説明

内燃機関の回転数制御のための電子制御アセンブリ

【課題】制御ユニット(4)で内燃機関の実際回転数(nIst)と目標回転数(nSoll)の差が決定され、この差に基づいて目標トルクが決定され、目標トルク(nSoll)を実トルク(TReal)に変換するために制御ユニット(4)がエンジン制御器(6)に接続されており、こうして生じる実際回転数(nIst)が制御ユニット(4)にフィードバックされる、自動化トランスミッションを装備した自動車の内燃機関の回転数の制御のための電子制御アセンブリにおいて、回転数の迅速な適応制御を可能にすること。
【解決手段】制御ユニット(4)を、ファジイ論理アルゴリズムを後置したPIDコントローラとして形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御ユニットで内燃機関の実際回転数と目標回転数の差が決定され、この差に基づいて目標トルクが決定され、目標トルクを実トルクに変換するために制御ユニットがエンジン制御器に接続されており、こうして生じる実際回転数が制御ユニットにフィードバックされる、自動化トランスミッションを装備した自動車の内燃機関の回転数制御のための電子制御アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
自動化トランスミッションを備えた自動車では通常、発進及びシフト操作時にトランスミッションで変速比の切り替えをなるべく迅速かつ快適に行うことができるように、トランスミッションの領域で制御アセンブリが使用される。この場合特にドライブトレインの振動やがたつきに関する車両運転者の知覚が重要である。その場合慣用の手法は、発進操作又はギヤチェンジの際に内燃機関のパラメータを制御することによってドライブトレインの振動を的確に抑制するために、制御アセンブリによりエンジン制御に介入することである。
【0003】
バス系統を介して互いに連絡するトランスミッション制御器とエンジン制御器からなるこのような電子制御アセンブリはドイツ特許公開DE10025586A1により公知である。この場合トランスミッション制御器はエンジン制御器から実際量、例えば内燃機関の実際回転数及び実際トルクを受領し、逆にパラメータ、目標回転数及び第1の目標トルク並びに調整量をエンジン制御器に伝送することができる。ギヤチェンジ及びこれに伴うオートマチッククラッチの連結操作の際に、エンジン制御器の内部に配置され、第2の目標トルクを与える回転数コントローラと協動して、エンジン制御器の決定論理により内燃機関の回転数の急速な変化をトルク制御によって補償しようとする。
【0004】
このようなアセンブリの欠点は、これによって実現される内燃機関の制御が制御精度及び速度に関して不十分であり、しかも短い時間間隔で再校正を行わなければならないことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ国特許公開公報DE10025586A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の課題は、高い制御性能と高い速度を有する、内燃機関の回転数の制御のための制御アセンブリ及びその操作方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は装置技術的観点からは、請求項1の上位概念とその特徴との組合せに基づいて解決される。方法技術的観点からは、請求項4の上位概念とその特徴との組合せに基づいて課題の解決が行われる。それに続く従属請求項はそれぞれ発明の有利な発展形態を示す。発明の実施のためのコンピュータプログラム製品及びその記憶のためのデータ媒体については請求項9及び10が挙げられる。
【0008】
本発明は、内燃機関の回転数の迅速な適応制御を可能にするために、制御ユニットをPIDコントローラ及び後置のファジイ論理アルゴリズムとして構成するという技術的学説を包含する。その場合自動車のエンジン制御器が設定する目標トルクはPID制御により、かつファジイ論理アルゴリズムの中で決定され、その際アルゴリズムで個別ステップ、即ちファジイ化、ルールに基づく推論及び非ファジイ化が行われる。PIDコントローラとファジイ論理の共存的協動によって、内燃機関の回転数を適応させるための非常に正確な適応制御が実現される。従ってこの制御は高い迅速性を特徴とする。
【0009】
本発明の実施形態によれば、制御ユニットはバス系統を介してエンジン制御器と連絡するトランスミッション制御器の一部である。制御ユニットをトランスミッションの制御器に組み込むことによって、トランスミッションの他のパラメータも制御することができる非常にコンパクトな系をこの領域に形成することができる。さらにバス系統によりエンジン制御器に接続することによって迅速かつ確実なデータ伝送が可能である。
【0010】
本発明をさらに発展させて、トランスミッションは自動化マニュアルトランスミッションとして構成されている。自動化マニュアルトランスミッションで本発明に基づくシステムを使用すれば、この種のトランスミッションのシフト操作で快適性の大幅な改善が得られる。
【0011】
本発明の有利な実施形態によれば、ファジイ化に関連して内燃機関の実際回転数と目標回転数の差が所定の帰属度で少なくとも3つのあいまい量に割り当てられる。ちょうど3つのあいまい量「OK」、「Negative」及び「Positive」に当該の帰属度で割当を行えばさらに好都合である。それによってファジイ論理アルゴリズムの入力量をこのアルゴリズムにより十分な精度で処理することができ、同時に計算費用は十分に見合う範囲内に留まる。
【0012】
発明をさらに発展させて、ルールに基づく推論に関連して最小を形成することによりIF−THEN制御戦略が行われる。これは、それによって制御を簡単に実行することができる利点がある。
【0013】
発明の別の有利な実施形態によれば、非ファジイ化に関連して重心法により目標トルクの値が形成される。こうしてファジイ論理アルゴリズムの終りに内燃機関の目標トルクの値が確実に算定される。
【0014】
本発明に基づく解決策はコンピュータプログラム製品としても実現される。このコンピュータプログラム製品は制御アセンブリのプロセッサで実行されると、本発明の目的である当該の方法段階を行うように、ソフトウエアとしてプロセッサに指示する。
【0015】
この点に関連して、上記のコンピュータプログラム製品が呼び出し可能に記憶されたコンピュータ読取り可能な媒体も発明の目的に属する。
【0016】
次に発明を改善するその他の処置を発明の好ましい実施例の説明とともに図に基づき詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に基づく制御アセンブリの概略ブロック構成図。
【図2】本発明に基づく制御アセンブリの内部の演算操作のフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に本発明に基づく電子制御アセンブリのブロック構成図が示されている。この電子制御アセンブリではトランスミッション制御器1で実際回転数nIstと目標回転数nSollの差が形成される。そのために実際回転数nIstが導線2を経てトランスミッション制御器1に送られ、一方、目標回転数nSollは記憶装置3から呼び出される。またトランスミッション制御器1はPIDコントローラと後置のファジイ論理アルゴリズムからなる制御ユニット4を包含する。この制御ユニット4で実際回転数nIstと目標回転数nSollから計算された差に基づき、ファジイ論理アルゴリズムによって目標トルクTSollが決定され、データバスの形の導線5を経て内燃機関のエンジン制御器6に伝送される。続いてエンジン制御器6に大きな遅れなしに実トルクTRealが設定される。但しこの実トルクTRealは締結しているオートマチッククラッチ7によってクラッチトルクTKpplの分だけ減少される。全体として生じるトルクから、フライホイール及びクラッチを含む内燃機関の回転慣性ΘMot並びにそれに続く積分によって実際回転数nIstを決定することができる。この実際回転数nIstは導線2を経て再びトランスミッション制御器1へ送られる。
【0019】
図2には、制御ユニット4で行われるプロセスを示すフローチャートが見られる。制御ユニット4の中で、目標回転数nSollと実際回転数nIstの差からなる入力量eから目標トルクTSollの形の出力量uが4つのステップS−1〜S−4で決定される。第1のステップS1で入力量eがPID制御により比例、積分及び微分の各分に分解される。続くステップS2でいわゆるファジイ化が行われ、ここで各分が所定の帰属度により3つのあいまい量に割り当てられる。この場合3つのあいまい量は、台形の特徴を有し「N」で表される「Negative」と、三角形の特徴を有する「OK」と、やはり台形の特徴を有し「P」で表される「Positive」からなる。入力量eの各分はそれぞれ所定の帰属度(%)で3つのあいまい量に割り当てられる。この所定の帰属度に応じて、第3のステップS3、いわゆるルールに基づく推論で既定のルールに基づきIF−THENルール戦略により出力量uの計算が準備される。こうして第1及び第2のIF−THEN条件R1又はR2を例えば
R1:e=OK、eの微分=OK、かつeの積分=OKならば、u=OK、又は
R2:e=P、eの微分=OK、かつeの積分=OKならばu=N
で表すことができる。
【0020】
この場合前提部の評価の形で各前提部の満足度が計算され、その際帰属度の最小が形成される。それに続いて各前提部の満足度に応じて動作命令の活動度が推定される。続いてこれらの個々の動作命令がOR論理回路により配列される。次のステップS4、いわゆる非ファジイ化で重心法
【数1】

(但し、hiはi番目のルールの出力ファジイ集合のグレード、uiは出力ファジイ集合の重心である)
により、ステップS3から生じる結果−ファジイ量から明確な出力値uが計算される。この出力値uは設定すべき目標トルクTSollである。
【0021】
こうして本発明に基づく電子制御アセンブリと当該の方法によって、区間パラメータ及び目標値nSollの変化に対して安定した、故障の起こりにくい内燃機関回転数制御を作り出すことが可能である。
【符号の説明】
【0022】
1 トランスミッション制御器
2 導線
3 記憶装置
4 制御ユニット
5 導線、バス系統
6 エンジン制御器
7 オートマチッククラッチ
Soll 目標回転数
Ist 実際回転数
Soll 目標トルク
Real 実トルク
Kppl クラッチトルク
ΘMot フライホイールとクラッチを含む内燃機関の回転慣性
e 入力量
u 出力量
S1 ステップ1:PID制御
S2 ステップ2:ファジイ化
S3 ステップ3:ルールに基づく推論
S4 ステップ4:非ファジイ化

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御ユニット(4)で内燃機関の実際回転数(nIst)と目標回転数(nSoll)の差が決定され、この差に基づいて目標トルク(TSoll)が決定され、目標トルク(TSoll)を実トルク(TReal)に変換するために制御ユニット(4)がエンジン制御器(6)に接続されており、こうして生じる実際回転数(nIst)が制御ユニット(4)にフィードバックされる、自動化トランスミッションを装備した自動車の内燃機関の回転数の制御のための電子制御アセンブリにおいて、
回転数の迅速な適応制御を可能にするために、制御ユニット(4)がファジイ論理アルゴリズムを後置したPIDコントローラとして形成されていることを特徴とする電子制御アセンブリ。
【請求項2】
制御ユニット(4)がトランスミッション制御器(1)の一部であり、トランスミッション制御器(1)がバス系統を介してエンジン制御器(6)に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の電子制御アセンブリ。
【請求項3】
トランスミッションが自動化マニュアルトランスミッションとして形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子制御アセンブリ。
【請求項4】
制御アセンブリの下記のステップ、即ち
− 制御ユニット(4)により実際回転数(nIst)と目標回転数(nSoll)の差を計算し、計算された差に基づき目標トルク(TSoll)を決定するステップ、
− 目標トルク(TSoll)を自動車のエンジン制御器(6)に伝送するステップし、
− エンジン制御器(6)により目標トルク(TSoll)に基づいて実トルク(TReal)を設定するステップ、
− 生じる実際回転数(nIst)を検出し、これを制御ユニット(4)に伝送するステップ、
を備えた自動車の内燃機関の回転数の制御方法において、
目標トルク(TSoll)の決定がPID制御並びに個別ステップ、ファジイ化(S2)、ルールに基づく推論(S3)及び非ファジイ化(S4)からなるファジイ論理アルゴリズムによって行われることを特徴とする方法。
【請求項5】
ファジイ化(S2)の範囲内で実際回転数(nIst)と目標回転数(nSoll)の差を所定の帰属度で少なくとも3つのあいまい量に割り当てることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ちょうど3つの量「OK」、「negative」及び「positive」に当該の帰属度で割当を行うことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ルールに基づく推論(S3)の範囲内で、最小を形成することによりIF−THENルール戦略を行うことを特徴とする請求項4から6のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
非ファジイ化(S4)の範囲内で、目標トルクの値を重心法により形成することを特徴とする請求項4から7のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項4から8のうちのいずれか一項に記載の方法により操作することができる請求項1から3のうちのいずれか一項に記載のアセンブリのためのコンピュータプログラムにおいて、
実際回転数(nIst)と目標回転数(nSoll)の差を形成し、ファジイ論理アルゴリズムにより目標トルク(TSoll)を決定するためのルーチンが、ソフトウエアに保存された該当する制御命令に変換されているコンピュータプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のコンピュータプログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−121625(P2010−121625A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263581(P2009−263581)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(592179300)ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト (56)
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】