説明

内燃機関の硫黄臭防止装置

【課題】 エンジン暖機後の硫黄臭の発生・体感を防止する。
【解決手段】 エンジン暖機後のアイドル運転時若しくは低車速運転時(S1)で、かつ、少なくとも触媒温度が高い硫黄臭発生条件のとき(S2)に、排気通路の触媒上流に二次空気を供給する(S3)。これにより、排気を酸化雰囲気にし、H2SをSO2等に酸化して、硫黄臭の発生を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用内燃機関の排気の硫黄臭防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、NOx吸蔵触媒の硫黄被毒を解除する際に、テールパイプから大気中にH2S(硫化水素)が放出されて、硫黄臭を生じるのを防止するため、NOx吸蔵触媒の下流に二次空気を供給してH2Sを酸化処理することが開示されている。
【特許文献1】特開2002−309929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1では、NOx吸蔵触媒の硫黄被毒解除時の硫黄臭についてのみ対策しているが、本発明者らは、硫黄臭がより問題となるシーンについて検討し、一定の結論を得た。
すなわち、硫黄臭の発生メカニズム自体は解明できていないものの、本発明者らの検討により、硫黄臭は三元触媒などにおいても触媒温度が高いときに発生し、アイドル運転時若しくは低車速運転時にこれを強く体感することがわかった。
【0004】
本発明は、このような点から、硫黄臭の体感を極力防止できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、本発明では、機関暖機後のアイドル運転時若しくは低車速運転時で、かつ、少なくとも触媒温度が高い硫黄臭発生条件のときに、排気通路の触媒上流に二次空気を供給する構成とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、硫黄臭の発生しやすい条件と、これを体感しやすい条件とを考慮して、二次空気を供給し、排気を酸化雰囲気とすることで、硫黄臭の元となるH2SをSO2等に酸化して、硫黄臭の体感を極力防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施形態を示すエンジンのシステム図である。
エンジン1の吸気通路2には、吸気マニホールド3の入口側に位置させて、吸入空気量を制御する電制スロットル弁4が設置されている。電制スロットル弁4は、エンジンコントロールユニット(以下ECUという)20からの信号により作動するステップモータ等により開度制御される。但し、アクセルペダルにワイヤ等で連結された機械式のスロットル弁を用いてもよい。
【0008】
吸気マニホールド3の出口側のブランチ部には、各気筒の吸気ポート5に燃料を噴射する燃料噴射弁6が取付けられている。燃料噴射弁6は、ECU20からエンジン回転に同期して出力される噴射パルス信号により、そのパルス幅によって定められる時間、ソレノイドに通電されて開弁し、所定圧力に調圧された燃料を噴射する。
電制スロットル弁4の制御を受けた空気と、燃料噴射弁6から噴射された燃料は、吸気弁7が開いたときに、エンジン1の燃焼室8に吸入される。
【0009】
燃焼室8内に吸入された空気と燃料は、混合気を形成し、ECU20により制御される点火時期にて、点火プラグ9により点火されて燃焼する。燃焼後の排気は、排気弁10を介して、排気通路11(排気ポート12)へ排出される。排気通路11は、シリンダヘッド内に気筒毎に形成される排気ポート12、これらの出口側に接続される排気マニホールド13などから構成されており、排気マニホールド13の集合部下流に三元触媒等の排気浄化触媒14が設けられている。
【0010】
ここで、排気通路11の触媒14上流、特に排気の高温部であるシリンダヘッド内の各気筒の排気ポート12へ二次空気を供給すべく、二次空気供給装置として、電動式エアポンプ15が設けられ、その吐出側は、遮断弁16を介し、更に分配用の配管(ギャラリー)17を介して、気筒毎の排気ポート12に開口する二次空気供給通路18に接続されている。尚、ここでは二次空気を排気ポート12に供給しているが、排気通路11の触媒14上流であればよく、また、気筒毎、気筒グループ毎、全気筒共通のいずれでもよい。
【0011】
ECU20には、アクセルペダルセンサ21により検出されるアクセル開度APO(アクセル全閉時にONとなるアイドルスイッチの信号を含む)、クランク角センサ22により検出されるエンジン回転数Ne、エアフローメータ23により検出される吸入空気量Qa、水温センサ24により検出されるエンジン冷却水温Tw、空燃比センサ25により検出される排気空燃比、触媒温度センサ26により検出される触媒温度Tc、車速センサ27により検出される車速VSPなどが、必要に応じて、入力されている。
【0012】
ECU20は、これらの入力信号より検出されるエンジン運転条件に基づいて、電制スロットル弁4の開度、燃料噴射弁6の燃料噴射時期及び燃料噴射量、点火プラグ9の点火時期などを制御する。また、エアポンプ15、遮断弁16の作動を制御する。尚、遮断弁16はエアポンプ15のON時に開、OFF時に閉とするもので、エアポンプ15自体がOFF時の遮断機能を有しているときは省略できる。
【0013】
ここにおいて、始動直後などで触媒昇温要求がある場合、例えば、触媒温度センサ26により検出される触媒温度Tcが所定の活性温度より低い場合に、エンジン側の空燃比をリッチに設定して、排気ポート12に多量の未燃燃料を排出させた状態で、エアポンプ15をONにすると共に、遮断弁16を開いて、排気ポート12に二次空気を供給する。すなわち、排気ポート12に多量の未燃燃料を排出させ、これを二次空気の供給により再燃焼させることにより、排気温度を上昇させ、触媒14の早期活性化を図る。
【0014】
その一方、本発明では、エンジン暖機後の硫黄臭対策として、二次空気供給装置を利用し、硫黄臭防止制御を実行する。
図2は、エンジン暖機後に行われる硫黄臭防止制御の第1実施例のフローチャートである。
S1では、硫黄臭を体感しやすい条件か否かの判定のため、アイドルスイッチからの信号に基づいて、アイドル運転時(アイドルスイッチON)か否かを判定する。又は、車速センサからの信号に基づいて、極低車速運転時(車速VSPが所定値以下)か否かを判定する。この他、アイドル運転状態(アイドルスイッチON)での停車時(車速VSP=0のとき)か否か、或いは、アイドル運転状態(アイドルスイッチON)での極低車速時(車速VSP≦所定値)か否かを判定してもよい。
【0015】
S1での判定の結果、YESの場合にS2へ進み、NOの場合はS1へ戻る。
S2では、硫黄臭発生条件か否かの判定のため、触媒温度センサにより検出される触媒温度Tcを読込み、触媒温度Tcが硫黄臭発生条件として定めた所定値TH以上か否かを判定する。
S2での判定の結果、YESの場合にS3へ進み、NOの場合はS1へ戻る。
【0016】
S3では、硫黄臭の発生を防止するため、エアポンプON、遮断弁開として、排気通路(排気ポート)への二次空気の供給を開始する。これにより、排気が酸化雰囲気となり、硫黄臭の元となるH2SがSO2等に酸化され、臭いを防止できる。
二次空気の供給開始後は、S4、S5の判定を繰り返す。
S4では、S1と同様に、アイドル運転時若しくは極低車速運転時か否かを判定し、NOとなった場合に、S6へ進み、エアポンプOFF、遮断弁閉として、排気通路(排気ポート)への二次空気の供給を停止する。
【0017】
S5では、触媒温度センサにより検出される触媒温度Tcを読込み、触媒温度Tcが硫黄臭発生条件として定めた前記所定値THに対しヒステリシスを持たせて定めた所定値TL以下になったか否かを判定する(TL<THである)。判定の結果、YES(Tc≦TL)となった場合に、S6へ進み、エアポンプOFF、遮断弁閉として、排気通路(排気ポート)への二次空気の供給を停止する。
【0018】
以上のように、硫黄臭の発生しやすい条件と、これを体感しやすい条件とを考慮して、二次空気を供給し、排気を酸化雰囲気とすることで、硫黄臭の元となるH2SをSO2等に酸化して、硫黄臭の体感を極力防止できる。
また、二次空気を触媒上流に供給することで、触媒下流に供給する場合に比べ、排気温度が高いので、H2SからSO2等への酸化反応を促進できる。
【0019】
また、触媒の早期活性化のため低温始動直後に限定して使用していた二次空気供給装置の有効活用が可能となる。
特に本実施例によれば、硫黄臭発生条件は、触媒温度を直接若しくは間接的に検出し、これが所定値以上か否かにより判断することにより、硫黄臭発生条件を的確に捉えることができる。尚、触媒温度は、触媒下流の排気温度などから間接的に検出するようにしてもよい。
【0020】
また、特に本実施例によれば、二次空気の供給開始後、硫黄臭発生条件のレベル低下を検出した後に、二次空気の供給を停止することにより、二次空気の供給時間を過不足のない適切なものとすることができる。
図3は、エンジン暖機後に行われる硫黄臭防止制御の第2実施例のフローチャートである。第1実施例(図2)と異なるのは、S2’、S5’の部分であり、これについてのみ説明する。
【0021】
S2’では、硫黄臭発生条件か否かの判定のため、触媒温度センサにより検出される触媒温度と空燃比センサにより検出される空燃比とを読込み、触媒温度と空燃比とから、図4のマップを参照して、硫黄臭発生指標値Saを計算し、硫黄臭発生指標値Saが硫黄臭発生条件として定めた所定値SH以上か否かを判定する。判定の結果、YESの場合にS3へ進み、二次空気の供給を開始する。
【0022】
ここで、硫黄臭発生指標値Saは、図4に示されるように、触媒温度が高いほど、空燃比がリッチなほど、大きくなるように設定されている。
S5’では、触媒温度センサにより検出される触媒温度と空燃比センサにより検出される空燃比とを読込み、触媒温度と空燃比とから、図4のマップを参照して、硫黄臭発生指標値Saを計算し、硫黄臭発生指標値Saが硫黄臭発生条件として定めた前記所定値SHに対しヒステリシスを持たせて定めた所定値SL以下になったか否かを判定する(SL<SHである)。判定の結果、YES(Sa≦SL)となった場合に、S6へ進み、二次空気の供給を停止する。
【0023】
特に本実施例によれば、硫黄臭発生条件は、触媒温度と空燃比とから判断することにより、高リッチ状態での硫黄臭の発生にも的確に対処できる。
図5は、エンジン暖機後に行われる硫黄臭防止制御の第3実施例のフローチャートである。第1実施例(図2)と異なるのは、S2”、S5”の部分であり、これについてのみ説明する。
【0024】
S2”では、硫黄臭発生条件か否かの判定のため、アイドル運転(若しくは極低車速運転)へ移行する直前の運転履歴に基づいて、硫黄臭発生条件か否かを判定する。具体的には、高車速で長時間運転したか否か、より具体的には、直前の高車速での運転時間が所定時間以上、若しくは、直前の所定時間内での平均車速が所定値以上か否かによって判定する。判定の結果、YESの場合にS3へ進み、二次空気の供給を開始する。
【0025】
S5”では、二次空気供給開始後、所定時間経過したか否かを判定する。判定の結果、YESとなった場合に、S6へ進み、二次空気の供給を停止する。
特に本実施例によれば、硫黄臭発生条件は、アイドル運転若しくは低車速運転に移行する直前の運転履歴より判断するので、触媒温度センサを有しない場合でも実施できる。
また、特に本実施例によれば、二次空気の供給開始から、所定時間経過後に、二次空気の供給を停止することにより、制御を簡素化できる。尚、このような時間制御は、第1実施例(図2)及び第2実施例(図3)にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態を示す内燃機関のシステム図
【図2】硫黄臭防止制御の第1実施例のフローチャート
【図3】硫黄臭防止制御の第2実施例のフローチャート
【図4】第2実施例で用いる硫黄臭発生指標値算出用のマップを示す図
【図5】硫黄臭防止制御の第3実施例のフローチャート
【符号の説明】
【0027】
1 エンジン
2 吸気通路
3 吸気マニホールド
4 電制スロットル弁
5 吸気ポート
6 燃料噴射弁
7 吸気弁
8 燃焼室
9 点火プラグ
10 排気弁
11 排気通路
12 排気ポート
13 排気マニホールド
14 排気浄化触媒
17 電動式エアポンプ
16 遮断弁
17 配管(ギャラリ)
18 二次空気供給通路
20 ECU
21 アクセルペダルセンサ(アイドルスイッチ)
22 クランク角センサ
23 エアフローメータ
24 水温センサ
25 空燃比センサ
26 触媒温度センサ
27 車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に排気浄化触媒を備える自動車用内燃機関において、
機関暖機後のアイドル運転時若しくは低車速運転時で、かつ、少なくとも触媒温度が高い硫黄臭発生条件のときに、排気通路の触媒上流に二次空気を供給することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の硫黄臭防止装置。
【請求項2】
前記硫黄臭発生条件は、触媒温度を直接若しくは間接的に検出し、これが所定値以上か否かにより判断することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の硫黄臭防止装置。
【請求項3】
前記硫黄臭発生条件は、触媒温度と空燃比とから判断することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の硫黄臭防止装置。
【請求項4】
前記硫黄臭発生条件は、アイドル運転若しくは低車速運転に移行する直前の運転履歴より判断することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の硫黄臭防止装置。
【請求項5】
二次空気の供給開始後、硫黄臭発生条件のレベル低下を検出した後に、二次空気の供給を停止することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の内燃機関の硫黄臭防止装置。
【請求項6】
二次空気の供給開始から、所定時間経過後に、二次空気の供給を停止することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の内燃機関の硫黄臭防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−220080(P2006−220080A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34789(P2005−34789)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】