内燃機関の制御装置
【課題】大気圧の変化影響を考慮して、可変バルブを備えた内燃機関の制御装置において、点火時期を精度良く制御できる装置を提供する。
【解決手段】吸気弁及び排気弁の少なくとも一方を可変にする可変バルブ機構と、前記バルブ動作量検出手段と、を備えた内燃機関の制御装置であって、回転速度と、吸気絶対圧と、大気絶対圧または排気絶対圧と、前記バルブ動作量と、にもとづいて、気筒内への流入空気の充填効率演算手段91と、回転速度と、吸気絶対圧と、大気絶対圧または排気絶対圧と、バルブ動作量と、にもとづいて、気筒の内部EGR量を演算する内部EGR量演算手段92と、少なくとも、回転速度と、充填効率と、内部EGR量と、可変バルブ動作量から演算された実効圧縮比と、気筒内に供給される燃料のアンチノック性指標と、にもとづいて点火時期を演算する点火時期演算手段95と、を備える。
【解決手段】吸気弁及び排気弁の少なくとも一方を可変にする可変バルブ機構と、前記バルブ動作量検出手段と、を備えた内燃機関の制御装置であって、回転速度と、吸気絶対圧と、大気絶対圧または排気絶対圧と、前記バルブ動作量と、にもとづいて、気筒内への流入空気の充填効率演算手段91と、回転速度と、吸気絶対圧と、大気絶対圧または排気絶対圧と、バルブ動作量と、にもとづいて、気筒の内部EGR量を演算する内部EGR量演算手段92と、少なくとも、回転速度と、充填効率と、内部EGR量と、可変バルブ動作量から演算された実効圧縮比と、気筒内に供給される燃料のアンチノック性指標と、にもとづいて点火時期を演算する点火時期演算手段95と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変バルブを備えた内燃機関において、点火時期の制御を好適に行う内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車用内燃機関では、吸気バルブや排気バルブにバルブタイミングまたはバルブリフト量を可変とする可変バルブ機構を備えた内燃機関が一般化する傾向にある。上記可変バルブ機構は、制御自由度の増加や動作範囲の拡大、応答性の向上などの観点で技術の向上が図られている。
【0003】
特に、バルブリフト量を連続的に可変制御できる可変バルブ機構が開発されており、上記リフト連続可変バルブ機構によってシリンダへ吸入される空気量を、スロットルバルブを代替して吸気バルブにて制御することで、ポンプ損失の低減やミラーサイクルを実現した内燃機関が開発されている。このような可変バルブ機構を搭載した内燃機関の制御装置においては、吸気管に備えられたエアフローセンサ、または圧力センサによって、吸気管を流れる吸入空気量を検出または推定しており、この値から充填効率を演算し、上記充填効率にもとづき点火時期の制御量が演算されている。
【0004】
引用文献1によれば、実バルブタイミングが基本バルブタイミングよりずれた場合に、そのずれに応じて点火時期を好適に補正する技術が開示されている。この引用文献1に開示されている技術では、バルブタイミングのずれが遅角側にずれた場合、低負荷域においては、内部EGR量(EGR:Exhaust Gas Recirculation)の減少にともなう燃焼速度の増加に対応すべく点火時期を遅角側に補正し、また高負荷域においては実圧縮比の低下にともなう燃焼速度の減少に対応すべく点火時期を進角側に補正している。
【0005】
一方、バルブタイミングのずれが進角側にずれた場合、低負荷域においては内部EGR量の増加にともなう燃焼速度の減少に対応すべく点火時期を進角側に補正し、また高負荷域においては、実圧縮比の増加にともなう燃焼速度の増加に対応すべく点火時期を遅角側に補正している。
【0006】
引用文献2によれば、可変バルブ機構の応答遅れに起因するノック学習量の発散を好適に抑制する技術が開示されている。実バルブタイミングが基本バルブタイミングからずれると、ノック発生の頻度が変化する。可変バルブがずれた場合にノック発生の有無に応じてノック制御量の学習を行うと、ノック制御量の学習値に可変バルブのずれにともなう影響を含んでしまい、誤学習を生じてノック制御が発散してしまう。引用文献2に開示されている技術では、運転状態にもとづいて設定される基本点火時期を、ノック発生の有無に応じて更新されるノック制御量と、前記ノック制御量の定常的な傾向を打ち消すように更新されるノック学習量とによって補正する内燃機関のノック制御装置において、可変バルブの応答遅れが予め設定された値以上である場合には、ノック学習量の更新を禁止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−209895号公報
【特許文献2】特開2006−125285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、高地条件のような大気圧の低下する状態においては、バルブタイミングにもとづき変化する内部EGR量が、大気圧の状態によっても影響を受けるために、バルブタイミングのずれのみにもとづいて点火時期の補正を正確に実施することができない。また、バルブタイミングが進角側あるいは遅角側にずれた場合の実圧縮比の変化は、バルブ作動角によっても異なるために、バルブ作動角を可変とする可変バルブにおいては、バルブタイミングのずれのみで実圧縮比の変化を考慮することができない。さらに、回転速度と負荷とバルブタイミングにもとづいて点火時期制御量を演算する構成に、前述した大気圧の低下する高地補正分の影響を考慮しようとすると、少なくとも回転速度と負荷とバルブタイミングと大気圧を軸とする多次元マップが必要となるために、ECUに搭載するマップが大規模となり、メモリ容量が増大するといった課題があった。
【0009】
また、運転動作点にもとづいて設定される基本点火時期を、ノック発生の有無に応じて更新または学習するノック制御量で補正する構成では、燃料のオクタン価が変更された場合に、運転動作点が変化する度にノック制御量を更新または学習する必要があるため、ノック制御の応答性が悪化する。実バルブタイミングが基本バルブタイミングよりずれた場合に、ノック学習量の更新を禁止する構成とすると、可変バルブを多用する内燃機関では、ノック学習処理の頻度が低下し、ノック制御精度が悪化するといった課題があった。
【0010】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、大気圧の変化影響を考慮して、バルブ作動角が可変となる可変バルブを備えた内燃機関の制御装置において、メモリ容量を増大させることなく、燃料の点火時期を精度良く制御できる内燃機関の制御装置を提供すること、さらに、可変バルブとノック検出センサ(ノック検出手段)を備えた内燃機関において、可変バルブの動作状態に応じて変化するノック挙動を考慮して、燃料のオクタン価を精度良く推定することで、燃料の点火時期を精度良く制御できる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決すべく、本発明に係る内燃機関の制御装置は、回転速度を検出する回転速度検出手段と、吸気管内の絶対圧を検出する吸気絶対圧検出手段と、大気絶対圧または排気絶対圧を測定する絶対圧測定手段と、吸気弁及び排気弁の少なくとも一方のバルブ動作量を可変にする可変バルブ機構と、前記バルブ動作量を検出するバルブ動作量検出手段と、を備えた内燃機関の制御装置であって、少なくとも、前記回転速度と、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または排気絶対圧と、前記バルブ動作量と、にもとづいて、気筒内への流入空気の充填効率を演算する充填効率演算手段と、少なくとも、前記回転速度と、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または排気絶対圧と、前記バルブ動作量と、にもとづいて、前記気筒の内部EGR量を演算する内部EGR量演算手段と、少なくとも、前記回転速度と、前記充填効率と、前記内部EGR量と、前記可変バルブ動作量から演算された実効圧縮比と、気筒内に供給される燃料のアンチノック性指標と、にもとづいて点火時期を演算する点火時期演算手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、少なくとも回転速度と、吸気絶対圧と、大気絶対圧または排気絶対圧と、可変バルブ動作量と、にもとづいて充填効率と内部EGR量を演算し、少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、前記内部EGR量と、前記可変バルブ動作量から演算された実効圧縮比と、各気筒内に供給される燃料のアンチノック性指標と、にもとづいて点火時期を演算するので、可変バルブ機構を備えた可変バルブ(吸気弁及び/又は排気弁)の過渡時や大気絶対圧の低下する高地条件や、燃料のアンチノック性指標が変化した場合であっても、点火時期を精度良く演算することができる。
【0013】
より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記内燃機関が、ノック発生を検出するノック検出手段をさらに備え、前記制御装置は、前記ノック検出手段の検出結果にもとづいて、前記点火時期の補正量を演算し、該点火時期補正量で、前記点火時期を補正する点火時期補正手段と、前記回転速度と、前記充填効率と、前記点火時期補正量と、前記点火時期と、にもとづいて、前記アンチノック性指標を修正するアンチノック性指標修正手段と、を備えるものである。
【0014】
本発明によれば、ノック検出手段の検出結果にもとづきノックを補正する点火時期補正量を演算し、前記点火時期を前記点火時期補正量で補正する。さらに前記回転速度と前記充填効率と前記点火時期補正量と前記点火時期にもとづいてアンチノック性指標を修正する。修正された推定アンチノック性指標は、異なる運転動作点での点火時期演算結果にも適切に反映されるので、運転動作点が変化した際に、改めて点火時期演算結果へノック補正を行う必要がない。
【0015】
また、ノック検出による点火時期補正操作を点火時期演算結果に逐次実施する方法と比較して、ノック制御精度を向上させることができるとともに、ノック制御の応答性をも向上させることができる。可変バルブの動作状態がノックに与える影響を精度良く補正しているので、ノックを生じる要因を推定アンチノック性指標と真のアンチノック性指標との差異にほぼ集約させることができる。このように可変バルブの動作状態にもとづく点火時期補正手段を備える構成とすることで、可変バルブを多用する内燃機関であっても、アンチノック性指標の推定を精度良く実施することができる。
【0016】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記充填効率演算手段が、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または排気絶対圧と、の比である吸気相対圧を演算する吸気相対圧演算手段と、少なくとも前記回転速度と前記吸気相対圧と可変バルブ動作量とにもとづいて、充填効率基準値を演算する充填効率基準値演算手段と、予め設定された基準大気圧条件における大気絶対基準圧と、前記大気絶対圧又は排気絶対圧との比にもとづいて、前記充填効率の補正量を演算する充填効率補正量演算手段と、を備え、前記充填効率基準値と前記充填効率補正量との積によって、前記充填効率を演算するものである。
【0017】
本発明によれば、吸気絶対圧と、大気絶対圧または排気絶対圧と、の比である吸気相対圧を演算し、少なくとも回転速度と前記吸気相対圧と可変バルブ動作量とにもとづき充填効率基準値を演算し、前記大気絶対圧と大気絶対基準圧との比にもとづいて高地条件での充填効率補正量を演算し、前記充填効率基準値と前記充填効率補正量との積によって高地条件での充填効率を演算することができる。これにより、可変バルブの過渡時や大気絶対圧の低下する高地条件などにおいても充填効率を精度良く演算することができる。
【0018】
また、より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記内部EGR量演算手段が、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または前記排気絶対圧と、の比である吸気相対圧を演算する吸気相対圧演算手段と、少なくとも前記回転速度と前記吸気相対圧と前記可変バルブ動作量にもとづいて、内部EGR量基準値を演算する手段と、予め設定された基準大気圧条件における大気絶対基準圧と、前記大気絶対圧又は排気絶対圧との比にもとづいて、前記内部EGR量の補正量を演算する内部EGR量補正量演算手段と、を備え、前記内部EGR量基準値と、前記内部EGR補正量との積によって、前記内部EGR量を演算するものである。
【0019】
本発明によれば、吸気絶対圧と、大気絶対圧または排気絶対圧と、の比である吸気相対圧を演算し、少なくとも回転速度と前記吸気相対圧と可変バルブ動作量にもとづき内部EGR量基準値を演算し、前記大気絶対圧と大気絶対基準圧との比にもとづいて、高地条件でのEGR量補正量を演算し、前記内部EGR量基準値と前記EGR量補正量との積によって高地条件での内部EGR量を演算することができる。そのため可変バルブの過渡時や大気絶対圧の低下する高地条件などにおいても内部EGR量を精度良く演算することができる。
【0020】
また、より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記充填効率基準値演算手段が、少なくとも、前記回転速度と、前記吸気相対圧と、前記吸気弁のリフト量と、前記吸気弁の開時期と、前記排気弁の閉時期と、を入力パラメータとする多項式によって、前記基準大気圧条件における前記充填効率基準値を演算するものである。
【0021】
本発明によれば、少なくとも前記回転速度と、前記吸気相対圧と、バルブ動作量(すなわち、吸気弁作動角である吸気弁のリフト量と、吸気弁の開時期と、排気弁の閉時期)と、を入力パラメータとする多項式によって基準大気圧条件における前記充填効率基準値を演算する。そのため、各入力パラメータが充填効率基準値に与える複雑な因果関係を考慮して充填効率基準値を精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。
【0022】
また、より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記内部EGR量基準値演算手段が、少なくとも、前記回転速度と、前記吸気相対圧と、前記吸気弁のリフト量と、前記吸気弁の開時期と、前記排気弁の閉時期と、を入力パラメータとする多項式によって、前記基準大気圧条件における前記内部EGR量基準値を演算するものである。
【0023】
本発明によれば、少なくとも前記回転速度と、前記吸気相対圧と、バルブ動作量(吸気弁作動角である吸気弁のリフト量と、吸気弁の開時期と、排気弁の閉時期)と、を入力パラメータとする多項式によって基準大気圧条件における前記内部EGR量基準値を演算する。そのため、各入力パラメータが内部EGR量基準値に与える複雑な因果関係を考慮して内部EGR量基準値を精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。このように、バルブ動作量に、吸気弁作動角である吸気弁のリフト量と、吸気弁の開時期と、排気弁の閉時期を用いるのは、前提条件として、吸気バルブのリフト量及びリフトタイミングが可変であり、排気バルブのリフトタイミングが可変である場合に、充填効率及び内部EGR量に依存性が高いからである。
【0024】
また、より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、少なくとも前記充填効率と前記内部EGR量にもとづいて、内部EGR率を演算する内部EGR率手段を備え、前記点火時期演算手段は、少なくとも、前記回転速度と、前記充填効率と、前記内部EGR率と、前記実効圧縮比と、前記アンチノック性指標、を入力パラメータとする多項式によって前記点火時期を演算する。
【0025】
本発明によれば、少なくとも前記充填効率と前記内部EGR量にもとづいて、内部EGR率を演算し、少なくとも前記回転速度と前記充填効率と前記内部EGR率と前記実効圧縮比と前記アンチノック性指標を入力パラメータとする多項式によって前記点火時期を演算する。そのため、各入力パラメータが点火時期に与える複雑な因果関係を考慮して点火時期を精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。
【0026】
また、より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記点火時期演算手段が、前記回転速度と前記充填効率にもとづいて、定常動作点点火時期を演算する定常動作点点火時期手段と、少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、EGR率と、実効圧縮比と、前記アンチノック性指標と、にもとづいて、第一の点火時期を演算する第一点火時期演算手段と、前記回転速度と前記充填効率とにもとづいて、定常動作点EGR率を演算する定常動作点EGR率演算手段と、前記回転速度と前記充填効率とにもとづいて、定常動作点実効圧縮比を演算する手段と、少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、前記定常動作点EGR率と、前記定常動作点実効圧縮比と、前記定常動作点アンチノック性指標と、にもとづいて、第二の点火時期を演算する第二点火時期演算手段と、を備え、前記点火時期演算手段は、前記第一の点火時期と前記第二の点火時期との差分を、前記定常動作点点火時期に加算することで、前記点火時期を演算するものである。
【0027】
本発明によれば、前記回転速度と前記充填効率にもとづいて、定常動作点における点火時期を演算し、少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、現在のEGR率と、現在の実効圧縮比と、にもとづき第一の点火時期を演算し、前記回転速度と前記充填効率にもとづいて、定常動作点EGR率を演算し、前記回転速度と前記充填効率にもとづいて、定常動作点実効圧縮比を演算し、少なくとも前記回転速度と前記充填効率と前記定常動作点EGR率と前記定常動作点実効圧縮比にもとづいて、第二の点火時期を演算し、前記第一の点火時期と前記第二の点火時期との差分を前記定常動作点点火時期に加算することで点火時期を演算することができるので、点火時期の入力パラメータの現在値が定常動作点上にある場合には、定常動作点での点火時期が補正なしに出力される。一方、過渡時などに生じる可変バルブの現在値と定常目標動作点との間にかい離がある場合には、点火時期の補正が実施される。このような構成とすることで、点火時期を常に最適点に設定することができるので、燃費および出力を最適化することができる。
【0028】
また、より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記アンチノック性指標が、筒内に供給される燃料のオクタン価である。本発明によれば、前記アンチノック性指標に燃料のオクタン価を用いる。これによって、燃料のオクタン価が変化した場合であっても点火時期をノック限界点にロバストに設定することができるので、燃費および出力を最適化することができる。
【0029】
また、別の態様としては、前記アンチノック性指標は、筒内に供給される燃料のセタン価であることがより好ましい。本発明によれば、前記アンチノック性指標に燃料のセタン価を用いる。これによって、燃料のセタン価が変化した場合であっても点火時期をノック限界点にロバストに設定することができるので、燃費および出力を最適化することができる。
【0030】
また、別の態様としては、前記筒内に供給される燃料は、複数種の燃料が混合された混合燃料であり、前記アンチノック性指標が、前記混合燃料の混合割合であることがより好ましい。本発明によれば、前記アンチノック性指標に燃料の混合割合を用いる。これによって、アンチノック性指標が既知の燃料が複数種混合された混合燃料を使用した場合で、混合割合が変化した場合であっても点火時期をノック限界点にロバストに設定することができるので、燃費および出力を最適化することができる。
【0031】
また、前記アンチノック性指標に前記内燃機関の経時劣化、個体ばらつき、環境変化のうち少なくともいずれかに起因した誤差因子を用いてもよい。これによって、上記誤差因子の影響が変化した場合であっても点火時期をノック限界点にロバストに設定することができるので、燃費および出力を最適化することができる。
【0032】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記アンチノック性指標修正手段が、前記回転速度と前記充填効率と前記アンチノック性指標を説明変数とし、前記点火時期を目的変数とする多項式の、前記アンチノック性指標に関する一次導関数によって、前記アンチノック性指標を修正することがより好ましい。
【0033】
本発明によれば、前記回転速度と前記充填効率と前記アンチノック性指標を説明変数とし、前記点火時期を目的変数とする多項式の、前記アンチノック性指標に関する一次導関数によって、前記アンチノック性指標を修正するので、アンチノック性指標推定の高精度化と迅速化を図ることができる。
【0034】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記回転速度と、前記充填効率と、前記アンチノック性指標に基づいて、トルクを演算するトルク演算手段と、前記トルク比演算手段により、アンチノック性指標として、基準となる燃料のアンチノック性指標を用いて演算された基準トルクと、アンチノック性指標として、推定されたアンチノック性指標を用いて演算された推定トルクと、の比を推定トルク比として演算するトルク比演算手段と、該推定トルク比と、前記回転速度と、目標トルクと、にもとづいて、スロットルバルブの制御量または可変バルブの制御量を演算する制御量を演算する制御量演算手段を備えることがより好ましい。
【0035】
本発明によれば、少なくとも前記回転速度と前記充填効率と基準条件となる燃料でのアンチノック性指標にもとづき演算される基準トルクと、少なくとも前記回転速度と前記充填効率と現在の推定アンチノック性指標にもとづき演算される推定トルクとのトルク比を演算し、前記基準トルクと推定トルクとのトルク比と、前記回転速度と、目標トルクと、にもとづきスロットルバルブの制御量または可変バルブの制御量を演算する。このような構成とすることで、アンチノック性指標が変化した際の図示トルクの変化を考慮して、目標図示トルクを実現するスロットルバルブ目標制御量および可変バルブ目標制御量を適切に演算することができる。
【0036】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記トルク演算手段が、少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、前記アンチノック性指標と、を入力パラメータとする多項式によって、前記トルクを演算することがより好ましい。
【0037】
本発明によれば、少なくとも前記回転速度と前記充填効率と前記アンチノック性指標を入力パラメータとする多項式によってトルクを演算する。各入力パラメータがトルクに与える複雑な因果関係を考慮してトルクを精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、大気圧の変化影響を考慮して、バルブ作動角が可変となる可変バルブを備えた内燃機関の制御装置において、メモリ容量を増大させることなく、燃料の点火時期を精度良く制御できる。また、可変バルブとノック検出手段を備えた内燃機関において、可変バルブの動作状態に応じて変化するノック挙動を考慮して、燃料のオクタン価を精度良く推定することで、燃料の点火時期をより精度良くに制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態の全体構成を説明する図。
【図2】吸気バルブの位相を連続的に変化させた場合の、吸気バルブと排気バルブとのオーバーラップ期間の変化と、吸気バルブ閉じ時期(IVC:Intake Valve Close)の変化を説明する図。
【図3】排気バルブの位相を連続的に変化させた場合の、吸気バルブと排気バルブとのオーバーラップ期間の変化を説明する図。
【図4】バルブの作動角、リフトおよび位相を同時に変化させることができる可変バルブ機構のバルブリフトパターンを説明する図。
【図5】回転速度と吸気圧力を一定に保持した状態において得られる、低地条件と高地条件でのオーバーラップ期間と内部EGR量との関係を説明する図。
【図6】バルブの作動角、リフト量および位相を同時に変化させることができる可変バルブ機構の、IVCと実効圧縮比との関係を説明する図。
【図7】回転速度および充填効率を一定とした場合の、EGR率と実効圧縮比が点火時期に与える影響を説明する図。
【図8】同一温度および圧力条件でのオクタン価と着火遅れ期間との関係と、回転速度および充填効率を一定とした場合の、オクタン価と点火時期との関係を説明する図。
【図9】可変バルブを搭載した内燃機関において、可変バルブの状態とオクタン価に応じて点火時期を制御する手段を説明する図。
【図10】図9中の充填効率演算手段および内部EGR量演算手段を構成する多項式を説明する図。
【図11】図9中の点火時期演算手段を構成する制御ブロックを説明する図。
【図12】図11中の定常動作点EGR率演算手段の制御ブロックを説明する図。
【図13】図11中の第一および第二の点火時期演算手段を構成する多項式を説明する図。
【図14】本実施形態における内燃機関の過渡的状態における点火時期演算手段の出力結果を説明する図。
【図15】ノック検出センサを用いた点火時期補正制御手段を説明する図。
【図16】ノック現象とその検出原理を説明する図。
【図17】所定の周波数帯域通過フィルタ処理を施して得られるノック検出センサ検出信号と点火遅角補正量との関係を説明する図。
【図18】図15中のノック補正手段を説明する図。
【図19】異なる回転速度および充填効率動作点における点火時期とオクタン価の関係を説明する図
【図20】図18中のK値演算手段を構成する多項式を説明する図。
【図21】供給燃料のオクタン価が変化した直後において、内燃機関の過渡状態でオクタン価推定とノック補正を行う場合の点火時期演算手段の出力結果を説明する図。
【図22】基準オクタン価と現在のオクタン価にもとづき演算した図示トルクによって、目標図示トルクを実現するスロットルバルブおよび可変バルブの制御量を演算する手段を説明する図。
【図23】図22中の図示トルク演算手段を構成する多項式を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態を図にもとづいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態の全体構成を説明する図である。本実施形態のシステムは内燃機関1を備えている。内燃機関1には吸気流路および排気流路が連通している。吸気流路にはエアフローセンサおよび吸気温度センサ2が組付けられている。
【0041】
エアフローセンサ2の下流にはスロットルバルブ3が設けられている。スロットルバルブ3はアクセル踏量とは独立にスロットル開度を制御することができる電子制御式スロットルバルブである。スロットルバルブ3の下流には吸気マニホールド4が連通している。吸気マニホールド4には、吸気管内の絶対圧を検出する吸気管圧力センサ5が組付けられている。また、吸気管内には、燃焼室内の混合気の流れをコントロールするタンブルコントロールバルブ6が設けられている。
【0042】
さらに、吸気マニホールド4の下流には吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁7が配置されている。内燃機関1には、吸気弁(吸気バルブ)8が備えられており、吸気バルブ8には、バルブ動作量である吸気バルブタイミング(弁開閉時期)及びリフト量(バルブ作動角)を連続的に可変とする吸気可変バルブ機構8Aが設けられている。さらに、可変バルブ機構には、バルブタイミング(吸気バルブの開時期と閉時期)を位相として検出し、そのバルブの開閉期間における吸気バルブ8の最大リフト量を、作動角として検出するための、吸気バルブ動作量検出センサ(バルブ動作量検出手段)9が組付けられている。
【0043】
また、内燃機関1には排気バルブ10が備えられている。排気弁(排気バルブ)10には、排気バルブタイミング(排気バルブの開時期と閉時期)を可変とする排気可変バルブ機構10Aが備えられており、排気バルブ10の開閉タイミングをバルブ動作量として検出するための排気バルブ動作量検出センサ(バルブ動作量検出手段)11が組みつけられている。これらのセンサ9、11を用いることにより、後述する可変バルブのバルブ動作量を検出することができる。なお、本実施形態における、バルブ動作量とは、吸気バルブのリフト量と開時期(開弁時期)、排気バルブの閉時期(閉弁時期)を少なくとも含むが、吸気弁及び排気弁に取付けられた可変バルブ機構の特性によって、その検出すべきパラメータは異なり、少なくとも、充填効率、及び内部EGR量に寄与する可変バルブの制御された量(パラメータ)のことをいう。
【0044】
シリンダヘッド部にはシリンダ内に電極部を露出させた点火プラグ12が組付けられている。さらにシリンダにはノックの発生を検知するノック検出センサ13が組付けられている。クランク軸にはクランク角度センサ14が組付けられている。クランク角度センサ14からの出力信号にもとづき内燃機関1の回転速度を検出することができる。排気流路にはO2センサ15が組付けられている。
【0045】
本実施形態のシステムには排ガスの一部を吸気管へ還流させるための外部EGR管16および外部EGR流量を制御するための外部EGRバルブ17が備えられている。部分負荷運転時には、外部EGRバルブ17を開きEGRを行うことで、ポンプ損失や窒素酸化物の排出を低減することができる。
【0046】
本実施形態のシステムは、図1に示すようにECU(Electronic Control Unit)18を備えている。ECU18には、上述した各種センサが接続されている。ECU18は、この各種センサからの検出信号に基づいて、スロットルバルブ3、燃料噴射弁7、可変バルブ機構付き吸気バルブ8、可変バルブ機構付き排気バルブ10などのアクチュエータへの制御信号を演算し、ECU18からの制御信号により、アクチュエータが制御されている。さらに、上述した各種センサから入力された信号にもとづき内燃機関1の運転状態を検知し、運転状態に応じてECU18により演算されたタイミング(点火時期)で、点火時期の制御を行い、この点火時期に応じて、点火プラグ12が点火を行う。
【0047】
図2は、吸気バルブの位相を連続的に変化させた場合の、吸気バルブと排気バルブとのオーバーラップ期間の変化と、吸気バルブ閉時期(IVC:Intake Valve Close)の変化を説明する図である。
【0048】
可変バルブ機構により、吸気バルブの位相を進角側に変化させるにしたがって、排気バルブとのオーバーラップ期間が増加する。可変バルブ(可変バルブ機構付きの吸気バルブ,排気バルブ)を備えた内燃機関では、部分負荷条件において、上記オーバーラップ期間が生じるように可変バルブが制御され、排気管中の排ガスを一旦、吸気管へ吹き返すことによって内部EGRを生じさせる。内部EGR量の増加にしたがって、部分負荷条件でのポンプ損失の低減ができ、燃焼ガス温度を低減できるために排気中の窒素酸化物の低減を行うことができる。吸気バルブ位相可変による上記内部EGR制御では、オーバーラップ期間とともにIVCも一意的に変化する。
【0049】
図3は、排気バルブの位相を連続的に変化させた場合の、吸気バルブと排気バルブとのオーバーラップ期間の変化を説明する図である。排気バルブの位相を遅角側に変化させるにしたがって、吸気バルブとのオーバーラップ期間が増加する。前述のように、排気位相可変型の可変バルブを備えた内燃機関においても、内部EGRを増加させ、部分負荷条件でのポンプ損失や窒素酸化物を低減することができる。排気バルブ位相可変による上記内部EGR制御では、IVCを固定してオーバーラップ期間のみ変化させる。吸気位相可変バルブとの併用で、IVCとオーバーラップ期間とを独立して制御することが可能である。
【0050】
図4は、バルブの作動角、リフトおよび位相を同時に変化させることができる可変バルブ機構のバルブリフトパターンを説明する図である。従来のスロットルバルブが主体となって、気筒内に流入する空気の充填効率を制御する内燃機関では、吸気バルブの上流圧をスロットルバルブによって絞ることで負圧を生じさせるため、ポンプ損失による燃費悪化が問題となる。
【0051】
吸気バルブの上流圧を絞ることなく、吸気バルブの開閉時期によって吸気量を制御することができれば、上記ポンプ損失にともなう燃費悪化を抑制することができる。図4に示す可変バルブでは、吸気バルブのバルブリフト量を連続的に可変させるリフト可変機構と、位相を連続的に可変とする位相可変機構とを組み合わせて用いることによって、吸気バルブ開時期(IVO)を固定しつつ、吸気バルブ閉時期(IVC)を変化させている。
【0052】
このような可変バルブ機構を備えることで、可変バルブが主体となって、気筒への流入空気の充填効率を制御する内燃機関を実現することができる。本リフト可変機構では、バルブ作動角が増加するにしたがって、そのバルブ作動角内における、弁の最大リフト量が増加するものであり、図4下に示すような関係を有している。要求トルクの小さいときにはリフト量を小さくすると同時に、バルブ閉時期(IVC)を早期化して(進角させて)吸気量を小さくすることができる。このとき、バルブ閉時期(IVC)を早期化することによって、ピストン圧縮量をピストン膨張量と比較して相対的に小さくすることができるので、ポンプ損失の低減に加えて、ミラーサイクル効果による燃費向上効果も期待できる点が特徴である。
【0053】
図5は、回転速度と吸気圧力を一定に保持した状態において得られる、低地条件と高地条件でのオーバーラップ期間と内部EGR量との関係を説明する図である。ここでいう内部EGR量とは、シリンダに残留した既燃ガス質量を行程容積相当の標準状態での空気質量にて除した値である。
【0054】
図5に示すように、内部EGR量は、オーバーラップ期間に応じて決まる吹き返しに起因する部分と、排気バルブ閉時期(EVC)のすきま容積部に応じて決まるに部分とに分けることができる。さらに、内部EGR量は、排気圧力と吸気圧力との関係によって影響を受ける。具体的には、オーバーラップが有る条件で、高地条件のように排気圧力が低下する場合においては、排気管から筒内への既燃ガスの吹き返し分の減少によって内部EGR量が、大幅に減少する。一方、オーバーラップが無い条件では、排気圧力が低下した場合であっても、内部EGR量の低下分はすきま容積に起因する部分に限られるために、その減少幅は相対的に小さい。
【0055】
そのため、可変バルブを搭載した内燃機関において、高地条件を含めて内部EGR量を正確に見積もるためには、オーバーラップ期間のみならず吸気圧力および大気圧力(または排気圧力)の影響ついても考慮する必要がある。また、内部EGR量は最適点火時期を決定する上で重要な燃焼過程に大きな影響を与えるので、可変バルブを搭載した内燃機関では、内部EGR量を考慮した点火時期制御を行う必要がある。
【0056】
図6は、バルブの作動角、リフト量および位相を同時に変化させることができる可変バルブ機構のIVCと実効圧縮比との関係を説明する図である。IVCを下死点(BDC:Bottom Dead Center)より大幅に早期化する(進角させる)または遅延化する(遅角させる)と、実質的なピストン圧縮量が減少する。実効圧縮比を上死点(TDC:Top Dead Center)時のシリンダ容積とIVC時のシリンダ容積との比で定義すれば、TDC時のシリンダ容積とBDC時のシリンダ容積との比から求められる幾何学的圧縮比と比較して、BDCから早期化した場合や遅延化した場合の何れにおいても実効圧縮比は低下する。
【0057】
シリンダ内に吸気されたガスは、IVC以後はピストン圧縮作用によって概ね断熱過程を経過するため、IVCの時期がTDC時の到達圧力や到達温度に著しい影響をおよぼす。TDC時の圧力や温度は、最適点火時期を決定する上で重要な燃焼過程に大きな影響をおよぼすので、可変バルブを搭載した内燃機関では、IVCを考慮した点火時期制御を行う必要がある。
【0058】
図7は、回転速度および充填効率を一定とした場合の、EGR率と実効圧縮比が点火時期に与える影響を説明する図である。EGR率が増すにしたがって燃焼速度が減少するために、トルクを最大化するための最適点火時期(MBT:Minimum spark advance for Best Torque)が進角側に変化する。そのため、内燃機関の制御装置では、EGR率に応じて点火時期の進角補正制御を行う必要がある。また、実効圧縮比が増加するにしたがって、TDC時の到達圧力や温度が増加し、ノック発生頻度が増す。内燃機関の制御装置では、比較的高負荷の条件において、実効圧縮比の増加に応じてノックを回避するための点火遅角補正制御を行う必要がある。
【0059】
図8は、同一温度および圧力条件でのオクタン価と着火遅れ期間との関係と、回転速度および充填効率を一定とした場合の、オクタン価と点火時期との関係を説明する図である。自己着火遅れ期間とは、燃料と空気との均一混合気を所定の圧力および温度場にて反応を開始させた後、急激な発熱反応をともなって圧力および温度が瞬時に上昇するまでの遅れ期間を指す。
【0060】
火花点火運転による内燃機関では、点火プラグより点火された混合気が、燃焼室全体へ火炎伝播することによって燃焼が進行する。このとき、未燃ガスがピストン圧縮と既燃ガスからの圧縮作用や壁面高温部からの熱伝達によって圧力および温度が上昇するため、自己着火反応も同時に進行する。上記自己着火遅れ期間中に火炎伝播による燃焼が終了するように点火時期をMBTより遅角側に設定することによって、ノックを回避することができる。低回転速度かつ高負荷条件になるにしたがって、火炎伝播期間が増加するとともに、自己着火遅れ期間が減少するため、ノックを生じやすく、点火時期をより遅角側に設定する必要がある。高オクタン価燃料では、自己着火遅れ期間が増加するためにノックが起こり難い。そのためオクタン価が増加するにしたがって点火時期を進角側に設定することができ、MBT点に近づけることができるので、低回転速度での全開トルクの向上や燃料消費率の低減ができる。燃料のオクタン価は、供給燃料によって異なるため、オクタン価に応じた点火時期の補正制御を行う必要がある。
【0061】
図9は、可変バルブ(吸気バルブ及び排気バルブ)を搭載した内燃機関において、可変バルブの状態とオクタン価に応じて点火時期を制御する手段を説明する図である。吸気絶対圧と大気絶対圧(排気絶対圧)との比である吸気相対圧を演算し、充填効率の演算に用いる。なお、吸気絶対圧は、吸気管圧力センサ5によって検出するとこができ、大気絶対圧は、内燃機関の排気管圧力センサ(図1に図示せず)等により、検出することができる。ブロック91の充填効率演算手段では、回転速度と吸気相対圧(吸気絶対圧/大気絶対圧)と可変バルブ動作量(吸気バルブの吸気作動角(吸気バルブのリフト量リフト量の相当)と吸気バルブ開時期IVOおよび排気バルブ閉時期EVC)を入力パラメータに用いて、標準大気圧相当の充填効率(充填効率基準値)を演算する。
【0062】
上記標準大気圧相当の充填効率(充填効率基準値)に、大気絶対圧と標準大気圧との比(大気絶対圧/標準絶対圧)である充填効率補正量を乗じることによって、高地補正を行う(充填効率を演算する)。このような構成とすることで大気圧の低下する高地条件で可変バルブ機構を操作した場合においても充填効率を精度良く演算することができる。
【0063】
ブロック92の内部EGR量演算手段では、回転速度と、吸気相対圧と、可変バルブ動作量(吸気バルブの吸気作動角(吸気バルブのリフト量に相当)、吸気バルブ開時期IVOおよび排気バルブ閉時期EVC)と、を入力パラメータに用いて、標準大気圧相当の内部EGR量(内部EGR量基準値)を演算する。上記標準大気圧相当の内部EGR量(内部EGR量基準値)に大気絶対圧と標準大気圧との比(大気絶対圧/標準絶対圧)であるEGR量補正量を乗じることによって、高地補正を行う(内部EGR量を演算する)。
【0064】
このような構成とすることで、大気圧の低下する高地条件で可変バルブを操作した場合においても内部EGR量を精度良く演算することができる。本実施形態では、標準大気圧を用いているが、高地条件下における充填効率の補正をすることができるのであれば、この標準大気圧の代りに、予め設定された基準大気圧条件における大気絶対基準圧を用いてもよい。
【0065】
ブロック93の内部EGR率演算手段では、ブロック91および92において演算された充填効率と内部EGR量にもとづいて内部EGR率(筒内に流入するガス中に占める内部EGRガスの割合)が演算される。本構成では、大気圧の低下する高地条件で可変バルブを操作した場合においても、点火時期演算の重要なパラメータである充填効率と内部EGR率の変化を点火時期演算に考慮することが可能である。
【0066】
ブロック94の実効圧縮比演算手段では、可変バルブ動作量(吸気バルブの吸気作動角(吸気バルブのリフト量リフト量の相当)、吸気バルブ開時期IVOおよび排気バルブ閉時期EVC)にもとづき実効圧縮比を演算する。
【0067】
ブロック95の点火時期演算手段では、回転速度、充填効率、EGR率、実効圧縮比、および(アンチノック性指標の1つである)気筒内に供給される燃料のオクタン価を入力パラメータとして点火時期を演算する。本実施形態では、EGR率と実効圧縮比を中間パラメータとして用いることで、可変バルブが点火時期に与える影響を考慮する構成とした。このような構成とすることで可変バルブの制御自由度が増加する場合や、高地条件などの環境変化に対応する場合でも、点火時期演算パラメータを増加させることなく、精度良く点火時期を演算することが可能となる。
【0068】
図10は、図9中の充填効率演算手段および内部EGR量演算手段を構成する多項式を説明する図である。説明変数としてx1に回転速度、x2に吸気相対圧、x3に吸気作動角、x4にIVO、さらにx5にEVCを設定する。目的変数に充填効率あるいは内部EGR量を設定する。各項に乗じられている係数Aは、偏回帰係数であり、目的変数毎に値が設定される。群101のうち偏回帰係数番号2〜5は回転速度が充填効率または内部EGR量に与える影響が、群102のうち偏回帰係数番号6〜9は吸気相対圧が充填効率または内部EGR量に与える影響が、群103のうち偏回帰係数番号16〜19は吸気作動角が充填効率または内部EGR量に与える影響が、群104のうち偏回帰係数番号36〜39はIVOが充填効率または内部EGR量に与える影響が、さらに群105のうち偏回帰係数番号71〜74はEVCが充填効率または内部EGR量に与える影響が、それぞれ求められる。さらに、群102のうち偏回帰係数番号10〜15は回転速度と吸気相対圧との交互作用項の影響が、群103のうち偏回帰係数21〜35は回転速度と吸気相対圧と吸気作動角との交互作用項の影響が、群104のうち偏回帰係数40〜70は回転速度と吸気相対圧と吸気作動角とIVOとの交互作用項の影響が、群105のうち偏回帰係数75〜126は回転速度と吸気相対圧と吸気作動角とIVOとEVCとの交互作用項の影響が、それぞれ求められる。これらの項の和と、予め実験等により求められた充填効率(あるいは内部EGR量)の複数のデータから、偏回帰係数の各値を演算して、多項式を作成(設定)し、この多項式に、前記説明変数を代入することにより、充填効率(あるいは内部EGR量)を演算することができる。
【0069】
このように高次項や交互作用項を多項式中に設定することで、各入力パラメータが充填効率と内部EGR量に与える複雑な因果関係を考慮して充填効率と内部EGR量を精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。本実施形態のシステムにおいては、充填効率および内部EGR量を演算する手段に5元4次多項式を用いる構成としたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、要求精度と演算負荷の許容値の関係に応じて、次数や次元数を変えることとしてもよい。説明変数として回転速度、負荷、可変バルブの状態量を表す他のパラメータを用いることとしてもよい。ステップワイズ法などによって、精度改善に寄与していない高次項や交互作用項を多項式より適切に除外することで、多項式の精度と演算負荷との関係を改善することができる。充填効率や内部EGR量は吸気管や排気管流れの脈動効果や慣性効果の影響を受けて、回転速度に対して5次以上の次数が要求される場合があるため、少なくとも回転速度を軸にもつマップあるいはテーブルなどで上記多項式の出力結果をトリミングする構成として精度改善を図ることができる。
【0070】
図11は、図9中の点火時期演算手段を構成する制御ブロックを説明する図である。ブロック111の定常動作点点火時期演算手段は、回転速度と充填効率を入力パラメータとして、定常動作点での点火時期を演算する。本実施形態のシステムでは、可変バルブ位置(吸気バルブ及び排気バルブの位置)などの各種パラメータが回転速度と充填効率に対して割り付けられている。
【0071】
定常動作点点火時期演算手段には、上記回転速度と充填効率の組み合わせできまる各種パラメータの定常動作点上で取得された最適点火時期が回転速度および充填効率を2軸とした二次元マップに格納されている。可変バルブ((吸気バルブ及び排気バルブ)は上記定常目標動作点を目標値として制御されている。しかし、回転速度や充填効率が急激に変化するような過渡時においては、可変バルブの目標値と現在値とが大きくかい離する場合があり、同一回転速度かつ充填効率動作点であっても、EGR率や実効圧縮比が異なる値をとるために、最適点火時期が変化する。この最適点火時期変化分を考慮するために本実施形態のシステムでは、以下の補正が実施される。
【0072】
すなわち、ブロック112の第一点火時期演算手段では、回転速度、充填効率、EGR率、オクタン価および実効圧縮比の現在値にもとづき第一の点火時期を演算する。次に、ブロック113の定常動作点EGR率演算手段では、回転速度および充填効率の現在値にもとづき、定常動作点相当のEGR率を演算する。一方、ブロック114の定常動作点実効圧縮比演算手段では、回転速度および充填効率の現在値にもとづき、定常動作点相当の実効圧縮比を演算する。ブロック115の第二点火時期演算手段では、回転速度と充填効率と上記定常動作点相当のEGR率と、上記定常動作点相当の実効圧縮比と定常動作点オクタン価にもとづき第二の点火時期を演算する。
【0073】
ここで、定常動作点とは、回転速度および負荷によって特徴付けられた運転動作点が定常状態にある場合の運転動作点のことをいい、定常動作点点火時期とは、上記定常動作点毎に設定された点火時期のことであり、定常動作点EGR率とは、吸気管圧力や可変バルブの状態が、上記定常動作点毎に定められており、これらが目標状態下にある場合のEGR率のことであり、定常動作点実行圧縮比とは、可変バルブの状態が、上記定常動作点毎に定められており、これが目標状態下にある場合の実行圧縮比のことであり、定常動作点オクタン価とは、上記定常動作点点火時期を設定する上で前提としたオクタン価のことをいう。
【0074】
第一の点火時期と第二の点火時期との差分を、定常動作点の点火時期に加算することによって点火時期を演算する。点火時期の入力パラメータの現在値が定常動作点上にある場合には、定常動作点での点火時期が補正なしに出力される。一方、過渡時などに生じる可変バルブの現在値と定常目標動作点との間にかい離がある場合には、点火時期の補正が実施される。図11に示す構成とすることで、点火時期を常に最適点に設定することができるので、燃費および出力を最適化することができる。
【0075】
図12は、図11中の定常動作点EGR率演算手段113の制御ブロックを説明する図である。ブロック121の定常動作点吸気絶対圧演算手段では、回転速度および充填効率の現在値にもとづき、定常動作点相当の吸気絶対圧を演算する。ブロック122の定常動作点吸気作動角演算手段では、回転速度および充填効率の現在値にもとづき、定常動作点相当の吸気作動角を演算する。ブロック123の定常動作点IVO演算手段では、回転速度および充填効率の現在値にもとづき、定常動作点相当のIVOを演算する。ブロック124の定常動作点EVC演算手段では、回転速度および充填効率の現在値にもとづき、定常動作点相当のEVCを演算する。ブロック125では、回転速度、充填効率、定常動作点相当の吸気相対圧、上記定常動作点相当の吸気作動角、上記定常動作点相当のIVO、および上記定常動作点相当のEVCにもとづき、定常動作点相当の内部EGR量を演算する。充填効率と上記定常動作点相当の内部EGR量にもとづきブロック126において定常動作点相当の内部EGR率が演算される。
【0076】
図13は、図11中の第一および第二の点火時期演算手段を構成する多項式を説明する図である。説明変数としてx1に回転速度、x2に充填効率、x31にEGR率、x32に実効圧縮比、さらにx33にオクタン価を設定する。目的変数に点火時期を設定する。各項に乗じられている係数B、CおよびDは、偏回帰係数であり、目的変数と説明変数との組み合わせ毎に値が設定される。群131の偏回帰係数Bの番号2〜5は回転速度が点火時期に与える影響が、群132のうち偏回帰係数Bの番号6〜9は充填効率が点火時期に与える影響が、群133の偏回帰係数Bの番号16〜19はEGR率が点火時期に与える影響が、群134は、偏回帰係数Cの番号16〜19は実効圧縮比が点火時期に与える影響が、群136のうち偏回帰係数Dの番号16〜19はオクタン価が点火時期に与える影響が、それぞれ求められる。さらに、群132のうち偏回帰係数Bの番号10〜15は回転速度と充填効率との交互作用項の影響が、群133のうち偏回帰係数Bの20〜35は回転速度と充填効率とEGR率との交互作用項の影響が、群134のうち偏回帰係数Cの20〜35は回転速度と充填効率と実効圧縮比との交互作用項の影響が、群135のうち偏回帰係数Dの20〜35は回転速度と充填効率とオクタン価との交互作用項の影響が、それぞれ求められる。これらの項の和と、予め実験等により求められた点火時期の複数のデータから、偏回帰係数の各値を演算して、多項式を作成(設定)し、この多項式に、前記説明変数を代入することにより、充填効率(あるいは内部EGR量)を演算することができる。
【0077】
このように高次項や交互作用項を多項式中に設定することで、各入力パラメータが点火時期に与える複雑な因果関係を考慮して点火時期を精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。本実施形態のシステムにおいては、点火時期を演算する手段に3元4次多項式を用いる構成としたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、要求精度と演算負荷の許容値の関係に応じて、次数や次元数を変えることとしてもよい。説明変数として、吸気温度、空燃比さらに水温など点火時期に影響をおよぼす他のパラメータを設定した多項式を追加して用いる構成としてもよい。ステップワイズ法などによって、精度改善に寄与していない高次項や交互作用項を多項式より適切に除外することで、多項式の精度と演算負荷との関係を改善することができる。
【0078】
図14は、本実施形態における内燃機関の過渡的状態における点火時期演算手段の出力結果を説明する図である。同図は、回転速度を一定に保持した状態で、充填効率を変化させた場合の可変バルブ位置、EGR率、実効圧縮比および点火時期の推移を示している。可変バルブは回転速度および充填効率にもとづいて定常動作点での可変バルブ位置を目標値として制御が行われるが、可変バルブ機構の動作速度の制限を受けて目標値から遅れをともなって推移する。そのため、可変バルブ位置の影響を受けて変化するEGR率および実効圧縮比についても定常動作点相当の値からかい離して推移する。点火時期制御量には上記可変バルブの動作遅れに起因して変化するEGR率および実効圧縮比分を考慮して、点火時期の補正が行われる。すなわち、定常動作点での点火時期(図11における出力Aに対応)と実動作点での点火時期(図11における出力Bに対応)との差異が、可変バルブの動作遅れに対応する点火時期補正量として考慮される。
【0079】
図15は、ノック検出センサ(ノック検出手段)を用いた点火時期補正制御手段を説明する図である。ブロック151のノック補正手段では、点火時期演算手段より出力された点火時期の前回値とノック検出センサ検出値と回転速度と充填効率にもとづき、ノック補正量(すなわち、点火時期補正量)および推定オクタン価を演算する。ブロック152では、回転速度、充填効率、EGR率、実効圧縮比および推定オクタン価によって点火時期を演算する。ブロック152に示す点火時期演算手段は、図11にて説明した点火時期演算手段と同一構成でよい。点火時期演算手段より出力された点火時期にノック補正量(点火時期補正量)を加算すること(点火時期を補正すること)によってノック補正済み点火時期が演算される。
【0080】
本実施形態を構成する点火時期演算手段では、可変バルブの動作状態がノックに与える影響を精度良く補正しているので、ノックを生じる要因を推定オクタン価と真のオクタン価との差異にほぼ集約させることができる。このように可変バルブの動作状態にもとづく点火時期補正手段を備える構成とすることで、可変バルブを多用する内燃機関であっても、オクタン価の推定を精度良く実施することができる。また、オクタン価推定には一定の演算時間を要するので、ノック補正量を点火時期演算結果に施す手段を別に備えることで、ノックが検知されると直ちにノック限界点に点火時期を設定することができる。
【0081】
図16は、ノック現象とその検出原理を説明する図である。低回転速度高負荷条件では、点火後、火炎伝ぱによる圧縮作用とピストン圧縮、壁面高温部からの熱伝達によって高温高圧化した未燃ガスが自己着火することによって急激な圧力上昇と圧力振動をともなうノックを生じることがある。内燃機関の点火時期制御では、上記ノックを回避するために、MBT点よりノックを生じない限界点まで点火時期の遅角補正が行われる。本実施形態のシステムでは、シリンダブロックにノック検出センサが組み付けられており、上記シリンダ内燃焼ガスの圧力振動に起因して生じるシリンダブロックの振動を検出し、上記振動波形に所定の周波数帯域通過フィルタ処理を施して得られる信号情報にもとづいて、ノック発生の有無やノック強度を検知することができる。
【0082】
図17は、所定の周波数帯域通過フィルタ処理を施して得られるノック検出センサの検出信号と点火遅角補正量との関係を説明する図である。ノック強度は自己着火タイミングでの未燃ガス割合に起因し、ノック検出センサの検出信号の振幅値と比例関係をもつことが知られている。点火時期をノック限界点より進角側に設定する程、自己着火タイミングでの未燃ガス割合が増すので、ノック強度が増す傾向がある。ノック強度が大きい場合には、点火時期がより進角側に設定されていると考えられるので、ノック補正量をより大きく設定し(点火時期をより遅角側となるように、点火時期補正量を決定し)、ノックの回避を図る。
【0083】
図18は、図15中のノック補正手段を説明する図である。ブロック181の点火遅角演算手段では、ノック検出センサ検出信号にもとづき点火時期の遅角補正量(点火時期補正量)を演算し、後述する点火時期演算手段より出力された点火時期に対して直ちにノック補正(点火時期の補正)を行う。ブロック182の点火時期演算手段では、回転速度、充填効率、EGR率、実効圧縮比および推定オクタン価にもとづき点火時期を演算する。ブロック182の点火時期演算手段は、図11にて説明した点火時期演算手段と同一構成でよい。
【0084】
ブロック183では、点火時期の遅角補正量にローパスフィルタ処理を施した後、ブロック182にて演算された点火時期の前回値に加算する。ブロック184のK値演算手段では、回転速度および充填効率にもとづき比例係数K値を演算し、これとの乗算値を用いてオクタン価推定値の前回値を修正する。
【0085】
比例係数K値は、オクタン価が点火時期に与える感度にもとづき決定される値であり、例えばテーブルやマップなどにおいて、回転速度と充填効率に応じて異なる値をもつ。ブロック185では、オクタン価推定値が所定の範囲の値となるように、その上限値と下限値とにリミッタを設け、オクタン価推定値に対して、リミッタ処理を行う。
【0086】
本実施形態では、ノック検出センサ検出信号にもとづき直ちにノック補正を行う(点火時期を補正する)と同時に、オクタン価推定値を修正する(アンチノック性指標を修正する)構成としている。修正された推定オクタン価は、異なる運転動作点での点火時期演算結果にも適切に反映されるので、運転動作点が変化した際に、改めて点火時期演算結果へノック補正を行う必要がない。ノック検出によるノック補正操作を点火時期演算結果に逐次実施する方法と比較して、ノック制御精度が向上するとともに、ノック制御の応答性が向上する。
【0087】
図19は、異なる回転速度および充填効率の動作点における点火時期とオクタン価の関係を説明する図である。低回転高負荷条件A、低回転低負荷条件B、高回転高負荷条件Cおよび高回転低負荷条件Dにおけるオクタン価と点火時期との関係はいずれも異なる傾向をもち、低回転高負荷条件ほどオクタン価に対する点火時期の変化量は大きい。
【0088】
一方、高回転低負荷条件Dでは、いずれのオクタン価でもノックを生じないためオクタン価に対して点火時期は変化しない。本実施形態のシステムでは、オクタン価と点火時期との関係およびノック検出センサ(ノック検出手段)の検出結果を用いて、真のオクタン価を推定するために以下のような演算を行う。すなわち、現在のオクタン価推定値にもとづき点火時期を演算し、ノック検出センサによってノックが検出された場合に、検出されたノック強度(検出結果)にもとづいて、ノック補正量(点火時期の補正量)を演算し、このノック補正量(点火時期補正量)に点火時期演算値(点火時期)を加算することで点火時期を補正し、この補正した点火時期が真の点火時期であると考える。
【0089】
この真の点火時期を実現するオクタン価が真のオクタン価であるとして、現在の推定オクタン価の修正を行う。このとき、点火時期のオクタン価に関する一次導関数の逆数値(比例係数K値)を用いることで、オクタン価の修正を適切に行うことができる。K値は回転速度と充填効率の影響を受けて大きく変化するために、回転速度と充填効率に応じて変化させることによって、オクタン価推定の高精度化と迅速化を図ることができる。運転動作点Dのような場合には、比例係数K値が過大となって、オクタン価推定値を誤修正する可能性を生じるため、K値が所定値以上の運転動作点においては、K=0として、実質的にオクタン価修正を行わない構成とすることもできる。
【0090】
図20は、図18中のK値演算手段を構成する多項式を説明する図である。説明変数としてx1に回転速度、x2に充填効率、さらにx33にオクタン価を設定する。目的変数に点火時期のオクタン価に関する一次導関数を設定する。各項に乗じられている係数Dは、偏回帰係数であり、図13にて示した偏回帰係数と共通に用いることができる。すなわち、回帰係数Dの番号16〜19はオクタン価が点火時期のオクタン価に関する一次導関数に与える影響が、偏回帰係数Dの20〜35は回転速度と充填効率とオクタン価との交互作用項の一次導関数に与える影響が、それぞれ求められる。このように高次項や交互作用項を多項式中に設定することで、各入力パラメータが点火時期のオクタン価に関する一次導関数に与える複雑な因果関係を考慮することができ、もってオクタン価推定の高精度化と迅速化を図ることができる。
【0091】
本実施形態のシステムにおいては、点火時期のオクタン価に関する一次導関数を演算する手段に3元3次多項式を用いる構成としたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、要求精度と演算負荷の許容値の関係に応じて、次数や次元数を変えることとしてもよい。説明変数として、吸気温度、空燃比さらに水温など点火時期のオクタン価に関する一次導関数に影響をおよぼす他のパラメータを設定した多項式を追加して用いる構成としてもよい。ステップワイズ法などによって、精度改善に寄与していない高次項や交互作用項を多項式より適切に除外することで、多項式の精度と演算負荷との関係を改善することができる。
【0092】
オクタン価が点火時期に影響を与えない図19中の運転動作点Dのような場合には、比例係数K値が過大となって、オクタン価推定値を誤修正する可能性を生じるため、K値が所定値以上の運転動作点においては、K=0として、実質的にオクタン価修正を行わない構成とすることもできる。また、K値演算手段に回転速度と充填効率を2軸に用いた二次元マップを用いる構成としても良い。
【0093】
図21は、供給燃料のオクタン価が変化した直後において、内燃機関の過渡状態でオクタン価推定とノック補正(点火時期の補正)を行う場合の点火時期演算手段の出力結果を説明する図である。同図は、回転速度を一定に保持した状態で、充填効率を変化させた場合のオクタン価推定値、ノック補正量(点火時期の補正量)および点火時期演算結果の推移を示している。充填効率が増加しノック検出センサによってノックが検出された後、直ちにノック補正量(点火時期補正量)の演算結果にもとづくノック補正(点火時期の補正)が実施される。一方、ノック補正量にもとづいてオクタン価推定値の修正が開始される。オクタン価推定値が修正されるにしたがって、ノック補正量が減少し、オクタン価推定値が真のオクタン価に一致すると、点火時期演算後のノック補正が実施されなくなる。この段階では、修正された真のオクタン価を用いるため、運転動作点が変化した場合でも点火時期演算が適切に実施され、再度ノック補正を実施する必要がない。そのため、ノック検出によるノック補正操作を点火時期演算結果に逐次実施する方法と比較して、ノック制御精度が向上するとともに、ノック制御の応答性が向上する。
【0094】
図22は、基準オクタン価と現在のオクタン価にもとづき演算した図示トルクによって、目標図示トルクを実現するスロットルバルブおよび可変バルブの制御量を演算する手段を説明する図である。ブロック221では、回転速度と充填効率と基準条件でのオクタン価にもとづいて基準オクタン価相当の図示トルクを演算する。ブロック222では、回転速度と充填効率と現在の推定オクタン価にもとづいて推定オクタン価相当の図示トルクを演算する。目標基準図示トルクを上記基準オクタン価相当の図示トルクと上記推定オクタン価相当の図示トルクとの比で補正し、目標図示トルクを演算する。なお、この基準オクタン価は、基準となる燃料のオクタン価(アンチノック性指標)であり、基準トルクは、この基準オクタン価と、回転速度、充填効率に基づいて、演算される値である。また、推定トルクは、上述した推定オクタン価と、回転速度、充填効率に基づいて、演算される値である。
【0095】
目標基準図示トルクは基準条件でのドライバー要求トルク、外部要求トルク、機械損失などを考慮して演算される。ブロック223および224では、回転速度と上記目標図示トルクにもとづきスロットルバルブ目標制御量および/または可変バルブ目標制御量が演算される。このような構成とすることで、オクタン価が変化した際の図示トルクの変化を考慮して、目標図示トルクを実現するスロットルバルブ目標制御量および可変バルブ目標制御量を適切に演算することができる。本発明の構成では図示トルク演算の入力パラメータの一つにオクタン価を用いたが、これに限定されるものではない。アンチノック性指標や発熱量が異なる複数の燃料の混合割合をパラメータとして用いることができる。
【0096】
図23は、図22中の図示トルク演算手段を構成する多項式を説明する図である。説明変数としてx1に回転速度、x2に充填効率、さらにx33にオクタン価(基準オクタン価、又は、推定オクタン価)を設定する。目的変数に図示トルクを設定する。各項に乗じられている係数Eは、偏回帰係数である。偏回帰係数番号2〜5は回転速度が図示トルクに与える影響が、群231のうち偏回帰係数番号6〜9は充填効率が図示トルクに与える影響が、群233のうち偏回帰係数番号16〜19はオクタン価が図示トルクに与える影響が、それぞれ求められる。さらに、群232のうち偏回帰係数番号10〜15は回転速度と充填効率との交互作用項の影響が、群233のうち偏回帰係数20〜35は回転速度と充填効率とオクタン価との交互作用項の影響が、それぞれ求められる。このように高次項や交互作用項を多項式中に設定することで、各入力パラメータが図示トルクに与える複雑な因果関係を考慮して図示トルクを精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。本実施形態のシステムにおいては、図示トルクを演算する手段に3元4次多項式を用いる構成としたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、要求精度と演算負荷の許容値の関係に応じて、次数や次元数を変えることとしてもよい。説明変数として、吸気温度、空燃比さらに水温など図示トルクに影響をおよぼす他のパラメータを設定した多項式を追加して用いる構成としてもよい。ステップワイズ法などによって、精度改善に寄与していない高次項や交互作用項を多項式より適切に除外することで、多項式の精度と演算負荷との関係を改善することができる。
【0097】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【0098】
例えば、本実施形態では、アンチノック性指標として、筒内に供給される燃料のオクタン価を用いたが、例えば、このアンチノック性指標は、筒内に供給される燃料のセタン価や、複数種の燃料が混合された混合燃料における、混合燃料の混合割合など、アンチノック性(エンジンの燃焼室での以上燃焼の起しやすさ)を評価することができる指標であれば、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0099】
1 内燃機関
2 エアフローセンサおよび吸気温センサ
3 スロットルバルブ
4 吸気マニホールド
5 吸気管圧力センサ
6 タンブルコントロールバルブ
7 燃料噴射弁
8 吸気バルブ(可変バルブ)
8A 吸気可変バルブ機構
9 バルブリフトセンサおよびバルブタイミングセンサ
10 排気バルブ(可変バルブ)
10A 排気可変バルブ機構
11 バルブタイミングセンサ
12 点火プラグ
13 ノック検出センサ
14 クランク角度センサ
15 O2センサ
16 外部EGR管
17 外部EGRバルブ
18 ECU(Electronic Control Unit)
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変バルブを備えた内燃機関において、点火時期の制御を好適に行う内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車用内燃機関では、吸気バルブや排気バルブにバルブタイミングまたはバルブリフト量を可変とする可変バルブ機構を備えた内燃機関が一般化する傾向にある。上記可変バルブ機構は、制御自由度の増加や動作範囲の拡大、応答性の向上などの観点で技術の向上が図られている。
【0003】
特に、バルブリフト量を連続的に可変制御できる可変バルブ機構が開発されており、上記リフト連続可変バルブ機構によってシリンダへ吸入される空気量を、スロットルバルブを代替して吸気バルブにて制御することで、ポンプ損失の低減やミラーサイクルを実現した内燃機関が開発されている。このような可変バルブ機構を搭載した内燃機関の制御装置においては、吸気管に備えられたエアフローセンサ、または圧力センサによって、吸気管を流れる吸入空気量を検出または推定しており、この値から充填効率を演算し、上記充填効率にもとづき点火時期の制御量が演算されている。
【0004】
引用文献1によれば、実バルブタイミングが基本バルブタイミングよりずれた場合に、そのずれに応じて点火時期を好適に補正する技術が開示されている。この引用文献1に開示されている技術では、バルブタイミングのずれが遅角側にずれた場合、低負荷域においては、内部EGR量(EGR:Exhaust Gas Recirculation)の減少にともなう燃焼速度の増加に対応すべく点火時期を遅角側に補正し、また高負荷域においては実圧縮比の低下にともなう燃焼速度の減少に対応すべく点火時期を進角側に補正している。
【0005】
一方、バルブタイミングのずれが進角側にずれた場合、低負荷域においては内部EGR量の増加にともなう燃焼速度の減少に対応すべく点火時期を進角側に補正し、また高負荷域においては、実圧縮比の増加にともなう燃焼速度の増加に対応すべく点火時期を遅角側に補正している。
【0006】
引用文献2によれば、可変バルブ機構の応答遅れに起因するノック学習量の発散を好適に抑制する技術が開示されている。実バルブタイミングが基本バルブタイミングからずれると、ノック発生の頻度が変化する。可変バルブがずれた場合にノック発生の有無に応じてノック制御量の学習を行うと、ノック制御量の学習値に可変バルブのずれにともなう影響を含んでしまい、誤学習を生じてノック制御が発散してしまう。引用文献2に開示されている技術では、運転状態にもとづいて設定される基本点火時期を、ノック発生の有無に応じて更新されるノック制御量と、前記ノック制御量の定常的な傾向を打ち消すように更新されるノック学習量とによって補正する内燃機関のノック制御装置において、可変バルブの応答遅れが予め設定された値以上である場合には、ノック学習量の更新を禁止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−209895号公報
【特許文献2】特開2006−125285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、高地条件のような大気圧の低下する状態においては、バルブタイミングにもとづき変化する内部EGR量が、大気圧の状態によっても影響を受けるために、バルブタイミングのずれのみにもとづいて点火時期の補正を正確に実施することができない。また、バルブタイミングが進角側あるいは遅角側にずれた場合の実圧縮比の変化は、バルブ作動角によっても異なるために、バルブ作動角を可変とする可変バルブにおいては、バルブタイミングのずれのみで実圧縮比の変化を考慮することができない。さらに、回転速度と負荷とバルブタイミングにもとづいて点火時期制御量を演算する構成に、前述した大気圧の低下する高地補正分の影響を考慮しようとすると、少なくとも回転速度と負荷とバルブタイミングと大気圧を軸とする多次元マップが必要となるために、ECUに搭載するマップが大規模となり、メモリ容量が増大するといった課題があった。
【0009】
また、運転動作点にもとづいて設定される基本点火時期を、ノック発生の有無に応じて更新または学習するノック制御量で補正する構成では、燃料のオクタン価が変更された場合に、運転動作点が変化する度にノック制御量を更新または学習する必要があるため、ノック制御の応答性が悪化する。実バルブタイミングが基本バルブタイミングよりずれた場合に、ノック学習量の更新を禁止する構成とすると、可変バルブを多用する内燃機関では、ノック学習処理の頻度が低下し、ノック制御精度が悪化するといった課題があった。
【0010】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、大気圧の変化影響を考慮して、バルブ作動角が可変となる可変バルブを備えた内燃機関の制御装置において、メモリ容量を増大させることなく、燃料の点火時期を精度良く制御できる内燃機関の制御装置を提供すること、さらに、可変バルブとノック検出センサ(ノック検出手段)を備えた内燃機関において、可変バルブの動作状態に応じて変化するノック挙動を考慮して、燃料のオクタン価を精度良く推定することで、燃料の点火時期を精度良く制御できる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決すべく、本発明に係る内燃機関の制御装置は、回転速度を検出する回転速度検出手段と、吸気管内の絶対圧を検出する吸気絶対圧検出手段と、大気絶対圧または排気絶対圧を測定する絶対圧測定手段と、吸気弁及び排気弁の少なくとも一方のバルブ動作量を可変にする可変バルブ機構と、前記バルブ動作量を検出するバルブ動作量検出手段と、を備えた内燃機関の制御装置であって、少なくとも、前記回転速度と、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または排気絶対圧と、前記バルブ動作量と、にもとづいて、気筒内への流入空気の充填効率を演算する充填効率演算手段と、少なくとも、前記回転速度と、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または排気絶対圧と、前記バルブ動作量と、にもとづいて、前記気筒の内部EGR量を演算する内部EGR量演算手段と、少なくとも、前記回転速度と、前記充填効率と、前記内部EGR量と、前記可変バルブ動作量から演算された実効圧縮比と、気筒内に供給される燃料のアンチノック性指標と、にもとづいて点火時期を演算する点火時期演算手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、少なくとも回転速度と、吸気絶対圧と、大気絶対圧または排気絶対圧と、可変バルブ動作量と、にもとづいて充填効率と内部EGR量を演算し、少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、前記内部EGR量と、前記可変バルブ動作量から演算された実効圧縮比と、各気筒内に供給される燃料のアンチノック性指標と、にもとづいて点火時期を演算するので、可変バルブ機構を備えた可変バルブ(吸気弁及び/又は排気弁)の過渡時や大気絶対圧の低下する高地条件や、燃料のアンチノック性指標が変化した場合であっても、点火時期を精度良く演算することができる。
【0013】
より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記内燃機関が、ノック発生を検出するノック検出手段をさらに備え、前記制御装置は、前記ノック検出手段の検出結果にもとづいて、前記点火時期の補正量を演算し、該点火時期補正量で、前記点火時期を補正する点火時期補正手段と、前記回転速度と、前記充填効率と、前記点火時期補正量と、前記点火時期と、にもとづいて、前記アンチノック性指標を修正するアンチノック性指標修正手段と、を備えるものである。
【0014】
本発明によれば、ノック検出手段の検出結果にもとづきノックを補正する点火時期補正量を演算し、前記点火時期を前記点火時期補正量で補正する。さらに前記回転速度と前記充填効率と前記点火時期補正量と前記点火時期にもとづいてアンチノック性指標を修正する。修正された推定アンチノック性指標は、異なる運転動作点での点火時期演算結果にも適切に反映されるので、運転動作点が変化した際に、改めて点火時期演算結果へノック補正を行う必要がない。
【0015】
また、ノック検出による点火時期補正操作を点火時期演算結果に逐次実施する方法と比較して、ノック制御精度を向上させることができるとともに、ノック制御の応答性をも向上させることができる。可変バルブの動作状態がノックに与える影響を精度良く補正しているので、ノックを生じる要因を推定アンチノック性指標と真のアンチノック性指標との差異にほぼ集約させることができる。このように可変バルブの動作状態にもとづく点火時期補正手段を備える構成とすることで、可変バルブを多用する内燃機関であっても、アンチノック性指標の推定を精度良く実施することができる。
【0016】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記充填効率演算手段が、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または排気絶対圧と、の比である吸気相対圧を演算する吸気相対圧演算手段と、少なくとも前記回転速度と前記吸気相対圧と可変バルブ動作量とにもとづいて、充填効率基準値を演算する充填効率基準値演算手段と、予め設定された基準大気圧条件における大気絶対基準圧と、前記大気絶対圧又は排気絶対圧との比にもとづいて、前記充填効率の補正量を演算する充填効率補正量演算手段と、を備え、前記充填効率基準値と前記充填効率補正量との積によって、前記充填効率を演算するものである。
【0017】
本発明によれば、吸気絶対圧と、大気絶対圧または排気絶対圧と、の比である吸気相対圧を演算し、少なくとも回転速度と前記吸気相対圧と可変バルブ動作量とにもとづき充填効率基準値を演算し、前記大気絶対圧と大気絶対基準圧との比にもとづいて高地条件での充填効率補正量を演算し、前記充填効率基準値と前記充填効率補正量との積によって高地条件での充填効率を演算することができる。これにより、可変バルブの過渡時や大気絶対圧の低下する高地条件などにおいても充填効率を精度良く演算することができる。
【0018】
また、より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記内部EGR量演算手段が、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または前記排気絶対圧と、の比である吸気相対圧を演算する吸気相対圧演算手段と、少なくとも前記回転速度と前記吸気相対圧と前記可変バルブ動作量にもとづいて、内部EGR量基準値を演算する手段と、予め設定された基準大気圧条件における大気絶対基準圧と、前記大気絶対圧又は排気絶対圧との比にもとづいて、前記内部EGR量の補正量を演算する内部EGR量補正量演算手段と、を備え、前記内部EGR量基準値と、前記内部EGR補正量との積によって、前記内部EGR量を演算するものである。
【0019】
本発明によれば、吸気絶対圧と、大気絶対圧または排気絶対圧と、の比である吸気相対圧を演算し、少なくとも回転速度と前記吸気相対圧と可変バルブ動作量にもとづき内部EGR量基準値を演算し、前記大気絶対圧と大気絶対基準圧との比にもとづいて、高地条件でのEGR量補正量を演算し、前記内部EGR量基準値と前記EGR量補正量との積によって高地条件での内部EGR量を演算することができる。そのため可変バルブの過渡時や大気絶対圧の低下する高地条件などにおいても内部EGR量を精度良く演算することができる。
【0020】
また、より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記充填効率基準値演算手段が、少なくとも、前記回転速度と、前記吸気相対圧と、前記吸気弁のリフト量と、前記吸気弁の開時期と、前記排気弁の閉時期と、を入力パラメータとする多項式によって、前記基準大気圧条件における前記充填効率基準値を演算するものである。
【0021】
本発明によれば、少なくとも前記回転速度と、前記吸気相対圧と、バルブ動作量(すなわち、吸気弁作動角である吸気弁のリフト量と、吸気弁の開時期と、排気弁の閉時期)と、を入力パラメータとする多項式によって基準大気圧条件における前記充填効率基準値を演算する。そのため、各入力パラメータが充填効率基準値に与える複雑な因果関係を考慮して充填効率基準値を精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。
【0022】
また、より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記内部EGR量基準値演算手段が、少なくとも、前記回転速度と、前記吸気相対圧と、前記吸気弁のリフト量と、前記吸気弁の開時期と、前記排気弁の閉時期と、を入力パラメータとする多項式によって、前記基準大気圧条件における前記内部EGR量基準値を演算するものである。
【0023】
本発明によれば、少なくとも前記回転速度と、前記吸気相対圧と、バルブ動作量(吸気弁作動角である吸気弁のリフト量と、吸気弁の開時期と、排気弁の閉時期)と、を入力パラメータとする多項式によって基準大気圧条件における前記内部EGR量基準値を演算する。そのため、各入力パラメータが内部EGR量基準値に与える複雑な因果関係を考慮して内部EGR量基準値を精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。このように、バルブ動作量に、吸気弁作動角である吸気弁のリフト量と、吸気弁の開時期と、排気弁の閉時期を用いるのは、前提条件として、吸気バルブのリフト量及びリフトタイミングが可変であり、排気バルブのリフトタイミングが可変である場合に、充填効率及び内部EGR量に依存性が高いからである。
【0024】
また、より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、少なくとも前記充填効率と前記内部EGR量にもとづいて、内部EGR率を演算する内部EGR率手段を備え、前記点火時期演算手段は、少なくとも、前記回転速度と、前記充填効率と、前記内部EGR率と、前記実効圧縮比と、前記アンチノック性指標、を入力パラメータとする多項式によって前記点火時期を演算する。
【0025】
本発明によれば、少なくとも前記充填効率と前記内部EGR量にもとづいて、内部EGR率を演算し、少なくとも前記回転速度と前記充填効率と前記内部EGR率と前記実効圧縮比と前記アンチノック性指標を入力パラメータとする多項式によって前記点火時期を演算する。そのため、各入力パラメータが点火時期に与える複雑な因果関係を考慮して点火時期を精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。
【0026】
また、より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記点火時期演算手段が、前記回転速度と前記充填効率にもとづいて、定常動作点点火時期を演算する定常動作点点火時期手段と、少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、EGR率と、実効圧縮比と、前記アンチノック性指標と、にもとづいて、第一の点火時期を演算する第一点火時期演算手段と、前記回転速度と前記充填効率とにもとづいて、定常動作点EGR率を演算する定常動作点EGR率演算手段と、前記回転速度と前記充填効率とにもとづいて、定常動作点実効圧縮比を演算する手段と、少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、前記定常動作点EGR率と、前記定常動作点実効圧縮比と、前記定常動作点アンチノック性指標と、にもとづいて、第二の点火時期を演算する第二点火時期演算手段と、を備え、前記点火時期演算手段は、前記第一の点火時期と前記第二の点火時期との差分を、前記定常動作点点火時期に加算することで、前記点火時期を演算するものである。
【0027】
本発明によれば、前記回転速度と前記充填効率にもとづいて、定常動作点における点火時期を演算し、少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、現在のEGR率と、現在の実効圧縮比と、にもとづき第一の点火時期を演算し、前記回転速度と前記充填効率にもとづいて、定常動作点EGR率を演算し、前記回転速度と前記充填効率にもとづいて、定常動作点実効圧縮比を演算し、少なくとも前記回転速度と前記充填効率と前記定常動作点EGR率と前記定常動作点実効圧縮比にもとづいて、第二の点火時期を演算し、前記第一の点火時期と前記第二の点火時期との差分を前記定常動作点点火時期に加算することで点火時期を演算することができるので、点火時期の入力パラメータの現在値が定常動作点上にある場合には、定常動作点での点火時期が補正なしに出力される。一方、過渡時などに生じる可変バルブの現在値と定常目標動作点との間にかい離がある場合には、点火時期の補正が実施される。このような構成とすることで、点火時期を常に最適点に設定することができるので、燃費および出力を最適化することができる。
【0028】
また、より好ましくは、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記アンチノック性指標が、筒内に供給される燃料のオクタン価である。本発明によれば、前記アンチノック性指標に燃料のオクタン価を用いる。これによって、燃料のオクタン価が変化した場合であっても点火時期をノック限界点にロバストに設定することができるので、燃費および出力を最適化することができる。
【0029】
また、別の態様としては、前記アンチノック性指標は、筒内に供給される燃料のセタン価であることがより好ましい。本発明によれば、前記アンチノック性指標に燃料のセタン価を用いる。これによって、燃料のセタン価が変化した場合であっても点火時期をノック限界点にロバストに設定することができるので、燃費および出力を最適化することができる。
【0030】
また、別の態様としては、前記筒内に供給される燃料は、複数種の燃料が混合された混合燃料であり、前記アンチノック性指標が、前記混合燃料の混合割合であることがより好ましい。本発明によれば、前記アンチノック性指標に燃料の混合割合を用いる。これによって、アンチノック性指標が既知の燃料が複数種混合された混合燃料を使用した場合で、混合割合が変化した場合であっても点火時期をノック限界点にロバストに設定することができるので、燃費および出力を最適化することができる。
【0031】
また、前記アンチノック性指標に前記内燃機関の経時劣化、個体ばらつき、環境変化のうち少なくともいずれかに起因した誤差因子を用いてもよい。これによって、上記誤差因子の影響が変化した場合であっても点火時期をノック限界点にロバストに設定することができるので、燃費および出力を最適化することができる。
【0032】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記アンチノック性指標修正手段が、前記回転速度と前記充填効率と前記アンチノック性指標を説明変数とし、前記点火時期を目的変数とする多項式の、前記アンチノック性指標に関する一次導関数によって、前記アンチノック性指標を修正することがより好ましい。
【0033】
本発明によれば、前記回転速度と前記充填効率と前記アンチノック性指標を説明変数とし、前記点火時期を目的変数とする多項式の、前記アンチノック性指標に関する一次導関数によって、前記アンチノック性指標を修正するので、アンチノック性指標推定の高精度化と迅速化を図ることができる。
【0034】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記回転速度と、前記充填効率と、前記アンチノック性指標に基づいて、トルクを演算するトルク演算手段と、前記トルク比演算手段により、アンチノック性指標として、基準となる燃料のアンチノック性指標を用いて演算された基準トルクと、アンチノック性指標として、推定されたアンチノック性指標を用いて演算された推定トルクと、の比を推定トルク比として演算するトルク比演算手段と、該推定トルク比と、前記回転速度と、目標トルクと、にもとづいて、スロットルバルブの制御量または可変バルブの制御量を演算する制御量を演算する制御量演算手段を備えることがより好ましい。
【0035】
本発明によれば、少なくとも前記回転速度と前記充填効率と基準条件となる燃料でのアンチノック性指標にもとづき演算される基準トルクと、少なくとも前記回転速度と前記充填効率と現在の推定アンチノック性指標にもとづき演算される推定トルクとのトルク比を演算し、前記基準トルクと推定トルクとのトルク比と、前記回転速度と、目標トルクと、にもとづきスロットルバルブの制御量または可変バルブの制御量を演算する。このような構成とすることで、アンチノック性指標が変化した際の図示トルクの変化を考慮して、目標図示トルクを実現するスロットルバルブ目標制御量および可変バルブ目標制御量を適切に演算することができる。
【0036】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記トルク演算手段が、少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、前記アンチノック性指標と、を入力パラメータとする多項式によって、前記トルクを演算することがより好ましい。
【0037】
本発明によれば、少なくとも前記回転速度と前記充填効率と前記アンチノック性指標を入力パラメータとする多項式によってトルクを演算する。各入力パラメータがトルクに与える複雑な因果関係を考慮してトルクを精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、大気圧の変化影響を考慮して、バルブ作動角が可変となる可変バルブを備えた内燃機関の制御装置において、メモリ容量を増大させることなく、燃料の点火時期を精度良く制御できる。また、可変バルブとノック検出手段を備えた内燃機関において、可変バルブの動作状態に応じて変化するノック挙動を考慮して、燃料のオクタン価を精度良く推定することで、燃料の点火時期をより精度良くに制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態の全体構成を説明する図。
【図2】吸気バルブの位相を連続的に変化させた場合の、吸気バルブと排気バルブとのオーバーラップ期間の変化と、吸気バルブ閉じ時期(IVC:Intake Valve Close)の変化を説明する図。
【図3】排気バルブの位相を連続的に変化させた場合の、吸気バルブと排気バルブとのオーバーラップ期間の変化を説明する図。
【図4】バルブの作動角、リフトおよび位相を同時に変化させることができる可変バルブ機構のバルブリフトパターンを説明する図。
【図5】回転速度と吸気圧力を一定に保持した状態において得られる、低地条件と高地条件でのオーバーラップ期間と内部EGR量との関係を説明する図。
【図6】バルブの作動角、リフト量および位相を同時に変化させることができる可変バルブ機構の、IVCと実効圧縮比との関係を説明する図。
【図7】回転速度および充填効率を一定とした場合の、EGR率と実効圧縮比が点火時期に与える影響を説明する図。
【図8】同一温度および圧力条件でのオクタン価と着火遅れ期間との関係と、回転速度および充填効率を一定とした場合の、オクタン価と点火時期との関係を説明する図。
【図9】可変バルブを搭載した内燃機関において、可変バルブの状態とオクタン価に応じて点火時期を制御する手段を説明する図。
【図10】図9中の充填効率演算手段および内部EGR量演算手段を構成する多項式を説明する図。
【図11】図9中の点火時期演算手段を構成する制御ブロックを説明する図。
【図12】図11中の定常動作点EGR率演算手段の制御ブロックを説明する図。
【図13】図11中の第一および第二の点火時期演算手段を構成する多項式を説明する図。
【図14】本実施形態における内燃機関の過渡的状態における点火時期演算手段の出力結果を説明する図。
【図15】ノック検出センサを用いた点火時期補正制御手段を説明する図。
【図16】ノック現象とその検出原理を説明する図。
【図17】所定の周波数帯域通過フィルタ処理を施して得られるノック検出センサ検出信号と点火遅角補正量との関係を説明する図。
【図18】図15中のノック補正手段を説明する図。
【図19】異なる回転速度および充填効率動作点における点火時期とオクタン価の関係を説明する図
【図20】図18中のK値演算手段を構成する多項式を説明する図。
【図21】供給燃料のオクタン価が変化した直後において、内燃機関の過渡状態でオクタン価推定とノック補正を行う場合の点火時期演算手段の出力結果を説明する図。
【図22】基準オクタン価と現在のオクタン価にもとづき演算した図示トルクによって、目標図示トルクを実現するスロットルバルブおよび可変バルブの制御量を演算する手段を説明する図。
【図23】図22中の図示トルク演算手段を構成する多項式を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態を図にもとづいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態の全体構成を説明する図である。本実施形態のシステムは内燃機関1を備えている。内燃機関1には吸気流路および排気流路が連通している。吸気流路にはエアフローセンサおよび吸気温度センサ2が組付けられている。
【0041】
エアフローセンサ2の下流にはスロットルバルブ3が設けられている。スロットルバルブ3はアクセル踏量とは独立にスロットル開度を制御することができる電子制御式スロットルバルブである。スロットルバルブ3の下流には吸気マニホールド4が連通している。吸気マニホールド4には、吸気管内の絶対圧を検出する吸気管圧力センサ5が組付けられている。また、吸気管内には、燃焼室内の混合気の流れをコントロールするタンブルコントロールバルブ6が設けられている。
【0042】
さらに、吸気マニホールド4の下流には吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁7が配置されている。内燃機関1には、吸気弁(吸気バルブ)8が備えられており、吸気バルブ8には、バルブ動作量である吸気バルブタイミング(弁開閉時期)及びリフト量(バルブ作動角)を連続的に可変とする吸気可変バルブ機構8Aが設けられている。さらに、可変バルブ機構には、バルブタイミング(吸気バルブの開時期と閉時期)を位相として検出し、そのバルブの開閉期間における吸気バルブ8の最大リフト量を、作動角として検出するための、吸気バルブ動作量検出センサ(バルブ動作量検出手段)9が組付けられている。
【0043】
また、内燃機関1には排気バルブ10が備えられている。排気弁(排気バルブ)10には、排気バルブタイミング(排気バルブの開時期と閉時期)を可変とする排気可変バルブ機構10Aが備えられており、排気バルブ10の開閉タイミングをバルブ動作量として検出するための排気バルブ動作量検出センサ(バルブ動作量検出手段)11が組みつけられている。これらのセンサ9、11を用いることにより、後述する可変バルブのバルブ動作量を検出することができる。なお、本実施形態における、バルブ動作量とは、吸気バルブのリフト量と開時期(開弁時期)、排気バルブの閉時期(閉弁時期)を少なくとも含むが、吸気弁及び排気弁に取付けられた可変バルブ機構の特性によって、その検出すべきパラメータは異なり、少なくとも、充填効率、及び内部EGR量に寄与する可変バルブの制御された量(パラメータ)のことをいう。
【0044】
シリンダヘッド部にはシリンダ内に電極部を露出させた点火プラグ12が組付けられている。さらにシリンダにはノックの発生を検知するノック検出センサ13が組付けられている。クランク軸にはクランク角度センサ14が組付けられている。クランク角度センサ14からの出力信号にもとづき内燃機関1の回転速度を検出することができる。排気流路にはO2センサ15が組付けられている。
【0045】
本実施形態のシステムには排ガスの一部を吸気管へ還流させるための外部EGR管16および外部EGR流量を制御するための外部EGRバルブ17が備えられている。部分負荷運転時には、外部EGRバルブ17を開きEGRを行うことで、ポンプ損失や窒素酸化物の排出を低減することができる。
【0046】
本実施形態のシステムは、図1に示すようにECU(Electronic Control Unit)18を備えている。ECU18には、上述した各種センサが接続されている。ECU18は、この各種センサからの検出信号に基づいて、スロットルバルブ3、燃料噴射弁7、可変バルブ機構付き吸気バルブ8、可変バルブ機構付き排気バルブ10などのアクチュエータへの制御信号を演算し、ECU18からの制御信号により、アクチュエータが制御されている。さらに、上述した各種センサから入力された信号にもとづき内燃機関1の運転状態を検知し、運転状態に応じてECU18により演算されたタイミング(点火時期)で、点火時期の制御を行い、この点火時期に応じて、点火プラグ12が点火を行う。
【0047】
図2は、吸気バルブの位相を連続的に変化させた場合の、吸気バルブと排気バルブとのオーバーラップ期間の変化と、吸気バルブ閉時期(IVC:Intake Valve Close)の変化を説明する図である。
【0048】
可変バルブ機構により、吸気バルブの位相を進角側に変化させるにしたがって、排気バルブとのオーバーラップ期間が増加する。可変バルブ(可変バルブ機構付きの吸気バルブ,排気バルブ)を備えた内燃機関では、部分負荷条件において、上記オーバーラップ期間が生じるように可変バルブが制御され、排気管中の排ガスを一旦、吸気管へ吹き返すことによって内部EGRを生じさせる。内部EGR量の増加にしたがって、部分負荷条件でのポンプ損失の低減ができ、燃焼ガス温度を低減できるために排気中の窒素酸化物の低減を行うことができる。吸気バルブ位相可変による上記内部EGR制御では、オーバーラップ期間とともにIVCも一意的に変化する。
【0049】
図3は、排気バルブの位相を連続的に変化させた場合の、吸気バルブと排気バルブとのオーバーラップ期間の変化を説明する図である。排気バルブの位相を遅角側に変化させるにしたがって、吸気バルブとのオーバーラップ期間が増加する。前述のように、排気位相可変型の可変バルブを備えた内燃機関においても、内部EGRを増加させ、部分負荷条件でのポンプ損失や窒素酸化物を低減することができる。排気バルブ位相可変による上記内部EGR制御では、IVCを固定してオーバーラップ期間のみ変化させる。吸気位相可変バルブとの併用で、IVCとオーバーラップ期間とを独立して制御することが可能である。
【0050】
図4は、バルブの作動角、リフトおよび位相を同時に変化させることができる可変バルブ機構のバルブリフトパターンを説明する図である。従来のスロットルバルブが主体となって、気筒内に流入する空気の充填効率を制御する内燃機関では、吸気バルブの上流圧をスロットルバルブによって絞ることで負圧を生じさせるため、ポンプ損失による燃費悪化が問題となる。
【0051】
吸気バルブの上流圧を絞ることなく、吸気バルブの開閉時期によって吸気量を制御することができれば、上記ポンプ損失にともなう燃費悪化を抑制することができる。図4に示す可変バルブでは、吸気バルブのバルブリフト量を連続的に可変させるリフト可変機構と、位相を連続的に可変とする位相可変機構とを組み合わせて用いることによって、吸気バルブ開時期(IVO)を固定しつつ、吸気バルブ閉時期(IVC)を変化させている。
【0052】
このような可変バルブ機構を備えることで、可変バルブが主体となって、気筒への流入空気の充填効率を制御する内燃機関を実現することができる。本リフト可変機構では、バルブ作動角が増加するにしたがって、そのバルブ作動角内における、弁の最大リフト量が増加するものであり、図4下に示すような関係を有している。要求トルクの小さいときにはリフト量を小さくすると同時に、バルブ閉時期(IVC)を早期化して(進角させて)吸気量を小さくすることができる。このとき、バルブ閉時期(IVC)を早期化することによって、ピストン圧縮量をピストン膨張量と比較して相対的に小さくすることができるので、ポンプ損失の低減に加えて、ミラーサイクル効果による燃費向上効果も期待できる点が特徴である。
【0053】
図5は、回転速度と吸気圧力を一定に保持した状態において得られる、低地条件と高地条件でのオーバーラップ期間と内部EGR量との関係を説明する図である。ここでいう内部EGR量とは、シリンダに残留した既燃ガス質量を行程容積相当の標準状態での空気質量にて除した値である。
【0054】
図5に示すように、内部EGR量は、オーバーラップ期間に応じて決まる吹き返しに起因する部分と、排気バルブ閉時期(EVC)のすきま容積部に応じて決まるに部分とに分けることができる。さらに、内部EGR量は、排気圧力と吸気圧力との関係によって影響を受ける。具体的には、オーバーラップが有る条件で、高地条件のように排気圧力が低下する場合においては、排気管から筒内への既燃ガスの吹き返し分の減少によって内部EGR量が、大幅に減少する。一方、オーバーラップが無い条件では、排気圧力が低下した場合であっても、内部EGR量の低下分はすきま容積に起因する部分に限られるために、その減少幅は相対的に小さい。
【0055】
そのため、可変バルブを搭載した内燃機関において、高地条件を含めて内部EGR量を正確に見積もるためには、オーバーラップ期間のみならず吸気圧力および大気圧力(または排気圧力)の影響ついても考慮する必要がある。また、内部EGR量は最適点火時期を決定する上で重要な燃焼過程に大きな影響を与えるので、可変バルブを搭載した内燃機関では、内部EGR量を考慮した点火時期制御を行う必要がある。
【0056】
図6は、バルブの作動角、リフト量および位相を同時に変化させることができる可変バルブ機構のIVCと実効圧縮比との関係を説明する図である。IVCを下死点(BDC:Bottom Dead Center)より大幅に早期化する(進角させる)または遅延化する(遅角させる)と、実質的なピストン圧縮量が減少する。実効圧縮比を上死点(TDC:Top Dead Center)時のシリンダ容積とIVC時のシリンダ容積との比で定義すれば、TDC時のシリンダ容積とBDC時のシリンダ容積との比から求められる幾何学的圧縮比と比較して、BDCから早期化した場合や遅延化した場合の何れにおいても実効圧縮比は低下する。
【0057】
シリンダ内に吸気されたガスは、IVC以後はピストン圧縮作用によって概ね断熱過程を経過するため、IVCの時期がTDC時の到達圧力や到達温度に著しい影響をおよぼす。TDC時の圧力や温度は、最適点火時期を決定する上で重要な燃焼過程に大きな影響をおよぼすので、可変バルブを搭載した内燃機関では、IVCを考慮した点火時期制御を行う必要がある。
【0058】
図7は、回転速度および充填効率を一定とした場合の、EGR率と実効圧縮比が点火時期に与える影響を説明する図である。EGR率が増すにしたがって燃焼速度が減少するために、トルクを最大化するための最適点火時期(MBT:Minimum spark advance for Best Torque)が進角側に変化する。そのため、内燃機関の制御装置では、EGR率に応じて点火時期の進角補正制御を行う必要がある。また、実効圧縮比が増加するにしたがって、TDC時の到達圧力や温度が増加し、ノック発生頻度が増す。内燃機関の制御装置では、比較的高負荷の条件において、実効圧縮比の増加に応じてノックを回避するための点火遅角補正制御を行う必要がある。
【0059】
図8は、同一温度および圧力条件でのオクタン価と着火遅れ期間との関係と、回転速度および充填効率を一定とした場合の、オクタン価と点火時期との関係を説明する図である。自己着火遅れ期間とは、燃料と空気との均一混合気を所定の圧力および温度場にて反応を開始させた後、急激な発熱反応をともなって圧力および温度が瞬時に上昇するまでの遅れ期間を指す。
【0060】
火花点火運転による内燃機関では、点火プラグより点火された混合気が、燃焼室全体へ火炎伝播することによって燃焼が進行する。このとき、未燃ガスがピストン圧縮と既燃ガスからの圧縮作用や壁面高温部からの熱伝達によって圧力および温度が上昇するため、自己着火反応も同時に進行する。上記自己着火遅れ期間中に火炎伝播による燃焼が終了するように点火時期をMBTより遅角側に設定することによって、ノックを回避することができる。低回転速度かつ高負荷条件になるにしたがって、火炎伝播期間が増加するとともに、自己着火遅れ期間が減少するため、ノックを生じやすく、点火時期をより遅角側に設定する必要がある。高オクタン価燃料では、自己着火遅れ期間が増加するためにノックが起こり難い。そのためオクタン価が増加するにしたがって点火時期を進角側に設定することができ、MBT点に近づけることができるので、低回転速度での全開トルクの向上や燃料消費率の低減ができる。燃料のオクタン価は、供給燃料によって異なるため、オクタン価に応じた点火時期の補正制御を行う必要がある。
【0061】
図9は、可変バルブ(吸気バルブ及び排気バルブ)を搭載した内燃機関において、可変バルブの状態とオクタン価に応じて点火時期を制御する手段を説明する図である。吸気絶対圧と大気絶対圧(排気絶対圧)との比である吸気相対圧を演算し、充填効率の演算に用いる。なお、吸気絶対圧は、吸気管圧力センサ5によって検出するとこができ、大気絶対圧は、内燃機関の排気管圧力センサ(図1に図示せず)等により、検出することができる。ブロック91の充填効率演算手段では、回転速度と吸気相対圧(吸気絶対圧/大気絶対圧)と可変バルブ動作量(吸気バルブの吸気作動角(吸気バルブのリフト量リフト量の相当)と吸気バルブ開時期IVOおよび排気バルブ閉時期EVC)を入力パラメータに用いて、標準大気圧相当の充填効率(充填効率基準値)を演算する。
【0062】
上記標準大気圧相当の充填効率(充填効率基準値)に、大気絶対圧と標準大気圧との比(大気絶対圧/標準絶対圧)である充填効率補正量を乗じることによって、高地補正を行う(充填効率を演算する)。このような構成とすることで大気圧の低下する高地条件で可変バルブ機構を操作した場合においても充填効率を精度良く演算することができる。
【0063】
ブロック92の内部EGR量演算手段では、回転速度と、吸気相対圧と、可変バルブ動作量(吸気バルブの吸気作動角(吸気バルブのリフト量に相当)、吸気バルブ開時期IVOおよび排気バルブ閉時期EVC)と、を入力パラメータに用いて、標準大気圧相当の内部EGR量(内部EGR量基準値)を演算する。上記標準大気圧相当の内部EGR量(内部EGR量基準値)に大気絶対圧と標準大気圧との比(大気絶対圧/標準絶対圧)であるEGR量補正量を乗じることによって、高地補正を行う(内部EGR量を演算する)。
【0064】
このような構成とすることで、大気圧の低下する高地条件で可変バルブを操作した場合においても内部EGR量を精度良く演算することができる。本実施形態では、標準大気圧を用いているが、高地条件下における充填効率の補正をすることができるのであれば、この標準大気圧の代りに、予め設定された基準大気圧条件における大気絶対基準圧を用いてもよい。
【0065】
ブロック93の内部EGR率演算手段では、ブロック91および92において演算された充填効率と内部EGR量にもとづいて内部EGR率(筒内に流入するガス中に占める内部EGRガスの割合)が演算される。本構成では、大気圧の低下する高地条件で可変バルブを操作した場合においても、点火時期演算の重要なパラメータである充填効率と内部EGR率の変化を点火時期演算に考慮することが可能である。
【0066】
ブロック94の実効圧縮比演算手段では、可変バルブ動作量(吸気バルブの吸気作動角(吸気バルブのリフト量リフト量の相当)、吸気バルブ開時期IVOおよび排気バルブ閉時期EVC)にもとづき実効圧縮比を演算する。
【0067】
ブロック95の点火時期演算手段では、回転速度、充填効率、EGR率、実効圧縮比、および(アンチノック性指標の1つである)気筒内に供給される燃料のオクタン価を入力パラメータとして点火時期を演算する。本実施形態では、EGR率と実効圧縮比を中間パラメータとして用いることで、可変バルブが点火時期に与える影響を考慮する構成とした。このような構成とすることで可変バルブの制御自由度が増加する場合や、高地条件などの環境変化に対応する場合でも、点火時期演算パラメータを増加させることなく、精度良く点火時期を演算することが可能となる。
【0068】
図10は、図9中の充填効率演算手段および内部EGR量演算手段を構成する多項式を説明する図である。説明変数としてx1に回転速度、x2に吸気相対圧、x3に吸気作動角、x4にIVO、さらにx5にEVCを設定する。目的変数に充填効率あるいは内部EGR量を設定する。各項に乗じられている係数Aは、偏回帰係数であり、目的変数毎に値が設定される。群101のうち偏回帰係数番号2〜5は回転速度が充填効率または内部EGR量に与える影響が、群102のうち偏回帰係数番号6〜9は吸気相対圧が充填効率または内部EGR量に与える影響が、群103のうち偏回帰係数番号16〜19は吸気作動角が充填効率または内部EGR量に与える影響が、群104のうち偏回帰係数番号36〜39はIVOが充填効率または内部EGR量に与える影響が、さらに群105のうち偏回帰係数番号71〜74はEVCが充填効率または内部EGR量に与える影響が、それぞれ求められる。さらに、群102のうち偏回帰係数番号10〜15は回転速度と吸気相対圧との交互作用項の影響が、群103のうち偏回帰係数21〜35は回転速度と吸気相対圧と吸気作動角との交互作用項の影響が、群104のうち偏回帰係数40〜70は回転速度と吸気相対圧と吸気作動角とIVOとの交互作用項の影響が、群105のうち偏回帰係数75〜126は回転速度と吸気相対圧と吸気作動角とIVOとEVCとの交互作用項の影響が、それぞれ求められる。これらの項の和と、予め実験等により求められた充填効率(あるいは内部EGR量)の複数のデータから、偏回帰係数の各値を演算して、多項式を作成(設定)し、この多項式に、前記説明変数を代入することにより、充填効率(あるいは内部EGR量)を演算することができる。
【0069】
このように高次項や交互作用項を多項式中に設定することで、各入力パラメータが充填効率と内部EGR量に与える複雑な因果関係を考慮して充填効率と内部EGR量を精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。本実施形態のシステムにおいては、充填効率および内部EGR量を演算する手段に5元4次多項式を用いる構成としたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、要求精度と演算負荷の許容値の関係に応じて、次数や次元数を変えることとしてもよい。説明変数として回転速度、負荷、可変バルブの状態量を表す他のパラメータを用いることとしてもよい。ステップワイズ法などによって、精度改善に寄与していない高次項や交互作用項を多項式より適切に除外することで、多項式の精度と演算負荷との関係を改善することができる。充填効率や内部EGR量は吸気管や排気管流れの脈動効果や慣性効果の影響を受けて、回転速度に対して5次以上の次数が要求される場合があるため、少なくとも回転速度を軸にもつマップあるいはテーブルなどで上記多項式の出力結果をトリミングする構成として精度改善を図ることができる。
【0070】
図11は、図9中の点火時期演算手段を構成する制御ブロックを説明する図である。ブロック111の定常動作点点火時期演算手段は、回転速度と充填効率を入力パラメータとして、定常動作点での点火時期を演算する。本実施形態のシステムでは、可変バルブ位置(吸気バルブ及び排気バルブの位置)などの各種パラメータが回転速度と充填効率に対して割り付けられている。
【0071】
定常動作点点火時期演算手段には、上記回転速度と充填効率の組み合わせできまる各種パラメータの定常動作点上で取得された最適点火時期が回転速度および充填効率を2軸とした二次元マップに格納されている。可変バルブ((吸気バルブ及び排気バルブ)は上記定常目標動作点を目標値として制御されている。しかし、回転速度や充填効率が急激に変化するような過渡時においては、可変バルブの目標値と現在値とが大きくかい離する場合があり、同一回転速度かつ充填効率動作点であっても、EGR率や実効圧縮比が異なる値をとるために、最適点火時期が変化する。この最適点火時期変化分を考慮するために本実施形態のシステムでは、以下の補正が実施される。
【0072】
すなわち、ブロック112の第一点火時期演算手段では、回転速度、充填効率、EGR率、オクタン価および実効圧縮比の現在値にもとづき第一の点火時期を演算する。次に、ブロック113の定常動作点EGR率演算手段では、回転速度および充填効率の現在値にもとづき、定常動作点相当のEGR率を演算する。一方、ブロック114の定常動作点実効圧縮比演算手段では、回転速度および充填効率の現在値にもとづき、定常動作点相当の実効圧縮比を演算する。ブロック115の第二点火時期演算手段では、回転速度と充填効率と上記定常動作点相当のEGR率と、上記定常動作点相当の実効圧縮比と定常動作点オクタン価にもとづき第二の点火時期を演算する。
【0073】
ここで、定常動作点とは、回転速度および負荷によって特徴付けられた運転動作点が定常状態にある場合の運転動作点のことをいい、定常動作点点火時期とは、上記定常動作点毎に設定された点火時期のことであり、定常動作点EGR率とは、吸気管圧力や可変バルブの状態が、上記定常動作点毎に定められており、これらが目標状態下にある場合のEGR率のことであり、定常動作点実行圧縮比とは、可変バルブの状態が、上記定常動作点毎に定められており、これが目標状態下にある場合の実行圧縮比のことであり、定常動作点オクタン価とは、上記定常動作点点火時期を設定する上で前提としたオクタン価のことをいう。
【0074】
第一の点火時期と第二の点火時期との差分を、定常動作点の点火時期に加算することによって点火時期を演算する。点火時期の入力パラメータの現在値が定常動作点上にある場合には、定常動作点での点火時期が補正なしに出力される。一方、過渡時などに生じる可変バルブの現在値と定常目標動作点との間にかい離がある場合には、点火時期の補正が実施される。図11に示す構成とすることで、点火時期を常に最適点に設定することができるので、燃費および出力を最適化することができる。
【0075】
図12は、図11中の定常動作点EGR率演算手段113の制御ブロックを説明する図である。ブロック121の定常動作点吸気絶対圧演算手段では、回転速度および充填効率の現在値にもとづき、定常動作点相当の吸気絶対圧を演算する。ブロック122の定常動作点吸気作動角演算手段では、回転速度および充填効率の現在値にもとづき、定常動作点相当の吸気作動角を演算する。ブロック123の定常動作点IVO演算手段では、回転速度および充填効率の現在値にもとづき、定常動作点相当のIVOを演算する。ブロック124の定常動作点EVC演算手段では、回転速度および充填効率の現在値にもとづき、定常動作点相当のEVCを演算する。ブロック125では、回転速度、充填効率、定常動作点相当の吸気相対圧、上記定常動作点相当の吸気作動角、上記定常動作点相当のIVO、および上記定常動作点相当のEVCにもとづき、定常動作点相当の内部EGR量を演算する。充填効率と上記定常動作点相当の内部EGR量にもとづきブロック126において定常動作点相当の内部EGR率が演算される。
【0076】
図13は、図11中の第一および第二の点火時期演算手段を構成する多項式を説明する図である。説明変数としてx1に回転速度、x2に充填効率、x31にEGR率、x32に実効圧縮比、さらにx33にオクタン価を設定する。目的変数に点火時期を設定する。各項に乗じられている係数B、CおよびDは、偏回帰係数であり、目的変数と説明変数との組み合わせ毎に値が設定される。群131の偏回帰係数Bの番号2〜5は回転速度が点火時期に与える影響が、群132のうち偏回帰係数Bの番号6〜9は充填効率が点火時期に与える影響が、群133の偏回帰係数Bの番号16〜19はEGR率が点火時期に与える影響が、群134は、偏回帰係数Cの番号16〜19は実効圧縮比が点火時期に与える影響が、群136のうち偏回帰係数Dの番号16〜19はオクタン価が点火時期に与える影響が、それぞれ求められる。さらに、群132のうち偏回帰係数Bの番号10〜15は回転速度と充填効率との交互作用項の影響が、群133のうち偏回帰係数Bの20〜35は回転速度と充填効率とEGR率との交互作用項の影響が、群134のうち偏回帰係数Cの20〜35は回転速度と充填効率と実効圧縮比との交互作用項の影響が、群135のうち偏回帰係数Dの20〜35は回転速度と充填効率とオクタン価との交互作用項の影響が、それぞれ求められる。これらの項の和と、予め実験等により求められた点火時期の複数のデータから、偏回帰係数の各値を演算して、多項式を作成(設定)し、この多項式に、前記説明変数を代入することにより、充填効率(あるいは内部EGR量)を演算することができる。
【0077】
このように高次項や交互作用項を多項式中に設定することで、各入力パラメータが点火時期に与える複雑な因果関係を考慮して点火時期を精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。本実施形態のシステムにおいては、点火時期を演算する手段に3元4次多項式を用いる構成としたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、要求精度と演算負荷の許容値の関係に応じて、次数や次元数を変えることとしてもよい。説明変数として、吸気温度、空燃比さらに水温など点火時期に影響をおよぼす他のパラメータを設定した多項式を追加して用いる構成としてもよい。ステップワイズ法などによって、精度改善に寄与していない高次項や交互作用項を多項式より適切に除外することで、多項式の精度と演算負荷との関係を改善することができる。
【0078】
図14は、本実施形態における内燃機関の過渡的状態における点火時期演算手段の出力結果を説明する図である。同図は、回転速度を一定に保持した状態で、充填効率を変化させた場合の可変バルブ位置、EGR率、実効圧縮比および点火時期の推移を示している。可変バルブは回転速度および充填効率にもとづいて定常動作点での可変バルブ位置を目標値として制御が行われるが、可変バルブ機構の動作速度の制限を受けて目標値から遅れをともなって推移する。そのため、可変バルブ位置の影響を受けて変化するEGR率および実効圧縮比についても定常動作点相当の値からかい離して推移する。点火時期制御量には上記可変バルブの動作遅れに起因して変化するEGR率および実効圧縮比分を考慮して、点火時期の補正が行われる。すなわち、定常動作点での点火時期(図11における出力Aに対応)と実動作点での点火時期(図11における出力Bに対応)との差異が、可変バルブの動作遅れに対応する点火時期補正量として考慮される。
【0079】
図15は、ノック検出センサ(ノック検出手段)を用いた点火時期補正制御手段を説明する図である。ブロック151のノック補正手段では、点火時期演算手段より出力された点火時期の前回値とノック検出センサ検出値と回転速度と充填効率にもとづき、ノック補正量(すなわち、点火時期補正量)および推定オクタン価を演算する。ブロック152では、回転速度、充填効率、EGR率、実効圧縮比および推定オクタン価によって点火時期を演算する。ブロック152に示す点火時期演算手段は、図11にて説明した点火時期演算手段と同一構成でよい。点火時期演算手段より出力された点火時期にノック補正量(点火時期補正量)を加算すること(点火時期を補正すること)によってノック補正済み点火時期が演算される。
【0080】
本実施形態を構成する点火時期演算手段では、可変バルブの動作状態がノックに与える影響を精度良く補正しているので、ノックを生じる要因を推定オクタン価と真のオクタン価との差異にほぼ集約させることができる。このように可変バルブの動作状態にもとづく点火時期補正手段を備える構成とすることで、可変バルブを多用する内燃機関であっても、オクタン価の推定を精度良く実施することができる。また、オクタン価推定には一定の演算時間を要するので、ノック補正量を点火時期演算結果に施す手段を別に備えることで、ノックが検知されると直ちにノック限界点に点火時期を設定することができる。
【0081】
図16は、ノック現象とその検出原理を説明する図である。低回転速度高負荷条件では、点火後、火炎伝ぱによる圧縮作用とピストン圧縮、壁面高温部からの熱伝達によって高温高圧化した未燃ガスが自己着火することによって急激な圧力上昇と圧力振動をともなうノックを生じることがある。内燃機関の点火時期制御では、上記ノックを回避するために、MBT点よりノックを生じない限界点まで点火時期の遅角補正が行われる。本実施形態のシステムでは、シリンダブロックにノック検出センサが組み付けられており、上記シリンダ内燃焼ガスの圧力振動に起因して生じるシリンダブロックの振動を検出し、上記振動波形に所定の周波数帯域通過フィルタ処理を施して得られる信号情報にもとづいて、ノック発生の有無やノック強度を検知することができる。
【0082】
図17は、所定の周波数帯域通過フィルタ処理を施して得られるノック検出センサの検出信号と点火遅角補正量との関係を説明する図である。ノック強度は自己着火タイミングでの未燃ガス割合に起因し、ノック検出センサの検出信号の振幅値と比例関係をもつことが知られている。点火時期をノック限界点より進角側に設定する程、自己着火タイミングでの未燃ガス割合が増すので、ノック強度が増す傾向がある。ノック強度が大きい場合には、点火時期がより進角側に設定されていると考えられるので、ノック補正量をより大きく設定し(点火時期をより遅角側となるように、点火時期補正量を決定し)、ノックの回避を図る。
【0083】
図18は、図15中のノック補正手段を説明する図である。ブロック181の点火遅角演算手段では、ノック検出センサ検出信号にもとづき点火時期の遅角補正量(点火時期補正量)を演算し、後述する点火時期演算手段より出力された点火時期に対して直ちにノック補正(点火時期の補正)を行う。ブロック182の点火時期演算手段では、回転速度、充填効率、EGR率、実効圧縮比および推定オクタン価にもとづき点火時期を演算する。ブロック182の点火時期演算手段は、図11にて説明した点火時期演算手段と同一構成でよい。
【0084】
ブロック183では、点火時期の遅角補正量にローパスフィルタ処理を施した後、ブロック182にて演算された点火時期の前回値に加算する。ブロック184のK値演算手段では、回転速度および充填効率にもとづき比例係数K値を演算し、これとの乗算値を用いてオクタン価推定値の前回値を修正する。
【0085】
比例係数K値は、オクタン価が点火時期に与える感度にもとづき決定される値であり、例えばテーブルやマップなどにおいて、回転速度と充填効率に応じて異なる値をもつ。ブロック185では、オクタン価推定値が所定の範囲の値となるように、その上限値と下限値とにリミッタを設け、オクタン価推定値に対して、リミッタ処理を行う。
【0086】
本実施形態では、ノック検出センサ検出信号にもとづき直ちにノック補正を行う(点火時期を補正する)と同時に、オクタン価推定値を修正する(アンチノック性指標を修正する)構成としている。修正された推定オクタン価は、異なる運転動作点での点火時期演算結果にも適切に反映されるので、運転動作点が変化した際に、改めて点火時期演算結果へノック補正を行う必要がない。ノック検出によるノック補正操作を点火時期演算結果に逐次実施する方法と比較して、ノック制御精度が向上するとともに、ノック制御の応答性が向上する。
【0087】
図19は、異なる回転速度および充填効率の動作点における点火時期とオクタン価の関係を説明する図である。低回転高負荷条件A、低回転低負荷条件B、高回転高負荷条件Cおよび高回転低負荷条件Dにおけるオクタン価と点火時期との関係はいずれも異なる傾向をもち、低回転高負荷条件ほどオクタン価に対する点火時期の変化量は大きい。
【0088】
一方、高回転低負荷条件Dでは、いずれのオクタン価でもノックを生じないためオクタン価に対して点火時期は変化しない。本実施形態のシステムでは、オクタン価と点火時期との関係およびノック検出センサ(ノック検出手段)の検出結果を用いて、真のオクタン価を推定するために以下のような演算を行う。すなわち、現在のオクタン価推定値にもとづき点火時期を演算し、ノック検出センサによってノックが検出された場合に、検出されたノック強度(検出結果)にもとづいて、ノック補正量(点火時期の補正量)を演算し、このノック補正量(点火時期補正量)に点火時期演算値(点火時期)を加算することで点火時期を補正し、この補正した点火時期が真の点火時期であると考える。
【0089】
この真の点火時期を実現するオクタン価が真のオクタン価であるとして、現在の推定オクタン価の修正を行う。このとき、点火時期のオクタン価に関する一次導関数の逆数値(比例係数K値)を用いることで、オクタン価の修正を適切に行うことができる。K値は回転速度と充填効率の影響を受けて大きく変化するために、回転速度と充填効率に応じて変化させることによって、オクタン価推定の高精度化と迅速化を図ることができる。運転動作点Dのような場合には、比例係数K値が過大となって、オクタン価推定値を誤修正する可能性を生じるため、K値が所定値以上の運転動作点においては、K=0として、実質的にオクタン価修正を行わない構成とすることもできる。
【0090】
図20は、図18中のK値演算手段を構成する多項式を説明する図である。説明変数としてx1に回転速度、x2に充填効率、さらにx33にオクタン価を設定する。目的変数に点火時期のオクタン価に関する一次導関数を設定する。各項に乗じられている係数Dは、偏回帰係数であり、図13にて示した偏回帰係数と共通に用いることができる。すなわち、回帰係数Dの番号16〜19はオクタン価が点火時期のオクタン価に関する一次導関数に与える影響が、偏回帰係数Dの20〜35は回転速度と充填効率とオクタン価との交互作用項の一次導関数に与える影響が、それぞれ求められる。このように高次項や交互作用項を多項式中に設定することで、各入力パラメータが点火時期のオクタン価に関する一次導関数に与える複雑な因果関係を考慮することができ、もってオクタン価推定の高精度化と迅速化を図ることができる。
【0091】
本実施形態のシステムにおいては、点火時期のオクタン価に関する一次導関数を演算する手段に3元3次多項式を用いる構成としたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、要求精度と演算負荷の許容値の関係に応じて、次数や次元数を変えることとしてもよい。説明変数として、吸気温度、空燃比さらに水温など点火時期のオクタン価に関する一次導関数に影響をおよぼす他のパラメータを設定した多項式を追加して用いる構成としてもよい。ステップワイズ法などによって、精度改善に寄与していない高次項や交互作用項を多項式より適切に除外することで、多項式の精度と演算負荷との関係を改善することができる。
【0092】
オクタン価が点火時期に影響を与えない図19中の運転動作点Dのような場合には、比例係数K値が過大となって、オクタン価推定値を誤修正する可能性を生じるため、K値が所定値以上の運転動作点においては、K=0として、実質的にオクタン価修正を行わない構成とすることもできる。また、K値演算手段に回転速度と充填効率を2軸に用いた二次元マップを用いる構成としても良い。
【0093】
図21は、供給燃料のオクタン価が変化した直後において、内燃機関の過渡状態でオクタン価推定とノック補正(点火時期の補正)を行う場合の点火時期演算手段の出力結果を説明する図である。同図は、回転速度を一定に保持した状態で、充填効率を変化させた場合のオクタン価推定値、ノック補正量(点火時期の補正量)および点火時期演算結果の推移を示している。充填効率が増加しノック検出センサによってノックが検出された後、直ちにノック補正量(点火時期補正量)の演算結果にもとづくノック補正(点火時期の補正)が実施される。一方、ノック補正量にもとづいてオクタン価推定値の修正が開始される。オクタン価推定値が修正されるにしたがって、ノック補正量が減少し、オクタン価推定値が真のオクタン価に一致すると、点火時期演算後のノック補正が実施されなくなる。この段階では、修正された真のオクタン価を用いるため、運転動作点が変化した場合でも点火時期演算が適切に実施され、再度ノック補正を実施する必要がない。そのため、ノック検出によるノック補正操作を点火時期演算結果に逐次実施する方法と比較して、ノック制御精度が向上するとともに、ノック制御の応答性が向上する。
【0094】
図22は、基準オクタン価と現在のオクタン価にもとづき演算した図示トルクによって、目標図示トルクを実現するスロットルバルブおよび可変バルブの制御量を演算する手段を説明する図である。ブロック221では、回転速度と充填効率と基準条件でのオクタン価にもとづいて基準オクタン価相当の図示トルクを演算する。ブロック222では、回転速度と充填効率と現在の推定オクタン価にもとづいて推定オクタン価相当の図示トルクを演算する。目標基準図示トルクを上記基準オクタン価相当の図示トルクと上記推定オクタン価相当の図示トルクとの比で補正し、目標図示トルクを演算する。なお、この基準オクタン価は、基準となる燃料のオクタン価(アンチノック性指標)であり、基準トルクは、この基準オクタン価と、回転速度、充填効率に基づいて、演算される値である。また、推定トルクは、上述した推定オクタン価と、回転速度、充填効率に基づいて、演算される値である。
【0095】
目標基準図示トルクは基準条件でのドライバー要求トルク、外部要求トルク、機械損失などを考慮して演算される。ブロック223および224では、回転速度と上記目標図示トルクにもとづきスロットルバルブ目標制御量および/または可変バルブ目標制御量が演算される。このような構成とすることで、オクタン価が変化した際の図示トルクの変化を考慮して、目標図示トルクを実現するスロットルバルブ目標制御量および可変バルブ目標制御量を適切に演算することができる。本発明の構成では図示トルク演算の入力パラメータの一つにオクタン価を用いたが、これに限定されるものではない。アンチノック性指標や発熱量が異なる複数の燃料の混合割合をパラメータとして用いることができる。
【0096】
図23は、図22中の図示トルク演算手段を構成する多項式を説明する図である。説明変数としてx1に回転速度、x2に充填効率、さらにx33にオクタン価(基準オクタン価、又は、推定オクタン価)を設定する。目的変数に図示トルクを設定する。各項に乗じられている係数Eは、偏回帰係数である。偏回帰係数番号2〜5は回転速度が図示トルクに与える影響が、群231のうち偏回帰係数番号6〜9は充填効率が図示トルクに与える影響が、群233のうち偏回帰係数番号16〜19はオクタン価が図示トルクに与える影響が、それぞれ求められる。さらに、群232のうち偏回帰係数番号10〜15は回転速度と充填効率との交互作用項の影響が、群233のうち偏回帰係数20〜35は回転速度と充填効率とオクタン価との交互作用項の影響が、それぞれ求められる。このように高次項や交互作用項を多項式中に設定することで、各入力パラメータが図示トルクに与える複雑な因果関係を考慮して図示トルクを精度良く演算することができる。また、大規模なマップを多項式に置き換えることでメモリ容量の大幅な低減を図ることができる。本実施形態のシステムにおいては、図示トルクを演算する手段に3元4次多項式を用いる構成としたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、要求精度と演算負荷の許容値の関係に応じて、次数や次元数を変えることとしてもよい。説明変数として、吸気温度、空燃比さらに水温など図示トルクに影響をおよぼす他のパラメータを設定した多項式を追加して用いる構成としてもよい。ステップワイズ法などによって、精度改善に寄与していない高次項や交互作用項を多項式より適切に除外することで、多項式の精度と演算負荷との関係を改善することができる。
【0097】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【0098】
例えば、本実施形態では、アンチノック性指標として、筒内に供給される燃料のオクタン価を用いたが、例えば、このアンチノック性指標は、筒内に供給される燃料のセタン価や、複数種の燃料が混合された混合燃料における、混合燃料の混合割合など、アンチノック性(エンジンの燃焼室での以上燃焼の起しやすさ)を評価することができる指標であれば、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0099】
1 内燃機関
2 エアフローセンサおよび吸気温センサ
3 スロットルバルブ
4 吸気マニホールド
5 吸気管圧力センサ
6 タンブルコントロールバルブ
7 燃料噴射弁
8 吸気バルブ(可変バルブ)
8A 吸気可変バルブ機構
9 バルブリフトセンサおよびバルブタイミングセンサ
10 排気バルブ(可変バルブ)
10A 排気可変バルブ機構
11 バルブタイミングセンサ
12 点火プラグ
13 ノック検出センサ
14 クランク角度センサ
15 O2センサ
16 外部EGR管
17 外部EGRバルブ
18 ECU(Electronic Control Unit)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転速度を検出する回転速度検出手段と、吸気管内の絶対圧を検出する吸気絶対圧検出手段と、大気絶対圧または排気絶対圧を測定する絶対圧測定手段と、吸気弁及び排気弁の少なくとも一方のバルブ動作量を可変にする可変バルブ機構と、前記バルブ動作量を検出するバルブ動作量検出手段と、を備えた内燃機関の制御装置であって、
少なくとも、前記回転速度と、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または排気絶対圧と、前記バルブ動作量と、にもとづいて、気筒内への流入空気の充填効率を演算する充填効率演算手段と、
少なくとも、前記回転速度と、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または排気絶対圧と、前記バルブ動作量と、にもとづいて、前記気筒の内部EGR量を演算する内部EGR量演算手段と、
少なくとも、前記回転速度と、前記充填効率と、前記内部EGR量と、前記可変バルブ動作量から演算された実効圧縮比と、気筒内に供給される燃料のアンチノック性指標と、にもとづいて点火時期を演算する点火時期演算手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、ノック発生を検出するノック検出手段をさらに備え、
前記制御装置は、前記ノック検出手段の検出結果にもとづいて、前記点火時期の補正量を演算し、該点火時期補正量で、前記点火時期を補正する点火時期補正手段と、
前記回転速度と、前記充填効率と、前記点火時期補正量と、前記点火時期と、にもとづいて、前記アンチノック性指標を修正するアンチノック性指標修正手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記充填効率演算手段は、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または排気絶対圧と、の比である吸気相対圧を演算する吸気相対圧演算手段と、
少なくとも前記回転速度と前記吸気相対圧と可変バルブ動作量とにもとづいて、充填効率基準値を演算する充填効率基準値演算手段と、
予め設定された基準大気圧条件における大気絶対基準圧と、前記大気絶対圧又は排気絶対圧との比にもとづいて、前記充填効率の補正量を演算する充填効率補正量演算手段と、を備え、
前記充填効率基準値と前記充填効率補正量との積によって、前記充填効率を演算することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内部EGR量演算手段は、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または前記排気絶対圧と、の比である吸気相対圧を演算する吸気相対圧演算手段と、
少なくとも前記回転速度と前記吸気相対圧と前記可変バルブ動作量にもとづいて、内部EGR量基準値を演算する手段と、
予め設定された基準大気圧条件における大気絶対基準圧と、前記大気絶対圧又は排気絶対圧との比にもとづいて、前記内部EGR量の補正量を演算する内部EGR量補正量演算手段と、を備え、
前記内部EGR量基準値と、前記内部EGR補正量との積によって、前記内部EGR量を演算することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記充填効率基準値演算手段は、少なくとも、前記回転速度と、前記吸気相対圧と、前記吸気弁のリフト量と、前記吸気弁の開時期と、前記排気弁の閉時期と、を入力パラメータとする多項式によって、前記基準大気圧条件における前記充填効率基準値を演算することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記内部EGR量基準値演算手段は、少なくとも、前記回転速度と、前記吸気相対圧と、前記吸気弁のリフト量と、前記吸気弁の開時期と、前記排気弁の閉時期と、を入力パラメータとする多項式によって、前記基準大気圧条件における前記内部EGR量基準値を演算することを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
少なくとも前記充填効率と前記内部EGR量にもとづいて、内部EGR率を演算する内部EGR率手段を備え、
前記点火時期演算手段は、少なくとも、前記回転速度と、前記充填効率と、前記内部EGR率と、前記実効圧縮比と、前記アンチノック性指標、を入力パラメータとする多項式によって前記点火時期を演算することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記点火時期演算手段は、
前記回転速度と前記充填効率にもとづいて、定常動作点点火時期を演算する定常動作点点火時期手段と、
少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、EGR率と、実効圧縮比と、前記アンチノック性指標と、にもとづいて、第一の点火時期を演算する第一点火時期演算手段と、
前記回転速度と前記充填効率とにもとづいて、定常動作点EGR率を演算する定常動作点EGR率演算手段と、
前記回転速度と前記充填効率とにもとづいて、定常動作点実効圧縮比を演算する手段と、
少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、前記定常動作点EGR率と、前記定常動作点実効圧縮比と、前記定常動作点アンチノック性指標と、にもとづいて、第二の点火時期を演算する第二点火時期演算手段と、を備え、
前記点火時期演算手段は、前記第一の点火時期と前記第二の点火時期との差分を、前記定常動作点点火時期に加算することで、前記点火時期を演算することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記アンチノック性指標は、筒内に供給される燃料のオクタン価であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記アンチノック性指標は、筒内に供給される燃料のセタン価であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項11】
前記筒内に供給される燃料は、複数種の燃料が混合された混合燃料であり、前記アンチノック性指標は、前記混合燃料の混合割合であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項12】
前記アンチノック性指標修正手段は、前記回転速度と前記充填効率と前記アンチノック性指標を説明変数とし、前記点火時期を目的変数とする多項式の、前記アンチノック性指標に関する一次導関数によって、前記アンチノック性指標を修正することを特徴とする請求項2〜11のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項13】
前記回転速度と、前記充填効率と、前記アンチノック性指標に基づいて、トルクを演算するトルク演算手段と、
前記トルク比演算手段により、アンチノック性指標として、基準となる燃料のアンチノック性指標を用いて演算された基準トルクと、アンチノック性指標として、推定されたアンチノック性指標を用いて演算された推定トルクと、の比を推定トルク比として演算するトルク比演算手段と、
該推定トルク比と、前記回転速度と、目標トルクと、にもとづいて、スロットルバルブの制御量または可変バルブの制御量を演算する制御量を演算する制御量演算手段を備えることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項14】
前記トルク演算手段は、少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、前記アンチノック性指標と、を入力パラメータとする多項式によって、前記トルクを演算することを特徴とする請求項13に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項1】
回転速度を検出する回転速度検出手段と、吸気管内の絶対圧を検出する吸気絶対圧検出手段と、大気絶対圧または排気絶対圧を測定する絶対圧測定手段と、吸気弁及び排気弁の少なくとも一方のバルブ動作量を可変にする可変バルブ機構と、前記バルブ動作量を検出するバルブ動作量検出手段と、を備えた内燃機関の制御装置であって、
少なくとも、前記回転速度と、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または排気絶対圧と、前記バルブ動作量と、にもとづいて、気筒内への流入空気の充填効率を演算する充填効率演算手段と、
少なくとも、前記回転速度と、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または排気絶対圧と、前記バルブ動作量と、にもとづいて、前記気筒の内部EGR量を演算する内部EGR量演算手段と、
少なくとも、前記回転速度と、前記充填効率と、前記内部EGR量と、前記可変バルブ動作量から演算された実効圧縮比と、気筒内に供給される燃料のアンチノック性指標と、にもとづいて点火時期を演算する点火時期演算手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、ノック発生を検出するノック検出手段をさらに備え、
前記制御装置は、前記ノック検出手段の検出結果にもとづいて、前記点火時期の補正量を演算し、該点火時期補正量で、前記点火時期を補正する点火時期補正手段と、
前記回転速度と、前記充填効率と、前記点火時期補正量と、前記点火時期と、にもとづいて、前記アンチノック性指標を修正するアンチノック性指標修正手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記充填効率演算手段は、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または排気絶対圧と、の比である吸気相対圧を演算する吸気相対圧演算手段と、
少なくとも前記回転速度と前記吸気相対圧と可変バルブ動作量とにもとづいて、充填効率基準値を演算する充填効率基準値演算手段と、
予め設定された基準大気圧条件における大気絶対基準圧と、前記大気絶対圧又は排気絶対圧との比にもとづいて、前記充填効率の補正量を演算する充填効率補正量演算手段と、を備え、
前記充填効率基準値と前記充填効率補正量との積によって、前記充填効率を演算することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内部EGR量演算手段は、前記吸気絶対圧と、前記大気絶対圧または前記排気絶対圧と、の比である吸気相対圧を演算する吸気相対圧演算手段と、
少なくとも前記回転速度と前記吸気相対圧と前記可変バルブ動作量にもとづいて、内部EGR量基準値を演算する手段と、
予め設定された基準大気圧条件における大気絶対基準圧と、前記大気絶対圧又は排気絶対圧との比にもとづいて、前記内部EGR量の補正量を演算する内部EGR量補正量演算手段と、を備え、
前記内部EGR量基準値と、前記内部EGR補正量との積によって、前記内部EGR量を演算することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記充填効率基準値演算手段は、少なくとも、前記回転速度と、前記吸気相対圧と、前記吸気弁のリフト量と、前記吸気弁の開時期と、前記排気弁の閉時期と、を入力パラメータとする多項式によって、前記基準大気圧条件における前記充填効率基準値を演算することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記内部EGR量基準値演算手段は、少なくとも、前記回転速度と、前記吸気相対圧と、前記吸気弁のリフト量と、前記吸気弁の開時期と、前記排気弁の閉時期と、を入力パラメータとする多項式によって、前記基準大気圧条件における前記内部EGR量基準値を演算することを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
少なくとも前記充填効率と前記内部EGR量にもとづいて、内部EGR率を演算する内部EGR率手段を備え、
前記点火時期演算手段は、少なくとも、前記回転速度と、前記充填効率と、前記内部EGR率と、前記実効圧縮比と、前記アンチノック性指標、を入力パラメータとする多項式によって前記点火時期を演算することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記点火時期演算手段は、
前記回転速度と前記充填効率にもとづいて、定常動作点点火時期を演算する定常動作点点火時期手段と、
少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、EGR率と、実効圧縮比と、前記アンチノック性指標と、にもとづいて、第一の点火時期を演算する第一点火時期演算手段と、
前記回転速度と前記充填効率とにもとづいて、定常動作点EGR率を演算する定常動作点EGR率演算手段と、
前記回転速度と前記充填効率とにもとづいて、定常動作点実効圧縮比を演算する手段と、
少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、前記定常動作点EGR率と、前記定常動作点実効圧縮比と、前記定常動作点アンチノック性指標と、にもとづいて、第二の点火時期を演算する第二点火時期演算手段と、を備え、
前記点火時期演算手段は、前記第一の点火時期と前記第二の点火時期との差分を、前記定常動作点点火時期に加算することで、前記点火時期を演算することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記アンチノック性指標は、筒内に供給される燃料のオクタン価であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記アンチノック性指標は、筒内に供給される燃料のセタン価であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項11】
前記筒内に供給される燃料は、複数種の燃料が混合された混合燃料であり、前記アンチノック性指標は、前記混合燃料の混合割合であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項12】
前記アンチノック性指標修正手段は、前記回転速度と前記充填効率と前記アンチノック性指標を説明変数とし、前記点火時期を目的変数とする多項式の、前記アンチノック性指標に関する一次導関数によって、前記アンチノック性指標を修正することを特徴とする請求項2〜11のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項13】
前記回転速度と、前記充填効率と、前記アンチノック性指標に基づいて、トルクを演算するトルク演算手段と、
前記トルク比演算手段により、アンチノック性指標として、基準となる燃料のアンチノック性指標を用いて演算された基準トルクと、アンチノック性指標として、推定されたアンチノック性指標を用いて演算された推定トルクと、の比を推定トルク比として演算するトルク比演算手段と、
該推定トルク比と、前記回転速度と、目標トルクと、にもとづいて、スロットルバルブの制御量または可変バルブの制御量を演算する制御量を演算する制御量演算手段を備えることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項14】
前記トルク演算手段は、少なくとも前記回転速度と、前記充填効率と、前記アンチノック性指標と、を入力パラメータとする多項式によって、前記トルクを演算することを特徴とする請求項13に記載の内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2011−12551(P2011−12551A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154555(P2009−154555)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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