説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】冷間始動後にはパティキュレートフィルタの差圧を用いたPM堆積量の推定方法を無効化することによってパティキュレートフィルタにおけるPM堆積量推定の精度悪化を抑制できる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】エンジン始動(S10)後に、エンジン停止時にメモリに記憶させておいたDPFにおけるPM堆積量の推定値を呼び出して(S20)、さらに現在の差圧を計測して(S30)、その差圧値から現在のPM堆積量を推定する(S40)。そして両推定値の差分を算出し、その差分が所定値A1よりも小さければ差圧を用いたPM堆積量推定を有効化するが(S60)、差分が所定値A1よりも大きければ差圧を用いたPM堆積量推定を無効化して運転履歴式推定を有効化する(S70)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、環境保護意識の高まりのなかで内燃機関に対してすぐれた排気浄化性能が求められている。特にディーゼルエンジンにおいては、エンジンから排出される黒煙などのいわゆる排気微粒子(または粒子状物質、パティキュレートマター、PM)の除去がより一層の普及のために重要である。この目的のために排気管の途中にディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)が装備されることが多い。
【0003】
DPFがPMを捕集することにより排気中のPMは大部分が除去されるが、DPF内にPMが堆積し続ける一方では、DPFは目詰まりを起こしてしまうので、堆積されたPMを燃焼して除去することで、DPFを再生する必要がある。DPF内に堆積したPMを燃焼するためにシリンダ内でのメイン噴射後のポスト噴射などの手法が採られる。
【0004】
DPFの再生のために燃料が消費されるので、頻繁なDPF再生は燃費の悪化を招いてしまう。一方DPF再生の回数が少なすぎると、堆積量が過剰となり再生処理において昇温し過ぎてDPFが破損する可能性がある。したがってDPF再生は適切な時期に行わなければならない。そのためにDPFにおけるPMの堆積量を何らかの方法でできるだけ正確に推定し、その推定値がDPF再生を必要とするレベルに達したら再生を実行するシステムの開発が必要である。
【0005】
下記特許文献1には、パティキュレートフィルタへの排気微粒子の堆積量の増大による通気抵抗の増大で、パティキュレートフィルタの入口と出口との間の圧力の差である差圧が増大することを利用して、この差圧を検出し、検出差圧が所定値を超えると再生すべき時期だと判断する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−332065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PM堆積量とDPF差圧(DPF圧損)との関係は、一般に図8に示された関係となる(あるいは近似される)ことが知られている。すなわち、内燃機関の運転が続いてDPFへのPM堆積が進行するに従ってPM堆積量とDPF差圧(圧損)とを示す点は、図8に示された初期点100から実線110上を図示右上へ移動し、さらに遷移点120以後は実線130上を図示右上へ移動する。
【0008】
そして点140に達したらPMの燃焼を開始すると、以後PM堆積量とDPF差圧を示す点は破線150、遷移点160、破線170を通って初期点100へ戻る。実線110、破線150はDPFのフィルタ壁の壁内にPMが堆積する段階に対応し、実線130、破線170はフィルタ壁の壁面上にPMが堆積する段階に対応する。
【0009】
図8の特性を用いてPM堆積量を推定する場合においては当然、差圧の値が精度良く求められることが必要である。しかし内燃機関が冷間始動した(つまりエンジンが完全に冷え切った状態から始動した、あるいは冬場などの気温が低い状態で始動した)後には差圧が低下してしまう現象が発生することが確認されている。こうした現象が発生する原因は現状では不明だが、差圧が正しい値ではないために図8を用いて正確なPM堆積量を推定することはできない。したがって冷間始動後には、差圧値が正しい値に回復するまでは差圧を用いてPM堆積量を推定する方法ではなく別の方法を用いるシステムを構築しなければならない。
【0010】
そこで本発明が解決しようとする課題は、上記問題点に鑑み、冷間始動後にはパティキュレートフィルタの差圧を用いたPM堆積量の推定方法を無効化することによってパティキュレートフィルタにおけるPM堆積量推定の精度が悪化することを抑制できる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0011】
上記課題を達成するために、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置は、排気通路の途中に配置されて粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタを備えた内燃機関の排気浄化装置であって、前記パティキュレートフィルタの上流側と下流側との圧力の差である差圧を計測する差圧計測手段と、前記差圧計測手段によって計測された前記差圧から前記パティキュレートフィルタにおける前記粒子状物質の堆積量を推定する差圧式推定手段と、前記内燃機関が冷間始動後に前記差圧が低下している可能性を有する状態である差圧低下可能状態にあることを判別する判別手段と、前記判別手段によって前記内燃機関が前記差圧低下可能状態にあると判別された場合に前記差圧式推定手段を無効化する無効化手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
これにより本発明に係る内燃機関の排気浄化装置では、冷間始動後に差圧が低下している可能性を有する状態である差圧低下可能状態にある場合には差圧を用いてパティキュレートフィルタにおける粒子状物質の堆積量を推定することを無効化するので、冷間始動が原因で粒子状物質の堆積量の推定精度が低減することが抑制できる。したがって精度が悪い堆積量推定値をもとにしてパティキュレートフィルタの再生を実行することが回避できるので、真の堆積量が多すぎて再生時に過昇温が発生することや頻繁すぎる再生で燃費悪化を招くことが抑制できる。
【0013】
また前記内燃機関の停止時に前記差圧式推定手段によって推定された前記堆積量の推定値を記憶する記憶手段を備え、前記判別手段は、前記内燃機関の始動後に前記差圧式推定手段によって推定された前記堆積量の推定値と前記記憶手段によって記憶された前記堆積量の推定値との差分が第1の所定値よりも大きい場合に前記差圧低下可能状態であると判別するとしてもよい。
【0014】
これにより内燃機関の停止時と再始動時との粒子状物質の堆積量の推定値の差分が大きすぎることによって、冷間始動後に差圧が低下している可能性を有する状態である差圧低下可能状態にあることが精度よく判別できる。したがって差圧低下可能状態にあることを精度よく判別して差圧式推定を無効化するので、冷間始動が原因で粒子状物質の堆積量の推定精度が低減することが抑制でき、真の堆積量が多すぎて再生時に過昇温が発生することや頻繁すぎる再生で燃費悪化を招くことが抑制できる。また停止時の堆積量を記憶しておけばよいのみなので本発明のための余計な装備を必要としないとの効果もある。
【0015】
また前記内燃機関の冷却水の温度を計測する水温計測手段を備え、前記判別手段は、前記水温計測手段によって計測された前記冷却水の温度が第2の所定値よりも小さい場合に前記差圧低下可能状態であると判別するとしてもよい。
【0016】
これにより冷却水の温度が低すぎることによって、冷間始動後に差圧が低下している可能性を有する状態である差圧低下可能状態にあることが精度よく判別できる。したがって差圧低下可能状態にあることを精度よく判別して差圧式推定を無効化するので、冷間始動が原因で粒子状物質の堆積量の推定精度が低減することが抑制でき、真の堆積量が多すぎて再生時に過昇温が発生することや頻繁すぎる再生で燃費悪化を招くことが抑制できる。また通常冷却水の水温を計測する装置は装備されているので、それを用いればよく効率的である。
【0017】
また前記内燃機関の始動後の経過時間を計測する時間計測手段を備え、前記判別手段は、前記時間計測手段によって計測された前記経過時間が第3の所定値よりも小さい場合に前記差圧低下可能状態であると判別するとしてもよい。
【0018】
これにより内燃機関の始動後の経過時間が短すぎることによって冷間始動後に差圧が低下している可能性を有する状態である差圧低下可能状態にあることが精度よく判別できる。したがって差圧低下可能状態にあることを精度よく判別して差圧式推定を無効化するので、冷間始動が原因で粒子状物質の堆積量の推定精度が低減することが抑制でき、真の堆積量が多すぎて再生時に過昇温が発生することや頻繁すぎる再生で燃費悪化を招くことが抑制できる。さらに単に時間の計測を用いるのみなので簡素な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ説明する。まず図1は、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置1の実施例1における概略構成図である。
【0020】
排気浄化装置1は、4気筒のディーゼルエンジン2(以下では単にエンジンと称する)に対して構成されており、吸気管3、排気管4、排気還流管5を備える。エンジン2に接続された吸気管3からエンジン2に空気が供給され、排気管4へ排気が排出される。排気還流管5によって排気管5から吸気管4へと排気が還流されて筒内の燃焼反応を抑制してエンジン2からのNOxの排出量を低減することができる。
【0021】
エンジン2にはインジェクタ21、エンジン回転数センサ22が装備されている。インジェクタ21によってシリンダ内に燃料が供給される。エンジン回転数センサ22は例えばクランク角センサであり、これの計測値からエンジン2の回転数が算出されるとすればよい。
【0022】
排気管5の途中にはディーゼルパティキュレートフィルタ6(DPF)が配置されている。DPF6は酸化触媒が担持されている酸化触媒付きDPF(C―DPF)とすればよい。DPF6の入口側と出口側とにはそれぞれ排気温度センサ61、62が配置されて、それぞれの位置における排気温度が計測される。またDPF6の入口側と出口側における排気圧の差である差圧(DPF差圧)を計測する差圧センサ63も装備されている。
【0023】
DPF6は例えば代表的な構造として、いわゆるハニカム構造において入口側と出口側を交互に目詰めした構造とすればよい。エンジン2の運転中に排出される排気には粒子状物質(PM)が含まれ、このPMはDPF6の上記構造のDPF壁を排気が通過するときに、このDPF壁の内部あるいは表面に捕集される。DPF6に堆積したPMの堆積量が十分大きくなった度ごとに、堆積したPMを燃焼することによって除去し、DPF6を再生しなければならない。DPF6の再生のための方法として、例えばインジェクタ21からメイン噴射後にポスト噴射をおこない、それによりDPF6に未燃HC(炭化水素)を供給する。そして未燃HCが触媒の作用によって燃焼してDPF6を昇温し、DPF6に堆積したPMを燃焼させる。
【0024】
また排気浄化装置1は電子制御装置7(ECU)を備える。ECU7によりインジェクタ21によるエンジン2への燃料噴射における噴射量や噴射のタイミングが制御される。またエンジン回転数センサ22、排気温度センサ61、62、吸気量センサ(図示していない)、差圧センサ63の計測値もECU7へ送られる。ECU7は各種演算をおこなうCPUと各種情報の記憶を行うメモリ71とを有する構造とする。
【0025】
またECU7は時間を計測するためのタイマ72も備えるとする。またメモリ71には差圧式推定フロー73が記憶されている。差圧式推定フロー73は、差圧センサによって計測されてECU7に送信された差圧とメモリ71に記憶された図8の特性とからDPF6におけるPM堆積量の推定値を算出するためのフローである。
【0026】
実施例1における冷間からのエンジン2の始動時におけるDPF6のPM堆積量推定処理の手順が図2に示されている。図2(及び後述する図3、図4、図5)の処理がECU7によって自動的に順次実行されるとすればよい。
【0027】
まず手順S10でエンジン2を始動する。これはエンジン2が使用者によって始動されたら、S20以降の処理が自動的に開始されるとの意味であるとしてもよい。次にS20でエンジン停止時のDPF6におけるPM堆積量の推定値を取得する。ここでエンジン停止時とは最も最近エンジン2を停止させた時とする。この手順のためにエンジン2を停止させた時にECU7(あるいは差圧式推定フロー73)によって推定されたPM堆積量の推定値をメモリ71に記憶しておき、S20でその数値を呼び出せばよい。
【0028】
次にS30で現在の差圧値を差圧センサ63によって計測する。そしてS30で計測された差圧値と差圧式推定フロー73とから、S40でDPF6におけるPM堆積量(現在値)を推定する。
【0029】
そしてS50において、S20で取得したエンジン停止時のPM堆積量の推定値とS40で求めた現在のPM堆積量の推定値との差分を算出する。そしてその差分値(の絶対値)が所定値(第1の所定値)よりも小さいかどうかを判断する。図2ではその所定値をA1としている。差分値が所定値よりも小さい場合(S40:Yes)、S60へ進み、差分値が所定値以上の場合(S40:No)、S70へ進む。
【0030】
S70へ進んだ場合はエンジン停止時のPM堆積量の推定値と現在のPM堆積量の推定値とが大きく離れている場合である。したがってS70では、冷間始動時における差圧の低下現象が発生している可能性があると判断して、差圧式推定を無効化して、運転履歴式推定を有効化する。運転履歴式推定の具体的方法は後で説明する。
【0031】
一方S60へ進んだ場合はエンジン停止時のPM堆積量の推定値と現在のPM堆積量の推定値とが十分近い場合である。したがってS60では、冷間始動時における差圧の低下現象が発生していないと判断して、差圧式推定を有効化して図2の処理を終了する。図2の処理の終了後においてECU7は、差圧式推定フロー73をメモリ71から呼び出して実行して、DPF6におけるPM堆積量をモニターしていけばよい。
【0032】
次に運転履歴式推定の方法について説明する。運転履歴式推定の骨子は、図6を用いてエンジン2からのPMの排出量を求め、図7を用いてPMの燃焼量を算出し、そして両者の差をDPF6におけるPMの堆積量とするというものである。
【0033】
まず図6を説明する。図6は縦軸をインジェクタ21による燃料噴射量、横軸をエンジン2のエンジン回転数としたエンジン2の運転状態を示す平面である。運転履歴式推定では、この平面を複数の領域に、例えば図6に示されているようにメッシュ状に分割する。そして個々の領域におけるエンジン2からの単位時間当たりのPM排出量を予め求めておく。
【0034】
以上をメモリ71に記憶しておけばよい。そして運転履歴に従って運転状態を示す平面上を移動して、通過した領域におけるエンジン2からの単位時間当たりのPM排出量を積算していく。これによりエンジン2からのPM排出量が算出される。なお燃料噴射量はECU7からインジェクタ21への燃料噴射量の指令値とすればよい。またエンジン回転数はエンジン回転数センサ22によって検出すればよい。
【0035】
次に図7を説明する。これは縦軸をPM燃焼速度(単位時間当たりのPM燃焼量)、横軸を排気温度としたPMの燃焼に関する特性である。ここでのPMの燃焼とは上述のポスト噴射による燃焼ではなく、排気温度が高いことによって自然に燃える現象を指すとすればよい。図7に示されているように、PM燃焼速度は排気温度に対する単調増加関数となる。
【0036】
運転履歴式推定においては、排気温度センサ61、62によって排気温度を求めて、その排気温度と図7によってPMの燃焼速度を取得する。これを積算すればPMの燃焼量が算出できる。このように図6によって得られたPMの排出量と図7によって得られたPMの燃焼量との差を求める。この差の値がDPF6におけるPMの堆積量とみなされる。以上が運転履歴式推定である。図6や図7の特性は予め求めておいてメモリ71に記憶しておけばよい。
【0037】
次に実施例2を説明する。実施例1では差圧が低下している可能性があるかどうかをエンジン停止時と再始動後のPM堆積量推定値の差分から判定したが、実施例2においては、エンジン水温から判定する。以下で実施例1と異なる部分のみ説明する。実施例2では、実施例1における図2が図3へと変更される。
【0038】
図3の処理手順ではまずS110でエンジンを始動する。これはエンジン2が始動されたらS120以降の処理が自動的に開始されるとの意味だとしてもよい。次にS120ではエンジン水温を計測する。ここでエンジン水温とはエンジン2の冷却水の温度を指し、水温センサ80によって計測すればよい。
【0039】
次にS130では、S120で計測したエンジン水温が所定値(第2の所定値)より大きいかどうかが判断される。図3ではこの所定値をA2としている。エンジン水温が所定値より大きい場合は(S130:Yes)、S150へ進み、エンジン水温が所定値以下の場合は(S130:No)、S140へ進む。
【0040】
S140へ進んだ場合はエンジン水温が大きく低下している場合である。したがってS140では、冷間始動時であり差圧の低下現象が発生している可能性があるとみなして差圧式推定を無効化して、運転履歴式推定によってDPF6におけるPM堆積量を推定する。S140において運転履歴式推定を実行してDPF6のPM堆積量を更新したら、再びS120へ戻り上述の処理を繰り返す。
【0041】
一方S150へ進んだ場合はエンジン水温がそれほど低下していない場合である。したがってS150では、冷間始動時ではないと判断して、差圧式推定を有効化して図3の処理を終了する。図3の処理の終了後においてECU7は、差圧式推定フロー73をメモリ71から呼び出して実行して、DPF6におけるPM堆積量をモニターしていけばよい。
【0042】
次に実施例3を説明する。実施例3では差圧が低下している可能性があるかどうかを、エンジン始動からの経過時間によって判別する。以下で実施例1と異なる部分のみ説明する。実施例3では、実施例1における図2が図4へと変更される。
【0043】
図4の処理手順ではまずS210でエンジンを始動する。これはエンジン2が始動されたらS220以降の処理が自動的に開始されるとの意味だとしてもよい。次にS220でタイマ72をスタートして、エンジン始動からの経過時間の計測を開始する。
【0044】
次にS230では、タイマ72によって計測されているエンジン始動からの経過時間が所定値(第3の所定値)より大きいかどうかが判断される。図4ではその所定値をA3としている。エンジン始動からの経過時間が所定値より大きい場合は(S230:Yes)、S250へ進み、エンジン始動からの経過時間が所定値以下の場合は(S230:No)、S240へ進む。
【0045】
S240へ進んだ場合はエンジン始動からの経過時間が短い場合である。したがってS240では、冷間始動時ならばエンジン始動からの経過時間が短いので差圧の低下現象がまだ続いている可能性があるとの理由から差圧式推定を無効化して、運転履歴式推定によってDPF6におけるPM堆積量を推定する。S240において運転履歴式推定を実行してDPF6のPM堆積量を更新したら、再びS230へ戻り上述の処理を繰り返す。
【0046】
一方S250へ進んだ場合はエンジン始動からの経過時間が十分長い場合である。したがってS250では、例え冷間始動時であってもエンジン始動からの経過時間が長いので差圧の低下現象は終わっているとの判断から、差圧式推定を有効化して図4の処理を終了する。図4の処理の終了後においてECU7は、差圧式推定フロー73をメモリ71から呼び出して実行して、DPF6におけるPM堆積量をモニターしていけばよい。
【0047】
次に実施例4を説明する。実施例4は実施例2と実施例3との組み合わせであり、差圧が低下している可能性があるかどうかをエンジン水温とエンジン始動からの経過時間の両方から判定する。これにより図3、図4が組み合わされて、図5が得られる。構成図は図1と同じであるとすればよい。
【0048】
図5の処理手順ではまずS310でエンジンを始動する。これはエンジン2が始動されたらS320以降の処理が自動的に開始されるとの意味だとしてもよい。次にS320でタイマ72をスタートする。これによりエンジン始動からの経過時間の計測が開始される。次にS330ではエンジン水温を計測する。ここでエンジン水温とは、エンジン2の冷却水の温度を指し、水温センサ80によって計測すればよい。
【0049】
次にS340では、S330で計測したエンジン水温が所定値A2(第2の所定値)より大きいかどうかが判断される。エンジン水温が所定値より大きい場合は(S340:Yes)、S350へ進み、エンジン水温が所定値以下の場合は(S340:No)、S360へ進む。
【0050】
次にS350では、タイマ72によって計測されているエンジン始動からの経過時間が所定値A3(第3の所定値)より大きいかどうかが判断される。エンジン始動からの経過時間が所定値より大きい場合は(S350:Yes)、S370へ進み、エンジン始動からの経過時間が所定値以下の場合は(S350:No)、S360へ進む。
【0051】
S360へ進んだ場合はエンジン水温が大きく低下しているか、またはエンジン始動からの経過時間が短い場合である。したがってS360では、冷間始動時で差圧の低下が発生している可能性があり、エンジン始動からの経過時間が短いので差圧の低下現象がまだ続いている可能性があるとみなす。そして差圧式推定を無効化して、運転履歴式推定によってDPF6におけるPM堆積量を推定する。S360において運転履歴式推定を実行してDPF6のPM堆積量を更新したら、再びS330へ戻り上述の処理を繰り返す。
【0052】
一方S370へ進んだ場合はエンジン水温がそれほど低下していないか、あるいはエンジン始動からの経過時間が長い場合である。したがって冷間始動時であっても始動からの経過時間が長いので差圧の低下現象は終わったとみなせる場合である。したがってS370では、差圧式推定を有効化して図5の処理を終了する。
【0053】
図5の処理の終了後においてECU7は、差圧式推定フロー73をメモリ71から呼び出して実行してDPF6におけるPM堆積量をモニターしていけばよい。以上が実施例4である。実施例4ではエンジン水温とエンジン始動からの経過時間の両方を用いることによって、差圧が低下する現象が発生しているかどうか、およびそれが続いているかどうかに関する判別の精度を向上することができる。
【0054】
実施例1における図2のS70を、図3においてS120、S130、S140からなる部分に置き換えても良い。この場合、S50でエンジン停止時と現在のPM堆積量とから差圧低下現象が起こっているかを判定した上で、さらにエンジン水温を用いていつまで運転履歴式推定を続けるかを決定できる。したがって実施例1と実施例2との効果が複合して得られる。
【0055】
また実施例1における図2のS70を、図4においてS230、S240からなる部分に置き換えても良い(S220も図2のS10の次に挿入する)。この場合、S50でエンジン停止時と現在のPM堆積量とから差圧低下現象が起こっているかを判定した上で、さらにエンジン始動からの経過時間を用いていつまで運転履歴式推定を続けるかを決定できる。したがって実施例1と実施例3との効果が複合して得られる。
【0056】
また実施例1における図2のS70を、図5においてS330、S340、S350、S360からなる部分に置き換えても良い(S320も図2のS10の次に挿入する)。この場合、S50でエンジン停止時と現在のPM堆積量とから差圧低下現象が起こっているかを判定した上で、さらにエンジン水温とエンジン始動からの経過時間とを用いていつまで運転履歴式推定を続けるかを決定できる。したがって実施例1と実施例4との効果が複合して得られる。
【0057】
上記実施例において、差圧センサ63が差圧計測手段を構成する。差圧式推定フロー73が差圧式推定手段を構成する。S50、S130、S230、S340、S350の手順が判別手段を構成する。S70、S140、S240、S360の手順が無効化手段を構成する。メモリ71が記憶手段を構成する。S120、S330の手順が水温記憶手段を構成する。タイマ72及びS220、S320の手順が時間計測手段を構成する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の実施形態における概略構成図。
【図2】実施例1における冷間始動時PM堆積量推定処理を示すフローチャート。
【図3】実施例2における冷間始動時PM堆積量推定処理を示すフローチャート。
【図4】実施例3における冷間始動時PM堆積量推定処理を示すフローチャート。
【図5】実施例4における冷間始動時PM堆積量推定処理を示すフローチャート。
【図6】運転状態を示す平面上での運転履歴の例を示す図。
【図7】PM燃焼速度と排気温度との関係を示す図。
【図8】PM堆積量とDPF圧損との関係を示す図。
【符号の説明】
【0059】
1 排気浄化装置
2 ディーゼルエンジン(エンジン、内燃機関)
3 吸気管
4 排気管(排気通路)
6 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF、パティキュレートフィルタ)
7 電子制御装置(ECU)
21 インジェクタ
61、62 排気温度センサ
63 差圧センサ
71 メモリ
72 タイマ
73 差圧式推定フロー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路の途中に配置されて粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタを備えた内燃機関の排気浄化装置であって、
前記パティキュレートフィルタの上流側と下流側との圧力の差である差圧を計測する差圧計測手段と、
前記差圧計測手段によって計測された前記差圧から前記パティキュレートフィルタにおける前記粒子状物質の堆積量を推定する差圧式推定手段と、
前記内燃機関が冷間始動後に前記差圧が低下している可能性を有する状態である差圧低下可能状態にあることを判別する判別手段と、
前記判別手段によって前記内燃機関が前記差圧低下可能状態にあると判別された場合に前記差圧式推定手段を無効化する無効化手段とを備えたことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記内燃機関の停止時に前記差圧式推定手段によって推定された前記堆積量の推定値を記憶する記憶手段を備え、
前記判別手段は、前記内燃機関の始動後に前記差圧式推定手段によって推定された前記堆積量の推定値と前記記憶手段によって記憶された前記堆積量の推定値との差分が第1の所定値よりも大きい場合に前記差圧低下可能状態であると判別する請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記内燃機関の冷却水の温度を計測する水温計測手段を備え、
前記判別手段は、前記水温計測手段によって計測された前記冷却水の温度が第2の所定値よりも小さい場合に前記差圧低下可能状態であると判別する請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記内燃機関の始動後の経過時間を計測する時間計測手段を備え、
前記判別手段は、前記時間計測手段によって計測された前記経過時間が第3の所定値よりも小さい場合に前記差圧低下可能状態であると判別する請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−221862(P2009−221862A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64256(P2008−64256)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】