説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関の制御装置において、車両走行中の排ガス温度を低下させて排気系温度の上昇を防止することにある。
【解決手段】制御手段(21)は、内燃機関(1)の機関回転速度及び機関負荷率に基づいて仮の燃料増量補正値を設定する仮の燃料増量補正値設定手段(21D)と、遅角量算出手段(21B)により算出された遅角量に基づいて補正係数を設定する補正係数設定手段(21E)と、仮の燃料増量補正値設定手段(21D)により設定された仮の燃料増量補正値に補正係数設定手段(21E)により設定された補正係数を乗算して燃料増量補正値を設定する燃料増量補正値設定手段(21F)と、この燃料増量補正値設定手段(21F)により設定された燃料増量補正値に基づいて燃料供給量を増量補正する燃料増量補正手段(21G)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に点火時期の遅角パラメータを利用して燃料供給量を増量補正する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される内燃機関の制御装置においては、内燃機関の冷却水温度を検出する冷却水温検出手段を設け、内燃機関(E/G)の吸入空気温度を検出する吸気温検出手段を設け、内燃機関のノッキングの発生を検出するノッキング検出手段を設け、冷却水温検出手段により検出された冷却水温度と吸気温検出手段により検出された吸入空気温度とノッキング検出手段により検出されたノッキングの発生とに基づく遅角量を算出する遅角量算出手段と、この遅角量算出手段により算出された遅角量に応じて点火時期を遅角させる点火時期遅角手段とを備える制御手段を設けたものがある。
【0003】
即ち、従来では、以下の図3に示すように、内燃機関の空燃比制御が実施されている。
図3に示すように、内燃機関が始動して制御手段のプログラムがスタートすると(ステップB01)、内燃機関が完爆したか否かを判定し(ステップB02)、このステップB02がNOの場合には、この判定を継続する。
このステップB02がYESの場合には、空燃比のフィードバック(F/B)制御中か否かを判定する(ステップB03)。
このステップB03がYESの場合には、空燃比のフィードバック(F/B)補正制御を起動し(ステップB04)、そして、スロットル開度が全開か否かを判定する(ステップB05)。
このステップB05がNOの場合には、前記ステップB03に戻す。
一方、前記ステップB03がNOの場合には、スロットル開度が全開か否かを判定し(ステップB06)、このステップB06がNOの場合には、前記ステップB03に戻す。
このステップB06がYESの場合及び前記ステップB05がYESの場合には、スロットル開度の全開補正制御を起動する(ステップB07)。
そして、スロットル開度が全開か否かを判定し(ステップB08)、このステップB08がYESの場合に、前記ステップB7に戻り、一方、このステップB08がNOの場合には、前記ステップB03に戻す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−148216号公報
【0005】
特許文献1に係る内燃機関の空燃比制御装置は、空燃比のフィードバック制御中で、ノッキングが起こりやすい状況の際に、燃料供給量を増量補正してノッキングを抑制するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来、上記の特許文献1においては、ノッキング制御による点火時期の遅角に対しての燃料増量制御をしているが、冷却水温度、吸入空気温度等に基づく点火時期の遅角量を考慮した燃料増量制御を行っていないため、点火時期の遅角により排ガス温度が上昇して排気系(排気マニホールド、触媒、空燃比(LAF)センサ等)の熱劣化が生ずるという不都合があった。
また、点火時期は定常状態にて設定するため、発進や加速等の過渡時や高冷却水温度、高吸入空気温度の登坂高負荷走行や高地登坂走行等で遅角制御した場合に、排ガス温度の上昇により排気系温度が上昇してしまうという不都合があった。
【0007】
そこで、この発明の目的は、点火時期の遅角パラメータを利用し、通常の空燃比制御を基本に点火時期の遅角量に応じて燃料を増量させる制御仕様を追加し、車両走行中の排ガス温度を低下させて排気系温度の上昇を防止する内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、内燃機関の冷却水温度を検出する冷却水温検出手段を設け、前記内燃機関の吸入空気温度を検出する吸気温検出手段を設け、前記内燃機関のノッキングの発生を検出するノッキング検出手段を設け、前記冷却水温検出手段により検出された冷却水温度と前記吸気温検出手段により検出された吸入空気温度と前記ノッキング検出手段により検出されたノッキングの発生とに基づく遅角量を算出する遅角量算出手段と、この遅角量算出手段により算出された遅角量に応じて点火時期を遅角させる点火時期遅角手段とを備える制御手段を設けた内燃機関の制御装置において、前記制御手段は、前記内燃機関の機関回転速度及び機関負荷率に基づいて仮の燃料増量補正値を設定する仮の燃料増量補正値設定手段と、前記遅角量算出手段により算出された遅角量に基づいて補正係数を設定する補正係数設定手段と、前記仮の燃料増量補正値設定手段により設定された仮の燃料増量補正値に前記補正係数設定手段により設定された補正係数を乗算して燃料増量補正値を設定する燃料増量補正値設定手段と、この燃料増量補正値設定手段により設定された燃料増量補正値に基づいて燃料供給量を増量補正する燃料増量補正手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の内燃機関の制御装置は、点火時期の遅角パラメータを利用し、通常の空燃比制御を基本に点火時期の遅角量に応じて燃料を増量させることにより、車両走行中の排ガス温度を低下させて排気系温度の上昇を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は内燃機関の空燃比制御のフローチャートである。(実施例)
【図2】図2は内燃機関の制御装置のシステム構成図である。(実施例)
【図3】図3は従来の内燃機関の空燃比制御のフローチャートである。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明は、車両走行中の排ガス温度を低下させて排気系温度の上昇を防止する目的を、点火時期の遅角パラメータを利用し、通常の空燃比制御を基本に点火時期の遅角量に応じて燃料を増量させることよって実現するものである。
【実施例】
【0012】
図1、図2は、この発明の実施例を示すものである。
図2において、1は車両に搭載される内燃機関である。この内燃機関1の本体2には、吸気通路3を形成する吸気管4と排気通路5を形成して触媒6を備えた排気管7とが接続しているとともに、燃料噴射弁8と点火コイル9とが取り付けられている。
吸気管4の上流端には、エアクリーナ10が設けられている。また、吸気通路3の途中には、スロットルボディ11内でスロットルバルブ12が配設されている。
吸気管4には、スロットルバルブ12の上流側で、吸気量(AF)を検出するエアフロメータ13と吸入空気温度(THA)を検出する吸気温検出手段である吸気温センサ14とが取り付けられている。スロットルボディ11には、スロットルバルブ12の開度状態としてのスロットル開度(TA)を検出するスロットル検出手段であるスロットル開度センサ15が取り付けられている。排気管7には、内燃機関1の空燃比を検出する空燃比(LAF)センサ16が取り付けられている。
また、内燃機関1の本体2には、内燃機関1の冷却水温度(THW)を検出する冷却水温検出手段である水温センサ17と、内燃機関1のノッキング(ノック補正値:KCS)の発生を検出するノッキング検出手段であるノックセンサ18とが設けられている。
更に、内燃機関1の本体2には、機関回転数を検出する機関回転数検出手段としての機関回転数センサ19が取り付けられている。
【0013】
車両には、内燃機関1の制御装置20を構成する制御手段(ECU)21が搭載される。
この制御手段21には、入力部22と出力部23とを備え、入力部22でエアフロメータ13と吸気温センサ14とスロットル開度センサ15と空燃比(LAF)センサ16と水温センサ17とノックセンサ18と機関回転数センサ19とが接続し、また、出力部23では燃料噴射弁8と点火コイル9とが接続している。
【0014】
制御手段21は、各種演算処理を実施するCPU(中央演算処理装置)21Aと、水温センサ17により検出された冷却水温度と吸気温センサ14により検出された吸入空気温度とノックセンサ18により検出されたノッキングの発生とに基づく遅角量を算出する遅角量算出手段21Bと、この遅角量算出手段21Bにより算出された遅角量に応じて点火時期を遅角させる点火時期遅角手段21Cとを備える。
また、制御手段21は、内燃機関1の機関回転速度及び機関負荷率(全負荷時の吸入空気量に対する現在の吸入空気量の割合)に基づいて仮の燃料増量補正値を設定する仮の燃料増量補正値設定手段21Dと、遅角量算出手段21Bにより算出された遅角量に基づいて補正係数を設定する補正係数設定手段21Eと、仮の燃料増量補正値設定手段21Dにより設定された仮の燃料増量補正値に補正係数設定手段21Eにより設定された補正係数を乗算して燃料増量補正値を設定する燃料増量補正値設定手段21Fと、この燃料増量補正値設定手段21Fにより設定された燃料増量補正値に基づいて燃料供給量を増量補正する燃料増量補正手段21Gとを備える。
このように、燃料供給量を増量補正することにより、点火時期を遅角しても排ガスが高温にならないので、排気系の排気管7、触媒6、空燃比(LAF)センサ16が熱によって劣化するのを防止できる。また、内燃機関1の機関回転速度及び機関負荷率に基づく燃料増量補正値に点火時期遅角量に基づく補正係数を乗算することにより、きめ細かな燃料供給量の増量補正が可能になる。
【0015】
次に、この実施例に係る内燃機関の空燃比制御を、図1のフローチャートに基づいて説明する。
図1に示すように、内燃機関(E/G)1が始動して制御手段21のプログラムがスタートすると(ステップA01)、内燃機関1が完爆したか否かを判定し(ステップA02)、このステップA02がNOの場合には、この判定を継続する。
このステップA02がYESの場合には、空燃比のフィードバック(F/B)制御中か否かを判定する(ステップA03)。
このステップA03がYESの場合には、空燃比のフィードバック(F/B)補正制御を起動し(ステップA04)、そして、スロットル開度が全開か否かを判定する(ステップA05)。
このステップA05がNOの場合には、前記ステップA03に戻す。
一方、前記ステップA03がNOの場合には、スロットル開度が全開か否かを判定し(ステップA06)、このステップA06がNOの場合には、前記ステップA03に戻す。
このステップA06がYESの場合及び前記ステップA05がYESの場合には、スロットル開度の全開補正制御を起動し(ステップA07)、点火時期遅角量を検出し(ステップA08)、そして、点火時期遅角増量を起動する(ステップA09)。
そして、スロットル開度が全開か否かを判定し(ステップA10)、このステップA10がYESの場合に、前記ステップA08に戻り、一方、このステップA10がNOの場合には、前記ステップA03に戻す。
【0016】
即ち、この実施例においては、冷却水温度、吸入空気温度、ノッキングの点火時期制御の遅角パラメータを利用し、図3に示す通常の内燃機関の空燃比制御を基本に点火時期の遅角量に応じて燃料をより細やかに増量させる制御仕様を追加する。
ここで、上記の遅角パラメータとは、冷却水温度補正量、吸気温度補正量、ノッキング補正量である。
高冷却水温度時の点火時期遅角量をAとし、高吸気温度時の点火時期遅角量をBとし、ノッキング発生時の点火時期遅角量をCとし、そして、これら各パラメータの点火時期遅角量のトータルをYとして、このトータル点火時期遅角量(Y)を随時算出して空燃比制御を実施する。
上記のトータル点火時期遅角量(Y)は、
Y=A+B+C
で求められる。
そして、このトータル点火時期遅角量(Y)をパラメータとした補正係数テーブル値(X)と機関回転数と機関負荷率(全負荷時の吸入空気量に対する現在の吸入空気量の割合)とのパラメータにより領域毎に設定した燃料増量補正値マップ(Z)の掛け算により、トータル点火時期遅角量(Y)に対応して燃料を増量(W)させる空燃比制御を実施する。
上記の点火時期遅角対応燃料増量(W)は、
W=テーブル値(X)*マップ値(Z)
で求められる。
この場合、定常状態にて排ガス温度、触媒温度により設定するパワー増量補正制御値(V)に、足し算で追加する制御仕様とする。
パワー増量補正制御(トータル)は、以下のように求められる。
パワー増量補正制御(トータル)=パワー増量補正制御値(V)+点火時期遅角対応燃料増量(W)
これにより、点火時期の遅角の影響で上昇する排ガス温度を、きめ細かな燃料の増量により低下させ、排ガス温度を抑制して排気系(排気管7、触媒6、空燃比(LAF)センサ16)の熱劣化を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
この発明に係る内燃機関の制御装置を、各種車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0018】
1 内燃機関
2 本体
8 燃料噴射弁
13 エアフロメータ
14 吸気温センサ
15 スロットル開度センサ
16 空燃比(LAF)センサ
17 水温センサ
18 ノックセンサ
19 機関回転数センサ
20 制御装置
21 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の冷却水温度を検出する冷却水温検出手段を設け、前記内燃機関の吸入空気温度を検出する吸気温検出手段を設け、前記内燃機関のノッキングの発生を検出するノッキング検出手段を設け、前記冷却水温検出手段により検出された冷却水温度と前記吸気温検出手段により検出された吸入空気温度と前記ノッキング検出手段により検出されたノッキングの発生とに基づく遅角量を算出する遅角量算出手段と、この遅角量算出手段により算出された遅角量に応じて点火時期を遅角させる点火時期遅角手段とを備える制御手段を設けた内燃機関の制御装置において、前記制御手段は、前記内燃機関の機関回転速度及び機関負荷率に基づいて仮の燃料増量補正値を設定する仮の燃料増量補正値設定手段と、前記遅角量算出手段により算出された遅角量に基づいて補正係数を設定する補正係数設定手段と、前記仮の燃料増量補正値設定手段により設定された仮の燃料増量補正値に前記補正係数設定手段により設定された補正係数を乗算して燃料増量補正値を設定する燃料増量補正値設定手段と、この燃料増量補正値設定手段により設定された燃料増量補正値に基づいて燃料供給量を増量補正する燃料増量補正手段とを備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−149303(P2011−149303A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9837(P2010−9837)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】