説明

内燃機関のPM再生処理システム

【課題】ポスト噴射によるPM再生処理の実行に起因するオイル希釈の発生を抑制する。
【解決手段】内燃機関の筒内温度及び筒内圧力を取得する手段と、PMフィルタにおけるPM捕集量を取得する手段と、メイン噴射の他副噴射としてアフター噴射及びポスト噴射を実行可能な燃料噴射手段と、ポスト噴射を行ってPMフィルタからPMを除去するPM再生処理を行う手段と、筒内温度が基準温度より高い場合及び筒内圧力が基準圧力より高い場合は、PM捕集量が第1基準量より多くなるとPM再生処理を行うが、筒内温度が基準温度より低い
場合及び筒内圧力が基準圧力より低い場合は、PM捕集量が第1基準量より多くても第2基準量以下であればPM再生処理を行わず、メイン噴射量又はアフター噴射量を増量補正して筒内温度及び筒内圧力を上昇させる処理を行う。PM捕集量が第2基準量を超えた場合は、筒
内温度及び筒内圧力によらず強制的にPM再生処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気系に備えられたPMフィルタに堆積した微粒子物質をPMフィルタから除去するPM再生処理の実行を制御するPM再生処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
主噴射の後に行われる副噴射であるポスト噴射を実行することによって、PMフィルタに捕集された微粒子物質をPMフィルタから除去するPM再生処理を行う技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、内燃機関の筒内温度が所定温度以上で、PM捕集量が第1所定量以上で
ある場合は、ポスト噴射によるPM再生処理を実行する技術が記載されている。
【0004】
特許文献2には、PM再生処理の際に、検出されたオイル希釈率が限界オイル希釈率以上
の場合は、NO2をPMフィルタに供給することにより、PMフィルタに捕集された微粒子物質
を酸化し、ポスト噴射された燃料によるエンジンオイルの希釈を抑制する技術が記載されている。
【0005】
特許文献3には、PMフィルタの微粒子物質堆積量が所定値以上になった時、主噴射後の
副噴射により燃料を酸化触媒に供給し、PMフィルタ流入排ガス温度を高め、微粒子物質を燃焼除去する技術が記載されている。
【0006】
特許文献4には、ポスト噴射等の昇温操作によりPMフィルタの微粒子物質を燃焼除去す
る際に、PMフィルタの温度に応じて昇温操作の実施・停止の時間比率を変更することで、PMフィルタの温度を目標温度近傍に制御する技術が記載されている。
【特許文献1】特開2008-38659号公報
【特許文献2】特開2006-183563号公報
【特許文献3】特開2005-48663号公報
【特許文献4】特開2004-301013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
内燃機関の筒内温度が低い場合にポスト噴射を行うと、ポスト噴射燃料が筒内で蒸発しにくいので、燃料液滴の貫徹力が弱まらず、シリンダ壁面に衝突し易くなる。そのため、オイル希釈が発生する虞がある。内燃機関の筒内圧力が低い場合も、ポスト噴射を行うとオイル希釈が発生する虞がある。
【0008】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、PMフィルタを備え、ポスト噴射によりPM再生処理を行う内燃機関のPM再生処理システムにおいて、PM再生処理のためのポスト噴射の実行に起因してオイル希釈が発生することを抑制可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の内燃機関のPM再生処理システムは、
内燃機関の排気通路に設けられ排気中の微粒子物質を捕集するPMフィルタと、
前記内燃機関の筒内温度を測定又は推定により取得する筒内温度取得手段と、
前記PMフィルタにおける微粒子物質の捕集量を取得するPM捕集量取得手段と、
メイン噴射直後に行われる副噴射であるアフター噴射及びアフター噴射後に行われる副噴射であるポスト噴射を実行可能な燃料噴射手段と、
前記燃料噴射手段によりポスト噴射を行うことによって前記PMフィルタに捕集された微粒子物質を前記PMフィルタから除去するPM再生処理を行うPM再生手段と、
前記PM捕集量取得手段により取得されるPM捕集量が所定の第1基準量より多い場合、前
記筒内温度取得手段により取得される筒内温度が所定の基準温度以上であれば前記PM再生手段によるPM再生処理を実行し、前記PM捕集量取得手段により取得されるPM捕集量が前記第1基準量より大きい値である所定の第2基準量より多い場合、前記筒内温度取得手段により取得される筒内温度によらずに強制的に前記PM再生手段によるPM再生処理を実行するPM再生制御手段と、
を備えた内燃機関のPM再生処理システムにおいて、
前記PM再生制御手段は、前記PM捕集量取得手段により取得されるPM捕集量が前記第1基
準量より多く且つ前記第2基準量以下である場合に、前記筒内温度取得手段により取得さ
れる筒内温度が前記基準温度より低いときは、前記PM再生手段によるPM再生処理を実行せず、メイン噴射又はアフター噴射による噴射量を増量補正することによって筒内温度を前記基準温度以上の温度まで上昇させるために必要な噴射量の増量補正量を算出するとともに、当該算出された増量補正量だけメイン噴射又はアフター噴射による噴射量を増量補正する筒内温度上昇制御を実行することを特徴とする。
【0010】
ここで、第1基準量は、PM再生処理を行ってPMフィルタに捕集された微粒子物質を除去
する必要があるか否かを判断するための捕集量の基準値であり、予め定められる。
【0011】
また、第2基準量は、これを超えてPMフィルタに微粒子物質が捕集されると、排気通路
の背圧上昇による燃費悪化や、PM再生処理時に過昇温によるPMフィルタの劣化が発生する虞があると判断可能な捕集量であり、第1基準量よりも大きい値である。
【0012】
第2基準量と比較した場合、第1基準量は、捕集された微粒子物質の除去をPM再生処理によって行うことが好ましいが、これを超えてPMフィルタに微粒子物質が捕集されても、背圧上昇やPM再生処理時のPMフィルタの過昇温といった状況には到らない程度の捕集余裕がある捕集量である。
【0013】
また、筒内温度の基準値である基準温度は、ポスト噴射を行った場合にポスト噴射燃料が筒内で好適に蒸発・拡散し、オイル希釈が発生する虞はないと判断可能な筒内温度の下限値に基づいて定められる。
【0014】
本発明において、筒内温度取得手段は、センサを用いた直接測定によって筒内温度を取得するものであってもよいし、吸気圧力、吸気温度、噴射量指令値、可変ノズル式ターボチャージャのノズル開度等の各種の運転パラメータに基づく推定計算により筒内温度を取得するものであってもよい。
【0015】
筒内温度が基準温度より低い場合は、ポスト噴射によって筒内に噴射された燃料が蒸発・拡散しにくく、ポスト噴射の実行に起因してオイル希釈が発生し易い。本発明のPM再生処理システムによれば、このようなPM再生処理のためのポスト噴射の実行に起因してオイル希釈が生じる虞のある筒内低温条件下では、捕集量が第1基準量を超えていても、第2基準量を超えていないならば、ポスト噴射によるPM再生処理を行わない。そして、筒内温度が基準温度以上であること又は筒内温度が基準温度以上の温度まで上昇したことを条件に、ポスト噴射によるPM再生処理を実行に移す。従って、低温の筒内にポスト噴射が行われてオイル希釈が発生することを抑制できる。
【0016】
本発明のPM再生処理システムでは、筒内温度が基準温度より低い場合には、メイン噴射又はアフター噴射の噴射量を増量補正することによって、筒内温度を上昇させる筒内温度上昇制御が行われる。この増量補正量は、筒内温度取得手段により取得される現状の筒内
温度と基準温度との差に基づいて、メイン噴射又はアフター噴射の噴射量を増量補正することによって筒内温度を基準温度以上の温度まで上昇させるために必要な噴射量の増量補正量として算出する。
【0017】
筒内温度と基準温度との温度差と、噴射量の増量補正量と、の関係は、予め実験や計算によりマップ化しておいても良い。温度差に対して必要最小限の噴射量増量補正を行うようにすれば、筒内温度上昇制御の実行に伴う燃料消費量の増加を抑制できる。
【0018】
本発明のPM再生処理システムによれば、筒内温度が基準温度より低い場合には、筒内温度を上昇させる制御が実行されるので、早期にオイル希釈の虞無くポスト噴射を実施可能な筒内温度環境を実現することができる。これにより、早期にポスト噴射によるPM再生処理を実行することが可能となる。なお、筒内温度上昇制御の実行に当たって、メイン噴射量を増量させる場合には、目標トルクからのずれを補正するために、吸気絞り弁を絞る等のトルク低減処理を同時に行うことが好ましい。
【0019】
本発明のPM再生処理システムによれば、筒内温度が基準温度より低い場合には、捕集量が第1基準量を超えていても、筒内温度が基準温度以上になるまではPM再生処理の実行が
遅延されることになるが、捕集量が第2基準量を超えた場合には、PM再生処理の実行遅延
が解除され、筒内温度によらず強制的にPM再生処理が実行される。これにより、PMフィルタにおける微粒子物質の過捕集に起因して背圧が過上昇したり、以降のPM再生処理の実施時にPMフィルタが過昇温してPMフィルタが劣化したりすることを抑制できる。
【0020】
以上説明した本発明のPM再生処理システムでは、ポスト噴射によるオイル希釈の発生可能性を筒内温度と基準温度との比較に基づいて判断し、その判定結果と捕集量とに基づいてポスト噴射によるPM再生処理の実行可否を決定する技術思想について説明したが、この技術思想は筒内圧力にも適用できる。すなわち、ポスト噴射によるオイル希釈の発生可能性を筒内圧力と基準圧力との比較に基づいて判断し、その判定結果と捕集量とに基づいてポスト噴射によるPM再生処理の実行可否を決定するようにしても良い。
【0021】
その場合の、本発明のPM再生処理システムは、
内燃機関の排気通路に設けられ排気中の微粒子物質を捕集するPMフィルタと、
前記内燃機関の筒内圧力を測定又は推定により取得する筒内圧力取得手段と、
前記PMフィルタにおける微粒子物質の捕集量を取得するPM捕集量取得手段と、
メイン噴射直後に行われる副噴射であるアフター噴射及びアフター噴射後に行われる副噴射であるポスト噴射を実行可能な燃料噴射手段と、
前記燃料噴射手段によりポスト噴射を行うことによって前記PMフィルタに捕集された微粒子物質を前記PMフィルタから除去するPM再生処理を行うPM再生手段と、
前記PM捕集量取得手段により取得されるPM捕集量が所定の第1基準量より多い場合、前
記筒内圧力取得手段により取得される筒内圧力が所定の基準圧力以上であれば前記PM再生手段によるPM再生処理を実行し、前記PM捕集量取得手段により取得されるPM捕集量が前記第1基準量より大きい値である所定の第2基準量より多い場合、前記筒内圧力取得手段により取得される筒内圧力によらずに強制的に前記PM再生手段によるPM再生処理を実行するPM再生制御手段と、
を備えた内燃機関のPM再生処理システムであって、
前記PM再生制御手段は、前記PM捕集量取得手段により取得されるPM捕集量が前記第1基
準量より多く且つ前記第2基準量以下である場合に、前記筒内圧力取得手段により取得さ
れる筒内圧力が前記基準圧力より低いときは、前記PM再生手段によるPM再生処理を実行せず、メイン噴射又はアフター噴射による噴射量を増量補正することによって筒内圧力を前記基準圧力以上の圧力まで上昇させるために必要な噴射量の増量補正量を算出するとともに、当該算出された増量補正量だけメイン噴射又はアフター噴射による噴射量を増量補正
する筒内圧力上昇制御を実行することを特徴とする。
【0022】
この構成では、筒内圧力の基準値である基準圧力は、ポスト噴射を行った場合にポスト噴射燃料が筒内で好適に蒸発・拡散し、オイル希釈が発生する虞はないと判断可能な筒内圧力の下限値に基づいて定められる。
【0023】
本発明において、筒内圧力取得手段は、センサを用いた直接測定によって筒内圧力を取得するものであってもよいし、吸気圧力、吸気温度、噴射量指令値、可変ノズル式ターボチャージャのノズル開度等の各種の運転パラメータに基づく推定計算により筒内圧力を取得するものであってもよい。
【0024】
筒内圧力が基準圧力より低い場合は、ポスト噴射によって筒内に噴射された燃料が蒸発・拡散しにくく、ポスト噴射の実行に起因してオイル希釈が発生し易い。本発明のPM再生処理システムによれば、このようなPM再生処理のためのポスト噴射の実行に起因してオイル希釈が生じる虞のある筒内低圧条件下では、捕集量が第1基準量を超えていても、第2基準量を超えていないならば、ポスト噴射によるPM再生処理を行わない。そして、筒内圧力が基準圧力以上であること又は筒内圧力が基準圧力以上の圧力まで上昇したことを条件に、ポスト噴射によるPM再生処理を実行に移す。従って、低圧の筒内にポスト噴射が行われてオイル希釈が発生することを抑制できる。
【0025】
本発明のPM再生処理システムでは、筒内圧力が基準圧力より低い場合には、メイン噴射又はアフター噴射の噴射量を増量補正することによって、筒内圧力を上昇させる筒内圧力上昇制御が行われる。この増量補正量は、筒内圧力取得手段により取得される現状の筒内圧力と基準圧力との差に基づいて、メイン噴射又はアフター噴射の噴射量を増量補正することによって筒内圧力を基準圧力以上の圧力まで上昇させるために必要な噴射量の増量補正量として算出する。
【0026】
筒内圧力と基準圧力との圧力差と、噴射量の増量補正量と、の関係は、予め実験や計算によりマップ化しておいても良い。圧力差に対して必要最小限の噴射量増量補正を行うようにすれば、筒内圧力上昇制御の実行に伴う燃料消費量の増加を抑制できる。
【0027】
本発明のPM再生処理システムによれば、筒内圧力が基準圧力より低い場合には、筒内圧力を上昇させる制御が実行されるので、早期にオイル希釈の虞無くポスト噴射を実施可能な筒内圧力環境を実現することができる。これにより、早期にポスト噴射によるPM再生処理を実行することが可能となる。なお、筒内圧力上昇制御の実行に当たって、メイン噴射量を増量させる場合には、目標トルクからのずれを補正するために、吸気絞り弁を絞る等のトルク低減処理を同時に行うことが好ましい。
【0028】
本発明のPM再生処理システムによれば、筒内圧力が基準圧力より低い場合には、捕集量が第1基準量を超えていても、筒内圧力が基準圧力以上になるまではPM再生処理の実行が
遅延されることになるが、捕集量が第2基準量を超えた場合には、PM再生処理の実行遅延
が解除され、筒内圧力によらず強制的にPM再生処理が実行される。これにより、PMフィルタにおける微粒子物質の過捕集に起因して背圧が過上昇したり、以降のPM再生処理の実施時にPMフィルタが過昇温してPMフィルタが劣化したりすることを抑制できる。
【0029】
なお、筒内温度及び筒内圧力の両方を取得し、筒内温度及び筒内圧力の両方に基づいてポスト噴射によるオイル希釈の発生可能性について判断し、その判定結果と捕集量とに基づいてポスト噴射によるPM再生処理の実行可否を決定するようにしても良い。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、PMフィルタを備え、ポスト噴射によりPM再生処理を行う内燃機関のPM再生処理システムにおいて、PM再生処理のためのポスト噴射の実行に起因してオイル希釈が発生することを抑制することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0032】
図1は、本実施例に係る内燃機関のPM再生処理システムを適用するディーゼルエンジンとその吸気系及び排気系の概略構成を模式的に示す概念図である。
【0033】
エンジン1は4つの気筒4を備えたディーゼルエンジンである。各気筒4には筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁10が備えられている。燃料噴射弁10は、主たる燃料噴射であるメイン噴射と、メイン噴射直後に行われる副噴射であるアフター噴射と、アフター噴射の後に行われる副噴射であるポスト噴射と、の複数回の燃料噴射を1サイクルに実行可能であ
る。燃料噴射弁10は後述するエンジン制御コンピュータECU16に接続され、燃料噴射弁10
による燃料噴射はECU16によって制御される。
【0034】
エンジン1の各気筒4は図示しない吸気バルブによって開閉される吸気ポートを介して吸気マニホールド17と連通している。吸気マニホールド17は吸気通路2に接続している。吸
気通路2にはスロットル弁9が備えられている。スロットル弁9より上流には可変容量型の
ターボチャージャ13のコンプレッサ11が備えられている。吸気マニホールド17には吸気圧力を計測する吸気圧センサ31が備えられている。吸気圧センサ31による計測データはECU16に入力される。
【0035】
エンジン1の各気筒4は図示しない排気バルブによって開閉される排気ポートを介して排気マニホールド18と連通している。排気マニホールド18は排気通路3に接続している。排
気通路3にはターボチャージャ13のタービン12が備えられている。ターボチャージャ13は
可変容量型であり、タービン12の排気流量特性を可変にする可変ノズルベーン30が備えられている。可変ノズルベーン30はECU16に接続され、その開度がECU16によって制御される。タービン12より下流側にはPMフィルタ8が備えられている。PMフィルタ8は流入する排気中の粒子状物質を捕集するフィルタである。
【0036】
エンジン1にはエンジン1の運転状態を制御するコンピュータであるECU16が併設されて
いる。ECU16には上述した吸気圧センサ31の他、気筒4の筒内圧力を計測する筒内圧センサ32、気筒4の筒内温度を計測する筒内温度センサ33等の各種のセンサが接続され、これら
各種センサによる計測データがECU16に入力される。筒内温度や筒内圧力は、筒内温度セ
ンサ33や筒内圧センサ32によって計測する以外に、吸気圧センサ31によって計測される吸気圧力、燃料噴射弁10への噴射量指令値、可変ノズルベーン30の開度、図示しない吸気温度センサによって計測される吸気温度等の種々の運転制御情報に基づいてECU16が演算し
て求めるようにしても良い。また、ECU16には上述したスロットル弁9や可変ノズルベーン30、燃料噴射弁10等の各種の機器が接続され、これら各種機器の動作を制御する信号がECU16から出力される。
【0037】
本実施例のPM再生処理システムでは、PMフィルタ8に捕集された微粒子物質をPMフィル
タ8から除去するPM再生処理として、燃料噴射弁10にポスト噴射を行わせ、PMフィルタ8に捕集された微粒子物質が酸化可能な温度域までPMフィルタ8の温度を昇温させる処理を行
う。PMフィルタ8に捕集された微粒子物質をPMフィルタ8から除去するその他の方法を併用
しても良いが、本実施例では特に上記ポスト噴射によるPM再生処理について説明する。
【0038】
図2に、本実施例のPM再生処理システムにおけるPM再生処理のフローを示す。このフロ
ーで表される制御ルーチンはECU16によって所定感覚で繰り返し実行される。
【0039】
ステップS11において、ECU16は、PMフィルタ8における微粒子物質の捕集量が所定の第1基準量を超えているか否かを判定する。PMフィルタ8における微粒子物質の捕集量は既知
の種々の方法によって取得することができる。例えば、前回のPM再生処理の実行時からの経過時間を捕集量に換算する方法や、前回のPM再生処理の実行時からの車両走行距離を捕集量に換算する方法や、エンジン1からの微粒子物質の排出量を前回のPM再生処理の実行
時から現時点まで積算する方法等である。第1基準量は、PM再生処理を行ってPMフィルタ8に捕集された微粒子物質を除去する必要があるか否かを判断するための捕集量の基準値であり、予め定められ、ECU16のROMに記憶されている。
【0040】
ステップS11において捕集量が第1基準量を超えていると判定された場合(Yes)、ECU16はステップS12に進む。一方、ステップS11において捕集量が第1基準量以下であると判定
された場合(No)、ECU16は本ルーチンを抜ける。
【0041】
ステップS12において、ECU16は、PM再生処理の実行を仮決定して、PM再生処理において実行されるポスト噴射の噴射時期における筒内温度T及び筒内圧力Pを取得する。本実施例では、筒内温度センサ33及び筒内圧センサ32による計測データに基づいて筒内温度T及び
筒内圧力Pを取得する。上述したように、これらの値は運転パラメータに基づく推定演算
によって取得してもよい。
【0042】
ステップS13において、ECU16は、ステップS12において取得した筒内温度Tが基準温度Tc以上であるか否か、また、ステップS12で取得した筒内圧力Pが基準圧力Pc以上であるか否かを判定する。基準温度Tcは、ポスト噴射を行ってもオイル希釈が生じにくい筒内温度の下限値に基づいて定められる。すなわち、基準温度Tcより筒内温度Tが低い場合にポスト
噴射を行うと、ポスト噴射燃料が蒸発・拡散しにくく、オイル希釈が生じる虞があると判断できる。また、基準圧力Pcは、ポスト噴射を行ってもオイル希釈が生じにくい筒内圧力の下限値に基づいて定められる。すなわち、基準圧力Pcより筒内圧力Pが低い場合にポス
ト噴射を行うと、ポスト噴射燃料が蒸発・拡散しにくく、オイル希釈が生じる虞があると判断できる。
【0043】
ステップS13において、筒内温度Tが基準温度Tc以上であり且つ筒内圧力Pが基準圧力Pc
以上であると判定された場合(Yes)、ECU16はステップS14に進む。ステップS13において、筒内温度Tが基準温度Tcより低いか又は筒内圧力Pが基準圧力Pcより低いと判定された場合(No)、ECU16はステップS15に進む。
【0044】
ステップS14において、ECU16は、PM再生処理を実行に移す。すなわち、燃料噴射弁10を制御してポスト噴射を行わせる。この場合、筒内はポスト噴射燃料が好適に蒸発・拡散可能な高温高圧環境にあるので、オイル希釈が発生することなく、好適にPMフィルタ8の昇
温及び捕集された微粒子物質の除去が行われる。
【0045】
ステップS15において、ECU16は、ステップS12において取得した筒内温度Tと基準温度Tcとの温度差ΔTを算出する。
【0046】
ステップS16において、ECU16は、ステップS15において算出した温度差ΔTだけの筒内温度の上昇を、メイン噴射量又はアフター噴射量を増量補正することによって実現するために必要な、メイン噴射量又はアフター噴射量の増量補正量を算出し、当該算出した増量補
正量だけ、メイン噴射量又はアフター噴射量を増量補正する。この温度差ΔTと、ΔTだけ筒内温度を昇温させるために必要な増量補正量との関係は、予め実験等により調べてマップ化し、ECU16のROMに記憶しておく。メイン噴射量又はアフター噴射量が増量されることにより、筒内温度が上昇する。
【0047】
ステップS17において、ECU16は、再度筒内温度T及び筒内圧力Pを取得し、当該新たに取得した筒内温度Tが前記基準温度Tc以上且つ当該新たに取得した筒内圧力Pが前記基準圧力Pc以上であるか否かを判定する。ステップS17において筒内温度Tが基準温度Tc以上且つ筒内圧力Pが基準圧力Pc以上であると判定された場合(Yes)、ECU16はステップS18に進む。一方、ステップS17において筒内温度Tが基準温度Tcより低いか又は筒内圧力Pが基準圧力Pcより低いと判定された場合(No)、ECU16はステップS19に進む。
【0048】
ステップS18において、ECU16は、ステップS14と同様、燃料噴射弁10にポスト噴射を行
わせてPM再生処理を実行に移す。この時、筒内はポスト噴射燃料が好適に蒸発・拡散可能な高温高圧環境にあるので、オイル希釈が発生することなく、好適にPMフィルタ8の昇温
及び捕集された微粒子物質の除去が行われる。
【0049】
ステップS19において、ECU16は、再度PMフィルタ8における微粒子物質の捕集量を取得
し、当該新たに取得した捕集量が所定の第2基準量を超えているか否かを判定する。PMフ
ィルタ8における微粒子物質の捕集量の取得方法についてはステップS11で説明した通りである。第2基準量は、これを超えてPMフィルタ8に微粒子物質が捕集されると、排気通路2
の背圧上昇による燃費悪化や、PM再生処理時に過昇温によるPMフィルタ8の劣化が発生す
る虞があるような捕集量であり、第1基準量よりも大きい。すなわち、第1基準量は、捕集された微粒子物質の除去をPM再生処理によって行うことが好ましいが、これを超えてPMフィルタ8に微粒子物質が捕集されたとしても、背圧上昇やPM再生処理時のPMフィルタ8の過昇温といった状況には到らない程度の捕集余裕がある捕集量である。ステップS19におい
て、捕集量が第2基準量を超えていると判定された場合(Yes)、ECU16はステップS20に進む。ステップS19において、捕集量が第2基準量以下であると判定された場合(No)、ECU16はステップS15に戻る。
【0050】
ステップS20において、ECU16は、燃料噴射弁10にポスト噴射を行わせてPM再生処理を実行に移す。この場合、ステップS17で否定判定されているように、筒内温度Tは基準温度Tcより低く、また筒内圧力Pは基準圧力Pcより低いため、ポスト噴射を実行した場合にオイ
ル希釈が生じる可能性があるが、PMフィルタ8における微粒子物質の捕集量が第2基準量を超えることによる背圧上昇や次回のPM再生処理実行時に過昇温によるPMフィルタ8の劣化
が起こることをより確実に抑制することを優先して、筒内温度及び筒内圧力の値にかかわらず強制的にPM再生処理を実行する。
【0051】
一方、未だPMフィルタ8における微粒子物質の捕集量が第2基準量を超えていない場合(ステップS19:No)には、背圧上昇やPM再生処理時の過昇温の虞無く更に微粒子物質を捕
集可能な余裕があるため、ポスト噴射の実行に起因してオイル希釈が発生することをより確実に抑制可能な程度まで筒内環境が高温・高圧になるまで、ステップS15以降を繰り返
し、メイン噴射量又はアフター噴射量の増量補正による筒内温度及び筒内圧力の上昇を図る。
【0052】
以上のルーチンを実行することにより、PM再生処理のためのポスト噴射の実行に起因するオイル希釈の発生を抑制することが可能となる。
【0053】
本実施例において、筒内温度センサ33及びステップS12において筒内温度Tを取得するECU16が、本発明における筒内温度取得手段に相当する。筒内圧センサ32及びステップS12に
おいて筒内圧力Pを取得するECU16が、本発明における筒内圧力取得手段に相当する。ステップS11及びステップS19においてPMフィルタ8における微粒子物質の捕集量を取得するECU16が、本発明におけるPM捕集量取得手段に相当する。燃料噴射弁10が、本発明における燃料噴射手段に相当する。ステップS14、ステップS18、ステップS20の処理を実行するECU16が、本発明におけるPM再生手段に相当する。ステップS11、ステップS13、ステップS17、
ステップS19の判定処理を行い、その判定結果に基づいてステップS14その他の上述した各処理を実行するECU16が、本発明におけるPM再生制御手段に相当する。
【0054】
なお、ステップS15において筒内圧力Pと基準圧力Pcとの圧力差ΔPを算出し、続くステ
ップS16において、メイン噴射量又はアフター噴射量の増量補正によって当該圧力差ΔPだけ筒内圧力を上昇させる場合に必要な噴射量の増量補正量を算出し、当該算出した増量補正量だけメイン噴射量又はアフター噴射量を増量させる補正を行うようにしても良い。また、ステップS12において筒内温度又は筒内圧力の一方だけを取得し、ステップS13、ステップS17においてその取得したパラメータとその基準値との比較を行い、ステップS15及びステップS16においてその取得値と基準値との差に対応する噴射量増量補正量を算出し、
噴射量増量補正を行うようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1のPM再生処理システムを適用するディーゼルエンジン及びその吸気系・排気系・制御系の概略構成を示す図である。
【図2】実施例1のPM再生処理システムの制御ルーチンを表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
1 エンジン
2 吸気通路
3 排気通路
4 気筒
8 PMフィルタ
9 スロットル弁
10 燃料噴射弁
11 コンプレッサ
12 タービン
13 ターボチャージャ
16 ECU
17 吸気マニホールド
18 排気マニホールド
30 可変ノズルベーン
31 吸気圧センサ
32 筒内圧センサ
33 筒内温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ排気中の微粒子物質を捕集するPMフィルタと、
前記内燃機関の筒内温度を測定又は推定により取得する筒内温度取得手段と、
前記PMフィルタにおける微粒子物質の捕集量を取得するPM捕集量取得手段と、
メイン噴射直後に行われる副噴射であるアフター噴射及びアフター噴射後に行われる副噴射であるポスト噴射を実行可能な燃料噴射手段と、
前記燃料噴射手段によりポスト噴射を行うことによって前記PMフィルタに捕集された微粒子物質を前記PMフィルタから除去するPM再生処理を行うPM再生手段と、
前記PM捕集量取得手段により取得されるPM捕集量が所定の第1基準量より多い場合、前
記筒内温度取得手段により取得される筒内温度が所定の基準温度以上であれば前記PM再生手段によるPM再生処理を実行し、前記PM捕集量取得手段により取得されるPM捕集量が前記第1基準量より大きい値である所定の第2基準量より多い場合、前記筒内温度取得手段により取得される筒内温度によらずに強制的に前記PM再生手段によるPM再生処理を実行するPM再生制御手段と、
を備えた内燃機関のPM再生処理システムであって、
前記PM再生制御手段は、前記PM捕集量取得手段により取得されるPM捕集量が前記第1基
準量より多く且つ前記第2基準量以下である場合に、前記筒内温度取得手段により取得さ
れる筒内温度が前記基準温度より低いときは、前記PM再生手段によるPM再生処理を実行せず、メイン噴射又はアフター噴射による噴射量を増量補正することによって筒内温度を前記基準温度以上の温度まで上昇させるために必要な噴射量の増量補正量を算出するとともに、当該算出された増量補正量だけメイン噴射又はアフター噴射による噴射量を増量補正する筒内温度上昇制御を実行することを特徴とする内燃機関のPM再生処理システム。
【請求項2】
内燃機関の排気通路に設けられ排気中の微粒子物質を捕集するPMフィルタと、
前記内燃機関の筒内圧力を測定又は推定により取得する筒内圧力取得手段と、
前記PMフィルタにおける微粒子物質の捕集量を取得するPM捕集量取得手段と、
メイン噴射直後に行われる副噴射であるアフター噴射及びアフター噴射後に行われる副噴射であるポスト噴射を実行可能な燃料噴射手段と、
前記燃料噴射手段によりポスト噴射を行うことによって前記PMフィルタに捕集された微粒子物質を前記PMフィルタから除去するPM再生処理を行うPM再生手段と、
前記PM捕集量取得手段により取得されるPM捕集量が所定の第1基準量より多い場合、前
記筒内圧力取得手段により取得される筒内圧力が所定の基準圧力以上であれば前記PM再生手段によるPM再生処理を実行し、前記PM捕集量取得手段により取得されるPM捕集量が前記第1基準量より大きい値である所定の第2基準量より多い場合、前記筒内圧力取得手段により取得される筒内圧力によらずに強制的に前記PM再生手段によるPM再生処理を実行するPM再生制御手段と、
を備えた内燃機関のPM再生処理システムであって、
前記PM再生制御手段は、前記PM捕集量取得手段により取得されるPM捕集量が前記第1基
準量より多く且つ前記第2基準量以下である場合に、前記筒内圧力取得手段により取得さ
れる筒内圧力が前記基準圧力より低いときは、前記PM再生手段によるPM再生処理を実行せず、メイン噴射又はアフター噴射による噴射量を増量補正することによって筒内圧力を前記基準圧力以上の圧力まで上昇させるために必要な噴射量の増量補正量を算出するとともに、当該算出された増量補正量だけメイン噴射又はアフター噴射による噴射量を増量補正する筒内圧力上昇制御を実行することを特徴とする内燃機関のPM再生処理システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−112189(P2010−112189A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283108(P2008−283108)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】