストン19の動作に連動して吸入弁9が開いたとき、シリンダ18の燃焼室内に充填され、インジェクタ12により燃焼室内に噴射された燃料と所定の空燃比にて混合され混合気となる。この混合気は、点火プラグ10により点火されて燃焼し、その後、ピストン19の動作に連動して開く排気弁11を介して排気ガスとして排気通路200に排出され、排気浄化触媒21により浄化されて大気側へ放出される。
【0030】
排気通路200内に設けられている電動アシストターボチャージャ130のタービンホイール15は、シリンダ18の燃焼室内から排気通路200内に排出された排気ガスにより駆動され、電動機14の回転子軸を介してコンプレッサインペラ13に駆動力を与える。
【0031】
次に、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置の動作について説明する。制御手段16は、内燃機関1の回転数、スロットルポジション、空気の吸入圧力(以下、単に吸入圧と称する)、吸入空気量等の検出値に基づいて指令信号を生成して電動アシストターボチャージャ130の電動機14に与える。電動機14は、制御手段16からの指令信号に基づいて制御される。
【0032】
ここで、前述のスロットルポジションは、ドライバのアクセル操作を反映させた電子スロットルからの信号に基づいて得るものであるが、電子ストットルを用いていない車両等では、例えばアクセル開度を用いてもよい。又、空気の吸入圧力に関しては、例えばスロットルバルブ8の下流側通路17内に圧力センサ等を設けて吸入圧力を検出して得ることが可能である。吸入空気量に関しては、例えばエアクリーナ3の後方、つまりコンプレッサインペラ13の上流側通路2内等にエアーフローセンサ等を設けることにより検出することが可能である。
【0033】
図2は、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置に於ける制御装置の動作を示すフローチャートである。図2に示すフローチャートは、スタートとエンドの間にステップS201からステップS207を含んでいる。図2に於いて、先ずステップS201に於いて、制御手段16は、内燃機関1の回転数、スロットルポジション、吸入圧、吸入空気量をマイクロコンピュータのメモリ(図示せず)に読み込み記憶する。
【0034】
次のステップS202では、制御手段16は、スロットルポジションに基づいてドライバに加速意図があり過給を必要とするかについて判断する。この判断は、例えばスロットル開度の変位の速度を演算し、その演算したスロットル開度の変位の速度が予め設定した第1の所定値以上のときに加速意図があると判断することで行うことができる。
【0035】
ステップS202にてドライバに加速意図があり過給を必要とすると判断すれば、次のステップS203では、素早い加速が必要かどうかを判定する。この判定は、予め車両に応じた所定の閾値を記憶しておき前述したスロットル開度の変位の速度がその閾値を超えたか否かにより判定すればよい。即ち、前述の演算したスロットル開度の変位の速度が、前述の第1の所定値より大きい第2の所定値である閾値以上であるときは素早い加速意図があると判断し、その閾値未満のときは素早い加速意図がなくゆっくりとした加速意図であると判断することで行うことができる。ステップS203での判定の結果、素早い加速が必要であると判定(YES)すれば、、ステップS204へ進む。
【0036】
ステップS204では、ミッションをダウンシフトし内燃機関1の回転数を上げることで排気ガスエネルギーによりタービンホイール15を駆動すると共に、電動機14は、少なくともコンプレッサインペラ13、タービンホイール15、電動機14の慣性を補償するアシストトルクを発生するように、制御手段16からの指令信号に基づいて付勢される。
【0037】
一方、ステップS203に於いて、加速意図が素早い加速を要求するものではないと判断された場合(NO)には、ステップS205に進み、内燃機関1の回転数が車両に応じて予め定められた所定値以下であるか否かを判断する。その所定値は、電動ターボチャージャ130に於けるコンプレッサインペラ13若しくはタービンホイール15の形状や、内燃機関1の排気量に応じて定められる。
【0038】
一般的に、過給機が内燃機関の排気ガスエネルギーのみで駆動される大容量の機械式ターボチャージャである場合、排気量の小さい内燃機関にその大容量の機械式ターボチャージャを取り付けると、内燃機関の回転数が高い領域では過給が可能となるが、内燃機関の回転数が低い領域では過給できないという課題や小容量のターボチャージャに比べて慣性モーメントが大きくなるため、ターボラグという応答遅れが課題となる。この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置によれば、排気ガスにより駆動される大容量のターボホイールを用いても、電動機14による電動アシストにより内燃機関1の回転数が低い領域でも過給が可能となる。
【0039】
さて、ステップS205に於いて、内燃機関1の回転数が車両に応じて予め定められた所定値以下であると判断された場合(YES)には、ステップS206に進み、制御手段16からの指令信号に基づいて電動機14が付勢され、その電動アシストトルクによりコンプレッサインペラ13を駆動する。このとき、吸気通路100内にサージが発生する可能性があれば、制御手段16から指令信号を空気流量調整手段6に与え、空気流量調整手
段6により再循環通路5の流量が大きくなるように調整してサージの発生を防止する。
【0040】
一方、ステップS205に於いて、内燃機関1の回転数が車両に応じて予め定められた所定値より大きいと判断された場合(NO)には、ステップS207に進む。ステップS207では、制御手段16からの指令信号に基づき電動機16を停止させて電動アシストトルクをオフとし、排気ガスエネルギーによるターボホイール15の駆動力のみで過給機14を駆動して過給する。
【0041】
尚、以上の説明では、制御手段16により、電動機14を駆動制御するための制御信号の演算を行うと共に空気量調整手段6を制御するための制御信号の演算を行い、それらの制御信号を電動機14及び空気流量調整手段6へ夫々出力する場合について示したが、例えば、電動機16を駆動制御するための指令値と空気流量調整手段6を制御するための指令値とのうち少なくとも一方の演算は、内燃機関制御用コンピュータ(図示せず)により行い、その演算した指令値を内燃機関制御用コンピュータから制御手段16に与え、制御手段16は、その指令値を受けて電動機16若しくは空気流量調整手段6を制御するようにしても、前述と同様の効果が得られる。
【0042】
図3は、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置の動作を説明する説明図である。図3に示す説明図は、シリンダ容積が1.2[L]の直墳内燃機関に、回転数が140,000[rpm]の回転数にて、コンプレッサインペラの下流側通路の空気圧と上流側通路の空気圧との比である圧力比が2.0を実現する大容量の電動アシストターボチャージャを搭載した内燃機関の出力特性をイメージ図で示している。図3に於いて、縦軸は、内燃機関の出力トルク[Nm]、横軸は、内燃機関の回転数[rpm]を示す。
【0043】
図3に於いて、過給不要特性の領域は、電動アシストターボチャージャ130による過給を必要としない領域であり、電動機14は付勢されない。電動アシスト過給領域は、排気ガスエネルギーが小さくターボホイール15による駆動力は殆ど得ることができず、従って電動機14を付勢してその電動アシストトルクによりコンプレッサインペラ13を駆動して過給する領域である。排気ガスエネルギー過給領域は、排気ガスエネルギーが高くターボホイール15による駆動力によりコンプレッサインペラ13を駆動して過給することができる領域である。
【0044】
今、例えば、内燃機関1が過給不要特性領域に於ける低回転数でのA点にて運転されているとすると、その間では電動アシストターボチャージャ130による過給を必要としないので電動機14は消勢されている。このA点に於いて、ドライバが内燃機関1の出力を高めるためにゆっくりとしたアクセルの踏み込み操作を行ったとすると、制御手段16は急な加速は必要ないと判断して、B点の電動アシスト過給領域へと動作点を移す。
【0045】
B点では、電動機14は制御手段16からの指令信号に基づいて付勢され、コンプレッサインペラ13をその電動アシストトルクにより駆動する。このときサージが発生する恐れがあれば、空気流量調整手段6を制御して再循環通路5の空気の流量を大きくするように変更することで、サージを回避しつつ所定の過給圧を得ることが可能になり、所望の内燃機関1の出力トルクを得ることができる。
【0046】
一方、A点でドライバが内燃機関1の出力を高めるために急なアクセル操作を行った場合には、制御手段16は、急な加速が必要と判断して排気ガスエネルギー過給領域のC点へと動作点を移す。C点では、コンプレッサインペラ13は排気ガスエネルギーによるタ
ーボホイール15の駆動トルクにより駆動されるが、このとき電動機14は、制御手段16からの指令信号に基づき少なくともタービンホイール、コンプレッサコンプレッサインペラ、電動機の慣性モーメントを補償する電動アシストトルクを発生するように付勢される。これによりターボラグを予防し、ドライバに対し操作性のよい加速性能を付与することができる。
【0047】
次に、例えば内燃機関1が過給不要領域のD点で運転されている場合を想定する。このときD点であれば過給を必要としないので、電動機14は消勢されている。このD点からドライバが内燃機関1の出力を高めるためにゆっくりとアクセルを踏み込む操作を行った場合には、制御手段16は、急な加速は必要ないと判断してE点へと動作点を移す。この場合は内燃機関1の急な出力アップは必要なく、電動機14による電動アシストトルクを発生しなくても排気ガスのエネルギーのみによる過給により十分に操作性のよい加速性能が得られるため、電動機14は消勢されたままであり電動アシストはオフになる。
【0048】
一方、ドライバがD点から内燃機関1の出力を高めるために急なアクセルの踏み込み操作を行った場合には、制御手段16は急な加速が必要と判断して排気ガスエネルギー過給領域のF点へと動作点を移す。このとき電動機14は、少なくともタービンホイール、コンプレッサコンプレッサインペラ、電動機の慣性モーメントを補償する電動アシストトルクを発生するように制御手段16からの指令信号に基づき付勢される。これにより、ターボラグを予防し、ドライバに対し操作性のよい加速性能を付与することができる。
【0049】
以上述べたように、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置によれば、素早い加速を必要とする場合に、排気ガスエネルギー過給領域に於いては、電動機をタービンホイール、コンプレッサコンプレッサインペラ、電動機の慣性モーメントを補償する電動アシストトルクを発生するように付勢することにより、電動アシストターボチャージャに必要な電力を節約できるだけでなく、内燃機関の熱効率の良い動作点で運転することが可能となるので燃費向上が可能である。又、燃費向上効果だけでなく、ドライバのアクセル操作に応じた速やかな内燃機関の出力応答も可能になるので操作性の向上も可能になる。
【0050】
更に、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置によれば、サージ予防のため再循環通路の流量を調整して過給を行うことができるだけでなく、ドライバの操作に応じて必要な場合のみ再循環通路の流量を調整して内燃機関の低回転域での電動アシスト過給を行うことができ、消費電力が少なく電動機への負荷低減が可能となり、排気ガスエネルギーと協調した電力負荷状態で運転するため燃費性能を向上することが可能である。
【0051】
又、実施の形態1による前述の効果と同様の効果を得ることができる内燃機関は、例えばシリンダ容積2.0[L]の自然吸気内燃機関等で可能であるが、電動アシストターボチャージャを備えたシリンダ容積1.2[L]の直噴内燃機関の方が熱効率がよく、特に内燃機関の回転数3,000[rpm]未満で、且つ、内燃機関のトルクが100[Nm]未満にて動作させる場合の燃費性能に優れる。
【0052】
更に、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置によれば、再循環通路の流量を調整しながら内燃機関の低回転域では電動アシストトルクにより過給することで出力を確保し、内燃機関の高回転域では必要に応じて電動アシストトルクは、タービン、コンプレッサ、電動機の慣性を補償することで不要な電気エネルギーを省き最高過給圧を高め、排気ガスエネルギーのみで駆動されるターボチャージャでは実現できない内燃機関のダウンサイジングが可能となる。
【0053】
尚、この発明の実施の形態1では、シリンダ容積1.2「L」の直噴内燃機関に電動アシストターボチャージャを適用することで燃費性能を向上させる形態を示したが、一般的にシリンダ容積1.4[L]未満のガソリン内燃機関であれば実用域であるンジン回転数3,000[rpm]未満で、且つ、内燃機関のトルクが100[Nm]未満にて優れた燃費性能を示すものである。この発明による内燃機関の制御装置は、シリンダ容積1.4
[L]未満の内燃機関であれば同様の効果を得ることが可能である。
【0054】
又、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置では、過給圧比2.0としたが、より大容量の電動アシストターボチャージャを備えることで過給圧比2.0以上得るものを備えてもよい。その場合、内燃機関のシリンダ容積を更に低減可能となり、更なるダウンサイジングが可能であり燃費性能が向上する。この発明によれば、過給圧比2.0以上の電動アシストターボチャージャであれば同様の効果を得ることが可能である。
【0055】
更に、この発明は、例えば電動アシストターボチャージャの後に機械式ターボチャージャを備える構成、所謂、ツインターボの構成にしても同様の効果が得られる。
【0056】
以上、この発明による内燃機関の制御装置について説明したが、この発明は前述の実施の形態のみに限られるものではなく、この発明の範囲内に於いて他に種々の実施の形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0057】
1 内燃機関
2 コンプレッサインペラの上流側通路
3 エアクリーナ
4 コンプレッサインペラの下流側通路
5 再循環通路
6 空気流量調整手段
7 インタークーラ
8 スロットルバルブ
9 吸気弁
10 点火プラグ
11 排気弁
12 インジェクタ
13 コンプレッサインペラ
14 電動機
15 タービンホイール
16 制御手段
17 スロットルバルブの下流側通路
18 シリンダ
19 ピストン
20 クランク
21 排気浄化触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された内燃機関の排気通路内に設置され前記内燃機関の排気ガスエネルギーにより駆動されるタービンホイールと、前記内燃機関の吸気通路内に設置され前記タービンホイールにより駆動されて前記吸気通路内の空気を圧縮するコンプレッサインペラと、必要に応じて前記コンプレッサインペラにアシストトルクを加える電動機とを有する電動アシストターボチャージャを備え、前記コンプレッサインペラにより圧縮された空気を前記内燃機関に過給することにより前記内燃機関の出力トルクを増加させるようにした内燃機関の制御装置であって、
少なくとも前記車両を運転するドライバの加速意図に基づいて、前記電動アシストターボチャージャを制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記加速意図が所定以上の素早い加速を要求する加速意図であるときは、少なくとも前記タービンホイールと前記コンプレッサインペラと前記電動機の慣性モーメントを補償するアシストトルクを発生するように前記電動機を制御することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
車両に搭載された内燃機関の排気通路内に設置され前記内燃機関の排気ガスエネルギーにより駆動されるタービンホイールと、前記内燃機関の吸気通路内に設置され前記タービンホイールにより駆動されて前記吸気通路内の空気を圧縮するコンプレッサインペラと、必要に応じて前記コンプレッサインペラにアシストトルクを加える電動機とを有する電動アシストターボチャージャを備え、前記コンプレッサインペラにより圧縮された空気を前記内燃機関に過給することにより前記内燃機関の出力トルクを増加させるようにした内燃機関の制御装置であって、
少なくとも前記車両を運転するドライバの加速意図と前記内燃機関の回転数とに基づいて、前記電動アシストターボチャージャを制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記加速意図が所定以上の素早い加速を要求しない加速意図である場合であって前記回転数が所定値以下であるときは、前記電動機のアシストトルクにより前記コンプレッサインペラを駆動するように前記電動機を制御し、前記加速意図が所定以上の素早い加速を要求しない加速意図である場合であって前記回転数が所定値を超えているときは、前記電動機を消勢して前記タービンホイールのトルクのみにより前記コンプレッサインペラを駆動させることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記ドライバの加速意図は、前記内燃機関のスロットルポジションの変位速度に基づいて得るものであり、
前記スロットルポジションの変位速度が所定値以上のとき、前記所定以上の素早い加速を要求する加速意図であると判断し、前記スロットルポジションの変位速度が前記所定値未満のとき、前記所定以上の素早い加速を要求しない加速意図であると判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記吸気通路に於ける前記コンプレッサインペラの下流側の空気を前記コンプレッサの上流側に還流させる再循環通路と、前記再循環通路の空気流量を調整して前記下流側と前記上流側の空気の圧力比を制御する空気流量調整手段とを備え、
前記空気流量調整手段は、少なくとも前記下流側の空気圧と前記電動機の前記アシストトルクとに基づいて前記再循環路の空気流量を調整することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
車両に搭載された内燃機関の排気通路内に設置され前記内燃機関の排気ガスエネルギーにより駆動されるタービンホイールと、前記内燃機関の吸気通路内に設置され前記タービンホイールにより駆動されて前記吸気通路内の空気を圧縮するコンプレッサインペラと、必要に応じて前記コンプレッサインペラにアシストトルクを加える電動機とを有する電動
アシストターボチャージャを備え、前記コンプレッサインペラにより圧縮された空気を前記内燃機関に過給することにより前記内燃機関の出力トルクを増加させるようにした内燃機関の制御装置であって、
少なくとも前記内燃機関の回転数に基づいて、前記電動アシストターボチャージャを制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記内燃機関の所定の回転数以上で前記内燃機関の出力トルクを増加させるときは、少なくとも前記タービンホイールと前記コンプレッサインペラと前記電動機の慣性モーメントを補償するアシストトルクを発生するように前記電動機を制御することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記電動アシストターボチャージャは、回転数が200,000[rpm]未満で、前記コンプレッサインペラに対する下流側と上流側との空気圧の比が2.0以上の容量を備えていることを特徴とする請求項1乃至5のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記内燃機関は、容積が1.4[L]未満のシリンダを備えていることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−265810(P2010−265810A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117678(P2009−117678)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】