説明

内燃機関の自動停止始動制御装置

【課題】自動停止始動制御装置と常時噛合式の始動装置とを備える内燃機関にあって、車両の慣性質量が過度に大きい状態での機関始動時に生じやすいワンウェイクラッチの破損についてこれを好適に抑制することのできる内燃機関の自動停止始動制御装置を提供する。
【解決手段】スタータモータの駆動力がワンウェイクラッチを介してクランクシャフト7に伝達されるエンジン1にあって、電子制御装置70は、エンジン1を自動停止及び自動始動させる自動停止始動制御を行う。この電子制御装置70は、エンジン1が搭載された車両の慣性質量が予め設定された許容質量よりも大きいか否かを判定し、車両の慣性質量が大きい旨判定される場合には、自動停止始動制御の実行を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の運転を自動停止及び自動始動させる自動停止始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費の改善等を図るべく、車両の停止時には内燃機関を自動停止させ、発進操作時等には同内燃機関を自動始動させる、いわゆる自動停止始動制御が実行される内燃機関が実用化されている。また、こうした内燃機関の自動停止及び自動始動を行う自動停止始動制御装置は、負荷状態に応じて内燃機関を自動停止及び自動始動させるハイブリット車両、すなわち内燃機関と電動モータとを備える車両にも備えられている。
【0003】
他方、内燃機関の始動装置であって、スタータモータのピニオンギヤがクランクシャフト側のリングギヤに常時噛み合わされている常時噛合式の始動装置が知られている(例えば特許文献1等)。
【0004】
同文献に記載の始動装置は、出力軸にピニオンギヤを有する始動用電動機(いわゆるスタータモータ)と、クランクシャフトに固定されたフライホイールに組み付けられて前記ピニオンギヤに噛み合うリングギヤとを備えている。このリングギヤはクラッチ機構、より詳しくは始動用電動機側からクランクシャフト側への駆動力の伝達のみを許容するワンウェイクラッチを介して前記フライホイールに組み付けられている。
【0005】
そのワンウェイクラッチとしては、ローラ式のワンウェイクラッチやスプラグ式のワンウェイクラッチなどがあり、例えばスプラグ式のワンウェイクラッチは、図5に示すような基本構造を有している。この図5に示すように、スプラグ式のワンウェイクラッチは、外輪を構成するアウターレース100、内輪を構成するインナーレース101、アウターレース100の内周面とインナーレース101の外周面との間に介装される複数のスプラグ102等から構成されている。
【0006】
そして、同図5においてインナーレース101が時計回りに回転する場合にあって、同インナーレース101の回転速度Aがアウターレース100の回転速度Bよりも高い場合には、スプラグ102によってインナーレース101及びアウターレース100が係合状態になり、インナーレース101の回転力はアウターレース100に伝達される。一方、同図4においてアウターレース100が時計回りに回転するとともに、同アウターレース100の回転速度Bがインナーレース101の回転速度Aよりも高い場合には、スプラグ102によるインナーレース101及びアウターレース100の係合は解除され、アウターレース100からインナーレース101に向けての回転力の伝達が遮断される。
【0007】
こうしたワンウェイクラッチにあって、例えば上記アウターレース100をフライホイール側、即ちクランクシャフト側に固定する一方、上記インナーレース101をリングギヤ側、いわば始動用電動機側に固定することで、機関始動時のクランクシャフトと始動用電動機との駆動連結、及び機関の完爆後における同駆動連結の解除を行うことができる。
【0008】
すなわち、機関始動時にあって始動用電動機が駆動されると、インナーレース101の回転速度が上昇してインナーレース101及びアウターレース100は係合状態となり、もって始動用電動機の駆動力はワンウェイクラッチを介してフライホイールに、すなわちクランクシャフトに伝達される。そして、機関が完爆する、換言すれば始動用電動機の力を借りることなく機関が自立回転するようになると、アウターレース100の回転速度Bはインナーレース101の回転速度Aよりも高くなり、アウターレース100及びインナーレース101の係合が解除されてワンウェイクラッチは空転するようになる。このようにワンウェイクラッチが空転することでクランクシャフトと始動用電動機との駆動連結が解除される。
【特許文献1】特開2000−274337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述したような自動停止始動制御装置及び常時噛合式の始動装置を備える内燃機関が搭載された車両にあって過積載などがなされると、当該車両の慣性質量が設計想定上の最大慣性質量、いわば許容質量よりも大きくなり、そうした慣性質量が過度に大きい状態では、次のような不都合の発生が懸念される。この不都合の発生について、図6を併せ参照して説明する。
【0010】
同図6に示すように、時刻t1において始動用電動機の駆動が開始されると、インナーレース101の回転速度Aは所定の回転速度にまで上昇する。この上昇過程ではワンウェイクラッチが係合状態にあり、アウターレース100の回転速度Bはインナーレース101の回転速度Aに同期して上昇していく。こうしたアウターレース100の回転上昇によってクランキングがなされると機関の初爆が起きる。この初爆以降のアウターレース100の回転速度Bは、インナーレース101の回転速度Aよりも高くなり、もってワンウェイクラッチの係合は解除される。そして、その後、混合気の点火が連続して起きることにより、機関は完爆に至る(時刻t2)。そして、例えば完爆後に始動用電動機の駆動が停止されると、インナーレース101の回転速度は低下していく。
【0011】
完爆後、駆動系のクラッチが接続されると(時刻t3)、車両の慣性質量に応じた駆動系の負荷がクランクシャフトには付与され、これによりクランクシャフトの回転速度は一旦低下する。ここで、車両の慣性質量が上記許容質量以下であれば、同図に破線にて示すように、一旦低下したクランクシャフトの回転速度は機関の出力トルクによって回復し、その後、安定して回転するようになる。
【0012】
一方、車両の慣性質量が上記許容質量を超えている場合には、駆動系のクラッチ接続による過大な負荷がクランクシャフトに付与され、同クランクシャフトの回転速度は急速に低下してその回復が遅れるようになる。なお、その低下速度が過度に速い場合には、回転速度の回復前にエンジンストールが生じるおそれもある。こうした完爆後におけるクランクシャフトの急速な回転速度低下、換言すれば始動用電動機の駆動停止後におけるクランクシャフトの急速な回転速度低下が生じると、アウターレース100の回転速度はインナーレース101の回転速度に近づき、最終的には、ワンウェイクラッチが再係合してしまう(時刻t4)。そして再係合後には、アウターレース100の回転速度低下に引きずられるような態様でインナーレース101の回転速度は低下していく。こうした再係合にあっては、始動装置の構成部材に対して、機関始動時に付与される負荷よりも大きい負荷、すなわち上記慣性質量に起因する過大な負荷がかかるようになる。
【0013】
ここで、上記自動停止始動制御が実施される内燃機関では、機関始動が頻繁に行われるため、車両の慣性質量が上記許容質量を超えている場合には、始動装置に対して過大な負荷が頻繁に付与され、当該始動装置の構成部材、特にワンウェイクラッチが破損してしまうおそれがある。
【0014】
なお、登坂路では、発進時における車両の慣性質量が登り勾配に応じて大きくなる。そのため、上記過積載の他、こうした登坂路からの車両発進時にも、当該車両の慣性質量は過度に大きくなる可能性がある。
【0015】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、自動停止始動制御装置と常時噛合式の始動装置とを備える内燃機関にあって、車両の慣性質量が過度に大きい状態での機関始動時に生じやすいワンウェイクラッチの破損についてこれを好適に抑制することのできる内燃機関の自動停止始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、始動用電動機の駆動力がワンウェイクラッチを介してクランクシャフトに伝達される内燃機関に適用され、当該内燃機関を自動停止及び自動始動させる自動停止始動制御を行う装置であって、当該内燃機関が搭載された車両の慣性質量が予め設定された許容質量よりも大きいか否かを判定する慣性質量判定手段と、同慣性質量判定手段によって前記慣性質量が大きい旨判定される場合には、前記自動停止始動制御の実行を禁止する禁止手段とを備えることをその要旨とする。
【0017】
同構成では、車両の慣性質量が許容質量よりも大きい場合に自動停止始動制御の実行を禁止するようにしており、このように自動停止始動制御の実行が制限されることにより、ワンウェイクラッチに対して過大な負荷が付与される回数は減少するようになる。従って、車両の慣性質量が過度に大きい状態での機関始動時に生じやすいワンウェイクラッチの破損についてこれを好適に抑制することができるようになる。
【0018】
前記禁止手段による自動停止始動制御の実行禁止に際しては、内燃機関の自動停止及び自動始動をともに禁止するほか、請求項2に記載の発明によるように、前記自動停止及び前記自動始動のうちの自動始動についてその実行を禁止する、といった構成を採用することもできる。同構成によれば、車両の慣性質量が許容質量よりも大きい場合にあって頻繁に機関始動がなされることによるワンウェイクラッチの破損を抑えることができるようになる。
【0019】
また、前記禁止手段による自動停止始動制御の実行禁止に際しては、請求項3に記載の発明によるように、前記自動停止及び前記自動始動のうちの自動停止についてその実行を禁止する、といった構成を採用することもできる。
【0020】
同構成では、内燃機関の自動停止についてその実行を禁止するようにしており、このように自動停止の実行が禁止されることにより、内燃機関の自動始動の機会も自ずと失われる。従って、同構成によっても、車両の慣性質量が許容質量よりも大きい場合にあって頻繁に機関始動がなされることによるワンウェイクラッチの破損を抑えることができるようになる。なお、同構成では、内燃機関の自動始動の実行については禁止されていないため、車両の慣性質量が大きいと判定される前に内燃機関が自動停止されていた場合であっても、その後、同内燃機関を自動始動させることはできる。従って、車両の慣性質量が大きいと判定された後でも、車両の走行を継続して行うことができる。
【0021】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の自動停止始動制御装置において、前記慣性質量判定手段は、機関出力の増大量と車速の増加量との対応関係に基づいて前記慣性質量の判定を行うことをその要旨とする。
【0022】
車両の加速時などにおいて、機関出力の増大量が同一であっても車両の慣性質量が大きいときほど、車速の増加量は小さくなる。従って、機関出力の増大量と車速の増加量との対応関係に基づいて前記慣性質量の大小は判定することができ、同構成によれば、車両の慣性質量が予め設定された許容質量よりも大きいか否かを好適に判定することができるようになる。
【0023】
こうした機関出力の増大量と車速の増加量との対応関係に基づく前記慣性質量の判定に際しては、請求項5や請求項6に記載の構成を採用することができる。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の内燃機関の自動停止始動制御装置において、前記慣性質量判定手段は、機関出力の増大量に対する車速の増加量が基準値よりも小さい場合に前記慣性質量が大きい旨判定することをその要旨とする。
【0024】
上述したように、機関出力の増大量が同一であっても車両の慣性質量が大きいときほど、車速の増加量は小さくなる。そこで同構成では、機関出力の増大量に対する車速の増加量が基準値よりも小さい場合に車両の慣性質量が前記許容質量よりも大きい旨判定するようにしており、同構成によれば、前記慣性質量の判定を適切に行うことができるようになる。なお、同構成における前記基準値としては、車両の慣性質量が前記許容質量となっているときの機関出力の増大量に対する車速の増加量を設定することが望ましい。
【0025】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の内燃機関の自動停止始動制御装置において、前記慣性質量判定手段は、車速の増加量に対する機関出力の増大量が基準値よりも大きい場合に前記慣性質量が大きい旨判定することをその要旨とする。
【0026】
上述したように、機関出力の増大量が同一であっても車両の慣性質量が大きいときほど、車速の増加量は小さくなる。従って、例えば車両の慣性質量が異なる場合にあって、車速の増加量を同一にするためには、慣性質量が大きいときほどより多くの機関出力を必要とする。すなわち、車速の増加量が同一であっても車両の慣性質量が大きいときほど、機関出力の増大量は大きくなる。そこで同構成では、車速の増加量に対する機関出力の増大量が基準値よりも大きい場合に、車両の慣性質量が前記許容質量よりも大きい旨判定するようにしており、同構成によれば、前記慣性質量の判定を適切に行うことができるようになる。なお、同構成における前記基準値としては、車両の慣性質量が前記許容質量となっているときの車速の増加量に対する機関出力の増大量を設定することが望ましい。
【0027】
請求項7に記載の発明は、請求項5または6に記載の内燃機関の自動停止始動制御装置において、前記基準値は、当該内燃機関の出力軸に接続された変速機において可変とされる減速比に応じて変更されることをその要旨とする。
【0028】
機関出力の増大量と車速の増加量との対応関係は、前記慣性質量の他、上記変速機において可変とされる減速比によっても変化し、同減速比が大きくなるほど(例えばギヤ段が低くなるほど)車両は加速しやすくなる。従って、減速比が大きくなるほど機関出力の増大量に対する車速の増加量は大きくなる。また、減速比が大きくなるほど車速の増加量に対する機関出力の増大量は小さくなる。そこで、同構成では、請求項5や請求項6に記載の前記各基準値を、可変とされる前記減速比に応じて変更するようにしており、同構成によれば、変速機の減速比が変化しても前記慣性質量の判定を適切に行うことができるようになる。なお、請求項5に記載の基準値、すなわち車速の増加量に関する基準値を減速比に応じて変更する際には、当該減速比が大きくなるほどその基準値が大きくなるように当該基準値を可変設定することが望ましい。また、請求項6に記載の基準値、すなわち機関出力の増大量に関する基準値を減速比に応じて変更する際には、当該減速比が大きくなるほどその基準値が小さくなるように当該基準値を可変設定することが望ましい。また、変速機の減速比を検出するには、同変速機内において切り替えられる変速段の位置等を検出すればよく、例えば手動変速機においてはシフトレバーの位置を検出したり、自動変速機においては変速指令値を参照したりするなどすればよい。
【0029】
上述した機関出力の増大量は、請求項8に記載の発明によるように、内燃機関の吸入空気量、吸気通路に設けられるスロットル弁の開度であるスロットル開度、アクセルペダルの操作量であるアクセル操作量、及び同機関の燃焼室に供給される燃料噴射量の少なくとも1つについてその増大量を算出することにより、実際に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明にかかる内燃機関の自動停止始動制御装置を具体化した一実施形態について、図1〜図4を併せ参照して説明する。
まずはじめに、図1を併せ参照して、本発明にかかる自動停止始動制御装置が適用されたエンジン1を備える車両について、その駆動系に関する基本構成を説明する。
【0031】
この図1に示すように、エンジン1には、スロットル弁5にて調量される吸入空気と燃料噴射弁6から噴射される燃料との混合気が導入され、同混合気が燃焼室で点火されることにより当該エンジン1の機関出力が得られる。この機関出力は、エンジン1の出力軸であるクランクシャフト7の回転力として取り出される。
【0032】
なお、上記スロットル弁5の開度は、アクセルペダルの操作量に応じて調整され、燃料噴射弁6の燃料噴射量は、スロットル弁5にて調量される吸入空気の量に応じて調整される。例えば、アクセルペダルの操作量が大きくなるとスロットル弁5の開度も大きくなり、これにより吸入空気量が多くなると、燃料噴射量も増量されて、機関出力は増大する。
【0033】
クランクシャフト7には、フライホイール8が一体回転可能に取り付けられており、このフライホイール8は、クラッチ機構40の入力側に接続されている。クラッチ機構40の出力側は、手動式の変速機50の入力軸に接続されている。すなわちこの変速機50は、クラッチ機構40を介してクランクシャフト7に接続されている。そして、クラッチ機構40の接続時には、クランクシャフト7から変速機50に向けて駆動力が伝達され、同クラッチ機構40の解放時には、クランクシャフト7から変速機50に向けての駆動力伝達が遮断される。
【0034】
変速機50内には、減速比の異なる複数のギヤ段が構成されており、変速操作機構51のシフトレバー52を操作することにより、シフトレバー52の位置に応じたギヤ段が選択される。こうしたシフトレバー52の操作を通じたギヤ段の変更によって、変速機50の減速比は可変とされる。なお、本実施形態における変速機50は、前進5段後退1段の変速機となっているが、この他の段数を有する変速機を採用することもできる。
【0035】
変速機50の出力軸は、デファレンシャルギヤ60に接続されており、このデファレンシャルギヤ60の出力軸は車輪65に接続されている。
エンジン1の燃料噴射制御等、各種の機関制御は、電子制御装置70によって行われる。この電子制御装置70は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、バックアップRAM、外部入力回路、及び外部出力回路等から構成されている。そして、各種センサからの信号等に基づいてエンジン1の運転状態等を検出し、その検出結果に応じてエンジン1の各種制御を実行する。
【0036】
本実施形態の車両には、上記各種センサとして例えば次のようなセンサが設けられている。吸気通路3のスロットル弁5上流には、吸入空気量を検出する吸入空気量センサ80が設けられている。スロットル弁5には、そのスロットル開度TAを検出するスロットル開度センサ81が設けられている。車輪65の近傍には、車両の車速Vを検出する車速センサ82が設けられている。なお、車速Vを検出することができるのであれば、この車速センサ82の配設位置は適宜変更することができる。そして、変速操作機構51には、シフトレバー52の位置を検出するギヤ段検出センサ83が設けられており、その検出信号によってシフトレバー52の位置、換言すれば変速機50内で選択されているギヤ段GPが検出される。なお、同ギヤ段GPを検出することができるのであれば、このギヤ段検出センサ83の配設位置は適宜変更することができる。この他、機関回転速度を検出する回転速度センサや、機関冷却水の温度を検出する温度センサなども設けられている。
【0037】
また、電子制御装置70は、運転者によるイグニッションスイッチの操作に依らずしてエンジン1の停止及び始動を行う、いわゆる自動停止始動制御も実行する。このエンジン1の自動停止及び自動始動は、予め設定された各種実行条件が成立した場合に実行され、その一例として、例えば車両が停止状態になるとエンジン1は自動停止される。そして、運転者による発進操作(例えばアクセルペダルの踏み込み操作など)がなされると、スタータモータ30の駆動を通じてエンジン1は自動始動される。
【0038】
次に、エンジン1の始動装置について、図2を併せ参照して説明する。なお、同図2は、エンジン1の下方に設けられたオイルパン2の後端部分周辺における部分断面図を示している。
【0039】
この図2に示すように、クランクシャフト7の後端は、オイルパン2の後端上方にあってラダービーム4にて回転可能に支持されている。
クランクシャフト7の後端には上記フライホイール8や、アウターレース支持プレート10及びリングギヤ12が取り付けられている。
【0040】
アウターレース支持プレート10は、フライホイール8と共にクランクシャフト7の後端にボルトにて締結固定され、クランクシャフト7と共に回転する。
リングギヤ12は、クランクシャフト7の後端の外周部分にあって、ワンウェイクラッチ14のインナーレース16及びベアリング18を介して取り付けられている。なお、このワンウェイクラッチ14は、先の図5に示したようなスプラグ式のワンウェイクラッチとなっているが、この他のワンウェイクラッチ、例えばローラ式のワンウェイクラッチを採用することもできる。
【0041】
このワンウェイクラッチ14が非係合状態にある時には、リングギヤ12はクランクシャフト7の回転とは独立して回転可能となっている。さらに、同リングギヤ12の周縁部にはリング状のギヤ部12aが形成されている。このギヤ部12aは、スタータモータ30の出力軸34に設けられたピニオンギヤ35に常時噛み合わされており、スタータモータ30からの回転力を受けることによりリングギヤ12を回転させる。このスタータモータ30の駆動制御は前記電子制御装置70によって行われる。
【0042】
前記ワンウェイクラッチ14のアウターレース22は、アウターレース支持プレート10の外周部分にあって、リングギヤ12の内周部分に取り付けられたインナーレース16に対向するように取り付けられている。このようにリングギヤ12とアウターレース支持プレート10との間にワンウェイクラッチ14が設けられている。
【0043】
そうしたワンウェイクラッチ14、ベアリング18、アウターレース支持プレート10、リングギヤ12、ピニオンギヤ35等によって、スタータモータ30の駆動力をクランクシャフト7に伝達する駆動力伝達機構が構成されている。また、ピニオンギヤ35の歯数とリングギヤ12の歯数とによって、当該駆動力伝達機構の減速比Rが決定されている。
【0044】
機関始動時にスタータモータ30がピニオンギヤ35を介してリングギヤ12を回転させると、すなわちリングギヤ12側からトルクが伝達されると、ワンウェイクラッチ14によってアウターレース支持プレート10とリングギヤ12とが係合状態にされる。これにより、クランクシャフト7はスタータモータ30によって回転される、すなわちクランキングが行われる。
【0045】
そして、機関が完爆する、換言すればスタータモータ30の力を借りることなく内燃機関が自立回転するようになると、クランクシャフト7に連動するアウターレース支持プレート10の回転速度がリングギヤ12の回転速度よりも速くなり、ワンウェイクラッチ14の係合が解除される、すなわちワンウェイクラッチ14は空転するようになる。そして、これによりクランクシャフト7とスタータモータ30との駆動連結は解除される。
【0046】
ベアリング18やワンウェイクラッチ14には、シリンダブロックやクランクシャフト7内の油路等を介してオイルが供給されており、これにより同ベアリング18や同ワンウェイクラッチ14の潤滑がなされる。ここで、アウターレース支持プレート10とリングギヤ12との間に配置されたワンウェイクラッチ14からのオイル漏れを抑えるために、リング状の第1シール部材24がワンウェイクラッチ14のアウターレース22とリングギヤ12との間に配置されている。この第1シール部材24は、リングギヤ12の中間に形成された円筒状の段差部12bの内周面12cに嵌合された状態でリングギヤ12側に固定されている。この第1シール部材24の内周側に形成されているシールリップ24aは、アウターレース22の外周面に摺動可能に接触し、オイルのシールを行っている。
【0047】
段差部12bを挟んで第1シール部材24の反対側には、第1シール部材24よりも大径の第2シール部材26が配置されている。この第2シール部材26は、クランクシャフト7より下方側では主にオイルパン2の後端2aの内周面2bに、クランクシャフト7より上方側では主にシリンダブロックの後端の内周面に嵌合されている。この第2シール部材26の内周側に形成されているシールリップ26aは、段差部12bの外周面12dに摺動可能に接触し、オイルのシールを行っている。
【0048】
このように、本実施形態における始動装置は、ピニオンギヤ35とリングギヤ12のギヤ部12aとが常時噛み合う、常時噛合式の始動装置となっており、スタータモータ30の駆動力がワンウェイクラッチ14を介してクランクシャフト7に伝達される。そして、機関始動時におけるクランクシャフト7とスタータモータ30との駆動連結、及び機関完爆後におけるクランクシャフト7とスタータモータ30との駆動連結の解除は、ワンウェイクラッチ14によって行われる。
【0049】
このように、エンジン1にはワンウェイクラッチ14を利用した常時噛合式の始動装置が備えられており、さらに同エンジン1では、上述したような自動停止始動制御が実施される。
【0050】
ところで、こうしたエンジン1を備える車両にあって、過積載などがなされると、当該車両の慣性質量が設計想定上の最大慣性質量、いわば許容質量よりも大きくなる。こうした車両の慣性質量が過度に大きい状態にあって、機関完爆後にクラッチ機構40が接続されると、上述したように、その過大な慣性質量に応じた駆動系の負荷によってクランクシャフト7の回転速度は急速に低下する。このように完爆後においてクランクシャフト7の回転速度が急速に低下すると、非係合状態になっているワンウェイクラッチ14において、アウターレース22の回転速度がインナーレース16の回転速度に近づき、最終的には、ワンウェイクラッチ14が再係合される。そして、この再係合以降、アウターレース22の回転速度低下に引きずられるような態様でインナーレース16の回転速度は低下していく。こうした再係合にあっては、始動装置の構成部材に対して、機関始動時に付与される負荷よりも大きい負荷、すなわち上記慣性質量に起因する過大な負荷がかかるようになる。
【0051】
ここで、自動停止始動制御が実施されるエンジン1では、機関始動が頻繁に行われるため、車両の慣性質量が上記許容質量を超えている場合には、上記再係合による過大な負荷が始動装置に対して頻繁に付与され、当該始動装置の構成部材、特にワンウェイクラッチ14が破損してしまうといった不都合の発生が懸念される。
【0052】
すなわち、ワンウェイクラッチ14の再係合時には、クランクシャフト7と一体回転するアウターレース22には、その回転速度を低下させようとするトルクであって、上記過大な慣性質量に応じた大きさのトルクT1が付与される。
【0053】
他方、同再係合時には、リングギヤ12側からピニオンギヤ35側に回転力が伝達される。ここで、スタータモータ30の回転速度は上記減速比Rにて減速された状態でクランクシャフト7に伝達されるようになっている。そのため、クランクシャフト7からスタータモータ30に回転力が伝達される場合、換言すればリングギヤ12側からピニオンギヤ35側に回転力が伝達される場合には、それらの回転に対して上記減速比Rの逆数に応じた回転抵抗が付与される。従って、ワンウェイクラッチ14の再係合にあって、リングギヤ12やピニオンギヤ35とともに一体回転するインナーレース16には、上記回転抵抗によるトルクであって、上記トルクT1とは逆の方向に作用するトルクT2が付与される。
【0054】
このようにワンウェイクラッチ14の再係合に際しては、アウターレース22に対して過大な慣性質量に応じたトルクT1が付与される一方、インナーレース16に対しては減速比Rの逆数に応じた回転抵抗相当のトルクT2が付与される。これらトルクT1及びT2は、互いに作用方向が逆であってワンウェイクラッチ14の係合方向に作用するトルクであるため、上記再係合時におけるワンウェイクラッチ14には、その係合方向に対して過大なトルクがかかり、同ワンウェイクラッチ14は破損してしまうおそれがある。
【0055】
ちなみに、登坂路では、発進時における車両の慣性質量が登り勾配に応じて大きくなる。そのため、上記過積載の他、こうした登坂路からの車両発進時にも、当該車両の慣性質量は過度に大きくなる可能性がある。
【0056】
そこで、本実施形態では、こうした車両の慣性質量が過度に大きい状態での機関始動時に生じやすいワンウェイクラッチ14の破損を抑えるために、以下に説明する自動停止始動制御の実行可否判定処理を行うようにしており、同処理の実行を通じて車両の慣性質量が上記許容質量よりも大きい場合には自動停止始動制御の実行を禁止するようにしている。そして、こうした自動停止始動制御に対する実行の制限を行うことで、ワンウェイクラッチ14に対する過大な負荷の付与回数を減少させるようにしている。
【0057】
図3に、上記自動停止始動制御の実行可否判定処理についてその処理手順を示す。なお、本処理は、電子制御装置70によって、車両走行中の所定期間毎に繰り返し実行される。
【0058】
本処理が開始されるとまず、車速V、スロットル開度TA、及びギヤ段GPが読み込まれる(S100)。次に、予め設定された期間内における車速Vの変化量である車速変化量ΔVが算出され(S110)、さらに同期間内におけるスロットル開度TAの変化量であるスロットル開度変化量ΔTAが算出される(S120)。
【0059】
次に、車両が加速中であるか否かが判断される(S130)。ここでは、スロットル開度変化量ΔTAが判定値α以上であり、かつ車速変化量ΔVが判定値β以上である場合に、すなわち機関出力の増大量がある程度以上大きく、かつ車速Vもある程度以上増加している場合に、車両が加速中であると判断される。なお、判定値α及び判定値βは、車両が加速中であるか否かを判定することのできる適切な値が設定されている。そして、車両が加速中でない場合には(S130:NO)、本処理は一旦終了される。
【0060】
一方、車両が加速中である場合には(S130:YES)、ステップS140及びステップS150にて、車両の慣性質量が大きいか否か、すなわち慣性質量が上記許容質量よりも大きいか否かが判定される。この慣性質量に関する判定は、次のような原理によってなされる。
【0061】
すなわち、車両の加速時などにおいて、機関出力の増大量が同一であっても車両の慣性質量が大きいときほど、車速Vの増加量は小さくなる。従って、機関出力の増大量と車速Vの増加量との対応関係に基づいて慣性質量の大小は判定することができる。そこで、本実施形態では、ステップS120にて算出されるスロットル開度変化量ΔTAを機関出力の増大量を示す値として利用し、このスロットル開度変化量ΔTAでの車速の増加量、すなわち上記車速変化量ΔVが、予め設定された基準値Vbよりも小さい場合には、慣性質量が大きい旨判定するようにしている。なお、上記基準値Vbとしては、車両の慣性質量が前記許容質量となっているときのスロットル開度変化量ΔTAに対する車速変化量ΔVが設定されている。
【0062】
ここで、機関出力の増大量と車速の増加量との対応関係は、前記慣性質量の他、変速機50において可変とされる減速比によっても変化する。例えば、変速機50内のギヤ段GPが低くなり、同変速機50の減速比が大きくなるほど車両は加速しやすくなる。従って、減速比が大きくなるほど機関出力の増大量に対する車速の増加量は大きくなる。そこで、本実施形態では、前記基準値Vb、すなわち車速変化量ΔVに関する基準値Vbを減速比に応じて変更するようにしており、これにより変速機50の減速比が変化しても慣性質量の判定を適切に行うことができるようにしている。
【0063】
図4に、ギヤ段GPに対応した基準値Vbが設定されている基準値マップについてその設定態様を示す。なお、同基準値マップは上記ROM内に記憶されている。
この図4に示されるように、基準値設定マップには、1速から5速までの各ギヤ段GP毎に対応した複数の基準値Vb、すなわち1速用基準値Vb1、2速用基準値Vb2、3速用基準値Vb3、4速用基準値Vb4、及び5速用基準値Vb5が設定されている。
【0064】
各基準値Vb1〜Vb5は、スロットル開度変化量ΔTAが大きくなるほど、その値が大きくなるように設定されている。また、同一のスロットル開度変化量ΔTAであってもギヤ段GPが低くなるほど、すなわち変速機50の減速比が大きくなるほど各基準値Vbの値は大きくなるように、各基準値Vb1〜Vb5はそれぞれ設定されている。
【0065】
そして、ステップS130において、車両が加速中である旨判定されると、ギヤ段GPに応じた基準値Vbが上記基準値設定マップから選択され(S140)、次に慣性質量が異常域であるか否かが、すなわち同慣性質量が上記許容質量よりも大きいか否かが判定される(S150)。このステップS150では、ステップS120にて算出されたスロットル開度変化量ΔTAに対し、ステップS110にて算出された車速変化量ΔVが基準値Vbよりも小さい場合に、慣性質量が異常域である旨判定される。例えばギヤ段GPが1速となっている場合には、先の図4に示した1速用基準値Vb1が選択され、スロットル開度変化量ΔTAにおける実際の車速変化量ΔVが、1速用基準値Vb1よりも小さい場合には、慣性質量が異常域である旨判定される。
【0066】
そして、慣性質量が異常域である旨判定されると(S150:YES)、自動停止始動制御の実行が禁止されて(S160)、本処理は一旦終了される。
このステップS160では、エンジン1の自動停止及び自動始動のうちの自動停止についてその実行が禁止される。このようにエンジン1の自動停止の実行が禁止されることによりエンジン1の自動始動の機会も自ずと失われ、これによりワンウェイクラッチ14に対する過大な負荷の付与回数が減少するようになる。従って、車両の慣性質量が許容質量よりも大きい場合にあって頻繁に機関始動がなされることによるワンウェイクラッチ14の破損抑えることができるようになる。なお、ステップS160では、エンジン1の自動始動の実行については禁止されていないため、車両の慣性質量が大きいと判定される前にエンジン1が自動停止されていた場合であっても、その後、同エンジン1を自動始動させることはできる。従って、車両の慣性質量が大きいと判定された後でも、車両の走行を継続して行うことができる。
【0067】
一方、ステップS150にて、慣性質量が異常域ではない旨判定される、すなわちステップS120にて算出されたスロットル開度変化量ΔTAに対し、ステップS110にて算出された車速変化量ΔVが基準値Vb以上であり、慣性質量が正常域である旨判定される場合には(S150:YES)、自動停止始動制御の実行が許可される(S170)。すなわち、自動停止の実行が許可されて、本処理は一旦終了される。このように自動停止の実行が許可されている場合には、予め設定された各種実行条件が成立した場合に自動停止始動制御が実行される。
【0068】
以上説明したように、本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)スタータモータ30の駆動力がワンウェイクラッチ14を介してクランクシャフト7に伝達されるエンジン1にあって、当該エンジン1が搭載された車両の慣性質量が予め設定された許容質量よりも大きいか否かを判定するようにしている。そして、同慣性質量が大きい旨判定される場合には、エンジン1を自動停止及び自動始動させる自動停止始動制御についてその実行を禁止するようにしている。従って、車両の慣性質量が許容質量よりも大きい場合には、自動停止始動制御の実行が制限されることにより、ワンウェイクラッチ14に対して過大な負荷が付与される回数は減少するようになる。そのため、車両の慣性質量が過度に大きい状態での機関始動時に生じやすいワンウェイクラッチ14の破損についてこれを好適に抑制することができるようになる。
【0069】
(2)自動停止始動制御の実行禁止に際しては、エンジン1の自動停止及び自動始動のうちの自動停止についてその実行を禁止するようにしている。このように自動停止の実行を禁止することにより、エンジン1の自動始動の機会も自ずと失われ、もって車両の慣性質量が許容質量よりも大きい場合にあって頻繁に機関始動がなされることによるワンウェイクラッチ14の破損を抑えることができるようになる。なお、エンジン1の自動始動の実行については禁止されていないため、車両の慣性質量が大きいと判定された後でも、車両の走行についてはこれを継続して行うことができる。
【0070】
(3)機関出力の増大量、より具体的にはスロットル開度変化量ΔTAと車速変化量ΔVとの対応関係に基づいて上記慣性質量の判定を行うようにしている。従って、車両の慣性質量が予め設定された許容質量よりも大きいか否かを好適に判定することができるようになる。
【0071】
(4)こうした機関出力の増大量と車速の増加量との対応関係に基づく上記慣性質量の判定に際しては、スロットル開度変化量ΔTAに対する車速変化量ΔVが基準値Vbよりも小さい場合に同慣性質量が大きい旨判定するようにしている。従って、上記慣性質量の判定を適切に行うことができるようになる。
【0072】
(5)慣性質量が大きいか否かを判定する基準値Vbを、変速機50において可変とされる減速比に応じては変更するようにしている。従って、変速機50の減速比が変化しても上記慣性質量の判定を適切に行うことができるようになる。
【0073】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・ステップS160における自動停止始動制御の実行禁止に際しては、エンジン1の自動停止及び自動始動をともに禁止するようにしてもよい。また、自動停止及び自動始動のうちの自動始動についてその実行を禁止するようにしてもよい。この場合にも、車両の慣性質量が許容質量よりも大きい場合にあって頻繁に機関始動がなされることによるワンウェイクラッチ14の破損を抑えることができるようになる。
【0074】
・上述したように、機関出力の増大量が同一であっても車両の慣性質量が大きいときほど、車速の増加量は小さくなる。従って、例えば車両の慣性質量が異なる場合にあって、車速の増加量を同一にするためには、慣性質量が大きいときほどより多くの機関出力を必要とする。すなわち、車速の増加量が同一であっても車両の慣性質量が大きいときほど、機関出力の増大量は大きくなる。
【0075】
そこで、上記実施形態では、機関出力の増大量に対する車速の増加量が基準値Vbよりも小さい場合に慣性質量が大きい旨判定するようにしたが、これに代えて、車速の増加量に対する機関出力の増大量が基準値よりも大きい場合に慣性質量が大きい旨判定するようにしてもよい。
【0076】
なお、この場合の基準値としては、車両の慣性質量が前記許容質量となっているときの車速の増加量に対する機関出力の増大量を設定することになるが、これは上記基準値Vbと同様な値になる。すなわち、上記実施形態における基準値Vbは、車両の慣性質量が前記許容質量となっているときのスロットル開度変化量ΔTAに対する車速変化量ΔVが設定されていたが、この変形例おける基準値Vbでは、車両の慣性質量が前記許容質量となっているときの車速変化量ΔVに対するスロットル開度変化量ΔTAを設定することになる。そして、例えば、ギヤ段GPが1速となっている場合には、先の図4に示したような1速用基準値Vb1を選択し、実際の車速変化量ΔVをもたらしたスロットル開度変化量ΔTAが、1速用基準値Vb1として設定されている基準開度変化量よりも大きい場合に慣性質量が異常域である旨判定される。
【0077】
また、この変形例における基準値を、上記実施形態と同様に、変速機50の減速比に応じて変更することもできる。この場合には、減速比が大きくなるほど車速の増加量に対する機関出力の増大量は小さくなるため、当該変形例の基準値、すなわち機関出力の増大量(スロットル開度変化量ΔTA)に関する基準値を減速比に応じて変更する際には、当該減速比が大きくなるほどその基準値が小さくなるように当該基準値を可変設定するようにすればよい。
【0078】
・上記実施形態ではスロットル開度TAの増大量を算出するようにした。この他、機関出力の増大量を示す値として、エンジン1の吸入空気量、アクセルペダルの操作量であるアクセル操作量、及びエンジン1の燃焼室に供給される燃料噴射量の少なくとも1つについてその増大量を算出するようにしても、同機関出力の増大量を実際に把握することができる。
【0079】
・上記実施形態における基準値Vbは、スロットル開度変化量ΔTAに応じて変化する可変値であったが、より簡易的には同基準値Vbを固定値とするようにしてもよい。例えばスロットル開度変化量ΔTAがある程度大きいにもかかわらず、車速変化量ΔVが所定の固定値とされた基準値Vbを超えていない場合には、慣性質量が許容質量よりも大きい旨判定するようにしてもよい。同様に、上記変形例における基準値も、より簡易的に固定値とするようにしてもよい。
【0080】
・上記実施形態及びその変形例では、慣性質量が大きいか否かを判定するための基準値をギヤ段GPに対応させて複数設定するようにした。この他。複数のギヤ段GPのうちの少なくとも1つのギヤ段GPに対応した基準値を設定し、その設定された基準値に対応するギヤ段GPが選択されたときにのみ、慣性質量の判定を行うようにしてもよい。
【0081】
・上記実施形態の始動装置において、スタータモータ30の駆動力をクランクシャフト7に伝達する駆動力伝達機構は、ワンウェイクラッチ14、ベアリング18、アウターレース支持プレート10、リングギヤ12、ピニオンギヤ35等によって構成されていたが、これは一例である。この他、スタータモータの駆動力がワンウェイクラッチを介してクランクシャフトに伝達される構成を有していれば、本発明は同様に適用することができ、その場合にも上述したような効果を得ることができる。
【0082】
・上記変速機50は手動式の多段変速機であったが、多段式の自動変速機や無段式の自動変速機であっても本発明は同様に適用することができる。このような自動変速機を備える内燃機関において本発明を実施する場合には、ギヤ段GPに代えて、例えば自動変速機の制御装置から出力される変速指令値を参照することで変速機の減速比を検出することができる。
【0083】
・本発明は、内燃機関と電動モータとを備える車両、いわゆるハイブリット車両にあって、負荷状態に応じて当該内燃機関を自動停止及び自動始動させる自動停止始動制御装置にも、同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明にかかる自動停止始動制御装置の一実施形態において、同自動停止始動制御装置が適用された内燃機関を備える車両について、その駆動系に関する基本構成を示す構成図。
【図2】同実施形態における始動装置の構成を示す部分断面図。
【図3】同実施形態における自動停止始動制御の実行可否判定処理についてその処理手順を示すフローチャート。
【図4】基準値マップについてその設定態様を示す概念図。
【図5】スプラグ式ワンウェイクラッチの基本構造を示す部分断面図。
【図6】車両の慣性質量が過度に大きい状態での機関始動直後におけるアウターレース及びインナーレースの回転速度変化を示すタイムチャート。
【符号の説明】
【0085】
1…エンジン、2…オイルパン、2a…後端、2b…内周面、3…吸気通路、4…ラダービーム、5…スロットル弁、6…燃料噴射弁、7…クランクシャフト、8…フライホイール、10…アウターレース支持プレート、12…リングギヤ、12a…ギヤ部、12b…段差部、12c…内周面、12d…外周面、14…ワンウェイクラッチ、16…インナーレース、18…ベアリング、22…アウターレース、24…第1シール部材、24a…シールリップ、26…第2シール部材、26a…シールリップ、30…スタータモータ、34…出力軸、35…ピニオンギヤ、40…クラッチ機構、50…変速機、51…変速操作機構、52…シフトレバー、60…デファレンシャルギヤ、65…車輪、70…電子制御装置(慣性質量判定手段、禁止手段)、80…吸入空気量センサ、81…スロットル開度センサ、82…車速センサ、83…ギヤ段検出センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
始動用電動機の駆動力がワンウェイクラッチを介してクランクシャフトに伝達される内燃機関に適用され、当該内燃機関を自動停止及び自動始動させる自動停止始動制御を行う装置であって、
当該内燃機関が搭載された車両の慣性質量が予め設定された許容質量よりも大きいか否かを判定する慣性質量判定手段と、
同慣性質量判定手段によって前記慣性質量が大きい旨判定される場合には、前記自動停止始動制御の実行を禁止する禁止手段とを備える
ことを特徴とする内燃機関の自動停止始動制御装置。
【請求項2】
前記禁止手段は、前記自動停止及び前記自動始動のうちの自動始動についてその実行を禁止する
請求項1に記載の内燃機関の自動停止始動制御装置。
【請求項3】
前記禁止手段は、前記自動停止及び前記自動始動のうちの自動停止についてその実行を禁止する
請求項1に記載の内燃機関の自動停止始動制御装置。
【請求項4】
前記慣性質量判定手段は、機関出力の増大量と車速の増加量との対応関係に基づいて前記慣性質量の判定を行う
請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の自動停止始動制御装置。
【請求項5】
前記慣性質量判定手段は、機関出力の増大量に対する車速の増加量が基準値よりも小さい場合に前記慣性質量が大きい旨判定する
請求項4に記載の内燃機関の自動停止始動制御装置。
【請求項6】
前記慣性質量判定手段は、車速の増加量に対する機関出力の増大量が基準値よりも大きい場合に前記慣性質量が大きい旨判定する
請求項4に記載の内燃機関の自動停止始動制御装置。
【請求項7】
前記基準値は、当該内燃機関の出力軸に接続された変速機において可変とされる減速比に応じて変更される
請求項5または6に記載の内燃機関の自動停止始動制御装置。
【請求項8】
前記機関出力の増大量を示す値として、吸入空気量、スロットル開度、アクセル操作量、及び燃料噴射量の少なくとも1つについてその増大量を算出する
請求項4〜7のいずれか1項に記載の内燃機関の自動停止始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−32494(P2007−32494A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220102(P2005−220102)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】