説明

内燃機関の排ガス浄化装置

【課題】NOx浄化触媒にNOx還元動作を行わせる場合において、燃費とNOx浄化触媒の下流側の排ガス特性をいずれも向上させることができるとともに、オイルダイリューションの発生を抑制することができる内燃機関の排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】内燃機関3の排ガス浄化装置1は、NOx浄化触媒8とECU2を備える。ECU2は、NOx浄化触媒8に流入する排ガスを還元雰囲気に制御する還元制御を実行する(ステップ30〜33,42〜46)とともに、還元制御中、目標空燃比AF_cmdを、ポスト噴射量Gpostの総噴射量Gallに対する割合であるポスト割合Rpostに応じて設定する(ステップ20〜25)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捕捉したNOxを還元雰囲気下で還元するNOx浄化触媒を排気通路に備えた内燃機関において、NOx浄化触媒にNOx還元動作を行わせるために、還元剤を触媒の上流側に供給する内燃機関の排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の内燃機関の排ガス浄化装置として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この内燃機関は、筒内噴射式のガソリンエンジンであり、吸気通路に設けられたスロットル弁と、排気通路に設けられたNOx浄化触媒と、その下流側に設けられた三元触媒などを備えている。このNOx浄化触媒は、酸化雰囲気の排ガス中のNOx(窒素酸化物)を捕捉するとともに、還元雰囲気の排ガスが供給されたときに捕捉したNOxを還元し、それにより、排ガスを浄化する。また、排ガス浄化装置は、NOx浄化触媒よりも上流側の排ガス温度を検出する排ガス温度センサと、スロットル弁の開度をスロットル弁開度θthとして検出するスロットル弁開度センサと、これらのセンサが接続された制御装置などを備えている。
【0003】
この内燃機関では、制御装置によって、スロットル弁開度θthおよびエンジン回転数Neに応じて、目標平均有効圧Peが算出され、この目標平均有効圧Peおよびエンジン回転数Neに応じて、目標空燃比OA/Fが算出されるとともに、内燃機関の運転モードが、混合気がリーン側に制御されるリーンモードと、リッチ側に制御されるリッチパージモードとに切り換えられる。このリーンモードでは、目標空燃比OA/Fがリーン側の値に設定されるとともに、燃料噴射動作として、リーン用の燃料噴射動作PLが実行される。
【0004】
また、リーンモード中、リーンモードの継続時間tが所定時間Ltに達したときには、運転モードがリーンモードからリッチパージモードに切り換えられる。このリッチパージモードでは、目標空燃比OA/Fがリッチ側の値に設定されるとともに、NOx浄化触媒の温度Tcが所定値Tc1未満のときには、目標空燃比OA/Fに基づいて、リッチ用の燃料噴射動作PHが実行され、NOx浄化触媒の温度Tcが所定値Tc1以上のときには、リッチ用の燃料噴射動作PHに連続して、リッチパージ用の燃料噴射動作PPが実行されることで、燃料噴射動作が膨張行程まで継続して実行される。それにより、NOx浄化触媒の温度Tcが所定値Tc1未満のときには、還元剤としてのCO(一酸化炭素)を多く含む排ガスがNOx浄化触媒に供給されるとともに、NOx浄化触媒の温度Tcが所定値Tc1以上のときには、燃料噴射動作が膨張行程まで継続して実行されることで、還元剤として、COに加えてHC(炭化水素)を多く含む排ガスがNOx浄化触媒に供給される(段落[0031]〜[0039])。
【0005】
これは、上記のようなNOx浄化触媒におけるNOxの還元手法として、混合気の空燃比をリッチ化する空燃比リッチ化手法と、混合気の空燃比のリッチ化に加えて膨張行程での燃料噴射を行うリッチパージ手法とを比較した場合、触媒温度が低温域にあるときには、2つの手法によるNOx還元能力はあまり変わらないものの、触媒温度が高温域にあるときには、リッチパージ手法の方がHC濃度が高いことで、より高いNOx還元能力を示すことによる(段落[0011]〜[0013],図9(a))。
【0006】
さらに、リッチパージモードでは、リッチパージ用の燃料噴射動作PPの実行時間Trが、吸入空気量に応じたマップ値と、走行距離に応じたマップ値との積に基づいて設定されるとともに、噴射時間Tiが走行距離に応じて設定される(段落[0045]〜[0047])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−30246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の内燃機関の排ガス浄化装置によれば、リッチパージモード中、リッチ用の燃料噴射動作PHは、目標空燃比OA/Fに基づいて実行されるものの、リッチパージ用の燃料噴射動作PPは、目標空燃比OA/Fとは無関係に、吸入空気量および走行距離に応じて実行されるので、NOx浄化触媒に供給される排ガスがオーバーリッチ状態となることで、燃費の悪化を招くおそれがある。これに加えて、同じ理由により、リッチパージモード中、NOx浄化触媒を通過した排ガス中のHC濃度が高くなり、排ガス特性が悪化する可能性があるので、これを浄化するための構成として、NOx浄化触媒の下流側に三元触媒を設ける必要がある。さらに、リッチパージモード中、NOx浄化触媒の温度Tcが所定値Tc1以上のときには、燃料噴射動作が膨張行程まで継続して実行されるので、未燃燃料がエンジンオイルに混入する、いわゆるオイルダイリューションが発生しやすい。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、NOx浄化触媒にNOx還元動作を行わせる場合において、燃費とNOx浄化触媒の下流側の排ガス特性をいずれも向上させることができるとともに、オイルダイリューションの発生を抑制することができる内燃機関の排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、気筒3a内で燃焼させるための燃料が第1燃料として気筒3a内に供給されるとともに、排ガスを還元雰囲気にするための燃料が第2燃料として排気通路7に供給される内燃機関3において、排気通路7内の排ガスを浄化する内燃機関3の排ガス浄化装置1であって、排気通路7に設けられ、酸化雰囲気の排ガス中のNOxを捕捉するとともに、還元剤を含む還元雰囲気の排ガスが供給されることにより、捕捉したNOxを還元することによって浄化するNOx浄化触媒8と、NOx浄化触媒8にNOxの還元動作を行わせるために、NOx浄化触媒8に流入する排ガスを還元雰囲気に制御する還元制御を実行する還元制御手段(ECU2、ステップ30〜33,42〜46)と、を備え、還元制御手段は、還元制御の実行中、排ガスの空燃比の目標となる目標空燃比AF_cmdおよび還元制御の実行期間の少なくとも一方を、第1燃料量(主噴射量Gtrq)および第2燃料量(ポスト噴射量Gpost)の関係を表す指標値(ポスト割合Rpost)に応じて設定する(ステップ20〜25)ことを特徴とする。
【0011】
この内燃機関の排ガス浄化装置によれば、NOx浄化触媒にNOxの還元動作を行わせるために、還元制御が実行されるとともに、還元制御の実行中、排ガスの空燃比の目標となる目標空燃比および還元制御の実行期間の少なくとも一方が、第1燃料量および第2燃料量の関係を表す指標値に応じて設定される。すなわち、目標空燃比および/または還元制御の実行期間が、気筒内で実際に燃焼する燃料量と、NOx還元のためにNOx浄化触媒に供給される燃料量との関係に応じて設定されるので、還元制御の実行中、NOx浄化触媒に供給される排ガスの空燃比および/または還元制御の実行期間を、NOx浄化触媒に対して還元剤が過不足無く供給されるように設定することができる。それにより、燃費およびNOx浄化触媒の下流側の排ガス特性をいずれも向上させることができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関3の排ガス浄化装置1において、指標値(ポスト割合Rpost)は、第1燃料量(主噴射量Gtrq)と第2燃料量(ポスト噴射量Gpost)の割合を表す値であることを特徴とする。
【0013】
この内燃機関の排ガス浄化装置によれば、目標空燃比および/または還元制御の実行期間が、第1燃料量と第2燃料量の割合を表す指標値に応じて設定されるので、還元剤におけるCOおよびHCの割合に応じて、目標空燃比および/または還元制御の実行期間を適切に設定することができ、それにより、燃費およびNOx浄化触媒の下流側の排ガス特性を確実に向上させることができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の内燃機関3の排ガス浄化装置1において、第2燃料は、第1燃料の供給後に気筒3a内に供給され、還元制御手段は、指標値(ポスト割合Rpost)によって表される、第1燃料量(主噴射量Gtrq)に対する第2燃料量(ポスト噴射量Gpost)の割合が大きいほど、目標空燃比AF_cmdをよりリーン側の値に設定する(ステップ22,24,25)ことを特徴とする。
【0015】
この内燃機関の排ガス浄化装置によれば、第1燃料の供給後に気筒内に供給される第2燃料量の、第1燃料量に対する割合が大きいほど、目標空燃比がよりリーン側の値に設定される。すなわち、第2燃料量が多くなることで、オイルダイリューションが発生しやすい状況であるほど、目標空燃比がよりリーン側の値に設定されるので、オイルダイリューションの発生を抑制することができる。これに加えて、第2燃料量が多くなることで、NOx浄化触媒を通り抜けるHCが多くなりやすい状況であるほど、目標空燃比がよりリーン側の値に設定されるので、NOx浄化触媒の下流側の排ガス特性を確実に向上させることができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項2に記載の内燃機関3の排ガス浄化装置1において、第2燃料は、第1燃料の供給後に気筒3a内に供給され、還元制御手段は、指標値(ポスト割合Rpost)によって表される、第1燃料量(主噴射量Gtrq)に対する第2燃料量(ポスト噴射量Gpost)の割合が大きいほど、還元制御の実行期間をより長い期間に設定する(ステップ6〜8,20〜25)ことを特徴とする。
【0017】
この内燃機関の排ガス浄化装置によれば、第1燃料の供給後に気筒内に供給される第2燃料量の、第1燃料量に対する割合が大きいほど、還元制御の実行期間がより長い期間に設定される。すなわち、第2燃料量が多くなることで、還元剤として、COと比べて反応速度の遅いHCが排ガス中に多い状況であるほど、還元制御がより長い期間実行されるので、NOx浄化触媒の下流側の排ガス特性を確実に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本願発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置およびこれを適用した内燃機関の概略構成を示す図である。
【図2】還元制御の実行条件判定処理を示すフローチャートである。
【図3】目標空燃比AF_cmdの算出処理を示すフローチャートである。
【図4】ポスト割合Rpostの算出に用いるマップの一例を示す図である。
【図5】目標空燃比の基本値AF_baseの算出に用いるマップの一例を示す図である。
【図6】第1補正係数Kafpの算出に用いるマップの一例を示す図である。
【図7】第2補正係数Ksvの算出に用いるマップの一例を示す図である。
【図8】第3補正係数Ksvpの算出に用いるマップの一例を示す図である。
【図9】NOx還元量DQNOxの算出に用いるマップの一例を示す図である。
【図10】吸気制御処理を示すフローチャートである。
【図11】燃料噴射制御処理を示すフローチャートである。
【図12】NOx還元量DQNOxの算出に用いるマップの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る内燃機関の排ガス浄化装置について説明する。図1に示すように、本実施形態の排ガス浄化装置1は、ECU2を備えており、このECU2は、後述するように、内燃機関(以下「エンジン」という)3の燃料噴射制御処理および吸気制御処理などの各種の制御処理を実行する。
【0020】
エンジン3は、図示しない車両に搭載されたディーゼルエンジンタイプのものであり、複数組(1組のみ図示)の気筒3aおよびピストン3bを備えている。エンジン3のシリンダヘッド3cには、燃料噴射弁4が気筒3a毎に燃焼室に臨むように取り付けられている。
【0021】
この燃料噴射弁4は、コモンレールを介して、高圧ポンプおよび燃料タンク(いずれも図示せず)に接続されている。高圧ポンプによって昇圧された燃料は、コモンレールを介して燃料噴射弁4に供給され、燃料噴射弁4から気筒3a内に噴射される。燃料噴射弁4の開弁時間および開弁タイミングは、ECU2によって制御され、それにより、燃料噴射制御が実行される。
【0022】
エンジン3には、クランク角センサ20が設けられている。このクランク角センサ20は、マグネットロータおよびMREピックアップで構成されており、クランクシャフト3dの回転に伴い、いずれもパルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。このCRK信号は、所定クランク角(例えば10゜)毎に1パルスが出力され、ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、各気筒3aのピストン3bが吸気行程のTDC位置よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、所定クランク角毎に1パルスが出力される。
【0023】
エンジン3の吸気通路5には、上流側から順に、エアフローセンサ21およびスロットル弁機構6が設けられている。このエアフローセンサ21は、熱線式エアフローメータで構成されており、吸気通路5内を流れる空気の流量(以下「空気流量」という)Qinを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。
【0024】
スロットル弁機構6は、スロットル弁6aおよびこれを開閉駆動するTHアクチュエータ6bなどを備えている。スロットル弁6aは、吸気通路5の途中に回動自在に設けられており、当該回動に伴う開度の変化により空気流量Qinを変化させる。THアクチュエータ6bは、ECU2に接続されたモータにギヤ機構(いずれも図示せず)を組み合わせたものであり、ECU2からの制御入力信号によって制御されることにより、スロットル弁6aの開度(以下「スロットル弁開度」という)THを変化させる。
【0025】
一方、エンジン3の排気通路7には、NOx浄化触媒8が設けられている。このNOx浄化触媒8は、酸化雰囲気の排ガスが流入したときに、排ガス中のNOxを捕捉(貯蔵)する能力を有している。このNOx浄化触媒8に捕捉されたNOxは、還元雰囲気の排ガスがNOx浄化触媒8に流入したときに、還元剤と反応することによって還元される。なお、図示しないが、排気通路7のNOx浄化触媒8の上流側および下流側には、DPFおよび三元触媒などが設けられている。
【0026】
また、排気通路7のNOx浄化触媒8の上流側および下流側には、LAFセンサ22および排気温センサ23がそれぞれ設けられている。このLAFセンサ22は、ジルコニアおよび白金電極などで構成され、理論空燃比よりもリッチなリッチ領域から極リーン領域までの広範囲な空燃比の領域において、排気通路7内を流れる排ガス中の酸素濃度をリニアに検出し、それを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、このLAFセンサ22の検出信号の値に基づき、排ガスの実際の空燃比を検出空燃比AF_actとして算出する。
【0027】
さらに、排気温センサ23は、NOx浄化触媒8を通り抜けた排ガスの温度を検出し、それを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この排気温センサ23の検出信号の値に基づき、NOx浄化触媒8の温度を触媒温TCATとして算出する。
【0028】
また、ECU2には、アクセル開度センサ24が電気的に接続されている。このアクセル開度センサ24は、車両の図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。
【0029】
一方、ECU2(還元制御手段)は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種のセンサ20〜24の検出信号などに応じて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、以下に述べるように、還元制御の実行条件判定処理、吸気制御処理および燃料噴射制御処理などを実行する。それにより、エンジン3において、混合気の空燃比が、通常運転時には理論空燃比よりもリーンな値に制御されるとともに、還元制御時には、NOx浄化触媒8に捕捉されたNOxを還元するために、理論空燃比よりもリッチな値に制御される。
【0030】
また、還元制御の実行中、エンジン3が極低回転かつ極低負荷の運転域を除いた運転域にあるときには、1回の燃焼サイクル中、燃料が主噴射時期とそれよりも後のポスト噴射時期との2回に分けて噴射される。この主噴射時期では、後述する主噴射量Gtrq(第1燃料量)分の燃料が圧縮行程で気筒3a内に噴射され、理論空燃比よりもリッチな燃焼混合気が生成される。その結果、排気行程において、還元剤としてのCOが比較的多く含まれる燃焼ガスが排気通路7に排出される。
【0031】
さらに、ポスト噴射時期では、後述するポスト噴射量Gpost(第2燃料量)分の燃料が膨張行程(または排気行程)で気筒3a内に噴射される。それにより、排気行程において、還元剤としてのHCが比較的多く含まれる燃焼ガスまたは未燃ガスが排気通路7に排出される。この場合、還元剤としてのCOは、HCと比べて、NOxとの反応速度が速いという特性を有している。
【0032】
以下、図2を参照しながら、ECU2によって実行される還元制御の実行条件判定処理について説明する。この処理は、以下に述べるように、NOx浄化触媒8に捕捉されたNOxを還元するための還元制御の実行条件が成立しているか否かを判定するものであり、所定の制御周期ΔT(例えば10msec)で実行される。
【0033】
この処理では、まず、ステップ1(図では「S1」と略す。以下同じ)で、還元条件フラグF_RICHが「1」であるか否かを判別する。この判別結果がNOで、F_RICH=0のときには、ステップ2に進み、後述する要求トルクTRQおよびエンジン回転数NEに応じて、図示しないマップを検索することにより、NOx排出量QNOxを算出する。このNOx排出量QNOxは、前回の制御タイミングから今回の制御タイミングまでの間において、エンジン3から排気通路7に排出されたと推定されるNOx量に相当するものである。
【0034】
次いで、ステップ3に進み、NOx捕捉量S_QNOxを、その前回値S_QNOxZとNOx排出量QNOxの和(S_QNOxZ+QNOx)に設定する。このNOx捕捉量S_QNOxは、NOx浄化触媒8に捕捉されているNOx量の推定値に相当するものである。
【0035】
次いで、ステップ4に進み、NOx捕捉量S_QNOxが所定の上限しきい値SREF_Hよりも大きいか否かを判別する。この判別結果がNOのときには、還元制御の実行条件が成立していないと判定して、そのまま本処理を終了する。
【0036】
一方、ステップ4の判別結果がYESのときには、還元制御の実行条件が成立したと判定して、ステップ5に進み、それを表すために、還元条件フラグF_RICHを「1」に設定した後、本処理を終了する。
【0037】
このように、ステップ5で還元条件フラグF_RICHが「1」に設定されると、次回以降の制御タイミングで、ステップ1の判別結果がYESとなり、その場合には、ステップ6に進み、目標空燃比AF_cmdを算出する。この目標空燃比AF_cmdの算出処理は、具体的には図3に示すように実行される。
【0038】
同図に示すように、まず、ステップ20で、指標値としてのポスト割合Rpostを算出する。このポスト割合Rpostは、後述する総噴射量Gall(=Gtrq+Gpost)に対するポスト噴射量Gpostの割合(=Gpost/Gall)であり、具体的には、エンジン回転数NEおよび要求トルクTRQに応じて、図4に示すマップを検索することにより、0≦Rpost≪1が成立するように算出される。同図において、Rpost1〜4は、ポスト割合Rpostの所定値であり、Rpost1<Rpost2<Rpost3<Rpost4が成立するように設定されている。
【0039】
図4に示すように、このマップでは、ポスト割合Rpostは、エンジン回転数NEが高いほど、または要求トルクTRQが大きいほど、より大きい値に設定されている。言い換えれば、エンジン回転数NEが高いほど、またはエンジン負荷が高いほど、総燃料噴射量に占める主噴射量Gtrqの割合がより少なくなるように設定されている。これは、還元制御の実行中、主噴射量Gtrqが多い状態では、エンジン回転数NEが高いほど、またはエンジン負荷が大きいほど、より大きな燃焼音が発生しやすくなるので、それを回避し、商品性を高めるためである。
【0040】
次いで、ステップ21に進み、触媒温TCATに応じて、図5に示すマップを検索することにより、目標空燃比の基本値AF_baseを算出する。このマップでは、触媒温TCATが高いほど、目標空燃比の基本値AF_baseがより小さい値すなわちよりリッチ側の値に設定されている。これは、触媒温TCATが高いほど、NOx浄化触媒8におけるNOxの還元性能がより高くなるのに応じて、目標空燃比AF_cmdをよりリッチ側に設定することで、還元制御の実行期間を短縮するためである。
【0041】
次に、ステップ22で、ポスト割合Rpostに応じて、図6に示すマップを検索することにより、第1補正係数Kafpを算出する。このマップでは、第1補正係数Kafpは、Rpost=0のときに値1.0に設定されているとともに、ポスト割合Rpostが大きいほど、より大きい値に設定されている。これは、ポスト割合Rpostが大きくなるほど、ポスト噴射量Gpostがより増大することで、オイルダイリューションが発生しやすくなるので、それを抑制すべく、目標空燃比AF_cmdをよりリーン側の値に補正するためである。
【0042】
ステップ22に続くステップ23で、空間速度SVに応じて、図7に示すマップを検索することにより、第2補正係数Ksvを算出する。この空間速度SVは、排ガス流量と触媒容量との比として算出され、排ガス流量は、エンジン回転数NEおよび空気流量Qinなどを用いて算出される。図7のマップでは、第2補正係数Ksvは、空間速度SVが大きいほど、より大きい値に設定されている。これは、空間速度SVが大きいほど、排ガス中の還元剤がNOx浄化触媒8と接触する確率が低下し、NOx浄化触媒8を通り抜ける還元剤量が増大するので、それを抑制すべく、目標空燃比AF_cmdをよりリーン側の値に補正するためである。
【0043】
次いで、ステップ24に進み、ポスト割合Rpostに応じて、図8に示すマップを検索することにより、第3補正係数Ksvpを算出する。このマップでは、第3補正係数Ksvpは、Rpost=0のときに値1.0に設定されているとともに、ポスト割合Rpostが大きいほど、より大きい値に設定されている。これは、ポスト割合Rpostが大きくなるほど、ポスト噴射量Gpostがより増大することで、オイルダイリューションが発生しやすくなるので、それを抑制すべく、目標空燃比AF_cmdをよりリーン側の値に補正するためである。
【0044】
次に、ステップ25で、以上のように算出した4つの値AF_base,Kafp,Ksv,Ksvpを用い、下式(1)により、目標空燃比AF_cmdを算出する。その後、本処理を終了する。
AF_cmd=AF_base・Kafp・Ksv・Ksvp ……(1)
【0045】
図2に戻り、ステップ6で、目標空燃比AF_cmdを以上のように算出した後、ステップ7に進み、目標空燃比AF_cmdに応じて、図9に示すマップを検索することにより、NOx還元量DQNOxを算出する。このNOx還元量DQNOxは、還元制御の実行中、前回の制御タイミングから今回の制御タイミングまでの間において、NOx浄化触媒8において還元されたと推定されるNOx量に相当するものである。
【0046】
図9のマップでは、NOx還元量DQNOxは、目標空燃比AF_cmdが大きいほど、すなわち目標空燃比AF_cmdがリーン側の値であるほど、より小さい値に設定されている。これは、目標空燃比AF_cmdがリーン側の値であるほど、NOx浄化触媒8に供給される還元剤量が少なくなるので、それに応じて、還元制御の実行期間をより長く設定するためである。
【0047】
次いで、ステップ8に進み、NOx捕捉量S_QNOxを、その前回値S_QNOxZからNOx還元量DQNOxを減算した値(S_QNOxZ−DQNOx)に設定する。次に、ステップ9で、NOx捕捉量S_QNOxが所定の下限しきい値SREF_Lよりも小さいか否かを判別する。この判別結果がNOのときには、そのまま本処理を終了する。
【0048】
一方、ステップ9の判別結果がYESのときには、還元制御を終了すべきであると判定して、ステップ10に進み、それを表すために、還元条件フラグF_RICHを「0」に設定する。その後、本処理を終了する。
【0049】
以上のように、図2の還元制御の実行条件判定処理では、目標空燃比AF_cmdがリーン側の値であるほど、NOx還元量DQNOxがより小さい値になるように算出される。その結果、NOx捕捉量S_QNOxが所定の下限しきい値SREF_Lを下回るまでの期間が長くなることで、還元制御がより長い期間、実行される。すなわち、目標空燃比AF_cmdがリーン側の値であるほど、NOx浄化触媒8に供給される還元剤量が少なくなるのに応じて、還元制御がより長い期間、実行される。
【0050】
次に、図10を参照しながら、ECU2によって実行される吸気制御処理について説明する。この吸気制御処理は、スロットル弁開度THを制御することによって、吸入空気量を制御するものであり、前述した制御周期ΔTで、前述した図2の処理に連続して実行される。
【0051】
同図に示すように、この処理では、まず、ステップ30で、前述した還元条件フラグF_RICHが「1」であるか否かを判別する。この判別結果がYESで、還元制御を実行すべきときには、ステップ31に進み、下式(2)により、目標吸入空気量Gair_cmdを算出する。
Gair_cmd=Gall・AF_cmd ……(2)
なお、総噴射量Gallは、後述する燃料噴射制御処理において算出される。
【0052】
次いで、ステップ32に進み、目標吸入空気量Gair_cmdに応じて、図示しないマップを検索することにより、目標スロットル弁開度TH_cmdを算出する。このマップでは、目標スロットル弁開度TH_cmdは、後述する全開値TH_wotよりも小さい値に設定されている。
【0053】
次に、ステップ33で、目標スロットル弁開度TH_cmdに応じて、図示しないマップを検索することにより、制御入力U_THを算出した後、本処理を終了する。これにより、制御入力U_THに対応する駆動信号がTHアクチュエータ6bに供給されることで、スロットル弁開度THが目標スロットル弁開度TH_cmdになるように制御される。
【0054】
一方、ステップ30の判別結果がNOで、エンジン3をリーン運転すべきときには、ステップ34に進み、目標スロットル弁開度TH_cmdを所定の全開値TH_wotに設定する。次いで、前述したように、ステップ33を実行した後、本処理を終了する。これにより、スロットル弁6aが全開状態に制御される。
【0055】
以上のように、図10の吸気制御処理では、還元条件フラグF_RICH=1で、還元制御中のときには、目標スロットル弁開度TH_cmdが、目標空燃比AF_cmdおよび総噴射量Gallに応じて設定されることによって、NOx浄化触媒8に供給される排ガスの空燃比がリッチ側に制御される。すなわち、HC,COが還元剤としてNOx浄化触媒8に供給される。
【0056】
次に、図11を参照しながら、ECU2によって実行される燃料噴射制御処理について説明する。この燃料噴射制御処理は、燃料噴射弁4による燃料噴射量およびその噴射時期を算出するものであり、TDC信号の発生に同期する制御タイミングで実行される。
【0057】
この処理では、まず、ステップ40で、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じて、図示しないマップを検索することにより、要求トルクTRQを算出する。
【0058】
次いで、ステップ41に進み、エンジン回転数NEおよび要求トルクTRQに応じて、図示しないマップを検索することにより、総噴射量Gallを算出する。この総噴射量Gallは、1回の燃焼サイクル中に気筒3a内に噴射される総燃料量として算出される。
【0059】
次に、ステップ42で、前述した還元条件フラグF_RICHが「1」であるか否かを判別する。この判別結果がYESで、還元制御を実行すべきであるときには、ステップ43に進み、下式(3)により、主噴射量Gtrqを算出する。
Gtrq=Gall・(1−Rpost) ……(3)
【0060】
次いで、ステップ44で、下式(4)により、ポスト噴射量Gpostを算出する。
Gpost=Gall・Rpost ……(4)
【0061】
ステップ44に続くステップ45で、主噴射時期CAtrqを算出する。この主噴射時期CAtrqは、主噴射量Gtrqの噴射開始タイミングであり、主噴射量Gtrqおよびエンジン回転数NEに応じて、図示しないマップを検索することにより算出される。
【0062】
次いで、ステップ46に進み、ポスト噴射時期CApostを算出する。このポスト噴射時期CApostは、ポスト噴射量Gpostの噴射開始タイミングであり、ポスト噴射量Gpostおよびエンジン回転数NEに応じて、図示しないマップを検索することにより算出される。ステップ46で、以上のようにポスト噴射時期CApostを算出した後、本処理を終了する。
【0063】
一方、ステップ42の判別結果がNOで、エンジン3をリーン運転すべきときには、ステップ47に進み、リーン運転用の燃料噴射制御処理を実行する。このリーン運転用の燃料噴射制御処理では、エンジン3の運転状態および総噴射量Gallに基づき、主噴射量Gtrqに加えて、ポスト噴射量Gpostおよびパイロット噴射量などが算出されるとともに、これらの噴射量の噴射時期がそれぞれ算出される。ステップ47で、以上のようにリーン運転用の燃料噴射制御処理を実行した後、本処理を終了する。
【0064】
以上のように、本実施形態の排ガス浄化装置1によれば、還元条件フラグF_RICH=1で還元制御中のときには、目標空燃比の基本値AF_baseに、3つの補正係数Kafp,Ksv,Ksvpを乗算することにより、目標空燃比AF_cmdが算出される(ステップ25)とともに、2つの補正係数Kafp,Ksvpが、ポスト割合Rpostに応じて算出される。このポスト割合Rpostは、ポスト噴射量Gpostの総噴射量Gallに対する割合、言い換えればポスト噴射量Gpostと主噴射量Gtrqの割合を表すものであるので、還元剤におけるCOおよびHCの割合に応じて、目標空燃比AF_cmdを適切に算出することができる。これに加えて、目標空燃比AF_cmdに基づいて、NOx還元量DQNOxが算出されるとともに、このNOx還元量DQNOxは、還元制御の実行期間を決定するものであるので、還元剤におけるHCとCOの割合に応じて、還元制御の実行期間を適切に決定することができる。以上のように、還元制御の実行中、還元剤がNOx浄化触媒8に対して過不足無く供給されるように、目標空燃比AF_cmdおよび還元制御の実行期間を決定することができることで、燃費およびNOx浄化触媒8の下流側の排ガス特性をいずれも向上させることができる。
【0065】
また、2つの補正係数Kafp,Ksvpは、ポスト割合Rpostが大きいほど、より大きい値になるように算出されるので、ポスト噴射量Gpostの主噴射量Gtrqに対する割合が大きいほど、目標空燃比AF_cmdがよりリーン側の値に設定される。すなわち、ポスト噴射量Gpostが多くなることで、オイルダイリューションが発生しやすい状況であるほど、目標空燃比AF_cmdがよりリーン側の値に設定されるので、オイルダイリューションの発生を抑制することができる。これに加えて、ポスト噴射量Gpostが多くなることで、NOx浄化触媒8を通り抜けるHCが多くなりやすい状況であるほど、目標空燃比AF_cmdがよりリーン側の値に設定されるので、NOx浄化触媒8の下流側の排ガス特性を確実に向上させることができる。
【0066】
これに加えて、図9に示すように、目標空燃比AF_cmdがよりリーン側の値に設定されるほど、NOx還元量DQNOxがより小さい値になるように算出されることで、還元制御の実行期間がより長い期間に設定される。すなわち、ポスト噴射量Gpostが多くなることで、還元剤として、COと比べて反応速度の遅いHCが排ガス中に多い状況であるほど、還元制御がより長い期間、実行されるので、NOx浄化触媒8の下流側の排ガス特性を確実に向上させることができる。
【0067】
なお、実施形態では、図2のステップ7において、図9に示すマップを用いてNOx還元量DQNOxを算出したが、図9に代えて、図12に示すマップを用いてNOx還元量DQNOxを算出してもよい。同図12のマップでは、NOx還元量DQNOxが、検出空燃比AF_actに応じて設定されているとともに、その設定傾向は、図9と同様に構成されている。このマップを用いてNOx還元量DQNOxを算出した場合、目標空燃比AF_cmdが前述したように算出されるとともに、検出空燃比AF_actが目標空燃比AF_cmdになるように制御されるので、実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0068】
また、実施形態は、第1燃料量として、主噴射量Gtrqを用いた例であるが、本発明の第1燃料量はこれに限らず、気筒内で燃焼させる燃料の量であればよい。例えば、燃料噴射制御において、主噴射と、それよりも前のタイミングでパイロット噴射を実行するように構成するとともに、主噴射量Gtrqとパイロット噴射量との和を、第1燃料量として用いてもよい。
【0069】
さらに、実施形態は、還元制御の実行中、目標空燃比AF_cmdおよび還元制御の実行期間の双方を、指標値としてのポスト割合Rpostに応じて設定した例であるが、目標空燃比AF_cmdおよび還元制御の実行期間の一方を、ポスト割合Rpostに応じて設定するように構成してもよい。
【0070】
また、実施形態は、指標値として、ポスト割合Rpostを用いた例であるが、本発明の指標値はこれに限らず、第1燃料量と第2燃料量の関係を表すものであればよい。例えば、指標値として、主噴射量Gtrqの総噴射量Gallに対する比(1−Rpost)や、ポスト噴射量Gpostの主噴射量Gtrqに対する比[Rpost/(1−Rpost)]、主噴射量Gtrqのポスト噴射量Gpostに対する比[(1−Rpost)/Rpost]を用いてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 排ガス浄化装置
2 ECU(還元制御手段)
3 内燃機関
3a 気筒
7 排気通路
8 NOx浄化触媒
AF_cmd 目標空燃比
Gtrq 主噴射量(第1燃料量)
Gpost ポスト噴射量(第2燃料量)
Rpost ポスト割合(指標値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内で燃焼させるための燃料が第1燃料として当該気筒内に供給されるとともに、排ガスを還元雰囲気にするための燃料が第2燃料として排気通路に供給される内燃機関において、前記排気通路内の排ガスを浄化する内燃機関の排ガス浄化装置であって、
前記排気通路に設けられ、酸化雰囲気の排ガス中のNOxを捕捉するとともに、還元剤を含む還元雰囲気の排ガスが供給されることにより、当該捕捉したNOxを還元することによって浄化するNOx浄化触媒と、
前記NOx浄化触媒にNOxの還元動作を行わせるために、前記NOx触媒に流入する排ガスを還元雰囲気に制御する還元制御を実行する還元制御手段と、
を備え、
当該還元制御手段は、前記還元制御の実行中、排ガスの空燃比の目標となる目標空燃比および前記還元制御の実行期間の少なくとも一方を、前記第1燃料量および前記第2燃料量の関係を表す指標値に応じて設定することを特徴とする内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記指標値は、前記第1燃料量と前記第2燃料量の割合を表す値であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記第2燃料は、前記第1燃料の供給後に前記気筒内に供給され、
前記還元制御手段は、前記指標値によって表される、前記第1燃料量に対する前記第2燃料量の割合が大きいほど、前記目標空燃比をよりリーン側の値に設定することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記第2燃料は、前記第1燃料の供給後に前記気筒内に供給され、
前記還元制御手段は、前記指標値によって表される、前記第1燃料量に対する前記第2燃料量の割合が大きいほど、前記還元制御の前記実行期間をより長い期間に設定することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−209784(P2010−209784A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56424(P2009−56424)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】