説明

内燃機関の制御装置

【課題】 内燃機関の回転に同期した制御実行タイミングの制御を、比較的簡単な構成で、演算装置の負荷を増大させることなく行うことができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 機関のクランク軸の回転に同期して生成されるCRKパルス(6度周期)がCPU13に入力され、CPU13は、CRKパルスに同期し、周期が1/10のPWM信号を端子21に出力する。PWM信号はCPU13のサブクロック入力端子22に供給され、サブクロックCLSとして燃料噴射及び点火の実行タイミング制御に使用される。サブクロックCLSは、CRKパルスが発生する毎にその周期が更新され、機関回転速度の変化が、サブクロックCLSの周期に反映されるため、機関回転速度の変化にかかわらず、制御実行タイミングを正確に制御することできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の制御装置に関し、特に機関制御パラメータの算出を実行し、算出結果に基づく制御動作を、機関回転に同期したタイミングで実行する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関のクランク軸の回転角度を検出するクランク角度センサから出力される第1パルス信号に応じて、その第1パルス信号より短い周期の第2パルス信号を生成し、第2パルス信号に同期して燃焼圧センサ出力をサンプリングする手法が示されている。特許文献1に示される例では、第1パルス信号はクランク角10度周期の信号であり、第2パルス信号はクランク角1度周期の信号である。
【0003】
具体的には、第1パルス信号の発生周期Ta(直前計測値)を1/10することにより、第2パルス信号の発生周期Tbが算出され、周期Tbで割り込み処理を起動し、その割り込み処理において燃焼圧のサンプリングが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−315169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、演算装置(CPU)に備えられているPWM機能を用いて周期Tbで割り込み処理を起動する手法が示されている。PWM機能は、第1パルス信号に同期し、周期Taの1/10の周期のパルス信号(PWM信号)を生成する機能であり、機関回転速度が変化する運転状態においては、周期Taの変化に追従して周期Tbが変更され、第2パルス信号を第1パルス信号の1/10の周期で正確に生成することできる。
【0006】
しかしながら、引用文献1に示された手法では、PWM信号が発生する毎に割り込み処理が実行されるため、演算装置は、スタック退避処理を実行し、さらにカウンタ加算処理を起動するための割り込み処理起動時間が必要となる。機関回転速度が低い状態では、この割り込み処理起動時間は演算装置における他の演算処理時間を減少させることはないが、機関回転速度が高くなると、周期Taが減少し、したがって周期Tbも減少して周期Tbに対する割り込み処理起動時間の割合が大きくなり、他の演算処理を実行できなくなるという問題が発生する。
【0007】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、機関回転に同期した制御実行タイミングの制御を、比較的簡単な構成で、演算装置の負荷を増大させることなく行うことができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の回転に同期した第1パルス信号(CRKパルス)を生成する第1パルス信号生成手段(10)と、所定の基準クロックを用いて前記機関の制御パラメータ(燃料噴射時期、点火時期)を算出する演算処理手段を備える内燃機関の制御装置において、前記演算処理手段は、前記第1パルス信号(CRKパルス)に同期し、前記第1パルス信号(CRKパルス)より短い周期を有する第2パルス信号(PWM信号)を生成する第2パルス信号生成手段と、前記基準クロックとは異なるサブクロック(CLS)に同期して、前記制御パラメータに応じた制御動作の実行タイミング制御を行うタイミング制御手段とを有し、前記タイミング制御手段は、前記第2パルス信号(PWM信号)を前記サブクロック(CLS)として用いることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記第2パルス信号生成手段は、前記第1パルス信号周期(DT)の最新値に応じて前記第2パルス信号周期(dT)を算出する周期算出手段を有し、該周期算出手段は、前記第1パルス信号(CRKパルス)に同期して前記第2パルス信号周期(dt)を更新することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、前記周期算出手段は、前記第1パルス信号周期の最新値(DT(i-1))及び過去値(DT(i-2))に応じて予測変化量(DPRE)を算出する予測手段を有し、前記第1パルス信号周期の最新値及び前記予測変化量を用いて前記第2パルス信号周期(dT)を算出することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記機関は、該機関に燃料を供給する燃料噴射弁(6)を備え、前記タイミング制御手段は、前記サブクロック(CLS)に同期して前記燃料噴射弁(6)による燃料噴射の実行タイミング制御を行うことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記機関は、該機関の燃焼室内の混合気を点火する点火プラグ(7)を備え、前記タイミング制御手段は、前記サブクロック(CLS)に同期して前記点火プラグ(7)による点火の実行タイミング制御を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記機関は、該機関に燃料を供給する燃料噴射弁(6)と、該燃料噴射弁に供給する燃料を加圧する高圧燃料ポンプ(23)とを備え、該高圧燃料ポンプは、燃料圧力を調整するための燃料吸入弁(43)を有し、前記タイミング制御手段は、前記サブクロック(CLS)に同期して前記燃料吸入弁(43)の閉弁タイミング制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、第1パルス信号に同期し、第1パルス信号より短い周期を有する第2パルス信号が生成され、第2パルス信号をサブクロックとして使用して、制御パラメータに応じた制御動作の実行タイミング制御が行われる。この制御動作は、通常の演算装置が備えている第2パルス信号生成機能により得られる第2パルス信号を、サブクロック入力として当該演算装置に供給することにより、実現することができるので、機関回転に同期した制御実行タイミングの制御を、比較的簡単な構成で、演算装置の負荷を増大させることなく行うことができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、第1パルス信号周期の最新値に応じて第2パルス信号周期が算出され、第1パルス信号に同期して第2パルス信号周期が更新されるので、第1パルス信号周期の変化に対応して第2パルス信号周期が変化し、同期状態が維持される。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、第1パルス信号周期の最新値及び過去値に応じて予測変化量が算出され、第1パルス信号周期の最新値及び予測変化量を用いて第2パルス信号周期が算出されるので、第1パルス信号周期が急激に変化する過渡状態において第2パルス信号周期を迅速に追従させることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、サブクロックに同期して燃料噴射弁による燃料噴射の実行タイミング制御が行われるので、機関回転速度が大きく変化する過渡運転状態においても正確な燃料噴射時期制御を行うことができる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、サブクロックに同期して点火の実行タイミング制御が行われるので、機関回転速度が大きく変化する過渡運転状態においても正確な点火時期制御を行うことができる。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、高圧燃料ポンプの燃料吸入弁の閉弁タイミング制御がサブクロックに同期して行われるので、機関回転速度が大きく変化する過渡運転状態においても正確な燃料圧力制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示す電子制御ユニットの構成を示すブロック図である。
【図3】従来の燃料噴射及び点火の実行タイミング制御を説明するためのタイムチャートである。
【図4】本実施形態における燃料噴射及び点火の実行タイミング制御を説明するためのタイムチャートである。
【図5】PWM信号生成機能を説明するためのタイムチャートである。
【図6】直噴内燃機関における燃料噴射及び点火の実行タイミング制御を説明するためのタイムチャートである。
【図7】本発明の第2の実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図8】図7に示す高圧燃料ポンプの構成を模式的に示す断面図である。
【図9】高圧燃料ポンプの動作を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。内燃機関(以下単に「エンジン」という)1は、例えば6気筒を有し、吸気管2を備えている。吸気管2にはスロットル弁3が設けられている。
【0022】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共に電子制御ユニット(以下「ECU」という)5に電気的に接続されてECU5からの制御信号により燃料噴射弁6の開弁時期及び開弁時間(燃料噴射時期及び燃料噴射時間)が制御される。
【0023】
エンジン1の各気筒の点火プラグ7は、ECU5に接続されており、ECU5からの点火信号により点火時期が制御される。
吸気管2のスロットル弁3の下流には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ9が設けられており、その検出信号はECU5に供給される。
【0024】
ECU5には、エンジン1のクランク軸8の回転角度を検出するクランク角度位置センサ10が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ10は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置で(6気筒エンジンではクランク角120度毎に)TDCパルスを出力するTDCセンサ及びTDCパルスより短い一定クランク角周期(例えば6度周期)で1パルス(以下「CRKパルス」という)を発生するCRKセンサから成り、CYLパルス、TDCパルス及びCRKパルスがECU5に供給される。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御、エンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。
【0025】
CRKセンサは、クランク軸に固定され、外周部に一定角度間隔で歯が形成されたパルスホイールと、該パルスホイールに対向して配置されたピックアップコイルとを備える。パルスホイールの回転によりピックアップコイルに交流信号が発生し、その交流信号がCRKパルスに変換されて出力される。
【0026】
ECU5は、パルス入力回路11、信号入力回路12、CPU(Centrl Processing Unit)13、出力回路14、及びメモリ回路15を備えている。パルス入力回路11は、クランク角度位置センサ10から入力されるパルス信号を整形してCPU13に供給する。信号入力回路12は、吸気圧センサ9及び図示しない各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号をデジタル信号に変換して、変換されたデジタル信号をCPU13に供給する。メモリ回路15は、CPU13で実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する。出力回路14は、CPU13から出力される駆動制御信号を、燃料噴射弁6、点火プラグ7などに供給する。
【0027】
CPU13は、CRKパルスの1/10の周期を有するPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成するPWM機能を有し、PWM信号出力端子21から出力する。さらにCPU13は、サブクロック入力端子22を有し、サブクロック入力端子22から入力されるパルス信号をサブクロックCLSとして使用して、該サブクロックCLSに基づくタイミング制御を行う。本実施形態では、サブクロック入力端子22はPWM信号出力端子21に接続されており、CPU13はPWM信号をサブクロックCLSとして使用したタイミング制御を行う。
なお、CPU13は、図示しないの基準クロック入力端子を備えており、基準クロック入力端子に供給される一定周期の基準クロック信号を基本のクロック信号して使用する。
【0028】
CPU13は、各種センサの検出信号に応じて燃料噴射時間TOUT、燃料噴射時期(燃料噴射開始時期CFIS,燃料噴射終了時期CFIE)、及び点火時期(点火コイルの通電開始時期CIGS,通電終了時期CIGE)を算出する制御処理を実行する。さらにCPU13は、算出された燃料噴射時期及び点火時期に応じて、以下に説明するように、燃料噴射弁6及び点火プラグ7を駆動する燃料噴射制御信号及び点火制御信号を生成して出力する。
【0029】
先ず図3を参照して、燃料噴射及び点火のタイミング制御の従来手法について説明する。
図3(a)は、クランク角6度周期のCRKパルスを示す。実際にはパルスホイールに切り欠き部が設けられているために、360度毎に周期が長くなる部分があるが、図示は省略している。図3(b)には#5気筒の行程が示されており、上部に示すクランク角度は#5気筒の吸気行程開始上死点を0度として示されている。図3(c)及び(e)はそれぞれ燃料噴射制御信号及び点火制御信号を示し、図3(d)及び(f)はそれぞれ燃料噴射制御信号及び点火制御信号を生成するためのタイマ動作を示す。
【0030】
燃料噴射及び点火を、制御処理で算出された燃料噴射時期及び点火時期において正確に実行するためには、燃料噴射時期及び点火時期の算出を実行時期より早めに完了し、基準時期からタイマを作動させて燃料噴射及び点火を実行する必要がある。すなわち、燃料噴射時期及び点火時期はクランク角度位置で指定されるが、その実行時期の少し前の基準時期からはクランク角度を時間に置き換えて、タイミング制御が行われる。
【0031】
具体的には、燃料噴射制御基準時期CFIRにおいて噴射開始時期タイマTMFISが時間TFISにセットされ、噴射終了時期タイマTMFIEが時間TFIEにセットされるとともに、噴射開始時期タイマTMFISの減算処理が開始される。噴射開始時期タイマTMFISの値が「0」となる燃料噴射開始時期CFIS[deg]において燃料噴射が開始され、同時に噴射終了時期タイマTMFIEの減算処理が開始される。そして、噴射終了時期タイマTMFIEの値が「0」となる燃料噴射終了時期CFIE[deg]において燃料噴射が終了する。したがって、噴射終了時期タイマTMFIEに設定される時間TFIEが燃料噴射時間に相当する。
【0032】
点火制御も同様に、点火制御基準時期CIGRにおいて通電開始時期タイマTMIGSが時間TIGSにセットされ、通電終了時期タイマTMIGEが時間TIGEにセットされるとともに、通電開始時期タイマTMIGSの減算処理が開始される。通電開始時期タイマTMIGSの値が「0」となる通電開始時期CIGS[deg]において点火コイルの通電が開始され、同時に通電終了時期タイマTMIGEに減算処理が開始される。そして、通電終了時期タイマTMIGEの値が「0」となる通電終了時期CIGE[deg]において点火コイルの通電が終了し、点火が行われる。すなわち、通電終了時期CIGEが点火時期に相当する。
【0033】
噴射開始時期タイマTMFIS及び通電開始時期タイマTMIGSに設定される時間TFIS及びTIGSは、いずれもタイマ設定を行う直前のCRKパルス周期DTを用いて、角度−時間変換を行うことにより算出され、タイマの減算処理は基準クロック信号(エンジン回転速度に依存しない一定周期のクロック信号)を用いて行われる。
【0034】
そのため、例えば点火制御基準時期CIGRから通電開始時期CIGSまでの角度期間が42度である場合を想定すると、この42度の角度期間中に10%減速によってCRKパルスの周期が10%長くなったときは、点火時期は制御指令値に対して約2.1度程度の進角した時期となってしまう。
【0035】
この課題を解決する手法として、上述した特許文献1に示されるように、PWM信号を用いて割り込み処理を起動し、割り込み処理においてCRKパルスの周期DTに応じた修正を行うことが考えられるが、前述したようにエンジン回転数NEが高い領域では、周期DTに対する割り込み処理起動時間の割合が大きくなって、他の演算処理を実行できなくなる。
【0036】
そこで本実施形態では、PWM信号をサブクロック入力端子22を介してCPU13に入力し、サブクロックCLSを用いて燃料噴射開始時期CFIS及び通電開始時期CIGSを決定するようにしている。
【0037】
本実施形態では、PWM信号の周期は、直前のCRKパルス周期DTの1/10の周期、すなわち0.6度に相当する周期に設定されるので、従来のタイマTMFIS及びTMIGSに代えて、図4に示すように、カウンタCNTFIS及びCNTIGSに、それぞれ下記式(1)及び(2)で与えられるカウント値CNTFISSET及びCNTIGSSETをセットし、サブクロックCLSに同期してカウントダウン処理を行う。
CNTFISSET=(CFIS−CFIR)/0.6 (1)
CNTIGSSET=(CIGS−CIGR)/0.6 (2)
【0038】
図4(a)及び(b)は、それぞれ燃料噴射制御信号及びカウンタ/タイマ動作を示し、図4(b)に示されるように、カウンタCNTFISのカウント値設定及びカウントダウン処理と、従来と同様の噴射終了時期タイマTMFIEの減算処理とが行われる。また図4(c)及び(d)は、それぞれ点火制御信号及びカウンタ/タイマ動作を示し、図4(d)に示されるように、カウンタCNTIGSのカウント値設定及びカウントダウン処理と、通電終了時期タイマTMIGEの減算処理とが行われる。図4に示すようにタイミング制御を行うことにより、燃料噴射開始時期CFIS、燃料噴射終了時期CFIE、通電開始時期CIGS、及び通電終了時期CIGEを正確に制御することが可能となる。なお、式(1)及び(2)の演算結果の小数点以下は切り捨てされ、タイミング誤差は最大で0.6度となる。
【0039】
図5はCPU13のPWM信号生成機能を説明するためのタイムチャートである。CRKパルス周期DT1を用いてPWM信号周期dT2(=DT1/10)が設定され、CRKパルス周期DT2を用いてPWM信号周期dT3(=DT2/10)が設定され、PWM信号周期dT4,dT5,…も同様に設定される。すなわち、CPU13では、PWM信号周期dT(及びパルス信号が高レベルとなる時間)をレジスタに設定する動作を行うことによりPWM信号が生成されるので、割り込み処理を起動することによる演算負荷に比べて格段に低い負荷でPWM信号を生成することができる。PWM信号、すなわちサブクロックCLSの周期dTは、CRKパルスが発生するクランク角6度毎に更新されるので、周期dTにエンジン回転速度の変化が直ちに反映される。したがって、サブクロックCLSを用いてタイミング制御を行うことにより、エンジン回転速度の変化にかかわらず正確な制御を行うことができる。
【0040】
以上のように本実施形態では、CRKパルスに同期し、CRKパルスより短い周期を有するPWM信号が生成され、PWM信号をサブクロックCLSとして使用して、燃料噴射及び点火の実行タイミング制御が行われる。この制御動作は、CPU13が備えているPWM信号生成機能によりPWM信号出力端子21から出力されるPWM信号を、サブクロック入力端子22に供給することにより、実現することができるので、エンジン回転に同期した燃料噴射及び点火の実行タイミング制御を、比較的簡単な構成で、CPU13の負荷を増大させることなく行うことができる。
【0041】
本実施形態では、クランク角度位置センサ10が第1パルス信号生成手段に相当し、CPU13が第2パルス信号生成手段及びタイミング制御手段を含む演算処理手段に相当する。
【0042】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、CPU13は直前のCRKパルス周期DTを1/10することにより、下記式(11)で示されるようにPWM信号周期(=サブクロック周期)dT(i)(i=1,2,3,…)を算出するようにしたが、PWM信号周期dT(i)を下記式(12)により算出される予測値に設定するようにしてもよい。式(12)の右辺第2項は、直前の周期変化量に応じた修正項であり、この修正項を加算することにより、エンジン回転速度の変化が大きい過渡状態においてより正確なサブクロックCLSを発生させることができる。
dT(i)=DT(i-1)/10 (11)
dT(i)=DT(i-1)/10+(DT(i-1)−DT(i-2))/10 (12)
【0043】
この変形例では、CRKパルス周期の最新値DT(i-1)及び前回値DT(i-2)に応じて予測変化量DPRE(=(DT(i-1)−DT(i-2))/10)が算出され、CRKパルス周期の最新値DT(i-1)及び予測変化量DPREを用いて、PWM信号周期dT(i)が算出されるので、CRKパルス周期DTが急激に変化する過渡状態においてPWM信号周期dTを迅速に追従させることができる。
【0044】
また、上述した実施形態では、吸気管内に燃料を噴射するエンジンに本発明を適用した例を示したが、本発明は燃焼室内の直接燃料を噴射する直噴エンジンにも適用可能である。
【0045】
図6は、直噴エンジンにおける燃料噴射及び点火の実行タイミングを示すタイムチャートであり、上述した実施形態における図3に対応するものである。燃料噴射弁の開弁期間TFI(CFIS〜CFIE)と、点火コイルの通電期間(CIGS〜CIGE)TIGとが近接しているため、両者がオーバラップする可能性が高くなる。そのため従来の制御手法では、燃料噴射終了時期CFIEと、通電開始時期CIGSとが接近している場合には、何れか一方を少しずらして、オーバラップを確実に回避することが行われる。
【0046】
すなわち直噴エンジンでは、燃料噴射及び点火のタイミング制御をより高精度に行うことが求められ、本発明の構成を採用することにより、特にエンジンの加減速時において、両者のタイミング制御を高精度に行い、所望のタイミングで燃料噴射及び点火を実行することが可能となる。
【0047】
[第2の実施形態]
本実施形態は、直噴エンジンの燃料供給系に設けられる高圧ポンプの制御に本発明を適用したものである。図7は、本実施形態における直噴エンジン及びその制御装置の構成を示す図である。以下に説明する点以外は第1の実施形態と同一である。
【0048】
本実施形態では、燃料噴射弁6は、エンジン1の燃焼室内に直接燃料を噴射するように設けられている。燃料噴射弁6は燃料供給管17を介してデリバリパイプ21に接続され、デリバリパイプ21は、燃料パイプ20を介して燃料タンク19内の燃料ポンプユニット18に接続されている。燃料ポンプユニット18は、燃料ポンプ18aと、燃料ストレーナ18bと、基準圧力を燃料タンク内圧としたプレッシャーレギュレータ18cとが一体に構成されたものである。燃料パイプ20の途中には高圧燃料ポンプ23が設けられており、高圧燃料ポンプ23によりデリバリパイプ21内の燃料圧が、燃料を燃焼室内に噴射可能な圧力まで高められる。
【0049】
デリバリパイプ21には、燃料圧PFを検出する燃料圧センサ22が設けられている。燃料圧センサ22の検出信号は、ECU5に供給される。
【0050】
高圧燃料ポンプ23は、公知の構造を有するものであり、図8に示すように、筐体41と、プランジャ42と、燃料吸入弁43と、ばね44と、ソレノイド45と、燃料吸入口46と、加圧室47と、燃料吐出口48とを備えている。プランジャ42は、エンジン1のカム軸に固定されたポンプカム(図示せず)により、図の上下方向にクランク角240度周期で移動する。
【0051】
燃料吸入弁43が開弁しているときに、プランジャ42が下降することにより、加圧室47内に燃料吸入口46を介して燃料が供給され、燃料吸入弁43が閉弁しているときに、プランジャ42が上昇することにより、加圧室47内の燃料が加圧され、燃料吐出口48から加圧された燃料が吐出される。
【0052】
ソレノイド45に通電していないときは、ばね44によって燃料吸入弁43は図の右方向に移動し、開弁状態となる。一方、ソレノイド45の通電が行われると、燃料吸入弁43は図の左方向に移動し、閉弁状態となる。図8には閉弁状態が示されている。
【0053】
したがって、プランジャ42が上昇する期間に同期した適切な時期に、ソレノイド45の通電を行うことにより、必要量の燃料が吐出され、デリバリパイプ21内の燃料圧PFを所望の値に制御することができる。ソレノイド45は、ECU5に接続されており、ECU5によって通電制御が行われる。本実施形態では、ソレノイド45の通電時期制御に本発明が適用される。
【0054】
図9は、高圧燃料ポンプの動作を説明するためのタイムチャートであり、図9(a)〜図9(e)は、それぞれCRKパルス、高圧燃料ポンプの行程、ポンプカムによるプランジャの位置変化、制御用カウンタCNTSOLS及びCNTSOLEのカウント値、及びソレノイド45の通電期間CSOLONを示す。
【0055】
本実施形態では、カウンタCNTSOLS及びCNTSOLEに、それぞれ下記式(21)及び(22)で与えられるカウント値CNTSOLSSET及びCNTSOLESETがセットされ、サブクロックCLSに同期してカウントダウン処理が行われて、通電開始時期CSOLS及び通電終了時期CSOLEが決定される。式(21)のCSOLRがソレノイド通電制御基準時期であり、プランジャ42が最も上昇した位置に達する時期に対応する。
CNTSOLSSET=(CSOLS−CSOLR)/0.6 (21)
CNTSOLESET=(CSOLE−CSOLS)/0.6 (22)
【0056】
本実施形態では、高圧燃料ポンプ23の燃料吸入弁43の閉弁タイミング制御がサブクロックCLSに同期して行われるので、エンジン回転数NEが大きく変化する過渡運転状態においても正確な燃料圧力制御を行うことができる。
【0057】
なお、上述した実施形態では、第2パルス信号(PWM信号)の周期dTが、第1パルス信号(CRKパルス)の周期DTの1/10である例を示したが、これに限るものではなく、dT=DT/N(N:2以上の整数)である場合に、本発明を適用可能である。
【0058】
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 内燃機関
5 電子制御ユニット(演算処理手段、第2パルス信号生成手段、タイミング制御手段、周期設定手段、予測手段)
6 燃料噴射弁
7 点火プラグ
8 クランク軸
10 クランク角度位置センサ(第1パルス信号生成手段)
23 高圧燃料ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の回転に同期した第1パルス信号を生成する第1パルス信号生成手段と、所定の基準クロックを用いて前記機関の制御パラメータを算出する演算処理手段を備える内燃機関の制御装置において、
前記演算処理手段は、
前記第1パルス信号に同期し、前記第1パルス信号より短い周期を有する第2パルス信号を生成する第2パルス信号生成手段と、
前記基準クロックとは異なるサブクロックに同期して、前記制御パラメータに応じた制御動作の実行タイミング制御を行うタイミング制御手段とを有し、
前記タイミング制御手段は、前記第2パルス信号を前記サブクロックとして用いることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記第2パルス信号生成手段は、前記第1パルス信号周期の最新値に応じて前記第2パルス信号周期を算出する周期算出手段を有し、該周期算出手段は、前記第1パルス信号に同期して前記第2パルス信号周期を更新することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記周期算出手段は、前記第1パルス信号周期の最新値及び過去値に応じて予測変化量を算出する予測手段を有し、前記第1パルス信号周期の最新値及び前記予測変化量を用いて前記第2パルス信号周期を算出することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記機関は、該機関に燃料を供給する燃料噴射弁を備え、
前記タイミング制御手段は、前記サブクロックに同期して前記燃料噴射弁による燃料噴射の実行タイミング制御を行うことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記機関は、該機関の燃焼室内の混合気を点火する点火プラグを備え、
前記タイミング制御手段は、前記サブクロックに同期して前記点火プラグによる点火の実行タイミング制御を行うことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記機関は、該機関に燃料を供給する燃料噴射弁と、該燃料噴射弁に供給する燃料を加圧する高圧燃料ポンプとを備え、該高圧燃料ポンプは、燃料圧力を調整するための燃料吸入弁を有し、
前記タイミング制御手段は、前記サブクロックに同期して前記燃料吸入弁の閉弁タイミング制御を行うことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−225254(P2012−225254A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93566(P2011−93566)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】